ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

141 / 175
【後日談】アリウスの白い悪魔

 なぜ、なぜ。

 

「ぐ、ふっ……!!」

 

 なぜこうなった。

 

「ど、りゃあっ!!」

「ッ……!!」

 

 アケミがそう考えるのも、無理はない。先程まで明らかに有利だったのはアケミの方。アケミのペースで戦いは進められていた。

 だというのに。

 

「このっ」

「あ、それはダメです」

「なっ……!?」

 

 今はむしろ、その逆。スオウが戦いの流れを握っているのが現状だ。

 打破するべく会場に向けて機関銃を向けてみるも、指先を砲身に突っ込まれて発射を強制的に中断。無論内圧によりスオウ自身の指さえもボロボロになるが、それを特段気にする様子はない。

 

「お返しっ!!」

「っ、うぅ……!」

 

 むしろ砲身をそのまま握り込まれこちらを拘束、そのままショットガンを撃ち放ってくる始末だ。

 イカれている。とても正気とは思えない。痛みを感じないのか。自分のことを棚に上げて心の中で悪態をつきながらも、そのままショットガンに向けて頭突き。後ろに弾かれたところに拳を打ち込む。

 

「はぁああっ!!」

 

 狙うは腹。胸。肺から空気を絞り出し、一瞬の怯み、隙を作り出してやろうという算段。

 

「がはっ……!?」

 

 しかし、現実としてダメージを受けたのはアケミの方だった。足に深く蹴りが突き刺さり、呻き声を上げる。

 アケミは確かにスオウの体を軽く吹き飛ばし、少なくともこれほどまでに威力の乗った蹴りを繰り出せる体勢になかったはず。

 

「っ……!!」

 

 だがスオウは、すでにこの展開を読んでいた。機関銃に指を突っ込んだ時点で。その段階で、自らの足元に爆弾を仕込んでいた。それを踏み締めるように、勢いづけるようにして、そのままアケミの腹に足をめり込ませた。

 

「まるで曲芸師ですわね……!!」

「はははっ、それじゃあこんなこともしてみますか?」

 

 そう言ってスオウが背中側から取り出すのは、一見するとただの水風船。片手に三つ、両手で六つ。

 なぜ今そんなものを。そんな指摘を口にする余裕などは当然なく、ただその取り出されたものに警戒を返すしかない。一体スオウはあの水風船を使って何を。

 

「っ、違う!」

 

 自らの思考を打ち消して否定し、即座に一歩後退。先程までアケミが立っていたはずのその場所で、スオウの足が空を切っていた。

 

「っと……惜しかったですね」

 

 ミスディレクション。水風船に注意を向けさせる直前、背後で爆弾を起動させた。ほんの一瞬の弛緩、そこを容赦無く刈り取ろうとする動き。

 今逃げ出さなければ確実にやられていたと、頬を伝うのは一筋の汗……ではなく。

 

「これはっ……!?」

 

 アケミの頭頂部に落下してきた水風船。その中に仕込まれていた液体。匂いを嗅いで、確信。

 

「ガソリ、ぐふっ……!?」

 

 言い切るよりも先に爆発。六つ、手にしていた水風船のうち、一つは見かけのみ。中身は爆弾だったのかと、もはや覆らないダメージを噛み締めて悔しさを堪える。

 身体中の炎を無視して特攻、スオウの足を掴み取った。

 

「やばっ」

 

 以前のような叩きつけでは意味がない。微弱なダメージを与え続けるだけでは脱出の隙を与えてしまう。であれば。

 

「ふんっ!!」

「……え?」

 

 翻して、後ろから抱擁。膨れ上がった両腕の筋肉で胴体ごとスオウの腕を拘束。動きを制限する。

 

「ちょっ、なにをっ……!?」

 

 これで爆弾は使えない。だが、アケミから追撃することもできない。

 

「お返しですわっ!!」

 

 そんなわけがない。そのまま体を後ろに倒して、スオウの脳天を地面に叩きつけ……そのまま地中に埋め込んだ。

 

「む、スープレックス(むーふむっふふ)ぅ!!?」

「これで……!」

 

 今日にも胸元までだけを埋められて状態で足掻くスオウ。彼女の驚愕を無視して、アケミは構える。彼女の腹へ向けて、全力、全開。最大限の威力を伴った拳を打ち抜くために。

 

「ふぅうううっ……!」

 

