ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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対話、再び

「久しぶりですね、ミカさん」

「そうだね。とは言っても、一週間と少しくらいかな?昨日はいきなりごめんね」

 

 一週間ぶりの、聖園ミカとの接触。

 元々昨日に予定されていたものではあるが、ミカの方から一日遅らせて欲しいと連絡があった。

 

「何かあったんですか?」

「昨日はちょっと危なかったんだよね…危うく、セイアちゃんにここに来てるのがバレるところだったよ」

「……そう、なんですか」

「セイアちゃんってば、最近ずっと私に小言を言ってきてさ…酷くない?」

 

 ……百合園セイアは、ミカがここに来ていることを知っているのか?

 

 ずっと疑問に思っていた。

 原作で百合園セイアは、予知能力者だった。

 ただの予知能力じゃない。夢の中で未来を見て、その上未来の人物と会話し、干渉することも可能とする、夢を司る未来予知。

 

 そのセイアが、ミカの行動に気付けないものなのか?

 百合園セイアはアリウスに関しては何も知らなかったのか?

 

 白洲アズサ…アリウスによって、自らが襲撃、暗殺されようとしていることは知っていた。

 しかしアリウスの実態、人殺しの訓練を受けていること。

 そのことについては、さも襲撃の直前に知ったかのような反応を見せていた。

 重ねて、ゲマトリアについても百合園セイアは手を焼いていたはずだ。

 

 つまり……原作では万能に見えた百合園セイアの予知能力には、限界がある。

 

 その限界はわからない。おそらく積極的に予知夢を見ようとすることは可能でも、能動的に見ること、見ないことは不可能であるはずだ。とすれば、辻褄は合う。

 

 であれば、アリウスによって自身が襲撃されることは知っていても、聖園ミカがここに来ているのは知らない、はずだ。

 いや、もしかしたらアリウスによって襲撃されることもまだ知らないのか?

 

 ……つまり、俺たちのことも知られていない可能性が高いわけで。

 やっぱり、百合園セイアはアリウスとの和解に積極的じゃない、か…。

 

 まあいい。ということは、ミカの言うところの小言とやらは…。

 

「多分ミカさんが悪いです」

「なんで!?私まだ何も話してないよね!?」

「や、なんとなく」

 

 多分だけどミカが悪い。セイアも態度と口が悪かったかもしれないけど、多分ミカが悪い。

 

「はあ…そういえば、ナギちゃんにも同じこと言われたね…」

「はははっ…まあ、そういうこともありますよ」

「張本人が言うことじゃないよね?」

 

 うん、ミカともかなり打ち解けてきたかな。

 元々明るい性格というか、話しやすい性格ではあるしね。

 陰湿なところもあるけど。

 

「……それで、どうだった?」

 

 ミカの質問に、首を横に振るう。

 

「……そっ、か」

「…ごめんなさい。やっぱり、上の連中は…」

「ううん。スオウちゃんが謝ることじゃないよ、うん…しょうがないね」

 

 …あー、クソ。

 違うんだよ。本当はやろうと思えば、ベアトリーチェは説得できたんだ。

 

 それをしなかったのは、俺の計画のためなんだ。

 

 『エデン条約編』を始めるためには、これから起こることが必要なんだ。

 

 ミカの善意を……踏み躙る、ことになる。

 

「…でも」

「…?」

 

 でももう、止まっちゃいけないんだよ。やらなきゃいけない。

 言い訳も、言い逃れもするつもりはない。

 

 俺がそうしたいから、するんだ。

 

「私たちとあなたの間で親交を続けることは可能、です。許可されたので。だから、続けていればいつか…」

「…!うん、そうだね」

 

 …っ…ああ。

 

 本当に、反吐が出る。いや、もう今朝出してきたけど。

 

「そういえば、今日はあの二人はいないの?」

「ん?あ、はい。サオリとシオは、今日は訓練場で指導をしています」

 

 サオリはまあ大丈夫だとして、シオが心配だなあ…あの子は、結構加減を知らないところがあるし。

 

「そっか。じゃあ、今日はスオウちゃん一人だね。他の子にも会ってみたかったな…」

「はははっ…いつかまた、紹介しますよ。個性派揃いですから」

「確かにこの前のシオちゃん、だっけ?あの子は、すごく印象に残る性格だったね」

「みんな、負けず劣らずですよ?」

「あ、あの子と比べても…?」

「……はい」

「そっかぁ…」

 

 いや本当に、原作では影も形もなかったアリウスのみんな…本当は、こんなにも変わり者な子たちも、普通な子たちも多かったんだなって…ちょっと、驚いてる。

 

「…でも、スオウちゃんは人のこと言えないよね?」

「ぐっ!?」

「みんなの事無理やり妹にしたって聞いたよ?」

「え?無理やりじゃないですよ?ちゃんと妹にすると宣言してから妹にしました」

 

 …我ながら無理がある理論だ。

 

