ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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【最終編】いつか大人になる君たちへ

「ひ、ひひっ!!あはっ!!あははははははははははっ!!!」

「ど、ぁあああああっ!?」

 

 地上。ミレニアム自治区内の平地にて。

 

「サウ!!ヤコ!!」

「チィっ……!ヤコぉ!やんぞ!!」

「お前が命令してんじゃねェ!!了解です小隊長!!」

 

 ヤコがサウの両手を足場に跳躍し、立ち向かうは別世界の桐花スオウ。

 押し込め続けたモノを解き放ち、体中から漏れた黒い光は乱反射を繰り返す。燦爛と綺羅星のように輝くそれは、今までよりも一層強く光の強さを増していた。

 

「久しぶりヤコ!!ずっと思ってたんだけど苗字は赤江じゃないんですね!!」

「……へっ!?な、なんですか!?ずっとそんなこと思ってたんですか小隊長!!」

「隙ありィ!!」

「っ、小隊長ァ!!!」

 

 動揺の隙を突かれたサウ。発音が怪しくなるほどの大声で怒りを露わにしながらも、彼女の行動自体は冷静だった。

 

「ヨセ!!レイ!!今だ!!」

「ぐ、ぐぐぐぐぐぅうううぅううううぅうらぁあああああっ!!」

「くっそ重い……!!っつーの!!」

 

 二人が放り投げたのは、巨大な鉄の塊。先程花火の打ち上げに使用した砲台だ。

 

「キャッチボールがお望みかぁ!?」

「はっ、ふざ、ふざけないでよ!?なんで、そんな簡単に!?」

「あの暴力と理不尽の権化、小隊長って感じだなー……!」

 

 それを当然のように空中で掴み取るのだから、戦力差はこれでもかと痛感させられる。勝ち目の無さも、同時に。

 

「私が……いなければね……?」

 

 だがそれは、そこまで見越して作戦を立てていなければという話。

 砲台から姿を現したのはフィリ。小柄な彼女は、狭いところに身を隠すことも得意とする。密偵時代の名残である。

 

「フィリ!!相変わらず身軽だなァ!?」

「うん……悪い子……せーばい、しに来た……よ……?」

 

 スオウが放った触腕のような恐怖を足場に、身軽に銃を交わしながら肉薄する。

 

「ただ、相変わらず攻撃力のなさは弱点ですね」

「うん……知ってる……」

 

 そうして撃ち放ったハンドガンも、スオウ相手にはほとんどノーダメージ。だが、それで良い。

 

「だから、私の目的は……こっち……」

「っ……!?」

 

 そうして防御に気を取られた瞬間に、髪の毛ロープを括り付けてやったのだから。

 

「ばいばーい……」

「っにしてんだアイツ!!」

 

 地上に落下するフィリはサウがカバー。それ以外の者は髪の毛ロープを引っ張り、神気取りの怪物を地上に叩き堕とさんと試みる。

 そして。

 

「今だ、小隊長!」

「はい!お姉ちゃんです!」

「来やがったなァど変態!!」

 

 そのロープを走り抜け、そして迫るは姉なる者。桐花スオウである。

 

「オラっ!!」

「とりゃっ!!」

 

 拳と拳がぶつかり合い、せめぎ合う。

 先程までの、打ち合うたびに己か相手の体を壊し。憎み。絶望を与えようとする。そんな戦いとは違う。

 

「まだまだッ!!」

 

 堪えていたモノを溢れさせるように。思いの丈を知らしめるように。抱きしめるように、拳を振り抜いていた。

 

「シオッ!!」

「お、お姉ちゃん……!私の想い!!受け取って!!」

「っ、な、がっ……!?」

 

 その直後、シオからの電撃による援護射撃。スオウの体は一瞬硬直。そのまま真っ逆様に地上に向かう。

 

「ご、ごめんなさいお姉ちゃん、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!好き……!大好き……!でも……だ、だから傷つけても止めてあげないと……!ずっと一緒よ、悪いことするおてては私が預かって、それで……!」

「正気に戻れ!!ヤンデレとメンヘラを履き違え始めているぞこの激重シスコーンめ!!カロリー百倍か君は!!」

「そ、そこまで言わなくてもいいじゃない!」

 

 シスコンを拗らせ始めたシオをマトモに戻すという偉業を成し遂げながらも、トウは自身が発案した作戦が成功したことを噛み締めて喜んだ。

 スオウが立ち直らせたことにより本来の性格を取り戻した、コミュニケーションに難のあるアクの強い分隊長達。協力させるのは本当に、本当に大変なことだった。

 

「最後だ!!錠前サオリィ!!」

「ああ!」

 

 落下するスオウに、過剰な神秘を込めた弾丸。手足を貫こうと四発、撃ち放って。

 

「……ま、努力賞ってとこかな」

「ぐっ……!?」

 

 ()()()()()()()()小型ミサイルによって、地上のアリウス生達を完膚なきまでに叩きのめした。

 

「っ……!みんな!」

「よそ見してる場合か?」

「ぐ……!」

 

 いつのまに恐怖を仕込んだ。そんな疑問は棚上げし、攻撃を捌く。

 冷静になれと、スオウは心の中で何度も唱える。問題ない。攻撃の威力は落ちている。タイムリミットも近いが、その分決着も近い。

 

「これが俺の味わった痛みだ」

 

