ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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【最終編】共闘

 ミカとスオウ。両者は肩を並べて立ち、各々の武器を別世界のスオウに向ける。

 

「あいつ、どう?」

「ほぼ私と同じ。黒い物体を自在に操る力があります」

 

───初めて、同じ方へ向いたな。

 

 先にそう考えたのは、どちらの方だったか。

 そんな場にそぐわない浮き足立つような気持ちは、すぐに霧散することになる。

 

「加減ナシだよ。合わせれるよね?」

「誰のお姉ちゃんに言ってるんですか。ミカこそ、上手く合わせてくださいよ」

 

 壁が反り立つ。ナラム・シンの玉座をも侵食する、恐怖(terror)の奔流。

 

「……ミカ。はじめに警告しておく」

「っ、ん?」

「俺の邪魔をするってんなら、たとえお前が相手でも容赦はしない」

 

 虚仮威し。と、いうわけではない。忠告でもなく、警告だ。

 

 力を誇示し。自分の邪魔をするつもりなら、この全てがお前に降り注ぐ。目に映る全てで、スオウはミカにそう訴えかけている。

 

「……そっちの私はさ。そう言えば止まったの?」

「……はははっ……ああ、そうだな」

 

 黒い壁が消えた。

 

「そんなお前だから、生きていて欲しかったんだよ」

 

 それが、開戦の狼煙だった。

 

「っ、ミカ!」

「うん!」

 

 スオウとミカに、黒い楔が叩きつけられる。別世界のスオウは、確かにその光景を捉えた。

 しかし次の瞬間すでに、二人の姿はそこになく。

 

「はぁっ!!」

「オラッ!!」

 

 直後、別世界のスオウの横に、二人の姿が現れる。

 両者、彼女を挟むようにして放った拳。力と神秘が篭ったそれは、鮮やかな緑と桃の神秘を周囲に伝え、噛み砕くようにして穿ち。

 

「っ……!なるほど、これは強いね……!」

「だーから言ったじゃないですか……!」

「……ヌルいな」

 

 しかしそれらは、別世界のスオウの両の手によって完全に封じられた。

 

「……ひょっとして私、舐められてるかなぁ?」

「違いますよミカ、これは舐めてるんじゃなくて……すごく舐めてるんです」

「あははっ、生意気☆」

 

 直後、二人の肉体は淡く光る。全身に纏う神秘で。後先を考えない出力で。

 

「……いいや……お前の強さは知ってるよ、ミカ」

 

 徐々に強くなる腕力。懐かしい感覚を覚えながらも、もう一人のスオウはミカに対してのみ恐怖を広げ拘束。

 

 僅かに筋力を制限し、力の均衡を保つ。

 

「だから俺は、お前を侮らない」

 

 掴んだ拳をぶん回し、二人の衝突を狙う別世界のスオウ。

 それを打破するべく動いたのは、ミカと違い拘束を受けていないスオウの方だった。

 

「っ……!」

 

 打ち付けられる寸前、体を捻りミカの体を上方向へ蹴り上げる。

 多少のダメージを喰らいつつも、ミカはその隙を見逃さない。拘束を破壊し、その筋力で足を瞬間的に動かす。合わせるように、スオウはショットガンでダメージを狙い。

 

「そ、りゃあっ!」

「ふんっ!」

「チッ」

 

 別世界のスオウはそのどちらもを体を後ろに逸らして回避。そのまま宙に跳び、視界が反対になった状態で攻撃の隙を伺う。

 

「……っ!?」

 

 そこで、違和感に気づく。ミカの姿が見えない。

 先程自らの横を裂いたあの感触は本物だ、ならばミカはどこへ行った?答えは直後、衝撃を持って伝えられる。

 

「ぐ……!」

「当たった!」

「やりやがったな……!」

 

 爆弾だ。この世界の自分がミカを爆弾で吹き飛ばし、ミカはそのまま天井を蹴って踵落としを仕掛けてきた。彼女の足を掴んで投げ飛ばしながら、そのことを理解した。

 

