ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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“彼”の物語の始まり(プロローグ)

 この三年間、真面目…まあ、体面上は真面目に、小隊長としてベアトリーチェから与えられた任務をこなしてきた。

 

 主な任務は情報収集、物資の確保、あとは後輩達の指導といったところか。

 

 指導に関しては、俺が関わることができるというのは僥倖だったな。

 かなり、後輩達の心の負担を減らすことができたと思う。

 

 共犯者も俺がいると知ればあまり積極的に手は出さないし。

 

 物資の確保。これは定期的に食料をちょろまかしてやった。

 正確には本来求められている以上に食料を集めたり、あとはアリウスの自治区外、もはや人も住んでいないような荒地に畑を作ってみたりしたのだ。

 

 野菜なども、鉢植えに既製品の土を入れ、ある程度育ってから植え替えれば作物の収穫も可能だった。

 肥料も幾分か確保すれば、あまり問題ない。

 

 初心者がここまで上手くできるのは、キヴォトスのトンデモ科学力で作り出された肥料だからかなぁ…?

 

 むしろ困ったのは、植生…というか、気候の違いや、俺の持つ知識との違い。

 なんでもミミズのいる畑はいい畑だというので、畑の中に放り投げてみれば…うん、思い出したくもない。

 土は乾燥するわ、ミミズ以外の虫が全滅するわ、ミミズを求めてきた生物が野菜食うわ、結局そのミミズもなんか死ぬわ、もう散々だった。

 

 肥料だけで十分…って、なんでキヴォトスに来て畑仕事してるんだろう、俺。

 

 …物資の確保、と取り繕ってはいるが、その実態は言うまでもなく犯罪…強盗や、窃盗になる。

 仕方がないことだが、被害者が出てしまう以上…仕方ないと認めるのも心苦しいものだ。まあこんな世界だし、保険は充実してると思うけどさ。

 だからこそ、被害者を減らす意味でも畑…持続的な、かつ自給的な食料源の確保は重要だったのだ。

 

 結果としては、まあ上々と言ったところ。

 ちょろまかした分と合わせれば、ある程度みんなの食卓事情を改善できる程度には食料も確保できるようになった。

 

 で、今はというと…。

 

「小隊長?」

「ん?あ、ごめんなさい、ちょっと考え事」

「しっかりしてくださいよ…今は任務中ですからね?」

 

 はい。第5、6分隊の妹達と共に、情報収集に来ています。

 今話しているのは第5分隊長の高東(たかとう)ヤコ。

 

 この子は元々、俺が知らない…アズサと同じタイプの、俺の目の届かないところにいた妹だった。

 

 初めて会った時は、3年前…それはもう、酷い有様だった。

 体には無数の傷、打撲跡。事故ではなく、人為的なものであるのは火を見るより明らかだった。

 その目に浮かぶのは諦観、疑心、不信、怨嗟…おそらく、原作のサオリ達が抱いていたものに近い。

 

『初めまして。今までよく頑張りましたね。もう大丈夫。今日から私があなたを守る、お姉ちゃんです』

『………そうですか。それは、よかったです』

 

 この子は、妹になることを拒絶しなかった。

 受け入れてくれたわけじゃない。最初から、抵抗する力を奪われてしまっていたんだ。

 

 だからこの子に重要だったのは、抵抗すること。

 

『さあっ、ヤコ!!!そのグローブでお姉ちゃんを、殴りたくはありませんか!!?どっちにするかはあなたが決めて下さい!!!』

『……気色が悪い』

 

 …やり方が変態じみていたのは、黙認するしかない。手段を選んでいる余裕なんてなかったのだ。

 

『ヤコ。何かしたいことはありますか?』

『…いいえ、小隊長。全ては無意味なものです、だから』

『違います』

『…え?』

『あなたの未来には、無限の可能性があります。無意味なことなんて一つもありません。一つ一つの行動が、今のあなたを形作る。未来のあなたへと繋がる。だから、無意味なことなんてないんです』

『……』

『だからね。何をしても無意味っていうのは、何もしない理由にはならないんですよ?で、したいことはありますか?』

『………わからない、です……』

『……うん、立派な答えです。少しずつ、考えましょうね』

 

