ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

173 / 175
【最終編】受け継がれる想い

 ああ。なんでこんなことになったんだっけな。

 

『OVER-OVER-OVER-DRIVE!!!』

 

 なんであの時、死んじゃったのかな。もっと周りに注意してたら、避けたりできたのかな。家族も悲しませなかったよな。

 

『YOU ARE READY!! RIGHT!?』

 

 なんであの時、動けなかったのかな。俺がもっとよく動けてれば、シアンも死なずに済んだのにな。

 

「覚悟はできてますよね!?」

 

 なんであの時、あの提案を受け入れちゃったのかな。他の方法が見つかれば、アンナが犠牲になる必要なんてなかったのに。

 

「この野郎ォオオオオオオオオっ!!!」

 

 なんで、生まれてきちゃったのかな。なんであの時、生きようとしちゃったんだろう。

 

「が、あああああああああっ!?」

 

 ……なんで、諦めなかったんだろ。なんで、諦めちゃったんだろ。

 

「……」

 

 俺。なんで、生きてるんだろ。

 

 

 

 

 五体が悲鳴をあげている。この姿でいるだけでも、負担は相当に大きい。そこに覆い被せるように、高出力の一撃。

 このままだと、変身が解除される。

 

「アズサっ……!」

「え……」

『COOL DOWN……』

 

 アズサに負担が行くよりも先に、自発的に変身を解除。

 箱の中身が暴かれれば、猫の生死は決まってしまう。とどのつまり、俺とアズサの合体は解除された。

 

「スオウっ……!」

「大丈夫!おねーちゃんは大丈夫です!!」

 

 宙に留まることができない。先程まで背にあった翼が崩れて、コートが朽ちて空に舞っていく。

 アズサを抱きしめて、庇う形で地面に落ちていく。

 

「まだあいつを倒せたとは限らない!私はもう限界が近い!!痛くてもヘーキです!アズサっていう希望を残す!!」

 

 体に満ちた別世界のアロナによる支援も、徐々にその色を潜めている。突然の変身解除で、エラーを起こしているのだろうか。

 

「それならっ……!」

 

 突然、体が揺れる。

 

「残るべきは!スオウの方だ!」

「なっ……!?」

 

 アズサが翼で姿勢を動かし、地面に落ちる直前で反対に。逆に、アズサをクッションとする形で落下した。

 

「アズサっ!!そんな!!」

「だい、じょうぶ……問題、ない……私のことはいいから、向こうのスオウを……」

 

 体のダメージはほとんどない。アズサが庇ってくれたからだ。

 リミッターの解除に近い、オーバードライブとやらを行使した影響であちこちがおかしい。

 

「くっ……!お、おぉおおおおおっ……!!」

 

 けれど。妹が繋いだ希望を、潰えさせるわけにはいかない。

 大丈夫。手も足もまだ動く。目も霞んでるだけだ。見える。戦える。戦い抜く。最後まで。

 

「……」

「っ……!!」

 

 足音。黒い装束。混ざるように、鮮血。

 

「あず、さ……動いて」

「はぁ……はぁ……」

 

 ショットガンを構える。虎の子の爆弾を、一つ取り出す。

 

「お願いです。大丈夫、アズサ。まだ動ける。呼吸も忘れて、体は無視して。何も考えずに、前へ。自分を律して。転がり落ちても、前へ進んで……逃げて」

 

 アズサはこれ以上、戦えない。今の俺じゃ、アズサを守れない。

 

「……絶対生き残る。だから、アズサっ……!」

 

 爆弾を一つ、後ろに投げて。

 

「なるべく早く!!おねーちゃんのこと、助けに来てくださいねっ!!」

「っ、スオ……わかった!絶対戻ってくる!!信じる!!」

 

 アズサを吹き飛ばして、後ろは見ない。

 もう何度目かになるかもわからない再戦。時間稼ぎ。口火を切ったのは。

 

「……なぁ……」

 

 己を奮い立たせるというには、あまりにか細くて。

 

「どうすりゃいい……?」

「……え?」

 

 敵というには、あまりにも小さく震えて。随分と綺麗な涙を流す。

 そんな、別世界の俺の姿だった。

 

「わかんないよ……俺には、もう……」

 

 銃火器を握ると、そう警戒した手には。何もない。先程までこの舟を駆けたその足は、萎びてしまったように倒れて動かない。

 空を縦横無尽に舞っていたのに、己の体の重さに耐えるのが精一杯。そういうように見えた。

 

