ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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【最終編】虚しい決着

 黒い物体に包まれたアリウス分校。その中に閉じ込められた少女達は、皆一堂に会していた。

 

「……それじゃあ改めて、現状の確認。いつも通り過ごしてたら、いきなりアリウス居住区全体がこのよくわかんないので包まれた」

 

 戒野ミサキが親指で指した先には、空の代わりに何も写さない一面の闇が映されるのみ。

 

「はい、間違いありません。そしてこのよくわかんねェ腐れぶっし……失礼しました。仮に『物体』と呼んでおきますが……」

「ヤコちゃん、元ヤン出ていてててててて」

「この馬鹿と私が足を使い調べたところ、私たちはこの物体によって円状に区切られた区画内に存在しているようです」

「多分だけど、球体になってるんだろうね。ヤコちゃん、そろそろ離して」

 

 ヨセのタップを無視して、ヤコはここに至るまで何時間ほど経過しただろうか、と追憶する。

 数時間前、真っ青な空を突如として包んだ黒いナニカ。外部への通信もできず、完全に外と遮断されている。

 

「下まで掘ってみたけど、そっちも区切られてたねー……本当、お手上げって感じ?」

「マジでワケわかんねェ状況だな……」

 

 スコップを肩にかけるレイに犬を想起しながら、それでもなおその情報はありがたい、と、ヒヨリはメモ帳に書き連ねていく。

 この会議とも呼べない話し合いの情報をまとめる。大役を任されてしまった故、指先は震えるかと思ったが、そんなことはなかった。

 と、いうのも。

 

「……そして何より、小隊長の不在。有り体に言えば、行方不明というやつだね」

 

 姉を名乗る異常者、桐花スオウの不在。彼女が行方不明になったり、あるいはその姿をくらます、勝手なことをするのは初めてのことではない。

 だが、今回は明らかに状況が違っているのだ。

 

「……サオリ、改めて」

「……ああ……恐らくだがこの中でスオウを見たのは、私が最後……だと、思う」

 

 反論する者は誰もいない。ならばそれで間違いないと、サオリは自分の記憶にあるスオウについて語り始める。

 

「スオウは、いつもの場所にいた……だが、その様子が……いや、結論から話そう。恐らくアレはスオウであって、スオウではなかった」

「……小隊長……なのに、小隊長……じゃない……どういうこと……?」

「私が見たのは……」

 

 血の池の家に立つ、一人の少女。真っ黒な衣装が日に照らされ、その澱み切った瞳が光を返し。

 そんな狂気的な様子が神話のように幻想的で、美しくさえも思えた。

 

「……髪も伸び切っていて。コートが黒く。傷一つないスオウ、だった」

「何その小隊長の対義語みたいな人」

 

 茶々を入れるヨセを引っ叩いたヤコに苦笑いしつつ、確かに、と納得させられる。

 スオウの髪はさして長くないし、コートは無垢に白く染まっている。が、その戦い方故生傷が絶えないのが彼女だ。

 

「いったぁ……い、いやでもさ!?普通にそうなるでしょ!?だって何!?なんで小隊長そんなことになってるの!?イメチェン!?」

「……スオウが髪を伸ばしたら……同じ髪型にできるね」

「うわぁ!?」

 

 ゾッとする言葉を吐くアツコの顔は、どこか恋焦がれているようだった。同じロイヤルブラッドの生き残り、姉妹としての在り方にも少し思うところがあったのだろう。

 とはいえ、周囲の反応は基本ドン引き。背筋を虫が這った、とでも言いたげな表情である。当然だ。

 

「……みんなの気持ちはわかるけど、今は真剣に話を聞こう。サオリ、スオウは血の上にいると言ってた。でも、傷はないとも。スオウの他に誰かいたの?」

「いや、スオウだけだ。そしてアイツが姿を消した。正確には、泥でできた穴に入って……その直後に……」

 

 溢れ出す泥。それが徐々に、徐々に空を包んで。

 

「空が黒く染まり切って、この状況に至る」

「……んだそりゃ。小隊長がどーなってンのかは結局分からず仕舞いかよ」

「いや、そうとも言えないよ」

 

 サウの不満に割って入るように、トウが告げる。自分に策あり、とでも言いたげな様子だった。

 

