ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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取捨選択

「───さて、と。それじゃ、そろそろ本題に入ろっか」

「ねぇ、お姉ちゃん…この人、すごくお花畑というか…」

「失礼ですよ、シオ。まあ否定はしませんが」

「スオウも十分失礼だろう…!」

「あはは!いいのいいの、よく言われる!セイアちゃんったら、『君はもう少し思慮深さというものを身につけた方がいい、少しは世界が変わって見えるはずだよ』とか言ってくるし!酷いよねー」

 

 ……原作で起こったことを鑑みると、こういった発言がもう出るというのは…少し、危機感を覚えないとな。

 

「それでね、本題なんだけど…結構簡単なんだ」

 

 …この先の発言を、俺はもう知っている。

 

「──私は、あなた達アリウスと和解したい」

 

「…和解?」

「うん。ちょっと過激な主張かもしれないけど、でも……あなた達は多分。まだ私たちを憎んでいるよね?」

 

 だからこの先の言葉も、きっと俺の知っているものと同じだったら…きっと、もう…。

 

「…いや全然そんなことないが」

 

 っ…!!

 

「え?」

「ん?」

 

 サオリ……!!

 

「さ、サオリぃ……!!」

「な、なんだいきなり!?どうして泣いて…やめろ離れろひっつくな…!!」

「よかった…!!本当によかった…!」

「頭を撫でるな鬱陶しい!!!このっ、引き離せな…!!ち、力が強い…!?」

「お、お姉ちゃん…!?私も…!!」

 

 よかった…俺のやってきたことは……無駄じゃなかったんだ。

 みんなは……少なくとも、サオリは…トリニティへの恨みを、憎しみを…植え付けられずに、済んだんだ。

 

「え、えーっと、ちょっと待ってね?どういうこと?」

「どうもこうも、見た通りですよ」

「……ごめんね、私にはこの光景から何も読み取れないや。三人が引っ付いてるようにしか見えないもん」

 

 …ふむ、それもそうか。

 

「あー、要は私たちはトリニティを憎んでいないってことです。全員が全員、そうだとは言いませんが…少なくとも、私達は」

「じゃ、じゃあなんで私たちや…連邦生徒会の助けも断ってるの?こんな古びた建物ばっかりの自治区で…」

「それはね…」

 

 …どうする?言うべきか?

 ベアトリーチェにより、支配されているからだと。

 ここからミカに協力を取り付けることができれば……エデン条約調印式までは、一年ある。

 その間に先生とも連絡を取ることができれば、戦力を整え、ベアトリーチェを倒すこともできるかもしれない。

 

 だがそれには、三つのリスクがある。

 

 一つ。桐藤ナギサと、百合園セイア。

 彼女達は、聖園ミカほど甘くない。

 俺たちの話を信じるか?原作ですら、疑心に駆られ補習授業部なんてものを作り出していたのに。

 …もっとも、セイアが殺害されたと思い込んでいることが原因でもあるだろうが…それでも彼女達にこの件を伝えるというのは、逆効果になる可能性がある。

 具体的には全員拘束されるハメになったり、そもそもこの件について関わらないよう動いたり。

 そもそもこうしてアリウスの人間と和解することすら、反対していたらしいからな。

 

 二つ。ベアトリーチェを殺し切れる保証がない。

 これは原作でもそうだったものの、少なくともアリウスを手放さなくてはいけないほどのダメージを与えていた。

 そこまでのダメージを与える前に、逃げに徹されてしまったら?皆も連れて行かれたら?

 俺たちが反撃するチャンスなんて、もう残っていない。

 …何よりベアトリーチェは、ヘイローを破壊する爆弾を未だに製造しているはずだ。

 万が一にも、生徒を巻き込んで死なせることがあってはいけない。やるなら、俺一人でやる。

 

 三つ。聖園ミカそのもの。

 聖園ミカはまあ、その…結構お花畑なところがあるというか。

 なまじ自分自身が肉体的にも社会的にも強い分、何が起こってもなんとかできてしまう。

 それからくる、思慮の浅さ。そのせいで原作では、図らずとも百合園セイアを殺しかけていた。

 そうして痛い目を見たから、当人も原作でも反省はしているのだろうが…。

 

「…?どうしたの?そんなじっと見て」

「いえ、何も」

 

 …俺は原作のその後を知らない。エデン条約編がその後にどう関わってくるのかを、知らない。ミカに関しても、ゲームに実装される前に俺は死んでしまったから。

 もし。もし万が一、聖園ミカの思慮の浅さが矯正されることなく…最悪の場面で、それが発揮されてしまったら?

