ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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【最終編】大決戦

「ッ……スオウちゃんっ!!」

 

 桐花スオウへと伸ばした手が、空を切る。

 去り行く彼女の背中に届かなかった、あの日。ミカは無意識に、その光景を重ねた。

 

「ダメ……」

 

 荒くなる呼吸は平静を奪い、正常な判断を鈍らせる。

 

「絶対ダメ……!認めない、そんなの……!!」

 

 まだ、間に合う。きっと助ける。言い聞かせて、彼女が吹き飛ばされた方向へ踏み込んだ。

 

「させねぇよ」

「っ……!」

 

 その隙を見逃すスオウではない。

 先程までの崩れた表情を奥へ潜めた彼女は爆弾を握りしめ、そして聖園ミカの頭部に打ち込んだ。

 

「う……ぐ……」

 

 増殖した銃による追撃により、聖園ミカも決して無視できないダメージを負ってしまう。

 

「“……!”」

 

 ほんの、十秒にすら満たない時間。たった少しの動きで、状況の有利を完全にひっくり返された。

 

「……いい加減、アヌビスを獲りに行くか」

 

 まるで、わかりきっていたと。最初から、この結末は決まっていた、と。

 そんなことを言いたげな。興味のなさそうな表情で、彼女は目を閉じる。

 

「いた」

 

 いた。というのは、別世界のシロコ。スオウの言うところの、アヌビスのことだろう。

 彼女の目的は、最初からずっとそうだ。アヌビスを殺すこと。

 

「……どけよ、先生」

「“どかない”」

 

 ならば先生にとって、彼女を止める理由はあっても、行かせる理由はない。

 

「そーか。じゃあ、力尽くだな」

「“っ……!”」

 

 一瞬、彼女の姿がブレた。次に見えた時には、もう目の前にいた。鳩尾に拳をめり込ませようと、拳を振り抜いていた。

 

『せ、先生は私が守ります!』

 

 が、当然それを正面から受ける先生ではない。アロナの展開したバリアによりそれは阻まれ、青い火花を散らしながらせめぎ合う。

 

「……まあ……わかってたけどな」

 

 彼女にとって、まるでそれは。先生にすら、拒絶されているように思えた。

 

「だからって、先生は俺を止めれない。わかってるだろ?生徒に力で敵うわけがないことくらい」

「“……”」

「安心してよ、先生。アヌビスとあのクズ以外に、手を出すつもりはないし。……邪魔しなきゃ。だけどな」

 

 戦闘力を持たない先生とは、戦う必要すらない。ただ撒いてやればいいだけだ。

 彼を無視して、その横を通り過ぎようとして。

 

「……は?」

 

 それは、彼がスオウの手を掴むことによって止められた。

 

「いや、いやいやいやいや……」

 

 先程阻まれたはずの手が、今度は彼の方から触れられている。

 

()()()()()()()?」

 

 それに最も動揺したのは、他ならぬスオウ自身であろう。

 

 果たしてシャーレの先生は、地肌が触れ合った状態からバリアを展開できるか。触れ合った者からの攻撃に対して、バリアの展開は間に合うのか?

 答えは、否である。生徒によって違うだろうが、少なくとも自分であればこの状態から先生を屠れる。

 彼女が砂狼シロコとの長きに渡る戦いで出した結論だ。

 

「“……きっと、前にも同じようなことを言われたかもしれないけど”」

 

 だというのに、目の前の彼は。

 

「“私が、絶対止めるよ。そんなことは、スオウにさせない”」

「……はははっ……」

 

 そんなことを、分かりきった上で。

 

「先生ってば、いつもそう」

 

 振り解こうにも、下手に力を込めれば先生は死んでしまう。そんな恐れから、力をうまく入れることができない。

 

「よわっちいくせに、いつも生徒の味方ばっかりしちゃってさ。自分が傷つこうが死にかけようが、お構いなしだ。そんなんだから、生徒に殺されちまう」

 

 その大きな掌に包まれていると、全てを投げ出してしまいたくなる。

 