 わからない。これが一番の問題だった。

 そうだろう。自分を押し殺して生きることを強制されて、急に何がしたいかだなんて。

 

 だから、何度も聞いた。

 来る日も来る日も、何度も何度も。

 

 ある日、ポツリと。

 

『……これ…』

『はい?』

『この、小隊長がくれた漫画…の、コレ…食べて、みたいです』

 

 それが、初めての願い事。

 この子が、心から望んでくれたもの。

 

 ありったけの畑の野菜をかき集めて料理を振る舞ったのは、記憶にそう遠くない。

 

 こんな子が、何人もいた。

 一人や二人じゃない。何人も、何人も。

 

 ……湧き上がってくるこれは、殺意だ。

 

 この子達が苦しめられたという事実が、より一層…ベアトリーチェへの怒りへと、怨みへと、俺の力へと変わる。

 

 まだ、全員がこの子のように抵抗できるようになったわけじゃないけど…。

 

「小隊長!!?」

「…あっ、ごめんなさい、また…あと、小隊長じゃなくてお姉ちゃん。いいですね?」

「わかりました、小隊長ちゃん」

「馬鹿にしてません!?」

 

 それが今では、こんな冗談も言えるほど明るくなって…冗談だよな?

 

「だって小隊長、ちんまいですし…」

「うぐっ!?」

 

 そう、俺の身長はヒヨリといい勝負をできない程度…というか、ヒヨリよりも小さい。

 これでは姉としての威厳が……威厳が…!

 

「確かに、小隊長はちっさいよねっ!」

 

 そう言って高いテンションで話しかけてきたのは、第6分隊長にして妹の伏貫(ふしぬき)ヨセ…おい待て。

 

「……第6分隊長…?あなたの持ち場はここではないですよね…?」

 

 怒り心頭といった様子でヨセに話しかけるヤコ。

 

「暇だったから!!!」

 

 …おい。第6分隊って、俺たちが動くまで待機だったよな…?

 

「ヨセ。よく聞いて下さい、それは暇ではなく待機時間と言うんです」

「テメェおいヨセッ!!!テメェの軽率な行動で何人が危険な目に遭うと思ってんだ!!!あ゛ァ!!?私はあのクソババァの計画がどうなろうとどうでもいいがな、もう少し第6分隊長としての自覚を」

「私よくわかんなーい!!!」

「………殺すッ!!!」

 

 ……本当、明るくなったなぁ…ヤコは。

 

 …絶対怒らせないようにしとこう。

 

「や、ヤコー?その辺で」

「あ?んだてめ、っと小隊長。すみません、そうですね」

「相変わらずヤコちゃん、小隊長には甘いんだー!!」

「普段から言動が軽薄で思慮が浅く他者の迷惑を顧みない第6分隊長と小隊長で差が出るのは当然でしょう」

「けい…?ごめんね、難しい言葉はわかんないや!」

「……ふぅぅぅうぅぅぅ…!!」

「や、ヤコ?落ち着いて、深呼吸、深呼吸…」

 

 …ヨセも相変わらずだなぁ。

 

 この子もまた、俺が小隊長になってから分隊経由で妹になったのだが…いかんせん頭が弱い。

 

 なぜ第6分隊長になれたのかといえば、馬鹿みたいに強いから。

 おそらく、サオリ相手にもいい勝負ができるだろう。

 

 ……最初の頃はほとんど心が壊れかかっているのかと思ったが、どうにもこれが素面らしい。

 強かな子だ。俺のフォローなんてほとんど要らなかった。

 

「え、えーっと、ヨセ?今回の任務の内容は覚えていますか…?」

「うん!!連邦生徒会の偵察だよね!!最近、ちょっとキヴォトスの様子が変だって!」

「正解。よく覚えていましたね、えらいえらい」

「えへへー」

「…!」

 

 ……最近、キヴォトスは大混乱に陥っている。

 発電が停止したり、治安が著しく悪くなったり。

 

 そう、まるでこれは…統制者が、いなくなったみたいに。

 

 ともあれ。その大混乱の影響は、アリウス分校も例外ではない。

 そのためベアトリーチェも静観というわけにはいかず、俺たちが駆り出されたというわけだ。

 

