ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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ロイヤルブラッド

 アリウス自治区内に存在する、古ぼけた建物の一つ。

 その中で、白髪の少女と赤い肌の異形が向かい合っている。

 

「正義実現委員会に発見されず百合園セイアを暗殺する事は不可能です。剣先ツルギは、あなたが相手取りなさい。羽川ハスミは分隊長で対処可能でしょう。他の部員は、雑兵で事足ります」

「…時間稼ぎ、ですか。しかし、トリニティの戦力は正義実現委員会だけではありません。聖園ミカ、蒼森ミネ。彼女達には、特に警戒が必要だと思われます。歌住サクラコも、及ばない程度であれ一般兵で対処は不可能だと考えられ…その上、自警団を始めとした他の武力集団も厄介です。特に、聖園ミカには警戒が必要かと。長引かせれば、不利になるのはこちらなのでは…?」

「当然、理解しています。ええ。聖園ミカも、分隊長二人以上でなら十分に時間を稼げるでしょう?第6分隊長、もしくは第8分隊長なら、単身で足止めは可能なはずです」

 

 時間稼ぎ。

 つまり、最初から使い捨ての駒として考えているということ。

 

 桐花スオウは抱いた不愉快さを臆面にも出さず、作戦内容に目を通す。

 

 使い捨ての駒、と言えど、やはり情報は惜しいのだろう。

 うまくやれば、一切の被害が出ないままに百合園セイアの殺害も可能に見えた。

 

 しかし彼女は、当然ながらこの作戦を実行するつもりはない。

 

 作戦を捻じ曲げ、百合園セイアの対処には自分があたる。

 

 であれば、百合園セイアの居場所を発見した後、自分の代わりに剣先ツルギの足止めをする人間が必要だ。

 自身の妹を巻き込まざるを得ないという事実に内心歯嚙みしつつ、渡された作戦の書類を頭の中で書き換えていく。

 

「すでに白洲アズサには、教員より『ヘイローを破壊する爆弾』が受け渡されているはずです。作戦の決行は明日の深夜になります。用意しておきなさい」

「…了解いたしました」

 

 そんな桐花スオウの内心を知る由もなく、ベアトリーチェは話を続ける。

 

 そうして作戦の打ち合わせも終了し、桐花スオウはその場を離れようとする。

 しかし。

 

「…ああ、それと。これを渡しておきます」

「…?」

 

 それは、桐花スオウにとって初めての出来事だった。

 ベアトリーチェに呼び止められるなど。

 

 ベアトリーチェに渡されたものを受け取り、観察する。

 黒を基調に、白い装飾が成されたシンプルなデザインの仮面。

 

「仮面、ですか…?」

「はい。小隊長と、その他を識別するためのものです。戦闘中は、顔を見られてはいけません。必ず着用しなさい」

「…心より、感謝申し上げます」

 

 礼を述べ、その場を去る桐花スオウを見届け、そして思案する。

 

 あの仮面。秤アツコの着用しているものと、同様の効果がある。

 たった一度、一度きりではあるものの、着用者を死の運命から逃れさせることを可能とする効果。

 黒服によりもたらされた、無名の司祭達の技術を利用している。

 

 そこにさらに、発信機と盗聴器を仕掛けた。その二つはたった一度の戦闘で壊れてしまうだろうが、ないよりはマシだ。

 

 多少不審がられたかもしれないが、今回の作戦では『ヘイローを破壊する爆弾』を使用する。

 万に一つも桐花スオウを、大切な保険を、代替品を失うことがあってはいけない。

 天秤にかけるまでもなく桐花スオウの生存を選ぶのも当然と言えよう。

 

 何より、あの仮面一つでロイヤルブラッドを自認することも考え難い。

 

 しかし彼女を始めとして、本当に良い駒に育ってくれた。

 人殺しを躊躇わないどころか、自ら提案するほどとは。全くもって予想外だ。

 

「フフフ…」

 

 心の底から漏れ出す愉悦を抑えきれず、ベアトリーチェの口からふと笑みが溢れる。

 

 十年前。自らが支援した、内乱の争い。

 わざわざ『ヘイローを破壊する爆弾』の効果を曲解し、誤認させざるを得なかった。

 しかしあの時の辛抱あってこそ、今こんなにも有用な駒が手に入ったというものだ。

 

「…」

 

 ベアトリーチェはそこでふと、十年前、そして『ヘイローを破壊する爆弾』というキーワードに引っ掛かりを覚え、そして思い出す。

 

 十年前の内乱。穏健派が、不自然なまでに急速に戦力を増強させた一件。

 あの時感じ取った、穏健派の裏側にいる誰か(・・)…そして。

 

───たった一つ、未使用のまま行方知らずになった『ヘイローを破壊する爆弾』。

 

 過激派が出した追手から聞いた話によれば、まだその『誰か』が『ヘイローを破壊する爆弾』を所持したまま、アリウスの教員の中に潜んでいる可能性がある。

 