「そんなアンタに憧れたんだよ。先生。アンタが俺を()()させた」

「“……”」

 

 そんな感情とは、とうの昔に決別した。切り捨てた。

 

「でも、俺じゃ無理だったよ。失敗してばっかりだった」

 

 彼が羽織るそれとは、ひどく対照的な色合いのコート。背伸びをしても、彼の背に追いつけない体。黒曜石のような黒い髪と違い、中途半端な薄汚れた長い白髪。

 

「ひどい矛盾だと思ってた。自分は自己犠牲で奉公活動の慈善事業やっちゃってるくせに、人にはするななんて。でも、なんとなくわかった気がするよ」

 

 自分は、先生の紛い物にすらなれない。

 

「俺はそれじゃ届かなかった。だから、こんなやり方しかできないんだ」

 

 そのことを打ち付けられて揺らぐ精神に反して、彼女の体はひどく冷静に動いた。

 先生の手を取り返し、投げ飛ばす。ただの合気道。恐怖も、筋力も必要ない。たとえ彼女が見た目相応の少女だったとしても、同じことができた。

 

「背骨痛めるくらいは我慢してくれよ。精一杯、手加減はしたんだ」

「“ぐっ……!”」

「……離せっつーの」

 

 これでも離さないというなら、仕方ない。掌に恐怖を集め、ナイフを模った。

 

「許してくれなくていいよ、先生」

 

 そのまま彼の手を切り落とそうと、ナイフを振り下ろして。

 

「っ……!先生(プレナパテス)……!!」

 

 そのもう片方の手を、プレナパテスにより掴まれる。

 シッテムの箱による強化、そして反転し異形の身へ堕ちたことによる筋力の増強。それによって、彼女の手を止めおおせてみせた。

 

「……屍如きが」

「“……やっぱり、そっちの私はもう”」

「あ?……ああ、知らなかったか。うん、そうだよ」

 

 彼女にとってプレナパテスは、先生ではない。先生だったもの、だ。だから、加減する理由はない。

 腕を振って、壁まで吹き飛ばしてやった。

 

「もう死んでる。アヌビスが殺した。これでちょっとは俺の言い分もわかったろ?」

「“……”」

「はははっ。その目はこれっぽっちもわからないって感じだな。……いいよ、もう」

 

 どちらにせよここで先生をとどめれば、それでもう、今度こそ終わりだ。

 多少の手傷は仕方ない。脇腹でも撃てば、すぐに意識を失うだろう。銃を構えて。

 

「……待て」

 

 待て。その言葉を放ったのは、誰かと考えて。自分の口から漏れた言葉である。そのことに気づく。

 なぜだろう。なぜ、待つ必要がある。何に違和感を感じている。

 

「……シロコ?」

 

 そうだ。聖園ミカの話では、先生とシロコが合流していたはず。そして、ここまで案内した。

 だとすれば、彼女はなぜここを離れた?実力差は歴然。ほんの少しでも、戦力は欲しいハズ。少なくともシロコがいたならば、この状況にはなっていないだろう。

 

 その程度を予測できない彼らではないはず。ならば、なぜ。

 

「っ!」

 

 自らに疑問を投げかけた時。

 

「あ、ははっ……つーかまえ……たっ……」

 

 ミカが足を掴んだ。その隙を狙って、先生がミカの元へ向かった。

 

「あ?」

 

 目の前に、穴が開く。大きく、黒い穴。所詮は猿真似。自分ではこの速度で展開できない。

 つまりこれは、砂狼シロコの。

 

「っ……!?」

 

 結論づけた直後。黒い穴から、黄色い車が顔を見せる。『給食』と書かれた、あまりにも場にそぐわない車が。

 

「ウオラァアアアアアアアッ!!!」

 

 直後、ミカの手は離れ。先生はバリアを展開。

 そして車は最高時速のまま、桐花スオウを轢き潰した。

 

「ぐ……!」

 

 だが、この程度なら。そう考えた次の瞬間、車に乗車していた数名が地面へ転がり降りる。

 カチリ、と、何かが噛み合う音が聞こえ。

 

