「……は、花火を奪う?」
「そうだ。それも特大の、一番大きいやつを……一発だけ、拝借する」
スオウと山で合流するより、少し前。沈黙を裂いたアズサの言葉は、これでもかというほどに物騒なものだった。
花火を奪う。字面だけで言えばヒフミが経験した銀行強盗よりも幾分かはマシだが、強盗は強盗。れっきとした犯罪である。
「……このままだと、スオウだけが花火を見れない。そんなのは、私は嫌だ」
それでも、アズサの願い。いつか、みんなで一緒に……アリウスも、トリニティも関係なく。ただ、仲のいい友達同士で海に来る。同じ時間を共有する。
アズサにとって花火は、その締めくくり。そこに掛ける想いは、人一倍以上にあった。
「だから……だからこれは、私のわがままなの」
このまま、スオウもどこかで花火を見ていることを願って。そうすれば、スオウを除いた全員で、たくさんの花火を安全に楽しむことができる。リスクを負わずにいることができる。
それでも。
「……みんなも、危険な目に遭う……それでも、お願い」
あの時、本音で向き合ってくれと。私たちのことも巻き込んでくれと、そう願われたから。
「あの馬鹿な姉のために……みんなの力を、借して欲しい」
頭を下げたアズサ。最初に口を開いたのは、サウだった。
「……ま、私たちアリウスの人間は問題ねェだろうよ。この場に、小隊長抜きで花火を見たがる奴なんざいねェよ……リスクがあっても全員で見るのがベストだ。それをできるだけの力もある。だが……」
いつも通りの粗雑な口調で話しながら、その三白眼で目線を向けるのは……ヒフミたちの方。
「邪魔はいらねェぞ」
「な……!」
意図的に引き離すような、反感を買うような言葉で拒絶するサウ。この状況で協力を断ることができる人間など、そういない。友が頭を下げているのに自分たちのためと、そう言って協力しないなんてことがあれば、後ろ指を指される。
だからこれは、自分以外の何かのためにと。そう動ける人間は、滅多にいないと。そう思っているサウならではの、優しさだった。
「じゃ、邪魔になんてなりません!!」
しかし、サウにとって予想外だったことがあるとすれば。
「そ、そうよ!というかなにその言い方!すっごくムカつく!!」
「わ、私だってできないなりに鍛えてるもんっ!!サユリちゃんとかにボコられて……!!」
サウにとって、未だ理解できていないことがあったとするならば。
「……絶対、足は引っ張りません……だ、だから!わ、私たちも……!」
この場にそんな考えを持つ者はいない。
「……私たちのため、ですか?」
「っ……!」
「安心してください。アズサちゃんは私たちのお友達。それに、私たちも……この海でスオウさんと、それなりに仲良くなったつもりですから。動機も十分です」
ただ友のために、と。この場には、自分の信じるもののために戦えるお人好しばかりが集まっていた。白洲アズサの友人は、サウが言うところの珍しい人間……そして彼女たち自身にとっては、普通の人間だったのだから。
「……悪かった。私からも頼む」
「ええ。また、よろしくお願いしますね?」
ひとまずは、団結。スオウと共に花火を見るべく、犯罪行為に手を染める方針で決まった。
「“……関係者の人には、後で一緒に謝りに行こうね”」
「うん……ありがとう、みんな」
恐らくは花火の弁償などで先生のポケットマネーは幾らか吹き飛ぶことになるだろうが、そんなことはさしたる問題ではない。
方針が決まったのならば、次は作戦だ。今回の場合、戦いに発展するのは望ましくない。こんな状況で再び混乱を起こせば、確実に警戒体制が取られる。しかしながら、一連の会話のうちに花火大会が始まってしまっているのも事実。
『私たちが花火を奪う以上、一時的に打ち上げはストップするだろう。長時間続けば混乱は避けられないよ』
「それに……盗むべき、玉だけじゃない……煙火筒、必要……」
「……それは……どのくらいの重さなんですか?」
ヤコの質問に、手持ちのスマホを開くアシリ。慣れた手つきで検索画面を開いてみたものの、自分たちが発した妨害電波に首を絞められていた。
「どの玉を盗むのかにもよりますが……一番大きな物なら、四百キロは超えたと記憶しています。いえ、それどころか玉だけでも三百キロ近く……」
無論そこまで大きな球を盗むつもりはないし、そもそもそこまで大きな玉がここにあるのかは定かではない。
しかし最悪の事態は想定しておくべきだと、ハナコは少し悲観的な見積もりを出した。合わせて0.7トン、アケミが持ち上げた戦車に比べれば遥かに軽いが、それを持ち上げて走り回るとなると話は別だ。
「な、七百キロ……そんなの持ち上げれるの……?」
「持ち上げるだけなら、私がいればできるけど……でも、それを持って逃げ回るのは難しそうかなー」
そもそも人間が持つ想定をされていない設計、大きさ。親切に取手などついているはずもないし、人間の体格で持ち上げることのできる体積をゆうに超えている。
手に滑り止めをつけて、充分に体勢を整えて。それからやっと、と言ったところである。
「私なら簡単に持てるよ?」
「……そうだったな。ここにはミカがいた」
そんな宣言に、なんだ難しく考える必要はなかったじゃないかと一安心するサオリ。一度拳を交えた上、数年の長い付き合い。彼女の力に対する信頼の表れともいえよう。
「でも、ミカがそれやったとしてさ……万が一正体バレたら、大変なことにならない?」
「……そのくらい、覚悟の上だよ。スオウちゃんだって、それは同じだったはず」
ミサキの指摘にも、ミカは特に気にする様子を見せなかった。少なくともミカ本人にとって、自らの正体がバレることはさしたる問題ではなかったから。
それよりもあそこまで言い聞かせたというのにまた一人で抱え込んだ、彼女の愚かな親友にただ花火を見せるだけのことが重要だったから。
