ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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【最終編】遥かなる空を目指して

「はっ……はっ……はっ……」

 

 道を引き返し、スオウの元へ急ぐシロコ。

 プレナパテス、そしてシッテムの箱の化身とも言えるアロナ。二人のサポートがあったとしても、果たしてあの化け物を相手にどれだけ喰らいつけるものか。

 

「その前に……!」

 

 殺される前に、殺させる前に。ほんの少しでもいい。時間を稼ぐ。救いの手を信じて。

 

「もうこれ以上……!」

 

 これ以上、誰も死なせない。失わせない。そんな気持ちを胸に、風を切って走り抜け。

 

「あぶなっ……!」

「“え?”」

 

 角から現れたのは、見覚えのある白い影。このままでは激突することは避けられない。

 足への負担を無視して、急ブレーキをかける。そうでもしなければ、彼の体は四散爆裂してもおかしくないからだ。なぜなら彼は、キヴォトスの外の人間なのだから。

 

「先生っ!!」

「“シロコ!無事だったんだね!”」

 

 止まり切らなかった勢いのまま、彼の胸元に飛び込んだ。

 なぜ彼が今ここに。果たしてどうやってここに。そんな疑問はどうでもいい。彼女にとって、先生が来ることもアビドスのみんなが来ることも当然のように信じられたことだから。

 

 それよりは、今伝えなくてはならないのは。

 

「先生、来て!今、すぐに!このままだと、大変なことに……!」

「“わかった!事情は向かいながら聞くね!”」

「ん!みんなは?」 

「“……もう一人のシロコのところに。すぐに追いつくよ”」

 

 つい先程通信越しに入ってきた情報を伝えながら、彼女に手を引かれ、その走りに追従する。

 先生程度の筋力では彼女たちの走行速度に追いつくことはできないが、手を引かれながらならかろうじて足は動いた。

 

「……そっか。なら、あの子はもう安心」

「“シロコ……あのシロコは、一体……”」

「別の世界の、私。あの子は、そう言ってた」

「“別の世界……”」

 

 突如として回復した通信により、シロコのスマホに大量の通知音が鳴り響く。それらに目を通すことによって、地上で何があったのか。大体は把握することができた。

 少なくとも、地上も決して安全とは言い難い状況であったことだけはわかる。

 

「……地上で起こったのは、多分あの子が引き起こしたこと。でも、もうそんなことはできないと思う。だから安心していい」

「“そっか。……ならシロコは今、どこに向かってるの?”」

「……スオウのところ。二人の、スオウのところ」

「“っ……!”」

 

 二人のスオウ。黒い、別世界のシロコに襲いかかった彼女もまた、別世界の存在。自分たちの知る桐花スオウと異なる存在だった、というわけだろう。

 結果としては、彼女をスオウ本人であると扱うマユミも、別人だとして扱うサオリも、どちらも正しかったわけだ。

 

「“でも、だったらなんで二人は……”」

「……あの子は、別世界の私を殺そうとしてる。私たちを逃して助けを呼ぶ時間稼ぎのために、スオウは戦ってる」

「“……”」

 

 別世界の存在。今目の前で話しているシロコと彼女が別人のようであるのと同じく、スオウ同士も理解し合えない。銃を交えているということから、それは確かだった。

 

 別世界のスオウに手加減はなく、一時は自ら死に向かった彼女が、今更「自分同士だから殺さない」、などという選択肢を取るとも考え難い。

 

「“急がないとね”」

「……ん。決めた、先生。乗って」

「“……えっと、一度止まって背を低くしてもらわないと”」

「私にじゃない……こっち」

 

 そう言ってシロコは、ドローンを呼び寄せる。先生でもかろうじて乗ることができる程度のスペース。

 

「“すごく振り落とされそうだ”」

「固定ベルトがあるから、安心していい」

「“すごく安心できないなぁ”」

 

