ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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【後日談】裂いて、咲いて

 時間は、ほんの少しばかり巻き戻る。スオウが自らの正体を明かし姿を消した、その直後まで。

 

「あのっ……!!超超超大馬鹿小隊長がぁああああっ!!!」

 

 ヤコはキレていた。その怒りの湧き上がり方たるや、先程までスオウに怒りを滲ませていたヨセがドン引きするほどである。

 とはいえ、その甲斐あってかスオウへの怒りは一旦、棚に上げられる。まず真っ先に思い浮かぶのは、トリニティ、そして公安維持局からの追手。指名手配犯である彼女の目撃情報があれば、このアウトロービーチでさえもはや安全な場所とは言えないだろう。

 

「ど、どうしよどうしよどうしよ……!公安維持局の人たちが来ちゃう……!また職質されちゃうよぉ……!」

 

 『また』ということは、以前されたことがあるのか。そんなアシリへのツッコミも程々に、その場にいたミサキが通信機器を手にした。

 

「そっち、シオはいる?」

『ん?……ああ、戒野ミサキか。ちょうどよかった』

 

 通信をとったのは目当てのシオではなく、第三分隊長のトウ。シオは基本、スオウ以外からの通信には出たがらないのだ。

 恐らく近くにいたトウに丸投げしたのだろうと察しながらも、情報を共有するべく口を開く。

 

「スオウの馬鹿が馬鹿やった。シオの力を借りたいんだけど」

 

 スオウの馬鹿が馬鹿やったというのは、スオウの馬鹿が馬鹿をやったということである。何も知らない者なら混乱してしまいそうな言葉だが、同じ不満を持つトウには特に違和感もなく伝わった。

 

『ああ、そのことかい……それなんだけどね、実はそれについてなんだけど』

『そんなのとっくに把握してるに決まってるじゃない……!こっちはとっくに動いてるわ、この妹敵!!!』

『……なんだ』

「……」

 

 謂れのない批判に一度深呼吸をしながらも、ひとまずは状況を飲み込む。こう言った環境は、同じく小隊長として行動を共にするサオリの方が慣れている故、幾分か彼女の復帰が早かった。

 

「つまり、もう対策はできているのか?だが、一体どうやって状況を」

『愛の力よ!』

『盗聴器だよ』

 

 盗聴器と書いて愛の力と読むらしい。この海で何事もなかったなら容易く気付かれていただろうが、少なくとも現状ではまだ露見していなかった。

 もはやいちいち指摘していてはキリがないと無視して、それならば、と確認をしようとして。先に口を開けたのは、シオの方だった。

 

『とっくにお姉ちゃん大好き電波、通称O・D・D(オッド)を発信済みよ……!試作品だけど、うまくいったわ……!!』

『……重い毒電波のまちが、いやなんでもない。すまない。許してくれ。……とにかく、その影響でスマートフォンは使えない状況になっているはずだ。電話やSNSなんかの通信を要する機能は、ね』

「え……?」

 

 そんな発言にアシリが急いでスマホの電源を点け、検索サイトを開いてみようとしてみたものの、画面の端で青い丸がぐるぐると回るばかり。ちょうど、人混みでスマホがうまく動かないかのように。そう思わせる配分が、O・D・Dの最大の特徴だ。

 

「つ、つまり、スオウちゃんのことは……」

「まだ世間には公になっていないはずだ。時間の問題ではあるが……」

 

 ここはアウトロービーチ。世間には後ろ暗いものを持つものばかり。何より、『アリウスの白い悪魔』を見たものは、ほんの一握りだ。その者たちさえ抑えてしまえば。

 

「少なくとも、数時間の間であれば問題ない」

「……よ……よかったぁ……!」

 

 泣き崩れるアシリを他所に、サオリは苛立ちを感じていた。この電波……妨害システムは、柏有マユミの助力を得て阪抱シオが開発中のものだ。

 発案者はシオではなくマユミ。彼女からこの話を、アリウス分校側に持ちかけたのだ。理由は単純。万が一をやらかしかねない桐花スオウのため。そんな邪推がまさかこんな形で現実になるとは、どこまであの姉は予想外なのか。

 

「と、とりあえずこれで一安心ってこと……?」

「まあ、そうなる」

「スオウに連絡入れてあげないと」

 