「なんでお前は……そんなふうに戦えるんだよ……笑えるんだよ……」

 

 まるで縋ってくるかのようで、哀れにさえ思えてしまう。

 

「……なんでみんな……しんじゃったんだよ……」

 

 戦意を感じなかった。

 

「……もう……むりだよ……」

 

 いや、それだけじゃない。

 

「これいじょう……たたかえない……たたかいたくないよ……」

 

 生きる意思でさえも。もう。

 

「どうすればよかったんだよ」

 

 ぽつり、ぽつりと。降り出す雨のように、言葉を重ねる。

 

「おれは……おれだって、がんばった……精一杯やったさ……でも、それじゃどうしようもなかった……」

「……」

「先生のようにはできない……アヌビス一人殺せない……妹一人守れない……何一つ変えられない……!お前に勝つことさえできない……!」

 

 ……ああ、そっか。ちょっとわかったよ。

 なんで俺が、こいつを助けなきゃって。そう思ったのか。

 

「俺は……何のために生まれてきたんだ……?」

 

 きっとこの虚しさを理解できるのは。納得できる答えを出すのは。この世でたった一人、同じ魂を持つ俺くらいなんじゃないか、って。そう思ったから。

 何のために生まれてきたのか。何度も思ったよ。

 

「なんで生きてる……どうして生きなきゃいけない……」

 

 自分ではない誰かの人生に生まれ落ちて、初めて与えられた役割(りゆう)だって果たせなくて。死んじまえって。

 

「なんで俺は……まだ死ねない……?」

 

 でも、それでも死ぬ気になれなかった。死ねなかったよ。

 お姉ちゃんだった(役割があった)から。託されたものがあったから。

 

 二人の言葉が、今日まで俺を生かしてくれた。この体を満たして血と肉となって、今も変わらずに俺の力となってその人生を巡らせている。

 

「……おれは……うまれてくるべきじゃなかった……」

 

 でもこいつには。もう、何もないんだ。

 

「ねぇ……」

 

 ひび割れた仮面に、手を伸ばした。ひどくボロボロなそれは、指先が触れただけで崩れ落ちていった。

 

「……はははっ……なんつー顔してるんですか」

「……うるせぇ……」

「強がり」

 

 あいにく、ハンカチひとつ持ってない。素手で軽く拭って、すぐに涙は溢れてくる。

 抵抗は、ない。体が限界なのか。それとも、もうこいつにその気力がないのか。多分、どっちもだろう。

 

「……私は」

 

 何のために生まれてきたのか。何回も、思ったよ。

 

 妹達を守れた時は、そのために生まれてきたんだと思った。海でみんなと遊んだ時は、この瞬間のために生まれてきたんじゃないかと思えた。

 ……先生が好きだ、ってわかった時は、この人と結ばれるために生まれてきたんじゃないか、って。少しお花畑なことを考えたりもした。

 

「……」

 

 どちらにせよ。

 

「私は生まれてきて、よかった。生まれてくることができて、幸せでした」

「……なんでそんなふうに思える?」

「たくさんの人が、そう伝えてくれたから」

「……そっか」

 

 諦めた、自嘲的な笑顔だった。だったら、自分はダメなんだろうな。そんな笑顔だった。

 そんなわけない。そんなわけが、ないだろ。俺も、お前も。……みんなそうだ。

 

「あなただって生まれてきてよかった。生きてていい」

「……嫌だよ……俺は、もう……死にたい……」

「嘘つき」

 

 俺もそうだ。シロコだって。死にたいわけないだろ。

 

「本当はみんなと、幸せになって生きたい。それができないから、一人で生きていたいわけでもないから。死にたいなんていってしまえる」

「……」

「みんなが死んでしまった世界で、死なせてしまった世界で、自分一人で生きて良い思いしたって幸せなんて思えない。死にたいんじゃなくて、不幸せに生きたくないんでしょ?」

「……そうかもな……ああ、その通りだよ……最低だ……酷いこと言いやがって……」

 

 本当に心の底から死にたいわけじゃない。

 生きるのが苦しいから、それよりは死んだほうがマシに思えるだけだ。

 

「だからなんだ……?この苦しみの正体がわかったところで、消えることなんてないのに……」

「消えなくても、少なくはできる。忘れさせることもできる」

 