「わああああああああっ!?」

 

 直後、給食部の車は桐花スオウを巻き込んで、木っ端微塵に爆破させられた。

 

「あ、はは……ナイス、みんな……」

「“ミカ、大丈夫?”」

「……うん。身体は。もうちょっと、このままでいさせて……」

 

 ミカは血みどろの状態で微笑みながら、先生に体を預ける。

 

「わた、私の車、くるまが……!この前直したばっかりなのに……!」

 

 スオウが外まで吹き飛ばされたのは予想外。だが、ここに彼女たちが来たということは、あの穴が出現したということは、別世界の砂狼シロコが目覚め、そして協力したということ。

 彼女が死んでしまうより先に、シロコがきっとワープホールを駆使して助けてくれる。今は、そう思い込むだけでしか心を保てない。

 

「スオウちゃん……大丈夫だよね……?」

「“……信じよう。今は、それしかできないよ”」

「そうだよね……」

 

 そんな二人を傍に、言い合う影が二つ。横では、美食部員たちが慣れた目で見ている。

 

「ねぇ、最後のあれなに!?聞いてないんだけど!!」

「あら、散り際は美しくするものと相場が決まっていますわ」

「そんな相場ないわよ!!」

 

 美食研究会(テロリスト)の黒舘ハルナと、給食部(名誉美食研)の愛清フウカである。

 どうやら最後の爆発はハルナのアドリブだったようだ。結果としては別世界のスオウを追い詰めているのであまり強くは言えないが、あまりにもあんまりであろう。

 

「二人ともー、喧嘩するほど仲良いのはいいことだけど、今は油断しちゃダメだよ〜」

「仲良く見えますか!?これが!!」

 

 小鳥遊ホシノの指摘に、強い怒りを見せるフウカ。そんなホシノに続くようにして、アビドスの面々が姿を表す。

 

「“みんな!”」

「先生……よかった、間に合ったみたい。あなたも……仕事がある?……ん、わかった」

 

 後ろでワープホールが閉じる。シロコといくつか言葉を交わした彼女は、まだ姿を見せてはくれないようである。

 マフラーを彼女に預けてきたのか、普段は見えない首元が見えているのが深く印象的だった。

 

「げほっ……なるほど、な」

 

 車の残骸と瓦礫を散らし、桐花スオウが這い出てくる。横でフウカの悲鳴が上がったのを、先生は聞かなかったことにした。

 

「効いたぜ、お返しだ」

「え」

「っ!」

 

 咄嗟にフウカを庇うハルナ。その背には痛ましい弾痕が残るが、彼女は屹然とした態度を保っている。普段のテロ行為、その制裁による産物だろう。

 

「あら、随分なご挨拶ですわね。白い悪魔さん」

「あ?んだそりゃ、わけわかんねぇあだ名つけてるんじゃねぇぞ」

「おや……?」

 

 アリウスの白い悪魔。怨みを込めてその名を呼んでみるが、彼女はなんのことやら、という反応。

 

「……」

 

 加えて、先程吹き飛ばされて行った白髪の人物。二人の砂狼シロコ。なるほど、どうやら状況は相応にややこしいらしい。

 ここに美食はないようだが、命あっての食事。EAT or DIEとはまさしくこのこと。美食研の名において、みすみす彼女を見逃す理由もなかった。

 

「ったく……濯いでも、濯いでも、こびり付いてくる」

 

 先程スオウとミカが与えた手傷は、まだ回復し切っていない。そこに車での良い一撃が入った。

 彼女も全くの無傷ではない。扱う(恐怖)も消費されているはず。

 

「“みんな、協力してくれる?”」

「うへ、もちろん。おじさんちょーっと怒ってるからね。シロコちゃんの敵討ちだい」

「ええ、先生のお願いとあらば」

 

 どちらにせよ、地上に着くまでは先生たちに選択肢はない。桐花スオウと、戦わなければならない。

 

「って、ところだろうな。お前らの考えはさ」

 

