ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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【後日談】ステージの始まり

「おー!すっかりステージもできてますね!」

 

 夜が明けて、翌日。昨日の疲れ……戦闘が原因でなく、恐らく慣れない海での遊びが原因。そんな疲れで、目が覚めた頃にはすっかり昼近く。こんなに長く寝たのは、この世界では初めてだ。

 

「全く、心配して様子を見に行ってみれば……」

「二人して寝てたもんね」

「う……す、すみません……」

 

 結局ミカの部屋でそのまま寝てたらしい。まあ、ちょっとしたお泊まり会のようなものだった。

 それよりも、ステージ。昨夜は特に大きな風が吹くこともなく、嵐もなく、設営もほとんど終わり。機材の搬入も完成しているみたいだ。

 

「す、スオウちゃん、次は私と……!」

「……ん?あ、あんたらは!!」

 

 息を荒げる変態を片手でいなしていると、ステージの奥側から見覚えのある犬の姿が。あれは。

 

「B.o.Bさん?」

「名前を覚えてもらえてるとは光栄だよ……昨日ぶりだな。その節は助かった」

「あ、いえ……」

 

 ……なんだ?昨日のあの横暴、横柄な態度とは打って変わって、こう……さわやか?純粋な眼差しだ。サングラスかけてるからわからないけど。

 

「あ、B.o.Bさん……き、昨日は脅してしまって……」

「その声は……ああ、あの時の。いや、気にしなくていい。私も却って冷静になれたからな。君たちも、アウトロービーチまで連れ帰ってくれて助かったよ」

「え、えっと……」

 

 間も開けずヒフミ達の方へ寄って、一人一人にお礼を言っていくB.o.B。気でも触れたのだろうか。正直、昨日の段階でかなりの悪印象だったんだけど……。

 

「……」

 

 チラッとサオリの方を見ると、少し安心したような表情だ。多少なれども顔を知った、見知った『大人』の態度に、人柄に、安心している様子。

 ……妹の中には、いまだに『大人』を信じられないという子も……少なくはない。先生が特例で、他は違う。他の大人は、ベアトリーチェや教員と同じだ、と。

 ベアトリーチェのゴミが残した深い爪痕は、いまだに禍根として、妹達の心に深い傷をつけている。サオリも、その一人かもしれない。アツコの件を通して、ベアトリーチェに翻弄された子だから。

 

「……ま、黙っておきますか」

 

 だったら、B.o.Bのこともわざわざ口にする必要はない。サオリはそこまで弱い子じゃないけど、それでもあの表情を崩すのは……お姉ちゃんとしても、望ましいことじゃないから。

 

「昨日の傷は、もう大丈夫ですか?」

「ああ、もう治った。だが……久々に銃で撃たれたな」

 

 やられたな、と苦笑いしながら、恐らくは昨日撃たれたのであろう眉間を軽く掻くB.o.B。その行為をやめにすると、少し声色を低くして。

 

「……お前達に言うのも、お門違いかもしれないが。思い出したよ。あの頃のひたむきさを」

「な、何か語り始めましたね……」

「しっ、ヒヨリ……聞いてあげよう……?」

「まだ駆け出しだった頃……汚水を啜ってでも生きて、靴底を舐めてでも生き延びようとしていた。いつしか有名人だなんだと持て囃されるうちに、そんな気持ちも忘れてしまった」

 

 ……いや、結構長いな。興味があるから聞くけど。

 

「そんな生き方をしてたら、いつしか私を利用していたクソったれどもと同じことをしちまっていた。……いや、あるいは……変われたと。変わったと、思い込みたかった。見せつけたかった。言い聞かせたかったのかもな。私はもう、弱者じゃないと」

「B.o.Bさん……」

「そしたら今度は、自分の番だ。自業自得。胸が空くような話だろう?だが、お前達はそんな愚者を……なんの利もないのに、助けてくれたんだ」

 

 どこか感慨深く、暗がりの中で明かりを見つけたように、B.o.Bは語り続けた。

 

「私は……心を入れ替えた。お前達のおかげだ。助けられたのは、何も体のほうだけじゃない……ありがとうな」

「……」

 

 そんな……B.o.B、そんなことは……。

 

「……って、こんなおっさんの身の上話なんざ聞いても興味はねぇか。悪かったな、忘れて」

「そんなことない」

「……え?」

 

 そんなのって。

 

「感動しましたよ……!あなた、性根から悪い人じゃなかったんですね……!!」

 

 めちゃくちゃいい話じゃないか……!大人になってからも、人ってこんなふうに変わることってできるんだな……!

