ミカの拳は恐怖による防御さえも突き抜けて、スオウの肉体に深々と突き刺さる。
「ぐ……っ……!?」
反撃の余地さえも、小鳥遊ホシノが許さない。彼女とてダメージが全くないわけでもないが、スオウを緩衝材とし一部の衝撃は抑えられている。
何より、今自分が拘束しているのは大切な後輩を屠ろうとする不届者。それを思えば、力はいくらでも湧き出てきた。
「っらぁ!!」
聖園ミカの拳が砕け果てる音を聞きながら、桐花スオウはぶっ飛ばされた。
「っ、ふぅ……!いたたたた……!」
「大丈夫ですか?」
「え、誰……というか、これ大丈夫に見える……?お目目腐っちゃってるのかな……?」
駆け寄ったハルナからの心配に対し、若干の素が漏れて辛辣になりかけるミカ。これはいけないと、おかしな方向に曲がった指を口で元の位置に戻し。
「……これ以上はまともに戦えない……だから、さっきのでどーにか倒れてて欲しいけど」
ミカがキッと睨みつけた先で、徐々に土煙が晴れていく。そこに映るのは小さな、長髪の少女の影。
「……」
ハルナは何を語るわけでもなく、その影に銃を突きつけ。
「ストップストップ。おじさんだよ」
「あら、これは失礼」
「紛らわしいなぁ、もう……!」
そこから現れた小鳥遊ホシノを見て、そのまま銃を下ろした。
「ホシノ先輩……無事でよかった」
「おじさんはそう簡単にはやられないよ〜。シロコちゃんも知ってるでしょ?」
「……ん。散々やられて知ってる」
瓦礫の上に立つホシノを見れば、服が少し破けているものの、目立った外傷はない。
血を吐いた跡こそあれど、あの一撃を受けてそれだけで済んでいるのだ。その頑丈さは、流石にキヴォトス最高峰の神秘といったところだろう。
「だからさ、シロコちゃん。ノノミちゃん。セリカちゃん」
ふと、ホシノの後ろで。何かが発生する。
「おじさんが時間を稼ぐから、みんなでちゃんと逃げるんだよ」
「久しぶりに死ぬほどいてぇな、畜生……なつかしー感触だよ、どうも。お礼に全員ぶちのめしてやるからな」
「っ……!」
腹の中心で発生した
先程の攻撃で受けたダメージ。それによって機能しなくなった、肉体の一部。それらの全てを、恐怖を使って補っている。
「くそ、くそが……頭だけじゃなくて腹も痛んできやがった、なんなら胸もか……?なるほどこれが恋の感触、ってんなわけねーだろ阿呆かお前……阿呆だった……」
その目からは先ほどよりもさらに正気の色が消え失せており、とてもではないがマトモな思考をできていない。ミカの渾身の一撃は、確かにスオウを追い詰めるだけのものであった。
けれども、その成果は。
「まあいいや。とりあえず全員ぶっころ……ぶちのめしてから考える」
最悪の化け物を生み出すだけに留まったと言えよう。
「通さないよ。私が相手だ」
振り向いたホシノの背中は、抉れて肉が見えていた。先程の攻撃の後、桐花スオウから反撃を受けていたのだ。
「っ……!だめ……ホシノ先輩……!」
砂狼シロコは、小鳥遊ホシノに手を伸ばしていた。あの日から、ずっと。
自分にマフラーをくれた。居場所をくれた。ご飯をくれた。制服をくれた。ふざけていたけど、メールアドレスも作ってくれた。
そんな小鳥遊ホシノに彼女に追いつきたくて、手を伸ばした。強くなろうとした。
「私は……また……!」
だというのに、自分はまたあの時と同じ繰り返しをしようとしている。
ただ庇われるだけで、何も知らずに、大切な人を守ることはおろか、並ぶことすらできない。
「……あの、私なら」
別世界の自分なら。あれだけの強さがあれば。
「……」
なぜだか、今なら手を伸ばせば。そこに届く気がした。ただし、二度と取り返しがつかない形で。
「……ううん」
そんなことをすれば、きっとホシノは一生ホシノ自身を許さないだろう。そんなこと、長年の付き合いでよくわかっている。
けれど、あのままではホシノは自分たちを庇いながら戦うことになる。
「……!」
思考を加速させて。マフラーに触れようとして、そこには絞められたネクタイだけがあった。
そういえば、別世界の自分に預けっぱなしだったろうか。そんなことを考えて。
「あ」
一つ。思いつくことがあった。
「……」
しかし果たしてそれが通用するか否か。少し考えて、おそらく、する。そう結論付ける。
今の彼女は、別世界の桐花スオウは正気ではない。さらにいえば、以前からの幻覚、幻聴症状。こと自分においては、騙しおおせる自信がある。何せ、体格は違えど顔は全く同じなのだから。