 そして、妹達についても心配は要らない。

 彼女達は成長している。サウとヤコは和解し、その手助けをしたのはヨセだった。フィリは己の目指す正しさを見つけ、レイは力と本音を理解して。トウは皆と積極的に関わってよく理解し、シオは再び人を信じようとした。

 

「信じてますよ。お姉ちゃんの大事な妹は、あの程度じゃやられない。私が思ってるより」

 

 彼女達は、別世界の自分が思ってるよりずっと。

 

「強いんだって!」

「ま、まかせて……っ、うぅ……任せてくださいっ!!」

「な……!?」

 

 予想外に、ヒヨリからの奇襲。今の不意打ちで倒しきれなかったということ。

 

「……はははっ」

 

 無名の司祭からは未だに、「目の前の彼女らを殺せ」「世界を滅ぼせ」と、強い信号が送られている。それに抗うために加減をしたが、調整が下手だったろうか?

 そう考えた直後に、スオウは自嘲的に笑った。

 

「強くなったんだなぁ」

「違う。あんたが見ようとしてなかっただけ」

「っ……!?」

 

 別世界のスオウに肉薄する戒野ミサキ。なぜミサキが近接戦闘を?そんな疑問に答える時間もなく、背負い投げの要領で地面に組み伏せられた。

 

「私たちは元々このくらい強かった」

「いっつ……!」

 

 この動きは、サオリと同じ。そう理解した直後、上空からアズサが踵を落としてきた。

 

「よ、容赦ないな!?」

「そんなもの、スオウには要らない」

「っく……はははっ。まーその通りだけどな」

 

 アズサの足を掴んで壁にぶん投げて、ミサキの後頭部を殴って吹き飛ばす。遠くにいるヒヨリは実体化した恐怖で空中に投げ飛ばしてやった。

 これら全てが、わずか一秒以内の出来事である。

 

「だが、それも予想内だ」

「……!」

 

 声のする方へ、恐怖による散弾。しかし、そこに錠前サオリの姿はなく。

 

「遅い」

 

 すでに懐まで潜り込んだ彼女の攻撃を、手で制するしかできない。だが、それだけでも十分。サオリを制圧するのに数秒もかからない。

 

「だから、私が来た」

 

 そうしてサオリに注意を向けた後で、アツコの声がした。後ろからの奇襲。狙いは攻撃によるダメージ、ではなく。

 

「これ、もらうね」

「っ、ダメだっ!!触るな!!」

 

 スオウの体に取り付けられた、『ヘイローを破壊する爆弾』である。

 狙うは、起動信号の解析。あとは、彼女に仮面を被せた状態で爆破すれば一挙両得。大きなダメージと同時に、『万が一のリスク』もなくすことができる。

 

「うっ……!!」

 

 だがこのキヴォトスで唯一と言ってもいい、無条件で人を殺せる兵器。すでにその偽りは剥がれたとはいえ、姉として、桐花スオウは妹に触らせるつもりさえなかった。

 

「……」

 

 なかったの、だが。

 

「アツコ!」

「やった……!成功した!」

「さっすがみんな!私の自慢の妹たち!」

 

 そんな気持ちは知ったことではない。そう言いたげに、アツコは首輪への解析装置の取り付けを成功させた。

 

「はははっ」

 

 この圧倒的な戦力差で、自分たちの目的を押し通してみせた。

 

「ま、ぶっこわしちまうけどな」

「っ……!」

「十分よ!構造は単純……!データはとった!解析するわ!」

 

 人類最高峰の叡智の結晶(ミレニアムサイエンススクール)に所属するマユミから十分なバックアップを受けたシオ。彼女の扱う機器の性能は、別世界のスオウでも把握できていない。

 実際にはデータはまだ取れていない。だが、微細なセンサを気付かれずに、かつ破壊せずに残すことには成功した。

 

「チッ……一歩負けに近づいたか」

 

 つまりあとは、仮面さえ被せれば別世界のスオウを倒すことができる。

 

「どうですか?妹たちは優秀でしょう?」

「ああ、そうだな……そうだろうよ」

 

 そしてそれは、勝利からは程遠い。そのことが肌で感じ取れるほどの威圧感。

 

「わかるよ。俺の妹たちもそうだったから」

「っ……!」

 

 殺意が増した。それは、無名の司祭による支配が一歩先へと進んだことを示す。

 

「でも、みんなもういないんだ」

「ぐ、う、っ……!」

 

 周囲の空間に銃火器を浮かべ、そのまま保つ。浮遊の能力は、恐怖の操作の応用。足場を新たに生成し、リミッターの壊れた己の足で最高速度を目指す。

 

「俺は信じたよ。みんななら、幸せになれるって。前向いて生きてけんだって、先生なら守ってくれるんだって」

「っ……!」

 

 黒い軌跡は幾何学模様を描き、数秒、また数秒と置くごとにその複雑さを増し。

 

「……それが間違いだった。俺がみんなを守ってやらなきゃダメだった。たとえ……たとえ、あの子を殺すことになってでも」

「んなっ……!!」

 

 反比例するように、その場に立っていられるものは減り続ける。

 

「でも、俺じゃ足りなかった。力が欲しかった」

 

 その姿を捉えようとしても、わずかに遅れる。直線を目で追う頃には、もう次の直線が引かれている。

 