 しょうがないだろ、あの頃はそのくらいの強引さが必要だったんだから。

 

「……そういうところだと思うよ?というか、あなたのそういうところが似ちゃったんだと思うけど」

「はははっ…ナイスジョーク」

「冗談じゃないんだけどな…」

 

 やめろよ、自分でも薄々思ってるんだから。

 『私』の性格も、かなり癖がある方だからなあ…。

 

 …まあ、そろそろ本題に入るか。

 

「そういえば」

 

 この件についても、いずれは触れなきゃいけないことだしな。

 

「ミカさんは…なんで、ゲヘナが嫌いなんですか?」

「……?なんでって…なんで?」

「……」

 

 …まあ、そうくるよな。

 

「なんで、ゲヘナの人間が嫌いなんですか?」

「うーん…なんで…難しいね…とりあえず、ツノとか尻尾がついてるよね?アレ、気持ち悪くない?」

「私は可愛いと思いますけど…」

「……それにさ、荒っぽい奴らが多いし」

「トリニティは陰湿なヤツが多いですけどね」

「い、陰湿…?」

 

 いや、ちょっと主語が大きいけどね。

 

「そういうんじゃなくて。もっとこう、具体的な理由はないんですか?」

「…ないよ。嫌いなものは嫌いなの。理由なんている?」

 

 …この質問が出るってことは。

 やっぱり百合園セイアが言う通り、本音じゃ理由が必要だと思ってるんだろうな。

 

 …でもさ。

 

「…いいんじゃないんですか、別に」

「…へ?」

「いいと思いますよ。具体的な理由なんかなくたって」

「ほ、ホントに?…てっきりセイアちゃんみたいに小言言ってくるのかと思ったよ…ひょっとして、スオウちゃんもゲヘナ嫌い?」

「いえ、私はむしろ好きです」

 

 ゲヘナ…基本自由主義というか、奔放なキャラクターが多い中でそれぞれに個性があって…うん、魅力的な生徒が多いと思った記憶がある。

 

「……そう」

「あ、トリニティのことも好きですよ?でもまあ、なんとなく相容れないヤツっているじゃないですか。あ、コイツとは合わなそうだなー、みたいな。要するにそれと同じでしょ?」

「…え、えー…自分で言うのもなんだけど、結構過激な主張だと思うよ?理由なく嫌いなんて…」

 

 だろうな。自分でもそう思ってなかったら、こんな事言わないだろう。

 

 そしてゲヘナが嫌いなことに、ゲヘナを一掃するのに理由が欲しくて…アリウスが戦力になれば、ゲヘナを倒せることに気づいて。

 

 多分、どっちが先とかないんだ。

 

 たまたま理由なくゲヘナが嫌いなくらい、悪意があった。

 

 たまたま理由なくアリウスと和解したいくらい、善意があった。

 

 そして、たまたまその二つが結びついて。

 アリウスと和解することが、ゲヘナを一掃する理由になった。

 ゲヘナを一掃することが、アリウスと和解する理由になった。

 

 ミカの善意と悪意、両方が…たまたま、絡み合って…百合園セイアに変わってホストになれる位置にいた。

 善意も、悪意も、実現できる地位に居てしまった。

 できるってそれだけの理由で、やらずにはいられないくらい考えが浅くて…甘かった。

 

 だから、何が言いたいかってさ。

 

 ミカは別に、普通なんだよ。

 

 時代と、環境。その積み重ねと…ベアトリーチェの悪意に利用されただけで。

 

「別に、普通のことですよ。大体そういうヤツって実際合わないですし」

「……スオウちゃんも、そういうヤツがいたの?」

「……いましたし、いますよ」

 

 …誰だったけな。顔も名前も覚えてない、誰かさん。

 アイツのことは……嫌い、だった。はずだ。

 

 そうだ、アイツだよ。アイツ、パスタを啜ってたアイツ。

 うん、大丈夫。

 ちゃんと、覚えてる。大丈夫、俺は俺だから。

 

「…そっかぁ……スオウちゃん?」

「っ、はい?スオウちゃんです」

「どうしたの、急に。遠く見ちゃって」

「失礼、少し昔のことを」

 

 十七年以上前だし、この世界の出来事じゃないけどね。

 

「スオウちゃんにも、そういう子がいるんだね」

「そうですね。反吐が出るほど嫌いです」

 

 …というか、今絶対に相容れねぇのはベアトリーチェ、ただ一人だけどな。

 

「…どうしてるの?」

「はい?」

「スオウちゃんは、そういうヤツに対して…どうしてるの?」

 

 ……どうしてる、かぁ…別に、どうしてるも何も…。

 

「とりあえず一旦話してみて、一ヶ月くらい様子見ます。合わなかったら縁切ります」

「えー…嫌いなのに話すんだ?」

「ええ。だって…話してみないと、わからないじゃないですか」

「…どういうこと?」

「実際話してみたら、意外と合う子もいるんですよ」

「え、でもさっき…」

「はい、大半は合わないです。でも…最初から対話する努力もやめちゃえば、そこでおしまいでしょ?もしかしたら仲良くなれるかもしれないのに」

「…そうかな」

 