 先生の指揮による統率、その最大効率は六人まで。特殊な状況下を除いて。

 この場には美食研究会の生徒がフウカを入れて五人、アビドスの生徒がこの場にはいないアヤネを加えて五人、そしてミカ。とてもではないが、自分一人では抱えきれないほどの大人数。

 

「でも、先生ならわかってるだろ?」

 

 たとえ数の利をもってしてでも。

 

「キヴォトスを滅ぼした砂狼シロコに、俺は勝った。全キヴォトスの生徒がここに集まっても、俺に勝つことはできないってさ」

 

 彼女は再び、宙に浮いた。光輪のように銃を背後に展開し、こちらの出方を伺っている。

 ハッタリではない。確かに彼女は、この状況でも勝利することができるのだろう。

 

「否定」

「……?」

桐花スオウ(イレギュラー)の発言には誤りが存在します」

 

 コツン、コツンと。その小さな足で可愛らしく音を立てながら、淑やかに彼女は歩みを進める。

 

「アロナ擬きか」

「擬きというものがよく似た贋作を示す場合、その呼び方は不適切です。私はシッテムの箱のメインOS、通称A.R.O.N.Aです」

 

 そして、桐花スオウを無視して横切った。スオウは無視をするわけでもなく銃を撃ち放つが、それはノイズのようなブレの直後にすりぬけてしまった。

 

「初めまして、別世界の先生。自己紹介は先ほどの通り。協力を願い出ます」

「“……!?”」

『こ、この子ってもしかして……!別世界の私、なんでしょうか……』

『肯定、別世界の私』

『うわぁ!?いきなり入ってこないでください!』

 

 デカグラマトンによる侵入すらくしゃみひとつで弾き返す。そんなアロナが管理するシッテムの箱に入り込める者など、同じシッテムの箱の管理者のみ。

 なるほど、偽りなく彼女は別世界のアロナのようである。

 

『これが証明には最も適していると判断しました』

「不快感を与えたのであれば謝罪します」

 

 電子の世界と現実を行き来するアロナの声は、少し先生を混乱させるものであった。が、今重要なのはそこではない。

 

「“協力?”」

「この願い出は、我々の世界の先生によるものです」

 

 我々の世界の。その言葉にプレナパテスの方を見ると、彼はその片腕が千切れ落ち、かろうじて残った手でシッテムの箱を抱えるだけ。

 命はとうの昔に尽きているのだろう。その状態でも、先ほどまでとその様子はあまり変わりないように見えた。

 

「さっきから無視決め込んでるんじゃ」

「個体名:Keyの要望を承認。『光の剣』を生成します」

「っ……!」

「『光よ』と宣言するよう求められました。ひかりよ」

 

 宣言と同時に、生成された巨大なレールガンから光線が発射される。その隙を狙って、別世界のアロナは先生の方へ向き直った。

 

「我々に世界を滅ぼす意思はすでにありません。先生、および砂狼シロコの肉体が限界に近づくほどに、強制されていた命令が弱まっていきました。砂狼シロコがその役割を放棄した時点で、それらは十分無視できる影響です」

「“……!”」

 

 色彩の教導者。そして、無名の司祭。恐らく別世界のシロコやアロナ、そして先生自身に命令を出していたのはそれだろう。

 

「ですが、彼らは次の教導者を探しています。我々よりも強力で、強い動機(ぜつぼう)を持ち、より御しやすい存在を」

「“それは……”」

 

 アロナの視線が向いた、その先で。先生は、彼女の言いたいことが理解できた。

 つまるところ、無名の司祭たちが次に目をつけたのは。

 

「先程申し上げた誤りは、三つです。一つ目が、彼女は無意識にそれに抗うことによって消耗を強いられていること」

「“……もう二つは?”」

「……ここに不完全ながらも箱舟の本来の主(名もなき神々の王女)がいること。そして、二つのシッテムの箱が存在することです。勝機は十分にあります」

 

 二つのシッテムの箱の力が合わされば、その相乗効果で出力は増大する。その力が合わされば、桐花スオウは倒すことができる。

 アロナは、そのように続けた。だが、先生にとって重要なのはそこではない。

 

