ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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襲撃の終わり

「みんな、無事ですか?たった今、百合園セイアを気絶させました。フィリ、ミネは?」

『…随分前に……移動したよ……今は…小隊長の方に……向かってると思う』

 

 神秘で聴覚を強化し、建物内の状況を探る。

 

 鼓膜に響き渡る戦闘音。

 その中にたった一つ、明らかに他に比べて素早い足音。

 

 おそらく、ミネの物。

 

「はい、確認しました。では、全軍撤退。スクワッドはもう少し持ちこたえてくれると助かります」

『ぐっ…了解した!』

『第4分隊も撤退していーの?囮役がいなくなるけど…』

「問題ありません。代わりに、撤退が厳しそうな隊へ助力をお願いします」

『だ、第6分隊ッ!!!第6分隊でお願いッ!!!』

『ちょ、ちょっと伏貫ヨセ…!?私のサポートじゃ不足だって言うの…!?』

『そうは言わないけど、流石に正義実現委員会は層が厚すぎるよぉ!!私たちはツルギからは逃げれるけど、他の子は厳しいって!!』

 

 そんなにか…正義実現委員会については、想定が甘かったな。

 

「第3、5分隊は大丈夫ですか?」

『問題ありません』

『歌住サクラコは、一時撤退させることができたよ。とはいえ、こちらも人数が多いからあまり余裕はないかな』

「わかりました。ではレイ、お願いします」

『オーケー、じゃーそっちに向かうねー』

「さて…」

 

 こうしている間にも、ミネの足音はどんどん近づいてきている。

 あまり時間に余裕はない。

 

「できれば、かち合いたくねぇな…」

 

 それに、スクワッドもミカ相手にどれだけ持つかわからない。

 

 一応、サオリを始めとし特に優秀な人材を集めているわけだから、そんなに心配はしていないが…。

 

「急ぐに越したことはない、か」

 

 窓ガラスを叩き割り、窓枠に足をかける。

 

「下には…誰もいないな」

 

 そのまま足を思いっきり踏み出し、空中へと飛び出した。

 

 落下する浮遊感に耐えつつ、地面に到達するところで膝を曲げて衝撃を逃す。

 

「ふぅー…ちょっとビリビリ来たな」

 

 軽くジャンプして足の調子を確認しつつ、サオリの方へと向かった。

 

 

 

 

「ねぇ、あなた達は何者なの?なんのためにこんなこと…」

「…!」

「うーん、沈黙かぁ…まあいいけどさ。それなら、相応に覚悟はできてるよね?」

 

 錠前サオリは焦っていた。

 確かに、アリウススクワッドであれば聖園ミカを相手にしても互角以上に戦うことができる。

 だが、しかし。

 

「えいやっ!!」

「っ…!」

 

 自身の背後にあったはずの壁が、軽く放ったジャブの様な拳、そのたった一撃で原型を留めずに粉砕されてしまう。

 

「くっ…!」

 

 少なくとも、腕力だけであればあの桐花スオウさえも上回っている。

 サオリが今まで戦った中で最も強い、アリウスの小隊長。彼女は様々な道具と搦手、そして武術を用いて戦うタイプだ。

 

 …だが、目の前にいる化け物は。

 

「はぁっ!!!」

「が、はっ…!!」

「…浅かった?いや、衝撃を逃したんだね。結構やるなぁ」

「っ、リーダーッ!!」

「あなたも、サポートが上手だね。すごくやりづらい」

 

───暴力。

 

 他に形容する手段を、サオリは持ち合わせない。

 

 ただひたすらに、その力の赴くままにその破壊を撒き散らす、圧倒的な暴力。

 

 彼女は、考えることができないわけではない。

 思考の果てに、己の腕力により拳を振るい、己の力により銃弾を放つというシンプルな解決方法が存在するだけ。

 

「リーダー、前衛は交代しよう」

『私たちに任せて、少し休んで』

「…ああ、頼んだ」

 

 互角以上に戦えるとは言っても、こちらの攻撃もさして通っているわけではない。流石に、スオウを相手にしている時よりは通っているが…。

 

 聖園ミカを倒せ、という命令なら容易でなくとも、さしたる苦労もないだろう。だが今サオリが求められているのは、時間稼ぎだ。

 故に、その難易度は比肩できないほど跳ね上がっている。

 

 もし聖園ミカがこちらの陣形を崩すことに注力し、たった一人でも戦線を離脱させられてしまえば、負けるのは必至だろう。

 

 時間をかければかけるほど、こちらは不利になっていく。

 

「きゃっ!?」

 

 ヒヨリのスナイパーライフルより放たれた銃弾がクリーンヒットし、一瞬怯む、が。

 