 俺、B.o.Bのことはかなり誤解してたかもしれない……!ベアトリーチェみたいな、生まれついての邪悪だって……!

 

「そ、そんなにか……?一体何が嬢ちゃんの琴線に触れたんだ……?」

「私たちに聞かないでよ」

「えっ、だ、ダメなの?私も結構、いい話だと思ったんけど……」

「いえ、いいと思いますよ」

 

 なんか周りがちょっとやかましいけど、とにかく。……この人は信用までいかなくても、ちょっぴり信じていい大人なのかもな。

 この世界で信じられる大人は、先生だけだった。今でも頼れるのは、一番信用できるのは先生だ。でも、大人も多分、俺たちと変わらなくて……きっと十人十色。良い人になったり、悪い人になったり。

 

「それじゃあ、私はもう行くよ。最終調整だ。夜のステージは、ぜひ楽しんでくれ!」

「……行っちゃいましたね」

「先生もああいう時期ありました?」

「“え?うーん……ど、どうだろう……”」

 

 大人もきっと、そんな感じだ。

 

「……それにしても、やっぱり……警備の方が、多いですね」

 

 B.o.Bの背中を見送りながら、ひっそりとヒフミがぼやく。昨日に比べて、ヘルメット団の数は体感数倍。屋台の多くが、その機能を停止しているように見えた。

 

「妹達にも、不審物を発見し次第報告するようにお願いしました。……実際、すでに数件。報告が寄せられています」

 

 うん……大体は海から流れ着いた漂着ゴミだったり。まあ、妹達の微笑ましい勘違いで済むんだけど……一件だけは、誰が仕掛けたかもわからない爆弾。爆発時刻は数時間後に設定されていた。

 

「すでに、爆弾も見つかったとお聞きしましたが……」

「その場にいた分隊長が対応済みだ。だが、これは……」

「ぶ、ブラフ。だって、マユミちゃんなら言いそうだね」

 

 恐らくは実際の犯行時刻、そして本命の爆発物から目線を逸らすための囮。すでにこちらへ仕掛けてくることがバレているなら、最初からその前提で動いているということだろう。

 ……なんにせよ、今日の襲撃はまず間違いなくなった。

 

「アシリ、無線機は?」

「う、うん!持ってきてあるよ!」

「ありがとうございます……みんな、緊急時の連絡はこちらで。それから、決して一人にはならないように」

「は、はい!」

 

 ……戦力に心配はない。戦いには勝てる。その結果がもたらす先がどうなるかは……俺には、まだわからない。

 心の準備は……しておいた方が、良いかもな。

 

「安心して、ヒフミ。何があっても、ヒフミ達は私が守、っ!?」

 

 ヒフミ達に宣言し始めたアズサに軽くチョップ。「なんでそんなことするの」みたいな目をするアズサに、少し頬を膨らませて。

 

「私たちで、一緒に戦う。でしょ?」

「……うん……ごめん」

 

 それとなくアズサを窘めつつ、ミカの方へ。その動きが先生と同じだったらしく、また焦って変なことを言い出してしまうより先に譲ることにした。

 

「“ミッションはあとどのくらい残ってる?”」

「んー、そんなに数はないよ。二つは時間を待たないとできないことだし、ほんとにあと少し……あ、待って……これはちょっとまずいかも」

「まずい?」

 

 ミカがそんなことを言い始めるので、こっそりと紙を覗き込んでみると、その中に気になるものが一つ。

 

「肝試し……ですか?」

「うん、本当は昨日の夜やるつもりだったんだけど……私含めて、みんな疲れて寝ちゃってたからね……」

 

 ああ、なるほど……そういえば夕飯の時、ミカはやけにソワソワしてたもんな。言い出すタイミングを見失ってたのか。

 しかし、そうなると困ったのが。

 

「今、お昼時ですけど……」

「うん……そうなんだよね……」

 

 今は真昼間。とてもではないが肝っ玉を試せるような状態ではないし、適切な場所があるわけでもない。とはいえ、夜はステージに、それから花火に……やることずくめ。

 どうしたものかと、うんうんと首を捻っていると。

 