「……いえ、しかし……そうですね。安照さん、でしたよね?」
「え、うん!レイだよー!」
「安照さんは、煙火筒だけなら持って逃げれますか?」
「んー……」
幾らかの思考。筒だけならば約半分、四百キロの重さ。彼女が幼い頃桐花スオウにせがんだ訓練では、百キロの重りを全身につけた上で強化養成ギプスを全身に纏っていた。
多少の持ち上げにくさを考慮しても、幼少の頃にその四分の一程度であれば自由に動き回るに能ったのだから、なんとかならないこともないだろう。最悪、ロープで体に括り付ければいい。
「うん、そのくらいならいけるよー!」
「では、他に同じことをできる方はいますか?」
「え?……うーん……」
自分と同じことをできる人間。思い浮かぶのは、二人。
「ヨセちゃんとサオリちゃんなら、まあできるんじゃないかなー」
「わ、私か?」
「うん、サッちゃんならできるよ」
手放しのアツコの信頼に少し困ってこそはいるが、サオリがそれをできることもまた事実。独断先行、自分勝手な行動が目立つヨセよりも運搬を任せることには向いている。
「ヨセ、あなたそんなに脳髄の先から先まで」
「脳筋だっていいたいのかな?キレるよ?私怒るよヤコちゃん?」
そんな雰囲気を察してか、名前を呼ばれたヨセもどこか他人事。作戦は任されないかと思われた……が、しかし。
「いえ。錠前さん……サオリさんには、やってもらわなければならないことがあります」
「……やってもらわなければ、ならないこと?」
ハナコに言われた言葉を復唱しながら、サオリは不思議そうにハナコの顔を見つめ。
「……ミカさんにお任せするのは、少々危険ですし……そうなるときっと、保険も必要ですから」
続く言葉に、余計に困惑を深めていった。
◇
それから、しばらく。ハナコの提案を軸に、先生やサオリ、ヤコによって幾分かの修正を加えた作戦が開始する。
その概要の一部は、スオウの誘導に関する部分。奪った花火をスオウに見えるように打ち上げるのならば、市街地の外へ連れ出すことは必須。アシリが所有する鳥型の機械を利用し、投影によってスオウを山へと誘導する方針で固まった。
また、その際山の中からでは花火が見えにくいため、ミカが会場の設営を務める。主な理由として、木を根本から引き抜いた上丸太のまま組み上げることのできる脳筋が彼女くらいしかいない、と言うものが挙げられた。
「じゃあ……私たち……誘導班、ね……」
「お姉ちゃん……!待ってて……今、あなたのシオが行くからねっ……!」
「……よ、よろしくねぇ?」
「あ、あはは……」
即してアシリとミカ、ヒフミたちがかなり可哀想なことにはなっていたものの、分隊長の中でも圧倒的な戦闘力を誇るトウ、ヨセ、そして相応以上の強さを持つヤコとサウは強奪に必要不可欠。そのため、情報戦に向くシオとフィリ、アリウス分隊長が誇る問題児二人は誘導班が抱えざるを得なかった。
「コハルちゃん、大丈夫でしょうか……」
「あ、アズサちゃんもいますから、きっと大丈夫ですよ!」
若干のトラウマと過剰な自信につき、コハルは強奪班。強奪犯でもある。無垢な正義実現委員会の生徒が堕ちた瞬間である。
「……それにしても、ハナコちゃん……結構無茶苦茶なこと考えるね」
「そうですか?ですが、サオリさんの熱意は本物でしたし……」
強奪班。観客達の混乱を抑える、作戦の要。
「それに、B.o.Bさんには貸しがありますから。きっと断られませんよ?」
「……わーお」
それは、サオリにとってもよく知る人物で。
「……どういうことだ?」
「もう一度、説明させてもらう」
狭い一室。警備の目を掻い潜ってサオリがたどり着いたそこは、B.o.Bの楽屋だ。
「……深い事情は、話せないが……とにかく、花火が一度止まる。その時に、ほんの少しの時間だけで構わない。観客達の意識を、花火から逸らさせて欲しいんだ」
「……いや、聞いた上でわからないな。なんのためにそんなことをする?いくらファンとは言っても、そう簡単に聞けない願いだぞ」
身長差につきサオリは座りながら、B.o.Bは椅子の上に立ちながら、両者視線を水平に交わす。サオリがB.o.Bに頼むことは、いたってシンプル。花火が打ち上がらなくなったその時間だけ、ステージを再開すること。
緊急避難的な行為として、ヘルメット団からも目を零してもらえる可能性は高い。むしろ、向こうから歓迎してくれるだろう。そんな可能性を考慮しての作戦だった。
「……なんのため……か」
何のために。サオリは、改めて自分に問いただしてみる。
何のため?スオウのため。アズサの願いのため。自分のため。そんなことはわかりきっている。なら、自分はなぜスオウと、みんなと花火を見ることを求めるのか。
少しの間だけ悩んで、ふと思い出したように。
「昔……」
「ああ?」
「……これは、昔の話なんだが」
若干の苛つきを見せるB.o.Bに、サオリは一言、一言。歩んできた軌跡を、振り返って見返すように語り始める。
「私の……私の……なんだろうな。友人というか、仲間というか、相棒というか……」
───妹みたいな、というか。
そんなことを言おうとして、スオウに毒されているなと苦笑い。噛み締めて、飲み込んだ。
「とにかく、そんな奴がいて。そいつは、ロケットランチャーを武器に使う」
戒野ミサキ。スオウと出会うまでは、唯一の同年代。それでも、頼ることは難しくて。サオリはまるで、妹のように扱っていた。実際ミサキも、サオリのことを「姉さん」と、そう呼んでいた。
そんなミサキは、ヒヨリに対しては保護者のような態度を見せる。きっと自分に妹か、副リーダーとか、相棒とでも呼ぶべき存在がいるのなら、きっとミサキなのだろうと。サオリは、そう分析した。
「昔から、あいつの目には光というものが見当たらなかった」
卑屈で後ろ向きな、楽観的より悲観的な。自分よりもヒヨリに似ているというべきか。出力のされ方が違うだけで、根っこの部分は意外と似通っている。
