ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

159 / 175
【最終編】姉を名乗る異常者

 起動してしまった、この世界において右に出るもののないオーパーツ。シッテムの箱。

 それから赤い直線の集合体、幾何学模様が発せられ。それは徐々に、人の形となって安定していく。

 

「っ……!」

 

 大人のカードの効果を、俺は知らない。だが、前世の記憶から考察することは可能だ。

 もし先生、プレナパテスがそれを使っていて、その力が想像通りのものだとすれば、あれは先生によって配置された生徒ということに。

 

「先手必勝!!」

 

 徐々に露になる肉体。固着するよりも先に、肉体を殴り飛ばそうと振りかぶって。

 

「自己防衛措置により、命令外でのバリア起動を実行」

「……!」

 

 それは、光る壁によって阻まれた。

 シッテムの箱が持つ力の一つ、先生に向く暴力を阻止する障壁。

 

「シッテムの箱の権限を利用し、アトラ・ハシースの箱舟の演算機へ接続……サクセス」

 

 だから、驚いたのは()()にじゃない。元々、生徒によっては使用可能な技術でしかない。

 俺が驚いたのは、その生徒の外見。

 

「シッテムの箱の処理能力を向上させます」

「アロナ……!?」

 

 シッテムの箱、そのメインOS。先生がいて、シッテムの箱があるのだから、当然彼女もいる。それはわかる。だが、問題なのはこの世界に姿を現していること。

 

「!……否定。当該システムを誤認したものであると推定されます。該当システムはシッテムの箱に常駐しているシステム管理者であり、メインOS。通称、A.R.O.N.Aです」

 

 無感情で、平坦で、機械的。そんな印象を抱く声。

 真っ白な、長く伸び切った髪に、黒で統一された服。俺が知るアロナとは別物のようで、けれどもその印象的な大きいリボンと隠れた片目が、彼女の正体を俺に告げてきた。

 

「……この子のことも、知ってるんだ」

 

 後ろに、誰かがいた。この建物……アトラ・ハシースの箱舟、だっただろうか。その場所で行動を共にし、聞き慣れた声。

 すぐに、もう一人のシロコ……クロコのものであるとわかった。

 

「やっぱりあなたはどこかおかしい。この世界で、先生を除いてこの子の存在を知るものはいないハズ」

「肯定。状態の共存を維持しているナラム・シンの玉座を除いて、私が現実世界に存在し続けることは不可能です」

「っ……むし……?」

「ナラム・シン。……知らない単語ばっかり」

 

 地面を蹴って距離を取りながら、シロコの訂正を受けつつ戦闘の準備。

 

「あれは何者?」

「回答。別世界のアリウス分校所属、桐花スオウ。役職(ロール)は小隊長、自称は姉。しかし彼女が妹と称する人間と血縁関係は認められません。また本人たちの否定から、その自称は認識の誤りであると断定します」

「そっか。聞いてもよくわからないけど。あの子の知識は何に由来する?」

「回答。一切が不明。……肉体の解析により、元の世界で出現した異常個体(イレギュラー)は別時間軸の彼女と同一のものと発覚。この戦いにおいて、彼女(イレギュラー)との戦闘データを参考にすることを推奨します」

 

 こちらの戦力は、たったの二人。あちらは、シロコに先生。そしてシッテムの箱のメインOS、アロナ。

 たった一人の差でも、その戦力にはあまりにも絶望的な開きがある。

 

「別世界の……だったらそこにいるのは、スオウの言う通り……!」

「肯定。別世界の砂狼シロコ。対象はシャーレの先生と同一個体です。……しかし、一部差異が存在します」

「……差、異?」

 

 シロコ、否クロコがプレナパテスと呼んだ彼は、その外見において先生とは似ても似つかない。俺も、直前まで気づくことはできなかったから。

 別世界がどうこうとか、よくわからないことはひとまず受け入れよう、だったら、と言うべきか。その特徴を残しているシロコとアロナに比べ、先生の変化はあまりに異質なものに思える。

 

「ええ、そう」

 

 クロコの声が、耳に通る。その先を、聞きたくない。ずっと気づかないようにしていたのに、断定されてしまう気がして。

 