 確かにミカはスピードで僅かに劣る。この世界のスオウと比べても。だが、スオウが爆弾の位置を調整すればそれは無視できる。

  同じ轍は踏まない。もうあの不意打ちは通用しない。

 

「まずはお前からだ」

 

 投げ飛ばしたミカに追従。体勢を整えつつあるようだが、あの程度ならば簡単に気絶させることができる。

 そんな意図から爆弾を握りしめた拳を振り抜いて、直後。彼女が白いロープを持っていることに気づく。

 

「はっ?」

『横だよ!!』

 

 髪の毛ロープ。張っている。ミカが引いた証拠。声。

 

 この世界の自分を引いてこちらへ飛ばす。それが目的だと理解し、しかしそれならば対策は容易。無数のショットガンを声の方向に撃ち放って。

 

「……!」

 

 破壊されたボイスレコーダーを目撃し、自らの失敗を理解する。

 

「黒歴史消してくれてありがとうございます!」

 

 ミカの影から現れた別世界のスオウが、ハンドキャノンを撃ち放つ。

 

 ミカが持参した黒歴史記録機(ボイスレコーダー)による囮、あまりにも原始的な罠だったが、効果はてきめんだった。

 彼女の聴覚は、とっくに役割も満足に果たせない道具に成り下がっていたのだから。持ち主と同じだと、いつだったか自嘲していた。

 

「く……!」

 

 恐怖を込めた腕で弾丸を防御。その場所に突き刺さるミカの腕。またしても爆弾による加速。

 

「芸のねぇ鳥頭が!!」

「あ、こっちのスオウちゃんより罵倒の語彙ある!」

「うるさいですよミカ!」

「そんなこといわ、がっ……!?」

 

 羽を掴んで顎に蹴りを加え、そのままへし折るつもりで手のひらに力を込める。

 しかしそれを黙って見逃すスオウでもない。そんなことはわかっている、だから。

 

「っ……!?」

 

 恐怖によるバリアの再現。これであの間抜けは身動きが取れない。

 

「ごめんな、ミカ」

 

 そのまま、ミカの羽はバキ、と音を立てて折れる。

 

「な……!」

 

 プラナによる拘束具の生成が間に合ったのは、まさしくその直前だった。

 

「はい油断し、たっ!!」

「が、ぅ……!!」

 

 意趣返し。そう言わんばかりに腹に突き刺さる足。そのままバリアの方へと向かい、突き破る。その中には当然、スオウがいた。

 

「ミカの馬鹿ァ!?」

 

 悪態を吐きながらも別世界の自分と拳の応酬を広げるスオウ。

 筋力が以前よりも上がったとはいえ、別世界のスオウの方がその能力は遥か上。だが彼女には一年のブランクがある。総合的には、互角よりわずかに不利。

 

「っ、お、と……!」

 

 そこに恐怖(terror)を用いた武器の生成が加わることにより、状況は一気に悪化する。いつのまにやら生成された手錠で後ろ手に拘束され、ミカの加勢が間に合わなかった。

 

「……」

 

 スオウへの追撃を止めるべく、ミカは機関銃を発射する。しかしそれは、彼女の周辺に展開された恐怖によって阻まれた。

 

「あれは……!」

 

 大量の恐怖が、彼女の手の中へ。先程自身の肉体を貫いた『アレ』だと、直感的にスオウは理解する。

 先程のアレがもう一度自分に向けば。今度こそあの凶弾が、自分の心臓を貫いたのなら。

 

 あるいは、それがミカに向いたら?

