俺がこの世界に生まれて、アリウスに拾われてから、三年の月日が流れた。
「ふぁ…」
あくびもほどほどに、ベッドから飛び出る。
俺はあの日からアリウス内の寮で育てられてきた。
なんでもこの辺には孤児は…というか、捨て子はそこそこいるらしい。
わざわざ拾ってるから噂でも広まってんじゃないのか、と思わなくもないが、まあ見捨てるのも寝覚めが悪い話なのだろう。
「くぁっ…ああー…!」
大きく伸びをして、扉をあけ外に向かう。
というか、アリウスが生徒をどうやって確保してるのか謎だったけど、こういう理屈だったのか。
でもまあ、それが全てじゃないんだろうな。実際、生徒会長の血を引いたキャラも登場するし、他に正規の手段で入る子もいるはず。
存在そのものが非正規みてぇな学校だけど。
閑話休題。まあこの三年、俺だって何もしてなかったわけじゃない。きちんと情報を集めてきた。
その結果、分かったことがいくつかある。
と、そこまで考えて、赤髪の女性に話しかけられる。
「…む、おはようスオウ」
「…おはようございます、ヒロさん」
あ、はい。私、内藤生改め桐花スオウと申します。
可愛らしい名前ですね…うん、女性名だったよ。ちくしょうめ。
そしてこの人は佐伯ヒロさん。俺を拾ってくれた女性で、仮称のヒロコさんとまさかのニアミスを起こしていた。よく面倒を見てくれる。
「むぅ、最後まで敬語とは、寂しいやつめ…」
「…ヒロさんのこと、尊敬してますから」
「…そうか。お前は、本当にしっかりしているな。とても三歳児とは思えん」
ぎくり。
「これなら私がいなくても心配なさそうだ」
「…」
…約三年。
高校を、卒業するまでの期間だ。
そして、ヒロさんは今日の朝が旅立つ時だった。知らされたのは、本当につい最近だ。
アリウス分校に卒業なんていうシステムがあることに驚いたが、これからどうするのだろうか。そもそも、この世界で生徒は卒業後にどこへ行くのか。
少々怖くて聞けなかった。
大人の生徒…ヘイローを持つ者は、一応は描写されていた。だから、必ずしもキヴォトスの外に出るわけではない…はず。
「…ヒロさんは、どこに行くんですか?」
「ん?私か?保育園で働く予定だ。キヴォトスの中でな。またどこかで会うこともあるかもしれんな」
「…!そうなんですか!」
「ああ、戦いは得意でも、好きでもないしな…正直、アリウスの確執もどうでもいい。あまり、興味がないんだ。…っと、お前にこんな事言ってもわからないか」
いえ、バッチリわかりますよ。
しかし、そっか。…そっかぁ。それは、アレだな…嬉しいな。
「…なんだ、私がいなくなると思って寂しかったのか?相応に可愛らしいところもあるじゃないか」
「…う」
…正直、否定できない。
先の話につながるのだが、まずこれが分かったことの一つ。どうにも精神や心がかなり体に引っ張られるらしいこと。
例えば、暗闇をとても元が男子高校生とは思えないほど怖がるし、一人でいるとそのうち泣いてたりもした。以前より頭も回らないし、どうなってんだか。
知識と記憶はそのままに、心と精神は子供のものに近づいてる。まあ、割とややこしい状況だ。
「…私がいなくても、元気でやるんだぞ?」
「…はい」
そんなこんなで、この別れをとても寂しく感じるわけで。
「いずれ会えるさ。…だから、泣くな」
「はい…!あ゛りがとうございました…!」
ヒロさんが俺の顔を肩に埋めさせてくれる。
沢山、世話になった。沢山、助けてもらった。俺が今生きているのは、あの日この人が見つけてくれたから。拾ってくれたからだ。
感謝しても仕切れない。
「…またな」
「…はいっ!いつか、どこかで!」
「…ああ」
最後に俺の頭を撫で付けて、ヒロさんはアリウス分校を去った。
寂しい。寂しいけど、少しだけ安心した。ちゃんと、アイツがくる前にこの学校を去れて。
◇
ヒロさんと別れ、与えられた自室のベッドに腰掛けながら考える。
分かったことの二つ目。ベアトリーチェは、まだアリウス分校を訪れていない。
それどころか、まだ内乱も始まってすらいない。とはいえ起こり得そうな空気感はちょくちょく感じるので、時間の問題だろう。
というわけで、本編開始まであと十余年。というか、もっと正確にわかる。十四年か十五年程度だ。
なんでかと言えば、こっそりここにある資料を見ただけだ。ついこの間。三歳の体でよくもまあ頑張った方だと思う。
んで、その中に秤アツコの名前が確認された。そこから年齢を特定して逆算。本編の時期がわからないせいで、多少前後した。
バレるリスクはあったが、危うい橋はベアおばがくる前に渡っておきたい。
今なら疑われる、怒られるだけで済む。しかしベアおばが来れば……うん、粛清されそう。
まあそんなわけで、リスクを犯すには今しかない。
そんな考えに基づいて行動し、得られた結果がこれだ。つまり俺がちょうど高校二年生のあたりで、本編が始まる。
「最っ悪だ…!」
だってさあ!三、四年後には内乱開始!四、五年後にはベアおばの洗脳教育が始まって!その後トリニティ襲撃!その後エデン条約襲撃!さらにベアおば色彩にタッチ!
やってられるかこんなクソゲー!俺は人生降りるぜ!
「はあ…」
現実逃避もほどほどに、再度考える。
「…一応、逃げれなくもないんだよな」
分かったことその三。ベアおばが来るまでは圧倒的な過激派ばかりでなく、穏健派の生徒たちも多い。
でもって、多分それが内乱の原因。
恨みを受け継いだ生徒と、そんなのどうでもいい生徒の摩擦。んで、どっちかが手だして、そのままドンパチ。ベアおば登場。おしまい。恐らくはこんな流れ。
だから今なら来る者いねえ、去る者殺すと言わんばかりのバイオレンス校風じゃないし、まあ多分大丈夫。
…ただし、その場合。
「見捨てることになるよなあ…」
アリウススクワッドのメンバー。ティーパーティの三人。
彼女たちは、俺が助けるまでもなく救われる。シャーレの先生の手で。
それはいい。そもそも、俺が先生のやったことをできると思うくらい自惚れてない。
けど、それでも。たとえ救われることが確定していても。彼女たちは苦しむことになる。長い間、何度も、何度も。
それだけじゃない。今、俺と同年代の生徒たちは、多分…恨みを、忘れられない。ベアおばの教育のままに生き続ける。
「それは、なんかやだなあ…」
つまるところただの感情論だ。
なんとかできるかもしれない。ちょっとだけでも、助けられるかもしれない。
そう思うと、ここで自分一人逃げる気にはなれなかった。これから何が起こるのか分かってて、それを指咥えて見てるだけで。そのせいで人が苦しむなんて、俺はごめんだ。
それをやれば俺は、きっと一生自分を好きになれなくなる。
「…これから、どうしよう」
いきなり三年が経ちました。
巻いてかないと…!
アリウススクワッド
・アリウス分校の特殊部隊。アリウスっていうと大体この子たちを指す。
シャーレの先生
・シャーレと呼ばれる超法的機関で働く『大人』。
・先生とは言うが担当教科などがあるわけではなく、基本的に便利屋のようなことをしている。
・教員は普通に居るが『先生』は彼(彼女?)以外存在しない
シャーレ
・先生の勤務先。
・生徒に協力を仰ぎ、キヴォトスでの様々な問題の解決にあたる。