壁の角に潜み、二つの爆弾に神秘を込める。
「こっちだ!こっちから人の声がしたぞ!!」
人影が見えたところで、出来うる限りの神秘を込めたその爆弾を投げ…同時に、もう一つの爆弾を通路に投げつける。
「なっ…!敵襲ッ!!!敵襲だ!!」
「…」
…三、四、五…六人。
三人は今の爆発で痛手を負った。もう戦えまい。
まさか、こちらに反撃できるほどの戦力が残っているとは思わなかったのだろう。
…しかし、三人か。思ったより多いな。
理想としちゃ、今の攻撃で『ヘイローを破壊する爆弾』を持っているやつを気絶させておきたかった。
アンナが通信で伝えてくれた。追手は『ヘイローを破壊する爆弾』を持っており…その上、それを人を殺すものだと認識していないと。
故に、使うのに躊躇いがない。俺が厄介だと認識すれば、即使用するはずだ。
それを防ぐ意味もあるのだが…生憎、今の俺にそれを確認する術はない。
アレは見た目だけなら普通の爆弾と変わらない。
一撃一撃を、致命傷を与えられ得るものとして対応するしかない。
「…何者だ?穏健派の人間か?」
「…どーだか。ぶっちゃけ俺、穏やかって性格でもないしねー」
できるだけ内心を察せられないよう軽薄に、ヘラヘラとした態度で質問に答える。
「だったら、そこを通せ。貴様と話している時間はない」
「まーそう言いなさんなって。…そもそも、爆弾で塞いじゃったからもう通れないよ?爆弾といえば、お前らの誰かが持ってるだろ?特殊な爆弾を、さ?」
その発言に、敵の全員が僅かに動揺する。
まあ、知らないはずの情報を敵が持ってたら警戒するよな。
いい。それでいい。
あらゆるものを利用して、時間を稼げ。
「んでさ、その爆弾なんだけど…正式名称、知ってる?」
「…」
「っと…会話くらいしてくれたっていいだろ?」
警戒心を強めたのか、銃で撃たれかけたのを瓦礫の裏でやり過ごす。
「ま、いーや。正解は『ヘイローを破壊する爆弾』。生徒を殺すための、兵器だよ」
「…ッ!?」
「っ、いや、動揺を誘うための罠だ!!狼狽えるな!」
…見つけた。
三人の中で、一際大きく動揺したやつ。
ソイツがヘイローを破壊する爆弾を持っている。
だったら、ソイツを重点的に…。
「ぐっ…!」
痛え。撃たれたな。
考える時間はくれねぇか。
敵は三人。
リーダー格らしき女が、恐らくは敵を持っている。全員が、平均的なアリウス生よりも強い。
となると、最初の一撃でもう少し削っておきたかったな。
アレは俺の中でできる最高の一撃だった。戦いの最中では、自分も巻き込まれる可能性を鑑みて使えねぇ。
だったら、狙い目は…倒れている生徒だな。
「…っあ!!」
すでにボロボロだった三名を、ハンドキャノンで撃って完全に意識を奪う。
あれなら後退させるのも難しいだろう。
「なっ…!貴様ッ!!」
「卑怯もクソもあるかっつーの!!」
軽く小さな体を活かし、銃弾が当たらないよう立ち回る。
瓦礫の裏から飛び出て大きく跳躍し、天井を蹴って距離を詰める。
「なっ!?」
足払いをかけ、バランスを崩して、脳天に神秘を込めてショットガンを撃つ。
気絶はしていない。
「ぐぅ…!」
「このっ!!」
敵からの銃撃を、ショットガンを撃ち込んだ敵を盾にして防ぐ。
そのまま大きくぶん回して、リーダーらしき敵へと投げる。
「っ、大丈夫か!?」
「あ、ああ…小さいくせに、なんてパワーだ…!」
受け止めることにより、僅かにできた隙。
その隙を見逃さず、今度はハンドキャノンに神秘を込めて、足元を狙って銃弾を放つ。
しかしそれは軽く避けられ、逆にこちらに対して反撃した。
「か、はっ…!!」
痛い。重い。強い、一撃。
恐らくこの中で最も強いのが、あのリーダーらしき女だ。
肺から空気が抜け、うまく呼吸ができない。
敵が爆弾を投げようとしている、『ヘイローを破壊する爆弾』か?
だったら、あそこへ…!
「ふ、ぅっ…!!!」
ズキズキと痛む傷を無視し、地面を一息に蹴り上げる。
そうして瞬時に移動し…倒れている三人の敵の元へと移動した。
「ごほっ…!ほぉら、投げてみろよ…!?お前らの味方まで死んじまうぜ?」
「…っ、クソ…!」
これが、『ヘイローを破壊する爆弾』の存在を伝えた理由。
ありえないと、そう考えていたとしても、万が一本当だったら?
