一抹の不安を抱える中はじまった、B.o.Bのステージ。そんな中、俺たちはというと。
「これって、何をするのが正解なの……?」
「さあ……」
ほんのちょっぴり困っていた。あまりに初めての経験というか、似たような経験が皆無というか。当てもなくさまよっていると。
「基本的には適当にブラついてれば大丈夫だよ」
「へぇ」
なぜだか詳しいアシリが、そう言って教えてくれる。トリニティは上品なイメージだし、そういうのも厳しそうだけど……なんでアシリが知ってるんだろう?そう思って質問してみると。
「色々……色々、あったんだよ……ふふふっ……あれは危なかったなぁ……」
遠い目をし始めたので、きっと触れない方がいいことなのだろう。俺や姉を探していた過去に関係するものなのかもしれない。
アシリも大概、過去に謎が多いよな……マユミから少し聞いた話で察しはつくけど、結構な無茶をしてきたみたいだし。
「アシリ、飲み物要ります?」
「あ、うん……ありがとねぇ……ちょっと高いけど、向こうのほうで買えるから……」
アシリの指差した方へ向かいながら、一息。アケミ達の襲撃について考える。
正直なところを言うとこうも騒がしいと、音の聞き分けも難しい。神秘での聴覚の強化は、その処理能力まで上げてくれるわけじゃないし……ユズならなんとかなるのかな。
「人すご……」
混み合った売り場に少し気を遠くしながらも、再考。念の為、会場への入場に荷物検査は必須。ただ、これは元々予定されていたもの。
ヘルメット団に対しては合言葉での照合。ミカが一瞬止められかけたけど、入れたみたいで助かった。
B.o.Bのステージは一時間、その時間だけでも相当にお金がかかっているらしいけど……ヘルメット団は意外に資金力があるのかな。
「どうぞ」
「あ、ジンジャーエール二つお願いします」
「千円」
高い。けど、これでも相場より安いくらいだったりするのかな。自分との金銭感覚の違いに困惑させられながらも、ドリンクを待ち続ける。
現状、ヘルメット団ないし妹……シオを筆頭に、こういう環境がダメな妹達が、警備の仕事を手伝ってくれているみたいだけど。どちらからも、異常があったという連絡はない。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
受け取った飲み物を運んでいると、チラホラと見覚えのある顔が。
……ヨセ、踊るの上手いな。ああいうのをやらせたら、天性のセンスでヨセに敵う妹はいなさそうだ。反面、ヤコは苦労して……あ、キレた。煽り過ぎたな、ヨセ。
「はははっ……」
なんだかあまりいつもと変わらない気もするけど、違うところもある。妹達が、アリウス分校生以外とも話せているということ。
つい数ヶ月前までは、考えられなかった光景。何より、そこに俺もいれることが。
「……」
少し感慨に浸っていると、アシリの元へ到着。首元にドリンクを当てて、少しイタズラをして見せる。
「ひぇうぁあっ!?……って、スオウちゃんか」
「はい、私ですよ。アシリ、これ」
「あ、ありがとう……」
アシリにジンジャーエールを手渡して、少し端まで。見渡してみると、そこにはサオリもいて。
「よく見てるね、サオリちゃん……」
「多分サオリが興味を持ったのは参加者じゃなくて、DJ側ですからね」
「え、そうなの?」
「そうです」
本人から直接聞いたわけじゃないけど、俺にはわかる。なぜなら俺はお姉ちゃんだから。
「へぇー……全然知らなかった」
「でもサッちゃん、楽しそうだね」
「あ、アツコ」
後ろから現れたアツコに、少々驚かされる。妹の足音に気づけないなんて、お姉ちゃん一生の不覚……人混みとスピーカーの中だと、相当に集中しないと音の聞き分けは難しいな。
「楽しんでますか?」
「うん。今まで体験したことがないものばっかりで、不思議な感じ」
「知ってる曲のはずなのに、全然違うよねぇ」
実力は折り紙つきって話だったけど、素人目にもB.o.Bはすごいんだろうなぁ、とは思う。いや、具体的にどの辺がって言われてもわからないけど……色眼鏡と言われたらそれまでかもしれない。
「アツコ、これ飲みますか?」
「いいの?」
「私はついでに買ってきただけですから。別に喉も乾いてませんし」
「ありがとう。実はちょっと、喉は乾いてた」
だろうな、声質からそんな感じがした。結構な大声を出さないと、声も通りにくいだろうしなぁ。
「中身は?」
「ジンジャーエールです。アツコは大丈夫でしたよね?」
「うん、問題なし」
アツコは何かを飲む時、片手ではなく両手で包み込むように持つ。昔からの変わらない癖だ。少しおぼつかない感じが彼女に残る幼さと上品さを感じさせて、とても可愛らしい。
