ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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邂逅

 訓練の開始から五年。

 今の俺は13歳…中学生だ。

 

 戦闘訓練は、妹の皆も参加している。

 本来なら、みんなは戦いに一切関わって欲しくなかった。

 しかしそれではベアトリーチェに情報が伝わる恐れがある。それに、ここキヴォトスじゃある程度戦えないとやっていけない。

 断腸の思いで、みんなにも戦闘訓練は受けてもらうことにしたのだ。

 

 こっそり教員への愚痴を言いながらも、なんやかんやと訓練を続けていれば否応にも強くはなる。

 結果として、妹たちの中ではサオリが一番強くなった。

 

 ここアリウスでは相も変わらずクソみてぇな話だが、一定の実力が身につけば隊を組まされる。

 

 今日がその任命日だ。

 

 例えばサオリは第8分隊長で、第8分隊を率いることになる。

 主な構成員はミサキ、アツコ、ヒヨリ…そして、恐らくはいずれ加わるであろう白州アズサ。将来のアリウススクワッドになる子達を筆頭に、合計十名。

 

 こんな感じの分隊が、全部で八つ作られている。

 

 …白洲アズサの姿は、未だに見えない。

 これはつまり、俺の目が届かない範囲にも、アリウス内に子供が存在することを意味する。

 おそらく、分隊を組めばその子達と関わる機会もできる、はずだ。

 

 ……どれほど大きな心の傷を負ってしまっているか、想像もつかない。より慎重に、かつ迅速にフォローしなくては。

 

 そして、分隊。

 俺はというと…。

 

「小隊長?」

「ああ。貴様には第5分隊から第8分隊を率いてもらう」

「それ、あなた達の役割じゃないんですか?」

 

 いや、立場が強くなるのは助かるけどさ。

 基本的に分隊の取りまとめたる小隊長は、教員が担うものだと思っていた。

 

「貴様はその実力に足り得る、と判断された。マダムに挨拶に行け」

 

───ベアトリーチェ?

 

「…へぇ?」

「…わかっているとは思うが、余計なことはするなよ?芋蔓式に私まで罰せられてはたまらん」

「心配しなくても大丈夫ですよ。これからもよろしくお願いしますね?共犯者さん」

「…どの口が」

 

 ようやくだ。ああ、ようやく。

 何年も何年も、この時を待ち続けた。

 

 今日アイツを殺すことなんて、俺にはできない。

 

 だがようやく。この銃が、体が、殺意が、アイツと相見える。

 

「…っ、おい、本当に余計なことはするなよ?」

「はははっ…わかってますって」

 

 訓練用の銃を握る手に、力がこもる。

 ひび割れ、グリップがボロボロになっていき、とうとう完全に粉砕される。

 

「……ふー」

 

 掌から滴る血に冷静さを取り戻しながら、指定された場所へと向かった。

 

 

 

 

 薄暗い、石造りの建物。

 アリウスにおいては、さして珍しくもない光景。

 その中にある扉を二度叩く。

 

『入りなさい』

 

 壁に隔てられ、くぐもった声がこちらに届く。

 そのことを確認しながら、ゆっくりと扉を開ける。

 

 中に佇むは、無数の目を持つ花のような異形。

 その後頭部からは茶色い髪を流し、豊満な肉体は赤い肌を白いドレスで覆っている。

 前世で見たものと、相違ない姿。

 

───ああ。コイツを殺したい。

 

 身のうちから焼け登るように湧き上がる熱を、殺意を抑え、『私』を演じる。

 

「お初目にかかります、マダム。桐花スオウと申します。此度の小隊長への任命、心より感謝を申し上げるとともに、謹んでお受けします」

「ええ、あなたの噂は予々聞いていますよ、桐花スオウ。その実力は、幼いながら教員にも比肩する程だとか」

「…恐悦至極に存じます」

「期待していますよ。……っ!?」

 

 …?なんだ?

 こちらを見た瞬間、ベアトリーチェの目の色が変わった。

 今まで興味なさげだった表情が、驚愕、しているような…?