 危機は脱した。スオウへの説教は後でこれでもかとかましてやるとして、恐ろしいのはこの場を離れたスオウの状況。

 相変わらず下手な演技でアケミを誘き寄せていたが、あれはあのまま負けるつもりだろう。十年の付き合い、何よりエデン条約での出来事を通して知った彼女の本音。その程度の思考、さほど頭を回さずとも読むことができた。

 

「……まあ、これで一件落着!小隊長も、ほとぼりが冷めたら戻ってくるよ!花火には間に合うといいけど……」

「それで私たちのほとぼりが冷めると思ってンなら、お笑いだけどな」

 

 だが、そこはあの狂った強さを誇る、姉を名乗る異常者のことだ。たとえ深手を負ったとしても、アケミ達からまんまと逃げおおせてくるはず。

 否、そもそもアケミが途中でその事実に気づけば、彼女はスオウのことを見逃すだろう。短い手合わせの中でも、義理堅い性格は伝わってきた。

 

「はぁ……」

 

 自分たちの対策が功を奏した。きっとこのまま、時間が経てばスオウは戻ってくる。そうしたら幾らかの文句を言って、花火を一緒に見て。念の為、ホテルに残るのは危険だから、今日中にはここを離れることになるだろう。説教は、その後で。

 きっとこれからの流れは、だいたいそんな感じ。

 

「……」

 

 本当に、そうだろうか。サオリの思考を貫いたのは、わずかばかりの嫌な予感だった。

 

「うん……大丈夫、だよね……?」

 

 サオリだけではない。一瞬緩んだ場の雰囲気。和やかになった会話。全てが、そんな予感から目を背けていたようで。

 

「シオちゃん。スオウちゃんって、今どこにいる?」

 

 それを最初に打ち破ったのは、ミカだった。シオは幾らかの困惑の後、スオウの位置情報に目をつける。そこに映るのは。

 

『……さっきまで、離れの海岸にいて。今は市街地の方向に走ってるわ。決着が着いたみたい』

「……」

 

 市街地。つまり、これは。

 

「自分に注意を向けさせるつもり。……だね」

 

 そんな結論に至ったミカが出すのは心底悔しそうな、悲しそうな声で。ここに逃げ去った彼女を連れてきて、これがお前のやったことだぞ、と。そう見せつけてやりたい気分に陥った。

 

「どっ……どういうこと!?スオウちゃん、戻ってこれるんだよね!?」

「はい。ですが、桐花さん……スオウさんは、その事実をまだ知りません」

「で、知る前に突っ走りやがったってワケだ。あのアホは」

 

 もう自分の情報は、とっくに広がっている。そんな勘違い。試作品であるソレを当てにしないようにと、存在を伝えていなかったO・D・D。この場でだけは、その判断は失敗だったと言わざるを得ない。

 桐花スオウは、そんなものがあってもなくてもやる時はやる。それを認識しきれていなかったのだ。

 

「ちょ、まずっ……!ね、ねぇ!!通信は!?」

「少し前に一瞬、繋がったきりです……恐らく、破壊して手元にはないかと……」

「そ、その状況で一人逃げてるの!?馬鹿なの!?」

 

 ほんの一瞬。スオウからの一方的な通信で、「ごめんなさい、残りの祭りを楽しんで」と。ほんのそれだけ。ヤコの怒鳴り声を聞いて、スオウは一方的に通信を切った。それも、随分と前の話だ。

 

「……どうする?」

 

 スオウがこれからどうするのか。頑丈な彼女のことだ、今更公安維持局に捕まりはしない。というより、そういった方面での心配は最初からしていない。自称姉兼アリウス分校の小隊長、その強さは一級品。キヴォトスでもトップクラスの戦闘力、そんな彼女を捕まえることができる人間など数が知れている。

 心配なのは、この後。祭りに果たして彼女が戻って来れるのか、ということだ。

 

「……」

 

 祭りのフィナーレ。アリウス分校生の誰もが見たことのない。今日この瞬間、初めて見る花火。それを大切な、文字通り苦楽を共にした仲間と、ただ分かち合う。それを待ち望んでいた者は、この場には少なくない。

 スオウもまた、その一人だった。

 