「“わかった。スオウのことも、絶対に助けよう”」

「……肯定。同意を得られたため、シッテムの箱の同期を開始します」

『協力してください、別世界の私』

『に、二回目はびっくりしませんよ!わかりました、やってみましょう!』

『同期が完了するまでの時間を稼いでください。アトラ・ハシースの箱舟によるサポートは名もなき神々の王女、そしてその鍵に一任します』

 

 ただ、目の前に助けなければならない生徒がいること。それだけである。

 

「っ、クソ……!いてぇなぁ畜生が!!!」

 

 スオウがレールガンを破壊すると同時に、ナラム・シンの玉座の景色が巨大な街へと変貌する。その空間ごと広がっているため、より広いフィールドを使っての戦いが可能になるだろう。

 

「“みんな、まずは広がって、距離をとって。絶対に一箇所に留まらないで、常に視線を避けるように”」

「……」

 

 勝機あり。そんな視線と意図を感じ取ったのだろうか。彼女は宙に浮き、天井に向けて銃を構えた。

 

「“っ……!”」

 

 こちらを無視して先に進むつもりだ。そう理解すると同時に、ショットガンが発射される音が響く。

 

「“ホシノ!”」

「シロコちゃんのところには行かせない!まずはおじさんを倒してからだよ!」

「……小鳥遊ホシノか」

 

 先ほどまで腕に集まっていた銃を、ホシノの方へ構え直す。間髪入れず、発射。無数の弾丸がホシノに突き刺さる。

 

「っ、へぇ……これはちょっとまずいねー。私も本気を出さないとかな」

「それで勝てるつもりならな」

 

 流石の防御力と言いたいところだが、強がりだ。空中では身動きが取れない。

 いくらダメージが少ないと言っても、積み重なればその命にさえ届き得るのだから。

 

「ホシノせんぱ」

「大丈夫、私が行くよ」

 

 ボロボロの体を引き摺るようにして宙を舞い、スオウの元を目指す。

 迎え撃たんとする弾丸は、シロコとアリス、ケイが防いでくれた。

 

「スオウちゃん……」

「……」

 

 親友を殺した、親友自身。殺意と憐憫。相反する感情はミカの精神を削り、その本質さえも壊しかねない程の歪みを生じている。

 

「それはそれとして」

 

 その全てを解き放つように、左腕に神秘を限界を超えて込め。

 

「一発ぶん殴ってやらないと!!気が済まないからね!!」

 

 小鳥遊ホシノを救出しながら、殴打による反作用で地上まで墜落した。

 

「っつつ……うわ、左腕がぐちゃぐちゃに……」

「……ありがとね、お嬢ちゃん。あとはおじさんに任せて」

「……まずはミカからやるか」

 

 どう足掻いても、彼女たちは自分を逃してくれるつもりはない。ならば、先に再起不能にしてしまった方が話は早いだろう。

 

「っ……!」

 

 だが、それを簡単に許してくれるほど甘い敵ではない。十六夜ノノミの銃撃を捌きながら、桐花スオウは思案する。

 

「邪魔くせ、っ……!」

 

 ノノミへ注意を向けた瞬間、脳天に突き刺さる衝撃。ハルナによる狙撃だろう。

 先生によりある程度の統率が取れている上、自らの能力が恐らく先生には割れている。シッテムの箱により砂狼シロコ、および別世界の自分自身との戦闘データが共有されているからだ。

 

「チッ……」

 

 この視覚を防ぐ構造。そして、騒音の多い環境。自らの五感を鈍らせ、遠隔での恐怖の実体化による攻撃を防ぐためだ。

 先程放った大技の影響で、地形を破壊し切るほどの攻撃はできない。加えて。

 

「……天童アリスか?」

 

 先程アロナが先生に伝えていた、名もなき神々の王女とやら。まばらに残る記憶が、その名と天童アリスを繋げた。

 破壊した地形は恐らくはアリスの手によって、片っ端から元に戻されている。ビルの中からの奇襲、狙撃により、宙に浮き続ける優位も揺らがされつつある。

 