「……少し特殊な事情があって。私たちは、花火というものを見たことがない」
花火だけではない。鈍色の空と、焼け尽きたような灰色。アリウス分校を彩るのは、たったそれだけ。
生まれてからアリウスの外に出るまで、「きれいだ」と思えるものがどれだけあっただろうか。サオリは心の中で、指折り指折り数えてみる。
スクワッドのメンバー。初めて遠目から見たアツコ。どこかにあったカメラ。狂人に壊された扉、そこから漏れる光。ゲームに漫画。異常者が持ってきた、名も知れない花達。自分とは違うアズサ。それから。
「でも、あいつの作る爆発は……花みたいに、きれいなんだ」
残酷なことだが、事実だった。硬い銃の光沢、瞳を写す弾薬。ミサキが撃ち放ったロケットランチャーの爆発は、サオリの目には確かに。アリウス分校で決して得難い、美しいものに見えた。
「それを言ったら……そんなわけない、目がおかしいと言われてしまったが……」
それでも、サオリが「きれいだ」と思ったものを見た時。ふと、ミサキや……アツコやヒヨリ。スオウに、アズサに目を向けてみた時。
「……あいつらの目にも、キラキラしたものが映って……それはもっと、きれいに見える」
瞳に光が反射して。アツコはそれに見惚れ。ヒヨリはなんどか、「こんなもの見て、目が焼けてしまわないでしょうか」などと確認を取ったり。ミサキは、ただ見つめるだけ。スオウは素直に、少しオーバーなくらいに喜びを分かち合って。アズサは、静かに喜んで。
「それが、また見たい」
今日の花火で、見れると思っていた。
「このままでは……B.o.Bの協力がなければ、見れない」
でも、やはり馬鹿はどこまでも大馬鹿らしくて。
「それだけ、なんだ……」
長い語りになってしまった。作戦の早急な遂行が求められているというのに。少し自省しながらも、改めてB.o.Bを見つめる。少しの間、二人は黙って見つめ合い。
「……青臭ぇ理由だ」
水に濡れたような黒い鼻をフン、と鳴らしながら、サングラスを取った。
「事情はわかった。だが、こっちも感情でメシ食ってるわけじゃないんでな。わかってるか?」
「っ……それは……それは、わかっている」
「わかってねぇよ」
ピシャリと。低い声色で、それは明確に拒絶だった。
「世間知らずのガキが」
つぶらな瞳で睨みつけて、B.o.Bはさらに言葉を続ける。
「裏社会はな……舐められたら終わりなんだ。私がお前のためにステージをやるのは簡単だ。恩もあるしな。だが、そうなればどうなると思う?」
確認するように、歯を食いしばりながら矢継ぎ早に紡いでいく。
「あいつは情に流される。同情を誘えば金がなくても動かせる。簡単に騙すことができる。そんな噂が、私にはついて回る」
懐から、一本太めの煙草を取り出して。銀色のジッポで火をつけて、フー、と煙を吐いた。
「私は金でしか依頼を受けない。金は信頼だ。金を払ったのだから、相応の仕事が返ってくるんだと。それを一時の感情で捻じ曲げるわけにはいかないんだ……それはな。今まで金を払ってきた依頼人も蔑ろにすることだから」
窓を開けて、夜景を見て。煙を吐いて、再びサオリに目を合わせて。
「もう一度、聞くぞ。わかってるか?」
「……すまない」
確かに、理解できていなかった。知らなかった。裏社会で生きるということを。
「……だったら、話は終わりだな」
B.o.Bはタバコの灰皿で潰して、サングラスをかけ直す。そのまま、扉の外へと歩き始めて。
「待っ……!」
「ひ、ひぃいいいいっ!?な、何しやがる!?」
「……は?」
「な、なんだ!?なんでいきなり肩を、っ……!わ、わかったよ……!わかったからその銃をしまってくださいよ……!」
突如としてそんな情けないことを言い始めるのだから、困惑するなというのが無理な話だ。サオリは大いに動揺した。そして、少し間を置いて。
「……まあ、明らかに異質な実力者に銃で脅されたってんなら……どうにも、断れないなぁ?身の安全には代え難い……そうだろ?」
「……つまり」
そこで、ようやく理解する。B.o.Bの真意を。
「だが、ステージに誰もいないってんじゃ逃げれちまうな……ああ、それは犯人は困るだろうな……独り言だけどよ……例えば、共同出演者や弟子になりすまして、同じステージにとどまるくらいのことはするんじゃないかと思うんだ」
「まさか……!」
「……白い嬢ちゃんにも、恩はあるしな」
サオリの言葉に、B.o.Bは小さく口の端を緩めて。
「裏社会で生きるってのがどういうことか……私がお前に見せてやろう」
サオリのキャップを取り上げて、一筆。自分のサングラスをツバの上にかけて、サオリの頭に被せた。
◇
「お……さ、サオリちゃん、作戦準備完了だって!」
「マジか……よく丸めこめたな、あの偏屈ジジイを」
「ヤコちゃん、口調。出てるよ、元ヤン」
ヨセに少々煽られながらも、ひとまずは安堵。作戦の第一段階は完了だ。この作戦において、一番の不安要素。観客達の目線は、これで無視することができる。
『こちらお姉ちゃんの妹……お姉ちゃんは順調に山へ誘導中よ。騙されやすいお姉ちゃんもかわいいと思うの。一生私が部屋で匿ってあげなきゃ……悪い大人に騙されてズタボロになったところを、癒すみたいに優しく……い、嫌っ……!お姉ちゃん、傷つかないで……!ダメ、こんなのっ……こんな気持ち、妹失格よ……!』
「シオはダメだ」
シオはダメだった。
「いや、作戦の方は!?」
「あァ、それなら問題ねェらしい。山へ誘導中だとさ、馬鹿小隊長は」
スオウを失いかけたあの瞬間。そのトラウマが再起し、少々シオが不安定になってこそいるものの、作戦自体は順調も順調。スオウはなんとか騙し仰せているようだった。
「あ、そう……じゃ、こっちもさっさとやりますかー」