「そしたら、そう思ったら。意外と簡単に、その力は手に入った」

 

 スオウだけはかろうじて血の匂いを、そして何より持ち前の視力でその動きを追っていたが、それでも攻撃は追いつかない。

 

「ひどい話だろ?もうこの力で守りたい相手なんて、一人も残ってないのにな」

「っ、ヨセ!レイ!サオリ!お姉ちゃん!!空中の銃を壊して!!そうすれば」

「俺は……俺はさ」

 

 銃に狙いを定めるべきだ。そう理解したところで、スオウは地上に降り立ち。

 

「お前のこと。羨ましかったんだ」

「あ、ぅ……!!」

 

 銃を集めて作った拳でシオに鉄槌を下し、地面に大きなクレーターを作ってみせた。

 

「守るべき相手もいて。こんな力も要らなくって。先生のことも……」

「シオ!だいじょ、ぐっ……!」

「……お前と俺で、何が違う?お前の世界と俺の世界で、何が違う?」

 

 桐花スオウは、問いただす。

 

「何が違う?」

「こ、の……!」

「何が違う?」

「っ、退避!!距離を保て!!」

「何が違う?」

 

 答えは、案外簡単に返ってきた。

 

「何も違わない」

 

 それも、極めて単純な自己完結によって。

 

「いや、ちょっとくらいは違うんだろ。俺はマユミと会ったことないし。先生、俺の世界でも助けてくれようとしてくれたけど……間に合わなかったし」

 

 スオウは自分自身の発言を理解してもらうつもりなどさらさらない。ただ己の行動原理を再認識し、支配に抗うための独り言だ。

 けれども、なんとなくこの世界と元の世界の違いはわかっていた。

 最後のベアトリーチェとの戦い。ただそこで、先生がスオウを止めることができたか否か。戦いの前に、彼の言葉が届いたか。

 

「そこに俺の意思なんて、入り込む余地一つありはしない」

 

 自分がどう行動しようと、元の世界では『そう』なっていたし。この世界では、『こう』なっていた。

 

「お前にこの虚しさ(空っぽ)がわかるかよ?」

 

 十七年。ちっぽけなおせっかいから始まったそれは、計画になり、約束になり、意義になり。そして何より、スオウが生きていることの免罪符。人生の意味、そのものだった。

 けれども、運命はかくも残酷なんだろうと。ありありと、その違いを見せつけられて。

 

「……だから、俺は」

「いい加減」

「っ……!?」

 

 迫り来るアリウス生たちを蹴散らして、一歩一歩、前に進み。それは、他ならぬ桐花スオウによって止められる。

 

「本音で!!!喋れやぁああああああッ!!!」

 

 より正確には、桐花スオウのジャーマンスープレックスによって。

 

「ふうッ!!」

「……本音?」

 

 アケミに喰らっておいてよかったな。正確に脳天を地面に打ち込み、そんなことを考える。

 それでも容易く反撃に出ると言うのだから、もはやこれは正面から立ち向かうのが間違いだろう。

 

「何回も何回も言ってんでしょうが!!全部が虚しい!?自分の負の感情まで他人任せの受け売りで喋ってるんじゃねーですよ!!」

「……?」

 

 それでも、スオウは立ち向かわなければならない。向き合わなければならない。彼女と。

 

「だったらなんでこの世界で私を殺そうとした!!シロコを殺そうとした!!」

「……八つ当たり」

「あっそ!!じゃあこっちはどうですか!?」

 

 ただスオウが、彼女を救いたいと望むのだから。

 

「なんで妹を守ってくれたんですか?」

「なんで……って……」

 

 たとえそれが、彼女自身が目を逸らし続けた事実であろうと。本音を暴かなければならない。

 

「……なんで……ああ、多分……そっか……」

「ぐっ……!」

「生きる理由が欲しかった」

 

 攻撃を止めた手をひねるように持ち上げられ、遥か遠方まで放り投げられる。

 身を捩って地面に着地、両手足で減速を図るも、それを見逃す彼女でもなく。

 

「まだ誰かに、生きてていいんだって思わせて欲しかった。この世界にいると、みんな生きてたみたいに思えるから。その気持ちに酔って、誤魔化したかった」

「う……!」

 

 認識の甘さは、その代償は、左腕の骨がへし折れることによって支払われた。

 

「……我ながら、くっだらねー理由」

 

 わずかにだが、呑まれつつある。スオウは瞬時に理解。一度妹たちと合流するべきだと、両の足に力を込めて。

 

「俺はずっと、役割(理由)を探してた」

 

 掴まれた。捕まった。わかってからでは、遅かった。

 

「俺が死んだことには何か意味があるはずだ、俺がこの世界に生まれたことには何か意味があるはずだ、俺が生きていることにも何か意味があるはずだ、俺がこれから死ぬことにも何か意味があるはずだって!!」

 

 言葉が激しくなるほどに、攻撃はさらに加速度的に、指数関数的な密度の伸びをみせた。

 

「そう思わないと、耐えれなかった!!これから俺が死ぬんだってことにも!!これから俺が生きていかなきゃいけないんだってことにも!!」

 

 反対に攻撃に引っ張られて、語気は荒く。捲し上げるように、言葉はマシンガンの如く連ねられる。

 