 なんだかんだと言いながらも、仕方なくベルトを付け、ドローンに乗る先生。瞬間、シロコとドローンが一気に加速した。

 

「“速っ……!”」

「今度は、私からも質問」

 

 先生を引っ張る必要がなくなり多少余裕も出てきたのか、シロコの方から質問を投げかける。

 

「どうやってここまで来たの?地上が見えないくらい高い場所だったのに」

「“それは……話すと少し、長くなるんだけど”」

「……なら、後でいい。もうすぐスオウたちのところに着く」

 

 彼女の質問によって思い起こされる、ここに来るまでの過程。

 

 聖園ミカ。アビドス高等学校の面々。なぜ彼女たちがこれほどまでに早く、この場に現れたのか。話は、四時間ほど前に遡る。

 

 

 

 

 四時間前。ちょうどウトナピシュティムの本船を発見し、アトラ・ハシースの箱船攻略作戦をを組み立てていた頃。

 「全員がヘイローを破壊される」、と。セイアから、衝撃的な一言が言い放たれた。

 

「ヘイローを、破壊……?冗談にしてはタチが悪いけど」

『冗談ではないよ。私の勘がそう告げているんだ。間違いなく、誰かが死ぬと』

「か、勘なんて……そんなの信用できると思いますか!?」

 

 必然、非難は轟々。当然だ、これからお前たちは死ぬと面を向かって言われたのだから。

 しかしセイアがこのような言い方をした理由は、いつも通りの配慮不足からではなく、むしろ逆。危機感を持たせるためだ。

 

「待ってください。セイアさんは今回の一件についてもいち早く察知し、我々に共有していました。耳を傾ける価値は」

「て言ってもそれって、予知能力が無くなる前の話だよね……?今はもうないんだからただの虚言じゃない?」

『なるほど、一理ある。だが、こちらもその程度で引くわけにはいかないんだ。なにせ、人の命がかかってる』

「こちらはキヴォトスの命運です」

 

 リオとの口喧嘩にすら満たない話し合いを終えたヒマリが、車椅子を動かしてセイアの方へ向かう。

 

「私もミレニアムの全知にして千年、いえ億年に一度の天才美少女ハッカー。予測や予見、それらに伴った勘といったものを否定するつもりはありませんが、アテにするにはあまりに生まれる犠牲と、不確定要素が多すぎます」

『つまりは、証明しろという話だね。しかし私のこれは以前の予知と違い、危険に対してでしかその反応を示さない。私にとって能動的に使えるものではなく、ただ備わっているだけの機能と考えていい』

 

 要するに、「証明しろと言われても意図的に使えるものじゃないから難しい」と、そういうことである。

 ヒマリたちとて、ここでセイアが嘘を吐く理由がないことはわかっている。しかしいきなり可笑しなことを言われたところで、心象として納得できるかは別の話だ。

 

「“……”」

 

 唯一先生とハナコには、それを肯定できるだけの理由がある。海での一件。セイアの勘でミカがあの場に来なければ、スオウはアケミに討たれていたかもしれない。

 

 しかしそれを根拠にしようとすれば詳細な説明を求められ、芋蔓式にスオウの存在がバレることになる。

 別世界のスオウが現れた時点で何を今更、という話だが、一方でセイアたちの立場を考えれば馬鹿正直に話すわけにもいかなかった。

 

 どうしたものか。セイアと共に頭を捻っていると、ふと彼女は思い至ったように。

 

『ああ、そうだ。今からちょうど十秒後、後ろの扉が開いて……おそらくそれが原因で、私は怪我をする』

「え?」

『見守っていてくれたまえ。あと私が気絶したらミネを呼んで欲しい』

「せ、セイアちゃん……?」

 

 困惑するハナコを他所に、セイアは十からカウントを始める。

 そして、ちょうどゼロに至った頃。

 

『セイアちゃん!!いい加減にっ……あ』

『ぐふっ……!』

『せ、セイアちゃーんッ!!』

 