「これじゃあ……花火は……」

 

 そのスオウは花火を、見ることができない。

 が、だからと言って、スオウのために今、全員が花火を見るチャンスを逃すのか。そんなことをすれば、一番傷つくのは、気に負うのは誰か、彼女たちはよく知っている。

 

「“……もうあまり、時間はないかもしれない”」

 

 考えても、考えても、時間は過ぎ去っていくばかり。B.o.Bのステージも終わりを迎え、花火の準備が始まっている。あと十数分。それが、花火が打ち上がるまでの猶予といったところ。

 決めなければならない。スオウの望み通り、彼女抜きで花火を見るか。彼女を傷つけてでも、みんなでの花火を優先するか。

 

「……みんな」

 

 口を開いたのは、先生でも、ヒフミでも、サオリでも、ミカでもなく。

 

「少しだけ……私のわがままを、聞いて欲しい」

 

 アズサだった。

 

 

 

 

 ちょっと待ってほしい。状況が飲み込めない、というか泣いてるところ見られた……!?

 

「ちょ、みんな!?どこに連れて行くんですか!?私まだちょっと、状況がっ……!」

「さっきも言った通り!花火を見に行く!」

「いや、だったら山の頂上はおかし、ああっ!?」

 

 さ、流石にスクワッド五人分プラス一人分の力は結構厳しい……先生は正直ほとんど力感じないけど!

 

「というかみんな、花火は!?そ、そもそもなんでこの場所が!?」

「シオの発信機!」

『それと私にピーちゃんっ!!』

『ピーっ!!』

 

 し、シオぉおおお……!人に発信機をつけてはいけませんってお姉ちゃん何度も……!あれか、アシリと位置情報共有して、俺の先回りを……!

 

「ほら、そんなこと言ってるうちに頂上だよ」

「え、あ……は、はい……?こ、これなんの音ですか!?」

 

 なんかすごい、地割れみたいな……ものが引き抜かれるみたいな音が、頂上から───

 

「あ、やっほースオウちゃん☆遅かったね!」

「み、ミカっ!?何やってんですかミカ!?」

 

 何やってるのあの子、あの子何やってるの?なんで地面に植えられた木を引っこ抜いてるの?

 

「か、環境破壊!!こういう山も人様の土地だからちゃんと犯罪に……!」

「根っこから引き抜いてるからちゃんと元に戻るよ!」

「そういう問題じゃない!!」

 

 何その高台みたいなやつ、なんで引っこ抜いた木を植え込んで……!?

 

「ほら、スオウさん。どうぞこちらへ」

「あんた、なんでその傷で立ってられるのよ……」

「は、ハナコさん、コハルさん……」

 

 なんでこの二人はなんの気なしに構えてられるんだろう。よく寛げるな、その高台の上で。

 

「いいから行け。皆、お前を待ってたんだ」

「み、みんな……?」

 

 言われるがまま、高台の上に乗ってみる。山の木々を越えて、閑静な住宅街。それに、綺羅星が輝いて。空がよく見えた。

 少しだけ心の平静を取り戻していると、横からゼェゼェと荒い呼吸が聞こえた。

 

「れ、レイ?」

「……あ、しょーたいちょー……わたし……すっごく……がんばったぁ……」

「れ、レーイッ!?」

「気にすンな。重すぎるモン運んで疲れてるだけだ、そいつは」

 

 あ、サウまで……みんな、いつのまにこの山まで。

 

「ああ、もちろん私たちの足では追いつけなかったよ」

「トウ」

「だがね。小隊長如き脳内単細胞を操ること、さして難しいことでもないんだ」

「と、トウ?」

 

 えっと、ちょっといつもよりやや辛辣だけど……要するに、この山に来るように誘導されてた、ってこと?

 

「小隊長……私の、変装……今度は、気づかなかった……」

「途中、やけに人が多い場所があっただろう?あれはその鳥の投影で映した私達の変装さ。小隊長が敢えて通るだろうとね。この山へ連れて来るのは容易かったよ」

「自分だけの手柄じゃないでしょ、偉そうに……」

 

 ヨセが少し白い目でトウに指摘する。誘導されてただなんて、気づかなかった。妹たちのことなら、なんでも気づけるはずだったのに……少し、悔しいな。

 

「ヨセも変装してたんですか?」

「うん。作戦はトウちゃんとハナコちゃん、シオちゃんと、それとそこで踏ん張ってる先生が協力してたよ!」

「そ、そこで踏ん張ってる先生?」

 

 ヨセが指差す方に目を向けて見れば、そこには高台が途中で崩れてしまって宙吊りの先生が……宙吊りの先生が!?

