ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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【最終編】VSキヴォトス戦隊

 薄暗い部屋の中顔を合わせる、各校の代表者達。

 

「まとめると、二週間以内に虚妄のサンクトゥムを破壊しなければならない、ということになります」

 

 シャーレオフィス、その一室で行われているこの会議は、未曾有のキヴォトスの危機への対応。

 そのための情報の共有、そして普段は険悪と言っても差し支えのない多数の学校の協力を仰ぐためだ。

 

「二週間……何回聞いても、猶予が短い……」

 

 告げられた期間に憂慮するのは、便利屋68所属、鬼方カヨコ。隣の席で激しく主張する横乳に熱のある視線を向けられながらも尚、現状の把握に思考を走らせていた。

 

「『色彩』……それに、サンクトゥムタワー……信じ難いけど、本当なのね……」

「エンジニア部に、ヴェリタスが解析してくれましたからね」

 

 ユウカの信じられない、けれども信じるしかない。そんな思いに応えるように、生塩ノアが相槌を打って補足した。

 

「人々を狂気に陥れる光……それに、セイアちゃんの予言……二週間、三百時間などと言わず、早期決戦を仕掛ける必要がありそうです」

「はい。万が一、虚妄のサンクトゥムが臨界点を迎えれば……」

「……その時は、終末の大予言が実現する。ってことになる」

 

 あまりにも実感のない、降って湧いたような、確かな世界滅亡へのカウントダウン。それだけでも緊張の糸を引き延ばすように存在している。

 だというのに、話はそれだけでは飽き足らない。

 

「そのためにもまず、各サンクトゥムタワーの守護者を打ち倒す方法を考えなければなりませんね」

 

 それぞれのサンクトゥムタワーに存在する守護者。ゲマトリアから掠め取ったその技術と複製を利用し、サンクトゥムタワーのエネルギーを利用して作られた存在。

 彼らを打ち倒さない限り、サンクトゥムタワーの破壊は不可能に等しい。

 

「よりも先に、まずは各自治区の生徒や市民の保護、それに治安維持からじゃない〜?」

 

 ふと、連邦生徒会のコートを身につけた生徒、由良木モモカが判断には早い、とアコの言葉を遮る。

 

「既に相当数、襲撃の報告が寄せられてるからね」

『それについてはご心配なく。各自地区の治安維持は私たちが対応します』

 

 そんなモモカの不安を解消しようと、ナギサが会話に割って入り。

 

『異論はありませんよね、ミカさん、セイアさん?』

『あるよ!!私はホントなら今すぐにだって』

『少しはおとなしくしたまえ。無事だと再三に渡って伝えているだろう?』

『……』

 

 けれども、ミカとセイアの返答は明るくなく。ナギサの額で、青筋が一本音を立ててぶち切れた。通信越しに心配こそしてみるものの、貼り付けたような笑顔が消えることはない。

 

『またそれ!?根拠もないくせに!』

『根拠はない。だが、それを補強するだけの前例はある。現に夏頃には』

『百パーセントじゃないじゃん!』

『……この世界で確実なことなど数えるだけ高が知れている。それに、君が今抱いている不安が自分だけのものだと考えているのなら、それは傲慢と言う他』

『いい加減にしてください二人とも!!』

 

 言い合いを始めた頃、とうとうナギサが一喝。二人も少し気まずげな表情で、一旦は言い合いをやめにしていた。

 

『……申し訳ありません。二人の学友が行方不明につき、少々不安に陥っていたのです。……とにかく、治安維持は私たちにお任せを。二人とも、構いませんね?』

『……はーい』

『ああ。皆が手を取り合うことが肝要というのは承知しているよ』

 

───お任せして大丈夫かなぁ。

 

 その場の誰かがそんな感想を抱いてしまったのは、これはもう仕方ないことだろう。むしろ、これを見てなんとも思わない方が心配である。

 一方で、ミカとセイアが感じ取っている不安は、この場にいる多くの人間と、そして全キヴォトスの人々が抱いてるものでもある。

 

「シロコ先輩……」

「……」

 

 ふとアヤネは、彼女の仲間の名を口にする。行方不明の、喧嘩早くてむしろ後輩っぽい気さえもする、けれども確かな情で自分たちのために戦ってくれる、先輩の名前を。

 せっかく、押し殺していたというのに。あんなことを言い出すものだから、すっかりとまた()()が顔を出す。

 アヤネだけではない。行方不明の友人のところへマユミを送り出してしまったユウカもまた、同じように。

 