「この俺の虚しさが空っぽ!?本音じゃない!?ああそうさ!!その通りだよ!!そう思い込みたかっただけだ!!だって、それなら俺は悪くない!!そうすれば、俺だって何の意味もなく死んだって構わない!!」

 

 全て喪った。仲間も、過去も、復讐も。それでも、死ねなかった。

 なぜなら、まだ。

 

「だってまだ……!まだ、何もできてない!!何も変えれてない!!俺じゃ何も変えれない!!変えれなきゃ!!」

 

 変えたかった。変えなければならなかった。全てが無意味だと思いたかった。それならまだ、まあ仕方ないかと思い込めた。

 自分が死んだことも、生まれたことも、生きたことも、死ぬことも。

 

「だって……」

 

 けれど。それを認めるわけにはいかなかった。だから、生き続けるしかなかった。

 

「だって、そうじゃなきゃ……!!」

 

 そうまでして、彼女が守りたかったのは。

 

「……じゃなきゃ、シアンも……アンナも……みんなも、妹たちも……何の意味もなく死んだって言うのか……!!」

 

 最初から。何一つとして、変わってなんていなかった。

 

「そんなはずない……そんなはずない……そんなはずない……!!無意味なんかじゃない……!あの子達が生きたことも、死んだことも……!!無意味なんかに、俺がさせない……!!もう、俺にしかしてやれない……!!」

 

 たった一人、あの世界で生き残ってしまった。全てなくなってしまった。シアンとアンナが守ったものさえ。

 

「だからせめて、何かを守らなきゃ……何かを成さなきゃ……何者かにならなくちゃいけない……!!」

 

 何もできずに、世界が滅ぶことは決まっていた。それでは、あの地で眠り続ける彼女たちが浮かばれない。

 だから、理由(シロコ)を。だから、意味(自分)を。だから、役割()を。

 

「誰にもそれを否定なんてさせない……!!お前にだって!!あの子たちが生きたことも死んだことも、無意味なんかにさせない!!」

 

 世界の運命に、最期の弔い合戦を。あの地に埋まるただの死体に、せめてもの手向の花を。

 

「なあ、教えてくれよ……!!」

 

 彼女を生かし続けたのは、その決意だった。それすらも、今は揺らぎ始めていて。

 

「せめて理由があって欲しいなんて、そう思うことは……そんなに、悪いことなのか……?」

「……」

「っ……!」

 

 そうして揺らいだ意志でブレた拳を、ほんの片手だけで受け止められた。

 

「……夏頃に鳴いてた蝉がさ。今はもう、その声も聞こえない」

「……!!」

「先生と取りに行ったカブトムシも、朝起きたらぽっくり逝っちゃっててさ」

 

 ようやく、見つけた。見つけさせてくれた。そんな思いから、ゆっくりと拳を下ろして。

 

「意外と命は簡単に無くなるんだ、って思ったよ」

「何を……!!」

 

 髪の毛ロープで別世界のスオウの体を巻き、妹たちの方へ投げつけ。それでも、その距離だけは離さない。

 ようやく見つけた本音を、見失ってしまわぬように。

 

「俺だって、みんなが死んだことに意味が欲しかったさ。ううん、それだけじゃない。死んだことにも、生まれたことにも、生きることにも。だから、生き続けた」

 

 スオウの体は、とっくに限界など通り越している。今すぐに訪れてもおかしくない限界を、瞬間瞬間、可能な限り遠ざけ続ける。

 それでいい。今の彼女が望んでいるのは、戦いではないのだから。

 

「だってそうじゃなきゃ、どーにか頑張ってやろうって気も失せちまう。今ここにいる自分が生きてていいんだって保証もなくなっちまう」

 

 同じ自分の言うことだ。これでもかと、共感できた。

 

「でも……」

 

 それでも、数ヶ月の間。

 

「……なんかさ。意外と大層な理由を糧に生きてる人なんて少なくって。大人でも子供でもそれは変わらないし。でも、じゃあその人たちは生きてちゃダメなのかって、それも違う気がした」

 

 彼女は、たくさんの場所に訪れて。たくさんの人を見て。たくさんの時間を過ごして。

 

「たとえどれだけ立派な目的があって生きてる人だって、夢を諦めなきゃいけない時なんていくらでもあるし」

 

 思い出すのは、アビドス自治区。店を盛り上げていこうと立てられた看板が、その工事の半ばで放置されていた。

 

「別に世界の反対側で誰かが生まれたって死んだって、今日も世界はなんでもないみたいに回ってる」

 

 自分の知らないところで苦心していたアケミ。彼女と出会った海辺で打ち上げられていた、瀕死の魚がいた。

 

「俺が死んだ時だってそうだった。理由があって死んだわけじゃない。たまたまだったし、意味のある死だったわけじゃない」

 

 死に際。溢れ出る己の血に溺れて死ぬ、蟻がいた。彼女が思い出した、最後の前世の記憶だった。

 

「誰でも意味があって生きてるわけじゃないし、死ぬことに理由だってあるとは限らない。何してようと死ぬ時は死ぬし、何もしてなくたって生きてる時は生きてるんだ」

 

 それが、この世界を。透き通るようなこの世界を生きてみて、彼女が見つけた事実だった。

 

「でもそんなの悲しいから人はそれに意味とか理由を持たせようとするし、そこで初めてそういうものが生まれる。きっと世界中でそれが起こってて、自分の見えてないどこかでは無意味に生きて、無意味に死ぬ人がいる」