って、この前本人に言ったら横にいたミサキにドン引きされたのを、ふと思い出した。
「……ねぇ、スオウ。これ、本当にジンジャーエール?」
「え?そのはずですが……」
「なんか、味がちょっと……甘い、ような」
「どれ……」
アツコに手渡された飲み物を一口、確かにおかしな味わい。少なくとも、ジンジャーエールのそれではない。
強い甘味に、わずかな酸味。子供向けの甘い薬みたいに近い感じもする……最近、どこかで飲んだような。
「……あ。妖怪MAXですね、これ」
マユミに「エナジードリンクはとてもいいものよ」とか言われて飲んでみたけど、個人的にあんまり良さはわからなかったかな。味はさておいて、覚醒作用が毒物と似たような処理をされるのか、あまり効果がなかったし。
「間違えちゃったのかな?」
「みたいですね。忙しそうでしたし……アツコはこれでも飲めますか?」
「全然平気。初めて飲んだけど、結構おいしいと思ったよ」
「なら、このままにしておきましょうか」
単価はこっちの方が高いだろうし。しかし妖怪MAX、ジンジャーエールと色が似てるから気付けなかったな……このいかにも作られたような、濃くした半透明のオレンジみたいな色。
色だけだと判別がつかないから、すっかりここまで持ってきて……ん?
「どうしたの?」
「い、いえ……何か、忘れてるような……」
なんだろう……妖怪MAX……エナジードリンク……マユミ……カフェイン……あ、そうだ。
「思い出しました。マユミからアシリにはカフェインをできるだけ摂取させないようにって頼まれてたんです。時々自己判断で飲んじゃうみたいなので……今日だけでも何回か止めてますし」
確かアズサやマユミ曰く、カフェインで酔うらしいし。下手なことをしかねないから気をつけてほしいって話だったな。
「……それって、あんな感じになっちゃうから?」
「ミーサキちゃんっ!ヒーヨリちゃんっ!!これ飲むぅ!?」
「あ、そうそうちょうどあんな感じに……って!?」
そりゃそうだ、俺が貰ったものをそのまま渡したんだからアシリもエナジードリンクに決まってる!!忘れてるのお願いじゃなかった!!
「ど、どうしちゃったんでしょうか……」
「……わかんないけど、厄介そうだし放っておこうか」
「うわーん!!いけずぅ!!」
「……す、少し酷い気もしますが……」
その方が良さそうですね。ヒヨリがその言葉をギリギリのラインで飲み込んだのが容易にわかった。
「アシリ、ストーップ!!ストォップ!!」
「あ、妹だ!」
「妹じゃないです!」
この子酔うまでが早過ぎないかな。普通効果が現れるまでに数十分はかかるのに。
「妹だよ?なぜなら私はお姉ちゃんだからぁ、へへっ……アイアムお姉ちゃん!!」
「……ねぇスオウ、
「これじゃないよぉ!!お姉ちゃんって呼んで?もしくは姉様もありだよっ!むしろウェルカムっ!!」
「は、話が通じない分、スオウさん並に厄介ですね……」
二人も状況は把握できてないまでも、今のアシリのおかしさには気づいてきたらしい。そう、今のアシリはいつもの俺並に厄介……。
「ん?」
「どうしたの?」
「今なんて?」
「い、いえ……いつものスオウさん並に厄介だな、と……」
「……」
なるほど、どうやら妹らしい。ここはアシリの側についておくとしようか、本気で逡巡していると。
「こらー、そこー!!未成年の飲酒は禁止だぞー!!出禁だ出禁!!ったく、調子づいたガキどもめ……」
「ちょ、誤解です!」
いよいよアシリが目立ち始めたせいで警備さんまで……って、このヘルメット。
「あ、海の家店主」
「なんだその呼び名……って、そういやなんだかんだ名乗ってなかったな。私の名前はだな」
「うぇぇええぇええん!!」
「やかましいっ!!」
ちょっと気になる情報ではあったのに、アシリの泣き声、もとい鳴き声で掻き消されてしまった。疲労のせいか、聞いてる話よりも酔いが酷い気がする。
「なあ、あんたら酒飲んでるのか?流石に恩人といえども、見逃すわけにはいかないんだが……」
「いえ、これは本当に違くて……」
「そうそうっ!勘違い、オブ、勘違いだよっ!!」
アシリは話がややこしくなるからちょっとだけ静かにしてほしい。本当にちょっとだけで良いから。
そんな願いも虚しく、ヘルメットの彼女は話の対象をアシリに変えたようで。
「じゃあ、なんでそんなふうになってるんだ」
「なんでだろうねっ!!」
「そのコップの中身はなんだ」
「ジンジャーエールっ!!」
「舐めんな」
困った、アシリが話していると加速度的に誤解が広がって行く。早いとこ説明を……!