手首をぷらぷらと伸ばして、軽い準備運動。構えるはショットガン。太ももに備えるはハンドキャノン。体に巻きつけた鎖。スオウに訓練をつけられたレイならではの、スオウに似通った戦闘スタイルだ。
「“いや、レイは戦わないよ……?”」
「え……あ、そうだった……」
が、今回の作戦ではレイ、ヨセはそれぞれ煙火筒、花火玉の回収役。久しぶりの戦闘にはしゃいだはいいものの、あまり格好はついていなかったらしい。
そんなレイを少し呆れた目で見るヨセ。その小さな体躯に似合わない機関銃を取り出して。
「別に私は戦ってもいいよ?」
「ヨセ、やめて。スオウに花火を見せれなくなってしまう」
アズサの指摘に、仕方なく背中へと背負い直した。彼女達が身に纏うのは、アリウスの制服。この暗闇、もはや変装も水着でいる必要もないだろうという判断だ。
「ヨセ……ケツに爆弾ぶち込むぞ……」
「ひっ!?やめてよヤコちゃん、怖いこと言うの……!」
「“……と、とにかく!私たちがやることは単純だよ!”」
スオウから聞いていた通り、少しクセのある子達だ。苦笑いしながらも、作戦の遂行に向けて行動を開始。
「ヤコとサウが暴れてる隙に、レイとヨセがそれぞれ花火道具を回収……そして私たちと先生はその護衛、だったよね」
「はっきり言って、過剰戦力だし……まあ、心配は要らなそうだけど」
サウとヤコがそれぞれアサルトライフルを構え、口元にガスマスク。割れたようなデザインのそれは、どこか対照的にも見えた。
「それでは、私たちはここで……皆様、必ずご無事でお戻りください。どうか、ご武運を」
「“うん、ありがとう。ヤコ達も気をつけて。危なくなったら”」
「ヒャッハァアアアアアアッ!!!人のシマでなに生意気なことしてやがるんだこの間抜けどもがァ!!」
「すご、一瞬でスイッチ入ったよ」
「“……”」
明らかに慣れた恫喝。少し冷や汗をかきつつも、とにかくこれが作戦開始の合図。ヤコ達が暴れ尽くしているうちに、自分たちは安全に花火を奪う。
「う、うわっ!?なんだお前、らぁっ!?」
「一人処理。後方を警戒して」
「了解」
立ち塞がる者たちは武力を持って排除。戦闘のプロであるミサキ達にとっては容易いことだった。
「こ、このあたりは地面が緩いですね……みなさん、足元には気をつけてください……!」
「スオウなら、この辺りに罠仕掛けるよね」
「はは、確かにー……」
とはいえ、ヤコとサウの暴虐により接触する集団も最低限。特に危うげもなく、花火の発射会場に辿り着いた。
「さて……そーしーたーら、これをっ……!お、おぉおおおおおおおっ……!!」
レイが選んだのは、パッと目についた一番大きな煙火筒。理由は単純、大きい方が綺麗だと思ったからだ。あとはその大きさが他にも幾つかあったからという、申し訳程度の良心も持ち合わせてはいる。
「それ、中に玉入ってるんじゃないの?」
「え……あ、確かに」
言われてみればと、手を叩いて納得。レイとヨセがその大きな玉を取り出すべく、うんしょ、うんしょと登っていると。
「……何してるんだ、お前ら」
「っ、な……!」
突然、横から声がした。その驚きで暴れていると、発射台はとうとう倒れ伏してしまった。
「ぐえっ!?」
「げぇー……」
下敷きになって呻き声を上げつつ、声の主を探すべく視線を巡らせて。
「お、お前ら……何やってるんだ……!?」
その居場所に気づいたのは、彼女自身の驚愕の声からだった。筒に半身を埋め、呆れたような目線を向けている。
「そ、そっちこそ何やってんのさ!今不良が暴れてて大変なんだよ!?」
「いや、玉の入れる場所が間違ってたらしくて……というか、私が話しかけてるのはお前達じゃな……あー!!お前も見覚えがあるぞ!!」
「えっ!?」
筒の中にいた彼女はその身を乗り出して、やっぱり、と言わんばかりにヨセに指を指して。
「海の家で突っかかってきたやつ!!」
「え……あ、あー!!詐欺師のお姉さん!!」
「誰が詐欺師だ!!せめてヘルメット団だろ!ぶっ飛ばすぞ!?」
ヘルメット越しでもわかるほどに顔を真っ赤にし、怒りを大声で伝える。いくらアコギな商売をしているとは言っても、詐欺師呼ばわりされるのは来るものがあったらしい。
「それに、シャーレの先生まで……お、お前ら今花火盗もうとしてたよな!?」
「っ、ヒヨリ!!」
「は、はい!!」
通信機器に手をかけるヘルメット団。ミサキの合図で、ヒヨリは躊躇なく引き金を引く。吸い込まれるように、銃弾は通信機器に飛んでいき。
「っ、ぐぅっ……!」
直前、身を捩って肩で弾を捉えることにより、通信機器の破壊は防がれた。
「まずいっ……!アツコ、アズサ!」
「うん」
「わかってる」
ヨセとレイ。分隊長が誇る二大馬鹿は、現在煙火筒に潰されてすぐには動けない状況。それを利用され、その上増援を呼ばれてはたまらない。一刻も早く意識を奪うべく、二人は動き出し。
「うっ、動くなぁっ!!この花火発射するぞ!!」
「っ……!」
しかしそれは、ヘルメット団の行動により遮られた。
「お前ら、この花火が狙いだろ……!お、脅しじゃないからな……!?本当に本当に、打っちゃうんだからな……!?」
「……わかった。わかったから、ボタンから手を離して」
「う、うるさいっ!!ぶちのめすぞっ!?」
結論から言うと、ハッタリである。こんなところに発射ボタンを持ってくる理由はないし、そもそもあったとして彼女に自爆する根性はない。
が、しかし、「どうでもいいボタンだからこそ本当に押すことができる」という気迫が、彼女の言葉の説得力を後押ししていた。
「シャーレの先生……何やってるんだ、こんなところで……!」
「“えっと……”」
「黙れっ!!発言を許可した覚えはないぞっ!!」
「“えぇ……?”」
半ばパニックになりながらも、分析。先程までこの面々は花火を盗もうとしていた。それは間違いない。だが一体、何のために?