「……大方、まとまりましたね」

 

 そんな不安と格闘しているうちに、とんとん拍子で話は進んでしまったらしい。急いで各自治区の防衛、治安維持について把握し、次の話を聞ける段階まで追いついて取り戻した。

 

「私たちの目標は、キヴォトスに到来した六つの塔『虚妄のサンクトゥム』を破壊すること……同時に、各自地区の避難や防衛作戦を遂行することです」

 

 総括。連邦生徒会長代行を務めるリンが、耳の上に髪をかけて会議の決定をまとめる。

 

「全ての作戦は先生を中心に展開します。全自治区の防衛、及び避難状況の把握。そして、サンクトゥムの攻略……全て先生の方で確認していただかなくてはなりません。大丈夫でしょうか?」

「“うん、大丈夫。いけるよ”」

 

 その程度、シャーレの仕事で時折訪れる過酷な労働状況程度のものだ。

 加えて、頼れる相棒がシッテムの箱で待ってくれいている。何も一人で全てを行うわけではない。

 

「では、みなさん……時計をキヴォトス標準時にご設定いただけますでしょうか?」

 

 先生の意思を確認し、リンが時計を見るように促す。

 

「これが、私たちに残された時間です。この時間で作戦を立て、攻略を終えなければいけません」

 

 その数字が一つ減るたび、世界は滅亡へと近づいていく。

 

「……」

 

 それがまるで、彼女に残された時間を示しているようで。

 

「それでは……これより、虚妄のサンクトゥム攻略作戦を始めます」

「シロコ先輩……どうか……」

「……マユミ……無事でいなさいよ」

 

 彼女達のつぶやきは、誰に聞かれるわけでもなく。赤い空に溶けていった。

 

 

 

 

「うお、らぁああああぁああああっ!!」

 

 激突する、二つのエネルギー。キヴォトス中の広大な赤を飲み込むように、真っ黒なエネルギーが侵食していく。

 

「サユリっ……!出力っ、限界よっ……!!私も……!」

「そんなボロボロで外に出てどうなるってのさ!!今はおとなしく守られとけよ!!」

「ごほっ……!く、そっ……!」

 

───サユリの癖に正論言いやがって。

 

 体中に神秘を通しながら、そんな悪態を飲み込む。

 サユリが撃ち放ったビームに対応し、あの存在が返した真っ黒な弾丸。それだけで、サユリのビームは引き裂かれ、孔が開けられ、打ち砕かれた。

 あれはとてもではないが、生身の人間が撃っていいものではない。というよりも、撃てるはずがない代物だ。

 

「だってのに……!」

 

 それだけでも異常事態だというのに、彼女の顔はマユミのよく知る桐花スオウに瓜二つ。いや、全く同じと言っていい。

 いかに聡明を自称するマユミの頭脳を以てしても、いい加減キャパオーバーといったところだろう。

 

「なんなの、本当に……!な、なんでスオウさんにそっくりなの!?」

「んなもん、私だって……!!」

 

───違う。これではダメだ。

 

 マユミに残された冷静なリソースが、そんな思考を伝えた。

 現状、マユミがまだ生きているのはサユリが戦えているから。それも防戦一方、ほとんど逃げているだけだが。サユリを動揺させれば、それさえも崩れてしまう。

 

「考えろ、柏有マユミ……!考えるのよ……!!」

 

 どうする。サユリを動揺させないためには、どうすれば。

 

「……っ、ん?」

 

 マユミの腕時計から、通知音。高エネルギー反応がその出力を上げたことを通知していることは、少し考えてわかった。

 

「……そう。作戦開始、ってわけね」

 

 虚妄のサンクトゥム、そしてその守護者の概要は、ユウカを通して聞いている。恐らく、あれらを打ち倒す算段がつき、戦闘を開始したといったところ。

 時間にして、あと数十分。それだけの間こいつから逃げ続けることができれば……この存在が色彩によって生み出されたものであれば、あるいは。

 

「逃げられるとでも?」

「っ、サユリ!!高度上昇!反重力装置を、あぐぅっ……!?」

「ぐ、あっ……!!」

 

 上方からの衝撃。椅子に固定されているサユリは良かったが、マユミは天井に張りつけられ。

 

「っ、ぶぅ……!」

 

