百合園セイアの襲撃作戦から、約半年。
『連邦生徒会長の失踪以降、白紙になっていたエデン条約ですが…なんと昨日、ティーパーティのホストである桐藤ナギサさんが調印式の準備を進めていることを発表しました!一度は空中分解仕掛けていた条約ではあったものの…』
「…ってことで、ニュースにもなってたんだよね。だから、まさかと思って来てみたんだけど…」
「はい、そのまさかなんですよねー…」
「これがスマホ…実物は初めて触った」
アズサがミカから受け取ったスマートフォンを返す。
「うーん、やっぱりかぁ…ってことは、今度は…」
「…いえ。誰かを殺されるよう指示されることはありませんでした」
「…詳しく、聞いてもいい?」
「はい、もちろん。立ち話もなんですし、そこの建物で話しましょう」
◇
「エデン条約…また、厄介なものを…一度、空中分解しかけたのではないのですか?」
「桐藤ナギサが、水面下で進めていたようですね。もし万が一、この条約が成立してしまえばあなた方の勝利…ゲヘナとトリニティの抹殺は、ほぼ不可能に近くなります」
私たちが情報を収集するまでもなく、上はエデン条約の概要を確認していました。
まあアイツはキヴォトス内を自由に動けますし、概ね予想通りではあります。
そのため、私は条約の妨害を提案したのですが…。
「でしたら、今すぐにでも条約を取りやめさせるために…」
「いえ」
…予想外だったのは、そこからなんです。
「どうせなら、盛大に利用してやりましょう、ええ。数日、待ちなさい」
そんなことを言い出したんです。
「え…?っ、失礼しました」
予想外の発言で、思わず素で驚きかけたくらいですよ。
「…構いませんよ。疑問に思ったのでしょう?…そうですね、あなたには、いずれ伝えることです。それまでの間、情報収集のためにトリニティへ一人スパイを紛れ込ませなさい。聖園ミカの協力があれば可能でしょう?人選はスオウ、あなたに一任します」
「…了解いたしました」
◇
「…と、まあそんな感じで。今はまだ何をするつもりなのか伝えられていませんが…どうせ碌でもないことをしようとしているんでしょうね」
ささくれた椅子に腰掛けながら、テーブルの向かい側にいるミカにそう説明する。
本当は何をするつもりかは…まあ、多分アレだろうな。
「…そっか。スパイを…」
ミカは沈痛な面持ちで…おい待て。
「ミカさん…?どこ見てるんですか…?」
「…えっ?あ、ごめんね!なんか服が引っかかるのが気になって…」
「……」
…確かにこの建物、ボロボロだもんなぁ。
「ごめんなさい…ここでもかなり綺麗な方なんですが…」
石造りの建物とかにしといた方が良かったか?あそこなら石製の椅子がある。
…いやでもなぁ…あそこはあそこで服が汚れるし…実際、一回ミカはそれで汚してるしな。
「だ、大丈夫だよ…気にしないで…話逸らしちゃってごめんね?それで、スパイだっけ?」
「はい。先ほども言ったように、人選は私に任せられているのですが…私としましてはこの子、白洲アズサを推薦します」
この件は、サオリ含め全分隊長とスクワッドが了承済みだ。
念の為他の妹たちにも希望調査はしたところ、そこそこ志願者はいたが…原作知識、つまり贔屓目を抜きにしても、白洲アズサに最も適正があると判断した。
「白洲、アズサちゃん…初めましてだね!」
「…初めまして。スオウやサオリから、話はよく聞いている。なんでも、その……うん。聞いている」
「スオウちゃん?一体私のこと、どんな伝え方をしてたのかな?」
「わ、ワタシナンノコトカワカラナイナー」
「ねぇ、こっち見てよ。口調いつもと変わってるよ?ねぇ」
いや、俺は事実を伝えたまでだよ?
ただその結果、アズサがミカのことを結構頭が弱いと判断しただけで。
「と、とにかく!この子が件の、私の妹が一人!!白洲アズサちゃんです!」
「露骨に話逸らしたね…まあいいや。よろしくね、アズサちゃん」
「ああ、よろしく頼む。あとスオウ、私はスオウの妹じゃない」
「ふむふむ…」
「……え、えっと…?」
ミカがアズサの周りをぐるっと回り、ジロジロと観察する。
「…あ、羽あるんだね!触ってもいい?」
「え…?」
「…わ、すごくフワフワ。これは結構ポイント高いよー」
「そ、その」
「髪は伸ばしてるんだ…うん、無難に見栄えは良くなりそう」
「あの…」
「ヘイローはシンプルな形に、薄い黄色…あんまり目立たないね。胸は普通…目は…薄い紫か。綺麗な色…よしよし、定まってきた」
「す、スオウ…!」
…わー、アズサにすっごい助けを求める目で見られてる。
グイグイ行き過ぎじゃないか、ミカ…いや、確かにミカはそういうタイプだけどさ。
「うん、いい感じ!スオウちゃん、いい審美眼してるよ!アズサちゃんなら、トリニティでもやっていけそうだね!」
「別に見た目で判断したわけじゃないですからね…?」
どちらかというと、スパイとしての能力とか協調性で判断したんだが…?