「……なあ……なんで花火なんか盗もうとしてたんだ?」
混乱した頭でまともな答えが出るはずもない。なぜか敵対しているはずの彼女達に聞いてしまい。
「それは……その、花火が……花火を、見せたい人がいるから……」
「……」
そして彼女達の立場上、それを拒むことはできない。裏のない言葉、真実。少しの間、わずかな時間考えて。
「あの、白髪の幼女体系か……?」
「え……その、なんというか……」
「あの『アリウスの白い悪魔』かって聞いてるんだ!!」
「っ……!」
ヘルメット団の彼女の言葉に、その場にいる全員が驚愕を返した。無論海でスオウの素顔を知っているのだから、会場に現れたアリウスの白い悪魔と結びつくのはそうおかしな話ではないのだが。
それでも、花火を見せたい人で彼女と結びつくのが、あまりに早かった。
「……うん、そうだ。私は……私たちは、あの人と一緒に……」
「……!」
しばらくの沈黙。唸るような声。それを見たミサキ達は、隙を探る。
「……」
アズサと目で会話をするアツコ。今なら、挟み込めばいける。その意思を互いに確認し合い、そして実行に移そうとして。
「行けっ……!」
「……え?」
ヘルメット団の発言。行け。一体、どこへ?続きを求めて、アズサとアツコの行動は中断される。
「見逃してやるって言ってんだ……!行け!!今すぐに!!花火持ってどっか行っちまえ!!」
「え、いや、その……わ、私たちとしては嬉しいんだけどね?」
「一発だけだぞ!!それ以上持っていったら承知しないんだからな!!」
本当にいいの?本当に?とチラチラ視線を送りながらも、押し黙って動かないので、レイとヨセは花火を回収し始める。それを見て、ふと先生が。
「“どうして……”」
そんな、当然といえば当然の疑問を口にする。
無論、スオウに受けた恩はあるだろう。だがそれでも、ステージに現れたエデン条約崩壊の主犯。何かの裏があると、そう疑ってもおかしくはない。
「知ってた……」
「……?」
「知ってたよ!!気づいてた!!あいつが、『アリウスの白い悪魔』だってことくらい!!」
衝撃の告白。激情を吐き出すように、お構いなしに話し続ける。
「七囚人だぞ!?そこいらの雑魚が束になったって勝てるわけない!!髪白いし!!なんか声も似てるし!!ちょいちょい強そうなところ見せてくるし!!すぐ思いついた!!トリニティに友達がいたから!!」
「……だったら」
だったら、尚更どうして。そんな全員の気持ちを、誰かが呟いて形にした。
「でも……でも、見れば見るほど……聞いてる話と、違うし……私たちのこと、助けてくれたしっ……!おかげで、祭りもうまく行って……!お前達も当たり前みたいに、手伝ってくれて……!」
なぜだか、半泣き。大きな感情を抱えきれなかったのだろう。ほとんど涙を流しながら、なんとか言葉だけは紡ぎ続ける。
「ああもう、わかんないよっ……!私が知るかよぉ!!噂とか、エデン条約とかよく知らないけど……!!」
「それでも」と、小さく漏らし。
「それでも、私は助けられたし!!それが全部なんだよ!!アリウスの白い悪魔とか知るか!!誰だその痛い厨二病!!」
ゼェゼェと息を切らしながら、なんとか自分の気持ちを伝え切った。
「“……そっか。ありがとう”」
「……ま、まあシャーレに恩も売れたしな……そう考えればむしろプラス……!?どうせこの花火、不発するやつもあるだろし……いっぱい打ち上げる予定だから、多分バレない……バレないよな……?バレたら幹部クビかなぁ……!?」
「“その時は、シャーレに来てね。ご飯くらいなら、一緒に食べれるから”」
「ほ、本当だな……!?約束だからな……!?」
少々締まらない終わり方をしつつ、なんとかヨセとレイは花火を背負い上げ。
そうして、たくさんの人間を巻き込んだ末に……スオウがみんなと共に見た、あの花火は手に入れることができた。
◇
白い花火だった。ただ、ただ大きなだけの。夜空を照らすような。どこまでも広がり続けるような。きっとこの空よりも大きな、はなび。
「わぁ……綺麗ですね」
みんなが見せてくれた。はなび。
「流石に一発きりだと、一瞬だったけどね」
「こ、こういうのも風流……なんでしょうか……?」
みんなと見たかった。はなび。
「たーまやー!……って、言うんだっけ?」
「ああ、私が調べた限りでは……」
「たま、や……なんか、ちょっと下品な気が……」
「コハル、それは主観の問題だ」
もう、思い出せないと思ってた。はなび。
「どうだ、スオ、っ……!?」
「きれいです……」
俺が。俺は。みんながもう、俺抜きで花火を見るんだろうって。それしか、選択肢がないんだろうって。なのにみんなは、諦めないでいてくれて。
「きれいです……!今まで見てきたもののなかで、いっちばん……!この世界の、なによりもきれいですっ……!」
そんな馬鹿みたいな考え。みんなが力を合わせて、ぶち壊してくれた。
「ありがとう……ありがとう、みんな……本当にきれいです……きっと私……絶対、絶対絶対……!絶対、この景色を忘れません……!」
「……その、なんだ……」
「いや、綺麗だったけど……そんなに泣くほどかなぁ……?」
「……ヨセ。そういうことではないんですよ」
「……あ、そっか。ごめん」
もうみんなに、呆れられるとか。嫌われるとか。信じてもらえなくなるとか。
逆だ。逆だった。俺の方だ、みんなを信じてなかったのは。
「みんな、その」
「待てスオウ。積もる話は色々ある。それはわかる、だがまずは……」
舞い落ちる、花火の残滓。未だに耳鳴りが残る空。サイレンが鳴り響く森。
……サイレンが鳴り響く森?