 

 ある意味では、残酷な現実で。

 

「だからさ。別に、理由がなきゃ生きちゃいけないわけじゃないだろ」

 

 そして。そこから先が、彼女の考えた甘い答えだった。

 

「もちろん、あるに越したことなんてないけどさ。生きる理由みたいなものなんて誰でも見つけれるわけじゃないし、死んだことに意味を持たせることも難しい。でも、それをなんとかしてやろうって生きてれば、いつか見つかる気がするじゃんか」

 

 別世界のスオウにとっての命題であったそれらを、なくてもいい。そう、断じて。

 

「だって俺たちは、生まれてきたんだからさ。生きてるんだから」

 

 きっとそれは、究極的な肯定だった。

 

「生きて、いろんなことに意味を持たせてやればいいだろ。それが苦しいなら、俺でも手伝いくらいはしてあげるから。その気持ちを受け取って、その人たちのことを無意味なんかにさせないから」

 

 たとえ自分で見つけることができなくたって。誰かと共に生きれば、どんなにか細くても繋がっていれば。それは決して、無意味なんかになってしまわないのだと。

 

「だから人は、人と生きるんだよ。多分、それが生きるってことの意味だ」

 

 だから私たちと共に生きてくれ、と。

 

「だから……生きてるんだからさ。ただ、それだけでも生きていいじゃんか」

 

 だからお前が、死ぬ必要なんてないんだぞ、と。

 

「だって俺たちは……この世界に生まれてきたんだろ?」

 

 ただ、ここに居ていいんだと。そう、伝え切って。

 

「……はははっ」

 

 別世界のスオウを渦巻く感情は、言葉で表すにはあまりにも複雑なものだった。

 

「そっか」

 

 確かなことはただ一つ。彼女の言葉は、確かにスオウはに届いて。

 

「……そうかもな」

 

 彼女は、攻撃をやめた。首についた『ヘイローを破壊する爆弾』を、そっと取り外した。

 もうきっと、これはいらないだろうと。こんなものがなくても、自分は負けたのだと。並行世界の自分に、ゆっくり手渡した。

 

「そうに決まってる」

「……ありがとう」

 

 決着は、静かなものだった。耳を凝らすと、少しずつ止んでいく雨の音しか聞こえない。それほどまでに穏やかに別世界のスオウは倒れ。そして、意識を失った。

 

「……今度は、間に合った」

 

 受け取った首輪を、スオウは放り投げた。空中でそれを爆ぜさせた。

 もうこの世界に、『ヘイローを破壊する爆弾』は跡形もなくなった。

 

「届いたよ。シアン……アンナ……」

 

 あの日、伸ばした手は。ようやく、彼女に届いた。

 

 

 

 

 色彩によるキヴォトスの襲撃から、数日後。スオウは、アビドスを訪れていた。別世界の自分自身を引き連れて。

 

「なぁ。こんな堂々と出歩いてていいのか?」

「いいんじゃないですか?スオウ(あなた)は私とほぼ別人に見えますし、私もこの前の一件で……少し、世間の意見も変わってるみたいですし。多分ヘーキ」

「多分って、お前な……」

 

 呆れ果てた表情をしながら、スオウは少し不安げな顔色を見せる。理由はいくつかある。そのうちの一つが、別世界のシロコに会うこと。

 

「……会ってもらえるかな?」

「もらえなくても行くんです。許してくれるってわかってていくわけじゃないでしょ?」

「……そりゃ、そうだけど……」

「大丈夫。その時は私も一緒に頭下げますよ。妹の分まで謝れてこそのお姉ちゃん」

「……ん?」

 

 けれども次のスオウの言葉で、頓狂な声を上げて。

 

「誰が何のなんて?」

「ん?私あなたのお姉ちゃん」

「……自分同士だぞ?しかもどっちかっつーと俺の方が年上なんだけど?」

「関係ないですよ。私はお姉ちゃんですし」

 

 一言で言うと、ドン引きである。かつては自分も同じことをしていたとはいえ、ここまで狂っているかと。

 加えて、妹の方のスオウが目覚めたのは昨夜であるため、殺し合いからの体感時間もそこまで経っていないのだから。

 

「……はははっ!」

 

 しかしながら、なぜだかそれが今はありがたくて。

 

「なんだよ、それ」

 

 そうすると、少し不安も解けていた。

 

「マユミたちには許してもらえたんですか?」

「ああ、一応……全員条件付きだけど。マユミがメイド服がどうこうとか言ってて、アシリはチートデイならぬ妹デイを寄越せとか……あと、そうだ。サユリにはこれ渡された」

 

 全員欲望まみれだなと苦笑いしながら、妹のスオウが差し出したものを見てみると、ベルトのバックルのような黒色のナニカ。相変わらずだなと、ため息をついた。

 

「さて、つきましたよ」

「やあやあ、お嬢ちゃんたち。ようこそ、アビドス高等学校へ」

「あ、ホシノさん」

「うへ、そうそう。白い方のお嬢ちゃんには特に聞きたいことがあったんだよね〜」

 

 ホシノはぐいっとスオウの襟元を掴んで、口元に耳を引き寄せて。

 

「うちの子に手を出したら……わかってるよね……?」

「……もちろん。大丈夫です、もうこっちの私とも和解して」

「いやそうじゃなくて」

「……?」

 

───ひょっとして、マジでわかってないのかこいつは?