「この先生は、もう……」

 

 さっきから、ずっとそうなんだ。違和感が拭えなかった。どれだけ耳を澄ませても、聞こえなかった。

 

「死んでる。私が、殺した」

 

 先生の鼓動が、聞こえなかった。

 

「え……」

 

 息を呑むようなシロコの声。銃を持つ手から、わずかに力が抜けているのがわかる。

 

「そうしたら、先生は色彩の教導者になった」

「うそ……」

「これは……おそらく、色彩の影響だろうね」

「うそ……私が、そんなことするはずない……」

 

 シロコの反応を無視して、クロコは話し続ける。

 

「そして私を……ううん。私がここに連れて来させた。世界を終焉に導くという、私の運命を実現させるために」

「うん、めい……?せかいを……せんせっ……ころし、た……?」

「うん」

 

 息が荒い。目の前で起きている現実から逃避しようと、浅い呼吸を繰り返している。

 

「それが私の、役割だから」

「そんなの、信じるわけ!!!」

「シロコさんッ!!」

 

 銃を握り直し走りだそうとするシロコの頬を掴んで、目を合わせる。

 

「落ち着いて」

「どいて……!」

「あなたは先生を殺さないし、私が絶対に殺させない。世界を滅亡なんてさせないし、そのために戦う」

 

 敵に背を向ける行為。だけれど、そうでもしないと……我が身も顧みずに、突っ走ってしまう気がしたから。

 

「……大丈夫。あなたが自分を信じれなくても、代わりに私が信じてる。二人でぶちかましてやりますよ」

「っ……うん……」

「へえ。持ち直すんだ」

 

 風を切る音すらなく接近された。声で、そうわかった。

 咄嗟にシロコを抱えて、髪の毛ロープを展開。大きく横に加速して距離を保ちながら、アサルトライフルの弾を弾いた。

 

「人を励ますのが上手いんだね。嫌な言い方をするなら、騙すのが上手」

「っ……!」

「動揺してるくせに、信じてる、なんて言ってる」

 

───先生が、死んだ?殺された、誰に、生徒に、信じていたはずなのに。信じられていたはずなのに、殺された。この世界でたった一人信用できる大人が。なんでそうなった、善人が否定される世界でなくちゃいけないのか、一体誰が彼の死を許した。

 

 そんな思考ばかりがぐちゃぐちゃに渦巻く脳。全部片隅に追いやれば視界はクリアに、平静を装える。

 

「それに、感情をコントロールするのも慣れてる」

 

 弾き返したと思った弾丸が、背中に。ワープホールだ。

 

「けど、あなたがいくら否定しても。それはすでに定められたこと」

「っ……!」

 

 痛みで怯んだ一瞬の隙を見逃さずに、懐まで潜り込まれる。即座にシロコが蹴りを入れて、クロコを横方向へ吹き飛ばそうとして、足を掴まれ。そのまま遠心力で俺に叩きつけてきた。

 無論それでやられるシロコでもなく、上体を起こしてほとんどゼロ距離で射撃。それに合わせて、クロコの腹に爆弾をあてがう。

 

「私は、そうはならない……!」

「なるよ。この世界に存在する以上、そう定められているの」

 

 けれども爆風はワープホールに吸い込まれ、プレナパテス……先生の後ろで爆ぜた。

 

「それが砂狼シロコという存在の運命。世界を死に導く神。それが、私たちの『本質』」

 

 妖しく、黒色にギラギラと輝く恐怖。拳に集められたそれは、まっすぐとシロコの元へ向かって。

 

「シロコさんっ!!」

 

 神秘を髪の毛ロープに、過剰に。滑らせて、ガラ空きになったボディの右側へ強打。確かな手応え。

 

「っ……この世界での変数は、砂狼シロコ。あなただけのはずだった。世界を終焉に導く『崇高』は、一つの世界に一つしか存在できない」

 

 接近戦の不利を悟り、距離を取るクロコ。無論それを見逃すはずもなく、シロコに視線で合図を送り、足を踏み台にクロコの元へ向かわせる。

 

