ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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【最終編】想定外の出会い

 黒服からの助言によって得ることができた、色彩に対抗し得るだけの、この世界に残された力。

 

「まさかアビドス砂漠の地下に、こんなものが眠ってるなんてね〜。おじさんもびっくりだよ」

 

 そのオーパーツの名は。

 

「ウトナピシュティムの本船……宇宙戦艦というものが実在したとは」

 

 ウトナピシュティムの本船。空を征く、量子コンピューターに近い演算機を搭載した機械仕掛けの宇宙戦艦であった。

 

「くっ……!一体何がどうなってるんだこの船は……!」

「燃料、動作原理、エンジン構造、設計に至るまで……何から何まで意味不明の塊」

『ふざっけんじゃないわよエンジニア部ゥ!!!あんたたちの限界はそんなもんなの!?エンジニア部の威光にかけて解析してみなさいったら!!そして宇宙戦艦を完成させてやるわ!!この私が!!』

「一ヶ月でウチをやめたくせに偉そうに……」

 

 エンジニア部の解析に茶々を入れるマユミだが、彼女自身は真剣そのもの。ともすれば、現段階でもスーパーキヴォトスロボの大幅な強化に一役買うかもしれないのだ。

 

「まあとりあえず、入出力の関係についてデータは取っておくよ。一部回路も保存しておこう。マニュアルの進捗はどうだい?」

「今1251ページ目です!!」

『だれよコトリにマニュアル任せたの。ちょっとそれ見せなさいったら、添削するわよ。多分千ページ以上カットできるわ』

 

 エンジニア部がその威信にかけて任されたのは、ウトナピシュティムの本船の操作マニュアル作成。

 彼女たちはその機構を理解できないまでも、その動作から操作方法を推測。異様なスピードでのマニュアル作成が進められていた。通信越しに興味津々のマユミ(オマケ)と共に。

 

「というかマユミ、君はここにいていいのかい?『全知』が来てるのに」

『はんっ!!あんな状態のあいつに勝っても勝利とは呼べないわ!超絶天才美少女は相手のコンディションを気にする余裕さえあるの』

「そういうの、一度でも勝ってからいうことな気もするけど……」

「毎回ベストコンディションで負けているということですね!」

『うるっさいわね!……わ、私だってね……そのくらいの気遣いはできるのよ……』

 

 天童アリスの一件以来その姿を雲隠れさせていた調月リオ。ヒマリと彼女は、断じて友人ではありはしない。むしろその役職柄、対立することも多かっただろう。

 だが、互いに嫌いあってるかと言えば、それもまた別の話。リオにとっては当然、ヒマリにとっても。

 そんなリオが今、小型AIなどというふざけた姿を装ってヒマリの前に姿を現したのだ。

 

『私じゃ……なのに……話す暇も私が邪魔したんじゃ……そんなの、違うじゃないの……』

「難儀だね、君も」

『別にっ!!ヒマリに気を遣ってるんじゃないわ!!リオよ!!あいつに恩を売ればセミナーの莫大な資金源は私のもの!!ヒマリに気をつかうとか考えただけで虫唾が走るわあー気持ち悪!!気もっち悪っ!!わっる!!』

「今更そんな悪ぶられても……」

 

 ヒマリに勝負を挑むのではなく、対等な関係で対立することができるのは彼女くらいのもの。マユミには戦うことはできても、高め合うことはできない。

 だからこそ、リオにヒマリとの会話の時間を譲った。真っ赤になって言い訳を始めるマユミに、エンジニア部の面々は色々なものが込められたため息をついた。

 

 

 

 

「それではこれより、最終作戦……アトラ・ハシースの箱舟占領戦の説明に移ります」

 

 連邦生徒会長代理、七神リンの前に集まるのは、各校からの選りすぐりの知将たち。この作戦においての要となるウトナピシュティムの本船、その命運は彼女たちに委ねられることとなる。

 

「さ、最後……」

「成功したらサンクトゥムの復活はないわけだし、失敗したらキヴォトスは終わる……」

「そうですね、いずれにしても最後の作戦になります」

 

 成功か、失敗かではない。生き残るか、死ぬか。そのどちらかであると、そのことを強く念押しされる。

 この程度で取り乱すのであれば、むしろ地上に残っていた方が幾分かはマシ。作戦中不測の事態、そして絶望的な状況など、いくらでもあり得るのだから。

 