 

 大体そんなことを考えながら、ホシノは大きく息を吐いた。おかげでシロコが助けられた部分もあるとはいえ、だからって姉なる者の凶行を見過ごしていいものだろうか?

 

「あ、そっち……わかってますよ。妹にした以上、きちんと面倒は」

「そうじゃない……!!」

 

 いや、いいわけがない。ショットガンで脳天をぶち抜いてやりたくなる気持ちを、グッと堪えた。シロコが悲しむだろうから。

 

「……まあ、話は後で聞かせてもらうよ。それで、黒い方のお嬢ちゃんは……シロコちゃんに用事があって来たんだね」

「……うん」

「大丈夫、シロコちゃんなら聞いてくれる。すぐ呼んでくるよ」

 

 それはそれとしてお前はあまりシロコに近づきすぎるなよと、自称姉の方のスオウに念押ししながらホシノはシロコを呼びに行った。

 

「よかったですね。会ってくれそうで」

「……」

「あれ……あれって」

「“あ、二人とも。やほ”」

「ん。桐花スオウ。それも二人」

 

 ザッと後ろから足音。正体見たり、ちょーん。見覚えのある感じで指刺してくるのは、こちらの世界の砂狼シロコ。

 それから、二つのタブレットを手にする先生だった。

 

「あ、先生!それとまだ妹じゃない方のシロコさん!!」

「ん……その呼び方、やめてほしい。二度と」

「妹になりたいってことですか?」

「……ホシノ先輩を呼んでくる」

 

 怪しい人に何かされたらおじさんにちゃんと言うんだよ、といういつだったかの約束を律儀に守り、ホシノの元へ向かうシロコ。

 要するに、ただの告げ口である。

 

「……?さっき会ったんですけどね」

「いや、ぜってぇそういう意味じゃ……う……」

 

 後ろに引っ込んで隠れてしまった妹の方の自分をなんとか引き離しながら、先生の方へ向かうスオウ。

 出会うのは、戦いが終わって。そして、彼の遺体を確認して以来。

 

「先生……その、出会ってそうそうこんなことを聞くのはなんですが……お墓は……?」

「“……まだ、決まってないんだけど。今の所、アビドス自治区に納骨する予定かな”」

「……そっか。後で、手を合わせに行ってもいいですか?」

「“もちろん。きっと、私もあの世で喜ぶよ”」

 

 そうして彼は、二つあるうち片方のシッテムの箱を撫でつけた。不恰好に絆創膏で修復されたそれは、まさしく応急処置といったところ。

 

「そういえば、アロナさん……A.R.O.N.Aは?」

「“シッテムの箱を同期した状態にして、こっちのアロナのところにいてもらってる。今はプラナって呼んでるよ”」

「へぇ……ここに、いるんですね」

 

 崩れてしまわないようにそっと触れて、彼女の声が聞こえないか。そう思って目を閉じたが、あまり期待はできそうもなく。

 

「色々、助けてくれてありがとうございました。プラナさん。あ、アロナさんも。それにもちろん、先生も」

「“……お気になさらず、だって”」

「はははっ」

 

 そうして、彼女の白い()()()()()コートが音を立て始めたことに気づき。いよいよ限界だったのか、スオウは後ろにいる妹の首根っこを引っ掴んで。

 

「いい加減前に出ててください!何をコソコソと!」

「あ、おまっ、やめっ……先生には……」

 

 入れ替わるように前に出されて、目線から隠れられない。せめて目が合うのはと逸らした彼女を見て、先生は微笑んだ。

 

「“スオウも、無事でよかった”」

「……なんで、そんなこと……言っとくけど、俺はあんたの知ってるスオウじゃない。別人だよ」

「“関係ないよ、あなたが何者でも。それに……”」

「……?」

 

───シロコを……アロナを……スオウを……。

 

 今際の際。託されたのは。

 

「“あの世界の私にも、託されたんだ。シロコを、アロナを、スオウを。生徒たちのことを、どうか、って”」

「……!」

 

 スオウにとって、知る由もなかった事実。

 

「……先生、が……」

 

 何度も、死体だと嘲り。踏み躙り。挙句、生徒を殺そうとして。八つ当たりを繰り返して。

 

「……なぁ、先生」

「“どうしたの?”」

「あんたにとっても、俺は……」

「“……うん。一緒だよ”」

 

 それでもなお、彼は。最期の瞬間まで、自分を案じていた。救おうとしていた。

 

「……先生……」

「“どうしたの?”」

 

 もう彼には、お礼を言うことすらできないけれど。

 

「“っ、と……”」

「……ごめん……少し、このまま……」

「“……うん”」

 

 それだけの事実で。自分が愛されていたのだと、今も愛されているのだと。それだけで。

 

「……おんなじ匂いだ」

 

 少しだけ、生きる気力も湧いてくる気がした。

 そんなもう一人の自分を羨ましいと思いつつ、わざと目線を逸らした。すると、いつの間に訪れていたのか、黒い影が一つ。

 

「シロコ」

「……ん。桐花スオウ」

 

 この挨拶のような指差しは変わらないのだなと少し可笑しな気分になりながら、彼女の後ろを見る。

 そこには誰がいるわけでもなく、校舎の窓からは見覚えのあるピンク色のアホ毛がのぞいていた。

 