 一瞬。ほんのわずかな時間だけでいい。最大限までリミッターを解除し、一撃で大ダメージを与える。さすれば、ちょこまかと動き回るあのわけのわからない戦い方を封じれるというもの。彼女の正体など、今はどうでもいいことだ。

 ここで確実に壊す。

 

「はぁっ!!」

 

 拳を振り抜く、その直前。何かに、足を引かれた。

 

「……はっ?」

 

 一体、何が。衝動的な疑念に従って足元を確認すると、そこにはラッシュガードの一部。服の袖に当たる部分が、アケミの足に絡みついていた。

 

「いつのまにっ……!?」

 

 一体いつか。考えられるタイミングとしては、スープレックスを仕掛けた直後。あのタイミングであれば、何かを仕込む余裕はあった。だが、両手を封じられた状態でどうやって。

 

「ぐっ……!?」

 

 そんなアケミの疑問は、ショットガンのダメージで即座に解決する。

 

「足……!」

 

 足だ。今ショットガンを足だけで撃って見せたように、ラッシュガードを足だけで自分の体に絡ませてみせたのだ。

 

「猪口才な……!」

「……ぶはっ!ぺっ!へ、ヘルメットの中に砂が……!」

 

 ふざけた様相をしてこそいるものの、先程までとは明らかに強さの格が違う。戦いの中で、まるで何か手ほどきをするかのような余裕さえも感じられる。

 ここからが本番?何を言っているのか。まだまだ彼女にとっては、序の口もいいところだ。そう思わせるだけの、隔絶した実力の差。

 

「……」

 

 勝ち目はない。このわずかな攻防の中でも、体にそう教え込まれた。どこか諦めたような表情で、ちらりと、先程地面に置いた戦車を見つめる。

 

「……完敗、ですわね」

「……だったら」

 

 それでも。

 

「ですが、まだまだ抗わせていただきますわ。このまま敗走したのでは、あの子達に合わせる顔がありませんから」

「……そうですか」

 

 それでも、たとえ自分がこの勝負に負けたとしても。この大きな戦局、全体の戦いで負けるわけにはいかない。

 ぐらり、と。自分の手元に残された、もう一つの戦車を砲塔部を握って持ち上げる。

 

「……」

 

 「んなハンマーみたいに持ち上げるもんでもないだろう」と、スオウとしてはツッコミを入れたいところだったが、グッと堪えて気を引き締め直す。アケミには何か考えがあると、そのことを察していたからだ。

 

「実力差は歴然……ですので。胸を借していただきますわ。行きますわよ」

「……」

 

 額に浮き上がる青筋。こちとら貸すほどの胸を持ってないんだよ。むしろこっちが欲しいわ。そう心の中で理不尽な怒りを露わにしながらも、スオウに向けて突っ込んでくるアケミに真っ向から加速。

 

「あぶ、ねっ……!!」

 

 圧倒的な速度で迫る拳を寸前で回避。頬を裂き、肉さえも抉り飛ばしながらも、それでも自らの腕をアケミの懐に潜り込ませるスオウ。

 が、しかし。

 

「ぶっ……!!」

 

 横から強い衝撃。戦車だ。

 

「なん、ですかそりゃあっ!?」

 

 戦車で横っ面を殴り飛ばされ、攻撃を中断させられた。言葉にしてみればわけのわからない状況だが、それが真実なのだからそれ以外に表しようがない。

 ともあれ、アケミの戦い方の急激な変化。

 

「……リミッター?」

 

 右腕だけリミッターを外すことにより、戦車をぶん回している。そう考察したスオウだったが、すぐにそれはないと思い直す。

 腕だけを強化したとしても、その腕を支える胴体、腰、足先に至るまで、その負担は計り知れないものだ。ここでそこまで分の悪い賭けに出る必要はない。

 

「……いえ。虚仮威しですか」

 

 だとすれば先の一撃は無茶を言わせて無理矢理戦車を操った。だが、それを継続的に行うはずもない。下手に自分に近づけばこうなるぞと、そのつもりで戦車を振るったのだ。

 

「……まあ、一応……」

 

 やるだけやってみるか。ハンドキャノンに込めるは、過剰なまでの深緑の神秘。両手から送り込むことにより充填速度も二倍。いかにも、「これからあなたに向けてこれを撃ちます」という動き。

 スオウが狙うのはアケミ……ではなく。

 

「ふぅっ……!」

 

 アケミが持つ、戦車の方だ。アケミもまた、それを理解した直後。

 

