ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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分隊長たち

 もはや人もいない夜。

 訓練場の一角にて、八人の少女が集められている。

 

 アリウス分校の分隊長と呼ばれる者たち。

 

「なァ…小隊長、まだ来ないのか?」

「…第1分隊長。小隊長は多忙です。何より、体調も優れないようでした。我慢してください、とまでは言いませんが、斟酌して下さると幸いです」

「ヒヒヒッ…相変わらず『優等生』だな?ヤコさんよぉ」

「……」

 

 第1分隊長、赤江(あかこう)サウの言葉に、高東ヤコは不愉快そうに眉を顰める。

 『優等生』という言葉に込められた意味を察したのだろう。

 大人の言うことに従うしかなかった、そんな己の過去を掘り返され、あまつさえスオウへの慕情をそれと同列に扱われた。

 ヤコの心に浮かぶのは怒りと…サウへの、僅かな罪悪感。

 

「…でも……小隊長……本当に…遅いね……」

「そうだね。ちょっと心配になってきたのだけれど」

「……お姉ちゃんの心配を、あなた達がする必要なんてないわ…」

 

 第2分隊長、嵐咲(らんざき)フィリと第3分隊長、余羽(あまはね)トウがスオウの身を案じていると、一人静かに座っていたシオが絡み始める。

 

「なんだい、私たちに構って欲しいのかな?シオ」

「え、い、いや…そんなつもりじゃ」

 

 見事返り討ちに遭うシオをよそに、錠前サオリは頭を痛める。

 

 こうなることは予測できたはずだ。

 元々我の強い分隊長の面々。下手に一箇所に集めてしまえば軋轢が、摩擦が生まれ、そして争いに発展することなど。

 

 だというのに、なぜスオウは一向に来ないのか。

 一箇所に集まるのはまだいい。争いもこの際仕方がないと言える。

 しかしこの面子ではサオリが割を食うのは明白だ。それはいただけない。

 

「ありゃりゃ、サオリちゃん?どうしたのー?頭痛?」

「え、そうなの?サオリちゃん、だいじょーぶ?」

「あ、ああ。問題ない」

 

 そして自らもまた第4分隊長、安照(やすでり)レイと伏貫ヨセに絡まれ始めたところで。

 

「だから!!小隊長はそのうち来るっつってんだろうが!!!その耳は飾りか!!?出来損ないの愉快な耳だなぁ!千切ってやろうか!!?あ゛ァ!!?」

 

 ヤコがキレた。

 

「……ああ、クソ…」

 

 考えうる限り最悪の事態に、サオリは悪態を吐く。

 

「あ?上等だ、やってやるよ…」

 

 まさしく一触即発、いつ手が出てもおかしくない状況。

 とうとう全員が銃の準備をし始めたところで…。

 

「お、お待たせしました!!!お姉ちゃんです!!」

 

 姉という名の狂人(一番我の強いヤツ)の登場に動きを止めたものの、サオリはさらに頭を痛めざるを得なかった。

 

 

 

 

 あっぶねぇ!!

 軽く仮眠とってたら寝過ごすところだった!!

 

 というかみんな銃構えてたよな?本当ギリギリだったんじゃないか?

 

 できるだけ急いできて正解だった。

 みんなキャラが濃いというか、変わり者揃いだしな…。

 

「ごめんなさい、遅くなって…みんな、銃は下ろしてください」

 

 渋々と銃を下ろし始める妹達に一安心しつつ、ふとサオリが目につく。

 

「…」

 

 疲れがこれでもかと伝わってくる目で、恨めしげにこちらを睨んでいた。

 

 しょ、しょうがないじゃんか…結局、どこかで全員集まる機会は必要だったんだから。

 向こうの小隊長も『共犯者』にはしている。

 だから実質的には全分隊が俺の指揮下にあるとはいえ、二つの小隊が一緒に行動する機会なんて殆どないし。

 

「スオウちゃん、本当に遅かったね。何かあったの?」

「寝過ごしました」

「……ちょっと擁護できないなー」

「す、すみませんでしたぁ…!!」

 

 レイは相変わらず物怖じしないしないというか、この空気でよく喋れるな…。

 

「ちょっと、小隊長?集めておいて寝過ごしたって、それはないんじゃないかな?」

「はい…ごめんなさい…」

「…先程から申し上げているように、小隊長は疲弊していました。ですので」

 

 トウに怒られていると、ヤコがそうフォローを回してくる。

 

「関係あるかよ。だとすりゃ今日集まる必要なんざねェ。なのに強行した小隊長に無責任さについて言及してんだ、トウは」

「第1分隊長、あなたには話していません」

「んだと…」

「す、ストーップ!!!」

「…チッ」

 

 ちょっと会話しただけでコレかよ!!?