「……私はあなたに同情するよ、シロコ。ここで、誰にも知られず終わりを迎えられたらよかったのに」

 

 互いにアサルトライフルを突きつけ合い、銃撃戦。シロコはドローンで空中を機動しながら、クロコの気を引いている。だったら、今のうちに。

 

「そうすれば」

 

 直後、目の前に空いた黒い穴。クロコの目は、確かにこちらに狙いを定めている。

 破裂しかねないばかりに恐怖が込められた弾丸を、幾つも装填して。

 

「あなたは、自分の愛する人たちの死を知らずに消えられたのにね」

「っ、スオウ!!」

 

 そして撃ち放たれたそれを、爆弾で一つ残らず消し飛ばした。

 

「……え?」

「舐められたもんですね」

 

 愛する人の死、か。

 

「この程度で倒れるお姉ちゃんじゃありませんよ」

「……なにを」

 

 そういうのってさ。わかるよ。痛いほどわかる。同じだったから。

 

「スオウ、大丈夫!?」

「大丈夫です。何せ私、お姉ちゃんなので!」

「……そ、そう。少し安心」

 

 大切な人が、自分の目の前で死んで。殺されてさ。そしたら、何もかもが自分のせいな気がしちまって。

 

───……死ね。

 

 ……やぶれかぶれになって。誰だって殺せるんじゃないか、なんて気さえもしてしまう。戻れなくなっちまった気がしてしまう。

 

「大丈夫ですよ、シロコさん」

「……?」

 

 俺もそうだったよ。

 

「運命なんて、道端でたまたま行き倒れてるところを見つけるくらいの偶然でちょうどいい。あなたが歩む未来は、運命なんかじゃない。ちょっとの偶然と、周りと自分で決まっていくもの」

「っ……」

「そうして歩む未来が間違いになってしまわないように、仲間がいる。先生がいる。姉妹がいる。友達がいる」

「……ん、その通り。私も、何回も間違えかけて……」

 

 それでも、そんなことはないんだよって。

 

「でもその度に、ホシノ先輩やみんなが引き止めてくれた。だから、今回も同じだって信じてる」

「……信じるなら、勝手にすればいい。(未来)を無視するなら、それで。だとしても」

「それに」

 

 人は何回だって、間違えたっていいんだよって。

 

「あなたもですよ。別世界のシロコ」

「……なにを」

「あなたの運命がいつ決まったって言うんですか」

 

 どんな人間だって、助けを求めていいんだよって。

 

「……そう。そうかもね。結局こうなったのは……私が、選んだこと。だから」

「今からだって、そんな運命。お姉ちゃんが捻じ曲げて、キヴォトスの果てまでポイして捨ててやればいい」

「は……?」

「だから」

 

 みんなが俺に、そう教えてくれたんだ。

 

「人はいつだってやり直せる。お姉ちゃんがそうしてみせる。だから……今からそっちに行きますから。少し、待っててくださいね」

「っ……!!先生!!」

「命令を確認。戦術指揮、およびシッテムの箱を利用した砂狼シロコへのサポートを開始」

「シロコさんッ!!!援護ォ!!!」

「ん!」

 

 勢いをつけて、爆弾で加速。即座にクロコの……いや、別世界のシロコの方へ走る。

 狙いすまされたかのようなドローンによる爆撃。シッテムの箱を用いた演算、および指揮。それらはこちらのシロコが同じくドローン爆撃を持って打ち消した。

 

「ナイスシロコさん!!」

「いいから、行って!!」

 

 別世界のシロコによる銃撃。弱々しく放たれるそれから、彼女の受けた傷の深さが窺い知れる。

 

「私は、この程度じゃ死にませんよ!!鍛えてますからね!!」

「っ……!!うる、さい!!」

 

 体にだけじゃない。心についた、大きな傷が。

 

「はっ!」

 

 とはいえ、痛いものは痛い。爆弾で空中に移動。ハンドキャノンを構える。

 

「……!」

 

 何かを察したようにワープホールを展開するシロコ。彼女を無視して、プレナパテスにハンドキャノンを放つ。

 当然、バリアにより当たりはしない。それでいい。バリアが起動する、その事実が欲しい。

 

