ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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襲撃計画

 聖園ミカと初めて直接の接触をしてから、早いことでもう一ヶ月。

 冬の寒さも、徐々に消えつつある。

 

「もうこの密会も、五回目くらいになるんだね」

「そうですね…時の流れってのは早いモンです」

 

 ……聖園ミカから。百合園セイアの、襲撃の提案は…まだ、ない。

 

 原作では、聖園ミカは…アリウスと和解するため。ゲヘナとの平和条約を成させないため。

 ティーパーティの最高意思決定者であるホストの役割を担う百合園セイアを病院送りにし、己がホストへと成り替わろうとしていた。

 

 …そして、ベアトリーチェの謀略により…百合園セイアは『ヘイローを破壊する爆弾』で殺された、かに見えた。

 

 しかしセイアの決死の説得で実行犯たる白洲アズサは結局『ヘイローを破壊する爆弾』を使わず、百合園セイアと共謀して死を偽装した。

 セイアはその際に負った傷が原因で意識不明の重体に追い込まれたらしいが、詳細は不明だ。

 

 それを知るのは当人と白洲アズサ、そして救護騎士団の蒼森ミネのみ…聖園ミカは、知らなかった。

 

 だからもう、戻れなくなってしまった。自分のせいで百合園セイアは死んだと思ったから、戻れなくなった。

 

「…ミカさん」

「なあに?」

「……その、セイアさん、とか…ナギサさん…他のティーパーティの面々とは、最近どうですか?」

 

 だけど。

 

 この世界では、聖園ミカは…。

 ……きっと、セイアを襲撃して病院に送ろうだなんて、考えない…はず、だ。

 

「あははっ!なに、その質問!…どう、かぁ…うーん…特にこれと言って変わったことはないよ?」

「いえ、ただの世間話です。どんなにくだらないことでも構いませんよ」

「そっか。そうだなぁ…あ!そうそう、セイアちゃんなんだけどね?」

「っ…!!」

 

「ナギちゃんがキャンディって紅茶を淹れようとしたんだけど…それが本当のキャンディでね。ナギちゃんが意地張ったせいで、砂糖水飲まされてたんだ」

 

「……っ、ふぅぅうう…」

「あれは可哀想だったなぁ…」

 

 ちょっと本気で焦ったぁ…!?

 これでセイアを襲撃したいとか、そんな話だったら今までの計画が水泡に帰すところだった…!!

 

「はははっ…それは酷い話ですね……」

「そうなんだよ!パッケージ見たら普通にわかると思うんだけど、結局淹れようとする直前まで気付かなかったみたいで…あるって言った手前、引くに引けなくなったんだろうね…」

 

 桐藤ナギサ…まあ、割と意地張りそうな性格ではあるけど…そこまでとは。

 

「大体、セイアちゃんもセイアちゃんだよ。未来が見えるとか何とか言ってたのに、どうしてそのお茶を選んだんだろう…そのくらい見えてたんじゃないの?」

 

 ……ここで、来たか。

 

「…え?セイアさんは未来が見えるんですか?」

「あれ?言ってなかったけ?そうそう、セイアちゃんは未来が見えるんだって。予知夢みたいな感じらしいよ?すごいよね」

 

 …今まで聖園ミカと会った時は、百合園セイアの未来予知について触れられることはなかった。

 特段、意識していたわけではないのだろう。ただ必要がなかったから言わなかった、それだけ。

 

「…それ、めちゃくちゃ重要な情報じゃないですか。言っちゃダメでしょ、そういうの」

「えー?スオウちゃんなら大丈夫でしょ?」

「私は得た情報を上に報告する義務があるんです。私はともかく、上はどう判断するかわかりません」

「あ、そっか…で、でもさでもさ!ほら、私ってこう見えても結構強いんだよ?だから何かあっても私がセイアちゃんを守ればどうにか…ならないよね。うん、ごめんね。気をつける」

 

 …本っ当に。

 

 ミカ自身も、そういうところは直したいと思ってるんだろうな…事実、この一ヶ月だけでも随分考えてから発言するようになったと思う。

 

「わかれば、いいです。多分見える未来には制限があるとか、見ようと思って見れるものではないとか、そんな感じじゃないですか?好き勝手未来を見通せるなら、私たちのことも知っているはずですし」

「あー、それもそっかぁ…なるほど。じゃあ今度から似たようなことがあったらセイアちゃんに教えてあげないとだ」

「あなた知ってたんですか…?」

「いや、セイアちゃんなりに考えがあるのかなって…」

 

 砂糖水を注文するって、どんな考えだよ。

 