 取り返しがつかない。

 だからこそ、ミカには多少痛い目を見てもらう必要がある。

 もちろん魔女呼ばわりやいじめなんてあってはいけないが。人殺しなんて、もってのほかだ。

 

「まあ、アリウスも一枚岩じゃないってことです。トップが『そういうやつ』ってことですよ。で、私たちはそいつに支配されてる…それだけです」

「ああ…なるほど」

 

 だから今は、これでいい。これが正しい。

 

 ……きっと間違っていない、はずだ。

 

 あながち間違ったことを言っているわけでもないしね。

 ベアトリーチェはトリニティへの憎しみを植え付ける方向に動いているわけだし、それすらも手段の一つに過ぎないことは、本人を除いて俺以外ではこの世界で誰一人知らないから。

 

「そっかそっか…じゃあやっぱり、今日持ってきた提案は無駄じゃなかったかもね」

「あ、やっと本題……結局、なんで来たの……?」

「うん。まずね、お互いに誤解も憎悪もありすぎると思うんだ」

「お互いに…?トリニティに、我々を憎んでいる人間がいるのか?」

「うん。まあ、トリニティでアリウスのことを知っている人はあんまりいないんだけど…強盗の被害にあった子とかもいるからさ」

「……そう、か…」

「……」

 

 …あの行動も、溝を深める一因になっていたのか。

 

「でも、どっちかっていうと誤解してる子の方が多いかな?私だって、さっきまでアリウスの子達は皆トリニティを憎んでるのかと思ってたし」

「ま、実情はそんなことないんですけどねー…その、さっき言ってた、ナギさんとセイアさん?」

「あ、ごめん。ナギちゃんっていうのはあだ名。正式にはナギサちゃんだね」

「そうなんですね、すみません…二人は、アリウスはトリニティを憎んでないと言っても信じますかね?」

「どうだろうね…多分、信じないんじゃないかな。そもそも、アリウスと和解するのだって大反対だったし…私もこっそりここに来てるから、バレたらすごく怒られると思う」

「お前、本当にティーパーティの一員なんだろうな…?奔放過ぎやしないか?」

「こっそり動けば意外となんとかなるよ?」

「そういうことを言っているんじゃないんだが…」

「はははっ…」

 

 サオリとシオがドン引きしてる…教育の賜物だな。トップが自由に動くことの危険性をよく理解している。

 …ぶっちゃけ、もう随分前に教えられることは無くなっていたけど。

 

「とにかくね。私は、歩み寄ることさえできれば…いつか、みんな仲良くできると思ってる。だから少しずつ努力しようって、そう思ってここに来たの」

「……」

 

 この子の理想は、素晴らしいものだと思う。

 理想は、どこまで行っても理想でしかない。だけどそれは…俺はもう、諦めてしまったものだから。

 理想よりも先に、現実を考えなくてはいけない。失敗なんて、できないから。

 ……だから。

 

「……羨ましいよ…」

「え?何か言った?」

「あ、なんでもないですよ」

「……だが、こちらもそう簡単に信用するわけにはいかない」

 

 …『信用できない』じゃなくて、『信用するわけにはいかない』、か。

 

「そ、そうよ…万が一それで何かあったら…皆大変なことになっちゃうんだから…!」

「うんうん、そうだよね…その反応もわかるよ。だから、考えてみたの。あなた達アリウスの生徒一人を、トリニティに転校させるのはどうかな?もちろん内緒で」

「…!?そんなことが、できるのか?」

「私が後見人になればなんとかなるよ。こうみえても、私はティーパーティだからね」

「……本当に信じがたいな…」

「ええ、まったくよ…」

「ひどくないかな!?」

 

 アイスブレイクのおかげもあってか、サオリもシオもかなり打ち解けてるな。

 

「…そ、それでね!アリウス生が何の問題もなく、私たちの学園で仲良く過ごしながら幸せになれるってことを証明するの」

「……それ、は…」

「言わばその子が『和解の象徴』になってくれるんじゃないかなって。どうかな?私たちだって、こうして楽しく話せたんだし…できると思うんだけど」

「…少し、無理があると思うが」

「そ、そうかな…?でも、そんな子がいたら…ナギちゃんもセイアちゃんも、あなた達みたいなトリニティを憎んでない子もいるって絶対信じるよ!」

「ど、どうなの…?お姉ちゃん…?」

「…シオ。あなたはどう思いますか?」

「え、えぇ…?わ、私はお姉ちゃんが決めた通りに…」

 

 …これは良くない傾向だな。

 自分で決める力を損なってしまっている。

 

「そうじゃなくて、あなたはどっちがいいと思うんですか?…これは、ちゃんと自分でも考えなきゃいけないことですよ」

「…う…うぅん…わた、しは……信じてみても、いいと思う…」

 

 こうやって、自分で生きていく力も養わせないとな。

 

 ………いつか、俺がいなくなっても大丈夫なように。

 

「…うん。いい答えです。サオリ、あなたは?」

「…私は、この場では判断しかねる。みんなの意見も聞いてみたい。私個人の感情としてなら、悪くない提案だと思う」

「ええ、私も概ね同意です。というか、私は全面的に信じてもいいと思いますよ。彼女、嘘つけそうな性格してないですし」

「やっぱりあなたが一番失礼だよね…?でも、じゃあ」

「たーだーし。それは私たちの意見です。決断や行動には、責任が伴います。あなたもわかっているでしょう?」

「……うん。そうだね」

 

 ……本当に、よく理解しておいてほしいけどなあ…なんとかならないもんだろうか。

 今後ともミカとは交流することになるだろうし…ひょっとすると、そのタイミングでなんとかできないかなあ…?