「え、これって……」
「公安局だね……流石に市街地に近すぎたか」
「しょ、しょうがないよぉ!だってここしかなかったんだもん!!」
「わ、私……!とんでもないことを……!」
「コハルちゃん、アリウス分校での一件も大概ですよ。一度も二度も同じです」
ああ、なるほど。そりゃあんな大きい花火で騒ぎを起こしたら、通報もされるよな。つまりこれは。
「……犯罪者のみんなーっ!!逃ーげるぞーッ!!!」
レイの掛け声を皮切りに、全員がその場を走り出した。
◇
なんとかミカと木を植え直して、発射台も回収。あらかじめホテルから持ってきておいたらしい荷物を抱えて、たどり着いたのはとある廃ビーチ。
ひとまず呼吸を整えて、サオリ達から話を聞いていた。
「そんな無茶を……」
「お前ほどではない」
「うぐっ……!?」
ぐうの音も出ない。うぐって声なら出た。言ってる場合じゃない。
本当、申し開きもない。今回もまた、サオリ達に助けられて……それ以上に、危険に晒した。
「……小隊長……私は……いえ。もう伝えるべきことは、伝えましたね」
「ヤコ……」
なんて言えばいいんだろう。なんて謝ればいいかな。二度としない?もう二度目だ。反省してる?だったらこの結果はなんだ。
……違う、そうじゃなくて……そうじゃなくて、多分……俺が俺を、信じれない。
「……」
あんなこと言って、あそこまでのことをしておいて、これだ。俺が俺のことを。もうこんなことしない、って思えない。変われるって、思えない。
リミッターが外せなくなっていた理由。命が惜しくなったから。サオリ達を悲しませたくないから。だと、思ってた。
……笑わせる。結局また、傷つけた。
「私……」
わからない。
「私……どうすれば、いいかな……」
何を言えば。何を信じれば。なんて謝れば。どうすれば、もうこんなことしないでいられる。
この気持ちも、一過性のものじゃない。なんて、断言できない。ミカにあそこまで言われて、直前になって選んだのが、これ。
「もうしない……って、言える気が、しないんです……」
どうすれば。
「“私たちが信じるよ”」
「……?」
「“スオウが自分のことを信じれないなら。私たちが、代わりにスオウのことを信じる”」
どういう……先生は、何が言いたい。
「“大丈夫。スオウはもう、こんなことしないよ”」
「っ……!」
「……当たり前でしょ。二度目でもあり得ないのに、三度目もやらかす馬鹿がいるとは思えないし」
……ああ。なんでだろうな。
「もちろん!今回も、どうしようもない事情が重なった結果だしね……次はもっと、すぐ相談してくれるよ。ね、スオウちゃん?」
「ああ、そのはずだ。私たちの姉は、そう何度も同じ過ちを犯すほど愚かではないはずだからな」
さっきまで、信じれない。またやる、って、思ってたのに。
「ま、まあ……そうですね……次こそ本当に無理ですから……!スオウさんは私の胃に穴を開けたりしませんよね……!」
「ヒヨリ……うん。私も信じる。期待してるよ。スオウ姉さん」
「……以前よりは改善されているわけだし。私も、次はないと信じよう」
みんなの言葉なら、そうなんじゃないかって。そんな気がしてくるんだ。
「……みんなっ!ありが」
「それはそれとして、帰ったら説教だ」
「……あ、ぁあ……はい……」
いや、まあ……うん。それだけで許してくれるなら、甘んじて受け入れるけどね……でも。
「なんで今じゃなくて、帰ってから……?」
「ああ、それはね……」
と、ミカが何かを言いかけたところで。
「みなさーん!!花火を買ってきましたよ!!」
「……ヒフミさん?」
海辺から少し離れたところに、ヒフミ達が。用がある、って途中で別れたけど、ひょっとして。
「は、花火を!?ねぇヤコちゃん、あれって売ってるの!?」
「……まあ、世の中の大抵の物は売り物ですし……」
「ああ。花火職人ってのがいるんだ。普通に売り物だろ、あれも」
「へぇー、すっごい……」
ヤコ達は思いっきり勘違いしてるな……まあ、実物は見たことがないししょうがないか。
「違いますよ、ヤコ、ヨセ、サウ。あれはですね……」
「手持ち花火だ。手に乗るほど小型の花火で、持続的に火花を散らす」
「……で、です!」
アズサ、お姉ちゃん解説……まあいっか。
「手持ち……花火……?聞き覚え……ある……」
「ああ、小隊長が教えてくれたやつだねー……ナパーム弾みたいなもんでしょ?」
「違いますよ?」
いや、確かにレイには訓練でナパーム弾の取り扱いを教える時に話したけど……全くの別物というか、一緒だったら困る。
「先程の花火も綺麗でしたが……せっかくの締めくくり。こういう花火も、いいとは思いませんか?」
「そうそう!むしろ花火大会なんてめずらしいんだから、こっちの方が主流だよ!お家でも気軽にできるし!」
気軽に自宅で花火をできるご家庭はかなり珍しいと思うけど。まあ、確かに花火大会に行くよりはメジャー……なのかな?楽しみ方のベクトルが違う気がするけど。
「ここに火を置いておくので、通る時は気を付けてください。使い終わった花火は、こちらの水バケツにつけてくださいね。遊び方としては、こんな感じで……」
と、そんな他愛のないことを考えていると、ハナコが早速一本。火をつけて、シューと音を立てながら、紅色の炎と火花。少し離れるとピンクに近い色がハナコを照らして、ちょっと色っぽかった。
……わざとじゃないよな?