 

「いかがなされましたか?」

「っ、いえ。気にしなくて結構です、ええ。時にあなた…桐花スオウというのは、本名ですね?」

「…?はい」

「……それは、実親に付けられたものですか?」

「いえ、養親…私を拾った方がつけたものだと聞き及んでおります」

「……そう、ですか」

 

 ……考えられる可能性としては、俺の目だ。

 白と黒の瞳孔の、オッドアイ。原作でも希少な…神秘の証、かもしれないもの。

 

 黒服に情報提供されるかもしれないが…どう対策したものか。

 おそらく、俺が優秀な駒であるうちは引き渡されはしないだろう。

 別にゲマトリア同士は敵対するわけではないが、利益がなければ協力するわけでもないしな。

 

「では、明日より正式に小隊長として役割を果たしてもらうことになります。主なものとしては人員の配置、訓練体制の把握など、戦力の指揮になりますね。よく、励むこと」

「了解致しました。最善を尽くします」

 

 …今は、これでいい。

 無理にトリニティへの怨みやニヒリズムを示しては、逆に疑われかねない。

 ひとまずは、忠誠心を示すだけでいい。徐々に、徐々に進めるんだ。

 

「では、今日はもう結構です。行きなさい」

「ありがとうございます。失礼致します」

 

 扉を開け、外に出る。

 

 足音を立てずに、足早にその場を去る。

 

 その建物を去り。別の建物へと移る。

 

 壁に拳を打ち付ければ、簡単にヒビが入り、窪みができた。

 

「はぁ…!!はぁ…!!」

 

 身に迸る怒りで、息が荒くなる。

 

「ふぅうぅうううう…!!!」

 

 大丈夫。まだ演じていられる。

 

 決して、この殺意をアイツに伝えるな。

 

 

 

 

 桐花スオウが去った部屋で、ベアトリーチェは一人思案する。

 

「まさか…ですね」

 

 本当に、予想外の出来事だった。

 まさか。まさかだ。

 

「あの、娘…」

 

 神秘の証たるオッドアイ?そんなことはどうでもいい。

 幼いながら教員に匹敵する戦闘力?そんなもの、いくらでも補えるものだ。

 

 ゲマトリアの同僚である彼…後に、黒服と呼ばれるもの。

 おそらく彼女、桐花スオウは彼の求めている存在であることは、ベアトリーチェにとっても確かだった。

 

 しかしベアトリーチェにとって重要なのはそこではない。

 

 己が何度も、何度も探し求め、結局見つからなかった存在。

 秤アツコのデータを使用し、目視のみでの判別を可能にした。

 

 それでも発見すること能わず、諦めていた。

 

 アリウス内に、もうアレは存在しないのだと。

 

 ベアトリーチェにとっての、保険。

 

 こんなところで見つかるとはなんたる幸運、僥倖。

 

 あの娘は、混じって(・・・・)いる。純粋なものではないが、それでもあの神秘の総量…十分、代替品足り得るはずだ。

 

 黒服になど、教えてやるつもりはない。アレは自身にとっても有用なものだ。

 必ず手に入れてみせる。決して逃しはしない。

 

「フフ…」

 

 しかし、あからさまに囲うのはまずい。

 ほぼあり得ない話ではあるが、万が一にも誰かに計画を妨害されてはまずい。本人に察せられることなどもってのほかだ。

 保険とは、そういうものだから。

 

 ああ、アレをどうしたものか、小隊長に任命したのは失敗だったか?

 外へと出る機会も増えるだろう、それはいい。その過程で身に危険を及ばさせるのはまずい。

 

「……まあいいです。ひとまずは、様子見といきましょうか」

 

 死なせはしない。

 やっと見つけたのだ。

 ずっとずっと探し求め続けた保険。

 

 

 ……ロイヤルブラッドの、血族を。

 

 

 

 

 訓練場に戻ってみれば、ちょうど第8分隊の面々が揃っていた。

 教員はすでに去っており、そこには見覚えのある白髪の少女が一人…アレ?