 

「それに、上の判断も必要です。次の連絡まで待っていただいてもよろしいですか?…正直、上は…許可を出すと思えません。あまり期待しないでください」

 

 十中八九、これは正しい。

 ベアトリーチェが許可を出す理由がない。スパイとしてならまだしも、和解の象徴?鼻で笑われて終わりだろう。

 

「……そっか。うん、わかったよ。最初は本当にそんな風になれる子いるのかなー、って思ってたけど…あなた達を見るに、いるんだろうね」

「ええ、いますよ。たくさんね」

「……」

 

 …サオリとしては、やっぱりアズサだろうか?

 正直、俺としてもそっちの方がやりやすくはある。その周りの条件は原作と同じになるわけだしな。

 勉強についても、俺も高校の範囲は教えられてないし…何より、キヴォトスの教育が俺のいた世界と同じだとも思わない。多分、補習授業部に入ることになる、か…。

 

「…もし、今回はダメだったとしても…いつか。またそんな機会があることを、願ってるね」

「ええ。私も、同じ気持ちです」

 

 原作の、全てを変えればいいわけではない。

 取捨選択をしろ。その先の、さらに未来まで見据えろ。

 

 よく考えて、考えて、考えろ。

 

「それでは、今日はここまでで」

「うん。じゃあね。……きっと、いい回答が得られること…期待してるね」

「……はい」

 

 …だから。この件は、ベアトリーチェにそのまま伝える。

 アイツを殺すのに、みんなを助けるのに最適なのは、エデン条約の調印式。

 

 そこへ向かって行かなくてはならない。

 

「さて!じゃあ、帰りましょうか?」

「う、うん……錠前サオリ…?聞いているのかしら……?」

「……ん?あ、ああ、そうだな…すまない、少し考え事をしていた」

「ちょっとアンタ…誰の許可があってお姉ちゃんの話をぎゃふんっ!?」

「シーオー?そろそろおいたがすぎますよー?」

「っ…!?ご、ごめんなさい…!!」

「はぁ…わかればいいです。サオリも、ちゃんと話は聞くこと。いいですね?」

「……ああ」

「ベアトリーチェへの報告は、私が行きます。二人は先に帰って休んでてください」

「はーい…」

 

 …さて。行くか。

 

 

 

 

「マダム。ただいま戻りました」

「そうですか。して、どうでしたか?トリニティとの接触は…」

 

 …相変わらず、偉そうにふんぞりかえりやがって。今ここで殺してやろうか。

 

「端的に言えば、和解を望むとのことでした」

「…ふむ」

「具体的には、こちらの生徒を一人よこせと。なんでも、和解の象徴にするのだとか」

「フッ…和解?呆れるほどに純真無垢な発想ですね。罠でなければおかしいくらいです」

 

 ……ま、そうなるわな。最初から期待なんてしてない。

 この腐れババアは、俺たちが憎しみを抱いていないと困るんだから。

 

「私もそう思います。しかし、彼女は……阿呆です。人を騙すことができるとは思えません」

「……つまり、何が言いたいのです?」

 

 瞬時に、ベアトリーチェの視線が鋭くなる。

 今ここで、見定めるつもりか?

 

「利用できます」

「……何に?」

「トリニティへの報復に、です。恐らく、彼女は蛇ではない。無論、そう結論づけるのは早計ですが…様子見をする価値はあるかと」

「では、どうすればいいのか分かりますね?」

「…この提案については、一度断ります。しかしそれでは関係が途絶してしまう。うまく言いくるめ、彼女から情報を得ることに注力したいと考えています」

「…ふむ。いいでしょう」

 

 満足げに頷くベアトリーチェ。

 

「忘れてはいませんね?あなた達が寒さに震え、飢え続ける理由を?」

 

───テメェのせいだろうが。

 

 そう口から出かかるのをグッと抑える。

 

「もちろんです、マダム」

 

 湧き上がる殺意も、トリニティへ向けるものに誤認させればいい。

 

 幸いその手の演技は、この十六年弱で嫌というほど上達してくれた。

 

「この憎しみが消えることなんてない。この殺意が消えることなんてない」

 

───その通りだ。絶対に、消させない。消してはいけない。

 

「何をしても、必ず」

 

───どんな手段を使っても、必ず。

 

「出来うる限り苦しませ、トリニティを皆殺しにして見せます」

 

───最大限の屈辱と敗北で、テメェのことをぶち殺してやる。




補修授業部
・トリニティの部活の一つ。
・緊急的に発足した。
・成績不良者は強制入部。
・その真の目的はは『トリニティの裏切り者』を容疑者ごと退学へ追いやること。
・シャーレの権限を利用しているが、それ含め全て桐藤ナギサの計略によるものである。

アンケートの方、引き続きよろしくお願いします。

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