 

「っ……!」

 

 どちらか一方が、ともすれば死ぬ。だからこそ、彼女は心からの賞賛を送った。

 

「な、あ……!」

「ミカ!!」

「任せて!」

 

 跳弾を利用してスオウの拘束を破壊し、この反撃の隙を作り出したミカに対して。

 

「っ!」

 

 追撃。初めて攻勢に転じ、反撃を辞め勝利へと向かう。

 

「クソッ!!」

 

 声を荒げ、恐怖を触手のように振り回して攻撃してくるスオウの攻撃を逸らし。殴り。爆破し。躱す。

 それでようやく、間合いの内側。拳の射程圏内だ。

 

「ぐ……!お、らぁああっ!!」

 

 再度肉弾戦。格闘技術はミカよりもスオウのそれが遥か格上。筋力も拮抗状態。

 故に、先に腹に一撃をもらったのはミカだった。

 

「げほっ……!あはっ、学習能力ゼロだね……!」

「っ……!」

 

 しかしミカはそれを腕力と腹筋で固定。いつぞや、スオウを痺れさせる隙を作った時のように。

 今回その隙を、猶予を使うのはマユミではない。他ならぬスオウだ。

 

「はぁっ!」

「っ……!」

 

 掌底。ダメージを与える目的ではなく、吹き飛ばすことを前提とした攻撃。

 爆風も交えたそれは、容赦なくスオウの体を一気に吹き飛ばした。

 

「スオウちゃん!」

「おう!」

 

 腰を低くしたミカを見て、彼女の掌に足をかけ、そのまま追撃を加えるべく大きく跳躍。爆弾による加速も行い、最高速度の彼女の元を目指す。

 

「この……!」

 

 当然、黙ってやられるスオウではない。爆弾の投擲。銃火器の生成。物質を操る能力を利用した、浮遊。選択肢はいくらでも出てくる。

 

「させないよ!」

「な……!」

 

 しかしその全てが、ミカの機関銃によって撃ち破られる。

 スオウは後ろを見ない。止まることもない。避けることもしない。彼女の親友が必ず自分を守ってくれると、そう理解しているから。

 

「でも少しくらい自力でも避けてよ!?」

「ごめんミカ!頼りに……アテにしてる!」

「ごめんじゃなくて!というか嫌な言い方!」

 

 と、実際にこんな会話がされたわけではないが。二人の中で、相手はこんなことを言い出すのだろうな。そんな奇妙な確信はあった。

 だがそれが現実になるよりも先に、スオウは別世界の自身の元へ辿り着く。

 

「サユリ直伝キック!!」

 

 勢いは緩めない。そのまま片足でもう一人のスオウを壁にめり込ませる。

 

「図に、乗ってんじゃねェぞ!!!」

「やばっ」

 

 口元から血を垂らしながらも、別世界のスオウは怯まない。即座に背後に展開した爆弾で壁から抜け出し、スオウをロープで絡め、地面に叩きつけた。

 そのまま恐怖を利用した絨毯爆撃で念入りに追撃。

 

「はぁ……!はぁ……!」

 

 今のスオウにとって、もはやこの世界の自分も。あるいは、聖園ミカでさえも。もはや敵ではない。

 だがその二人が協力する。ただそれだけのことで、明らかに先程まで有り得なかった手傷を負わされ始めている。

 

 傷そのものが問題なのではない。そんなもの、どうせ恐怖で簡単に治ってしまう。

 だが、そんな力があったのなら。同じことが自分にもできていたのなら、最初から。

 

「っ、黙れッ!!」

「黙んないよ!!スオウちゃんとおしゃべりするの楽しいし!!」

「……!?」

 

 心を蝕まれていた。その隙を突かれて、爆煙に紛れたミカに気づかなかった。その影響で、今度は大聖堂の天井まで叩き上げられ。

 

「っ……!クソゴリラが……!!」

「スオウちゃんも今はもう一緒でしょ?霊長類最強コンビ爆誕だね!」

「……!」

 

 天井そのものが崩落。瓦礫が宙に浮き上がる。

 

「さっきはよくもボカボカ爆破してくれましたね!!」

 

 その瓦礫を伝って、焦げまみれのスオウが空中まで追い上がってきた。

 