 

「ちょっ!?」

「あ、ストップ小隊長」

「へ……!?」

 

 ヨセとのお話もお姉ちゃん的には大事にしてあげたいけど、先生がもっと大変そうな状況なんだけど。

 

「……ヤコちゃん、めっちゃめちゃ機嫌悪いから……覚悟しといてね……」

「……は、はい……心に刻んでおきます……」

 

 ヨセは耳元まで顔を近づけて、そんな恐ろしい宣言をしてみせた。姿を見せないと思ったら、やっぱり怒ってるよな……怒りは、甘んじて受け入れるつもりでいるけど。許してもらえるかな。

 

「……もう。何やってるんですか、先生」

「“あ、足場が……急に、なくなっちゃって……”」

「はぁ……掴まってください」

 

 手を差しのべると、俺よりも一回り大きなその手で、しっかりと掴まれた。いつだったか、こんなふうに手を握ってもらったっけ。思えば、あの時からずっと。

 

「小隊長」

「うわっはぁひぃ!?」

「“お、落ちるっ!?”」

「あ、先生ーっ!?」

 

 落下しそうになる先生を追って高台から飛び降りると、足のあたりに掴まれる感触。怒りを表すように、脈打っている。

 

「……何をされているんですか」

「は、はははっ……ヤコ、お姉ちゃんできればそのまま引き上げてもらえると嬉しいなー、って……」

「……?はい、今引き上げますね」

「あ、あれ?」

 

 思ったより怒ってない……正直、このまま地面に叩きつけられる覚悟はしてたんだけど。先生は可哀想だけどさ。

 

「そ、その……ヤコ……?」

「……また、ズタボロですね」

 

 先生も引っ張り上げてヤコと向かい合うと、その目に浮かんでいるのは怒り……では、なくって。

 

「前にも言ったはずです……あなたのことが、大切だと……私以上に、そうだって……」

「……」

「……だというのに、また自分を蔑ろにして……」

「や、ヤコ……?」

 

 ああ……これは、覚えがある。

 

「もう、こんな無茶しないって……!約束、したじゃないですかぁっ……!」

「……ごめんね」

 

 怒らせる以上に……悲しませた。

 

「テメー少しは自分のしたことがわかってきたか、間抜けヅラ」

「あー!ヤコちゃん小隊長に甘えてる!!」

「あァ!?上等だよヨセテメェ下降りろ!!全身の骨ぬいて一本一本逆向きに刺し直してやらァ!!」

「……」

 

 ……ヨセに対する反応がいつも通りすぎて、わかりにくいけど。あんな顔、久しぶりに見た。

 

「お、お姉ちゃんっ……!おねぇちゃぁん……!」

「し、シオ?」

「ここは知らない人がいっぱい……お姉ちゃんを……アネノニウムを……」

「……」

 

 逆にシオは、びっくりするくらいにいつも通りだな……いや、姉吸いの吸引力がいつもよりわずかに強いくらいか。

 

「“スオウ、それは……一体、何を……?”」

「いつものことなので、気にしないでください……それより、結局これは一体……?」

 

 なんでこんなところに高台を作ったのか。なんでレイが死にかけるほど疲れ切ってるのか。なんのために俺をここまで誘導したのか。結局のところ、わからないことだらけだ。

 

「“言った通りだよ。これからみんなで、花火を見る”」

「これから、って……花火はついさっき、終わったばっかりで……」

 

 ……待て。花火はさっき終わった。それなのに、みんながここにいる。ってことは、まさか。

 

「……みんな、花火……見てないんですか……?」

「“……”」

 

 先生が、静かになって。胸が締め付けられて、破裂しそうになった。その沈黙が、肯定を表していたから。

 

「そんな、だって……だって、それじゃあ……」

 

 結局また、独りよがりな行動でみんなを巻き込んで。俺のわがままで、みんなに花火を見せれなくって、それで。

 