「なんとシオがだね」

「うぅっ、えほっ……うぁあぁぁああ……おねえちゃん……おねーちゃんっ……!」

「……し、シオがだね!」

「おねえちゃん、待ってて……私がきっと、お姉ちゃんを造って……造り直してみせる……!ふっ、けほっ……!わた、私がっ……!私がお姉ちゃんを産む……!う、うぅ……!」

「ああもうっ!シオ、落ち着け!」

 

 そう、様子としてはそうだった。実情はシオのお守りである。可哀想にトウは、その優しさ故シオを泣かせたままにしておくことができなかったのだ。

 そこでママになろうとしているシオとは対照的に、ままならないものである。

 

「小隊長は生きている!そこの錠前サオリが目撃しているんだ!私たちが信じなくてどうする!」

「ほんと……?おねーちゃん、生きてる……?」

 

 そんな発言の狂気性はさておいて、僅かに幼児退行したシオは素直だった。これならあやすのも容易だと踏んで。

 

「ああ、きっと!一度でも小隊長が私たちを残して逝ったか!?」

「……割と」

「……なるほど、論破されてしまったね」

「うわぁあぁあああああん!!おねえちゃぁああああああん!!」

「何やってんのお前?」

 

 けれども彼女は選択肢を大いに間違えていた。サウが若干丁寧な口調になる程度には。

 

「ああもうっ……!いいか、シオ!いずれにせよ私たちにできることは限られている!だから今は、少しでも小隊長に繋がる情報を共有したい!違うか!?」

「ぐすっ……ちがわない……」

「小隊長も言っていただろう!三人よれば三位一体(トリニティ)!私たちには協力が必要なんだ!」

「それそのまんまじゃない?」

 

 ミサキの冷静な指摘を無視して、トウは一人で盛り上がって行った。それがシオには随分と効果的だったようで、彼女は泣きながらも顔を上げて。

 

「……うんっ……うん!そうよねっ!お姉ちゃんが簡単にやられるわけないわ!……う、うぅ……!」

 

 かなり無理をしながらも、ようやく話は本筋に戻ってきた。

 

「それで……シオ……なに、したの……?」

「お姉ちゃん以外と喋るのは癪だけど……まず私とトウは、錠前サオリが言ってた血痕の場所に向かったの……」

 

 途中途中涙を掌で拭いながらも、なんとかシオは話を続ける。

 

「それで、実際それはあった……かなりの血の量よ……お姉ちゃんなら大丈夫だと思うけど、普通ならしょ、ショック死……しちゃっても、おかしくないっ……!お姉ちゃん……!」

「大丈夫さ、小隊長はよく血を流すからね。応急キットは常備している」

「うん……!そ、それで……その血痕から、遺伝子情報を採取したの……」

 

 本来であれば時間のかかる作業だが、そこはキヴォトスの超技術。ここに至るまでの数時間で完了したようである。

 

「……その遺伝子情報が、お姉ちゃんのものと一致したわ」

「え……」

 

 つまりあの場に散らばっていた大量の血は、スオウ本人のものであるということ。

 

「そんな……どうして……」

 

 無論スオウは無傷だったというサオリの供述とは矛盾が生じ、何がどうすればそんな状況になり得るのか、という疑問が浮かぶ。

 

「どうして小隊長の遺伝子情報を持っているのですか……?」

「……黙秘権を行使するわ」

 

 だがそれ以前に当然抱かなくてはいけない疑問を、ヤコは見落とさなかった。

 

「……シオへの追求は後で取り行うとして。状況が混乱を極めてきましたね」

「サオリ、スオウが無傷だったのは間違いない?」

「ああ、見える範囲では。所々返り血はついていたが」

 

 全員が首を捻り、沈黙。今まで生きてきた世界とは縁遠い、まるで空想上の出来事のような現実。それでもなんとか可能性を列挙していく。

 

「小隊長にそっくりな別人では?」

「……顔は、完全に一緒だったように思えるが」

「生き別れの姉妹とか……」

「アイツも私たちと同じ孤児だよ。捨てられた時親以外いなかったって」

 

 一つ、顔がそっくりなだけの別人という線。ロイヤルブラッドである彼女の姉妹なら、相手もまたロイヤルブラッド。ベアトリーチェが確保しない理由はないだろうと棄却された。

 

「あいつのクローンとか」

「聖徒会のようなものか」

「……確かに、雰囲気はそれに似ていた」

 