「ちょ、ちょっとこれ一口飲んでみてください!」
「え?あ、ああ……待て。共犯にしようとしてるんじゃないんだろうな」
「しませんよそんなこと!!」
ダメだ、信頼値が地の底まで下がり果ててる。とはいえ、飲んでもらえればわかるんだ、飲んでさえもらえれば……!
「……まあ、確かにアルコールの匂いはしないし……どれ」
器用にヘルメットを少しだけ持ち上げてチビっと一口。味を確かめるように、何度か舌を鳴らして。
「……エナジードリンクだな」
「そ、そうでしょ?だから誤解で」
「エナジードリンクと酒を混ぜたのか……!?ちょっとハイレベルが過ぎるんじゃないか……!?」
「違う!!」
というかそんなことしたら倒れるだろう、そんなことする奴なんているわけ……ないよな?ダメだ、飲酒経験がないからわからん。でも先生はやらない。
「じゃあなんでそいつはそんなになってるんだ!」
「カフェイン!カフェインで酔ってるんです!」
「蜘蛛じゃあるまいし!!それとも何か、お前らは百鬼夜行から来たとでも言うつもりか!?」
「そうじゃなくて!!」
そもそも蜘蛛みたいな妖怪の生徒がいるかも、ってそんなことはどうでもいい。それより今早く誤解を解かないと……あ、そうだ。
「アシリ、はいこれ」
「んー?なにこれぇ?」
「追加のジンジャーエールですよ」
「ほんとぉ!?ありがとうイモウちゃん!!」
「混ざってる」
なんだイモウちゃんって。そんなツッコミも程々に、アシリがエナジードリンクを一口。みるみるうちに呼吸は荒くなり、顔はその赤さを増して、先ほどよりも酔いが強まったように見えた。
「……本当にカフェインで酔ってる」
「信じてもらえましたか……」
流石に飲酒でしょっ引かれるのは御免だ……というかそもそも、ヘルメット団が今更未成年に酒を売る犯罪を気にするなという話でもあるけど。もっとダメなこと他にいっぱいあると思う。
「わ、悪かった!誤解を……!」
「いえ、しょうがないですから。ねっ、アシリ?」
「んぇー!!なにがぁ!!?」
とはいえ、信じてもらえたのなら幸い。ミサキとヒヨリも一安心したようにため息をついていた。
「それで……例の件、どうですか?」
少しだけ声をひそめて、ヘルメット越しに耳打ち。かろうじて聞こえたらしく、先程までの弛緩した空気が一気に引き締まるのを感じた。
「……現状では、何もない……不気味すぎるくらいに」
「不気味……?」
「そうだ。向こうは焦ってるはずだ。B.o.Bのステージさえ成功してしまえば、実質的には私たちの勝利だから。なのに、仕掛けることはおろか……警備を見たか?奴ら、飲み物を片手に談笑する余裕までありやがる」
「……」
今はステージ開始から、おおよそ二十分と少し。盛り上がりの山場を単純に中間地点と考えるのなら、三十分までには勝負を仕掛けてきたいはず。だったら、もうすぐ……だというのに、警備を撹乱する動きさえ見せない。なるほど、確かに不気味だ。
「周辺のビーチは?」
「もぬけの殻さ。物資を回収しに来た痕跡はある、おそらく昨日の夜中だろう」
「……撤退した可能性は?」
「ないな。間違いなく」
そうだろうな。拳を交えたから確信できる。彼女のスケバンとしての誇り、そして守りたい妹分達。そのどちらかだけでも、充分撤退しない理由たり得る。
だとすれば、仮定は二つ。一つ、花火大会で彼女達は仕掛けてくる。そこでヘルメット団と再戦し、完全な勝利を収めること。だが、戦力差につきこれはあまり現実的でない。そしてもう一つ。
「……我々が気づいていないだけで、すでに何かの準備は終えられている可能性がある」
「……です、ね」
こちらの方が可能性は高い。厄介なのは、そればかりは俺たちにどうしようもないということで。
「まあ、私も何か気付けば……」
「頼む。警備員が巡回している箇所は共有済みだから、逆にそうでないところを積極的に探してみるといいかもな。それと……」
「……?」
「あいつ、大丈夫なのか?」
指先の向かう方向へ視線を向けると、そこにはフラフラとした足取りで人混みに向かうアシリが、って馬鹿野郎。
「待ってくださいアシリッ!!アシリィッ!!」