「……あ、あれはどうですか?昨日私たちが向かった聖地!」

「あ、ナイスアイディアだよヒフミちゃん!そっか、あの洞窟すっごく怖かったもんねぇ!」

 

 明るく言うことではないと思う……というか、確かに良いアイディアではあるんだけど。

 

「……洞窟?」

 

 それがどうしてもダメな妹が、こっちには一人。

 

「ごめん、私パス」

「え、えぇ!?なん、なんで!?」

「なんでも」

「あー、ミサキはそういうところが苦手で……苦手の範疇で済めば良いんですけど、気分が悪くなっちゃうこともあるんです……」

 

 若干ミサキに睨まれつつ、なんとかミサキの許容範囲内で説明し切れたことに一安心。でもねミサキ、今後そういうところは自分でも説明できるように……って、心の中で言ってても仕方ないか。

 とにかく、洞窟はアイディアとしてはありだけど、こっちの事情でなしだ。

 

「そ、そうだったんですね……そうとは知らずに、ごめんなさい……」

「……別に、いい……いや、こっちもごめん」

「だ、大丈夫です!しかし、そうなるとどうすれば……」

 

 ヒフミも俺と同じく頭を捻り始めてしまったところで、ふと閃く。これなら、と。

 

「そうだ、森です!森に行きましょう!」

「……も、森?別に昼間だし、怖いところなんてないと思うけど……」

「まあまあ、そう言わずに」

 

 確かに、『普通の森』ならそうかもしれない。

 

「考えがあるんです。私が仕掛け人に回るので、一回試してみませんか?」

「……?」

 

 でも、これなら。

 

 

 

 

 それから、数十分後。スオウの「少しここで待っていてください」という言葉に従って、森の前に待機する一同。ヘルメット団の許可を取って、周辺の人が紛れ込まないように注意書きがなされていた。

 

「あれから、随分経つけど……」

「ま、まだ来ないですね……」

 

 決められたグループは四人一組。まずは恐怖心にある程度の耐性があるアズサ、サオリ、ヒフミ、先生で様子を見ることになっている。

 耐性がないと判断されたコハルとアシリ、それから控えめながらミサキも抗議の声をあげていたが、ではスオウの言うところの『肝試し』を味わいたいのかといえばそんなことはなかった。

 そして、数分後。

 

「“スオウから、連絡がきたよ。もう入って良いって”」

「……随分と時間がかかったな。行ってみよう」

「ヒフミ、何かあったら私の後ろに隠れると良い。そこが安全地帯だ」

「あ、あぅ……よろしくお願いします……」

 

 まず、一歩。足を踏み入れたところで、特に何が起こるわけでもない。当然だろう、ここはなんの変哲もない昼の森。今の所、特に恐怖を感じさせる要素はなかった。

 しばらく、森を進み。入り口に待たせていたみんなが見えなくなったところで、サオリが一言。

 

「先生。そこで止まれ」

「“え?”」

 

 声で先生を静止した。わずかに反応が遅れながらも、なんとか一時停止。足を止めて、サオリの行動を待つ。

 それを見てサオリは慎重に、慎重に先生の足元へ向かい。

 

「やはり、か」

 

 足元に仕掛けられていた、細い線。恐らくは麻製のロープの類を、ナイフで切断した。

 

「“今のは……”」

「トラップだな。麻製のロープは、簡単には千切れない。今の感触だと、おそらく……」

 

 離れていてくれ、と先生を奥へ追いやり、アズサへヒフミを守るように指示。

 

「やはり、向こうか」

「これは……不良達の攻撃、でしょうか」

「そうかもしれない。どちらにせよ、警戒は怠らないで」

 

 ひとまずはトラップの内容を確認。来ることさえわかっていれば、警戒は容易だと、切ったロープの片方を引っ張り。

 

「なっ!?」

 

 次の瞬間、数匹のカブトムシがサオリの鼻先を掠めた。

 

「……え?」

「“今のは……”」

「……カブトムシ、だな」

 

 あの手のトラップであれば、ベストは足元への攻撃。それも、痛みを伴うタイプの攻撃だ。汚物を塗りたくり、傷の治りを遅くすれば尚良い。それが定石。

 だが、現実として今現れたものは。

 