「成功させればいいだけの話ですよね!?不安を煽るようなことを言わないでください、カヨコさん!!」

 

 そんな意図があったものの、突っかかってくるゲヘナの行政官、アコにカヨコはため息で返事をした。

 

「それに、専門家が集まって検証したんでしょ?これ以上ない、完璧な作戦のはずよ」

「……では、作戦の説明に移ります。私たちの目標は、キヴォトス上空にあるアトラ・ハシースの箱舟を破壊すること。無事破壊できれば、虚妄のサンクトゥム復活を阻止できます」

 

 無事破壊できれば。それが容易でないことは、すでに皆が把握している。

 状態の共存。多次元解釈によるあらゆる物理現象の無視。その解決策はヒマリが提示した通り、こちらも同状態になることが大前提。それでようやく、対等な戦いを始めることができる。

 

「バリアの解析、そして計算はこの私が船の演算装置を用いて進行する予定です」

「……計算に失敗したら?」

 

───私、失敗しないので。

 

 ドヤ顔でそう決めようとしたヒマリだが、ひとまずやめておくことにし、説明に移る。

 

「この私に失敗など考えられませんが、万が一こちらの演算装置が不良状態にあり計算に失敗し……さらにその状態で、バリアが展開されている空間に侵入した場合……」

「場合……?」

「運が悪ければ原子単位でバラバラに、運がいい場合でも、船から弾き出されて地上75000メートルの高さから墜落することになります」

 

 要するに死ぬ。ヒマリの説明は、これ以上なく的確であった。

 

「そ、その高さからの自由落下は……流石にヘイローが壊れてしまうのでは……」

「いや、その前に肉体が耐えきれないと思うよ」

「っ……!?」

「その高さならマイナス60度を下回る。呼吸をしたら肺が凍るだろうから。体液も一瞬で気化するだろうし……どのみち、その環境下じゃ二分足らずでヘイローは壊れる」

 

 長く恐怖を味わう必要がないのは不幸中の幸いかな、と付け足して締めくくるカヨコ。

 

「続けます。失敗の想定をしたところで、不毛ですので」

 

 自分の想定を上回った回答に歯噛みするアコを無視して、リンは話を本筋に戻す。不毛の言葉に先生は肩を跳ねさせ頭を抑えたが、誰も気づくことはなかった。

 

「バリア通過後、箱舟に物理的な衝撃を加え……内部に侵入します。無事に侵入できたら主要施設のハッキングを行い、これ以上作動しないよう徹底的に破壊します」

 

 どんなものであれ、それがたとえ理外の超技術であれ、それが動作している以上制御機構は存在する。エンジニア部の見解を参考にした、嫌な言い方をすればアテにした作戦である。

 

「もちろん、箱舟の内部にいる敵から抵抗を受けるでしょう。攻撃を防ぎつつ、箱舟の各エリアを少しずつ占領(ハッキング)、最終的に箱舟の制御権を奪う……それがこの作戦の最終目標です」

「……制御権を掌握すれば、箱舟自体を自爆もしくは、地上に墜落させることが可能になるでしょう」

『箱舟をハッキングし、奪う……それが私たちの勝利条件』

 

 要するに、カチコミを入れて敵拠点ごと完膚なきまでに破壊する。達成の難易度はさておき、作戦自体は至ってシンプルなものである。

 

『万が一に備えて、地上に戻る方法を探してみるわ』

「そうですね、お願いします。船が壊れてしまった場合、私たちは箱舟に閉じ込められますので」

『では、すぐに取り掛かるわ』

 

 そう言い残して、リオは通信を切った。

 

「アユム、私たちに残された時間は?」

「えっと、サンクトゥムの再出現まで……約十二時間と推定されています」

「うう〜っ……それまでに箱舟を占領しなきゃいけないんだよね?言いたかないけど……これって本当に実現できる作戦なんだよね?」

「はい。何度もシミュレートした結果、成功確率は……なんと、3%もあります」

 

 これを高いと感じるか、低いと感じるか。ゼロに比べれば比較できないほどマシだが、それでも極低確率。

 

「“……”」

 

 具体的には、どこかの世界で三つの星を持つ生徒が募集に応じてくれる程度の確率だ。先生はこの中で、最もその稀さを理解していると言っていいだろう。

 