 扉を蹴破ったミカが勢い余ってその扉を蹴り飛ばし、セイアの脳天に直撃させた。

 

『だ、大丈夫!?ごめんねセイアちゃん!!』

『安心しろ、絶対に許さない。だが今はちょうどよかった』

『な、何言ってるのセイアちゃん……!?な、ナギちゃん!セイアちゃんが!!セイアちゃんの唯一の長所が!!』

『そんな、セイアさん……!頭が……!?』

『君たちが私をどう思っているか、一度よく話し合う必要がありそうだね。法廷で会おう』

 

 頭から血を滲ませながらさらに青筋を浮き立てるセイアを側に、周囲の反応はドン引きもいいところだった。

 

 サクラだとするならあまりに危険で手が込んでいるし、仮に本当だったとしてこれで信じようという気になるか。そもそもティーパーティは大丈夫なのか。

 そんな考えから、ただひたすらに口を噤むしかない。

 

『……君たちの心情は推して測ろう。私の言葉をすぐに信用することはできないだろう。だが、最低限の根拠は示したつもりだし……私たちの今までの献身を汲み取っていただきたい』

「……」

 

 当たりどころが悪かったのか額から血を垂らすセイア。その一雫が顎から垂れるほどの時間を置いて、セイアは再び口を開き。

 

『いくら言葉を尽くそうとも、私からできるのは提案。それのみだ。だから、決定の権利は……先生。君にある』

「“……!”」

『どうする?先生』

 

 ああ、ここまでがセイアの狙いか。最後の言葉で、先生はようやくそのことを理解した。

 どこまで行こうと、勘は勘。根拠もなく、勘も正しい保証はない。そんな状態で自分の意見を通そうなど、土台無理な話。

 

 だが、先生が相手なら話は別。根拠は海で示した。この場の人間を揺れ動かすだけの根拠も与えた。先生の一言でどちらへ転んでもおかしくないところまで持っていったのだ。

 あとは彼が、その質問に答えるだけ。

 

「“……セイアの言葉を信じよう。最大限の安全性を確保できる中で、最高速でシロコたちの元に向かう”」

「……先生が、そう言うのなら」

『ありがとう、先生』

 

 ふとミカの方へ目を向けると、彼女と目が合う。いくらお転婆のお姫様といえど、扉を蹴破るようなはしたない真似をするものか。

 そんな疑念を視線にこめると、彼女は人差し指を口元において、悪戯げに笑ってみせた。彼女もセイアの共犯者、といったところだろう。

 

『と、ところでセイアちゃん、本当に血大丈夫……?』

『ああ、許さないよ。今度ツルギとミネを呼ぶから、一度君も同じ思いをしてみるといい』

『ご、ごめんってば……』

 

 ただ血が出るほどの威力は打ち合わせになかったのか、セイアはご立腹だ。

 少々気になるところは残しながらも、一時は口を開けば喧嘩ばかり。そう表されていた彼女たちが、今こうして協力している。

 

「“……それじゃあ、改めて……作戦を組み直そう”」

 

 少々安心しながらも、作戦の立案に戻り始めた。

 

 

 

 

 一方、ミレニアム自治区内、アリウス居住区にて。

 

「う……ん、ぅ……はっ!?」

 

 どこか情けないような、鼻の奥で何かが詰まっていそうな声で、甘川アシリが目を覚ます。

 

「あれ、わたし……っ、つぅうぅうう……!」

 

 体を起こして周囲を確認しようとしてみたはいいものの、激痛に阻まれて身じろぎ一つできやしない。

 体の方を見やれば、大雑把に包帯が巻かれ、サポーターが取り付けられ、最低限の治療だけがなされていた。この粗雑な治療方法は。

 