 苦しいことがあるから幸せを大切に思える、だなんて、慰めだけの言葉は必要ない。

 苦しいことは、苦しいだろ。苦しいんだから。

 

「人は幸せになる権利がある。あなただって絶対、生きてていいに決まってる」

「……なんでそんなふうに断言できる」

「そりゃ当たり前でしょ、なんせ……」

 

 だから、俺は。こいつにも、手を。

 

「たった今から───」

「逃げろ」

「っ……!?」

 

 真っ黒な炎。爆発。別世界の俺の扱う、特徴的な力。

 けれど、さして威力はなかった。

 

「なぁ……」

 

 あいつの後ろに、何かが見えた。いや、見えたように感じた。実際は見えていないのだろう。

 

「ありがとな」

 

 黒い太陽。この世界に存在しない不気味な色が、虹彩のように混じり合っていた。

 

「……ちょっとだけ、救われたよ。お前がなんて言おうとしてくれたのかは、なんとなくわかった」

「待っ……!」

「次会う時、多分俺は俺じゃないからさ。……躊躇うなよ?きちんと殺せ。なんせ俺は、別世界の妹の仇だから」

 

 あいつの体が、徐々に蝕まれていく。砕けたヘイローが、逆にまとまっていき。ドス黒く染まっていた。

 

「狙うのは、(ココ)。いいな?お前ならできる」

 

 戻らなきゃ、いけないのに。身動きが取れない。ご丁寧に、拘束までしてやがった。

 

「妹達のこと、守ってくれよ。……俺はもう、無理だからさ」

 

 あいつは笑った。見覚えのある笑顔だった。

 

()()()幸せになれ。……そうすりゃ、ちょっとくらい報われる。いいな?」

「っ……!ふざけんなっ……!!」

 

 諦めない。絶対に諦めない。

 

「私はまだ!!全部伝えてない!!諦めませんよ!!絶対に救う!!」

 

 こんなにボロボロだって、まだ最悪じゃない。俺には一緒に戦ってくれる仲間がいる。

 

「だからあなたも!!もう一回だけ諦めんな!!前向いて生きろ!!生きてみせろ!!絶対幸せにしてみせるから!!抗え!!何があったって助けにいく!!」

「っ……はははっ……わかったよ」

 

 絶対、絶対に。

 

「それなら……なぁ、約束だ」

 

 今度は俺が、あの時みたいに。

 

「……なぁ……助けてくれよ……?俺も、もう一回だけ頑張ってみるからさ」

「あったりまえ!!だからちゃんと、待っててくださいよ!!」

 

 お前に生きてていいんだって、伝えてやる。

 

───わたし、は……もう……むり、だからさ……。

 

 お前のこと、死なせてなんてやらない。

 

───だから、やくそく………ぜったい、しあわせになって……?

 

 もう二度と。あの日と同じ後悔を重ねない。

 

───スオウ……あとは……頼んだッスよ……。

 

 もう二度と。俺の目の前で、誰一人死なせたりなんてしない。

 

「この、バカヤロウっ!!!」

 

 あの日シアンとアンナに繋いでもらった命で。今度こそ、俺は。

 

「お、おぉおおおおおおおおっ……!?」

 

 体が止まらない。あのやろう、爆発だけじゃない。馬鹿力で殴り飛ばしやがって。

 ……というか、この方向って。

 

「あうっ!?」

「ぐぅ……す、スオウ?」

「あ、やっぱりアズサ!ちょっとこれ解いてくれませんか!?」

 

 やっぱりアズサが逃げた方向だったか。ちょうどぶつかっちまったな。

 ……ひょっとして、これも計算づくか?

 

「スオウ?」

「……ん、あ、はい!ありがとアズサ!お礼にお姉ちゃんのキスを」

「いつにも増して気持ち悪い。それだけ言えるなら安心した。何があったの?」

「っと、そうです!急いで、アズサ!」

 

 『アレ』が俺の予想通りのものだとすれば、俺一人だけじゃ絶対に太刀打ちできない。

 それに、この舟ももう。

 

「……どうしましたアズサ!ほら!んっ!カモン!」

「……さっきの発言のせいで、ちょっと……わ、わかった!乗ればいいんでしょ乗れば!」

 

 アズサをおぶって役得を噛み締めつつ、急いで先生の元まで。もう一度変身するには、俺もアズサの体がギリギリだ。

 セイアとの通信機も、変身解除の衝撃でどこかへ飛んでいってしまった。

 