「っ、はぁっ!!」

 

 飛来する砲弾。戦車用の弾はまだ余っていたようだ。そう考えて間も無く、着弾を無視できるように全身に向けてうっすらと神秘を纏わせた。

 

「なっ……!?」

「まずはその邪魔くさい戦車から蜂の巣にしてやりますよ……!!」

 

 無論、ブラフ。というよりも、試しているだけだ。戦車を破壊するのであればハンドキャノンよりもショットガン、ショットガンよりも爆弾である。

 それでもスオウがハンドキャノンを選んだ理由は。

 

「チッ……」

 

 ともあれ、それらの選択肢から何を採ってもアケミにとって不利な状況を作り出すことは必至。そしてそれを可能にするだけの神秘を込める時間を、アケミが許すはずもない。

 槌のように戦車を振り上げ、跳躍してスオウの元まで。重力が従うままに戦車を振り下ろそうとして。

 

「騙されましたね」

 

 爆発。スオウの足元が爆ぜた。

 

「なっ……!?」

 

 予想していない体勢から迫るスオウに、アケミは一瞬の困惑。戦いの中ではあまりにも長い時間だ。そのまま振り下ろされた戦車を駆け上がり、アケミの横まで回り込んで。

 

「ど、りゃあっ!!」

 

 過剰なまでに神秘を込めたハンドキャノンを、アケミの顎に撃ち放った。

 

「がっ……!?」

 

 いつだかスオウが語ったように、神秘は不可能を可能にする力ではない。ただ彼女たちが持つ力とその神性を強く化かすのみ。それゆえに、顎への攻撃。拳のみでは揺れ動かすことのできないアケミの脳を、これでもかと震わせる一撃。

 

「ぐ、ぅっ……」

 

 苦し紛れ。残された力でリミッターを解除し、戦車をぶん投げるアケミ。それは虚しくもスオウの横を通り、ステージの手前で停止した。ちょうど、爆弾が届かない程度の距離。

 

「私の勝ち、ですね」

 

 フラつきながらも伏すことはなく、強い眼光でスオウを睨みつける。これが敗者に、アケミに許された、唯一の誇り。矜持。最後の最後、悪あがき。

 

「……」

 

 スオウの目には、そう映っているのだろうと。アケミは、ほんの少しその口元を綻ばせる。

 

「……そう、ですわね。悔しい限りですわ。まさか私が、タイマンで負けるだなんて……」

 

 アケミが口にしている言葉は嘘ではない。むしろ心からの本音、絶対に覆ることのない事実だ。忸怩たる想いで歯を食いしばり、今にも倒れてしまいそうなほどの体のダメージを無理矢理に抑えている状況。

 リミッターを外せば、まだ戦えはする。だがだからこそ、スオウは脳震盪を起こさせるという選択をしたのだろう。そうすれば、たとえ体の痛みを無視できたとしても、いくら肉体を強化したとしても、脳の異常で体を動かすことはできないから。

 

「……さて、それじゃあ……ひとまず、眠ってもらいましょうか」

 

 爆弾に神秘を込めるスオウを見据え、目を閉じる。自らの肉体に、絶対的な自信を持っていた。鍛え抜いた彼女の筋肉(ひかり)がその輝きを失うことなど、考えたこともなかった。

 

「……」

 

 そんな折、ヘルメット団に騙されて。多勢に無勢。彼女にとって大切な妹分を守るためには、あまりにも弱く儚く矮小な力だった。それでも、彼女は愚直に鍛え続ける。それだけしかできなかった。

 天賦の才なんてものは必要ない。頭脳だってどうでもいい。ただ、己にさえ負けなければ誰にだって打ち勝つことができるのだと、そう信じて。

 

「……その前に、一つだけ」

「……なんですか?」

 

 だから、悔しい。この敗北が、悔しくて悔しくて仕方がない。このまま歯を砕き、骨を貫こうとも変えないほどの屈辱。まるで今までの自分、その全てを否定されたような気分にさえ陥って。

 

「……私、まだあなたの名前も聞いていませんわ」

 

 だからこそ、私の勝ちだ。

 貼り付けたような表情。決して悟れまいと鉄仮面のようにその表情筋を固めながら、できる限り時間を稼ぐべくゆっくりと、ゆっくりと話し続ける。

 

「冥土の土産というやつです。教えてくださいませんか?」

「……別に、ヘイローを破壊したりしませんよ」

「あら、娑婆と別れるのに変わりはありませんわ」

 