「せっかくのコートが焦げまみれですよ!!」

「他も焦げまみれだよ、脳みそ茹であがっちゃったから気づいてないのかな?」

 

 巨大な岩石に、はち切れんばかりの神秘が込められている。神秘による硬化がされている。妙に砕かれた痕跡があることから、おそらく中には爆弾も仕込まれているのだろう。

 

「なるほどね!」

 

 その意図が読めないミカではなかった。彼女が投げ捨てたそれを掴み。

 

「……フー……」

 

 なんの防御もない。抵抗もない。目を閉じて、深呼吸。そして、集中。

 両手を握る。落下する瓦礫の一つに足をつけ。正面に、しっかりと構える。

 

「邪魔立てを……!!」

「私を殺したいんでしょう!?だったらこっちかかってきてくださいよ!!」

 

 先ほどとは逆に、降りかかる災難は全てスオウが退けてくれる。だから、周囲に気を使う必要はない。ミカは聴くことすらもやめ、自分の感覚をすべて内側へと向けた。

 頭のてっぺんから、腰まで。一本、芯を通して心を整える。祈りは余裕があったら。

 

「よし」

 

 格闘技術に触れたことはない。ただ筋力を暴れさせる、まさしく暴力を用いていたミカが初めて至った、技術。

 スオウに教わったそれは、一つ残らず彼女の肉体へ浸透し。

 

「はぁっ!!」

 

 そして、巨大な岩を吹き飛ばし。それを、別世界のスオウへとぶつけた。

 

「が、はっ……!?」

「あ、っぶな……」

 

 自分にも当たる直前、ミカがフードを掴んで引いたおかげでなんとか無事で済んだと一安心。呼吸を整えながら、スオウは下を見る。

 岩石に仕込んだ爆弾が爆ぜ、連鎖的に地面に設置していたトラップが発動。瓦礫でそのまま別世界の自分を生き埋めにする寸法だ。

 

「……地形が変わっちゃいましたね」

「大丈夫大丈夫、どうせ船の中だし。そうじゃなくても地図にも乗ってないからね」

 

 これで漸く、決着。

 

「って、そんな甘くないですよねぇ……」

「タフなのがスオウちゃんの厄介さだもんね……」

「……」

 

 全身が血に塗れ、肌が抉れ、身を焼かれ。それでもなおその能面を崩すことなく、スオウはそこに立っていた。

 

「ぺっ……」

 

 内臓にもダメージがあったのだろう。口から血を吐き出して、スオウは歩みを進める。

 さしもの彼女も、即座に完治とはいかないらしい。足を引きずり、それを不便に思ったのか、浮き上がりながら見下して。

 

「虚しい」

 

 一言。

 

「虚しい」

 

 一言、一言。

 

「虚しい。虚しい。虚しい」

 

 言い聞かせるように連ねるほど、飲み込まれるような黒洞が増え続け。

 

「虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい」

 

 その奥に、銃口が覗き込む。

 

「虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい」

 

 拳で打たれても。銃撃を受けようとも。爆炎に飲まれようと。

 

「虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい。虚しい」

 

 ミカとスオウがどれだけの攻撃を加えても、彼女の言葉は止まらなかった。

 

「……Vanitus vanitutm,」

 

 否。止まることができなかった。だから、その引き金を引いてしまった。

 

「et omnia vanitus」

 

 そうでなければ、彼女はもはや心を保つことができなかったから。

 

「……」

 

 たとえ他の世界の自分自身を、そして何より。一度は失ったはずの自分の親友を。ぐちゃぐちゃの肉塊になるまで痛めつけることになろうとも。

 あるいは……砂狼シロコのヘイローを。一度は生徒だったもののヘイローを、破壊することになろうとも。

 

 そうでなければ───

 

「げほっ……!」

「───は?」

 

 呻き声が聞こえた。血を吐くような呻き声が。

 

「なん、で……」

 