「っ、先生!!こっちへ戻れ!!」

「“え?”」

「急げ!!」

 

 嫌な予感。咄嗟にサオリは先生を呼び戻し、手を引いて自分の方へ抱き寄せる。直後、先生がいた場所へ水風船が一つ、大きな音を立てて爆ぜた。

 

「よかった……連鎖型のトラップだ。私がこうすることも想定済み……っ、まさか!?」

「ヒフミ、ゆっくりこっちに」

「来るな!!」

「え、えぇ!?」

 

 アズサがヒフミからつかず、離れず。護衛をすることも想定内、だとすれば。

 

「い、一体何がっ、きゃあ!?」

「なっ……!?」

 

 やはり。言い切るよりも先に、ヒフミとアズサが二人、同時に落とし穴へ落とされた。まず間違いなく、重量式のトラップ。

 アズサとヒフミの身長、体重はサオリと先生に及ばないが、二人合わせれば超える。つまりこれは、一定の重量以上で落ちるように設定したトラップだ。

 

「“二人とも、大丈夫?”」

「う、うぅ……はい、なんとか……」

 

 先生がアズサとヒフミを助けるべく手を差し伸べた、その時。

 

「“うわっ!?”」

 

 先生の頭上から、大きな水風船が一つ。大きく割れて、先生の頭を濡らした。

 

「先生、大丈夫か、ッ!?」

 

 先生の様子を見るべく、サオリは移動する。彼女もまた、トラップを仕掛けた者の掌の上だと知らず。

 

「これはっ……!」

 

───二重トラップ。先程と同じ仕組みの。

 

 言葉にするよりも先に理解、しかし行動はそれより遅い。先生と共に穴の底まで落下し、ヒフミ達が落ちていた穴と繋がったようだった。

 

「こ、これは……?」

「……トラップの仕掛け方の癖が、サオリに似ている。不良じゃないみたい」

「ああ、これは……スオウのトラップだな」

 

 アズサにトラップの扱い、そしてゲリラ戦。二つを教えたのは主にはサオリだが、そのサオリに教えたのは他ならぬスオウだ。

 本来彼女にとって必要にない戦い方、彼女自身の戦い方に沿わない戦法であるため使うことは少ないが、彼女はトラップの扱いも一級品。小隊長としての矜持というやつだろう。

 

「落とし穴は優しいように見えて、危険なトラップだ……もっとも、今回のようにクッションでなく刃物や爆発物を敷かれれば、という話だが。だからこそ、これはスオウが仕掛けたものと見て間違いないだろう」

「ああ、この性格の悪い仕掛け方は……間違いなく、スオウのもの」

「そ、そんなイメージが……!」

 

 相手が嫌がることをすれば勝ち。スオウがゲーマーとして出した結論は、トラップの在り方に如実に現れている。これでも手加減しているつもりだというのだから、一層腹立たしい。

 ため息を吐きながら上へ登ろうと、地面に手を置き。

 

「なっ……!あの、馬鹿が……!!」

 

 気づく。落とし穴の中に、爆弾が仕掛けられていることに。

 

「全員、伏せろ!!」

「わかった!」

 

 先生とヒフミの反論を許さずアズサが行動、彼らの頭を強制的に下げさせた。加えて、翼により申し訳程度の防御。目一杯広げ、神秘を強く通す。

 その隙に爆弾を取り、放り投げようとして。

 

「っ、抜かりないな……!ああ、そういうやつだよ、お前は!!」

 

 腕を縛られる。爆弾の重量によって抑えられていたトラップが、すぐさまに発動。その上、粘性のある爆弾の表面は手に吸着し、離れる様子を見せない。

 すぐさまにロープを切断。に、反応して、今度は足を縛り付けるトラップが。

 

「このっ……!!」

 

 爆弾を見ると、時間切れまであと数秒。仕方がないと、自分の体でその爆弾を覆い。

 

「“……サオリ?”」

「……あの馬鹿っ……!絶対にぶん殴ってやる……!!」

 

 ドッキリ大成功。そんな表示がされた爆弾に、銃弾と共に怒りをぶつけた。

 

 

 

 

「いたっ、痛いっ!?痛いですサオリ、やめ、やめてくださいっ!!」

「あれはどう考えてもやりすぎだ!!ああいうのは肝試しじゃなく訓練と言うんだこのバカが!!」

 

