最初にあの子を見つけた時。ああ、またか。って、思った。
「……」
まただったかもしれないし。まだだったかもしれない。あんまり、深い事は覚えてない。
とにかく、終わりのない繰り返しだけをしてるみたいな気分で。それでも、誰かが、私がやってあげなくちゃいけないんじゃないか、って。
「待ってて」
……ううん。違う。多分、私は……
苦しむためだけに生まれてきた、だなんて。苦しすぎる事だから。苦しんでるみんなをあの世に導く。私はそのために生まれてきた。
だから、私は……終わらせてあげないといけない、って思った。
ホシノ先輩が死んで。セリカが行方不明になって。アヤネが死んで。ノノミがあんな風になって。
「先生……」
そして、先生はもう戻ってこない。そこで、何かが途切れた感じがした。
何かのために頑張ってた。頑張って、生きてた。私、頑張ったよ。でも、それも意味なかった。
「……支援を」
せめて、みんなそうなんだって。みんな、この世界で生きる事は苦しいんだって。私だけじゃないんだって。そう思いたくって。
───しに、たく……しにたく、ない……いや……。
「……」
わかってた。私が、間違ってることくらい。私のせいで、苦しむ人がいたことくらい。
それでも、みんなが死んで。たくさん殺して。世界を滅ぼして。先生も、殺した。
「今、終わらせる」
私は
不思議と、そう思うだけで体は動いて。それが、嫌だった。
照準を合わせた。終わらせるために。いつも通り、自分を誤魔化し続けるために。
「……っ!?」
あたり一面に、黒と緑の暴風が吹き荒れた。燃え盛って、私の方まで侵食してきた。
「これは……!」
見覚えがある光景だった。永遠に取り戻せることのない、あの日の後悔と同じ色をしていた。
「誰が……!いったい、何を……!」
それが誰かによって起こされたものなのか。それとも、最初から『そうなる』って決まってたものなのか。今の私には、もうわからない。
「……あ。あー、あーあー」
発声。体の調子を確認している。さっきまで白かったコートが真っ黒になって、服もおかしい。ヘイローも。
今の私と。あの時と、同じ。
「なんだ、すっかり周りは暗くなっちまいやがって……もう夜か、って、違うわ全然……ああ最悪だ、こんな糞食らえな状況でもはっきりすっきり頭は覚えてやがる。お前の頭は何一つ救えやしないくせに余計な事ばかり覚えていやがる」
「……」
「なんだこんな夜中に別嬪さんが出歩いて、あれ、いま夜か?さっきまで明るかった……あれ?」
あの子から出続ける力で。周りの景色が、おかしくなってた。
「なんだ、これ?」
振り向いた顔には、黒い何かが蠢いてた。不気味だ、なんて思ったけど。今の私に比べれば、別に大したものではないと思う。
「困っちゃうなこんなの、これじゃあみんな気味悪がる、せっかくのお姉ちゃんフェイスが台無しなことこの上無い……ああ」
あんまり長く話したくなかったし。放っておくと、これ以上苦しんでしまいそうだし。何より、様子がおかしかったから。すぐに、銃を撃った。
「みんなってどのみんなだ?」
止められた。
「は、ははっ……あははははははははははっ!!!」
初めてのことで、びっくりした。それに、いきなり笑い出すから。
それでも、今の私が負けることなんてない。負けることなんて、できない。
「そうだなみんなが怖がっちまう!!!もうどこにもいないみんながさァ!!!」
「っ……!」
何度攻撃しても、結果は同じ。弱く撃ってるつもりはない。
「っきからごちゃごちゃうるせぇんだよ!!!誰だテメェは!!!」
「なっ……!」
さっきまで球を防いでた黒いのが、もっと大きくなって。その全部で、私を横に吹っ飛ばした。
「うるさい……!!うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさうるさい……!!誰ださっきから耳元でピーピーピーピーギャーギャーギャーギャー……!!何回同じこと言や気が済むんだ?うるさいんだよ!!」
「っ、先生!!」
幻聴が聞こえてるんだろう。私も同じことがあったからよくわかる。あれはその中でも最悪な方。ずっと嫌な言葉が繰り返されるの。
私の時は、ノノミがそうなったって伝えられた時の言葉だった。
とにかく、正気じゃない。それに、思ったよりもずっとずっと強い。一度の攻撃でそれがわかったから。私も、本気を出すことにした。
やり遂げなきゃ。殺さなきゃ、いけなかったから。