 二つ、ベアトリーチェやゲマトリアが作ったスオウのコピーという可能性。現実としてユスティナ聖徒会を見ている彼女達にとって、比較的信ぴょう性のある話だ。

 

「だ、誰かに操られてる可能性はないでしょうか……禁書みたいに……」

「……コハルがこの場にいればよかったけど」

「アズサ、あれはフィクション……というか、血の説明がつかないでしょ」

 

 三つ、洗脳や乗っ取り。ゲマトリアならば技術により或いは、と思われたが、血痕によりそれは否定された。

 

「……普通に小隊長の可能性はねェのか?」

「なんかあれだよね。邪な感情と善なる感情に別れたみたいな」

「根っこはさておき、邪な成分の方が大きそうだねー。私たちに向ける目線的に」

 

 四つ、スオウ本人である。複数人に分裂した、本人が二人いた、などの可能性も考えられる。

 

「……だが、そのどの可能性にしろ……少なくとも今の小隊長が普段のそれである可能性は極めて低い。その認識でいいかな?」

 

 トウの総括を否定する者がいないことを確認し、彼女は手を叩いて。

 

「よし、じゃあこれからは自分たちの安全を優先しよう。この場所からの脱出手段を探すべきだ」

「ふざけんじゃないわよトウ!!私は一人でもっ、あぅ……」

「無理するなよ引きこもり。気持ちはわかるが……私たちの身に何かあれば、それで最も苦しむのが小隊長だ。違うか」

 

 分からないこと、ここで言うとスオウの行方と現状を延々と考え続けても仕方がない。そんな時は一旦棚に上げて、今できることに着手するに限る。というのが、トウの持論だ。

 実際、この場ではそれもそう間違った選択肢ではない。

 

「……私も賛成だ、何せ……先程から外の戦闘音が酷くなっているからな」

 

 この場所が安全だ、と言い切れる保証などないのだから。

 

「……音が聞こえる、ってことは、この物体も振動してるんだよね。じゃあ、無敵じゃないはず」

「べ、勉強がこんなところで役に立つとは思いませんでしたね……!」

「それだけじゃない。完全に覆われているなら、そろそろ私たちも酸欠症状が出てくるはずだ。だからこれには抜け穴がある……はず」

 

 激化する戦闘の音。果たして誰と誰が戦っているのか。それは分からないが、かなりの実力者同士の戦いだろう。

 

「……なんかさ、こうして見ると」

 

 ミサキが、ふと。

 

「私たちを守ってるように見えるよね。この黒いの」

「……ああ……まるで」

 

 スオウのような。誰しもが感じていた、そんな想起。また自分達は、スオウによって守られているのではないか。そんな予感。

 だがそのやり方は、今までに比べて随分と強引で、無理矢理なもので。

 

「お前は今、どこにいるんだ……スオウ……」

 

 だからこそ、サオリは確信していた。

 エデン条約。海での出来事。その二つを通したスオウならば、絶対にこんなやり方はしない。

 

「……無事でいてくれ……きっと、迎えにいくから」

 

 今自分たちを守っているのは、スオウではない。以前までのスオウ。もっと別のナニカだ、と。

 

 

 

 

「「変身合体!!」」

「へ、へんしん……がったぁい……!!」

 

 そんな会話を繰り広げる球体の外側で。青、赤、黄、三色の機体が変形と駆動を繰り返し、一つの機体へと組み変わる。

 

『スーパーキヴォトスロボ、参上!!!』

『アシリィ!!オーバードライブの影響はどう!?』

『ま、まだだめ……ゆびいっぽんうごかせらい……!!』

 

 マユミ達が持つ奥の手中の奥の手。三位一体のスーパーキヴォトスロボ。彼女達が持つ変身のさらに一歩先の段階、未だ敗北を知らぬキヴォトスにおいて最強の機体。

 

「……また、珍妙なのが出てきやがったな」

 

 対するはキヴォトス準最高峰の神秘、そして最高クラスの肉体を併せ持つ神の化身。

 

「いい加減、くどいんだよ……!!」

 

 マユミはこの機体に絶対の自信を持っている。なにしろ、自分が十年の歳月をかけ漸く完成に至った最高傑作。彼女の人生そのものと言い換えてもいい。

 通常のスーパーキヴォトスロボならいざ知らず、合体したスーパーキヴォトスロボはその相乗効果により極めて高い出力を誇る。普段ならば、己の敗北など間違っても見えてこない。