 サオリに何度か頭を殴られながらも、痛みを味わう。サオリから与えられる感触なら、どんなものでもまあ……そう悪いものではないだろう。

 

「くっ……効いていない……!この石頭が……!!」

「違いますよ、サオリ。石頭じゃなくてお姉ちゃん」

「黙れ!」

「酷い!?」

 

 そ、そんなにダメだったかな……?絶対銃火器や刃物は使わないようにしてたし、落とし穴の大きさも調整したし……万が一にも怪我人が出ないように、充分過ぎるくらいにトラップへの配慮をしたつもりだったんだけど……?

 

「スオウ……スオウはそういう感覚、ズレてるところもあるから……気をつけた方が、良いと思うよ?」

「あ、アツコまで……!?」

「でも楽しそうだから、後で私にはやらせてね」

「アツコっ!!」

 

 妹の優しさが身に染みる……!最近だとアツコは抱きついてもそんなに拒否しないし、これはもう完璧にお姉ちゃんだ……!

 

「ま、まあ、一応肝試しではありましたね……それにその、アスレチックみたいで、ハラハラして楽しかったです!」

「ヒフミ、大丈夫?頭打ったの?」

「い、いえ、そんなことはないですよ!?」

 

 コハルからも酷い言われようだ。なんと言うか、あの子が一番俺の扱いが妹と近くなってる気がする。多少雑に扱う感じが。

 

「……私としても、トラップを肝試しに使うのは面白いアイディアだと思う。でも問題は、その内容というか……」

「連鎖の仕方が陰湿すぎるんだ。もう少し加減しろ」

「あ、あれでも結構加減した方なんですけど……」

 

 アンナのトラップなんて、あれ以上に陰湿だったし……何より水風船の水が腐ってなかったり、虫がムカデやゴキブリでなくカブトムシな分、かなり良心的だと思うんだけど……。

 

「ま、まあまあその辺で……肝試しはスオウちゃんに手加減してもらってこのままやる、ってことで良いのかな?」

「私としては、少しワクワクしますけどね。特にその縛るトラップだとか……締め付けがどのようなものなのか、気になります」

「絶対そういうんじゃない……そうだったら私はスオウを撃つ……死刑にする……!」

 

 何やら物騒な声が聞こえてきたけど、そういう卑猥なトラップは……作れなくはないんだろうけど、作ってないから安心して欲しい。それと死刑宣告を取り下げて欲しい。控訴すればいいのかな。すでに二度目の死刑判決だし、上告かもしれない。

 

「ピーちゃんを使って索敵すれば、意外とトラップには引っ掛からなくて済むかも……」

「ダメだ、アシリ。体重や体格によって反応するトラップは違う。その鳥では全ての罠はカバーしきれないと思って良い」

「それでサオリさん、縄の加減はいかがでしたか?あの手のものは、対象を生かさず殺さず、骨などを折らないように調整されていて……と、聞きましたが」

「……ああ、流石のスオウもあまり締める力は強くしていなかった……待て、なぜ残念そうな表情をする」

 

 まあ、当初予定していた肝試しと毛色は違うけど……みんなが楽しそうだし、それでいいよな。

 

「“すごかったよ。トラップ”」

「っ、先生。って、その格好……」

「“はは……結構こっぴどくやられちゃったね……”」

 

 ……上に来てたシャツが、こう。水に濡れて。というか先生、髪下げてても似合うな。水も滴るいい男だ。でも、その格好で近寄らないで欲しいな。なんでって全体を通して見てみると、ちょっとえっ───

 

「───んんっ!!げほっ!!」

「“だ、大丈夫?”」

「え、ええ!なんでも!」

 

 顔が熱くなる感触を掌で感じながら、深呼吸。

 

「ふっふっふーん……どうでしたか、私のトラップの出来は!」

「“すごかったよ。誘導されてることにまるで気付けなくて、しかも一つ一つが凶悪で……”」

「そうでしょうそうでしょう……でも、サオリ達の方がすごいんですよ?今度先生も体感してみてください」

「“私は……ちょっと、無理があるんじゃないかな……”」

 

 なんとか自然な会話に戻して、一息。最近先生の前だと、こんなふうになってばっかりだ。まあ、しょうがないと思うけど。

 でもやっぱり、こうして……先生に生徒として接している時が、一番安心するな。

 