その一瞬の躊躇いを作り上げること。
そのまま倒れている敵のうち二人は爆弾を仕込み、足を掴んで投げ、もう一人を抱えて盾にしながら突き進む。
「く、おい大丈夫っ…」
「はいドーン」
敵が二人抱き止めたところで、爆弾を起爆する。
抱き止めた敵は気絶したようだ。
まずは一人目。残り二人。
と、そこで。
「ぐ、ぅう…!!」
目の前に爆炎が広がる。
幸いにして普通の爆弾のようだったが、かなりのダメージだ。
痛い。
「今だ!!!」
二人の敵が、こちらに迫る。
目に埃が入って、前がよく見えない。
銃で何度も、何度も撃たれる。
「…ってぇな…」
コートの内側から閃光弾を取り出し、起動する。
「ぐあっ!?」
「くっ…!!」
これで、条件は同じ。
目を擦り、ボヤつきはするもののなんとか視界を確保しながら、敵へ攻撃する。
体勢を崩して馬乗りになり、ハンドキャノンに神秘を込め、残弾を全て放つ。
とうとう、目の前の敵も気絶したようだった。
しかし、そこで。
「っ、ぁ…!」
敵のリーダーらしき女に首を絞められ、そのまま空中に持ち上げられる。
「よくも、やってくれたな…!!」
「…っ!……!」
声が出ない。
酸素が失われて、意識が遠のく。
…ああ。俺の負けか。
「貴様、本当に何者だ…?」
でもまあ、結構頑張った方だと思う。
子供達が、逃げる時間くらい稼げたし。
「…まあいい。そんなことどうでもいいことだ」
「ぅっ…!!」
痛いなぁ…人を地面に投げつけるんじゃねぇよ。銃で撃つなよ。
銃で撃たれたらさ、普通死んじゃうんだぜ?
痛いし、怖いに決まってんじゃん。
戦いなんて、嫌いだよ。
「たしか、貴様が言うには…『ヘイローを破壊する爆弾』、だったか?」
つーか、何やってんだろうな、俺。
何が悲しくて、こんな苦しい思いしてんだろ。
自分では結構うまくやってたつもりだったんだけどな。
結局さ。俺のせいで、シアンもアンナも死んじゃうし。
みんな、苦しむことになっちゃったし。
馬鹿かよ。
「お前のところのリーダーにも、使われたらしいな?」
「……ぁ?」
ホント、馬鹿。
馬鹿ばっかだ。
なんつーかさ。もっとできることって、なかったわけ?
せっかく、好きな作品の世界に来たのに。
原作の知識があるのに。
でも結局、こうなったのって俺のせいでさ。
だからこういう感情って、八つ当たりに過ぎないと思うんだよね。
「これで死んでいるのだったら…本当に、馬鹿な女だ。大人しくしていればよかったものを…」
コイツも結局、時代とか環境の被害者な訳だよ?
それに対して怒ったって、しょうがないじゃん。
「あのガキ共も、守ることはできなかったな?」
「………、……」
あとは。
あー。
なんだったか。
「…本当に、死ぬのか。お前で試してみるか?」
「…」
あー、そうだ。
さっきからごちゃごちゃうるせぇんだよ、お前。
「が、はっ…!?まだ、動け…?」
近づきゃ、ヘイローを破壊する爆弾は使えねぇ。
自分も巻き込みかねないから。
「だが、今更」
「うるせぇよ」
ああ、本当に。
うるせぇんだよ、お前も、俺も。
「人が死んで、そんなに嬉しいか?」
どの口が言うんだか。
俺だ。俺が殺した。
そんなのどうでもいい。これは八つ当たりだから。
ふざけやがって。
でも、だから、これは俺のせいなんだよ。
何がアリウス最高峰の神秘、原作の知識、見た目以上の頭脳、無駄無駄無駄、全部無駄。
なんの意味も取りえなかった。
俺がそうした。俺が無駄にした。
俺の覚悟の浅さが、意志薄弱が、弱さが、甘さが、二人を殺して、みんなを苦しめた。
「何を、言って…」
銃弾が、邪魔くせぇ。
瓦礫で避けるか。
『それが、大人のやるべきことだから』
原作で、先生が言っていたセリフ。
ああ、その通りだと思うよ。大人としての、責任と義務。
子供の責任者として。一緒に頭を下げてやる、正しい方向へ導いてやる、その子の苦しみに寄り添ってやる。
俺は?大人として、たった一つだって、何かを成せていたか?成せているか?