「…痛いなぁ!!」

『ひっ…!な、なんで効いてないんですか…!?』

「落ち着け、痛がっている…見た目よりは、通っているはずだ」

 

 通信越しに聞こえてくるヒヨリの弱音を窘めながら、サオリも戦線へと復帰する。

 

「そっちだね!」

『う、うわぁ!?こ、こっちに来ましたぁ…!!』

 

 そうして、聖園ミカがヒヨリに目をつけた次の瞬間。

 

「一回、リセットしようか」

「うわっ!?」

 

 あらかじめロケットランチャーを構えていたミサキが、移動する聖園ミカに向けてその爆撃を放つ。

 

「よくやったミサキ!全員、一時退避だ!特にヒヨリ、もっと下がれ!」

『わ、わかりましたぁ!!』

「げほっげほっ…!」

 

 このまま退避と交戦を繰り返していれば、聖園ミカを相手に時間稼ぎをすることは容易い。サオリはそう考えていた。

 だがそれは、繰り返せればの話。

 だからこそ、焦る。

 

 一体後どれほどの回数、この怪物を相手に撤退することができる?段々と、自分たちの動きにも慣れてきている。

 みんなの体力も無限ではない。徐々に、徐々にではあるが疲労が溜まっている。

 

「もう!!!いい加減に、してっ!!」

「な、ぁっ!!?」

 

 突如として聖園ミカが地面を殴りつけ、地震のような衝撃が走る。

 地面がひび割れ、砕け、破壊されていく。

 

 予想外の動きにサオリはなんとか対応できた、が、しかし。

 

「…!」

「ッ、姫!!!」

 

 聖園ミカに最も近かった秤アツコは話が別だ。

 

「まずは、あなたからっ!!」

 

 この距離では、自身はフォローに回ることができない。

 

 白洲アズサについても、先ほどの衝撃から未だ立ち上がれない状態にある。

 

「くっ…!ヒヨリ!!」

 

 一か八か、アツコも巻き込む覚悟で槌永ヒヨリに狙撃を頼む。

 

『っ…!わかりました…!!やります…!』

 

 いよいよ場の均衡が崩れ始めた、次の瞬間。

 

「お、らァッ!!!」

「うわぁっ!!?」

 

 突如として現れた白髪の女が、聖園ミカを蹴り飛ばす。

 

「…っはは…遅いぞ、馬鹿小隊長」

「それを言うなら馬鹿姉貴でしょう。ごめんなさい、時間がかかりました」

 

 ガスマスクから新調した仮面を正しながら、桐花スオウは聖園ミカへと向き直る。

 

「さて…」

 

 スオウにとっては、ここからが本当の戦い。

 そのことを察しながら、サオリはあらためて銃を持ち直した。

 

 

 

 

「…」

「姉、貴…?それに、その喋り方に髪の色…あなたは、ひょっとして…」

 

 …思ったより、気づかれるのが早かったな。

 

「スオウ、ちゃん…?」

「…はい。三日ぶりですね、ミカさん」

 

 仮面を外し、ミカに素顔を晒す。

 

「っ、なんでここに?そ、そこ離れた方がいいよ…?ソイツら危ないから…急にトリニティを」

「ミカさん」

「…ぁ」

 

 サオリに視線を送り、マスクと帽子を外してもらう。

 

「サオリちゃん…?」

「……今回の、騒動。主犯は、私たちアリウスです」

「っ、な…なんで、そんな、こと…!!」

「…上の命令だから、です」

 

 …驚愕するミカを見ていると、本当に心が苦しくなる。

 

「そん、な…わた、私は…!!本気で…!本気で、みんなと仲良くできるかもって!!!」

「私も同じです。私も…あなたとわかりあいたかったし…少なくとも私とあなたの間だけなら、できていたと信じています」

「っ…!」

「……それでも。やるしかなかった」

「やるって、何を…?」

 

 …今ここで、伝えるしかない。

 

「…百合園セイアの、ヘイローを破壊することです」

「……は?」

「……」

「どういうこと…?じゃ、じゃあセイアちゃんは…!?ねぇ!セイアちゃんはどうなって」

「落ち着いてください」

「無理に決まってるでしょ!!?答えてよッ!!!」

 

 殴りかかってきたミカの攻撃を避けずに、そのまま体で受け、吹き飛ばされる。

 肋骨に、ヒビが入る感触。

 後頭部に強い衝撃が走り、激痛へと変わる。

 肺が圧迫され、息が漏れる。

 