「……」

 

 さらに、先ほどからどこかへ恐怖が流れ出ているような感覚があった。

 彼らの目的は、とことん時間稼ぎ。砂狼シロコさえ逃してしまえば、自分達にその牙が剥くことはないと理解しているのだ。

 

「また別世界に逃げられたら厄介だな……」

 

 イズミの銃撃を逸らし、アカリが爆破したビルの瓦礫に拳で穴を開け、狙ったように近接戦闘を仕掛けてくるセリカを制する。

 連携の精度も徐々に上がってきている。シッテムの箱の同期とやらが進んでいるのだろう。それよりも先に、一人でも多く戦闘不能にしておきたい。

 

「っ……!ホシノ先輩!シロコ先輩!今!」

「ん。よく耐えた」

「あとはおじさんたちがやるよ〜」

 

 空中からドローンで砂狼シロコが、瓦礫の中から小鳥遊ホシノが、それぞれ現れる。

 

「先陣はおじさんが切る。シロコちゃんはサポートね」

「……ん」

「不満そうな顔されてもね〜……」

 

 ホシノについては、倒壊するビルの中でその防御力を活かし待機していたのだろう。ふざけるなと言いたいと、自分のことは棚に上げてスオウは内心苛立った。

 

「無意味だけどな」

 

 瓦礫を使い縦横無尽に駆け回るホシノの足を捕らえ、振り回す。

 そこら中に叩きつけても口の中が切れる程度。少しも怯まず睨みつけて銃を撃ち放ってくるのだから、これは武器として適しているという他ないだろう。

 

「っ……!」

 

 くだらないことを考えながら、砂狼シロコに小鳥遊ホシノを投げつける。無論どちらもその程度でやられるはずはなく、即座に立ち上がって反撃。

 

「って、来るだろ?」

 

 その進行方向に地雷を実体化させ、爆発。この程度ホシノなら無傷だろうが、足場を削ってやれば話は別。

 動きが止まったところを、宙に浮いて踵落とし。杭を打ち込むように叩きつけてやった。

 

「……!」

「はははっ、かってーの。お前はそこで大人しくしてろ」

 

 流石に無傷とは行かなかったのか、額から血を垂れ流すホシノ。彼女を恐怖で拘束して、直後。スオウは無意識に掌で何かを掴んだ。

 

「ああ、ハルナか。お返し申し上げるよ」

 

 狙撃箇所の半径数十メートルを恐怖で絨毯爆撃。

 恐怖の出力は徐々に戻りつつある。だが、依然として消耗がなくならない。

 

「……?」

 

 シロコを叩きのめし、背後から出現したジュンコにショットガンを放つ。

 直後、拘束から抜け出したホシノに羽交締めにされる。

 

「これ以上はやらせないよ……!」

「この程度……」

 

 筋力だけであれば、小鳥遊ホシノはさして警戒するべき相手でもない。そのまま、拘束を振り解こうとして。

 

「っ!」

 

 目の前に、聖園ミカが現れる。どこから、そう考えて、ああ、地面に埋まっていたのか。少し呆れたような感情を抱いた。

 

「……!」

 

 スオウの死。その可能性。そして、それを引き起こした張本人。

 その存在との相対は、聖園ミカの潜在能力を限界まで引き出し、一時的にリミッターを破壊するに至った。

 

「これ、でもっ……!」

 

 先の左腕を壊した一撃が、それだ。

 ミカの天性の格闘センス。キヴォトスに生きる生徒としての戦いの才能が、その感覚を忘れさせない。

 この攻防の中で、ただ一撃。この攻撃さえ当てることができれば、スオウを一時的にダウンさせることもできる。その確信があったからこその作戦。ここでミカの拳を当てることが、真の狙いである。

 

「くら、えぇえっ!!!」

 

 そうして、極限まで神秘を込めた一撃。右腕を使い捨てるその拳が振り抜かれ。

 

「っ……!か、は……!」

 

 小鳥遊ホシノごと、桐花スオウをぶっ飛ばした。

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