 

『っ、なにあれ、地面から黒いのが……!』

 

 故にこれは、彼女にとって初めて抱く恐怖。

 

「ぶっ壊れろ、クソブリキ……!!」

『っ……!!』

 

 この機体が滅び、培ってきた自信と誇りを完膚なきまでに叩き壊される恐怖が。

 

『オーバドラ』

『落ち着けマユミ!!この程度!!』

 

 地面から押し寄せる無数の弾丸。強制的に左腕部を操ったサユリにより展開されたシールドで、それらは一つ残らず防がれた。

 

『らしくないよ!キヴォトスロボは最強なんだろ!?』

『っ、ええそうよ!その通り!たとえスオウさんにだって負けないんだからっ!!』

『ちょ、ちょっと待って!!スオウちゃん!?』

 

 一向に動く様子のない右パーツ担当、甘川アシリが疑問を叫ぶ。と同時に、桐花スオウが動き出す。爆弾による加速でほとんど飛行に近い動きを再現。

 

『そうよ!!さっきあんたもぶん殴ってたでしょ!!』

 

 黒いロープで引き寄せられる機体。同時に、握りしめた拳による頭パーツの殴打。頭部に操縦者がいると踏んでの行動だろう。実際、それは正しい。

 

『マユミ、冷気よこせ!』

『了解よ!』

 

 その程度の対策をしていなければ、という話だが。

 マユミが差し込んだ変身ガジェッドにより、キヴォトスロボに伝達される冷気。それはカメラパーツから、一筋の光線となってスオウの拳に吸い込まれた。

 

「っ……!」

『ぶん殴ったけど、そんな見る余裕なかったよ!?二人を守らなきゃって、それで』

『そうだったわね、助かったわ!だったら今よく見てみなさい!!』

 

 凍らされた腕に爆弾を埋め込み、爆発。同時に、加速によって一時離脱。その際のスオウの顔を、カメラが捉えていた。

 

『ほ、本当にスオウちゃん……!な、なにあれどうなってるの!?』

『色彩ってやつの影響らしいわ!でも、今のスオウさんは正気じゃない!』

『前とおんなじよ!いっぺん殴って正気に戻してやればいいの!!』

『一回殴ったけど!?』

 

 一見するとふざけているようにも見えるが、この機体の脅威は先程よりもさらに上。恐らくアバンギャルドなど、理外に存在する科学によって生み出されたものに近い。

 わずかな時間での観察。それだけで、スオウは充分にこの機体の脅威を感じ取った。

 

『じゃあ何回でも殴るぞ!人ってのはなァ!!殴れば治るんだよ!!』

『そんなわけないじゃん機械じゃないんだよ!?』

『機械も直らないわよボケナスども!!ほら次、来るわよ!!』

 

 だからこそ、後先は考えない。()()()()()()()()()を気にするのも、もうやめだ、と。

 

『っ……!なぁ、マユミ……!次って、あれのことか……!?』

『っ……そうよ……!』

 

 彼女が展開したのは、視界を埋め尽くす無数の手榴弾だ。

 

『選択肢は三つ!冷気で化学反応を抑制する!炎で上空に留めたまま爆発!!電気で同じく!!二秒で選べ!!』

『オーケー、二つ目!!』

『G-G-G-GEHENNA!! ARE YOU READY!!?』

『ぶっこわれろぉ!!!』

 

 多量のエネルギーを消耗する必殺技、その一つ。背面が砲台のような形に展開され、そこから火炎放射器の要領で炎が発射される。

 結果として上空で爆弾は連鎖的に反応し合い、攻撃は防がれた。かと、思われた。

 

『っ、し、侵入者発見!展開した背面パーツから入り込んだみたい!!』

『迎撃システム起動!!装甲の一部をパージして、ジェット噴射で追い出すわ!!』

「チッ……」

 

 たとえ『反転』した生徒と言えど、神秘が転じた恐怖の性質は変わらない。『ヘイローを破壊する爆弾』で崩壊させられるように。不可能を可能にする力ではなく、故にスオウは浮遊ができない。

 それに付け入る形での、パーツごと分離した排除。

 