「スオウッ!?」

「っ、なんで避けないの!!?さっきの動きができたなら、このくらい…!」

「…ごほっ…!はぁ…!……私たちに…敵意は、ありません…それを、示すため…」

「…!!セイアちゃんを殺しておいて!!?そんなの、信じられるわけないでしょ!!」

「セイアさんは生きています」

「……!!」

「信じられないかもしれません…でも、本当なんです…嘘だと思うなら……」

 

 …アズサに渡された『ヘイローを破壊する爆弾』を取り出し、自身の体に取り付ける。

 

「なっ…スオウ…!?何やってるの…!?」

「…それは?」

「…『ヘイローを破壊する爆弾』です。この爆風が当たれば、私たちヘイローを持つ生徒は、有無を言わさずに死に至ります。たった一つしかない…今回の作戦で、使うように指示されたものです」

「…それで?」

「…もし。もし、あなたが私を信じられないというのなら。私はこれを爆発させて、証明します。私の、死を以て。断じて、セイアさんを殺していないと」

 

 起爆装置に手をかけ、ボタンへと指を乗せる。

 

『す、スオウさん…!?ダメですよ、そんなの…!!』

『駄目。絶対やめて。やらないで』

「静かにしててよ。スオウちゃんは今、私と話してるの」

「…それで、どうします?」

 

 仮面を付け直し、聖園ミカに質問する。

 

「…みんなの反応を見るに、嘘ではなさそうだね。うん、いいよ。それで納得してあげる」

「…っ、聖園ミカ!!頼む、他のことならなんでもするから…!やめてくれ!!」

「それじゃあ…3で行きますか」

 

 …大丈夫。俺の知っている、聖園ミカなら…。

 

「サン…」

「ちょっと、スオウ、何考えてるの…!?本気でやるつもり…!?」

 

 原作の、聖園ミカなら。

 

「ニ…」

「スオウ!!やめて!!私たちも説得することを手伝うから、考え直して!」

「動かないで」

「きゃあっ!?」

 

 人を殺すことを恐れている、聖園ミカなら。

 

「…イチ」

「やめろッ!!!」

「…ゼ」

 

 起爆装置のボタンを、指で思いっきり押したその瞬間。

 

「オーケー。もう十分だよ」

 

 ミカの放った銃弾により起爆装置が破壊され、その効力を失う。

 

「……ふー…」

 

 全身から冷や汗かドッと出てくる。心臓が、早鐘を打ってやかましい。

 

 …聖園ミカなら、直前で止めようとするはずだと、そう思った。

 

「…うん、ひとまずは信じてあげる。あなたは今、本気でそれを押すつもりだった…それに、その爆弾の型、見たことない。多分、独自のものなんだよね…?多分、本当なんだと思う」

「ありがとう、ございます…」

 

 一応、保険で仮面は着けておいた。

 万が一にも、今俺が死んだら…その先がどうなるかわからないからな。

 今ここでは、死ぬわけにはいかなかった。

 

「…でも、なんでわざわざ私に会いにきたの?それに、セイアちゃんはなんで命を狙われて…」

「…あまり時間がないので、よく聞いてください。まずセイアさんが狙われていた理由ですが…彼女の持つ未来予知が、上にとって邪魔だったからです」

「っ…そ、っか。じゃあ、それは…」

 

 …情報を漏らした、自分のせいだと言いたいのだろうか。

 

「それは違います。殺そうとするやつがヒャクパー悪いに決まってるでしょ、そんなの。あなたは利用された、ただそれだけ」

「…」

「それに、セイアさんは…生きていますから。意識不明の、重体で」

「っ、重体…!?なんで、そんな」

「セイアさんの死を偽装するためです。今、救護騎士団の蒼森ミネさんが彼女の元へ向かっています。きっと、彼女なら…セイアさんを、死んだものとして扱うでしょう。誰に狙われているのか、わかりませんから」

「…だから、私に…」

「はい。セイアさんの生存を伝えにきました」

 

 …だから。

 

「…だから、もう…私たちには、関わらない方がいいです。また、利用されてしまいます」

「…あははっ…結構、ちゃんと考えてたつもりなんだけどな…」

 

 …良い。それで良い。

 罪悪感は、抱かなくても良い。ただ、きちんと考えなくては利用される危険性もあると、身をもってそう認識さえしてくれれば…きっと原作のようにはならず、ちゃんと考えて行動ができるようになるはずだ。

 

「…私は。本当に、心から…あなた達を、助けたかった」

「…十分、救われましたよ」

「みんなと、分かり合いたかった」

「私は、分かり合えたと思っています」

「…私じゃ…力不足だったのかな…?」

「そんなことありません。でも、私たちの上にいるヤツは…あまりに、強大すぎる」

 

 ミカに非が、全くないというわけではない。

 だが大前提として、あのベアトリーチェのカス野郎が悪い。

 利用するヤツが悪いんだ。

 