 先程半ばヤケクソ。悪あがきのように投げた戦車。スオウが爆発の範囲外だろうと意識の外へ追いやった、その戦車。あの戦車には、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その中にあるのは。その中にいるのは。

 

「お互い、拳を振るいあった仲。名前も知らずにさようなら、では、寂しすぎはしませんか?」

「……」

 

 彼女の妹分たちだ。彼女の大切な、珠のように可愛い妹分たちが、その中に待機している。今頃、ステージを破壊しに向かっているはず。

 最初から、このつもりだった。最初に片方だけ戦車を投げ、残る片方も同じだと錯覚させる。本気を出したスオウに一方的に追い詰められることさえ想定内。自分が戦車を持ち出すことに違和感を持たれなければ、それでよかった。

 だからこそ、力を誇示した。無様な演技で近づくなと、戦車を脅しの道具として使っているように見せかけた。

 

「それも、そうですね」

 

 こんな勝ち方しかできなかった。タイマンでは勝てなかった。戦いに勝つことくらいでしか彼女に、彼女たちに。アネアネピンクと白髪のヘルメットに勝つ方法は見つからなかった。

 妹分たちも楽ではなかったのだろう。自分の腕力。戦車を振り回すほどの力を間接的に受けたのだ。中でシェイクされ、それは酷い有様になっているはず。

 

「……決して、他言しないでくださいね」

 

 それでも、彼女たちならやり遂げてくれる。

 

「……もちろん」

 

 逃したのではない。信じて任せた。先の戦いで、スオウがアケミに言い放った言葉。妹のことを疑わず、守るだけではなく、ただ託す。姉としての姿。

 ……自分はそんな、姉貴分になれたのだろうか?姉様とそう呼ばれるのに、ふさわしい存在になれたのだろうか?

 

「私の……名前は……」

 

 ああ、それでも。そうだとしても。

 

「……」

 

 やはり、負けたのは悔しいなぁ。また妹分たちを娑婆へ残していくのは悔やまれる。目を閉じて、そんな想いを紛らわせようとして。

 

「きり」

「姉様ぁあぁああああっ!!!」

「……は?」

 

 聞き覚えのある声が耳をつんざいて、大きく瞼を広げる。そこにいるのは、割れたヘルメットの少女……だけではなく。

 

「おぉおおぉおおおおっ……!!いいか、絶対力抜くなよ!!?一人でも力抜いたら全員吹き飛ばされるからな!!?」

「わかってんだよんなことッ!!お前さっきから右半身力抜けてるぞ!!こっちの負担も考えろ負担もォっ!!」

「あ、頭の拘束って意味あるのか!?いや頭だけでも振り払われそうだから恐ろしいんだけど!!」

 

 そんな少女にまとわりつく、五人のスケバン。先程放り投げた戦車の中にいた、彼女の妹分たちだった。

 

「っ、なにをっ……!?」

 

 何をしているのか。本来はあのまま戦車を操るか、それがダメならばダメで、内部のロケットランチャーでも土台にぶちかませと、そういう手順だったはず。今晩の計画の全てはこのためにあった。

 だというのに。今ここでスオウの元へ来る理由など、一つもない。

 

「何をやっているのですか!!」

「ごっ、ごめんなさい……!でもやっぱり無理ですぅ……!!姉様を見捨てるなんて、そんなっ……!!」

「っ……!!」

 

 個人の勝利よりも、全体の勝利。たとえ誰がいなくなったとしても、それは諦めるほかない。必要な犠牲。投資。

 彼女たちが不良として生きていくために。石も投げられず、後ろ指も刺されずに生きていくために。そんな約束を、確かに交わした。

 だが、アケミにとって彼女たちが数字でないように、断じて犠牲でも、投資でもないように。彼女たちにとっても、アケミは。

 

「良い妹分、持ってるじゃないですか」

 

 ふとスオウの声が、アケミの耳に届いた。嬉しそうな。それでいて、何か覚悟を決めたような。泣きそうな声だった。

 

「きっとあなたのことが、大好きなんですね。いろんな出会い方をして。いろんな接し方をして。いろんな思い出を作って」

 

 自身とアケミを重ねるようにして。否、実際重ねていたのだろう。姉として生きてきた桐花スオウと、姉と慕われる栗浜アケミを。重ねずにはいられなかった。同情せずにはいられなかった。