「ホシノ先輩とこっちの私には、残ってもらった。……その、ホシノ先輩は特に、スオウを殴っちゃいそうな勢いだったから」

「……まあ、許してもらえないようなことをしましたからね」

「そっちじゃない……」

「……?」

 

 すっとぼけつつ、スオウはシロコにいくつか聞きたいことがあった。

 どうせ本命の用事がある自分は後ろで先生を愉しんでいるのだ。後で自分も存分にさせてもらうとして、今はこちらに集中しようと棚に上げた。

 

「どうですか?それから、そっちは」

「……どう……うん。あの後、着地したアトラ・ハシースの箱舟は少し故障しちゃって……今は、先生たちに手伝ってもらって直してる。アビドスのみんなにも」

「舟を……」

「ん。……最後に、先生と過ごした場所だから。綺麗にしてあげたい」

 

 もうそこには、誰もいないけど。言葉のない言葉を、スオウはしっかりと聞き取った。

 それで心の整理がつくというのなら、今はそれに集中した方が良いだろう。

 

「これから、どうしますか?」

「……決めてない。ううん、決めれてないの。みんなは、ここに居ていい、って……でも、私は……どうしたいか、わかんなくって」

「……」

 

 彼女にとって、ここは。夢のような場所でもあり。同時に、思い出の集まりだ。

 ほとんど同じ世界で、自分の居場所に別の自分が居座っている。それもまた、残酷な話だろう。それがわかっているから、シロコも迷っているのだ。

 

 だから、スオウにできるのは提案だけ。

 

「おねーちゃんのとこに来ますか?」

「……いいの?」

「はい、もちろん。他の妹もたくさんいますよ」

「……」

 

 スオウの言葉に、シロコは少し逡巡した。けれどもあまり時間をおかずに、前を向いて。

 

「ありがとう。でも、やめておく」

「……いいんですか?」

「ん……確かにここは、辛いことを思い出してしまう。けど……」

 

 セリカのバイト先に訪れたこと。アヤネを中心に金策を相談したこと。ノノミと一緒に買い物に行ったこと。ホシノにマフラーを巻いてもらったこと。

 

「辛いことばっかりじゃない。痛みよりもたくさんの思い出を、もっともっと貰ってるから」

「……そっか。じゃあ、お姉ちゃんから言うことはありません」

 

 寂しくなりますけどねと付け加えながら、彼女はシロコを抱きしめて。

 

「おねーちゃんは、いつでもシロコの味方。ただ声を聞きたいだとか、それだけでもいい。お姉ちゃんにできることがあったら、いつでも呼ぶんだよ」

「……ん」

 

 なんでもないように、素直な笑顔で笑うシロコ。今の彼女なら、きっと。

 そう考えて、スオウは一枚の紙袋を差し出す。

 

「これ……」

「少し汚れちゃいましたけど……多分、シロコのところにいるのが一番いいと思ったから。いつまでも、借りるわけにはいかないので」

 

 それはいつか、自分の力で。そっと付け足して、シロコに手渡した。

 その中身は、真っ白なコート。

 

「先生……」

 

 銃痕と裂傷が縫い付けられて、少し修復されていた。

 

「ダメだね、私……また、こんな……」

「……ダメなんかじゃないよ」

「……ん……ありがと」

 

 シロコの流した涙を見て、スオウはそっと頭を撫でつけた。最後に彼と過ごした時間を思い出し。それに苦しみも、幸せも覚えた。

 もう決して、無くしてしまわないように。ギュッと抱き抱えて、離さなかった。

 

「……その、シロコ」

「……桐花、スオウ」

 

 ふと、スオウの後ろで声がした。別世界の自分の声。スッと後ろに下がって、先生の横に並ぶ。遠巻きに、見守るように。

 

「……!?」

 

 お前、一緒に頭下げるって話はどこに行った?スオウは恨めしげに睨んでみるが、暖かい目で見守られるばかり。

 

「その……あ……何から、話せばいいかな……」

「ごめんなさい。あなたの妹を殺して」

 

 先に謝罪を奪われ、驚愕するスオウ。

 思うところがないわけではなかった。ないわけではなかったが、それでも自分は謝罪するつもりで来た。だから、こうして先に謝られたのは意外だった。

 

「いや……お前も、操られてたんだろ?……言いたかないけど……しょうがない……の、かな。言いたくないけど」

「……それでも、謝らせて欲しい。あなたがそうなってしまったのは、私の責任。それに私は……あなたのことも、殺そうとした」

「……」

 

 この際、自分のことはどうでもよかった。だが妹のことを言い出されると、少し話は違ってくる。

 許すか、許さないか。というレベルの話ではない。そもそも、彼女は操られていただけ。しかし自分の罪だと言い張るのなら、それを許すのは侮辱なような気がした。

 妹に対しても、シロコに対しても。

 

「……いや、俺はいいよ……俺こそ、お前のこと殺そうとした。……ごめんな」

「……ん。構わない」

「でも……妹は……」

 

 スオウがシロコを殺そうとした理由には、そんな彼女の持つ罪悪感もあった。

 

「……あれは、お前のせいだと思ってない。それでも、謝るなら……償いたいと思うなら……」

「……」

「俺も一緒に、償わせて欲しい」

「え?」

 