「……スオウ」

 

 後ろから、風が吹く。

 

「アレは、なに……?」

「っ……!い、っそぎますよぉおおおおおおおっ!!!」

 

 それが『アレ』の侵食による余波に過ぎないことが本能的にわかる。戦力差は絶望的。

 でも。

 

「約束……しちまったもんでねっ!!」

 

 俺はもう、何ひとつだって諦めない。俺自身のことも。

 

「先生!ミカ!サオリ!シロコ!みんな!」

「っ、と。こっちのお嬢ちゃんか。戦いは終わった?おじさんちょっと聞きたいことが」

「ダメです!まだ何にも終わってない!」

「……!」

 

 ミカとシロコ、そしてホシノは気づいたのだろう。

 まだ終わってない。今の、今のあいつは。

 

「多分……!多分ですけど……!私じゃない!私であって、私じゃない!!」

「……そんな……まさか」

「『色彩の嚮導者』が……!!来る!!」

 

 ドォン、と。後ろで、何かが爆ぜるような音がした。

 

「なんで……?」

 

 妹のシロコの声がする。本当に、訳がわからないという声色で。何より、ショックを受けたような声で。

 その視線を、急いで先生に向けた。彼の姿は変わりなく、けれどその体から血が出ていた。先程まで出ていなかったはずの、血が。

 

「っ……!あ、アヤ、ネ……!」

「……!は、はい!シロコ先輩!任せて!」

 

 色彩の影響から逃れつつある。『反転』そのものは不可逆らしい、シロコの姿は変わりなかった。

 

「……」

「な、何アレどういう状況……?ひょっとして、またさっきみたいに」

「いえ……先程とも、少し様子が違いますね」

 

 ハルナの解釈は正しい。

 

「シロコ……アロナさん、先生……あれは……」

「桐花スオウの想定通りです。今の彼女は色彩によってその思考を誘導されています」

「“……”」

「……そしてその背後にいる無名の司祭により、彼女はこのキヴォトスを完全に滅ぼすつもりです」

 

 耳をすませば、彼女の声が聞こえた。

 

「だめ、だめだ、戦うな、俺と、抑えれない、ころ、すな、殺さない、殺さない、殺す、殺せ、殺せ……!!」

「っ……!」

「誰かを、殺すっ……!前に……!俺を、殺せ……!!」

「……酷い」

 

 ふと、まだ妹ではない方のシロコが呟いた。

 全くもって、その通りだ。中途半端に理性を残している分、先程のタガが外れた時よりも惨い。

 

「頼む……!!スオウ……!!」

「……わかってる」

 

 きっと今もなお、理性を手放してしまった方がずっとマシな苦しみが体を蝕み続けているだろう。

 妹のシロコのように、負の側面を増強されて。絶望と、殺意を植え付けられて、増やされて。自分の意思と無関係に、感情が先立つ。

 

 それでもまだ、かろうじての理性を保っているのは……。

 

───俺も、もう一回だけ頑張ってみるからさ。

 

「絶対に助ける!!」

「くっ……は、ははっ……あまい、やつ……!」

 

 約束したんだ。絶対、助けるって。

 

「アロナさん!あの子は首を狙えと言っていました!具体的にどれですか!?」

「……それは」

「“首輪の部分……って、こっちのアロナは言ってるね”」

「了解!」

「“でも”」

 

 俺が走り出すよりも先に、先生は肩に手を置いて。

 

「“……あれは……『ヘイローを破壊する爆弾』、だって”」

「っ……!な、あ……!」

「“向こうのスオウが狙うように言ったのは、それが理由だ。だから、絶対に狙わないように。暴発しかねない”」

「りょ、了解……!」

 

 あ、んのクソ野郎……!アレだけ言っておいて死ぬ気だったのかよ……!

 

「スオウ、お前は人のことを言えないからな」

「え、あ……は、はい……ゴメンナサイ……」

 

 ……おまけにサオリにも叱られた……絶対に許さん!