「……奇跡みたいな確率を味方にするしかありませんね」

「“それでも、やる価値は充分にあると思うよ”」

「……はい。先生のおっしゃる通りです。キヴォトスに到来した未曾有の事態……私たちは不可解な問題にたち向かい、そうして、ここまで至ったのです」

 

 ここまで、長い道のり。理解しようのない予言、そしてエネルギー反応。到来した色彩と虚妄のサンクトゥム、そしてその守護者を乗り越えて皆ここにいる。

 

「成功率が3%だろうと構いません。私たちは、今まで通り作戦を遂行するしかないのです」

「“そうだね。みんなで力を合わせて、やってみよう”」

 

 悲観的なのやら、楽観的なのやら。ここにいる誰もが、死を覚悟した……というわけではない。死ぬつもりで作戦に臨む者など、誰一人居ない。

 それでも、やらなければ待つのは破滅。であればやるしかないだろうと、ある種の義務感がそこには介在した。

 

「それではウトナピシュティムの本船を八時間以内に発進できるよう、準備をお願いします」

「えっ、ちょっと待って!出発って八時間後!?こんな分厚いマニュアルを数時間で覚えろなんて無茶だよ!?」

「できるできないの問題ではなく、やらなければならないのです。マニュアルを把握し終えた方に、オペレーターをお願いします」

 

 たったの八時間で、そんなことを。無茶だと呼んだそれは、確かに不可能に近いだろう。だが、それに拍車をかけるようにして。

 

『いいや。作戦の進行はもっと急ぐべきだ』

 

 一つの通信が繋がった。

 

「セイアちゃん……?」

『突然すまないね。作戦の概要はこちらで勝手ながら把握させてもらった。成功確率が3%……確かに、やる価値は十分にあると言えるだろう』

 

 そう言って話に割り込んでくるのは、トリニティ総合学園、ティーパーティが一員。百合園セイアだ。

 

『ちょっとセイアちゃんそこ邪魔!!あと弾薬準備しといて!!一秒だって無駄にしないよ!』

『はいはい、すまなかったね。それで……作戦の開始が八時間後、だったかい?なるほど、過不足ない……これ以上はないタイミングと言えるね』

「はい。恐らくですが、現状ですとこれが最善の」

『しかし、それは理論上での話だ』

 

 セイアはふと、空を見上げる。暗い空のその奥に、きっと。

 

『このままだと、まずいことになる』

「それは、まさか……!」

『ああ、いや。予言ではないよ。私にその力はもうないからね……これはただの勘。だが、確実性のあるものだ』

 

 海での出来事を始めとし、予知能力を失って以来、セイアには妙な勘の鋭さが身についている。その信憑性は、少なくとも彼女自身にとっては中々のもの。

 

『私の勘によれば、この作戦のままでは……』

 

 予知能力の残滓、とでも言うべきか。その力に従えば。

 

『誰かが。ともすれば全員が、ヘイローを破壊される』

「っ……!?」

 

 

 

 

 突如として目の前に浮かんだ、黒い穴。これは、まさか……!

 

「シロコさん!!下がって!!」

「え」

「下がれッ!!!」

「っ……!」

 

 真剣さが伝わったのか、シロコの反応は早かった。ただ退避するだけじゃない、ドローンも展開している。爆撃準備も万端、いつでも反撃に移れる状態だ。

 だが、これが予想通りの相手なら。

 

「ダメです、逃げて!!これは戦っていい相手じゃない!!あいつには私たちだけじゃ勝てない!!」

 

 そんなことを言ってる間に、爪の先ほどのサイズだった穴は、もはや拳大。

 発見から一秒も経過していない、だってのに展開が早すぎる。だが、ここまで開けば。

 

「私が二発目の弾を撃ったら爆撃!!その後即座にこの場を離れてください!!」

 

 出てきたところを撃つ。初撃はもらう。確実に、一発目で足。手。首、その他正中線上の弱点。どこか一発に当てる。

 継続的なダメージは期待しなくていい。シロコを逃すだけの時間を稼ぐためのアドバンテージを得る。

 

「……いや!」

 

 否。シロコとともに逃げるための時間を稼ぐ。

 何せただでさえ大怪我したんだ。これ以上怪我して妹を泣かせてるようじゃ。

 

「お姉ちゃん、失格でしょうがッ!!!」

 

 掌より一回り大きくなった穴。最低限のダメージを与えることのできる神秘は溜め込んだ。このまま一発。

 