「……せんせい?」
そしたら、あの子は何かに気づいたみたいで。
「先生?センセイ。せんせー……先生、お願い助けて先生ずっとずっと言いたかったんだでも言えなくて苦しくってそれでもやらなきゃってでもそしたらこんなふうになっちゃってどうしようどうしようどうしようどうしようおれのせいなのかなちがうっていってやっぱりいわないでねぇおねがいせんせい」
狂った。狂っていた。多分、私よりも。
「……ごめんなさい」
「あ?」
「あなたも……ここで、おしまい」
先生の支援を受けて。『シッテムの箱』で、有効打を探して。
……こんなことに使いたくなかったけど。ホシノ先輩のシールドと、ショットガンを借りた。
「が、ぁっ……!?」
最初の攻撃と違って、黒いのは動いてなかった。精神に強い負荷がかかってたせい。
あの子の意思が、あの黒いのに影響を与えて、自在に動かしてる。
吹き飛んでいくその子を、容赦なくアサルトライフルで追撃する。何回も、何回も、何回も、このやり方でこの手を汚してきた。
「……」
どうせもう、みんなに届かない手なんだから。どうでもいい。
「終わり。次に行こう。アトラ・ハシースの方舟を」
「いてぇな畜生」
「……え?」
さっき殺したはずのその子は、私の真横に。何事もなかったみたいに、立っていた。
「さっき先生がどうこうとか言ってたのお前だろ?なぁ、知ってるんだろ先生のこと。知ってるって言えよ。知ってるんだろ?生きてるんだろ?いるんだろ、まだ、ここに」
「っ……」
「おしえてくれ」
偽りたくはない。先生は死んだ。私が殺した。それが私の、罪。
「……もう、いないよ」
私にできることは。ありのままを伝えることだけだった。
「……」
しばらく。かなり、長い時間。ショックを受けたよう顔をして、それから。
「ああ……あァ、そうか……そうだった……何ありもしねぇ希望を見出してんだか醜いったらありゃしない……そうだ、くろふくからぜんぶ……ぜ、んぶ……」
「……黒服?」
黒服。ゲマトリアの。ホシノ先輩を、最初に追い込んだ、あの。
じゃあこの子のこれも、黒服がそうさせた、ってことになる。
「そう、だ……そうだよ、そうだった……全部、全部無意味だったんだ……みんな、死んだ……この世界は……全部、虚しいから……そうなる……俺が、間違ってた……この世界で生きることに、意味なんてない……」
追撃に動くつもりにはなれなかった。なぜだか、動いてはいけないような気がした。
アビドス高等学校に地雷を埋めて。場所がわからなくなって、ホシノ先輩と一緒に探した時みたいな気分。
「なぁ、お前もそう思うだろ?」
急に質問を振られて。
「
「っ……!?」
最初は、何が起こったのかわからなかった。ただ、遅れてやってきた痛みと音で。ああ、殴られたんだってわかった。
「あぬびす……?なんだっけそれ、そうだ、確か黒服、黒服が言って……黒服が……言って……た……先生も妹も全部全部全部殺して!!!」
あの子の手もぐちゃぐちゃになって。それは、泥で覆われて少し経って。すぐに治ってた。
「っ、先生!!『大人のカード』を!!」
「“……”」
「あァ?」
先生の、黒いカード。本当の力はわからないけど、今は私の強化や、傷を治すのに使われてる。
「はははっ……なぁんだ」
大人のカードと、シッテムの箱。この世界を支配できるだけの力。手に入れて以来、負ける事はなかった。
「ただの死体か」
「っ……!!」
あの時までは。
「……虚しいな」
先生は、シッテムの箱がバリアで守ってる。それがある以上、先生を直接傷つける事は不可能。
「あれ、は」
あの子から出てきた泥が集まって、何層にも重なって。大きな、大きな何かを模った。
ニュースで見たことがある。あれは。
「巡航ミサイル……?」
「ぶっ潰れろ」
手を振り下ろされて。それだけで、一面が爆炎に包まれた。
あんなこと、私にはできない。多分あれが、あの子が『反転』と同時に手に入れた
「げほっ……!」
「……しぶといな。まだ戦えるなんて」
黒いのを操って。そして、再現する。生み出す、力。
「っ……!!こ、の!!」
この子なら、私を終わらせてくれるかもしれない。そう思った。
もうずっと苦しかった。苦しい事でも、自分で選んだ未来だから。自分でやめるわけにはいかなかった。無名の司祭たちも、それを許さない。
でも、私が先生とシッテムの箱と、アトラ・ハシースの箱舟を使っても勝てない相手なら?もしそんな人に、私が殺されたら?