「なにあれ!なにあれ、すっごい!すごい!見てあれ!」
「炎色反応だね。中に仕込まれた鉱物で色が変わるんだろう。しかし、なかなかどうして悪くない……」
「……あれなら、私も楽しめそう」
そんな考えとは裏腹に、妹達は好感触。急いで手持ち花火を確保しようと群がっていた。
「ほーら、小隊長も!」
「え?あ、ああ、はい!」
「もー、本当に小隊長は無茶ばっかり……しかも、全然巻き込んでくれないし……」
「はははっ……ま、まさか砲台と玉を奪いっとってくるとは思いませんでしたけどね」
あのサイズ感だと、多分三十号……?あんまり詳しかったわけじゃないけど、かなり大きい方ではあったと思う。まさかあれを担いで逃げおおせるとは……。
「どうどう?少しは私たちのこと認めた?認めろ!ほーらー!!」
「はいはい、認めましたよ……本当、あれを担いで逃げ帰ってくるとは……ヘルメット団にも追われたでしょ?」
「あー、それなんだけどね……海の家の人が助けてくれたよ」
ヨセから花火を受け取りつつ、初耳の情報に少し驚愕。そっか、あの子が……焼きそば以上のお礼、もらっちゃったな。
「見て見て光の剣みたい!カッケー!」
「ちょっと、ヨセ……」
「こーらヨセ、振り回しちゃダメですよ。人に当たったら危ないです」
「はーい……あ、でもそう言えば……それにしたって、帰りはやけにヘルメット団に会わなかったんだよね……」
「え?」
ヘルメット団……聞いた話だと、ヤコとサウが足止めしてたらしいけど。ヨセ達がある程度離れた時点で、サウ達も離脱。だから、多少はヘルメット団に出くわしてもおかしくはないはず。
「小隊長。とある方から伝言です」
「……伝言?」
「はい。その方は通りすがりの不良らしく、私たちを抗争中の
はぁ……多対二は卑怯って感じの考え方かな。正々堂々、正面からタイマンみたいなやつが多かったし。アケミもそうだった。
「それから、私たちの戦いを引き継ぎました。恐らく、ヘルメット団に会わなかったのはそれが原因かと」
「親切な人がいたもんですね……それで、伝言っていうのは?」
「……『これで借りを返したとは思いませんわ』。と、それだけ」
「……!」
その、喋り方は。
「……新しいご友人ができましたね」
「はははっ……」
ご友人。って、言えるのかな。次会う時は敵同士かもしれないし、味方かもしれない。でも……そっか。あの子達も、最後には……。
「そうかもしれないですね!」
次会う時は、友達だといいな。
「スオウ!!こっちに来て!!」
「え?あ、アズサ?」
突然大きな声で、ふとそっちを見る。そこには産毛の数まで数えれるほど近くまで来たアズサがいて。
「ってなにあずもぅふぁ!?」
「いいから、来て!」
なぜだかやけにテンションの高いアズサに引っ張られて、少しばかり集団の輪の外へ。そこにはサオリにミサキ、ヒヨリにアツコ。それにアシリと、ヒフミ、ハナコ、さらにはコハル。その上ミカ。そして最後に、先生まで。
みんな、アズサと仲の良い……スクワッドと、補習授業部。と、アシリと先生は……まあ、補習授業部の括りでいいか。加える感じでミカも。
「みんなもアズサに呼ばれて?」
「は、はい。アズサちゃんが」
「待ってヒフミ。私から言わせて」
珍しくヒフミの言葉を遮ったアズサが、目の前に近づいてくる。顔が少し赤い。翼が不安げに縮こまっている。瞳は潤んで、少しどこに目を向けるか迷い気味だ。かわいい。ぎゅーってしたい。
アネノニウムを最大限に放出していると、意を決したアズサがすうっと息を吸って。
「写真を撮って欲しい!一緒に!」
「え?……あ、はい、いいですよ。カメラください」
「そうじゃなくて!」
ギュッと手を握られた。俺の気持ちが妹に届いたのかもしれない。なんて、冗談はさておいて。
「みんなで、一緒に……スクワッドと、補習授業部と……とにかく、私の大切な人たちと、全員で……!」
「……」
アズサの待ち受け。アリウス分校で撮った写真と、補習授業部で撮った写真。実は少し前から、気づいてはいたんだ。
……そっか。言われてみれば、そんな機会ですら初めてなのか。
「もちろん。アズサ、ずっと待ち受けそれですもんね」
「うん……っ!?バレて……!?」
「わかりますよぉ……お姉ちゃんですから!」
バレていたことが恥ずかしいのか俯くアズサの手を、今度は俺が取って。みんなの輪の中に入ってみる。
「それで、ポーズはどうします?」
「そうですね……せっかくですし、みんなで花火を持ちませんか?」
「す、少し危なくないですか……?」
「そ、そうよ……別に私は怖くないけど、ヒヨリは怖がってるし……!」
当たり前みたいに。ううん、当たり前だけど。隔たりもなく、普通に話していた。この二日間、みんなで遊んで。もうきっと、友達って言えるくらいに。
「コハルちゃん、怖いなら私が持ってあげましょうか?」
「怖くないって言ってるでしょ!?ほ、ほら、この程度……!」
「ちょ、コハルちゃん!火逆さだよ!?」
「何やってるの……ほら、ちゃんと逆向きで持ち替えて」
アズサにはずっと、寂しい思いをさせてしまった。アズサにとっては、どっちも大事なのに。どっちかとしか会えない時間が続いてて。
「そう言えば、撮影はどうするの?」
「ピーちゃんにお任せだよ!」
『ピー!』
「……本当に便利だな、この鳥は」
……この時間が、ずっと続いて欲しいけど。それでもやっぱり、夏は終わる。
「先生」
「“どうしたの?”」
だから、どうか。