「よしっ……!」

 

 さらに、もう一発。人間は光よりも音を早く観測する。加えて、シロコの聴力は四つの耳で二倍。というのは適当だけど、人よりは早い。

 要するに、最速でのドローン爆撃。であれば。

 

「ナイスシロコさん!逃げますよ!!」

「わ……」

「口閉じて!舌噛みます!!」

 

 爆風に吹き飛ばされつつ後ろに跳躍、シロコを腰から抱えて一息に加速。

 

「早……」

「よっし!!先行っててくださいシロコさんッ!!」

「へ」

 

 その勢いのまま地面を離れて……そのまま、思いっきりシロコをぶん投げた!

 

「っ……!?」

「よしっ、俺もっ……!」

 

 爆弾を取り出して、ピンを抜き。地面に転がして、加速しようとした瞬間。

 

「逃がさない」

 

 足首を掴まれた。

 

「っ……!」

「スオウ!!」

 

 直後、シロコの声。ドローンを片手に、逆方向にミサイルを射出することで空中を起動しながらこちらへ。

 

「もう一発!」

「はい!」

 

 足を掴んでいる手。爆風の中にいるであろう奴に対して、言われた通りにハンドキャノンをさらにもう一発。合わせるように、空中からシロコの踵落とし。

 ドローンは手放したままに空中で待機。直後一瞬、足の拘束が緩まった。

 

「右を!」

「んっ!」

 

 左手に過剰な神秘。爆弾で肘から加速させ、爆風の中へ。シロコも合わせるように、アサルトライフルによる右側からの銃撃。片手は塞がっている。銃撃か殴打、どちらかは受ける形になる。

 

「っ……!?」

 

 はずだった。

 

「ここは……!」

 

 見えるはずのないシロコの背が、見える。黒い穴、おそらくあれはワープホール。それに引きずり込まれた。

 であれば、この先取るであろう手段は。

 

「シロコさんっ!」

「っ、う……!」

「ぐっ……!」

 

 当然。俺なら、俺をぶん投げる。できる限り衝撃を和らげたつもりだったが、思いの外吹き飛ばされたな。そんなことを考えながらも、彼女の手を取り起こして、なんとか反撃態勢に戻る。

 

「……逃してはくれなさそうだね」

「ええ……」

 

 立ち位置は先程と逆転。逃げ道を塞がれた。後門の機械、前門の俺。逃げ切ることは不可能だ。

 

「仕掛けがなければ、ね」

「ん。スイッチオン」

 

 相手はそう思っていることだろう。合図とともに後ろに飛び、ここに来るまでに仕掛けておいた爆弾のスイッチを作動。

 その爆撃は数秒も置かず、相手の元へ届き。

 

「かっ……!?」

「ぐ、う……!?」

 

 は、しなかった。なぜか俺たちの背に、爆風が。

 

「なん、で……」

「っ……!そういうわけですか……!」

 

 爆風が煙を吹き飛ばして晴れゆく視界。俺たちの背に現れたのは。

 

「っ……!ワープホール……!」

「自分に当たるはずだった攻撃をうまくカウンターしましたね……シンプルながら、厄介な能力です」

 

 おそらく普段の戦闘では使えない程度の集中力、そして時間を要するのだろう。だが、来ることがわかっている技なら話は別。

 どの程度の範囲にワープホールを展開できるのか、展開まで最速の時間は何秒か、それらから考えて次の攻撃は当たるのか。考えるだけで面倒なほどのあらゆる要素を勘定に入れて戦わなければならない。

 

「さて……どーしたもんですかね……」

 

 おそらく、相手側の背にもワープホールが展開されているはず。答え合わせをするように、振り向いて。

 

「……え」

 

 煙が、完全に晴れる。

 

「そんな……なんで……」

 

 そこに立っていたのは、白と黒のオッドアイ。黒いドレス。長く伸び切った、銀とも灰ともつかないしなやかな髪。病的なまでに白い肌。砕けたヘイロー。

 

「あれは……」

 

 でもそれは、()()()()()()()()()

 豊満な体に、俺よりも大きな身長。照準のようなヘイローと、まだ見慣れないアサルトライフル。

 

「私?」

「シロコさん……?」

 

 その特徴のどれをとっても、俺が知る砂狼シロコと完全に同じなところはない。けれども、確かにあれはシロコだと確信できる。

 俺は、見たことがある。前世で。『ブルーアーカイブ』の、プロローグで。

 