 そのまま地面に、それ以上の衝撃で叩きつけられた。折れた骨、ダメージを受けた内臓、打撲痕の広がる皮膚。その全てが、さらなる外傷により苦痛を訴えかけてくる。

 

「ゲホッ……!ごふっ……!!」

「マユミ!」

「だいじょーぶよ……私は……神の頭脳を持つ超絶天っ才美少女、マユミぢゃんよ……?ごの程度……!」

「絶対大丈夫じゃない!!濁音ついてるし!!」

 

 驚愕するべきは、その膂力。スーパーキヴォトスロボを一撃の拳で地面に叩きつけるその力。

 

「それより゛……ついげき……!」

「もう空に逃げてる!気づかないくらいやられてんじゃん!」

「ぢがう……!」

 

 ジャイロ装置、加えて重力機構の出力を上げ、操縦室内の安静を再確保。ほぼ同時に。

 

「なっ……!?また……!?」

「ごほ、ふんっ!!……あー……空に逃げた程度じゃ意味ないっていったのよ!!」

 

 再びの衝撃。装甲が叩き割られ、機構に届かぬよう衝撃を吸収する。

 これだけの筋力を跳躍に転用すれば、空に逃げ切るより先に彼女は追いついてくるだろう。

 

「鼻血かけんな!汚い!」

 

 喉奥に溜まった血を吐き出しながら、なんとかダメージを一部回復。だが、あと数十分もの間この化け物から逃れることができるか。

 

「……」

 

 否、今の動揺したサユリではどうすることもできない。「彼女はスオウなのでは」という不安により、出力も抑え気味だ。

 マユミの思考は加速する。スオウ。アリウス。ベアトリーチェ。聖徒会。高エネルギー反応。色彩。

 

「っ……!サユリ、あいつの正体は予想ついたわ!!」

「え、本当!?」

「本当よ!」

 

 嘘だ。全く思いついていないし、根拠もない。

 

「いい!?今カチコミかましてる色彩は、ベアカスの仲間の技術を盗んで、それを出力してる!アンタも見たでしょ、聖徒会!」

「見たよ!だから何!?」

「加齢ババアは研究していたはずよ!!ロイヤルブラッド!!スオウさんの肉体について!!」

「っ……!」

 

 嘘でいい。サユリの動揺さえ取り除ければ、それで。

 

「あれは恐らく、その研究成果の出力結果!!複製(ミメシス)されたスオウさんってところかしら!!」

「なるほどな!!やっぱりマユミは天才だ!!」

「あだぼうよ!!」

「だったら、手加減する必要は無くなったね!」

 

 だから、この可能性に気づいているのは自分だけでいい。あれはきっと、本当にスオウなのだ、なんて。妙な勘をさえさせるのは、自分だけで。

 

「出力最大っ!」

 

 機械の駆動音。マユミにとって聞き慣れたそれは、安らぎをあたえるもので。

 

「サユリ、私は少し……休む、わ……」

「オッケー!サンキューマユミ!あとは任せとけ!」

「ええ……おねがい……ね……」

 

 座り込み、目を閉じて。体の中身をかき混ぜられるような感触で、そのまま横になってしまう。

 

「あーあ……情けないったら、ありゃしない……」

 

 そのまま目が閉じられていくのを、口内を噛み切ってなんとか耐えている現状。血液の不足につき、酸欠気味だ。

 

「……」

 

 輸血を行い、異物を取り除く。それらを機械に任せながら、揺らぐ意識でかろうじて考える。

 たとえサユリが冷静さを取り戻したとて、あれに勝てる可能性はゼロだ。ヒトが自然そのものに勝てるか。恐らくは、そういったレベルの話。

 

「く、そ……まけ、て……」

 

───負けてたまるか。

 

 勝てないまでも、アリウスのみんなだけは。そんな考えから、意識はさらに深い暗がりに落ちていく。

 

「ぐ……!」

 

 なにか、ないか。地中を掘り進めてみる?そんなもの、ドローンで既に実行している。無駄だった。この半球と思っていた物質は球体だった。その程度の話。

 ならば、彼女を……スオウによく似た彼女を出し抜いて、球体を破壊する?それも不可能に等しい。現に球体に触れるどころか、近づいた時点でドローンや自分は感知され、即座に襲撃された。

 

「……ん……?」

 

 マユミはもう一度、思考を反芻してみる。

 

「球体に……触れた時点で、感知……」

 

───それは一体、どうやって?