「……ったく……ほんとう、なんなんだよお前らは」
「ヒヨリ、ミサキ、アツコ!私ちょっと行ってきますね!!」
サムズアップで返すアツコに同じくサインを送りながら、人混みへ迷い込むアシリの肩をなんとか掴み取った。
「ちょっとアシリ、ほらしっかり!ここ抜けますよ!」
「んん……?ふへぇ……私ここで寝るよぉ……」
「アシリッ!!」
カフェインの覚醒作用を砂糖による血糖値の上昇が上回ったのか、アシリは若干呂律も目線もおぼつかない。
「わ、ちょ、っとと」
「あ、ごめんね」
「お、お気になさらず!」
人に押されながらなんとかアシリを抱えて外に出ようとするも、庇っていてはやりにくいことこの上ない。人の波に押されるがままに、フラットバランスを崩して。
「わぷっ……!す、すみませんいきなり!!って、この匂い……」
「“あ、スオウ”」
「やっぱり先生でしたか」
よかった、先生で。
「先生は一人でここに?」
「“うん、ちょっと様子を見て回ってて”」
「そうだったんですね」
先生のコートの裾を掴みながら、人混みの外へ。なんだか前にもこんなことがあった気がする。
「“ところで、アシリは一体……”」
「私はなんともないよぉ!!」
「その、私が買ったはずのジンジャーエールが、エナジードリンクと間違えられてたみたいで……申し訳ないことをしました、はははっ……」
「“それは災難だったね”」
周りは、特に真後ろにいるアシリは、その喧騒で音をかき消す。はずなのに、そんな中でも、先生の声だけはやけにはっきり聞こえた。
……歳をとると低い音の方が聞き取りやすくなるとか聞いたことあるけど、まさかそんなんじゃないよな……?白髪になってるし結構無茶やってたけど、まだそんな老いてはないよな……!?
「“よかった、向こうは空いてそう”」
「あ、本当ですね……ほーら、アシリ。そろそろ起きてください?」
「……私!!寝てない!!」
寝てたやつの典型のようなセリフを吐きながら、かろうじてフラフラと歩き始めるアシリ。不安なこと、この上なかった。
「あれ、先生、それにスオウちゃんと……あ、アシリちゃんかな。何してるの、そんなところで」
「ミカ」
「ミカ様ァ!!だ!!」
「しーっ!!大声で言わないでください!!」
「“えっと……ちょっと、色々あって……”」
先生が事情を話してる隙に、アシリに水を飲ませておきたいなと、彼女を引き連れて販売所へ。先ほどより慣れた手順で、その大きさに見合わないほど高い水を購入。雛鳥のように開いた口にゆっくりと流し込んだ。
「……あれ、なんだろこの感覚……昔どこかで……おねーちゃん……いや、まま……」
「ふんっ!」
「あぅっ!?」
ふざけたことを抜かし始めたので、鼻を軽く弾いてやる。お姉ちゃんはまだしも母親の役割は受け入れた覚えがない。いや、昔候補にはあったけど、流石にちょっと……ハードルが高かった。
「いたぁい……!」
「はいはい、ちゃんと飲んでくださいね」
……そういえば、アシリも元は捨て子か。姉が母親代わりみたいなもの、って、言ってたもんな。そう考えると、さっきのは少しかわいそうだったかもしれない。
母親、かぁ……前世の母はどうだろう……このキヴォトスと時間の流れが同じなら、あれから十七年。元気かな。なんとなく元気そうだ。ちょっとやそっとで折れる人じゃなかった気がする。息子がいなくなるのはちょっとやそっとじゃないか。
「お腹たぷたぷ……」
「ほら、もうちょっとですから」
「うぅ……!」
今世の母はどうだろう。なんとなく、生きてはない気がする。ベアトリーチェが発見できなかったのもそうだけど、何より……あのアリウスで、何者かに追われてたみたいだから。
……サオリも、ヒヨリも、ミサキも、アズサも……アツコも、だけど。俺たちはみんな、親がいない。だから例えばの話、バージンロードをエスコートしてくれる人もいないし。妹の時は、俺か先生が一緒に歩けば良いけど。俺の時はどうしようか。
「ふぁ……」
というか、さらっとバージンロードを歩く前提でいたな……新婦側でいいのかな。というか、結婚できるのか?いや、するのか?