『ああ、それは()()()よ』

「っ……!」

 

 そして、その隙を見逃すマユミではない。迎撃用ロボに搭載した電撃爆弾を分離パーツに搭載。それはスオウを痺れさせ、ほんのわずかな時間でもシナプスに異常を発生させるのに充分だった。

 

『それにしても、あの戦い方……やっぱりあれを作ったのはスオウさん、ってことでいいんだよな?』

『ええ、そうらしいわね』

 

 巨体を活かしての重量攻撃。踵落としに続けて、強烈なラッシュを叩き込む。スオウならばこの程度問題ない。むしろ、これだけやらなければならない。三人の共通見解だった。

 

『スオウちゃん、一体何が……』

『アシリ、オーバードライブの影響は大丈夫かー?』

『う、うん、なんとか治った……あ、あの黒いの、なんなの……?』

『さあ。マユミの方が詳しいだろ』

 

 突如、スーパーキヴォトスロボが動きを止める。否、無理矢理に止められた。スオウの掌から発生する黒い物質が、粘性を持って絡みついて。

 

『ほら駄弁ってる余裕なんてないわよ!!サユリ!』

『オーケー!』

 

 サユリが差し込んだガジェットにより全身から発せられる熱。それは黒い物質に影響を与えることはなく、けれどもスオウとの繋がりは絶たれた。熱伝導性は持ち合わせている。

 

『かーらーの!』

 

 直後、冷却。突如として、全身に絡んだ泥のような物体がバラバラに崩壊する。

 

『ってことで今見たように、謎物質!!性質としては金属に近いのかしら!?アシリ!』

『えっ!?……あ、う、うんっ!!』

 

 マユミの合図で電撃を発するアシリ。それは複雑な軌道を描きながらスオウの元へ向かい、すぐさまに黒い壁で遮られた。

 

『電気は通さない……ったく、わけわかんない物質ね!展性も延性もあるのに電気通さないってどういうことよ!!誰か説明しなさいよ!!』

 

 八つ当たりに近いマユミの攻撃。展開した巨大な銃でスオウを撃ち抜いてみるが、弾丸が拳で簡単に貫かれてしまう。神秘で強化したとは言え、直接的な攻撃は意味が薄いようだ。

 というよりも。

 

『あ、あれだけやっても無傷だよ……!?』

『……』

 

 今尚、スオウが手傷を負った様子がない。自らの攻撃で腕を壊すことも多々あるが、それらは泥ですぐに塞がれてしまう。

 

『……ちょっと違うな。手傷を負わせても再生してるんだよ。意識外からの電気爆弾は効果があったし、付け入る隙はある』

『ほ、ほんとに……!?』

 

 違和感をよく観察し、弱点を見つける。サユリの目は優秀だった。そう、アレは断じて無敵ではない。攻撃すれば手傷を負い、電撃を受ければ体が痺れ、過剰な力で殴れば拳が割れる。

 それがサユリの言うところの、付け入る隙。

 

『いえ、そこだけじゃないわ』

『……?』

『アシリ、あんたもよ』

 

 マユミが見つけた弱点。隙とは、また違ったものだ。

 

『気づいてるかしら?私たちは……今、手加減されてるのよ』

『あ、やっぱり?』

『え、えぇ!?』

 

 アシリとサユリの反応は正反対。手加減のない状態のスオウと戦っていたか否かによる違い。だけではない。

 手加減をされている本人だからこそ、その事実に気づけなかった。そんな側面があることもまた、否定し難い事実である。

 

『それもこれも、アシリが来てから……二人は見たかしら?アシリの素顔を見た時の、スオウさんの反応……』

『う、うん……!なんか、びっくりしてたけど……!』

『私たちには無反応どころか、殺されかけたんだよね……』

『え……』

 

 マユミが抱いた違和感。自分たちには無反応だというのに、アシリにのみ反応を示したスオウの姿。そう、この違和感の正体は。

 

『嫉妬心……!!』

『そこじゃないだろ重要なのはァ!!』

 

 スオウの爆弾を拳で殴り防ぎながら、盛大なツッコミを入れるサユリ。

 もちろん嫉妬心が含まれているのもその通りだが、マユミが抱いた違和感はそれではない。

 

『……私とサユリには無反応。でも、アシリを見た瞬間手加減をし始めた……それに加えて』

 