 

「おそらくは、レーダーや……触覚に近い……」

 

───それで?

 

「優先順位は……と、同様の……」

 

───桐花スオウと。

 

「っ……!サユリ!!逃げる準備!!」

「まだ寝とけよ!?というか、そんな情けないこと」

「一時撤退よ!!私たちだけじゃ勝てない!最低限、アシリの力も必要になるわ!!」

「……く、っそぉ!!でもさ!!こいつ逃してくれないよ!?」

 

 心底悔しげにがなりながら、それでもマユミの意見を受け入れ。けれども、実行するだけの余地がないと反論するサユリ。

 

「大丈夫!作戦はあるわ!だから今はとにかく、こいつと全力で戦うこと!!」

「全力で、戦うったって!今は逃げながら戦ってるからッ、なんとかなってるけ、どぉっ!?正面から行ったら、一分も持たないよ!?」

「三十秒もあれば上出来よ!!戦いなさい!!」

「…ああもうっ、わかったよっ!」

 

 背を向けるのをやめにし、正面から黒い少女に向き合うスーパーキヴォトスロボ。それを見て、覚悟を、そしてただならぬ執念を。確かな勝算を感じ取ったのだろうか、少女は。

 

「……面倒だな」

 

 その体から、いくつかの球体と。黒い縄を取り出した。

 

「……なに、あれは」

「っ、サユリ!!」

 

 直後、球体の一つは爆ぜ。次の瞬間には、視界から消える。

 

「っ、どこに」

「後ろよ!」

「いいや」

 

 姿を追い、後方に映る影。しかしそれは、脱ぎ捨てられたコートに過ぎず。

 

「下だ」

「っ、ぐぅっ……!」

 

 防御すら間に合わないほどのスピード。強烈な爆風で、数百トンの機体が地上数十メートルまで吹き飛ばされた。

 

「まずい……!サユリ、今すぐ地上に!!」

 

 括り付けられたロープ。真っ黒なそれはどこまでも、どこまでも伸び切って。引き寄せられる感触が、わずかにあった。

 

「ぐ、装甲60%破損……!ごめん、一分どころじゃないかも……!!」

「言ってる場合じゃない!早く」

「遅ェよ」

 

 再度の爆発。声の主によってもたらされたものだと、二人にもすぐにわかった。

 

「な、ぁっ……!?」

 

 予想外だったのは、持続するその衝撃。一撃では飽き足らず、何度も、何度も。ロボットの周囲を縄と爆弾で立体的に動き回り、幾何学模様を描くかのような軌跡を残して破壊し続けている。

 

「サユリ、ロープを!!」

「了解!!」

 

 括り付けられたロープを破壊しても、すぐにまた別のロープが括り付けられ。その行為は、無意味であるとわかった。

 

「ど、どうなってんのあれ!!」

「……信じ難いけど……作ってるのね……!新しく……!」

 

 彼女の持つショットガンや、あの黒い球体と同じ。彼女の持つ特殊な何か……正確には恐怖(terror)の名がつけられているが、彼女は知る由がない何か。それを物質として扱い、巧みに操っている。そう考えるほかない。

 

「質量とエネルギーの等価性はどこ行ったのよ!!」

「むずかしい言葉使うな!頭おかしくなる!それこそ科学なんだろ多分!」

 

 軽口を叩きながらも、状況は極めて悪い……なんて言葉では、言い表せないほどに悪い。

 これだけ必死に戦って、未だに相手の底が見えない現状。マユミの知る桐花スオウよりも、さらに数段強い。

 

「意味不明もいいところね……!!」

 

 生物の限界を明らかに超越している。果たして、このキヴォトスにおいて彼女を倒せるものがいるのかさえ。

 

「マユミ……!もう、限界だよっ……!!」

「わかってる……あと少し……!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……よし……サンニーイチで逃げなさい!!」

「三秒って……!無茶、言うなぁああああ!?」

「行くわよ!!サン!!」

 

 ブレスレットに触れる。スーパーキヴォトスロボの、遠隔操作。

 

「ニー!!」

 

 迷彩を解除。エネルギーを放出しながら、走らせる。

 

「イチ!!さあ!!」

「逃げろーッ!!」

「……逃すわけが」

 

 この場へ……ではなく。

 

「っ……!!」

 

 黒い球体。アリウス居住区の元へ。

 