「“でも、普通の肝試しもやってみたかったんじゃない?”」

「……え?」

「“スオウ、少し残念そうな顔してたから”」

「……あー……はははっ。そういうんじゃないですよ」

 

 別にホラーは、好きでも嫌いでもない。お化けは信じてないし、信じてないわけでもない。普通くらいの感覚だ。

 でも、肝試しは行ってみたかった。なんでって、それは。

 

「……もし、お化けなんてものがいるなら……二人とも……だから……」

「“……そっか”」

「……」

「“今夜、行ってみる?肝試しに”」

「えっ?」

 

 そうして、次に続く先生の言葉があまりに予想外のものだったので。ちょっとだけびっくりして、変な声を出すことしかできなかった。

 

「“調べたら、近くに心霊スポットがあるみたいだし……きちんと土地の所有者の方が許可を出してるから、そこなら私も安心かな”」

「え、えぇ……だって今やってるのって、夜忙しいから。って、話なんですよ?ホテルの時間もありますし……本当にわかってますか?」

「“でも、少しくらいなら時間を取ってもバチは当たらないよ。それに……”」

「……?」

 

 先生はちょっとだけ気まずげに笑って。

 

「“そっちの方が、楽しそうじゃない?”」

「……はぁ……それだけですか?」

「“うん、それだけ”」

「言い切りましたね……ふふっ……」

 

 全く、この人は。大人なんだか、子供っぽいんだか。

 

「はい。確かに、そっちの方が楽しそうです」

「“……会えたら、いいね”」

「……もー!そんな本気で言ってないんだから、勘弁してくださいよ……」

 

 でもやっぱり、そんなことを言い出したのは……きっと、俺の顔を見たからで……本当に、相変わらず。

 

「……うん……会えると、いいな」

 

 先生だよ。この人は。

 

 

 

 

 そうして、迎えた夜。

 

「もう、こんな時間……もうそろそろ、ステージも始まる時間ですね」

 

 日も暮れて、時計は六と七の間を針で指し。イベントも、いよいよ大詰め。

 

「不審者や不審物の情報は?」

「後者は幾つか。すでに解体処理済みです」

 

 たぶん、これで全部ではない。だが、ステージ周辺はくまなく爆弾を探した。発見したいくつかは、すでに処理済み。だから現状では、『少なくともステージ中の強襲は避けれる』。せいぜいは、このくらいの対策。

 だが、不審者。これについては。

 

「いかんせん、ヘルメット団なので……」

「あ、あはは……」

 

 ヘルメットをかぶってるやつなんて、全員不審者もいいところだろう。仕掛けた爆弾も、多分それを利用して取り付けたんだ。ヘルメットさえ被れば、他の団員と区別がつかない性質を利用して。

 一応、合言葉のような取り決めはあるらしいけど……それも漏れていないという保証はない。ヘルメットを被った人間は、全員疑ってかかった方がいい。その程度の忠告はしておいた。

 

「……なあ……やはり、私たちも警備に」

「何言ってるんですか!せっかくの有名人のステージ!良い場所も用意してもらったんですから、行かなきゃ損ですよ!」

「し、しかし」

「それに、私たちがいればステージの警備になる。戦力は申し分ない。でしょ?」

「……ああもう、わかったよ」

 

 サオリは相変わらず、渋々といった態度。興味があるのなら、それを押さえつける必要なんてないのに。そんな時はお姉ちゃんがなんとかする、って。何回も伝えてきたつもりなんだけどな。

 

「……ありがとう」

 

 でも、そうしてくれないなら……俺がお姉ちゃんとして、無理矢理にでもサオリを引っ張る。それだけだ。

 

「……」

 

 アケミ達が仕掛けてくるのなら、恐らくステージ中か……もしくは、花火が打ち上がる直前。彼女達の目的は、祭の妨害。失敗させることだから。

 それが果たしてB.o.Bのステージ中になるか、どんなアプローチをしてくるのか……それはわからない。わからないけど。

 

「サーオーリッ!!ほら、急がないと遅れちゃいますよ!」

「ひ、引っ張るな!」

 

 このステージも、サオリの笑顔も、みんなの花火も……絶対全部、守ってみせる。

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