 …こうしてミカと話すことは…ミカを変える、チャンスになるかもしれない。

 

 ミカが、セイアの襲撃を指示しなければ…きっとミカは、まだ止まってくれるはずだ。

 傷つかなくて済む。

 

 だから、回答を間違えてはいけない。

 俺の行動一つ一つが、未来を変え得るものなんだから。

 

「私たちの教えにね?ばにたすっていうのがあるんですよ」

「ばに…?」

「長いので全文は忘れましたけど、ようは全部虚しいって考えです」

「教えなのに、そんなうろ覚えなの…?」

「だって私この教え嫌いですし」

 

 本当は覚えてるけどね。

 ベアトリーチェ相手に『私』であるためには必要だから。

 

「だって、虚しいからって最初から努力をやめてちゃ、何もできなくなっちゃうでしょ?だから全てが虚しいって、それは言い訳にはならない。何もしない理由にならない」

「……素敵な、考えだね」

「はははっ…ありがとうございます。人との対話も、同じだと思ってるんです。最初から諦めてたら、きっと仲良くなれるはずの人も…切り捨てちゃうじゃないですか。だから、一旦仲良くなろうとしてみるんです」

「…すごいね、スオウちゃんは……私は、そんなに綺麗にはなれないや」

 

 …衝動的で、欲張りで……時に、自傷的。

 セイアの言う通りだ。

 

 マトモな倫理を持っていて、頭が悪いわけでもない。

 

 でも、だからってずっと自分の行動を抑えられるわけでもない。

 

 誰しもが持っている性質を否定しまうほどに周りに恵まれてて、だから余計自分を嫌いになってしまう

 

 だから、自分の行動を後悔して、嫌って、閉じこもろうとする。

 

 でもさ。衝動的に行動してしまうなんて、子供なら普通のことじゃないか。

 思うに聖園ミカは……自分に甘くて、厳しいんだ。

 

 普通に良い子で、普通に悪い子。きっとそれが、聖園ミカだ。

 

 だから、この子に必要なのは…肯定と、否定。

 

「そんなことないですよ。ミカさんだって、私たちと対話しようとしてくれたじゃないですか」

「それは、もしかしたら仲良くなれるかもって思ってから…」

「同じですよ。私も、もしかしたら仲良くなれるかもしれないから話してみるだけ。大丈夫。あなたにも、そういう綺麗なところがありますよ」

「……」

 

 でもゲヘナに対してそれをしないってことは、ミカは…。

 

「多分、ミカさんは…ゲヘナと、仲良くしたくもないんじゃないですか?」

「……そう、だね」

「それは…まあ、良い事とは言い難いですが。自分だけに止まっているうちはいいです。でも権力があって、恩恵を受けている以上…相応に、責任が伴う事を覚えておかなきゃですね」

「……」

 

 …だから。

 

「だから、よく考えて。考えて。考えてください。そうでなければ、いつか…大変なことになりますから」

「…あははっ…セイアちゃんと、同じことを言うんだね」

「…ムカつきましたか?」

「……なんでだろ、セイアちゃんに言われると腹が立つけど…今は、そんなにでもないかな」

 

 そんなにってことは、若干腹が立ったのか。

 

 …セイアに関しては…まあ、セイアも結構言葉足らずというか…言い方が悪いところもあるからなあ…。

 

「…ごめんなさい、説教臭くなって」

「ううん。よく考えろ、か…うん、覚えておくね」

「私も偉そうなこと言えないですけどね…はははっ」

 

 本当に、俺もそれができるなら…さっさと、みんなを助けてみろって話だ。

 

「…今後とも親交は保たれる…ってことで、いいんだよね」

「…はい。よろしくお願いしますね?」

「うん、よろしくね!…それじゃあ、また一週間後」

 

 …変えられること。変えられないこと。

 

 一体俺は、いくつの出来事を変えられるんだろうか。

 

 わからないけど、ただ一つ確かなのは…百合園セイアが殺されたと、桐藤ナギサがそう認識すること。

 それは、変えられないことだ。

 

 ナギサが不信感を抱き、トリニティの裏切り者を追放しようとする。

 そのために、シャーレの権限を利用する必要があり…それは、先生をトリニティに招くことを意味する。

 

 だから、百合園セイアの襲撃は必要なことだ。

 

「…ええ。また、次会う時まで」

 

 だけどその引き金を引くのは、聖園ミカじゃなくていい。

 

 人殺しになる必要なんてない。魔女になる必要なんてない。

 

「じゃあね!」

「……はい」

 

 だから、その時までに…聖園ミカが変わってくれることを、祈るばかりだ。




赤バーが満タンに…!
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