「あ、でもね…最近、セイアちゃんと話しやすくなった気がするんだ」

「…!へぇ、そうなんですね」

「うん。だから、まあちょっとだけ…もう少し、しっかりお話ししてみようかな」

「……ええ。とてもいいことだと思いますよ」

「うん!…あ、もうこんな時間だ。ごめんね、今日はこの後ティーパーティの集会があって…もう行くね?」

「はい、お元気で」

「じゃあね!」

 

 ミカが走り去る。

 その背中を、なんとなくボヤーっと見つめる。

 

 ……未来予知の話を、俺はもう聞いてしまった。

 

「…ごめんな。ミカ」

 

 もう、止まれない。

 もう、動くしかないんだ。

 

 

 

 

「マダム。只今、戻りました」

「そうですか。で、本日得られた情報は?」

「はい。まず始めに、トリニティの地形情報。これは既存のもの…トリニティの紹介雑誌で得られた情報と概ね一致します。次に、戦力。かねてよりお伝えしていたように、恐らく大きな勢力として正義実現委員会、シスターフッドが挙げられます。そして今回新たに得られた情報として、後者の前身はユスティナ聖徒会とのことです」

「なるほど。続けなさい」

「基本的に懺悔や大聖堂の管理など、慈善活動を行なっているようですが…先の情報と併せて考えると、相当な戦力や、ティーパーティに左右されないほどの力を持っているかと」

 

 …ユスティナ聖徒会に反応はなし、か。

 まあ、そう簡単にボロを出してくれりゃ苦労はしねえが。

 

「…そして、先日お話しした百合園セイア。サンクトゥス分派のリーダーにして、現在のホストにあたる者。彼女について、新たに得られた情報があります」

「…ほう?」

 

 …大丈夫。これで、きっとうまく行く。

 だからこれは、必要なことなんだ。

 

 誰かが、俺がやらなきゃいけない。

 

「……彼女は。未来を予知する力を持っています。聖園ミカ曰く、予知夢と」

「っ…!?」

 

 流石のベアトリーチェも驚きを隠し切れていない、か…やっぱり、百合園セイアの能力はキヴォトスでも相当希少なものなんだろうな。

 

「しかし聖園ミカの話から察するに、自由に予知を可能とするわけではないそうです。恐らく限定的、偶発的に発生する予知夢であると考えられます」

「…なるほど。予知夢の大天使、ですか…して、それがどうかしたのですか?」

 

 …まあ、俺の口から言わせようとするよな。

 

 ベアトリーチェのクソ野郎のことだ。大方、俺が自分から人殺しを提案したという事実で心を折って、さらに俺への支配力を強めようとしてるんだろう。

 

 ……だがそんなこと、俺にとってはなんら問題のないことだ。

 

「利用できれば、それでいいですが…そもそも聖園ミカと違い、百合園セイアは思慮深いと考えられます。そこに予知の力が加われば、我々の計画にとっては…邪魔でしかないかと」

「…では、どうしますか?」

 

「───殺しましょう」

 

「…!ほう?」

 

 心底喜ばしげに、下卑た笑みを浮かべるベアトリーチェ。

 

 ああ、お前はそういうやつだよ。さっさと死ね。いや、殺す。

 

「しかし、殺す…一体どうやって?」

「まず、聖園ミカとの関係が途絶える危険性についてですが…それについては、彼女は言いくるめてしまえると考えています。そもそも、彼女は百合園セイアを好ましく思っていません。万が一関係が途絶えてしまったとしても、今まで得られた情報と…数人、スパイを潜入させればあまり問題はないかと」

「…そうですか。それで?」

 

 まあ、半分くらい嘘だけどね。

 聖園ミカとの関係は、ここで途絶えさせてもいいと考えている。

 

 原作では、聖園ミカから申し出ていたアリウスのスパイだけど…どうせミカや俺の提案がなくても、ベアトリーチェはアズサをスパイとして潜入させようとするだろうし。

 

 身元を偽る程度、ベアトリーチェならば容易なはずだ。

 だったら、聖園ミカの後ろ盾がなくてもなんとかなる。

 

 

「予知の力は偶発的であれど、万が一にも我々の襲撃を予知されてはまずい。であれば、可及的速やかに実行に移したいと考えています」

「…続けなさい」

「次に問題になるのが、殺すために時間を要する点。この点については、百合園セイアが元来病弱な体質だということがわかっていますが…それでもあまりに時間がかかりすぎる。毒で動きを封じ、ダメージを与え続けながら誘拐し、溺死させる事を提案します」

「……ふむ。悪くありませんね」

 

 …俺はあくまで、『ヘイローを破壊する爆弾』を知らない体を装わなくてはならない。

 

 であれば、ベアトリーチェは恐らくこの後…。

 