「セリカ。ノノミ。他の人たちも……私から、離れて」
「……シロコ先輩?」
だから必要なのは、覚悟だけ。万が一にも殺される覚悟。それだけがあればいい。
ドローンを併用すれば、速さにも自信がある。先生の元まで逃げることができれば、いつもの不思議な力で彼女の攻撃は避けれるだろう。
だから。
「私ならここ。桐花スオウ」
「……あ?」
「あなたの目的は私。さっさとかかってくるといい」
砂狼シロコは、その声を少し低くしながら彼女に話しかけてみせた。
「ダメッ!!!シロコちゃん!!!」
即座にシロコの目的を理解したホシノ。
「待て!!あの子のとこに行きたければ」
「邪魔だよ」
「っ……!」
しかし、時すでに遅く。
「え……」
シロコの想定を大幅に上回って、その拳は彼女の眼前まで迫り───
◇
「と、まあそんなこんなで死にかけて現在に至るわけです!」
「……なんというか、その」
「相変わらずだね」
アズサに連れられて白いスーパーキヴォトスロボの中に入り、そこにいたサオリ達に事情を説明してみたところ、呆れたような反応をされてしまった。
「お前、今日だけで……」
「……三回死にかけてます。最高記録こーしんですね、はははっ……」
「これが笑い事か!!相変わらず心配ばかりさせて!!」
「そんなこと言ったって私にもどうしようもないんだからしょうがないでしょ!?」
いや、俺も流石にどうかと思うけどね。なんかそういう神秘の能力でもあるのかな。いい影響のモノばかりとは限らないし。
どっちにしろ、今回ばかりは俺は悪くないと思う。ちゃんと自分の命も優先したし。
「それよりも、です。どうやってあの舟に戻りますかねー」
アツコの前に映し出される画面、その下方に見える円盤状の不思議な物体を指さして、どうしたものかと首を捻ってみる。
「……待ってスオウ。またあそこに戻るつもりなの?」
「はい。戻ります」
「だめ」
「でも戻ります」
アツコがオートパイロットをオンにして、少し眉を顰めてこちらに向かって来る。
「今あの中には、先生がいる。他の子達も、たくさん。……スオウが戻る必要なんて」
「あります。私がアイツを止めないといけない」
「どうして……」
どうして、か。
「……私は……私が、それをやらなきゃいけない気がする」
どうしてだろうな。でも、なんでかな。アイツを止めてやれるのは、俺だけな気がしたんだ。
ミカでも、サオリでも、先生でもない。俺にとってアイツを止めることが、ある種義務であるような気さえもする。
「……スオウ……絶対、生きて帰って来るよね?」
「約束。ゆびきりげんまんしましょっか」
「……」
未だに暗い顔をするアツコに小指を差し出して、神秘由来の筋力で無理やり指を絡めとる。
「だいじょーぶ。いつも通りお姉ちゃんパワーでぶっ飛ばしてやりますよ!昔っからそうでしょ?」
「……うん。スオウは昔から、頼りになるお姉ちゃんだよ」
「その通り!だから今度も、安心してドカンと構えててください!危なくなったら、ちゃんと助けを呼びますから。ねっ?」
「……」
するとアツコが、懐から何かを取り出して。
「私の仮面、スオウにあげるね。お守りがわり」
「……はい!しかと!パワー千倍お姉ちゃん!!傷がたった今完治しました!」
「そんなわけないだろう、馬鹿かお前……」
「妹が冷たい……」
お姉ちゃん力の高まりで図に乗っていると、サオリから至極真っ当な指摘を受けてしまった。
いや、確かにまだ体中痛いけどさ……でもお姉ちゃんだし、妹からお守りをもらったんだから治るのは必然だと思う。
「馬鹿はいつものことだとして。それでも、舟に戻る手立てがないことには皮算用でしかない。スオウ、どうするつもり?」
「馬鹿はいつものこと!?……うぅん、そうですねぇ」
アズサが俺を救出した直後から、アトラ・ハシースの箱舟は急降下を始めた。おそらく、アリスがあの舟の安全を確保しようとしている影響だろう。
「スーパーキヴォトスロボはもう満足に動けないと思う。このまま墜落させるつもり」
「うぅん……?アズサの翼で飛んでいくのは?」
「私のこれは、まだ満足に動けない。それに、あの距離を移動するのは現実的じゃない」
「……うーん」
何かないかな。多少無茶でもいいから、ビューンと向こうに飛んでいけるような。
「……マユミなら何か思いつくんじゃないか?」