「シロコさん!!プレナパテスのバリアも無敵じゃない!!隙が見え次第そちらにも攻撃を!!」

「っ、うん!どのくらいで壊れるの!?」

「巡航ミサイル一発分!!」

「それ無敵じゃないって言わない!!ほとんど無敵!!」

 

 それでいい。シッテムの箱のリソースを、少しでも演算機能以外に割かせる。ここに俺たちの世界の先生がいない以上、それをもってでしか打ち倒すことができない。

 

「もういい、これ以上は……これ以上、私に……」

 

 大きな気配。突如として、目の前に現れる戦闘用ヘリ。

 備え付けられた機関銃が牙を剥く。操縦者はいない。

 

「あれは……アヤネの……!」

「はははっ……ヘリを打ち落とすのは初めてですね!」

 

 それが、彼女の世界で何が起こったのか。それを、如実に表している気がした。

 

「これで、終わって」

 

 シロコからの追撃。リトルミニガンによるその威力を、体表に纏わせた神秘で低減。あとは自前の耐久力で無理やり耐えてやればいい。

 そのまま空中で動き回って、ヘリに迫る。

 

「シロコさん!!これ直せますか!?」

「え……う、うん!一応!」

「了解!」

 

 搭乗者がいない。であれば、狙うべきはエンジン部。あるいは、ブレード。

 ハンドキャノンによる貫通、ショットガンでの破壊、爆弾での全損。当然、ハンドキャノンを選ぶ。

 

「ここ!」

 

 ハンドキャノンに込めた過剰な神秘で威力は最大限。すり抜けるようにヘリとブレードの接続部が破壊され、そのまま墜落。想定内なのか、巨大なワープホールでどこかへ吸い込まれていく。

 

「っと、お前はこっち!」

 

 分離したブレードのみを回収。

 

「これで、今度こそ……」

 

 空中で落下している最中に向けられるドローン爆撃。手榴弾の投擲。

 

「あら、よっと!!」

 

 ヘリのブレードを髪の毛ロープを使いコマの要領で回しながら、それらを防ぐ。

 

「っ……!?」

 

 少し驚いた顔をしたあとすぐに冷静に戻り、ワープホールを展開。このブレードをすり抜けて爆撃するつもりだろう。

 

「でもねっ!!」

 

 プロペラによって発生した空力で、下に加速。爆弾との相乗効果で急激に加速したことにより、シロコの狙いは僅かにずれた。

 

「な」

先生(プレナパテス)にはこれあげます!!」

 

 ブレードを横に投げつけて、勢いはそのままシロコの元へ迫る。急速な接近に反応しきれなかったのか、懐に入り込むことは容易く。

 

「つーかまーえたっ!!」

「っ……!近寄ら、ないで!!!」

「ぐ……!」

 

 展開されたシールド、そしてショットガンによる連撃。体が抉られるのを、歯の奥を砕き割ってなんとか耐えた。

 

「あなたは……!」

 

 シールドによる殴打。逆にシールドにしがみついて耐えてやろうとしたが、体ごとワープホールに突き込まれてしまう。

 

「いい加減に、して!!」

 

 体が焼けこげるような匂いがした。足を全力で動かして、なんとかその場所から脱出する。この程度。たとえ火の中水の中、だ。

 

「さっきから知ったような事ばっかり言って!!何も知らないくせに!!」

「げほっ……知って、ますよ」

 

 握りしめた手で深く、突き刺さるような腹への殴打。突き刺さったそれを、逆に腹筋を締めることで逃がさないでいてやる。

 

「あなたは砂狼シロコ。趣味はライディングで、仲間を募集してる。あと銀行強盗も趣味。先輩と後輩、同級生、先生。みんなのことが大好きな……アビドス高等学校の、砂狼シロコです」

「っ……!」

「それは、今も変わらない」

 

 愛する人たちの死を、知らなくて済む。なんて言葉は。愛する人が死んだのが辛いって、そう思えるからこその言葉だ。

 

「だとしても、それはこの世界の私の話……!私は……『私』は、もう……!」

「あなたもですよ、シロコ」

 