「鼠が一匹……おとなしくしてれば、苦しまなくて済んだのに……」

 

 ゆっくりと、ゆっくりと。何か強く覚悟を決めるまでの時間を稼ぐように、シロコは視線を上げる。

 

「あなた一人が足掻いたところで、もはやこの世界の終焉は止められない。……ううん。他の誰が協力していたとしても、同じ」

 

 徐々に、徐々に。その非対称の瞳が露わとなり。

 

「……私が教えてあげる。砂狼シロコ。私たちは……この世界は……」

 

 そして、目が合う。

 

「っ……!?」

 

 直後、爆撃。背後にシロコが、もう一人のシロコが迫る。

 

「消えて!!」

 

 展開されるワープホール。おそらく、その入り口は自身の近辺にしか生成することができないのだろう。

 であれば、出口は?おおよそ想像はつく。火山の加工だとか、深海だとか、あるいは宇宙だとか。要するに、この穴にぶち込まれた時点で俺は死ぬ。

 

「はっ!!」

 

 なれば対策も用意。黒いシロコの手を掴み、髪の毛ロープでぐるぐる巻きに。俺を穴に押し込んだ時点で、自動的に黒いシロコも巻き込まれる仕組みだ。

 

「っ……!」

 

 ワープホールは閉じられた。であれば、反撃に移るだけだ。

 

「ちょっと痛いですよ!!」

 

 爆弾で足を加速。腹に重い膝蹴りをかましてやる。

 

「シロコさん!」

「っ、ごめん!取り乱した!」

 

 敢えてそのまま()()()()()()に、手を掴んで壁に叩きつける。同時に混乱しているシロコの正気を取り戻させて、同時に背後に爆弾を。

 

「はあっ!!」

「っ……!!」

 

 髪の毛ロープを解いて頭を掴み、そのまま壁にめり込ませてやった。

 

「いっちょ上が、りィッ!?」

「今のは、少し痛かった」

 

 その体格差を活かして、リーチの長い踵で顎を蹴られる。後ろに引き下がって、間合いを取り戻す。

 

「このっ……!」

「でも、少しだけ……どうして……?」

「……?」

 

 即座に反撃に戻ろうとして。黒い方のシロコの様子がおかしい。

 

「まるで、これじゃあ……そういえば、見た目も少し違う……いや、正反対……もしかして、これは……」

 

 ぶつぶつと独り言を呟いていて。おそらく、戦っても勝てるというだけの絶対の自信があってのこと。

 

「それなら、辻褄が合う……でも、どうして……そんな……」

 

 だが、それはこちらとて同じ。あのシロコはもう一人の俺と似たような存在に見える。だが、その強さは……確かに俺よりも強いのかもしれないが、こっちのシロコと共闘すればなんとかなるかもしれない。

 だというのになんだ、この胸騒ぎは。

 

「おかしい。そんなはずない、だって……」

 

 ……違和感。そうだ、違和感だ。黒い方のシロコは……少し……弱って、いるような……あ。

 

()()()()()()()()()()()()()……!?」

「っ……!!」

 

 突如として、雰囲気が変わった。背後に黒いワープホールが展開され、徐々にその姿を蝕んでいく。

 

「っ、待ってください!!」

「ダメ!!」

 

 向こうのシロコについて行こうとしていたところで、こちらのシロコに引き止められる。

 

「気持ちはわかる。手がかりを逃したくないのは私も同じ。けど深追いは禁物、決して油断できる状況じゃ」

「いや、そんなのどうでもいいんです」

「……え?」

 

 引っ張られた手を取って、逆に引っ張り返してやって。

 

「あの子、怪我をしてる」

「……なに、それ」

「それと」

 

 黒い方のシロコ……長いな。クロコでいいや、あの子に括り付けた髪の毛ロープを引っ張って。

 

「あの子がいつかの私と、おんなじ目をしてたから!!」

「な、やめっ……!?」

 

 展開されたワープホールの奥に、全員まとめて体を押し込んでやった。

 

「っ……!?」

 

 直後、暗転する視界。体の中身がかき混ぜられるような感覚。突然の環境の変化に、鋭い感覚が警鐘を鳴らす。

 

「ほ、本当に無茶苦茶ばっかり……絶対やめて、次から……」

「え、でもこうでもしな」

「やめて」

「はい……」

 