「とは言っても、急に用事があるってどこかへ行ったきりですし……」
「マユミと言えば」
アツコが何かを思い出したのか、少々狭い操縦室の中を通って、その奥へ。そこからゴソゴソと取り出したのは。
「……バイク?」
「うん。スーパーキヴォトスビークルタイプアリウスだって」
「名前なっがいですね」
ただのバイクではあの舟になど到底辿り着けはしない。しかしアツコがこのタイミングで持ち出してきたのだ。きっと何か、普通のバイクじゃないところがあるのだろう。
「緊急時のためにジェットエンジンが積んであるらしいよ」
「頭おかしいんじゃないんですかマユミ」
確かにちょっと納得した。マフラーめっちゃでかいもん。なんなら半分以上マフラーでできてるもんこれ。
「しかしなるほど、これに乗りながら……アズサ、このバイク、それと私も一緒に飛ぶことはできますか?」
「……このくらいの重さなら、余裕がある」
「なるほど。決まりですね」
まずはこのバイクでスーパーキヴォトスロボの上を加速。それで推進力を得る。
そのままアズサの翼を使い、下方向へ角度を変える。そして再びジェット噴射で推進力を得、下方向へ加速。バイクはそのまま乗り捨てて、アズサと共にアトラ・ハシースの箱舟内に潜入。
うん、我ながらいい作戦だ。
「お前は絶対にマユミのことを言えない」
「そんなぁ!?」
そう思ってサオリ達に話してみたけど、その反応はドン引きもいいところだった。
「そもそも外に出たら私たちでも耐え切れるかわからないんだぞ」
「今はもう成層圏ですから、防護服があれば大丈夫じゃないですか?」
「成功すればな。失敗したら、そのまま下に真っ逆さまだぞ」
「んー……」
なるほど、失敗した時のことを考えてなかったな。であれば。
「まずアズサと私をロープで結び、アズサ?なんでお姉ちゃんにチョップするんですか?」
「……ごめん。いきなり縛ってくるから、いよいよ歯止めが効かなくなってきたのかと」
「お姉ちゃんのこと、変態だと思ってますか?」
「違うの?」
「……」
割とちゃんとショックを受けながらも、アズサと俺の体をガッチリ髪の毛ロープで結ぶ。これでたとえジェット機で引っ張っても外れない。
「アツコ、自然落下しながら、万が一の時はもうしばらく滞空することはできますか?」
「……そのくらいなら」
「よし。それじゃあ作戦はさっきと同じ。失敗したらバイクを捨てて、アズサの翼でここに帰ってくる。これでどうですか?」
「……まあ、幾分かマシになったな」
アズサの機動力でスーパーキヴォトスロボの中に戻って来れることは検証済み。だから、これならある程度の安全を確保しながらチャレンジすることができる。
「だが、危険なことに変わりはない。少しでも危険を感じたらすぐに戻って来い。わかったな?」
「はい!アズサ……少し危険に巻き込んでしまうことになります」
「それは構わないけど……バイクは誰が運転するの?」
「へ、それは私が」
「……どうやって?」
「……?」
アズサが何を言っているのかよくわからない。彼女の案内に従って、バイクの前に立ってみる。改めて見ると、結構デカい。
チラリとアズサの方を見ると、シートの部分を指差している。促されるままに、バイクにまたがってみて。
「……あれ?」
足がつかない。ハンドルに手が届くのもギリギリだ。
要するに、サイズが致命的に合わない。大体、ジェットエンジンとマフラーのせいで。
「……やっぱり、こうなった」
「な、ななななっ、な、なぁっ……!?」
なんてこったマユミのやつ、欠陥品寄越しやがって。理不尽に怒ってみるものの、それでバイクが縮んでくれるわけでもなく。
もういっそ生身のままで舟まで行ってやろうかなどと考え始めた、その時。
「わかった、バイクの運転は私がしよう。スオウ、髪の毛ロープを寄越せ」
「サオリ……いいんですか?」
「どうせ、お前達二人だけでは心配だからな。それに、私ならちょうどいいサイズだ」
そう言ってサオリがバイクに跨ると、これでもかと様になっていた。元々サオリが乗る用に設計されているのではないか、というくらいに。
お姉ちゃん力の低下を感じる。
「い、いえ、やっぱりここは私が……!お姉ちゃんですし……!」
「こんなところで意地になるな……それにスオウは免許もないだろう」
「今更そこ気にしますか!?」
そういえばサオリはバイトで必要だからって取ってたけどさ……!