 

「なんとなく、りふ、じんな……いかり、を……!」

「無理して喋んなくていいんですよ!!集中しろ!!」

「そうしたい、とこだけどさぁ……!」

 

 別世界の俺の体から、恐怖が零れ落ちる。集まっていく。

 徐々に。徐々に。徐々に。徐々に。

 

「もう、これおさえんのもげんかいだから……!はやいとこ、ころしてくれよ……!?」

「殺さないっつってんでしょうが!!いい加減にしろ、この馬鹿ッ!!」

「……ぐ……った、って……!」

 

 確かに、後ろの巡航ミサイルはやばいけど。

 

「先生……!あれは……!」

「“……任せて。きっとあれなら”」

 

 ふと、先生が手を前に構えた。

 

「“宇宙戦艦ウトナピシュティム……主砲、用意!!”」

「はっ?」

 

 何言ってるのこの人?なんでそんなに目キラキラさせてるの?

 ……ああくそ、惚れた弱みだ。こんなところも可愛いと思っちまった。

 

「時空エンジンから一部エネルギーを供給。発射スタンバイ」

「“光よ!!”」

 

 先生の宣言で、光の一直線が黒い不定形を貫き。直後それは、跡形も残さずに霧散した。

 

「い、今のは!?」

「“こっちのアロナと、別世界のアロナに頼んでたんだ。なんとか間に合ったみたい”」

「さ、最強じゃないですか!」

「“そうもいかないかな。地上に安全に着地するためのエネルギーを残すと、アレで最後だから”」

「地上に、安全に着地……」

 

 少し思考を重ねていると、目の前からからゾッとする気配が再び浮かび上がる。

 先程と同じ、巡航ミサイルが出来上がっていく時特有の『圧』のようなものがある。

 

「ばか……!はっしゃす、る、ふたんがなけりゃ……!もう、すうはつくらい……!」

「っ、このっ!!」

 

 即座に神秘で物質化するより先の恐怖を撃ち抜き、かろうじて定形化するより先に崩壊させる。

 油断も隙もあったもんじゃねぇ……!

 

「どうする……!」

 

 あいつ自身にもう戦う意志は残ってない。力も。

 それを色彩の力で無理矢理引き出されて、操られて、終いにゃ巡航ミサイルまでぶちかまそうとしてくる。

 

 この舟を壊されたら終わりだ、どうすれば……!?

 

「“みんな、交互にスオウの作る巡航ミサイルを撃ち抜いて!直接攻撃に来たら、ミカとスオウ、ホシノが対処!絶対に隙を与えないこと!”」

「っ、先生!」

「“今は焦っても仕方ない!まずは安全に地上に降りることを考えよう!何か作戦が思いついたら、その時に!”」

「っ……はい!」

 

 地上まで、あと何キロだ?わからない、どれだけの時間戦い続ければいいのかも。

 みんなもう、体が限界だ。別世界の俺もだけれど。だからこそ、あまり時間がない。

 

 早く、早く無力化しなければ。その命さえも。

 

「くっ……!」

 

 けれどそれをするには、あまりに戦力が少ない。逐一この舟を破壊しようとする攻撃を捌いて、あるいは意図的に受けて、攻撃に転じて。

 

「ぐぅっ……!」

「ミカ!」

「大丈夫!」

 

 みんなの動きも精細さを欠いている。この拮抗状態は、そう長く続かない。

 どちらかに死人が出る。それも、そう遠くないうちに。

 

「くっそ……せめて、舟を守る方に集中する必要がなくなれば……!」

 

 巡航ミサイルは、それ単体なら撃たせたら終わり、というほどではない。

 気を配っていれば、一定の強者なら耐えれる程度。この空間の人間の半数程度は、それを満たしている。唯一危険なのは先生だが、それもシロコが……と?

 

「……っ!!先生!!」

「“うん!”」

「思いつきました!!作戦!!」

「“本当!?”」

 

 大丈夫……これならきっと。

 

「はい!まず……」

 

 誰も死なずに済む。

 

「“……わかった!やってみよう!ただし、無理があったら作戦は中止!”」

「わかりました!」

「“……”」

「……先生?」

 

 先生がこちらを見つめていたのが少し不思議で、問いかけてみる。

 彼は、どこか懐かしんだような顔をして。

 

「“頼んだよ、スオウ!”」

「はい!まずは(シロコ)のところに向かいます!先生はみんなに連絡を!」

「“うん!こっちは任せて!”」

 

 なぜだかそれが少し、こそばゆかった。

 

 

 

 

 場所は少し離れて。激戦を横に、治療を続ける生徒が一人。

 

「アヤネ、負傷者」

「ん、少しトチった」

 

 その横に黒い穴が開き、二人の生徒の姿が現れた。

 