───……寒くって……お腹、空いてて……一人ぼっちで、何もわからなくって……知らなくて。

 

 記憶をなくして、縋るものもなく。ようやくかき集めた、大切なもの。

 

「うる……さいっ……!!あなたは、なんなの!!?」

「なんなのって、そりゃあ」

「いきなり出てきて!!わけがわからない事ばっかり!!」

 

───……もうあんなこと、しないであげてね。

 

 それらを失うたびに、いったいどれほどの痛みが体を駆け巡るのだろう。

 

「本来あなたはここにいないはず!!いちゃいけないはずだった!!あなたの存在そのものが特異点!!イレギュラーなのに!!」

「が、ぅ……!」

 

 その痛みを癒すことなんて、きっと誰にもできないんだと思う。死んだ人は、生き返らないから。

 どれだけの時間をかけたって、起こってしまったことは変えられないし。深くこびりついたような傷は、永きに渡って身を蝕んでいくのだろう。

 

「なんで……!!どうして、どうしてッ!!どうして、今更……!!」

「っ……!!」

 

 その痛みが、人を傷つけてしまうこともあるのだろう。

 

「遅いよ、もう……!」

「……!」

 

 それでも、俺は。

 

「諦めません、よ!!」

「っ!?」

 

 爆弾で吹き飛ばされかけた体を、髪の毛ロープをシロコにかけて、踏ん張る。

 

「離して、ッ……!切れない……!?これは、髪の毛……!?」

「やっと、捕まえた……!」

 

 プレナパテスへの攻撃で、一瞬緩んだ指揮。その隙をついて、シロコを髪の毛ロープで縛り付けることができた。

 筋力は俺より弱い。あのロープを、一筋縄で切ることはできない。

 

「っ……!先生!!『大人のカード』を!!」

 

 当然、その程度に対応できないシロコではないだろう。『大人のカード』を使われたら、俺たちに勝ち目はない。だから。

 

「……なに、してるの?早くっ……!」

「シロコさん!」

「ん!」

 

 懐から先生が黒いカードを取り出した直後、シロコが先生の後ろから。後頭部にかけて、予想外の打撃。それが通ることは、すでにわかっている。何せ、モモイとミドリにゲーム機をぶちかまされてたくらいなんだから。

 

「……命令の実行に失敗。先生の意識が一部混濁していることを確認」

「……なん、で……」

「これで……もう、大丈夫ですね……」

 

 ああ、やっぱり。やっぱりだ。プレナパテスは、きっと。

 

「っ、と……」

「大丈夫?」

「はい。まだ、やるべきことがありますから」

「……何をするつもり?」

 

 でも、今はそれよりも先に。

 

「っ、何を……」

「大丈夫。信じて」

「……」

 

 ショットガンも、ハンドキャノンも捨てて。一歩、シロコに近づいてみる。

 

「なんで……なんで、だって……今までの先生なら、あのくらい……なのに……」

「……シロコ」

「やっぱり……でも、それなら私は……私は……」

 

 確かに、人は痛みに耐えることはできないし。耐え切れないあまりに、人を傷つけてしまうこともあるのだろう。

 

「私は、もう……」

「シロコ」

 

 たくさん、同じ子を見てきた。先生から見れば、きっと俺も同じだったろう。

 

「来ないで!!」

「っ、ぐ……痛くない。大丈夫。大丈夫ですよ……大丈夫」

「何を、言って……!」

「大丈夫」

 

 だから、今度は俺が、先生みたいに。俺なりのやり方で。

 

「『なんなの』……でしたよね。改めて、自己紹介といきましょうか」

 

 大丈夫。ここに私がいるよ、って。

 その子が苦しみ続けなくて済むように。立ち上がって、また前を向けるように。そんな痛みに、いつか耐えられる日が来るように。

 

「きっと……初めまして、ですね。私の名前は、桐花スオウ。アリウス分校、小隊長」

「そんなの……」

「……そして!」

 

 その子の味方で、あり続ける。

 

「たった今から、私があなたの……お姉ちゃんです!!」

「……え?」

「ん……やっぱり信じちゃダメだったかも」

 

 それが、俺にとってのお姉ちゃんだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。