 

「白洲、アズサ…?」

「っ!?って、スオウか…なんでこの子の名前も知ってるの…?」

「それはね、ミサキ。私がお姉ちゃんだからですよ」

「…そっか。可哀想に」

「同情しないでくださいよっ!?別に私おかしくないですから!!!」

 

 流石に壊れてるやつ扱いは堪えるぞ…?

 

「…その子は、誰?」

「ああ、コイツは」

「私は桐花スオウ!!!小隊長にして、皆の姉です!もちろん、あなたの姉でもあります!!」

「…こういうヤツだ。気にするな」

「………姉?」

 

 しかし、アズサがここにいるってことは…アレは、もう起こっちまったのか。

 

 原作では白洲アズサは教員に反抗し、ヘイローを壊されかねないほどに、痛めつけられていた。

 それを見かねたサオリが自分が指導しておくと名乗り出て庇い、そのことがきっかけでアズサはアリウススクワッドの一員となるのだが…。

 

 過程はどうあれ、アズサは傷つけられたことになる。

 俺が、目を離した隙に…。

 

 全ての教員を、共犯者にできているわけではない。おそらく、そいつらにやられたのだろう。

 

「……ごめんなさい。皆、危なかったんじゃないですか?」

 

 とりあえず清潔な布を水で濡らして、アズサの頬の血を拭う。

 

「女の子の顔をこんなに殴って…ちょっとその教員の顔と名前教えてください」

「やめろ。何をするつもりだ」

「ちょっと『お話』するだけですよぉ?ええ、過激に、暴力的にね」

『サッちゃんはそれをやめろって言ったんじゃないかな』

 

 アズサの手当てを続けながら、考える。

 

 …この件は、完全に俺のミスだな。

 俺の目の届かないところでは、こういう暴力も発生し得る。もっとも、ここまでこっ酷くやられたのは反抗したからだろうが…反抗できない状況、というのは不健全なものだ。

 

 …対策として、共犯者のいる場ではある程度反抗することを覚えさせたり、後で愚痴を言い合ったりしてはいるけど…こういう場面もあるってことは、心に留めておこう。

 

「えっと、姉…?」

「じ、自称です…!スオウさんは、自称姉なんです…!!」

「自称じゃないです!姉ですよ!」

「…ごめんなさい、よくわからない」

「ともかく!…よく、一人で頑張りましたね。もう大丈夫。お姉ちゃんがついてますよ」

「っ……」

 

 …この子は、強い子だ。

 アリウスの教えに支配されることもなく、抵抗することをやめず、決して諦めない。

 最後まで、自分を貫き通す。

 

「まあ、納得できないことに抵抗するのはいいことです。でも、タイミングを考えないと…あなた自身を傷つけてしまう。それは、お姉ちゃんとして容認できませんね」

「…だからって」

「別に、納得できないことに従う必要なんてないですよ。話半分に聞き流しときゃいいんです。…それだって、立派な抵抗だと思いますよ?」

「……」

「ほい、っと!よしできた!痛みもそのうち引きますからね」

「……ありがとう」

 

 …アズサのように、俺が知らないところで傷つけられている子もいる。

 その子達のこともなんとかするために、小隊長という立場は都合がいい。

 

 あとは、食料問題か。

 調達しに行ったら一部をちょろまかすとして…それでも足りなかったら、地下庭園でも作ってみるか?

 

 とにかく、できることは増えた。

 あとはやるべきことをやるだけだ。

 

 本編の開始…先生が来るのであれば、あと3、4年。

 あとそれだけのうちに、俺は何ができるだろうか?

 

 …計画は、立った。この子達もほんの少し、巻き込んでしまうことになる。

 

 俺は………まあ、それは…考えるな。

 

 今日の一件で確信した。俺はベアトリーチェを殺す覚悟がある。殺意がある。そのことだけを考えろ。

 自分を勘定に入れるな。

 

 あとは待つだけ。先生が来る、その時を。

 もしも来なければ…その時は。賭けに出る。

 

「…スオウ?どうかしたか?」

「…いーえ、何も!」

 

 そうならないことを、願うばかりだな。




子供の頃のアズサの口調は少し違うような…?と思ったのですが、ちょっと判別しかねたのと分かりやすいのでこのままいきます。
というかアズサの口調難しい…!
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