「“大丈夫”」

「……え?」

 

 そんな不安が、恐怖が、トラウマが。顔に出ていたのか、理屈もなく、理由もなく。ただ一言で「大丈夫だ」と、先生は確かにそう言った。

 

「“大丈夫だから。今は、みんなのところに行こう”」

「……わかり、ました」

 

 未だに抱きついて顔を埋めたままのシオを抱えて、みんなの元へ。ヨセが大きなたんこぶを作っている以外は、さっきまでとそんなに変わりなかった。

 

「その、みんな……」

「来たか、スオウ」

「……」

 

 顔が見れない。前を向けない。声がいくつも重なって、聞こえているのに。聞きとれない。

 

「……その、今回も……私は、自分勝手に行動して……で、でもそれは、決してみんなを信じてないとか、そういうんじゃなくて……」

 

 何を語るにしても、口から出てくるのは言い訳じみた言葉ばかり。もういっそ、黙ってしまえばいいだろうか。でも、それも不誠実な気がして。

 

「……きっと、私の心の弱さとか……そういうのが原因で、それで」

「スオウ」

 

 いきなりアズサが、俺の両頬を潰した。この海に誘ってくれた時みたいに、真正面から目を向けてくれた。

 

「そんなのは後でいい」

「……?」

「今はそれよりもっと、大事なことがある」

 

 そのまま顔を引っ張られて、シオを手に抱えたまま座らされた。横にはミカと、それからサオリがいて。それが少し気まずくて、正面に。空も見れなくて、山の木々を眺めていた。

 

「アズサちゃんっ!!」

 

 突然、木の間から声が聞こえる。前世から、聞き覚えのある声。この夏、共にサオリとミカのコンビに立ち向かった戦友の声。妹の友達の声。

 

「セッティング、完了しましたよ!!」

「流石だ、ヒフミ!早く登ってきて!」

「セッティング?」

「じきにわかる」

 

 サオリがまだ気にしなくていいと、そう言ったので。ひとまずは妹の言葉に従って、再び木々を見つめる。星空に照らされて、さっきよりも少しだけ明るかった。

 少し待っていると、ドタバタと音を立てながらヒフミが登ってくる。場所的には、アズサの隣に座ったのかな。そんなことを考えていると、横から手が出て、顎をクイ、と上に引いた。

 

「……なにすんですか、ミカ」

「……こっちじゃなくて、今は空を見て」

「空……って……」

 

 もう、何もないじゃないか。花火は終わった。ただ、いつもよりかは幾ばくかは綺麗な星が見えるだけ。それもこの気分じゃ、濁って見える。

 でも、確かにこうして見つめていると……少しは、気分も晴れてくるかもしれない。

 

「みんな、もう乗ったよね?」

「……」

 

 ミカの言葉に後ろを振り向いてみると、いつのまにやら妹は皆高台に登っていた。一体ミカは、何本の木々を引き抜いたのか。思わなくもなかったけど、口に出すつもりにもならなかった。

 夏の終わり。これから秋になって、紅葉の季節。最後まで悔いを残さないようにと、虫たちが一生懸命鳴いている。

 

「……立派……だな」

 

 俺は……悔いだらけだ。

 

「それじゃあシオちゃん、お願いね」

「わかったわ……うぷっ……」

「へ?」

 

 膝の中にいたシオが、何かのボタンを押した。見覚えのないボタンだった。

 

「……え?」

 

 細く、糸を引くような。何かが落ちてくるような、甲高い音が伸びた。全くと言っていいほど動かない星たちとは対照的に、尾を伸ばして空へと向かう流れ星が、一つだけあった。

 

「あれ、って……」

 

 どこまでも、どこまでも高く。どこまでも長く。きっと天国にいるあの子たちにも届くんじゃないか、って、思えるくらいに。ずっとずっと、飛び続けて。

 

「……スオウ。約束しただろう」

 

 この終わりが、永遠となってしまわないように。この思い出が、悲しみに変わってしまわないように。

 

「その時には殴ってでも、お前を止める」

 

 壊れてしまいそうなほどの爆発音が、空を裂いて。

 

「何を敵に回しても……お前を守る、と」

 

 包んでしまうほどの大きな火花が、空に咲いた。

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