「そういうわけで、人に見つからないことが大切です。私たちの正体がバレたら怒られちゃうでしょ?」

「そうだね!」

「だから、勝手な行動はやめましょうね?必ずお姉ちゃんに一言相談すること!いいですか?」

「はーい!」

 

 よしよし。いい子だ。

 ちゃんと言って聞かせれば覚えてくれるからな。

 

「じゃあ、元の持ち場に戻って」

「小隊長」

「はい?」

「私は命令を把握した上で、それに沿った行動を取っています」

「…え?えっと、はい、そうですね…?」

「……この子よりも、きちんと行動しているわけです」

「…あーっ、なるほど…?」

 

 これはつまり…全くもう素直じゃないなあ…素直に妹だと認めればいいのに。

 

 …でもまあ、こうして誰かに甘えることなんてできなかっただろうしな。

 これで少しでも、家族のぬくもりを感じてもらえるなら…まあ、いいか。

 

「えらいえらい」

「へへー…」

「ヤコちゃん、なんだかんだ言ってもう妹ポジション気に入ってるでしょ」

「そんなことないですよ。小隊長は小隊長ですので」

「素直じゃないですねー…というかヨセは早く持ち場に戻って下さい」

「はーい!」

 

 そんなこんなでぐだぐだしながらも、任務を開始…しようとして。

 

『スオウさん!!』

 

 突然、通信が入る。

 

「マイ?どうかしましたか?」

『えっと、急に近くで戦闘が始まって…分隊長もどっか行っちゃって、きゃあっ!?』

 

「…第6分隊長。あなた…」

「え?私のせい?」

「…後で小隊長から説教が待っていると思いなさい」

「ええ!?アレめっちゃ怖いから嫌なんだけど!!」

 

 戦闘…これ、は。

 

「……主な、敵戦力は?」

『えっと、七囚人の一人、狐坂ワカモ!!!あとヘルメット団!!他は知らない奴らばっかり!』

 

「───わかりました。すぐ行きます」

 

『え…?』

「ヤコ、ヨセ。ここは頼みましたよ」

「はい?」

 

 返事を待たずに思いっきり地面を蹴り上げ、加速する。

 

「っ、風圧が、わああっ!?」

「や、ヤコちゃーん!!!」

 

 走る、走る、走る、走る。

 

 何も考えるな。

 

 今俺の息が荒くなっているのは、走っているからではない。

 

 急げ。

 

 急げ、急げ急げ急げ!!!

 

「急に通信切られちゃった…って、え?何アレ…スオウさん!?」

 

「ふぅ…お待たせ、しました。マイ。どこですか?ワカモは」

「早!?何キロメートルあったと思ってるの!?…とりあえず落ち着いて!あっちだよ!」

「よし。全員、待機。ここは私が持ちます」

「わ、わかったけど…」

 

 戦場に隠れながら突入、周囲を観察する。

 

 戦車。クルセイダーI型。

 

 黒いセーラー服を着た、長身の生徒。羽川ハスミ。

 

 ハーフツインを巻いた、青髪の生徒。早瀬ユウカ。

 

 風紀委員の腕章を持つ、眼鏡の生徒。火宮チナツ。

 

 長い白髪をサイドテールにした生徒。守月スズミ。

 

 みんなみんな、俺の知っている…『ブルーアーカイブ』の生徒だ。

 

 狐坂ワカモが、ひっそりと建物に入ろうとしている。おそらくは、シャーレオフィス。

 

「……!!!みつ、けた…!!」

 

 そしてそれを追うようにオフィス内に入る、『大人』の男性。

 

「せん、せい…!!」

 

 シャーレの、先生。

 先生だ。

 

 ずっとずっと、探していた。

 

 この世界には先生は存在しないのではないかと、来ないのではないかと、不安で不安で仕方がなかった。

 

 ずっと怖かった。ずっと苦しかった。

 

 その、先生が今…こうして、俺の目の前にいる。

 

 先生が、先生なら、きっと…。

 

「っ、違うだろ…!!」

 

 そうじゃねぇだろ。

 

 俺がなんとかするんだろうが。

 

 俺が、みんなを助けるんだろ。そうじゃなきゃいけないんだ。

 先生は、その計画の歯車の一つ…補助にすぎない。

 

 だって俺は、『私』は、まだ大丈夫だろ?