 本来アリウスの生徒になるはずだった訓練学校の子供を、自身の退路を塞いで逃したからだ。

 

 浮かび上がる人物像は相応の知恵と戦闘能力、そして自己犠牲的な正義感。

 たった一人、アリウスから逃げるとは考え難いと、ベアトリーチェはそう考える。

 

 無論、ベアトリーチェは一部の元穏健派を始末したものの…『ヘイローを破壊する爆弾』を、未だ発見できていない状態にあった。

 

「…対策は、講じておく必要がありそうですね」

 

 十年前より存在する『誰か』。

 その『誰か』の尻尾を掴むこともできない現状に苛立ちを覚えながらも、ベアトリーチェはその思考を深めていった。

 

 

 

 

 ベアトリーチェになんかもらった。

 いや、ぶっちゃけ察しはついている。

 

 さっき中身をバラしてみたからだ。

 

 盗聴器や隠しカメラの類は発見されず、訳のわからぬ機器が詰められていた。

 

 そう、機器が詰められていたのだ。

 

 足の発信機を外したり、シオの通信に無理やり入り込んだりするために、ある程度メカニック系は勉強したが…それでも、見たこともないような部品が多く使用されていた。

 

 つまりこの仮面、デザインこそ違うけど…多分、アツコのと同じやつ、だよな…?

 

 原作の知識がなければまあそういうこともあるか、で済ませていた程度の違和感。

 

 確かにガスマスクはもうボロボロになっていたけど、だからってベアトリーチェが気遣いで贈り物なんざする殊勝な奴じゃないのはわかっている。

 

 確かに俺たちの使う装備は、サオリやミサキのマスクなども含めベアトリーチェに提供されたものが多い。

 強盗して確保する分だけでは足りないからだ。

 

 だからアリウスのみんなの服装はベアトリーチェの趣味…というわけでもなく、普通に提供されたものの中からサイズに合うものを各々選んでいるだけだ。

 

 今までも装備を渡される場面でこういうことがなかったわけじゃないけど…これはちょっと不自然だろ。

 

 そう思って分解してみればコレだ。

 

 だとすると、一つ疑問が残る。

 

「なんで私に…?」

 

 原作でアツコが持っていた仮面には、『ヘイローを破壊する爆弾』による死を防ぐ効果があった。

 それはアツコがアリウスに存在する、唯一のロイヤルブラッドだった、から、で…?

 

「…?」

 

 ロイヤル、ブラッド…?

 

「ちょっと待ってください、えーっと確か…」

 

 懐から『ノート』を取り出し、ロイヤルブラッドについて記述されたページまで捲る。

 

『マエストロ曰く、戒律を守護せし者の血統。ユスティナ聖徒会長の血縁。原作で描写された中で、該当者は秤アツコのみ』

 

 概ね、記憶にある通りだ。

 はっきりと記憶に残っていた時期の俺が残したメモだし、多分間違いない。

 

 しかし、原作で描写された中で、か。

 

 ……原作で『私』は…『桐花スオウ』は、何をしていたのだろうか。

 瞳孔のオッドアイに、周囲に比べ恵まれた身体能力。ひょっとしたら、分隊長とかになっていたかもしれない。

 

 …でも、多分それ以前に……ヒロさんに見つけてもらえずに死んでいる、よな…。

 

 ある程度、自分の体の動かし方を、バランスの取り方を知っているからこそ助けを求めることができた。

 それがない『桐花スオウ』は、きっと死ぬしかない。

 

 でも、じゃあただ捨てられただけなのか?

 

『…ごめん。ごめんね…』

 

 俺の耳に、微かに残る音。記憶。

 遠ざかっていく、ヘイローの光。その人から流れ出たであろう、赤い血。何度も何度も謝罪をして、そしてわざわざアリウスに拾われやすい場所に置いていった。

 

 俺は、親に捨てられたのではなく…逃がされた?

 

 何のために?どうしてアリウスに拾われやすい場所を知っていた?

 

───アリウスの内部の人間だから?

 

 じゃあ何故、俺を逃がそうとした?

 何から逃がそうとした?

 

 血を流していたということは、争いに巻き込まれたか…標的にされていたということ。

 

 今だからわかる。あのあたりに住んでいるのは、アリウス生徒くらいだ。

 

 アリウスの人間が、アリウスの人間を始末しようとした理由は?

 

 …権力争い?

 

───俺がロイヤルブラッドだから、権力争いに巻き込ませないために、ただの生徒にしようとした?

