アズサの制服を作ってから、数日後。
「キキキッ…初めましてだな?アリウス分校」
「……はい、初めまして。マコトさん」
俺の目の前には、帽子を被った人相の悪い生徒が一人…。
「キキッ…このマコト様の名は、アリウス分校にも轟いているようだな」
「…ハーイ、ソウデスネー」
…ゲヘナ内でも知名度はあまり高くなかったと記憶しているんだが。まあいいか。
ゲヘナ学園における生徒会、万魔殿。その頂点に君臨せし……阿呆。
羽沼マコト、その人だ。
つい先日の話、アリウス分校に接触してきた…わけではなく。こちらから接触した。
ベアトリーチェから、エデン条約の情報源の増加と資源の確保、その両方を担う役割として指示されたものだ。
シオの通信技術を用いて、遠隔でゲヘナの万魔殿の公的な通信に堂々と繋いだ。
案の定、特に警戒されることなくアリウス自治区内に一人で現れたわけだが…。
「…あまりに無警戒が過ぎやしませんか…?」
「フッ…みなまで言わずともいい。トリニティをぶっ潰したいんだろう?」
「……」
…俺の計画には、マコトの存在…正確には、マコトに友好の証として贈られる飛行船が必要になってくる。まあ、あれは罠なんだけど。
ともあれ、マコトと結託することが必要になってくるわけだ。
であれば、ここは同調するフリをしておいた方がいい、か。
「……ええ、その通りです。トリニティを打ち滅ぼすために、あなたの協力が必要になります。協力してください」
「ソイツは条件次第だな…確かに、邪魔なティーパーティをぶっ潰すことができるが…それだけで協力するわけにはいかない」
…ま、そりゃそうくるわな。
いや、先に自分にある利を説明しちゃうのはどうかと思うけど。
「…私たちが望むのは物資の支援と、エデン条約の情報について。こちらは、先日通信でお伝えした通りです。こちらが提供できるのはトリニティの情報、襲撃の協力…加えて、エデン条約の破壊です」
「…ほう?」
「風紀委員、邪魔なんでしょう?空崎ヒナのメンツを潰すチャンスですよ?」
「……キキッ、わかってるじゃないか!いいだろう、協力してやる!」
…わーい、すっごく御しやすい。
いやまあ、この時点ではマコトは本来のアリウス分校はゲヘナも恨んでるなんて知らないからな…しょうがないところもある。
「で、具体的にはどうするんだ?エデン条約の破壊、ってのは」
「…その件については、一度持ち帰らせていただけませんか?こちらも、エデン条約の情報を得て間もないので」
「…ふむ、いいだろう」
「ありがとうございます。では本日はお引き取りください。あまり、長居するような場所でもありませんから」
「…そうだな。では、また何かあれば通信で呼んでくれ」
「あ、ちょっと待って下さい。その前に…」
「…?」
これだけは言っておかないと。
「…『契約』してください。私たちとの関係は、誰にも他言しないこと…加えて。エデン条約の調印式以降、私たちには一切関わらないこと」
「…?ああ、いいだろう」
「…ありがとうございます。では、さようなら」
コレは保険だ。
ベアトリーチェの殺害計画の実行に、羽沼マコトを巻き込まないために。
調印式の終了は、いつを意味するか?無論、調印の有無を決し、閉式が行われるまでだ。
…であれば。トリニティとしての権限を持つアリウス、その中でも代表者になり得る程度の地位を持つ俺なら、ゲヘナの代表者と共に調印し、式を終わらせることもできる。
実際それを行ったのが原作でもあるわけだが…アレは恐らく、ゲヘナ、トリニティ、両校の代表者が行動不能という状態だった。
あの『契約』は、不完全だった可能性が高い。
それを完全なものにする為に、マコトの意識は残しておく必要がある。
「…さて。マダムの指令は、もうそろそろでしたね」
…いずれにせよ、その辺りはベアトリーチェの指令次第だな。
◇
古ぼけた建物の中で目立つ豪勢な扉をノックし、開く。
「…失礼します」
「…ああ、あなたでしたか…して、どうでしたか?羽沼マコトは」
「マダムの言う通り、非常に御し易い存在でした。アレには、一切の警戒が必要ないかと…ですが、利用価値もない。調印式が終われば、使い捨ててしまって良いと考えます」
「…ふむ。概ね同意見ですね、ええ」
…相変わらず、鼻につく野郎だ。
「…して、エデン条約の調印式についてなのですが…一体、どのようにすれば…?」
「ああ、その件ですか」
…多分、俺の予想が正しければ…これは、俺の計画に深く関わってくるものだ。
「まず、この一件についてですが…実行の寸前まで、分隊長以外に伝えることを許可しません。そのことを覚えておいてください」
「……了解いたしました」
「ええ、いいでしょう。して、エデン条約でしたか…アレについては、利用価値があります」
「……利用価値?」
「…ふむ、追いながら説明していきましょうか」
珍しくベアトリーチェがこちらに向き直り、真剣そうな表情で話し始める。
「エデン条約の調印式…アレは、言うなれば第一回公会議の再現です。知っているでしょう?」
「…忘れるはずも、ありません。我々を排斥した、あの憎きトリニティどもの、生まれた日…」
「ええ、結構です。そしてトリニティとは、その時点ではあなた達アリウス分校と同じように複数の学校の集合体でしかありません。つまりあなた方は、エデン条約の調印式、その限定的な状況下においてはトリニティとしての権限を持ち合わせる…理解できますか?」
…概ね、『ノート』に書かれていた通りだ。
アリウス分校は、トリニティとしての権限を持ち合わせる。
「…理屈は、理解できます。しかし、それが一体どう関わってくるのですか?」
「結論を急くものではありませんよ」
「…申し訳ございません」
「いえ、結構ですよ。そして、エデン条約の調印式…内容としては、エデン条約機構がトリニティとゲヘナ、両校間に強制力を持った規律…つまりは、戒律を生み出す行為に他なりません」
「…なる、ほど」
「無論、それだけでは意味がない。ですが幸いにして、我々は戒律を守護せし者の血統…つまり、ロイヤルブラッドを待ち合わせているでしょう?」
……ロイヤルブラッド、ね…。
結局、俺は一体…どちらなんだろうか。
「…秤アツコが、関わってくるのですか?」
「その通りです。あの者の血さえあれば、マエストロの力によりその戒律を
「……?」
「ああ、理解していただけなくて結構ですよ、ええ。ともかく、エデン条約の調印式を事前に破壊するのは、その利を無に帰す行為に他なりません」
「…つまり、エデン条約を利用し、戦力を手に入れる、という認識でよろしいでしょうか?」
「…ええ、その通りです。あなたのそういった物事への適応力は、気に入っていますよ」
「…」
…駒として、だろ?