「…さようなら。聖園、ミカさん。幸せに、生きてください」

「っ、待っ、きゃあっ!?」

 

 爆弾を起動し、ミカの視界を塞いで、スクワッドと通信を繋ぐ。

 

「みんな、撤退です」

『…帰ったら、話したいことがある』

「…はははっ。わかってます。明日でもいいですか?」

『…いいだろう』

 

 できるだけ急いで撤退しながら、先に撤退したみんなと合流した。

 

 

 

 

「…どうしてあんなことをした」

「…え、えーと」

 

 翌日の夜。サオリ達の住んでいる建物に招かれたかと思えば、スクワッドの五人、全員に囲まれていた。

 念のため神秘で聴覚を強化し、盗聴器がないこと確認する。

 

 …なんというか、この確認もだんだん癖になってきてるな。

 

「アレ、止められなかったら本気で押すつもりだったでしょ…死ぬつもりだったの?」

「そ、その、かけ」

「駆け引きの一環だったと言われれば、それまで。でも、だったらせめて皆に一言伝えておくべきだったと思う」

「す、すみませんでした…!」

「ほ、本当ですよ…!!すっごく心配したんですから…!!」

「はい…」

「…ホントに、無事でよかった」

 

 …とんでもなく心配をかけてしまった…!

 

「で、でも言い訳させてください…!」

「黙れ」

「酷い!!?」

 

 反論一つさせちゃくれねぇ!!?

 いや、心配かけたのは俺が悪いんだけどさ!?

 

「そ、その!!この仮面なんですけど…!」

「…仮面?私の仮面を借りたことと、関係あるの?」

「そう!そうなんですよ!!まさしくそうなんです、アツコ!!!」

「…いいだろう、話せ」

 

 本当はあんまりみんなには伝えたくなかったけど…!

 

「この仮面、着けてる人を死なせない効果があるんですよ!!」

「…よし、ミサキ。油を持ってきてくれ。久々にこのアホに火をつけよう」

「わかった、任せて」

「待ってぇ!!?嘘じゃないですからぁ!!」

 

 この感じ、久しぶりだなぁ!?

 

「…待って、スオウ。詳しく聞かせて」

「あ、アツコぉ…!?信じてくれるんですね…!!」

「…いずれにしても、身を危険に晒したことには変わらないけど。話くらいは、聞いてあげるべきだと思う」

「…私も、賛成。もしかしたら、スオウなりに考えがあるのかもしれない」

「わ、私もそう思います…!」

 

 さ、三人ともぉ…!!暴力的じゃなくて助かるなぁ…!

 

「…はぁ。詳しく話してみろ」

「その、この仮面の中にある機器を調べてわかったんです。これには、着用者を一度だけ死から逃れさせる効果があります。代わりに、この仮面は壊れてしまうみたいです」

「…それ、本当に?」

 

 まあ、普通疑うよな。

 

「根拠もありますよ。アツコです」

「…私?」

「アツコは…生贄にされる予定でしょう?」

「…」

「もちろん、そんなことさせるつもりはありません。安心してください」

「…ありがとう」

「いえ。それで、アツコが死んでしまうことは…ベアトリーチェにとっても、不利益なことのはずです。ですから」

「…なるほど。この仮面なのか」

「そういうことです」

 

 よし、納得してもらえて…。

 

「…だが、保証はあったのか?」

「うぐっ…!」

 

 そ、それを言われると弱い…!原作知識でわかっていることだけど、でも…!俺の仮面が同じ機能を持つ保証があったかといえば…うーん…。

 

「…おい」

 

 サオリの目がどんどん怪訝なものは変わっていっている。

 

「え、えーっと…」

 

 どう説明しても責められる気がする…!!

 ど、どうしよう…!

 

『お、お姉ちゃん…?』

「お、おおっとぉ!!シオからいきなり通信が!!すぐに出ないとなー!!」

 

 ナイスだシオ!!

 

「おい待て逃げるな貴様!!」

「へっへーん、聞こえませんねぇ!!シオ、どうかしましたか!?」

『じょ、錠前サオリと一緒にいるの…?』

「え、あ、はい」

「シオ、お前もこっちに来い!このアホはな…」

「わ、わー!わー!!わー!!」

『…事情は後で聞くわ…!それより、今は…!』

 

 そういえば、シオがこんな時間に通信とは珍しいな。

 何かあったのか?

 

『聖園ミカが、また接触してきたの!!今、アリウス自治区の前にいるって…』

「……はあ!!?」




更新遅くなってすみません…私生活の方がかなり忙しかったです。
9/8あたりからお気に入りと総合評価がいきなり増えててびっくりしました。ありがとうございます…!でもなんで…?
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