アズサは戦闘力もさることながら、トラップの組み立ての速さ、知識。
万が一があっても一人でなんとかできるし、罠や監視にも対応できると思ったから選んだんだけど…。
「え、そうなの?正直、ある程度身だしなみにも気を遣えないと、トリニティではやっていけないよ…?」
「あー…そういう…」
ドロドロしてるところもあるからな、トリニティって。
いや、もちろん全員が全員そうだとは言わないけど…お嬢様の陰湿な部分というか、負の側面を持ち合わせてるイメージがある。
ってことは、ミカの言うとおり見た目も大事になってくる…うん、ちょっと予想外だ。
「そういう意味では、アズサちゃんはかなりいい人選だね。シンプルな装飾で綺麗になるよ、この子」
「…なるほど、そういう視点もありますね…ミカさん、その辺はお願いしてもいいですか?」
「もっちろん!じゃあアズサちゃん、まず制服なんだけど、結構自由に改造が認められてるんだ!そのまま着る子もいるけど…絶対改造した方が可愛いよ!しよう!?ね!?」
「え、えっと…制服というのは、今ミカが着ているソレのこと…?」
「そうそう!トリニティのはね、セーラー服…って言ってもわからないか!えっとね、こんな感じでね…」
アズサがタジタジになっている…すごい意気込みだな、ミカ。
まあアクセサリー集めが趣味って言ってたし、ファッション関係は好きなんだろうか。
「ってことで、セーラータイプとコルセットドレスタイプの二つから選べるの!どっちの制服も、雰囲気自体は合うと思うんだ!でも、そうだなー…アズサちゃんは白髪だから、スカートは黒くしよっか!ってことは、コルセットドレスタイプの方にして…アウターは、あえてセーラっぽいデザインにしようか!袖を通す感じで…これなら、前は開けていいね!アズサちゃんは身長の割にスタイルいいから、ラインが出る服も似合うはずだよ!」
「そ、その…私は、そんなにこだわらなくても…」
「ダメだよ絶対!せっかく着るんだから、可愛くしよう!?それでね、スカーフは青よりも黄色の方がいいと思うんだ!ヘイローの色にもあってるし…そういえば、ヘイローは植物型だよね?だったら装飾に花を入れて…目の色に合わせて、これは紫色!服自体はシンプルだから、装飾はいっぱいつけて良さそう!スカートと、あと髪飾りと、羽飾りにつけようか!それで金色の金具を使えば、黒いコルセットドレス風の服と合わせて高級感が演出できて…」
「す、スオウ…!お願い、助けて…!」
「…ごめんなさい。これも、必要なことなんです…!」
「そ、そんな…!」
「そうだ!せっかくだから、アリウス分校のモチーフ!スオウちゃん、どんなやつなの?」
「え?あ、こんな感じです」
小隊長、および分隊長の証である腕章をコートから取り、ミカに渡す。
「うんうん…よし、コレをスカーフ留めにしちゃおう!大事な、みんなとの繋がりだからね!あ、写真撮っとくね?色はやっぱり金色で…」
◇
「…よしっ!大体のイメージはこんな感じかな!どう?アズサちゃん、スオウちゃん」
「……つ、つかれた…!」
「どれどれー…」
ミカからスマホを受け取り、画像編集アプリで作られたアズサの制服を見る。
…原作で見たアズサの服と、おそらくは相違ないもの。
ノートには特徴ぐらいしか書かれていないから、全く同じかはわからないけど…大体同じ、だと思う。
「…可愛いですね!絶対アズサに似合いますよ!」
「だよねだよね!よかったぁ!じゃあ、転校の手続きが済んだら、制服はこれで依頼出しておくね!」
「いつ頃になるんですか?」
「そうだなー…大体、一ヶ月くらいかな?そこそこかかっちゃうかも!」
「そうなんですか…早く見たいですね、可愛い服を着たアズサ」
本当、絶対に似合うぞ、あの制服。
この辺は、俺にはできないセンスだからな…ミカにやってもらえて良かった。
「うんうん、わかるよ、その気持ち…転校前に一度持ってくるから、そこで着てもらうね!細かい調整は、そこでしよっか。手入れとか、新しい服とかアクセサリーの見繕い方もこれから教えてあげる」
「っ…!?お、悪寒が…!」
「トリニティで生きていくためには、必修事項だよ!」
…アズサ。頑張れ…!
「…スオウちゃんも制服見繕ってみる?」
「…え!?な、なんで私!!?」
こっちに飛び火するのは予想外だ…!流石にあんな目に遭うのは勘弁して欲しいんだけど…!?
「や、スオウちゃんとアズサちゃん、特徴は結構似てるよね?白髪に、植物型のヘイローに、結構二人とも身長小さくて…胸と羽はないけどさ」
羽はともかく、胸は大きなお世話だな…ふむ…確かに言われてみれば、そうか?