「ってぇな……!」
「ぅ……!」
私は漸く、終わりを迎えることができるかもしれない。これ以上、誰かを傷つける前に。
……これ以上、こんな世界で……生き続けずに、済むのかもしれない。
「お前は……なぁ……本当に、世界を滅ぼしたのか……?」
「……」
「妹たちを殺したのか……?」
「イモウトタチ……?」
少し、よくわからないことも言ってたけど。
「先生を、殺したのか……?」
「……うん」
「そうか」
その質問だけは、はっきり答えることができた。
「……」
何か、迷ってたみたいだから。
「それに、私は……これからも、世界を滅ぼす。人をたくさん、傷つけて……また、殺す」
「……そうか」
「ええ、そう」
「じゃあ……やるしか、ないか……」
私にとって、その言葉は。
「ころしてやるよ」
希望だった。
「できないよ。あなたも、私が終わらせる……ううん。殺す、から」
「はははっ……」
一呼吸も置かないうちに、空がさらに暗くなった。
「できるなら、やってくれよ」
それが全部、あの子の力で作られた銃だって、少し経って気付いた。
「……」
弾を回避しながら、勝機を探る。地力が違いすぎる。何をどうしたらあんなものが生まれるのか、想像もつかない。
自然なものじゃない。きっと何かおかしなことをされてるんだと思う。黒服あたりに。
「っ……!」
私にとって予想外だったのは、先生のバリアが破られていたこと。私も戦ったからわかるけど、あれは本来破壊なんてできないハズ。
そもそも、バリアとも少し違う。先生への攻撃が、必ず外れる、ってだけ。
「……ごめんな、先生。死体撃ちになっちまう」
それをあんな力技で解除させた。私も似たようなことをしたけど、ただの一撃でシッテムの箱をダウンさせられたのは手痛い。
あの理不尽な強さは、まるでホシノ先輩みたいだった。
「先生っ!」
プレナパテスは私が役割を果たすために必須。今は一時的にダウンしてるけど、彼は元々死人。きっと、すぐに動けるようになる。
そんな判断で、彼を抱えて、ドローンを足場にあの子に近づこうとした。
「返せよ。死体でも、隣にいてくれるだけで違うんだ」
「……できない。これにはまだ利用価値がある」
「……先生を……モノみたいに、言ってんじゃねェ……!!」
実力は拮抗……よりも、少しあの子が上。能力で、その差はさらに開く。二発目の巡航ミサイルは来ない。あの子にとっても、負担が大きいものってことになる。
だから、力の差を先生とシッテムの箱で埋める。それが私の策略だった。
「返せッ!!!」
「っ、う……!!」
問題は、あの子がそれを待ってくれるほど甘くはないこと。
あの短期間で自分の能力を理解して。自分の銃と、黒い奇妙な爆弾と、ロープみたいなもの。それを主軸に戦うようになっていった。
「……」
空中に浮かんだ銃。アサルトライフル、サブマシンガン、ロケットランチャー、スナイパーライフル。接近戦をするこの子のものとは考え難い。
私にとっての、みんなの銃と同じ。きっと、まだ死んだ人たちとの繋がりを求めてる。
「返すもなにも、先生はもういないよ。あれは私が操ってるだけ」
「黙れよだからなんだってんだ……!?」
反撃。黒い泥に、ヒビ。物理的な衝撃で破壊できる、だったら手数が必要だ。そう思って、ノノミのリトルマシンガンⅤを使った。
……みんなの武器を使うたびに、セリカのはやっぱり見つからなかった、って。思い出したくないのに、思い出してしまう。
「だから?」
振り払いたくて、すぐに弾を装填し直した。
「だからも何もない」
それと、アビドスの戦闘ヘリを呼び出して、プロペラに乗った。
「あなたはここで死ぬ。それが、私がこの世界に存在した時点で定まった運命」
空中の銃を壊して足場にしながら、近接戦闘。
「ほざきやがれ」
すぐに再生成されて、やっぱり勝ち目は見つからなかった。
「どこぞの狐みてぇなこと言いやがって……」
「……そもそも……どうして今更、先生に拘るの?」
