ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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一歩ずつ

 今日はサオリとミサキの勉強はお休みだ。

 学習効率を考えて、自習の時間を入れるべきだと思ったから。

 

 つまり二人の目の届かないところでアツコ、ヒヨリを俺と一緒にさせるということ。

 その旨をサオリとミサキに伝えた時。

 

『いいか…!ヒヨリとアツコに変な事をしたらその両の目が無くなると思え…!!!』

『……手、出したら…許さないから』

『私をなんだと思ってるんです!?』

 

 …めっちゃ脅迫された。

 

 でもなんだかんだ言って任せてくれたあたり、少しずつだけど信用されてる…のかなぁ…?

 だったら嬉しいけど。

 

 ちょっとずつ、ちょっとずつだけど、俺を受け入れてくれる子が増えつつある。

 

 やっぱり勉強が効果的だったのかもしれない。

 皆こういう、普通に憧れている節もあったんだと思う。

 …それでも、今俺が会って話せている子は…アリウスにいる子供の何割にも満たないのかも知れない。

 

「…もっと頑張らないと」

 

 うん。そうだ。

 

「…え?な、何をですか…!?」

 

 口に出ていたのか、水色の髪の女の子が話しかけてくる。

 その側には、白いシンプルな仮面をつけた、薄紫の髪の女の子。

 

 槌永ヒヨリと、秤アツコだ。

 

「いえ、なんでも。それより、サオリかミサキから話は聞いてますか?」

「………」

 

 アツコが手話で何かを頑張って伝えようとしてくれてるけど…さっぱりわからない。

 

「え、えーっと、ごめんなさい、アツコ。まだ私わからなくて…喋ってもらうことってできます?」

「……」

 

 首をフルフルと横に振るわれてしまう。

 まあ、そっか。

 

「あ、アツコちゃんは『彼女』の指示で…手話でしか喋れないんです…」

「…ええ。知ってますよ。仮面もそうでしょう?」

 

 秤アツコ。この子は、他のアリウススクワッドのメンバーとは事情が異なる。

 

 アツコは先代生徒会長の血を引くロイヤルブラッド。

 恐らくは、今のアリウスにはこの子一人しか存在しない。

 

 …シアンも、違ったみたいだしな。

 

 ともあれ、だ。ベアトリーチェは、このロイヤルブラッドたる秤アツコに目をつけている。

 生贄に捧げ、その神秘を吸収して色彩に触れるために。

 エデン条約編で起こった出来事は、全てそのためにあったと言っても過言ではない。

 

 それを知ったアリウススクワッドが見るに耐えかねて助けようとしたため、アツコは皆と共にここにいるわけだ。

 

 要はアツコはスラム出身じゃないし、ベアトリーチェに目をつけられている。

 

 …ベアトリーチェに近づくための、鍵の一つ。

 

「……?」

「…あ、なんでもないですよ」

 

 だが、そうである以前に子供だ。

 『私』の妹だ。

 絶対に、傷つけさせはしない。

 

「…ねぇ、アツコ。どうせバレやしませんから。喋ってみてくれませんか?」

「……」

 

 …まあ、そうだよな。

 子供の頃なんて、バレなくても怒られそうなことなんてしたくないモンだ。

 

 でも、そうじゃない。それじゃダメなんだ。

 

「…あの腐れババアの言う事に、従う必要はないですよ」

「……」

「…気持ちはわかります。『もしも』が怖いんですよね。もし、バレたら…自分だけじゃなくて、みんなも危険な目に合わせてしまうかもしれないから」

「っ…!」

 

 …優しい子だ。こんな状況でも、他者を労われる。

 けどな。

 

「だいじょーぶですよ!なんせあなたには、お姉ちゃんがついてます!!もちろん、ヒヨリにも!」

「えっ!?わ、私はいらないです…!」

「うぐっ…と、とにかく!何かあったら、私がなんとかしてあげます!責任をとります!皆には指一本触れさせません!!姉とはそういうものです!」

 

 アホ姉貴もそうだったしな…元気に、してるかな。

 

 いや、今は目の前のことに集中しろ。

 

「だから、もっと我儘になってください。自分のやりたいことを、していいんですよ?」

「……っ」

 

 …少し、悩んでるみたいだな。

 

 …ちょっとだけでもいい。抵抗することを覚えてほしい。頼ることを覚えてほしい。

 

 納得できないルールをコソコソ破る、なんて普通の子供もすることだ。

 

 きっとこの子達にとって、今必要なのはそういう『普通』でもあるはず。

 

「……っ」

「……アツコちゃん…」

「…アツコ」

 

 ……震えている。

 この子がどんな扱いを受けてきたのか、俺は知らない。碌なものではなかったことは、想像に難くはないが。

 

「大丈夫」

「っ…」

「大丈夫ですよ。私が皆守ります。だから、少しだけ。一言だけ。まずは、ちょっとだけで」

 

 だけど、多少強引にでも覚えてほしい。こういう『普通』を。

 

「………っ……。……ぁ…」

「っ…!!、」

 

 それは、消え入りそうなほどにか細い声で。

 

 少しでも気を逸らせば、聞き逃してしまいそうで。

 

 それでも、彼女の…小さな一歩。抵抗の証。

 

「あ、アツコちゃ」

「アツコォォオォオオオッ!!!!」

 

 全力で彼女の元へ向かい、泣きながら抱きしめる。

 

「!?」

「頑張りましたねっ…!!偉いですよ…!!無理させて、ごめんなさい…!!」

「……」

 

 この子にとって、勇気を出すことがどれ程難しかっただろう。怖かっただろう。

 それでもこの子は、一歩前へと進んでくれたんだ。

 

「……」

 

 事実、アツコは震えて力が抜けていた。

 これ以上、無理はさせれない。

 

「…はい。わかってます。怖かったですよね…今は、これだけでも」

「あ、あの!!……違うと思います…!」

「え?」

「アツコちゃんが震えてるのは…す、スオウさんの力が強すぎて…!」

 

 …え?

