「さて…一ヶ月が経ったわけですが…アレはどうなりましたか?」
「ふっふっふ…じゃじゃーん!アズサちゃんの制服、持って来たよ!」
そう言ってミカが、紙袋から小さめの服を一着取り出す。
ミカには明らかに不釣り合いな、どちらかといえば俺が着れそうなサイズの服。
まごうことなき、アズサの制服だ。
「お、おおお!!」
なんというか、すごいな…!豪勢な感じだけど、気品がある。
前世で見た…セーラー、だっけ…?デザインとしては、パッと見それに近いな。
「これは……中々、派手だな…」
「うん…私もそう思う」
俺は良いと思ったけど、サオリ達には不評みたいだ。
まあ、四人は原作のアズサを知らないし、着た時のイメージもつきづらいのかもな。
『トリニティでは、これが流行りなの?』
「ミカさん曰く、三割くらいの人が制服を改造するらしいですよ。とっても素敵だと思います」
「え、えっと、この部品は…?」
「あ、それは羽飾りだね!お洒落でしょ!」
…羽飾り、か。
今更だけど、俺には羽やツノ、尻尾が無かったのは助かったな。
生まれながらにあるならまだしも、俺みたいに前世の記憶があるとうまく動きずらいだろうし…最悪の場合、生まれた場所から動けず死んでたかもしれない。
……いや、待てよ?羽があれば実質腕四本みたいなものじゃないか?
近接戦ではツルギも似たようなことをしていた。
俺にとってはないものねだりだけど、アズサやミカならひょっとして…。
「アズサ、ミカさん。羽で高く飛んで、敵を叩き落としたりできませんか?」
「どういう想定なんだ…?それは…少なくとも私はできないし、やろうと思ったこともない」
「そもそも飛べるようなものじゃないし、下手に扱うと骨折しちゃうよ…」
「そういうもんですかねー…」
ツルギと戦った時は、結構羽とかで攻撃もされそうになったんだけどな…まあ、それはツルギがおかしいだけか。
「あ、翼といえば…アズサちゃん、この制服の着方、わかる?」
「…翼の部分に、切れ目が入ってるから…なんとなく、想像はつく。どちらかと言うと、この装飾の付け方はわからないかもしれない」
「あー、確かに…」
羽のやつとか、どうやってつけるんだ?これ。
まさか刺すわけでもないだろうし…。
「うーん、そうだよね……よし、じゃあ私が教えるから、一回ここで着てみよっか!トリニティに行ったら、堂々とアズサちゃんに会うわけにもいかないからね!」
「……ありがとう」
「うん!ちょっとそこの建物借りるね!」
「了解した。スオウ、その場から一歩も動くなよ」
「動いたら、私のロケットランチャーが火を吹くから」
「私のことなんだと思ってます…?」
そのレベルで警戒されると流石に泣くぞ…?
◇
数分後、建物からミカと着替えたアズサが出てきた。
「よし、できた!どうかな…?」
「……正直、あまり着たことのない服だから落ち着かない。けど、見た目よりは動きやすいから、慣れれば問題ない」
「おお……!」
多分、前世で見た通りだ…!
前までのアリウスの制服、というか戦闘服も似合ってたけど、こっちのトリニティの制服の方が似合うな…!
「可愛いです!!!すごく、こう…!すごく、可愛いです!!」
「あははっ、変な感想!語彙が可愛いだけになってるよ…?」
しょうがないだろ、可愛いんだから。
「ふむ…思ったよりも、装飾は目立たないものだな」
「こ、こうしてみると、普通のトリニティ生徒にしか見えませんね…!」
「まあ、潜入任務だからね…むしろ、そうじゃないと困るでしょ」
『でも、スカーフ留めのこのマーク…』
「スカーフ留め?」
アツコの言う通りにアズサのスカーフ留めを見てみれば、そこに金色の刺繍が施されている。
まごうことなき、アリウス分校のマークだ。
「……ねぇ、コレ…」
「あ、アリウスの校章ですね…!」
「……おい、スオウ。お前は制服を作る場に立ち会ったはずだろう。なぜ止めなかった」
「…あー……はははっ」
「何を笑って誤魔化そうとしている…!」
いや、あまりに自然な流れで入れられてたから……というか、ミカの勢いを止められなかったのが本音だ。
「あ、大丈夫だよ!このアリウス分校の校章、少なくとも私は知らなかったし」
「だから不安なんじゃないですかね…」
「あれ?今私馬鹿にされたよね?」
「ワタシナンノコトカワカラナイナー」
「ねぇ、それ気に入ったの?すっごくイラっとするんだけど。ねぇ」
いや、多分大丈夫だろうけどね。そもそも目立たないような色合いだし。
「はぁ……まあいいや、それじゃあこれで渡すものは最後かな。アズサちゃん、準備はいい?」
「……ああ。問題ない」
……ミカにアズサの転入を頼んでから一ヶ月。
いよいよ、アズサが転入する準備が整った。
転入自体は明後日だが、もう荷物などは移動させなくてはならない。
だから、アズサは今日からトリニティ自治区に向かうことになる。
「アズサ、荷物は大丈夫ですか?」
「うん、しっかりと準備した」
「弾薬は?」
「ある」
「整備用具、トラップツール」
「入っている」
「学生証」
「持っているし、お金も入っている」
「私の権力パワーを使えばこんなもんだよ!」
……力とパワーで重複してるな。
いや、そんなことはどうでも良い。
「ならばよし。今回の任務は?」