んなわけない。俺がやったのは、ただただ無謀な計画に沢山の子供を巻き込んで、死なせた、傷つけた、それだけ。
ベアトリーチェと同じ…いや、それ以下だ。
この自己嫌悪も、思いも、所詮は究極的な自己愛、自己満足、誰かに否定されたくないから、自分で否定してるだけ。
だからさ。
多分、これからやることも間違ってるんだ。
子供達を逃すためでも。
ベアトリーチェの望む未来へ繋げさせないためでも。
あの子達の遺志を、ほんの少しでも叶えてやるためでも。
そのどれでもあって、どれでもなくって。
きっと、間違ってるんだ。
知るかよ。
「なっ…!?」
左手で持った爆弾を起動して、加速する。
コイツは、俺より強い。
でもこうすりゃ、速さは関係ねぇ。
あ?左手が痛ぇな、神秘を込めすぎたか。
はははっ。なんで、シアンが殺される時には使えなかったんだろうな。
役立たずが。
でもそのおかげで左腕が折れるのも、焦げるのも、裂かれるのも、自慰行為の助けくらいにはなる。
「だが、その程度では……!」
体から出る、血、血、血。銃弾の雨に濡らされていく。
ああ。とても心地がいい。
自虐的な、所詮自分を被害者に、可哀想なものに変えるための感情でしかない。
でもまあ。戦えるなら、それでいいか。
神秘ってさ。基本的に、不可能を可能にする力じゃない。
俺の左腕が動かないみたいに。
だから頚椎が折れれば、死ななくても動けない。
「なに、を…!?」
右手に爆弾を持ったまま、相手の首を掴んで起動する。
右腕も左腕と同じように、焼け、焦げ、引き裂けれるような痛みが走る。
「げぅっ…ゴホッ…おぇ…」
さっき持ってた、ヘイローを破壊する爆弾。
これがあれば、コイツにも勝てる。
「……死ね」
これで、コイツは
「やめっ…!」
「…っ」
「わたし、まだ……しに、たく……」
ショットガンで、頭を撃ち抜く。
気絶した。
これだけで、いい。
ヘイローを破壊する爆弾を使う必要はない。
俺は今、何をしようとした?
一時の感情に任せて。
なんの大義があって。
人を、子供を。
殺そうと、した?
「っ、はぁ…はあ…!!」
ああ、すこしちがうか。
もうとっくに、二人を。
ころしてるん、だった。
「………お゛ぇっ……!」
◇
アリウスの、自治区内に戻ってきた。
集められたストリートチルドレンに混ざって。
自然に、再びアリウスの生徒となる。
自己嫌悪、自己嫌悪、自己嫌悪。
それしかない。
そう思う感情さえも不愉快だ。
シアンと、アンナと、名前も知れない沢山の生徒を、殺した。
死ねばいいのに。
「クソッ、たれが……!!」
左足には、枷と発信機がついている。
子供が逃げ出さないようにと。
俺の、敗北の証。
何もかもが足りていなかった。
決意も、覚悟も、知識も、力も。
ベアトリーチェに、何一つだって届かなかった。
「ふざけ、やがって…!!!」
身を焦がすほどの怒り、悔しさ、後悔。
この感情の全てを、決して忘れはしない。
ベアトリーチェの姿を、見ることさえできなかった。
必ず、次こそは。ベアトリーチェに、この弾丸を届かせてみせる。
そのためには、準備が必要だ。
最高のタイミングで。最高の状況で。最高の戦力で。
全ての計画を、実行するために。
その時まで、俺の存在は包み隠さなくてはならない。
「…俺…いや、私、か」
口調も、変えよう。
バレてはいけない。察せられてはいけない。一片の疑いをかけられる事さえ、決して許されない。
作れ、『私』を。
ベアトリーチェに、取り入るために。
「…私は、桐花スオウ。トリニティを、終焉へ導くものです」
今より俺は俺ではない。
たとえ、俺が俺であることを捨てても。
絶対に。
「…絶対に、皆を助け…ベアトリーチェを、殺してみせます。私が、この手で」
もう俺にできることは、それしか残っていないから。
今日も更新できて自分でもビビってます。明日には治りそうです。
-追記-
読後感がどうこう言ってられないレベルのヤバさなのでここで説明します。
本当に申し訳ないのですが、ここのスオウちゃん、追手を殺していないんです。
もうとっくに殺している、というのは、シアンとアンナを無茶な計画に巻き込んで殺したということです。
そのことを命乞いをする追手を見て思い出し、あの二人だって生きたかっただろう、子供だったのにという罪の意識と、怒りに任せて人を殺そうとしたという自己嫌悪で吐いてしまった感じです。
コメント欄を見返していたらふと、アレ?これ追手殺したって思われてる?と思いました。
そんなことなかったらすみません。
書き直しましたが、元の文ではこんな感じでした。
ショットガンで、頭を撃ち抜く。
気絶した。これだけでいい、はずだった
(中略)
もうとっくに。
ころしてるん、だった。
…いや、コレ普通に読んだら怒りに任せて気がついたら追手を殺してた、って思いますよね。
気付くのに二日もかかってしまいました。
完全に私の描写不足、実力不足です。
言い訳になりますが、スオウちゃんの心情に臨場感を持たせるために状況の描写を減らしたことも描写不足に拍車をかけました。
この展開、いいね!となってお気に入り登録や評価をしてくれた方がいたら、申し訳ございません。
スオウちゃん、流石に命乞いをする子供を殺してしまうほどではないんです…そういう描写も入れておくべきでした。
後日投稿する最新話(17話)でもこの件については説明させていただきます。
改めまして、本当に申し訳ございませんでした。