 それでも、スオウは選んだのだ。生きる道を。生かす道を。

 

「みんなを守れなかった。昔俺の失敗で、大勢の人が死んだ。だから……その分だけ、人助けをしたい」

「……」

「それで……まあ、それなら……俺は、赦すよ」

 

 だから俺のことも、できれば赦してほしい。そっとその言葉を付け加えて、おどおどと視線をあげて。

 

「……ん。ありがとう……これからは、一緒によろしく」

「……うん」

 

 そんな二人の様子を見守る、生暖かい視線が一つ。

 

「妹たちの成長は早いですね」

「“はは……”」

 

 変態である。否、お姉ちゃんである。

 

「……これで、よかったんでしょうか?」

「“……わからない。それは、これから次第だよ”」

「うん……そっか。そうですよね」

 

 少し漏らした弱音に、先生は素直な自分の気持ちを答えた。今の彼女になら、それが受け止められる気がした。

 

「先生……私ね?」

「“うん”」

「こんな風に、人を助けれる人間になりたい。って、ずっと思ってました」

 

 ぽつり、ぽつりと。彼女自身の秘密について、スオウは語り始める。

 

「スーパーヒーローに憧れるみたいなもので。けど、思ったよりそれは簡単じゃなくって」

 

 前世から抱え続けた目標。憧れ。決して届かなかったもの。

 

「……それでも、少しずつ前に進もうって」

 

 それらは、ようやく彼女の指先に触れ始めていて。

 

「私、先生になります。先生みたいな先生になって。子供のことを、支えたい」

「“……!”」

「だから、その……まあ、まだ私の立場じゃ難しいですけど……これから、色々教えてもらえたらなーって……」

 

 そんな成長を見守り続けたのは。一番、近くで見ていたのは。他ならぬ、先生だった。

 

「“可愛い後輩ができるなぁ”」

「かわっ……いや、後輩って。気が早いですよ……」

 

 その姿は、まるでかつての自分を見ているようで。

 

「“もちろん。いつでもおいで。少しだけ先を生きてるから。その分のアドバイスくらいなら、きっとできるよ”」

「……うん。先生」

 

 また一歩。彼女は、大人に近づいていて。

 

 

 

 

 とある日曜日。アリウス自治区の一角。

 

「それでさ、あいつも最近やっと明るくなってきたみたいで……あ、でも多分コミュ力は下がってるなありゃ」

 

 花畑のようなその場所は、周囲を木々に囲まれている。まるでそこだけが、死後の世界に繋がっているようで。

 

「ミカも忙しそうだよ。あの子がトップだった派閥、結構過激な子多くってさ……色々、大変だったんだぜ?」

 

 そして真ん中に置かれているのは、小さな一つの墓。かつて元アリウス自治区で戦った少女たちの、生きた証。

 

「……そうだ、シロコも。色々あったけど、なんだかんだ元気にやってるよ。またサイクリング行こうって連絡来てる」

 

 これが彼女の、週に一回の習慣だった。

 シロコからの連絡に返信しようとスマホに目を向けて。時間が、ずいぶん経っていることに気づく。

 

「悪い、もう行かないと。みんなが待ってるんだ」

 

 一応サプライズということになっているので、上手い具合に驚かなければ。そんなことを考えながら、墓に線香を備えて。

 

「またな、シアン。アンナ。みんな」

 

 そうして、背を向けて歩き出す。ふと、彼女は足を止めて。

 

「あ……あと、そうだ」

 

 日の下でなお、光り輝くような笑顔で。

 

「十八歳になったよ」

 

 少し伸びた髪を靡かせながら、向かい風にあおられながら。光の方へ歩んでいく。

 踏みしめる足はどんな生物よりも力強く、か細く見える背はどんな彫像よりも逞しく。全てを背負ったまま、それでも彼女は歩いていく。

 

「ほーらあなたも来るんですよ。みんな私たちのために用意してくれたんですから」

「いやっ、俺は……!うまくおどろけねぇし……!」

「いいんですよ、こーいうのは!ほら早く!」

 

 時折、周囲の者たちも引き連れて。

 

「痛いよぉ……!」

「おい、待て。子供が怪我してる」

「あらら、大丈夫ですか?どれ、よっと」

 

 寄り道をして、立ち止まって、立ち返って。

 

「ほら、もう痛くない」

「うん!」

 

 それでもなお、彼女は前に歩んでいく。

 

「よく耐えましたね!えらいですよ!」

 

 痛みが癒えて。いつかかさぶたになって。剥がれ落ちて。綺麗なんかじゃなくたって、また立ち向かえるように。

 

「急げっ、急げっ」

「ったく相変わらずおせっかいな」

「あなただってやってたでしょ?」

「う……」

 

 ともに明日へと、向かっていく。

 

「スオウが来たぞ!!今だ!!」

「みんな!せーのっ!!」

『お誕生日おめでとう!!』

「はははっ……」

 

 未来へと、進んでいく。




最終編もこれで終わりです!
あとは残すところ過去編のみ!頑張るだけのお話は、本当におしまいです!なんとか年内に終わりました!

この作品で伝えたかったこと、書きたかったこと、全て最終回で伝えたつもりです!
これ以上ここで書くのは無粋でしょう。
ここまで読んでくださった方も、そうでない方も、本当にありがとうございました!
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