 一瞥する余裕もないままに、マユミは脳内であの黒い球体を思い返しながら。

 

『多分、アリウスの子達のことは覚えてる……私の目には、あの黒いので守ってるように見えるの……』

 

 アリウス分校とアシリのことは覚えている。だが、マユミとサユリのことは覚えていない。

 仮にスオウが色彩の狂気に呑まれたというのなら、この差はどこから生まれたのか。そもそも、そのような差が生まれる余地があるのか。

 

『私たちはもしかしたら……まったくべ、の……ざ、と……』

『……マユミちゃん?』

 

 突如、通信が途絶する。直後。

 

「……見つけた」

『なっ……!?』

 

 爆発。それも、内部から各キヴォトスロボの接合部で。

 

『やられた……!』

 

 機体に取り残された状態で、マユミは呟く。

 繰り返された黒い泥による拘束。その真意は拘束でなく、スーパーキヴォトスロボの接合部を探すことにあった。

 

『っ、やっぱり……』

 

 その装甲の強化が、三つの動力源の乗算にあることに勘付いて。

 どちらにせよ、再度の変身合体をするしかない。だが、当然。

 

「逃がさねェよ」

 

 それを許すスオウでもない。

 

『……仕方ないわね。アシリィ!!サユリィ!!()()を使うわよ!!』

『……は、はぁ!?()()!?マジで言ってる!?』

『せっかく作ったのにぶっ壊されちゃうよ!?いいの!?』

『壊れたら作り直せばいいだけ!背に腹は代えられないでしょ!?』

 

 目の前に降り立つスオウ。三対一。しかし、状況は絶望的。今のスオウが本気になれば、スーパーキヴォトスロボの三体程度破壊できてしまう。

 

『……来い!!』

 

 なればこそ。マユミは、もう一つのブレスレットに手をかけて。

 

『すぅ、っ……?』

 

 ()()()()()()()

 

『っ、マユミィ!!これって!!』

『やったのね……!先生!早瀬ユウカ!!みんな!』

 

 それは六つのサンクトゥムタワーの破壊に成功し、キヴォトスが色彩の影響から解放されたことを示す。

 

『マユミちゃん!』

『ええ、援軍を呼ぶわよ!!みんなで戦えば、きっとスオウさんもなんとかなるわ!!』

 

 色彩の影響から解放する方法は、今百鬼夜行が血眼になって探してくれている。それならば、今はこのスオウを打ち倒しアリウス分校の安全確保をすることが優先。

 拘束、気絶させれば、スオウはもはや脅威ではない。必要なのは、時間稼ぎ。

 

『行くわよ、サユリ、あし、り……?』

 

 そんなマユミの決意と裏腹に。スオウはマユミではないどこかを見ていた。どこか遠く、遥か遠くを。

 

『あの方向は……』

 

 スオウの視線を直線上に伸ばした先にあるのは、『シャーレ』だ。

 

『なんで……』

 

 直後、スオウは口を開き。

 

()()()()……!!」

『……は?』

 

 マユミ達にとって、晴天の霹靂。予想にもなく、その意味を理解することもできない。そんな言葉をこぼして。

 

「……」

 

 スオウは突如、黒い泥を空間に落とす。

 

『っ、あれは……!!』

 

───さっきの戦いでも見た。

 

 言葉にならない思考から、どこかへ姿を眩ますつもりだと即座に反応。それはサユリとアシリとて、また同様だった。

 

『逃がさないわよ!!』

 

 スオウを元に戻すためにも、ここで逃すわけには。そんな様子を一瞥して、スオウは。

 

「……もう、いいよ」

 

 視界で捉えきれないほどの、大量の銃を展開する。

 

『へ……』

「これ以上やっても、無意味だ」

 

 彼女にとっても、軽い負担ではないのだろう。鼻血を垂らしながらも言葉を続ける彼女の姿は、なぜだか少し優しげだった。

 

「だからもう、終わっていいんだ」

 

 体を穿ち続ける、無数の弾丸の雨。手加減があった先ほどまでのそれとは違い、確実にこちらを仕留めるための技で。

 

「……全ては、虚しいことなんだから」

 

 そんな言葉と、ボロボロに壊れたスーパーキヴォトスロボだけを残し……桐花スオウは、その姿を穴の中へと消した。

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