「まゆみ、ちゃん……?」

「ほらシオ!!これあげるから!!メイド服のスオウさんよ!!素敵でしょう!?」

『許さない……!許さないッ!!!鼻の奥から内臓を引き摺り出してあげるわ!!骨は砕いて肥溜めに混ぜ込んでやるッ!!!』

「……わ、私は何にもみてないよぉ……」

 

 声のする方になんとか視線だけを向けてみたところ、どうにも戦争が始まりそうだったのでアシリは再び意識をシャットダウンした。

 世は弱肉強食ではなく適者生存。弱いアシリはこの危機察知能力によって生き残ってきたのである。

 

「無かったことにするなよなー」

「むぅ!?いた、いたたたたたた……!さ、サユリちゃぁん……!?私多分、鼻骨が砕けてるよ……!?」

「あ、ごめんごめん」

「……はぁ……今これ、どういう状況……?」

 

 実際には砕けていないが亀裂が入っている。鼻を摘まれば激痛が走ろうというのも必然。それ以前に意識不明の重体患者の鼻を摘まないで欲しい。

 色々と言いたいことを飲み込んで、アシリはサユリに質問をした。

 

「アシリが頑張ってくれたから、アリウスのみんなと通信が繋がるようになったよ。よく頑張ったな、アシリ」

「そっか……よかった……」

「で、私はキヴォトスロボの修理が終わったし、組み立てもやったから暇人。マユミは中のシオと協力しながらこの黒いのを壊せないか頑張ってんだ」

「そっか、協力……」

 

 アシリは再び、マユミたちの方へ意識を傾けて。

 

「いいからそれで『あねのにうむ』とかいうのを補給しなさいな!!それで作業が早くなるんでしょう!?もうあんまり時間はないわよ!!」

『馬鹿この間抜け!!頭ブルブルブルーベリー!!アネノニウムは精神的なアプローチだけじゃなくて物質的なアプローチも必要に決まってるじゃない!!最低限パニエくらいは持ってきなさいよ!!あとお姉ちゃんにメイド服着せたのは絶対許さないから!!』

「いや今はそんなこと言ってる場合じゃ、ブルーベリーってなによ!?」

「……協力?」

 

 震える手でゆっくりと指差すアシリに、サユリは見ての通り、と首を横に振った。

 ヤンデレのシスコンと妄執付きのスオウキチ、掛け合わせればどうなるかなど、結果は最初から分かりきっていたのだ。

 

「……わた、私なら……お姉ちゃん、だし……」

「やめろよ余計に話がややこしくなる。せっかくうまくまとまり始めたってのに……それとアシリ、はいこれ」

「え……?あ、ガジェット……」

「もうデータはぶっこ抜いたから大丈夫だってさ」

 

 ひび割れているものの、かろうじてその形を保っている。かなり無茶をさせてしまったが、アシリはもとよりモノに愛着を持ちやすい。無事なことに、少し安堵した。

 

「またぶっ壊すなよ、二度目はないからなって、マユミが」

「あ、へへ……ごめんね……ベルトは……?」

「現在ただいまマユミが解析中。結構いいデータ取れたらしいよ?」

「でぇた……?」

 

 ホワホワとし始めた理性で、聞こえた言葉をそのまま返すアシリ。これはあまり話しても意味がないだろうかと、最低限を伝える方針に変えた。

 

「それより、体動かないだろ。全身の骨が砕けてるから、無茶するなよ?」

「っ……ま、まだまだっ……!スオウちゃん、まだ戻ってないでしょ……!?妹のためなら、お姉ちゃんは最強無敵に……!」

「中手骨、基節骨、尺骨、肋骨、中足骨、脛骨、腓骨が粉砕骨折。他骨折、亀裂多数。下顎骨骨折、中切歯、第二大臼歯粉砕。頸椎が捻挫、全身に内外どちらでも無数の出血が」

「わ、わかったよ……!わかったからそれ言うのやめてぇ……!?怖いから……!!」

 