 

「…そうだ…まだ、だよな…」

 

 今ここで、先生と接触するのはリスクが高すぎる。

 最低限ここにいる第5分隊、第6分隊は助けられる。そのあとは?

 他のみんなはどうなる。

 

 それと、体裁を整えるために、情報収集はしなくちゃな。

 もう、何が起こっているのかはわかった。

 

 連邦生徒会長が行方不明になり、キヴォトスの全システムの制御機構…サンクトゥムタワーが使用不可になっていた。

 それを解決すべく、先生がオーパーツであるシッテムの箱を使用して、全権を連邦生徒会に戻す、というのが事の顛末。

 キヴォトスの混乱も、いずれ収束へと向かう。

 

 だがそれは、原作の知識。

 

 ベアトリーチェにそのことをバレないためにも、ここでみんなと情報を集めてから帰る必要がある。

 

「………またな。先生」

 

 口惜しい気持ちをグッと堪え、その場を後にした。

 

 

 

 

 桐花スオウが去り、戦闘が終わって。

 

 先生の活躍により、キヴォトスの大混乱も収束を迎えつつある。

 

「“みんなお疲れ様”」

 

 その後の流れは、ほとんどが桐花スオウの知る通りであった。

 

 狐坂ワカモは先生に一目惚れをし、その場を去った。

 その場にいた暴徒達は、先生の指揮下に置かれた五人(・・)の活躍によって、完全に制圧された。

 

「これでお別れですが、近いうちにぜひ、トリニティ総合学園に立ち寄って下さい。先生」

 

 ハスミに続くように、スズミが会釈をする。

 

「私も、風紀委員長に今日のことを報告しに戻ります。ゲヘナ学園にいらっしゃった時は、ぜひ訪ねて下さい」

「ミレニアムサイエンススクールに来てくだされば、またお会いできるかも?先生、ではまた!」

 

 まるでバーゲンセールの取り合いのように、各々が先生を自らの学校へと誘っている。

 そこに渦巻くのは陰謀、策略、そして純粋な慕情の念。

 

 

───そこまでは、『彼女』の識る物語と同じ。

 

 

「そうよ先生!!ミレニアムサイエンススクールに来なさい!ミレニアムはすっごいんだから!!先生のためならなんでも作ってあげちゃうわ!!ハッキングはいかが?」

「…はぁ…で、あなたはなんでここにいるのかしら?」

「当然じゃない!生徒生活支援部、部長として!!!みんなが困っているなら、連邦生徒会にカチコミだって辞さないわよっ!」

「絶対にやめてちょうだい…あなたには助けられてもいるけど、毎度毎度自由すぎなのよ…」

「ええ、自由!!そう、この私は自由なのよっ!」

「……先生、この子のことは気にしないでください」

「“はは…”」

 

 呆れ返ったように、苦笑いを返す先生。

 

「さ、帰るわよ」

「え、ちょっ、ちょっと待って!!私まだ先生に言っておきたいことが、わーっ!?耳を引っ張らないで!?」

「これ以上ミレニアムの顔に泥を塗るつもり!!?いい、あなたの行動一つがどれだけ…」

 

 こうして、先生の『プロローグ』は終わりを迎える。

 

 彼女の記憶には存在しない生徒が一人、その中に混じっていたことを…桐花スオウはまだ知る由もなかった。




(ガールズラブでは)ないです。
自分で書いててアレ…?ってなったけど、親愛です。
大丈夫だよね…?

そんでもちまして、一つアンケートを取りたいと思います。
掲示板回についてです。

もしスオウちゃんがいるブルーアーカイブが本編だったら…?みたいな感じの掲示板回を考えたのですが、結局うまくできなそうだったのと、好みが分かれそうだったのでボツにしていました。
ただ感想で以前要望があったので、ひょっとして需要ある…?と、思いまして。

情けない話ですが私では決め切ることができなかったため、アンケートをとってみたいと思います。
私としては書きたいと書きたくないという感情、面白くなりそう、ならなそうという感情、それぞれが混在している感じです。
多分、書くにしても別作品として書いたヤツを後書きでURLとして貼り付ける感じになりますかね…。

期間は一週間、8/16の23:59までになります。ご協力いただければ幸いです。

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