そもそもジェットエンジン積んでるものはバイクとして認められるんだろうか。わかんないけど藪蛇だし、気にしないでおこう。とにかく。
「それじゃあ、やってみましょうか……」
「ああ」
「うん」
「アツコはここで待機を」
「了解」
アツコを操縦室に任せて防護服に着替え、バイクと共にハッチから外に出る。少しでも助走距離を稼ぐため、スーパーキヴォトスロボはうつ伏せの体勢。
バイクの配置は前からサオリ、俺、アズサ。お姉ちゃんサンドイッチの完成だ。
「しかし、あれですね」
ふと、下を見てみる。景色は真っ青。遥か下に雲が見える。
「イメージよりも普通に落下ですねこれ」
「今更それを言うのか!?」
「い、いえ、実際に景色を目にしてみると思ったより……」
しっかりと上空にいる感じがして、少し足がすくんだ。
けれどもうだついてはいられないと、意を決してサオリの体に手を回し。
「それじゃあサオリ、お願いします!」
「ああ!よく掴まっていろよ!」
「何かあったら、私が翼でサポートする」
サオリがハンドルを回した次の瞬間、バイクは凄まじい勢いで発進し。
「え?」
「……え?」
目の前に、真っ黒な穴。そこから現れた妹のシロコを盛大に轢いて、そのまま穴の中へ入り込んだ。
◇
「シロコ!?大丈夫ですか!?」
「痛い……」
「ちょ、シロコォ!?」
いきなり車の前に飛び出したら危ないってお姉ちゃん何回も言って……いや、言ってないな。シロコはまだ妹にして時間が経ってないし言ってないぞ。これから教えていこうか。
「……ん。大丈夫、大した怪我じゃない……それより、よく無事だったね」
「なんとか。妹が助けてくれたから大丈夫でした」
「……妹?」
ご覧の通り、自慢の妹ですと後ろに掌を向けて紹介すると、二人とも口を揃えて「妹じゃない」と否定してしまった。お姉ちゃんは悲しいですね。
「……うん。そっか。すごいね。……本気、だったんだ」
「当たり前ですよ!シロコもちゃーんと、今日から私の妹ですからね!」
「本当だったのか……」
アツコへ無事連絡を済ませたサオリが、まさかシロコを妹にしたのが本当の話だと思っていなかったのだろう、盛大に引いていた。可愛い妹の嫉妬というやつだろう。
「スオウ、お前の考えているそれは……シオに言い訳を考えておくんだな」
「う……」
「しお……?」
「し、シロコはまだ知らなくて大丈夫ですよ!それより、なんであんなところにワープホールを?」
話題を誤魔化すべく、シロコに向けて素朴な疑問を投げかけてみる。すると彼女は、その表情を少し陰らせて。
「……あなたが落ちた、って聞いた。アトラ・ハシースの箱舟から……だから、助けなきゃって」
「だからって、あんな無茶……」
「……ごめん……でも、もう……もう、誰かがいなくなりそうな時に……何もできないのは、嫌、だったから……」
無神経だったか。無茶するな、なんて。この子にとって、無茶なんて当たり前で。それでも、溢れ落ちていったものばかりだったろうに。
「……私は……私は、まだわからない。幸せになれるのかも。幸せに、なっていいのかも」
「……それは」
「でも、あなたと私は、約束してくれた。だから、もう少しだけ……幸せになるために、生きてみようと思う」
シロコが、俺の方に手を伸ばした。先ほど取れなかった手を、今度は自分から差し伸べてくれた。
「だって私たちはみんな……幸せになりたくて、生きてる筈だから」
「……」
幸せになりたくて生きてる、か。
───俺たちは、幸せになっていい人間じゃない。
……アイツも、そうなのかな?