「しかし、その計画では確実性が薄いですね」

「…重々承知しております。しかし、失礼ながら」

「そう結論を急かない事です。あなたの提案は現状我々が持つ戦力、武器の範疇であればそう悪いものではありません」

「……では」

「そのため、これを使います」

 

 …まあ、そうくるわな。

 

「…それは、爆弾…でしょうか?」

「ええ。『ヘイローを破壊する爆弾』。生徒の持つ神秘を破壊し、死に至らしめる爆弾です」

「神秘…?」

「ああ、理解していただかなくて結構です。ええ。これさえ使えば確実に生徒を殺すことが可能です。それも、この爆弾をたった一撃、ただそれだけを当てさえすれば」

 

 …改めて、胸糞の悪い兵器だ。

 ただひたすらに、生徒を殺すためだけに作られ、それに特化した爆弾だなんて。

 

「っ…!なんて、素晴らしい…!」

「ただし、注意しなさい。この爆弾は、あまり量産することができません。その上、物質に触れることはできない。何かを盾にして防ぐこともできない…下手に扱えば、痛手を負うのはこちらです」

 

 …シアンと、アンナを…殺、した、『ヘイローを破壊する爆弾』は、あの短い期間で最低限六発用意されていた。

 

 しかしこちらの『ヘイローを破壊する爆弾』は量産不可能、か…あまり信用すべきではないな。

 無論、真実である可能性もあるが。

 

「…深く胸に留めます。しかし、それさえあれば…」

「ええ。面倒な手順を踏まずとも、即座に、かつ確実に、その場で百合園セイアを殺すことが可能となるでしょう」

「では…」

「はい。百合園セイアを暗殺しなさい。計画は教員に任せます。恐らく実行は2、3日後になるでしょう。準備をしておきなさい。各分隊長にも伝えておくこと」

 

 …そんなにも、早いのか。

 

「…了解いたしました」

「して、他に新たに得られた情報はありましたか?」

「…申し訳ございません。私の実力が及ばず…」

「構いません。ええ。百合園セイアの一件、それだけでも十分すぎるほどに大きな情報です」

「…今後とも尽力、精進を重ねていきます」

「そうですか。では、今日はもう下がりなさい」

「…失礼いたします」

 

 …みんなに、伝えないとな。

 この計画、勿論百合園セイアを殺すつもりはない。

 …だから、今のうちに…情報を共有しておかないと。

 

 

 

 

 いつものように訓練場の方へ行けば、ヤコが出迎えてくれた。

 

「小隊長。お帰りなさい」

「……ただいま、です。ヤコ。教員に、何かされませんでしたか?」

「問題ありません。…それより、小隊長…」

「…?」

「…大丈夫ですか?いつもより体調がすぐれないように見えますが…」

「っ…」

 

 …そう、見えるのか。

 まあ、実際今回の提案は…かなり、賭けな部分もあったからな。

 

 万に一つでも、『ヘイローを破壊する爆弾』を提案されなければ…本当に、百合園セイアを殺さなければいけなくなっていたかもしれない。

 …そうなれば、もう…トリニティにみんなを亡命させるという、本当の賭けに出るしかなかった。

 

 気分も悪くなろうというものだ。

 

「ええ、大丈夫ですよ!私は、お姉ちゃんですから!」

「…その調子なら大丈夫そうですね。安心しました。でも、顔色は相変わらず悪いですし…少し休みますか?」

「いえ、大丈夫です。それより…」

「…?」

 

 …ひとまずは、限られた妹たちに伝えておくか。

 一気に全員に伝えても、混乱を招く一方だろうし。

 

「分隊長達を集めてもらってもいいですか?」

「へ?それは…」

「理由は、みんなに一緒に説明します。第1分隊長から第4分隊長は私が集めますので…第6分隊長から第8分隊長をお願いできますか?」

「…はい、任せてください」

「ありがとうございます。集合場所は…訓練場でいいですね。集合時間は今晩、訓練が終わった後で」

「了解いたしました。…あと小隊長、コレ…少し水分でもとって、休んでください。本当に顔色が悪いので、見てるこっちが心配です」

「…はははっ…大丈夫ですよ!でも、ありがとうございます」

 

 …心配、かけさせちまったな。

 今晩は、察せられるわけにもいかない。

 もっとしっかりしろ。

 

 …大丈夫。みんな人殺しになんかさせないし、そうなってしまったなんて思わせない。

 だからこの焦燥も不安も、気のせいのはずだ。抑え込まなきゃいけない。

 

「ふぅ…」

 

 ヤコから渡された水を飲み、落ち着きを取り戻しながら、今日話す内容をまとめた。

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