「……次の夏も……その次の夏も。その次も、その次も……また、みんなで。こうして、海に来たいです」
「“……できるよ。きっと”」
「うん……だといいな」
どうかこの夏が、また来ますように。
◇
花火の締めくくりは、線香花火で。誰が決めたわけでもない、どこの地域でも変わらない風習だ。
膨れ上がった夏の色。火花を出して、儚く散って。ああ、ほんとうに終わりなんだな、って具合に。
最後まで残ってた人が勝ち、なんてルールがあったけど……この数じゃあなぁ。
「アホみたいにありますね……」
「いっぱい買ってきたからね……好きな相手と対戦しよっか」
「……」
……うーん。
「あー……ちょうどいいか」
ちょっと話したいこともあるし……せっかくなら、先生と戦いたいかな、っと。
「先生。一戦どうですか?」
「“受けて立つよ。絶対に勝つ”」
「連敗したんですか……?」
やけに意固地になってる先生を傍目に、それとなく人の輪……の、外へ。先生もそれを察した上で、着いてきてくれた。何も聞かずに、ただ何かあるんだろうって。相変わらず、優しすぎるくらいだな。
「この辺でいいですかね」
暗くなって、火を灯して。そしたらあたりは、仄かな色に照らされる。光で包まれたそこは、きっと俺と先生だけの空間だった。
「それじゃあ、行きますよ?」
「“いつでもどうぞ”」
「ごー……シュッ……!」
細長い先端が、熱で丸まって。少しずつ、パチ、パチと。火花が上がる。
「先生」
「“うん”」
「私……私、ね……?」
まるで俺の心臓みたいに。ここにいるだけで、跳ね上がってる。
「大人に、なれてるかな……変われてますか……?」
「“……今日の……ステージのこと?”」
言葉にするのも、辛くて。こくりと、頷きだけで返した。
「私……みんな、信じてくれるって……それは、嬉しかった。信じれました」
「“うん”」
「でも、それと同じくらい……前と同じことやってるじゃんって。馬鹿だろ。違うだろ、こんなのって」
「“……うん”」
ただ、閃光だけを見つめる。先生の顔を、見れなかった。別に叱られるのが怖いとか。拒絶されるのが怖いとか。そういうわけではなかった。
「……ただ、ちょっと……なんというか……わかんなくって……」
「“……そっか”」
火花は、どんどん強くなる。どんどん、どんどん、膨れていく。
「“ミカから、聞いたよ。相談されたって”」
「……はい。しました。というより、吐かされました……」
「“はは……でも、前までのスオウなら。きっと、弱音すら吐けなかったんじゃないかなって”」
「……違う、って言いたかったですけど……否定できないですね、はははっ……」
膨れる。
「“……だから、ちゃんとスオウは……前に、進めてるよ。いきなり大人になる必要なんてない。一歩ずつ、一歩ずつで充分だから。それがとっても大きな一歩だから。いつかちゃんと、辿り着けるから”」
膨れて、膨れて。俺の気持ちみたいに、膨れて。
「“大丈夫。スオウは立派に成長してる。いつか、大人になる日が来るよ”」
落ちた。
「……そっか」
やっぱり、先生の言葉は……どこまでも優しくて。甘くて。少しビターで。ずっと、大人なものだった。
「そっかぁ……」
嬉しい。けど、悔しい。子供扱いされてるみたいで。
「……」
けど、思えばずっとそうだった。牢屋であった時も。ベアトリーチェと対峙した時も。初めて当番に行った時も……この海でも、それは変わらなくて。
「……見せたい誰か、か」
「“……?”」
「いえ、なんでも」
水着を見たって、えっちな目では見てなかったし。それが少し、悔しい感じがして。
「……海といえば、魚ですよね。またお寿司、食べたくなっちゃいます」
「“ワサビは海にいないよ?”」
「求めてないですよ!」
先生の寝顔を見れた上に、寿司まで奢ってくれた。あれは、おいしかったなぁ。先生と食べたから、もっとずっと。
「そう言えば、また見られちゃいましたね……泣いてるとこ」
「“ごめんね”」
「あやまることじゃないですよー……」
あの時、お見舞いに来てくれた日も。目一杯甘えさせてくれて、甘えてしまって。ああ、追いつけないなって。
「もう見せませんよ……私の泣き顔は貴重なんですからね……!」
「“ブラックコーヒーで涙目になってた気がするけど……”」
「き、気のせいじゃないですか……?」
酸いも甘いもって。あの時、先生も甘いのが好きなんだって。俺と一緒だって知れて。先生も、ダメなところがあるって知って。少し、嬉しかったっけ。
「……ああいうのは、ほんとの涙じゃないですから……あの時、みたいな……」
「“……泣きたい時は、泣いてもいいんだよ”」
「はははっ……その時は、お願いします……」
でも、やっぱりあの時。ベアトリーチェから守ってくれた時みたいな、カッコいい大人が……俺にとっての、先生で。
「……」
こんなに大切に思ってくれて。たくさん考えてくれて。見てくれて。守ってくれて。きっとこんな人、これからの人生で出会えることがないだろう。
「……せんせー?」
ああ、でも……やっぱり、無理だ。膨れ上がって、抑えきれない。
「“……?”」
人がこの気持ちを理解する瞬間なんて。こんな気持ちになる瞬間なんて。もっと、劇的なものだと思っていた。
「“どうしたの?”」
……ああ。好きだなぁ。
「“スオウ”」
俺は、この人のことが……先生のことが……好きだ。
長かった夏イベも、これにて終わりです。
このあとは後日談と過去編を少し投稿したあと、色々やります。今しばらく、お付き合いいただけますと幸いです。