「……あの子を止めるのに、協力して欲しい。あのままだと、あの子は……」
「もっちろん。可愛い妹の頼みですからね!」
「……ん。ありがとう」
マフラーに手をかけて、シロコは微笑んだ。初めて見る、年相応の彼女らしい笑顔だった。
「今、ナラム・シンの玉座でホシノ先輩達が戦ってる。ワープホールを繋ぐから、少し待ってて」
「了解。サオリ、アズサ。いきなり戦闘になりそうです。準備は整えておいてください」
「……私たちより、スオウは大丈夫なの?爆弾もないのに」
「あー、はははっ……なんとかなりますよ、多分」
そういえば、
正直、総合的な戦闘力の低下は否めない。が、知恵と工夫で充分補える範疇だ。
「できた。中では戦闘が行われてるから、注意して。私も、一緒に突入する」
「了解。サオリ、ジェットエンジンは温存。中の状況を見てから使用するかどうか決めましょう」
「承知した」
程なくして、アズサと共にサオリのバイクに乗り込む。そのまま、バイクは通常の速度で発進し。
「っ……!」
次の瞬間映り込んできた景色に、俺もサオリも、そしてアズサも。迷いなくジェットエンジンを使用することに決めた。
別世界の俺の意識が、この世界のシロコに向いている。それも、澱むような殺意を込めて。
「サオリ!!轢いて!!乗り捨てますよ!!」
「ああ!!」
サオリがジェットエンジンを使用した瞬間、別世界の俺がシロコの眼前に迫る。
バイクは彼女の元へ一直線に向かい。
「待てやコラぁ!!!」
「っ……!!」
そのホイールで、彼女のことを轢きながらぶっ飛ばした。
「シロコ!!あ、シロコさん!!無事ですか!?」
「え……う、うん……その呼び分け、やっぱり自分でもややこしいんだ……」
「間一髪だったな」
サオリ、アズサ、まだ妹じゃない方のシロコ。
三人、全員の無事を確認してから、あちらの世界の俺の方へ向き直る。
「あれで倒せてたらいいんですけどね……」
「……多分、無理だよ。さっき車で轢いてもピンピンしてたし」
「あ、ミカ……み、ミカ!?そっ、大丈夫なんですかその手!!両腕!」
「ううん、全然ダメ☆……でも、スオウちゃんが無事でよかったよ。すっごく心配したんだから」
両腕の惨状とは裏腹に、ミカの態度は喜ばしげだった。まあ、俺も流石に死んだかと思ったもんな。
「シロコちゃん、大丈夫!?」
「あ、ホシノ先輩……ん。ホシノ先輩こそ、大丈夫?」
「おじさんはいいの!!もう、無茶して……!」
「シロコ先輩もホシノ先輩には言われたくないわよ、多分……」
どうにも、結構危機一髪って状況だったらしい。
美食研にフウカ、それにアビドス、あとミカ。全員ボロボロだ。間に合った、とは言い難いのかもしれない。
「皆さん、警戒は怠らずに。危機は脱しましたが、彼女は未だけんざ、っ!」
そう言いかけたハルナの真横を、何かが横切る。先ほど乗り捨てたバイクだと理解するのに、そう時間はかからなかった。
「死に損ないが……!何回も何回も何回も何回も、さっさと死ねよテメェは……!!」
ギリギリで顔面に恐怖製の仮面を作り出していたらしい。ゆっくりと溶けていくように、その素顔を露わにし。
「っ……!」
そして、途端に。不気味なまでの、無表情に変わった。
その視線が、向いている先は。
「さお、り……?……あずさ……」
俺の可愛い妹、二人のところ。今の
だから、サオリとアズサを庇うように前に立った。サオリも、そしてアズサも。そんな俺に倣うように、サオリは銃を。アズサはそのスーツで強化されたであろう拳を、それぞれ構えた。
「あ……」
敵意を、示した。
「っ……」
それが、まずかったのだろうか。
「う……う、ぅうぅぅううううう……!うぅうああああああああ………!!」
いや、まずかったのだ。俺がアイツの立場になって考えれば、わかる筈だった。
「ずるい」
全てを失った、その果てで。妹達に銃を向けられ。先生の指揮で攻撃を受け。ミカにも殴られ。
「ずるい……!ずるい、ずるいずるいずるいずるいずるいずるい……!!」
そして、自分にとっての理想を生きる自分が、そこにはいた。
「なんでだよ!!!なんでお前が!!!お前ばっかりが!!!」
それが彼女のタガを外すのに、どれほど役立ったことか。
「許せない、許せない、許せない、許さない……!!おかしい……!!おかしいだろ、こんなの……!!」
目の前に在った桐花スオウという理性が、今。
「ぶっころしてやる……!!きりはな、スオウ……!!」
崩れ果てる音が聞こえた。