 

「っ…はははっ…なんつー予想ですか。飛躍しすぎです」

 

 希望的観測にも程がある。

 あの時ヒロさんに見つけてもらえなければ死んでいたのは事実なんだ。

 

「……」

 

 …でもまあ、いずれにしよ捨てられたんじゃなく、何か事情があったのは確か、なんだろうな…。

 

「…はははっ」

 

 ベアトリーチェに渡された仮面をかぶってみる。

 

 意外とつけ心地は良く、肌触りも悪くない。

 思ったより蒸れなくて、視界も十分に確保されてる。

 コレなら、つけたままでも戦えそうだな。

 

 …正直内部構造なんてわかったモンじゃなかったから、不安がないと言えば嘘になる。

 

 盗聴器や監視カメラがつけられている可能性だって、ゼロじゃないんだ。

 

 だから一応、今は言動に気を付けていたんだけど…ちょっとアツコの仮面を借りて調べてみるか。

 

「とにかく…まずは作戦の共有、ですね」

 

 提示された作戦とその変更点について報告するために、みんなの元へと向かった。

 

 

 

 

 そして、作戦当日。時間帯は深夜だ。

 

 先日渡された仮面は、やはりというべきかアツコのものとほとんど構造が同じだった。

 

 …つまり、多分俺は……ロイヤルブラッド、なのだろう。

 

 計画も、それに合わせていくらか変更が可能になった。

 自由度が高くなり、より皆を巻き込まずに計画を実行できるわけだ。

 

 何故ほとんどなのかといえば…やはりというべきか、ついていた。

 発信機と盗聴器らしき、よくわからない部品が。

 

 ふざけやがって。まだ疑ってるのかよ。

 

 …実際いずれ殺すつもりで立ち回っているから、その対策は正解だろうけどな。

 

 でも俺自身の戦法も相まって、ぶっちゃけ戦闘で壊れるんだよな、そういうの。

 

 多分、ベアトリーチェもその辺は承知の上だ。

 

「みんな、準備はいいですか?」

『はいはーい。第4分隊、配置についたよー』

「ありがとうございます、レイ。フィリ、爆弾はどうですか?」

『……うん……問題ない……自警団も……私たちに、任せて……ミネは…私と、スクワッド以外の第8分隊で…対処するね……』

 

 今回、サオリ達はスクワッドとして活動する。

 故に、残る五人の第8分隊の指揮はフィリに一任した。

 

「ありがとうございます。少し待ってください。ヤコ、トウ、大聖堂の様子は?」

『多くのシスターフッドが在中しています。警戒こそしていますが、一般的な警備の範疇です。我々の計画は露見していないかと』

『でも、かなり人数は多いかな。歌住サクラコは私だけで抑えられるけど…余裕はなさそうだね。他の兵を抑えるために、ヤコちゃんに第3分隊の指揮も一任するよ』

「わかりました」

 

 オーケー、問題はなさそうだな。

 

「サオリ、アリウススクワッドは?」

『問題ない。アズサに案内を任せ、私達は周囲の敵を始末する』

『ああ。トリニティの地形は把握しているから、任せて』

『聖園ミカに見つかったら、私たちがなんとかするよ』

『しょ、正直勝てる気がしないです…!』

『…』

『そ、そんなこと言ってもぉ…!』

 

「ま、任せますからね…!?」

 

『安心しろ。なんだかんだと言いながらも、ヒヨリはやる時はやる』

 

 …今回与えられた任務は、時間との勝負だ。

 だからこそ、少数精鋭、最高速で駆け抜けられるアリウススクワッドは重要になってくる。

 

 俺もツルギとある程度戦った後、そちらに合流することになる。

 

 なぜツルギと戦うのかといえば、自然な流れで盗聴器と発信機を壊す必要があるからだ。

 

「シオ。全体のサポートはお願いしましたよ。何かあった時、自由に動けるのは第7分隊だけです」

『ま、まかせて…!』

「サウ、ヨセ。私たちの相手は正義実現委員会です。準備はいいですね?」

「うん、任せてー」

「…今回は私がコイツのサポートか?なあ?コイツ指揮とか出来ねぇだろ?」

「…サウさん。我々の指揮をよろしくお願いします…!」

「おい…!」

「はははっ…」

 

 しょうがないだろ。ヨセならツルギの足止めさえできるだろうし。

 ハスミはサウでも十分だが、正義実現委員会はマシロやイチカと実力派揃いだ。

 ハスミはサウでも十分、というのはあくまでも一対一の話。

 

 その点ヨセなら、マシロとイチカを同時に相手取っても時間稼ぎはできる。

 

『…じゃあ……起動……する…?』

「お願いします」

『わかった……どーん……』

 

 フィリの合図と共に、トリニティ中から爆発が響く。

 

 随分ド派手だが、これによって敵戦力を分散させることができる。

 

 あとは各箇所に対処に来た敵を、それぞれが相手取る。

 

 その後俺はスクワッドと合流し…百合園セイアと対話し、最後に聖園ミカに百合園セイアの生存を伝える。

 それなら、ミカも止まれるはずだ。

 

 大丈夫。失敗なんてさせない。

 だれも、死なせはしない。

 

「……作戦、開始!!!」




無名の司祭
・名もなき神を崇拝している。
・現在ではその痕跡しか残っていないはずの者たち。
・多くのオーパーツを作り出した。
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