上から目線で人のことを舐め腐りやがって。
妹たちのことを、利用できる使い捨ての道具としか思っていない。
吐き気がする。
「詳細は追って説明しますが…今回は、私の方からも用意しなければいけないものが多い。多少なれども、時間がかかるでしょう」
「…お手を煩わせてしまい、大変申し訳ございません」
「構いませんよ。概略としては、エデン条約調印式の開始と同時に巡航ミサイルを打ち込み、各校の戦力を無力化しなさい。後に、マエストロという木の人形が現れます。その者と秤アツコに取引を行わせ、ユスティナ聖徒会を顕現し…あとはあなたたちの悲願通り、トリニティとゲヘナを手中に収めるのです」
…よく言うぜ。自分の戦力を確保するのが目的なくせに。
「ああ、それと…錠前サオリに伝えなさい。今回の一件、もし成功することがあれば…秤アツコを解放し、他の仲間も助ける、と」
「……よろしいのですか?彼女たちは……アリウスでも有数の戦力です。失うのは、かなりの痛手になると考えますが」
「ユスティナ聖徒会さえ手に入れば、戦力などいくらでも確保できます。問題ありませんよ」
「……そう、ですか…」
……欺瞞。
コイツは、わかっているんだ。
たとえユスティナ聖徒会を手に入れたとして、ゲヘナ、トリニティ両校を完全に手中に収めることなんてできない。
頭数と、地力が違いすぎる。
最初からサオリたちとの約束を守るつもりなんて、サラサラない。
「では、本日はもう結構です。帰りなさい」
「……失礼致します」
◇
建物を出て、自室…というか、廃屋に帰ってくる。
扉を閉め、神秘で聴力を強化し、周囲に人がいないことを確認する。
「……ようやくだ…!」
ようやく、ようやく…!ベアトリーチェを殺すための手札が、いよいよ揃い始めた!!!
「ユスティナ聖徒会…!ロイヤルブラッド…!」
俺はおそらく、ロイヤルブラッドである可能性が高い!
であれば、アツコの代わりにマエストロと取引し、戒律を起動することも可能となる!
そうでなくても、アツコなら起動することができる…だが、あまりこれは俺の望むところではない、あんな得体の知れない、周囲の迷惑を顧みない木の人形と契約なんざさせたいとすら思わない!
そして、エデン条約!エデン条約の内容に、ゲヘナ、もしくはトリニティの権利者がエデン条約機構を担う者を書き加えさえすれば、誰であろうとユスティナ聖徒会を利用することができる!
たとえエデン条約機構の役割を担うのがただ一人、たった一人であろうと!!指定する対象が
その上、ユスティナ聖徒会はある程度抽象的な命令であろうと自律的に理解し、行動することが可能になる!!
飛行船!!羽沼マコトに受け渡されるであろう、爆薬を積んだ航空機!!キヴォトスの人間に、大幅にダメージを与えるほどの威力を持ち合わせている!!
今日だけで、二つも!!二つも、大きな武器が手に入ったも同然だ!!
さらには、羽沼マコトの意識を残し、条約に調印さえさせれば…!捻じ曲がったものじゃない、本物のエデン条約が成立する!
後から消滅させることは可能だろうが、誰であろうと、たとえベアトリーチェや先生であろうと捻じ曲げることができない!!
そうだ!原作では、ユスティナ聖徒会は無理矢理停止されていた、しかしそれは元々捻じ曲げられた、まだ調印されていない不完全なものだったことが原因であることが可能性が高い!
ベアトリーチェに、同じ手段は取らせない!
少しだけでも、可能性を上げておくに越したことはないのだから!!
「はっ…!はははっ…!!!」
順調に、手札は揃い始めている!!アイツを、アイツを殺すための手札、武器が!!
「はははははははっ!!!」
あと少し!あと、少しだ!!
「待ってろよ…!!」
あと数ヶ月の内に、必ず!テメェのことを、ぶち殺してやる!!
ユスティナ聖徒会
・第一回公議の戒律を守護した組織。
・拷問を行うなど、悪逆非道な行為も躊躇なく行なっていたと言い伝えられている。
・ロイヤルブラッド(原作ではアツコ、本二次創作ではアツコ、スオウ)の祖先にあたる?
・シスターフッドの前身であるが、現代には残っていない。
マエストロ
・ゲマトリアの一員。
・双頭の木製人形のような見た目であり、蝶ネクタイのタキシード姿。
・芸術的観点、美学を重要視しており、神秘に対して独自の解釈を行う。
・過去の記憶を再現し、複製し、先生の仕事を増やす厄介なヤツ。