「シロコ先輩……」

「「ん?」」

「あ、その、別の世界の、というか……く、黒い方のシロコ先輩?」

「ん」

 

 小さい方のシロコに手当てを施しながら、アヤネの表情は暗い。その視線は、別世界の先生(プレナパテス)の方に向けられている。

 

「……その……精一杯、手は尽くしています……輸血を続けて……止血も、なんとか……でも、あまりに傷が大きくて……!」

「……」

「何より……息を、してないんです……心臓も……」

 

 当たり前と言えば。当たり前のことだった。

 

「……そ、っか……」

 

 この先生はもう、死んでいる。自分が殺した。

 こうして生きているように動いていたことの方が、奇跡だったのだ。

 

「先生……」

 

 わかりきっていた。受け入れるつもりだった。

 多くのものを失って。失うことに慣れた。

 

「やだよ……せんせぇ……!!」

 

 はずが、なかった。

 

「……シロコ、先輩……」

 

 動かない先生に縋って泣き崩れるシロコを、見つめるだけしかできない。己の無力さに打ちひしがれる。

 

「シロコっ!!」

 

 そんなアヤネの気持ちを他所に、空気を読まない姉の全てをぶち壊す声が聞こえた。

 

「スオ、ウ……っ……!?先生……!?」

「“……、……”」

 

 先程までぴくりとも動かなかった先生が突如として動いたことに驚きながらも、彼の動きを止めることができない。

 ふと彼は、スオウの前で足を止めて。

 

「む……?」

「“……”」

「……」

 

 ボソボソと。彼女の前で数言、言葉を発した。

 

「どれ……」

 

 その言葉を聞いて彼女は、彼の内側を弄る。そうして取り出したのは、見覚えのある白いコートだった。

 

「……」

 

 そのポケットから、何かを取り出して。少し時間をおいて、彼女は再び前を向いた。

 

「それは、自分で伝えてあげてください」

 

 二人の間で、何かが通じ合ったのだろう。先ほどまで困惑した様子だったスオウは、急に芯をついたような言い方で先生に話しかけ始めた。

 

「あなたはずっとカッコよくって、優しくて。ずっとずっと、私の憧れでした」

「“……”」

「だからホントは、お疲れ様、って休ませてあげたいけど」

 

 彼女は小さな声で。別世界の先生にしか聞こえないほど、小さな、小さな声で。

 

「……女の子ですから。好きになった相手には、ずっと格好良くいて欲しい、なんて。我儘言いたくなっちゃうんです」

「“……”」

「ねぇ……先生……だから……ごめんなさい。これは、受け取れません」

 

 先生の手に、何かを握らせて。

 

「ありがとう、先生。そんな姿になってまで、戦ってくれて。たくさんの人を守ってくれて。私たちの味方でいてくれて。()を助けてくれて、ありがとう。……大好きです」

 

 一雫だけの涙と、それに似つかわしくない大きな抱擁を交わした。

 それが最後だと、わかりきっているような表情だった。

 

「……けれど。あなたの想いは、私たちが受け継ぐ。あなたの想いは、私たちの中で生き続ける」

 

 コートに袖を通した。アリウス分校のそれではない。

 連邦生徒会所属、連邦捜査部『シャーレ』。その頂点。

 

「あの子は私が、助けて見せます!!」

 

 彼が愛用していたコートを羽織って、スオウは自信満々に語りかけた。

 

「っ……せ、先生のバイタルが……少しだけ、ですが……」

「え……?」

「弱いですけど、鼓動があります!呼吸も!!これなら、もしかしたら……!」

「っ……先生!!」

 

 もしかしたら。そんな可能性がないことは、シロコもまたわかっていた。

 なぜなら、死んだ人間は生き返らないからだ。

 

「シロコ……少しだけ。お姉ちゃんのために、時間をくれませんか?合図に反応して、ワープホールを作ってくれるだけでいいです。先生のそばにいてあげてください」

 

 それでも、ほんの少し。最期に言葉を交わす猶予をもらえた。それだけで、どれほど。

 

「……スオウは、どうするの?」

「私は……」

 

 その背に真っ白な新品のコートを背負って、彼女は。

 

「……生徒を……妹を、助けに行きます!」

 

 彼の想いを、人生を背負って。今一度、噛み締めるように宣言した。




すみません、急用で更新が遅れました……!
最終編、次回か次々回で終わりです!
それまでに過去編が投稿され、完全にこのお話はおしまいになります!多分!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。