 あれだけの集中砲火。自らの恐怖、その大半を使い切る切り札だ。

 決定的な肉体の欠損を避けることなどできない。実際それを見ていたわけではないが、そうなるはずだ。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 だというのに、なぜ。この二人は、多少のダメージを受けた程度で抑えられているのか。答えは、すぐに出た。

 

「“スオウ”」

「っ……!!」

 

 背筋を鳥肌が這い上がった。心臓が早鐘を打ち、そのまま目が爆ぜて噴き出しそうな感覚がした。

 先生が。死んだはずの彼が。追い求め続けた彼が、今、そこに。

 

 無意識のうちに、手を伸ばしていた。人混みの多い道の中で、親の背を追う子供のように。

 

「せんせ」

「“ごめんね、遅くなって。また、一人で戦わせてしまった”」

「っ……!!」

 

 けれども、すぐに気がついた。彼の呼んだ名前が、自分のものでなかったことに。

 

「い、いえ、その……信じて、ましたから……それより、先生は大丈夫ですか?弾がいくつか掠ったんじゃ……」

「“私は大丈夫だよ。二人が庇ってくれたから”」

「あはは……最初は私たちが庇われてたけどね……」

 

 その名を呼んでくれるはずの彼が。もう、自分にはいないことに。

 

「そうだよな……」

 

 否、彼に限った話ではない。

 

「……ああ……」

 

 もう自分をそう呼んでくれる者など、どこにも。

 

「……会いたかった(会いたくなかった)よ……先生……」

 

 こんな自分の姿を、先生に見られたくはなかった。

 

「“……スオウ?”」

 

 幸か不幸か。その声で、彼は別世界のスオウの存在に気づいてしまう。

 

「“……そっか……あれが……”」

「はい……別世界の私、です」

「“……”」

 

 先生の目は。相変わらず、見れないままだった。

 

「……」

 

 なんの言葉も出てこない。何を喋れば良いのかさえわからない。

 とうの昔にドブに捨てたはずの理想が、その体現者が今、目の前に現れたのだから。

 まるで誰かが、ドブに塗れたのはお前の方だ、とでも言いたがっているのではないか。そう疑りたくなるほど、別世界のスオウにとっては都合の悪い現実だった。

 

「“……初めまして、だね”」

 

 声をかけられて、冷や汗が垂れる。悪戯を咎められたような気分に陥る。

 瞳が揺れ動いて、焦点が合わない。決意が揺らぐ。彼女は、()()()()()から。

 

 自分自身本当の望みがなんだったのか。果たして自分が本当に先生に求めていたものが、なんだったのか。

 もはや手には届かないものだと手放して。それが突然、自分の手のひらに転がり込んできた。

 

「……せん、せい……」

 

 かろうじて。その名を呼ぶことができただけ。

 

「ねぇ……先生……」

「“うん。私はここにいるよ”」

「っ……!」

 

 ああ。こんな自分にも、こうして笑いかけてくれる彼が。

 

 こんな自分を以ってなお、親友だといってくれる彼女が。

 

 こんな自分と友人になってくれた彼女たちが、生きていた証が。

 

 こんな自分でも愛してくれた、彼女たちが。

 

「……はははっ……なにが、わかるだよ」

 

 この世界の自分には。こんなにも残っているのだな。

 

「えらそうに、せっきょうかましやがって」

 

 それどころか、自分の世界の先生(プレナパテス)でさえ彼女に味方した。

 

「たくさんのこってる」

 

 自分が殺し合うしかなかったシロコと友人になり。あまつさえ、妹にした。

 

「おまえばかり、こんなにもあいされているくせに」

 

 先程の銃撃。その残滓が一点に集まる。

 

「……は?」

 

 攻撃のためではない。ただ、吹き飛ばす。遠く、遠くまで。

 ナラム・シンの玉座を超え。壁を破壊し、窓を突き破り。この船の外側まで。

 

「っ……!?」

 

 アトラ・ハシースの箱舟の外側に、桐花スオウは吹き飛ばされた。

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