 体の症状を的確に伝えていくサユリに、アシリは震え上がり無茶をやめた。

 それでいい。サユリはフンス、と鼻を鳴らす。何せアシリにはまだ頑張ってもらわなければならない場面がある。今余分に体力を使うべきでない。

 

「……と、ところでサユリちゃん。後ろのそれはなぁに?」

「ん?あー、これはなぁ……」

 

 そうして、他愛もない話に移り始めたところで。

 

『やあ、皆。無事かな』

「どぅおわはばっしゃぁい!!敵襲ッ!!敵襲ぅッ!!来い!!スーパーキヴォトスロボぉ!!」

『違う!よく見ろ!』

 

 突然接続される通信。呆れ気味なサオリの指摘に従って声の主を探してみれば、そこには見覚えのある狐耳が一つ。

 

「ああなんだ、百合園じゃない」

『なんだとはなんだ。さっきからなんなんだろうね私に対するこの扱いは。私はティーパーティだぞ?』

「うるさいわねティーパーティだかマリコパーティだか知らないけどこっちは今忙しいのよ」

「ま、まゆみちゃぁん……!セイアさんに変なこと言わないでぇ……!?」

 

 ミカに引き続いて散々な自分の扱いにムッと顔を顰め、されどもいやいや、今はそんな場合ではない。なんとか飲み込んだ。

 

『……その、百合園セイア……すまないな、色々……』

『……君を呆れさせるのだから彼女たちもなかなかのモノだよ、錠前サオリ。君たちの愛しい姉は相変わらず行方知れずかい?』

『残念ながら……だが、見当はついている』

 

 マユミが聞いた、スオウの発言。先生たちからの目撃情報。

 『桐花スオウは砂狼シロコを殺そうとしている』、それが彼女たちが出した結論だった。であれば。

 

『スオウは多分、空中にいる』

『……ああ……ああ、確かに。それは、正しいだろうね。勘だけれども』

『勘……って言うのは、そっちの?』

『その通り、予知の残滓さ』

 

 セイアが海で見せた直感にも近い勘。結果論だが、それでスオウはアケミに敗北することもなく、花火を見ることができたのだ。

 

『べ、便利そうですね……正直、以前よりも……』

『思っても口に出さないの。それで、ここには何の用?』

『ああ、それはな……予言……では、もうないのだったね。ただの助言さ。君たちの行く末を見守り……そしてその道を助ける者の一人として』

『助言……』

 

 あの百合園セイアが。最後を除いて、傍観者であり続けようとした彼女が、助言を。

 こんなにも心強いことはないだろう。期待に満ちた視線を感じ取ったのか、セイアは少し困り気味に口を開く。

 

『いや、本当にただの助言だからね……そんな目で見られても困るというか、ほら。今すぐに君たちをここから脱出させたりだとか、そんな芸当ができるわけではないのだし……ああ、もういい。とにかく話すことだけ話してしまうぞ』

『うん。頼む』

『そこのミレニアム生』

「っ……んっ……私?」

 

 エナジードリンクを飲み干していたマユミが自分を呼ばれ、なんでしょうと後ろを振り向く。

 ちなみに彼女の奥ではアシリがすごい形相をしていた。「あの怪我でエナドリとか信じらんねぇこいつ」という顔である。

 

『そう、君だ。……結論から言うと、このバリアの解除は……ウトナピシュティムの本船が発つのに間に合わないだろう。これは勘ではない、客観的事実だ』

「……そうね。わかってるわ、それは」

 

 そんなことは、マユミとて分かりきっている。そもそもの目的が違う。

 彼女にとって第一優先はサオリたちの安全。次点で、スオウの発見、及び拘束だ。彼女とて、優先順位は履き違えていないのだ。

 

「それで何かあれば、一番傷つくのはスオウさんだもの」

『……ああ、そうだな。私が言いたいのは、君が今作っている()()だ』

「……!」

 