 

 …いや、サウとヤコについては仕方のないところもある…あるけどさ…!!

 

「その件については私に非があります。けど、どうしても今日のうちに伝えておきたかったんです」

「……小隊長……珍しいね…」

「確かに、そもそも分隊長が全員で集まること自体もそうそうないですからねー…でも、今回はどうしても必要だったんです」

「…そう、なんだ……なんで……?」

「今から説明しますね」

 

 …フィリはおとなしくて助かるなぁ…分隊長の面々の中では、サオリと並んで問題を起こさないし。

 

 もっとも本人に悪意がないから怒る気にならないだけで、発言自体は結構毒あるけど。

 

「と、いうわけで。ヨセ、起きてください」

 

 いつの間にやら机に突っ伏して寝ていたヨセを、体を揺すって起こす。

 

「…ん?あ、もう始まるんだ?」

「はい、遅くなってすみません」

「大丈夫大丈夫!私もよくやるし」

「第6分隊長、あなたはもっと気をつけてください」

 

 …うん、多少無理矢理でも話を始めてしまおう。

 じゃなきゃ一向に話が進まない。

 

「端的に言ってしまえば、ベアトリーチェからの新たな任務です」

「…任務、か…それだけのために、分隊長を全員集めたのか?ひょっとして、相当大規模な…」

「大規模…まあ、そうですね。大規模とも言えます」

「そうか…それで、内容は?」

 

 …誤魔化す必要もない。手短に伝えるか。

 

「ティーパーティの一員、百合園セイアのヘイローを破壊することです」

「…っ!!?」

 

 瞬間、全員の表情に驚愕の色が浮かぶ。

 まあ、そりゃそうだろうな。

 

「現在、まだ作戦も立案されていません。ですが」

「ちょ、ちょっと待ってくれないかな?どういうことだい、ヘイローを破壊するって」

「…そのままの意味です。今回の任務は、百合園セイアのヘイローを破壊…つまり、殺すこと。それ以上でも、それ以下でもありません」

「そんな…」

 

 …今までヘイローを破壊するための…人を殺すための知識とその訓練は、可能な限り最小限に抑えてきた。

 分隊の訓練、指導方針は、ある程度は小隊長によって左右される。

 

 人を殺す方法を教えなかった理由は単純だ。

 殺すという選択肢を、持ってほしくなかった。人を殺してほしくなかった。

 ただそれだけだ。

 

 だからこそ、百合園セイアを殺す任務と聞いて忌諱しているのは、俺にとっては非常に喜ばしいこととも言える。

 

 それでも、多少なれども人を殺す方法を教えた理由は…ベアトリーチェにバレないため、というのも勿論あるが、それ以上に…人を、殺させないためだ。

 ただでさえ死の概念が希薄なキヴォトスだ。

 銃弾で撃たれようが、基本的に生徒は死ぬ事はない。

 だからこそ、過剰な暴力でも当然のように行えてしまうかもしれない。

 

 万が一にも、不慮の事故だろうと人を殺させないために、人を殺す方法を教えた。

 

「…ヘイローを破壊、か。仮にやるとして、どうすんだ?時間がかかり過ぎるだろ」

「確かに、そうだねー…そもそも、ティーパーティの一員なんだよね?トリニティに潜入しなきゃいけなくならない?」

「そうね…時間に余裕もないし、厳しいと思うわ…マダムは、本当に百合園セイアを殺させるつもりがあるの…?」

「…『ヘイローを破壊する爆弾』というものを用意していました。その爆撃を食らえば、我々ヘイローを持った生徒は問答無用で死ぬそうです」

「っ、そんなものが…存在、するのですか?」

 

 …『ヘイローを破壊する爆弾』の脅威は、ここで教えておくべきか。

 

「十年前の内乱…この中にも、巻き込まれてしまった子がいるかもしれません。私もその一人だったのですが…私は、目の前で生徒が死ぬところを見ました。おそらく、その時使われていたのが…」

「……なるほど」

 

 サオリがどこか納得したような、合点がいったような表情を見せる。

 

 まあ、サオリには俺が人を殺したことを伝えているからな。

 おそらく、内乱の件と併せて辻褄が合ったのだろう。

 

 …実際には、内乱に参加していたんだけどな。

 

「…無論、その凶撃が…私たちに向く事も考えられます。その上、ベアトリーチェはアレを量産している可能性だってある」

「…元より、拒否させるつもりはねェってことか」

「うーん…私よくわかんない!」

「…第6分隊長には、後で私から詳しく説明しておきます」

「はははっ…助かります」

 

 …ヨセを分隊長に選んだヤツは大丈夫なのか?