「の、飲み終わった……ちょっとマシになったかも……」
「あ、何よりです」
とりとめのない思考が頭を支配し始めたところで、アシリが復活。これでやっとミカのところに戻れそうだ。
「ごめんなさい、私の不注意で……」
「う、ううん、大丈夫。不慮の事故だよ……」
ようやくアシリの酔いも、少しはマシになってきたらしい。まともな受け答えができるようになっていることに安堵しつつ、二人の元へ。
「そう、だから警戒を……って、スオウちゃん達が戻ってきたみたいだね」
「“おかえり、二人とも”」
アシリと共に先生とミカの元へ、少し小走りで。
「はぁっ……!す、スオウちゃん、私お水飲んだばっかりだからキツい……!」
「あ、ごめんなさい」
と思ったけど、アシリにとってはそうじゃなかったらしい。アシリのいるところまで歩いて戻って、肩を貸して。
「ごめんなさい、アシリ。ほら、行きま」
そこで振り向いて。何が起こっているのか、理解できなかった。
「……え?」
視界に遅れてくるように、無数の爆発音。さらに続いて、熱気。特有の風圧。
「っ……!!」
何が起こったのかわからない。わからないけど、急がないとまずい。だって。
「ミカァ!!」
ミカのヘルメットが、爆ぜていたのだから。
◇
『正面からの戦闘で勝ち目はありません』
そう語るのは、杖をつく幼い見た目をした少女、あるいは童女。その見た目にそぐわない、知的な若葉色の瞳。ニヤニヤ教授である。
『アケミ一人で事足りると考えていましたが、予想に反して厄介な戦力が集まったようですからね。はい、私にとってもそれは予想外でした。ですがこの私、ニヤニヤ教授にかかればその程度の特異点を退かすことなど、道端の石ころを蹴って運ぶより容易い』
誰に話しかけるわけでもなく、ただこの通信を聞く誰かに向けて。自らの智慧と閃きを自慢するかの如く、能書きを垂れていた。
『昨夜あなた方に渡したヘルメットは彼女達、ヘルメット団が扱う中で最もオーソドックスな型。安物であるが故構造が単純で、その改造も容易い。ヘルメット団が好む由縁の一つでもあります』
くるくると手元で発信機を遊ばせて、何相応しい能面的な微笑みを浮かべながら口元を隠す。目元だけ見れば、不気味なほどの無表情。その場にいるものが見れば、あまりのチグハグさに、その矛盾に、あるいは狂気的にさえ思えてしまう様相。
『分解の手順、そして事前に爆弾を仕込んだヘルメット。あなた方の作戦の起こりとして授けたのは、
ヘルメット団が宿泊するホテルなど、アウトロービーチ周辺で絞れば容易に発見できる。ホテル内への侵入など無関係な客を装えば、比較的容易なことだ。
『就寝、入浴、その他日常生活を送る上で、
大幅な改造がなされたヘルメット、あるいは型の違うヘルメットへの仕掛けは不可能。だが、これはヘルメット団の中でも一大イベント。新人や下っ端も集まる。彼女達が爆弾を仕掛けるのは、その中のほんの一部だけで充分。
『これがうまくいかなければ、次善の策は用意してありましたが……その必要はなかったようですね』
さらに、ヘルメットそのものを疑る可能性も低かった。ヘルメット団に自分たちのヘルメットがすり替えられる、などという想定をできるものは少ないだろう。それがニヤニヤ教授にとっての、数少ない賭けの要素。
『アネアネピンクとやらはこれで処理できるとは思っていません。ですが、我々の勝利条件は戦闘に依らない』
たとえ小規模だろうと、その人口密度によってパニックは加速度的に広がる。ステージの存続を崩壊させる、その一手となる。
『さらに……ん?なんでしょうか?話が長い?さっさと次の指示を出せ?』
いよいよ目を閉じてドヤ顔を入れ解説し始めたところで、スケバンの一人、さらに正確に言うならばアケミから苦言がなされた。
『ほむ、それもそうですね。我々にあまり余裕はありませんし……では、アケミ、みなさん』
次にニヤニヤ教授が出す指示は、当然。
『
容赦ない、苛烈な一手であった。