多分、人のことは言えなかったと思う。私は……最後の最後で、先生を殺すつもりにはなれなかった。それでも後戻りはできなくて、結局先生は死んでしまった。
馬鹿な話だ。例えそこで立ち止まれたって、私が世界を滅ぼしたことは変わらないし。
「あなたの大切な人は、もう帰って来ないのにね」
「……は……は、はははっ……」
図星を突かれたみたいで、体が硬直してた。シールドで殴って、そのまま地面に叩きつけて、押し潰した。
「大丈夫。あなたもすぐに、同じところに送ってあげる」
シールドから杭を出して拘束して、そのままドローンで爆撃した。それでも、当たり前みたいに立ち上がってきて。
「その通りだよ全くひでぇ事言いやがる……!!もう誰も帰ってこねぇんだ……!!もう今更、何やったって無意味だってのに……!!」
「……だったら、なんで戦うの?」
「……さぁ……なんでだろうな」
きっとあの子へ投げかけた質問は。全て、自問自答だ。
私が先生を殺したくなかった理由も。あの子に素直に殺されるわけじゃなくて、争っていた理由も。
「諦めた……はずなのにな……」
矛盾を突きつけられて、呆然としてたけど。少し経って。
「いややっぱりその辺クソどうでもいい。お前が世界を滅ぼすなら
「……じゃあ、殺し合うしかないね」
プレナパテスとシッテムの箱の再起動が近い。その瞬間を狙って、一気に攻める。それが私の狙い。
「いや、もう必要ないよ。終わったから」
「っ……!?」
地面が持ち上がる感触で、私はその失敗を確信した。
「固まれ」
話してる間に、地面の下に黒いのを伸ばしてたんだと思う。それを持ち上げて、私ごと握りつぶした。
「っ、か……あ……!!」
不意打ちで、私の力でも抵抗できない。でも、潰されることもない。
「っ、らぁ!!!」
「っ、う……!!」
それをわかってか、瓦礫を貫いて私を殴ってきた。
あれは攻撃じゃなく、拘束。本命はこっちだ。黒く輝く腕を見て、それを理解した。
「っ、この」
「落ちろ」
かと思えば、地面に叩きつけられて。平衡感覚がおかしくなった。
それでも反撃に出ようと、空を見上げて。
「……ああ」
大量の弾丸が降ってきて。私の負けだってわかった。
「そっか……やっと……」
一歩一歩。私の方へ、近づいてくる音がした。
「……」
逃げるつもりにはならなかった。ただ、決まった運命だと思ってたことがそうじゃない、って、突きつけられて……ああ、やっぱりか。って、気がした。
私はただ、私一人で生きていくことに耐えれなかっただけだ。それに絶望して、自分勝手にこの世界を滅ぼした。それを認めたくなかった。
結局、全部。私の責任だ。
「……言い残したいことは……何か、あるか?」
だからその罰は、当然私が受けなければならない。これじゃあ、足りない気もするけど。
「ごめんなさい……」
「……いいよ。これで、終わりだ」
「……ありがとう」
それはきっと、あの子の優しさだったと思う。何もわからないだろうけど、何かを感じ取ってくれた。
そのまま、死を受け入れるつもりだったのに。
「……え?」
銃声と、驚いた声。
「なんで……」
目を開けて。
「……せん、せい?」
プレナパテスが、私を庇ってた。
◇
それから、何度もあの子と戦い続けた。何度も、何度も何度も何度も何度も。そのうちに、防戦を余儀なくされた。
だんだんと手傷を負わされる機会も増えて、ついには致命傷に至った。逃げるように、私はこの世界に訪れた。
この世界に、あの子は来れない。この世界のあの子がいるから。そのはずだったのに。
「さて、と……まずは手当てからですね。シロコさん、水とかってありますか?」
「……ん。一応、持ってる。予備の水筒に入ってるやつだけど、大丈夫?口はつけてない」
「問題ありません」
多分この子は、私を殺そうとしたあの子と同じ。桐花、スオウ。
この子がアトラ・ハシースの箱舟にいる。それは、私の世界のスオウがこの世界に来れてしまうことを意味する。どうやってついてきたのかはわからないけど。
「はい」