 シロコから割と真っ当なお叱りを受けつつ、周囲を観察。なんとかシロコ二人の下敷きになれたことを確認できて、一安心だ。

 あの怪我はキヴォトス人でも致命傷。治りつつあるみたいだけど、それでもこれ以上悪化はさせたくない。蹴っちゃったのが申し訳なくなってくる。

 

「そう……すごいんだね」

「っ……!」

 

 ふと、上にいるシロコ。クロコの方が、声を上げた。

 

「こんな無茶苦茶をやったのは、あなただけ。……誰も、ここまでは来れなかったから」

「ここ……?」

 

 クロコの言葉に従って、周りを見渡す。

 ドーム上に広がったであろう空間。地面だけが白く輝いて、そこに佇んでいる大きな背をした謎の人物が一人。

 

「っ……!私をさらった……!?」

「なるほど……ここが本拠地、ってわけですか」

「うん、そうだよ。ここまで来れたのは、あなたたちが初めて。……ここは本来、私の許可なく入れる場所じゃない」

 

 クロコはさして急ぐ様子もなく、ゆっくりと宙を浮いて。鉄仮面をつけた人物の方へ、ゆっくりと移動していく。

 

「この時期の私にしては慎重さが足りてないし、その割には強いとも思った。この舟……アトラ・ハシースの箱舟の力だけで倒せなかった」

「しーすー……?」

「アトラ・ハシース」

 

 シロコの言葉を反芻しつつ、けれども目は離さない。あんな大怪我で何をするつもりか。おおよそ、予想はつく。

 

「でも、それもここでおしまい」

 

 銃を構える音が聞こえた。

 

「ここがあなたたちの終点。さようなら、砂狼シロコ。それと……名前も知らない、もう一人の……可哀想な、誰か」

「動かないで!少しでも動いたら、撃つ!!」

「いや、それじゃ遅いです」

 

 怪我に追い打ちをかけるようで、申し訳ないけど。こっちだって無策じゃない。

 過剰に神秘を込めた爆弾を、二つ。謎の鉄仮面と、それからクロコに投げつける。

 

「なっ……!?」

「気絶させりゃモーマンタイ。行きますよ」

 

 とはいえ、まあ。

 

「……無駄だよ」

「やっぱ、無傷か……」

 

 クロコもその程度予想して、ワープホールくらい作ってるよな。

 

「この舟は私の意思に従ってる。私は、この舟そのものと言ってもいい。それに……」

 

 突如。鉄仮面の男が動く。

 

「こっちには、プレナパテスがいる。それがある限り、敗北はあり得ない」

「……っ!」

 

 鉄仮面の、男。なぜ男だと思ったのか。なんでだろうか。

 なんでかはわからない。理解するよりも先に、体が動いていた。

 

「“……我々は望む、ジェリコの嘆きを”」

「っ……!そういうことかよ……!!」

 

 それを見て、ようやく理解できた。そこにいたのが、一体誰なのか。

 

「“……我々は”」

「させるかッ!!」

 

 何度も見てきた。あの動き。コートの内側に備え付けられたポケットから、タブレット……シッテムの箱を取り出す、その姿を。

 

「それ、もらいますよ……!!」

「行かせない」

 

 シロコの援護射撃。それによって怯んだクロコを通り過ぎて、さらに先へ。その奥を目指して。

 

()()()()()、絶対させない!!」

「ううん。するのは私。私が、させるから」

 

 ワープホールを通じて、突如目の前に現れるクロコ。違う。ワープさせられたのは、俺の方。

 そして。

 

「“……我々は覚えている、七つの古則を”」

「っ……!失敗した……!」

 

 聞きなれた、シッテムの箱の起動音。シロコが撃ち放った弾丸が一つ残らず逸らされ、彼女は驚いた顔をしていた。

 

「……これでもう、あなたたちに勝ち目はないよ」

「なんで……この距離で……!?」

「気をつけて、シロコさん……あれは……これから、私たちが挑むのは」

 

 それもそうだろう。何せあれは、本来俺たちに向けられることのない力。

 

『───先生の生体認証、完了』

「……キヴォトスの外からきた、不可解な存在……シャーレの、先生です……!」

 

 不条理と理不尽、その権化。俺たちでは決して届くことのない、全てを塗り替える力なのだから。

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