 そう言ってセイアが指差すのは、マユミが調整している武器。

 彼女の叡智と予算、それから健康寿命を注ぎ込んだそれは、紛れもなくキヴォトスロボすらをも超える最高傑作。

 

 スオウが万が一、正気を取り戻していなかった場合。あの黒いスオウが、スオウのままでいた場合に向けた、最終兵器である。

 

『……それを使うのは、白洲アズサであるべきだ』

『……私?』

『その通り。君だよ、アズサ。サオリではなく、君に合わせられるべきだ。その武器は』

 

 なぜそう思ったのかはわからない。だが、このままではまずい。

 捻じ曲げられ、切り捨てられた本質の残り香に、彼女は強く衝動的な訴えを受けている。

 

「……まあ、参考程度に留めておくわ」

『ああ、それでいい』

 

 今はとにかく、バリアの破壊が優先的。マユミは再び解析に向き合い始めた。

 

 

 

 

 数刻後、ウトナピシュティムの本船内。

 メンバーは各校の叡智。そしてゲーム開発部。さらに、美食研究部だ。もちろんフウカもいる。

 

「メインパワーの起動を確認しました!」

「メインコントロールシステムの稼働、完了……!」

 

 マニュアルに従い、各システムはオールクリア。発進準備はつつがなく完了され、まさしく出発しようという直前。

 先生は、黒服との会話を思い返していた。

 

───先生の肉体は、これを使用した瞬間……取り返しのつかない被害に遭うでしょう。

 

 それが意味するのは、明確なる破滅。死だ。

 

『先生……考え直すつもりは……これは、この船はいつものそれとは違うんです。私でも、先生を守り切れるかどうか……』

 

 アロナの言葉は、それを肯定していた。この船の起動。そして、出発。それと同時に、先生は……あるいは、死に至るかも知れない。

 

「“ごめんね、アロナ。それでも、私はやるよ”」

 

 いつだったか。スオウに言われた。「そういうところが怖い」と。またいなくなってしまう。それが、怖いと。

 

「“……私は、あの子たちの先生だから”」

 

 ただ、生徒のために。ともすれば、スオウには叱られてしまうかもしれない。「人に言っておいて、自分はどういうつもりだ」と。

 あの少女は、似ている。自分に。あるいは、自分の憧れ。そして、義務。理想、そのものに。

 

「“だからごめんね、アロナ”」

『っ……!いえ!アロナは諦めません!絶対絶対、先生を守り抜いてみせます!!』

 

 その理想に、背を向けることがあってはならない。最後まで、先生として。

 ……たとえその行為が、矛盾に満ちたものであったのだとしても。

 

「先生、号令をお願いします……!」

「“了解。……宇宙戦艦『ウトナピシュティム』、発進!”」

「りょうか、う、宇宙戦艦ってなんですか!?」

 

 起動。同時に、安定。本体が宙に持ち上げられ、その景色が目まぐるしく動いていく。

 

「“……!”」

 

 激痛。この船にとって異物である『彼女』を排除しようとするウトナピシュティムの本船。その被害を、彼が引き受ける。

 

『せん、せいっ……!お願いです!!どうか、どうか……!!』

 

 だんだんと、意識が遠のいていく。視界がぼやつく。そして、いよいよ気を失うかという直前。

 

「わーっ!?ちょ、なになになに!?なんか扉が動いてるよ!?」

 

 ギギギギギ、と。ウトナピシュティムの本船、その扉がこじ開けられる。

 

「っ、敵襲!?モモイ、ミドリ、アリス、ユズ、下がりなさい!」

「先生、戦闘準備を……っ、先生!?」

 

 霞む視界の中で、彼は確かに目撃した。

 

「はぁっ……ふぅー……やっと追いついた☆」

 

 無邪気というにはあまりに暴力的な、お転婆のお姫様を。




 風邪を拗らせてしまい、更新が遅れました。
 更新の遅延が続いてしまい、本当に申し訳ございません。次は最低限いつも通りに更新できる……はずです。
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