 

「だから自分たちの未来を天秤に乗せても、あなたを選んだ」

 

 割れた面から覗く表情は、穏やかだった。それでいて、どこか遠かった。アケミよりも、どこか遥か遠くにいて。さらにその先を見つめているように感じられた。

 

「……で、どうするんですか?勝負はわからなくなりましたけど」

「……なにを」

 

 どうする?どうするって、何を?一体何を求めている。何を望む。自分に対してどんな選択を期待している。それはわからなかった。アケミは知らなかったからだ。スオウの過去も。歩んできた軌跡も。

 誰が予想できるだろうか。今まで彼女自身がしてきた選択。自分を切り捨てて、妹の人生を救う。

 

「……」

 

 そのやり方が間違っていた、と。アケミの行動を通して、改めて否定して欲しいなど。今の自分が、あれからの自分がきっと間違っていないのだと。そう示して欲しいなど。

 

「来ないなら、こっちから……」

「ね、ねぇさまぁあぁあああ……!!はやくぅ……!!こいつ、とんでもない馬鹿力で……!!」

 

 そんなスオウの想いなど、当然知るわけもなく。けれども、彼女にとって確かなのは一つ。

 

「……勝負は……私の負けで構いません」

 

 彼女の誇り。それは鍛え抜いた肉体。力。

 

「ですが……!!」

 

 だけではなく。

 

「この戦いは……この戦いだけには!!この子達のためにも、勝たせていただきますわ!!!」

 

 妹分たちを守れる。ただ、それだけでも。たったそれだけの事実だけでも、充分なほどの誇りになり得たということ。

 どこか凶悪な笑顔で、アケミはリミッターを解除し……桐花スオウを、ステージの方までぶっ飛ばした。

 

 

 

 

 衝撃。凄まじい勢いの全てを一切殺さずに、ただひたすらに吹き飛ばされ続けるスオウ。その勢いは、やがてステージにさえも到達し。

 

「げほっ……!」

「おわぁあぁああっ!?なんだぁ!?」

 

 B.o.Bの上方から射出され、地面へ激突。その場で交戦していたスケバン、ヘルメット団の両名を巻き込んで、ついに停止した。

 

「いっつつ……」

「……小隊長が予想外なのはいつものことだけど……ここまでとは思わなかったなぁ」

「む、ヨセ。ごめんなさい、びっくりさせて」

「びっくりで済むと思う!?ねぇ!!?」

 

 偶々その場に居合わせたヨセから鋭い指摘。苦笑いを返していると、すぐさま駆け寄ってくる白い影が一つ。

 

「“スオウ、大丈夫!?”」

「あ、せんせー。大丈夫大丈夫、ヘーキですよ」

「“……スオウ?”」

 

 違和感のある口調。いつもの彼女に比べれば、どこかおかしな喋り方。そんな小さな異常を、先生は見逃さなかった。

 

「つっても、戦局的にはヤベーですけどね。なんせアケミさんたちにここまで吹き飛ばされちまいましたから。彼女たち、すぐにこっちに来ますよ」

 

 スオウは、彼女にはもう。わかっている。とっくの昔に、わかっていた。

 

「っ、それはまずいですね……サウ、援軍を呼んでください。全員ステージに招集するべきです」

「指図すンな。つか、他の戦況も充分やべェだろ。んな余裕あんのか?」

「……それはそうかもしれませんが、そもそもステージを破壊されては意味が」

「あ、でも大丈夫ですよ」

 

 これから自分がする行いが、大いなる間違いであることも。

 

「なんとかできます。方法を思いつきました」

 

 その行いが、誰かを傷つける可能性も。

 

「……えー、ほんとぉ……?なんかアヤシーんだけど」

「……私は、小隊長のお言葉を信じるのみです」

「大丈夫。私にならなんとかできますよ。というより、私だからこそなんとかできます」

 

 それでも彼女には、こんな選択肢を選んだ。今度は理解した上で、その選択肢を選んだ。

 アケミたちの未来。自分が欲しかった思い出。その二つを天秤にかけて。

 

「なんせ私は、みんなのお姉ちゃんで……」

 

 かつてのアズサのように。のしかかる全てを、背負う覚悟で。

 

「……アリウスの白い、悪魔ですから」

 

 誰にも届かない、消え入りそうな小さな声。それだけを振り絞って……彼女のヘルメットは、とうとう完全に崩れ去ってしまった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。