「マユミ、今のは!?」

「キヴォトスロボのレーザー!私のやつで球体を攻撃したの!!」

「おまっ……!無茶苦茶するなぁ!?」

「いいから逃げなさい!!急いで!!」

 

 逡巡。黒い少女は、サユリの目には迷っているように見えた。

 このまま逃げ果てようとする自分達を追いかけ、確実に倒すべきか。黒い球体で起きた異常事態に対応するべきか。

 

「え、ね、ねぇ……!何あれ……!どういうこと!?」

「……」

 

 その行為は、マユミとって確信を与える。与えてしまう行為だ。

 

「……消えた……」

 

 彼女は何よりもアリウス自治区を優先する。()()()()()()()()()()()()()()()()と。

 

「どうなってんだよマユミ!説明しろよ!!」

「っるさいわね……私だって、心の整理がついてないのよ……自分で勝手に考えなさい」

 

 あれほど、自分達を守ってくれたスオウが。

 

「なっ……!そんな言い方ないだろ!?今の行動、絶対……!」

「やめろ……」

 

 あれほど、自分を救ってくれたスオウが。

 

「どうなってんの……!?なんでスオウさんが、あんな……!」

「……やめて」

 

 あれほど、自分を肯定してくれたスオウが。

 

「だってあれ、私たちのこと」

「やめろって言ってんのよ!!」

 

 あの時。サユリが来なければ。

 

「やめてちょうだい……おねがい、だから……」

「……ごめん」

 

 スオウはマユミを、殺すつもりだった。

 倒すでも、気絶させるでもなく。ヘイローを破壊する。殺す。

 

「なんで……どうしてよ、スオウさん……!」

 

 スオウがそんな感情を向けた相手は……後にも先にも、マユミが知る限りはベアトリーチェ、ただ一人。

 

「何があったの……?まさか、本当に……」

 

 スオウは『色彩』による狂気に侵食され、あそこまでおかしくなってしまったのか。ユウカからのメッセージの内容に書かれていた現状。『色彩』の詳細を知ったマユミの絶望は、深かった。

 

「……ほら、マユミ。止まってる場合じゃないだろ。逃げよう」

「……ええ……ええ、そうね」

 

 手に握るのは、スーパーキヴォトスロボの自爆ボタン。スオウが球体に近づいた時点で、マユミはそれを押下し……自らの最高傑作ごと、恩人を葬り去るつもりだ。

 

「って、葬り去るは物騒ね……」

 

 そう、殺すつもりなどない。殺すことなどできない。

 このキヴォトスにおいて人殺しなど、よほど根深い殺意がない限り。

 

「っ……!?何!?」

 

 揺れる操縦室。画面に映し出されるのは。

 

「あははっ……なんだよ、これ……」

 

 巨大な黒い泥は、サユリの機体を絡め取っていた。

 

「っ……!?私のロボは!?」

 

 機体信号はない。動力を一突き。それだけの弾丸で破壊された形跡があるばかりだ。

 

「あーあ……最後はマユミと一緒かぁ」

「……ごめん、サユリ……私の想定が甘かった……」

 

 もう逃れる手段は、ない。迫り来る絶望を目を閉じて耐えるほか、できることなど。

 

「最悪の気分だね。よりによってマユミとか」

「……あ、アンタね……最後の最後まで憎まれ口を……!」

 

 ない。などと、サユリは考えていなかった。

 

「だってマユミって高慢ちきだし、天才とか言ってるけどちょいちょい普通にバカじゃん。それに趣味も合わないし」

「……はああ!?何よアンタ!!私だってアンタと最後が一緒とか御免よ!!大体アンタはヒーローとか言ってるけどやってることただのチンピラじゃない!料理も下手だし味覚バカが!!」

 

 徐々に、徐々に落下していく機体。

 

「料理はマユミも人のこと言えないだろ!?なんだあの料理!!粉っぽすぎて食えるか!!」

「大事なのは栄養素よ栄養素!アンタの料理はそれ以前の問題!!何よあの地獄の沼みたいな料理!!」

「なんだと!?」

「なによ!!」

 

 それでもなお、言い争いは止まることなく。

 

「……はぁ……やっぱり、マユミと一緒に『ヘイローを破壊』されるとか、勘弁願いたいね」

「こっちだって!」

「だから……」

 

 サユリは、ベルトを取り出した、

 