「エデン条約の調印式、およびトリニティの戦力について情報を集めること。特に後者は、ミカでも下手に手出しはできないシスターフッドについて」
「シスターフッドは、ティーパーティの影響を受けないからね…」
「定期報告は?」
「週に二回、トリニティ自治区内の廃ビルにて、サオリとスオウに合流する。新たに命令があった場合、そこで受ける」
「うん、しっかり覚えてましたね…」
……もし全てが終わって、俺がベアトリーチェを殺せたとして。この世界でアズサは、トリニティに残るのだろうか。それとも、アリウスに戻ってくるのだろうか。
ベアトリーチェを殺せようが殺せまいが、俺にそれを知る術はない。それでも…できることなら、アズサが心から望む選択になることを願っている。
その上これからは、週に二回の定期報告の際にしか会うことはできない。
エデン条約の調印式まで、あと三ヶ月か四ヶ月と言ったところ。
……つまり、俺がアズサに会える回数は……本当に、数える程度しかない。
……だから、今のうちに……伝えておきたいことは、伝えておかないと。
「……アズサ。こっち来てください」
「…なぜ?」
「いいから」
「……わかった」
無警戒にこちらへと寄って来たアズサを抱擁し、頭を撫でる。
「……?」
…サオリに止められるかと思ったが、特にそういった様子はない。
少し、意図を察してくれたのかも知れないな。
「……あなたは……出会った時から、強い子でした。あなたの周りにいた子達が諦める中、あなたは抵抗をやめなかった。自分を見失わなかった」
「……そんなことはない。スオウの方が、自分を強く持っている。悪い意味でだけど」
「はははっ……そうかも、しれないですね。でも、誇って良いことですよ」
本当に、すごい子だ。
原作でも、そうだった。
「結局、命令の確認ばかりしてしまいましたが……これからするのは、命令じゃなくて、お願いです」
「……お願い?」
……本当は、みんなにこれを直接言ってあげたい。
でも、それはきっと無理だから。
少しだけ、特別扱いになってしまうかもしれないけど……だからって、伝えない理由にはならない。
「……まず、友達は沢山作ること。その中に、あなたにとってきっと大事な人ができるはずです」
「…わかった」
「それから、友達ができたら…今度は、その友達と目一杯遊ぶこと。私たちは、知らないことがたくさんですが……ゲーセンだったり…漫画やアニメだったり…スポーツだったり…とにかく、『青春』を楽しむこと」
「…うん。できるだけ、頑張る」
「スオウちゃん、意外と詳しいね…あ、ごめん…静かにするね」
「……邪魔が入りましたが…まあいいです。それで、青春の中には……良いことばかりじゃありません。辛いことや、苦しいこともあります。もっとも、今までの生活ほどではないかもしれませんが…まあ、とにかく。そんな時は、友達や……私たちでも良いです。誰かを、きっと頼ってください」
「ああ。以前、スオウから聞いた」
「うん、よく覚えてましたね。そして、友達が困っていたら、今度はあなたが友達を助けてあげること……でも、これは心配なさそうですね。アズサの場合、自分の体も労わること」
「…わかった。スオウも、困ったことがあればいつでも言ってくれ」
「はははっ…ありがとうございます。それと、勉強はちゃんとすること。お金の使い方には気をつけること。よく寝て、よく食べること。まだまだ、たくさん言いたいことはありますが……目一杯、『青春』を生きてくれれば、私はそれで十分です。約束、してくれますか?」
「……もちろんだ。約束しよう」
……ああ。安心、しちゃいけないけど。安心した。
アズサなら、きっと大丈夫だ。
「それと最後に、お姉ちゃんって…」
「それは断る。妹ではないし、そもそも最後ではない」
あら、流れでいけると思ったのに。
抱きついていたのも突き飛ばされてしまった。
「お、お前…台無しだ…!!黙って聞いていれば!!」
「スオウ……それはないと思うよ……」
『最低だと思う』
「や、やっぱりスオウさんはいつも通りでしたね…!」
「スオウちゃん……もう少し、人の気持ちを考えた方がいいよ?」
「い、言われたい放題ですね!?」
いや、自分でもどうかと思ったけどさ!?
「……まあ、アズサ。私たちも、気持ちは同じだ。必ず無事で、トリニティを過ごしてこい」
「…ああ。約束する」
その場に、沈黙が流れる。
「……それじゃあ、そろそろ行ってもいいかな?」
「…うん。もう、向かおう」
「そっか。それじゃあ、みんな。またね」
アズサとミカが、アリウスの自治区外へと向かう。
「……寂しくなりますねー」
「…そう、かもな」
「…実力面では、大丈夫だろうけどね。あんまり、心配は必要ないでしょ」
『でも、また任務の時に会えるよ』
「い、いつになるかは分かりませんけどね…!」
……二人の後ろ姿を見て…ふと、声をかけたくなる。
『またね』でも、『さよなら』でもなくて。
……本当は、言ってはいけないかもしれない言葉。
アズサの選択を、狭めてしまうかもしれない言葉。
「……アズサ!」
それでも、堪えることはできなくて。
「いってらっしゃい!」
「!……いってきます」
……返ってくるその言葉に、喜びを感じてしまった。
風邪を引いて少し投稿が遅れました!すみません
季節の変わり目、キツいですねー…