「ありがとうございます。シロコ、少し染みますよ」
「っ……」
この子をここに連れてきたのは……先生。プレナパテス、なんだと思う。
この世界の砂狼シロコを連れ去る命令はした。でも、この子について何か命令した覚えはない。
「あらら、鼻血が……少し失礼。しばらくは、そのままで。外したら私が四六時中横で監視します。外さなくてもします」
全部操れたと思ってた。プレナパテスは。先生、だったものは。
「さて、あとは他の……シロコさん、消毒液取ってくれません?」
「ん……ねぇ、その呼び分けややこしい」
「そんなこと言われても……じゃあ妹のシロコと、まだ妹じゃない方のシロコさんとか?」
「……やっぱり、そのままでいい」
なんで、それならあの時……私のことを、庇ったんだろう。
「さて、シロコ。少し服を脱がしますよ。痛かったら言ってください」
「やめて……いい、そのままで……」
「いいわけないでしょ!可愛い妹の大切な体です!ちゃんとぜーんぶ治るまでは、ずっとお姉ちゃんが一緒ですからね!」
「ふざけないで……私は……!」
「ふざけてなんかない。あなたは私の大切な妹。大事に守るべき存在です」
ねぇ、先生。どうしてこの子を攫ってきたの?
この子がここにいなければ、あの黒い子はこの世界に来れなかった。
「妹になった、覚えが、っ……!」
「あーほら無茶するから。シロコさん、タオル追加で用意しといてください」
「ん」
ひょっとして、ねぇ……先生。
……まだ、そこにいるの?
「先生……」
プレナパテスは、当たり前だけど答えてくれない。私が殺したんだから、当然だ。
向こうの世界であの子に殺されかけた時。やっと終われる、なんて、安心感があった。
「ん、先生ですか?大丈夫、意識を失ってるだけですよ。脈もないですけど……なんとなく、また動けると思います」
「……ん。だから、急いだほうがいい」
「いえ、妹の手当は何より丁寧でないと」
「……はぁ……」
なのに、あの時。私を庇うような動きをした、あの時から。希望を見出してしまった。
まだ先生はそこにいるんじゃないか、なんて気がしてしまった。
「あー、鼻の奥にまだ血が……出せますか?」
「どうでも、いい……」
この子の存在が、それを裏付けてるみたいで。
「……シロコさん、鼻吸い機とか」
「私も、なんでも持ってるわけじゃない……」
「シロえもん……」
それからなんでか、体に力が入らなくなってしまった。抵抗もできずに、施しを受けている。
誰かを傷つける以外で触ったのなんて、久しぶりだった。こんなことで、誰かの温もりを思い出さされた。
「……まあ、ないなら仕方ないです。シロコ、お姉ちゃんに直接吸い出されるのが嫌だったら」
「……うして」
もう止まれないと思ってた。止まっちゃいけないと思ってた。
……なのに、あそこで……アヤネと、先生と会って。奇跡を目の当たりにして。奇跡を望んでしまった。
「どうして、なの……?」
でも、何が起こってももう。変えられないの。
「どうして……なんでっ……!!」
殺してしまったことも、死んでしまったことも。何も変えられないのに。
「どうして、今更なの……!?いまさら……わたしはどうすればいいの……!?」
なんで、もっと早くじゃなくて。
「もう、もどれないのに……!!なにも、のこってないのに……!!」
わかんない……わかんないよ。どうすればいいの……?誰か、誰か教えてよ。
……ノノミ……アヤネ……セリカ……ホシノ先輩……先生……。
火焔茸(https://x.com/trich0derm4)さんからファンアートをいただきました!
【挿絵表示】
第一分隊長、サウのイラストです!何気に分隊長どころか、スオウシアンアンナ以外のファンアートは初めてかも?
本編から読み取れる少ない情報をしっかりと反映して下さっているのがありがたい……!割れガスマスクとか少ししか出てないのに……!
何気に薬莢の髪飾りがナイスデザインすぎてとても好みです!ありがとうございます!