「だからこう、姉妹コーデみたいな感じで作ってみたいなぁって」
「…姉妹?ちょっと詳しく聞かせてください」
「おっ、興味出てきた?よしよし、それじゃあアズサちゃん、ちょっとデザインの変更のためにまた協力してよ!」
瞬間、アズサがサーッと顔を青くさせる。
「い、嫌!!スオウも、そんなもの作らなくていいから!」
「え?いいじゃないですか。お姉ちゃんとお揃いのファッション作りましょうよ!」
「誰が妹だ!!!絶対に嫌!!」
「そうだなー、スオウちゃんにおすすめのアクセサリーは…」
「だ、だからやめて!!」
◇
「…それじゃあ、今日はこんなところで帰るね!次は、ファッション誌と学校の資料も持ってくるよ!」
「はい!お疲れ様でした!」
「はぁ…はぁ…」
…あ、アズサ…すごく疲れてる…。
流石に姉妹コーデは勘弁してくれと言われたので、デザインを作るだけにとどめられた。
…後でアズサに渡されるスマホに送ってもらおう、あのデータ。
「…あ、それと最後に」
「…?」
これが一番大事なことだ。
「…ミカさん自身は、エデン条約をどうしたいと思っているんですか?」
「…どうしたい、か」
エデン条約。
…つまり、ゲヘナとの実質的な和平協定に近い。
「うーん…」
…ミカは、ゲヘナのことが嫌いだ。嫌いなものは嫌いだから、嫌いなんだ。
今のミカも、きっとそれは変わらない。それはいい。
…ただ、その上で…ミカは一体、エデン条約に対してどういったスタンスをとるつもりなのだろうか?
「…正直、ね。私は、この条約の設立に反対だな」
「でしょうね。ミカさん、ゲヘナ嫌いですし」
「うん。アイツら、野蛮だし、ツノ生えてるし、尻尾もあるし…」
「…野蛮については、人のことを言えないと思う」
ミカと戦った経験からかアズサがボソッと呟くが、聞こえなかったのか構うことなく話を続ける。
「確かに、もしスオウちゃん達と、アリウスと協力すれば…ナギちゃんを行動不能にして、ホストから降ろして、私がホストになれる。そうすれば、エデン条約なんて馬鹿げたものは止められると思うの。多分、スオウちゃんはそういうことを言いたいんだよね?」
「…」
頷いて肯定を返す。
「…大丈夫、そんなことするつもりないよ。立場には責任が伴う、だったよね?もしナギちゃんまで行動不能になって…私がホストになった後いきなり、エデン条約やめよう☆…なんて言ったら、大混乱だよ」
…覚えて、いたのか。
「だから、反対するならせめて真っ向から反対する…って思ったけど、よく考えたらこれもすごいことになっちゃうね…和解を持ちかけた側の権力者が、和解に反対してるって…」
「…そうですね」
「でもね。正直、私は…エデン条約がうまくいくとは、思ってないんだ。そのくらい、お互いの対立は根が深いし…性格も、合わない子が多いから。個人間ならまだしも、組織ぐるみで協力なんて無理だと思うよ」
「…はい」
実際問題、ミカの言うとおりなんだよな…エデン条約の調印式でさえ、睨み合っていたというのに…無理に協力しようとしたって、うまくいくわけがない。
「だから、私はこの件については静観かな。多分、調印式で諍いが起こってうやむやになるよ」
「はははっ…否定できませんねー」
「…そうなの?」
「そうなんだよ。本当、ゲヘナって野蛮で低俗な連中が多いからね。いい?アズサちゃんもトリニティにくるなら、ゲヘナのことは嫌いになっておいた方がいいんだよ。ほら、復唱してみて?『ゲヘナは嫌い、あんな連中、下劣で低俗な」
「ひ、人の妹に強い思想を植え付けないでくださいよ!?」
いきなり何しようとしてやがるコイツ!?アリウスに思想の植え付けとかシャレにならねぇぞ!?
いや、アズサなら多分大丈夫だろうけどさ!
「あちゃ、バレたかー…でも、エデン条約については本当に何もするつもりはないよ」
「…そうですか。それを聞けて、安心しました」
とにかく、ミカの手によってはエデン条約の妨害は起こらないし、ミカ自身には起こすつもりもない…か。
この事実が知れただけでも、十分収穫だな。
「それじゃあ、今度こそお別れかな。それじゃあ、また来週会おうね!」
「はい!また来週!」
いそいそと帰るミカをアズサと共に見送り、居住区へと戻った。
原作でもアズサの服がやけに装飾は派手なのは、ミカのチョイスじゃないかなーと思ってみたり。
本人の趣味がアクセサリー集めですし、手続きをしたのはミカのはずですからね。
最近分隊長の過去編を用意しているのですが、いつぞや述べたように番外編として投稿します。
また、オリキャラにはあまり興味がない方もいらっしゃるかも知れないので、本編の更新と同時に投稿することになると思います。
そのため、投稿がいつになるのかはわからないです。もしかしたら全分隊長の過去を投稿する前に本編が終わってしまうかもしれません。申し訳ないです。