「だから戦うぞ、マユミ」

「……え?」

 

 先程までの態度はどこへやら。今度は真剣に、マユミに向き合っていて。

 

「戦うぞ、マユミ。大丈夫。私たちなら勝てる」

「なに、言って……さっきだって、ボコボコに……」

「スオウさんを人殺しになんてさせない」

 

 同じ絶望。同じ恐怖。それらを抱えていて、サユリは尚。

 

「戦うぞ、マユミ。最後まで」

「っ……!」

 

 希望を見出した。お前と二人でなら、と。

 

「……はんっ!言い争いは終わってないわよ」

「はいはい。どうせいつも通りマユミが負けて終わりだよ」

「それはアンタがリアルファイトに発展させるからでしょうが!!」

『ACCEPTED!!!』

 

 マユミも同じくして、ベルトを取り出す。同時に、バックルを空いた空間に差し込み。

 

「サンで行く」

「了解よ」

「イチ、ニの……!」

 

 そして。

 

「さ」

『O-O-O-OVER DRIVE!!! ARE YOU READY!!?』

「こ、のぉおおおおおおおっ!!」

「……」

 

 機体から出たマユミ達を照らす雷。雷光を反射する、真っ黄色な機体。鎧。

 

「マユミちゃん!サユリちゃん!!助けに来たよ!!」

 

 甘川アシリが、スオウを殴り飛ばす。マユミとサユリは見たのは、そんな光景だった。

 

「……え、えぇ……?」

「なんか……せっかくカッコつけたのに、締まらないわね……」

 

 助けられたことには助けられた。それを恩に着せるわけでもなく、まず真っ先に自分の心配。感謝するべきだろう。

 けれども、それよりも最初に。

 

「相変わらずオーバードライブ使うの早すぎ!!」

「慎重にっていつも言ってるわよね!?」

「だ、だってぇ!!サユリちゃんロボがやられかけてたし!!マユミちゃんロボもなかったから私、不安で、不安でぇ……!!」

 

 それよりも最初に、説教だ。先程までの緊張感が、一気に減っていくのがわかった。

 なにせ、これで無事にキヴォトス戦隊が三人揃ったのだ。これで百人力。加えて、マユミの機体も自己修復が進められている。今すぐにでも、変身合体は可能。

 生き残ることに根拠ある希望が見えてきたことを、喜び始めた直後。

 

『COOL DOWN……』

「へっ……あ、あぅうぅ……?」

「あーあー言わんこっちゃない」

 

 出力を上げすぎたことにより、アシリの変身は解除。いつも通りの腑抜けヅラに安心しながらも、視線を遠方に走らせる。

 

「どれ……」

 

 先程吹き飛ばされたスオウが、戻ってこない。あれで倒せたとは考え難いが、できれば戻って来ないでいてくれれば御の字。

 願わくば、そのまま気絶でもしていてくれれば、と。

 

「そんなうまく、いかないわよねぇ……」

「……」

 

 そんな願いも虚しく、スオウは立っていた。マユミ達の後ろに。

 

「アシリ、下がりなさい。今度は私たちが守る。その間に少しでも……」

 

 変身はすでに完了している。一人でなく二人なら、多少の時間稼ぎもできるはず。

 そんな意図から、マユミはスオウを睨みつけて。

 

「アシ、リ……?」

「……え」

 

 スオウの言葉。そしてその表情に、大きな違和感を覚えた。

 

 

 

 

「……サオリ……本当なの、それ」

 

 球体の中。アリウス自治区。

 

「ああ……間違いない」

 

 黒い球体に周囲を囲まれ、自治区内では電気が点けられている。まだ昼間だというのに、まるで新月の夜のようで。

 

「ミサキ達が言う通り、スオウはあの場所にいた……いや、恐らくいたんだろう」

 

 サオリが思い返すのは、自治区が球体に包まれる直前。空が赤く染まる、少し前。

 スオウを探しに出たサオリは、確かにそこでスオウを見つけた……はずだった。

 

「……」

 

 無数の血痕。銃弾の跡。その上に佇む、真っ白な長い髪。黒いコートを羽織った少女。

 彼女は、サオリを一瞥することさえなく姿を消して。

 

「あれは……あれはスオウであって、スオウでない……」

 

 その姿は、まるで髪を切る前のスオウのようで。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それを見たサオリは……柏有マユミと、まるで正反対の結論に至ったようだった。

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