 

「わ、わーっ!?アツコ!?ごめんなさい、大丈夫ですか!!?痛いところありませんか!?」

 

 ど、どうしようどうしようどうしよう!!?

 せっかく頑張ってくれたのに、これじゃあ…!

 

「…フフッ」

「……っ!?」

 

 今の、笑い声って…!

 

「アツコ…!?」

「…」

 

 恥ずかしそうにそっぽを向かれてしまった。

 

 けど今のどう考えてもアツコの…。

 

「……だ、大丈夫そう、ですね………ブフッ…!」

「ふ、二人して笑わないでくださいよ!?」

「……」

「そ、そうですよね…!変なことしたスオウさんが悪いです」

「うぐっ…!!」

 

 …思い描いてた、理想の形とは違うけど。

 

「で、でもアツコちゃんって可愛い声してますね…私と違って…」

「……」

「そ、そんなことないですよ…!お世辞ですか…!?私は一体何をすれば…!」

「どんなネガティブ思考ですか!?私は、二人とも可愛い声をしてると思いますよ?」

「…」

「す、スオウさんまで…」

 

 でもまあ。二人が少しでも明るくなれたなら、それでいいか。

 

「あ、それで。結局、二人からは聞いてるんですか?」

「……」

 

 なるほど、わからん。

 手話も徐々に覚えないとな。

 

「ヒヨリ、アツコはなんと?」

「何を聞いているのか、だそうです…私も、特に何も聞いていないのですが…」

 

 あれ?連絡漏れかな?

 まあ、そういうこともあるか。

 

「サオリとミサキは少し前から勉強を教えていまして。あなた達も参加することになったんです」

「な、なるほど…その見返りとして私達を無理矢理妹に」

「しません」

 

 ……ヒヨリのこのネガティブ思考、なんとかならないかなぁ…。

 でも、他の三人に比べれば健全な精神性だと思うんだよな。

 何より、本人の図太さにつながってるし。

 

「……」

「え、え…?なんですか…!?」

「いえ、なにも」

 

 …まあ、ヒヨリは少し様子見か。

 

「とにかく。参加してもらうことになっているんです」

「……」

「そ、そうですね…私達、勉強なんてしたことないですし…あれ…?じゃあ二人はどこですか…?」

「今日は二人は自習ですよ?隣の廃屋にいます」

「……!」

「…え?」

 

 おいヒヨリ。なぜちょっと顔を引き攣らせる。

 アツコは仮面でわからんけど…多分嫌な顔はしてない…と、いいなぁ…。

 

「つまり私たちだけです」

「え、えぇええ…!?」

 

 ヒヨリの顔が一気にサーッと青ざめ、だんだんと絶望に変わっていく。

 何かね、不服かね。

 

 だが俺も引くわけにはいかないのだよ。

 

「ということで!今日はお姉ちゃんとよろしくお願いしますね!アツコ!ヒヨリ!」

「……」

「う、うわぁぁあああ!!?もうおしまいです!!」

「何が!?」

 

 人と一緒に勉強するのがおしまいってどういうことだよ!?そんなに嫌かっ!?

 

「もう絶望しかないです…!!だったらいっそ…!!おやつは出ますか…!?」

「卑しいっ!!?」

 

 このやろう!?やっぱ図太いぞコイツ!!

 

「ええ、いいですよ!!出してあげようじゃないですか!だからしっかり勉強してください!!」

「……」

「あ、アツコちゃん…!そ、そうですね!頑張りましょう…!」

 

 と、そんなこんなで二人と勉強を始めようとしたのだが。

 

「とうとう正体を現したなこの異常者め!!!ヒヨリとアツコに何をした!!!」

「二人とも、大丈夫…!?」

 

 ヒヨリの泣き声を聞きつけた二人が勘違いして駆けつけてきた!?

 姉としての信頼薄すぎない!?

 

「……!!」

「何もされてない…?」

「そ、その…多分何か誤解して…!」

 

 あ、アツコォ!ヒヨリ!!誤解を解こうとしてくれてる!!

 

「そんなわけないでしょ…!まさか口止めを…!?」

「卑劣な…!!この悪性新生物が!!!」

 

 ダメだった!!?

 というかこの前チラッと言った悪性新生物覚えてる!?意味間違ってるけど!

 

 …ちゃんと真面目に勉強してくれてるんだなぁ。

 

 …いや、感動してる場合じゃねぇ!!?

 

「ち、違います!!!話を聞いてください!!」

「なぜ攻撃が効かない…!!」

 

 いや効いてるよ!?流石に銃で撃たれたら少し痛いよ!?

 

「くっ…!化け物め!!!」

「姉ですってぇ!?」

 

 ……こんな感じで、大丈夫なのかなぁ…俺。

 

 けどまあ。やるしかないか。

 

 ハンドキャノンの改造も、あと少しで終わる。トレーニングも順調だ。

 一歩ずつ、着実に、ベアトリーチェの殺害に近づいていかなくては。

 

「ミサキ…一緒に、戦ってくれるか…?」

「…っ!……いいよ。アツコ、ヒヨリ。逃げな。私たちが時間を稼ぐ」

「……!…!!」

「ほ、本当に誤解です…!!」

 

 でもその前に、この状況をなんとかしないとねっ!!!

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