 武力重視にしたって限度があると思うんだが。

 

「任務の実行は2、3日後という話でした」

「……そんなに……早いの…どうして……?」

「…百合園セイアが、未来を予知する能力を持っているからです」

「……未来……予知……?できるの……?」

「これは、同じくティーパーティの聖園ミカから得た情報です。虚偽はないかと」

「…すごいね……」

「すごい…まあ、はい。すごい能力なんです。だから殺すつもりなんでしょうね」

「そうか……それで、スオウ」

 

 そこでサオリが突然口を開き。

 

「結局、お前はその任務を実行するつもりなのか?」

 

 と、そんなことを言う。

 

 ……流石サオリ。分かってるじゃないか。

 

「……はははっ。だいせーかい、サオリ。真面目にやってやるつもりなんざないですよ」

「はぁ…やっぱりか…なんでわざわざ勿体ぶった」

「んー…一番は、みんなが人を殺したくないって、そう思っていることを確認したかったからですね」

「え、ええ…これ怒っていいヤツだよね?なんでそんなわかりきってることのために、無駄に緊張させようとしたのかな?」

 

 ……わかりきってる、か。

 本当、そうなってよかったよ。

 

「で、具体的にはどうするんだ。流石に何もしないわけにはいかないだろう。何か考えがあるのか?」

「はい。百合園セイアに協力してもらい、死を偽装します。細かい作戦は、表向きの…教員の考えるであろう計画が出てからになりますね」

「……それ……セイアが…協力、しなかったら……どうする?」

 

 協力しなかったら、か…。

 

 ぶっちゃけ、協力してもらえる事は原作から分かりきってるけど…そんなこと言うわけにもいかないからな。

 

「そうですねー…ある程度賢いヤツなら、命が狙われていることが分かったらわざわざ生きていることを公表しないでしょう。ですので、意識不明の重体まで追い込み、意図的に立場や権力の強い…例えば、救護騎士団の蒼森ミネや、シスターフッドの歌住サクラコに目撃させ、匿わせましょう。詳しい作戦は、作戦が公表されてからですね」

「わたしもうげんかい…」

 

 ヨセが頭から煙を出し、バタッと倒れる。

 

「はははっ…今日はもうここまでですね。ってことで、各々自分の分隊には作戦公表後に伝えてください」

「わかったよー」

「じゃあ、解散で。作戦については追々連絡します。みんな、夜遅くにありがとうございました」

 

 そうして、その日の集会は終了した。

 

 …百合園セイアの、襲撃。

 

 原作では、先生がトリニティに訪れる一年前に起こっていた出来事だ。

 

 その時点ですでに、原作とは差異が出ている。僅かに、遅れているんだ。

 

 …だから。もうすでに、変化は起こってしまっているから。

 百合園セイアを襲撃するのは、アズサじゃなくてもいい。

 

 俺がやる。

 俺が、百合園セイアと対話をする。

 

 それなら、アズサの…自分とヒフミの住む世界が違うなんて考えも、少しマシになるはずだ。

 

 ……今のうちに、百合園セイアに話すことを決めておかないとな。




オリキャラ一気に増やしてすみません。
やっぱサオリが第8分隊長なら1〜7もいないといけないと思ったのですが、紹介するタイミングがここしか見つからなかったです。

第1〜第7分隊長の過去やスオウちゃんとの出会いなどについてですが、あんまりオリキャラにばかり時間をさいても仕方ないので、番外編として投稿すると思います。
完結前になるか後になるかはわからないです。

覚えづらかった方も多いと思うので、1〜4分隊長の名前と喋り方の特徴をまとめておきます。
1.赤江(あかこう)サウ
口調が荒い子。

2..嵐咲(らんざき)フィリ
…がよくつく、喋るのが遅い子。

3.余羽(あまはね)トウ
なんで〜なのかな?みたいな喋り方の子

4.安照(やすでり)レイ
伸ばし棒がつきやすい子
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