ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

36 / 175
転入

「さて…一ヶ月が経ったわけですが…アレはどうなりましたか?」

「ふっふっふ…じゃじゃーん!アズサちゃんの制服、持って来たよ!」

 

 そう言ってミカが、紙袋から小さめの服を一着取り出す。

 ミカには明らかに不釣り合いな、どちらかといえば俺が着れそうなサイズの服。

 まごうことなき、アズサの制服だ。

 

「お、おおお!!」

 

 なんというか、すごいな…!豪勢な感じだけど、気品がある。

 

 前世で見た…セーラー、だっけ…?デザインとしては、パッと見それに近いな。

 

「これは……中々、派手だな…」

「うん…私もそう思う」

 

 俺は良いと思ったけど、サオリ達には不評みたいだ。

 まあ、四人は原作のアズサを知らないし、着た時のイメージもつきづらいのかもな。

 

『トリニティでは、これが流行りなの?』

「ミカさん曰く、三割くらいの人が制服を改造するらしいですよ。とっても素敵だと思います」

「え、えっと、この部品は…?」

「あ、それは羽飾りだね!お洒落でしょ!」

 

 …羽飾り、か。

 今更だけど、俺には羽やツノ、尻尾が無かったのは助かったな。

 生まれながらにあるならまだしも、俺みたいに前世の記憶があるとうまく動きずらいだろうし…最悪の場合、生まれた場所から動けず死んでたかもしれない。

 

 ……いや、待てよ?羽があれば実質腕四本みたいなものじゃないか?

 近接戦ではツルギも似たようなことをしていた。

 

 俺にとってはないものねだりだけど、アズサやミカならひょっとして…。

 

「アズサ、ミカさん。羽で高く飛んで、敵を叩き落としたりできませんか?」

「どういう想定なんだ…?それは…少なくとも私はできないし、やろうと思ったこともない」

「そもそも飛べるようなものじゃないし、下手に扱うと骨折しちゃうよ…」

「そういうもんですかねー…」

 

 ツルギと戦った時は、結構羽とかで攻撃もされそうになったんだけどな…まあ、それはツルギがおかしいだけか。

 

「あ、翼といえば…アズサちゃん、この制服の着方、わかる?」

「…翼の部分に、切れ目が入ってるから…なんとなく、想像はつく。どちらかと言うと、この装飾の付け方はわからないかもしれない」

「あー、確かに…」

 

 羽のやつとか、どうやってつけるんだ?これ。

 まさか刺すわけでもないだろうし…。

 

「うーん、そうだよね……よし、じゃあ私が教えるから、一回ここで着てみよっか!トリニティに行ったら、堂々とアズサちゃんに会うわけにもいかないからね!」

「……ありがとう」

「うん!ちょっとそこの建物借りるね!」

「了解した。スオウ、その場から一歩も動くなよ」

「動いたら、私のロケットランチャーが火を吹くから」

「私のことなんだと思ってます…?」

 

 そのレベルで警戒されると流石に泣くぞ…?

 

 

 

 

 数分後、建物からミカと着替えたアズサが出てきた。

 

「よし、できた!どうかな…?」

「……正直、あまり着たことのない服だから落ち着かない。けど、見た目よりは動きやすいから、慣れれば問題ない」

「おお……!」

 

 多分、前世で見た通りだ…!

 前までのアリウスの制服、というか戦闘服も似合ってたけど、こっちのトリニティの制服の方が似合うな…!

 

「可愛いです!!!すごく、こう…!すごく、可愛いです!!」

「あははっ、変な感想!語彙が可愛いだけになってるよ…?」

 

 しょうがないだろ、可愛いんだから。

 

「ふむ…思ったよりも、装飾は目立たないものだな」

「こ、こうしてみると、普通のトリニティ生徒にしか見えませんね…!」

「まあ、潜入任務だからね…むしろ、そうじゃないと困るでしょ」

『でも、スカーフ留めのこのマーク…』

「スカーフ留め?」

 

 アツコの言う通りにアズサのスカーフ留めを見てみれば、そこに金色の刺繍が施されている。

 まごうことなき、アリウス分校のマークだ。

 

「……ねぇ、コレ…」

「あ、アリウスの校章ですね…!」

「……おい、スオウ。お前は制服を作る場に立ち会ったはずだろう。なぜ止めなかった」

「…あー……はははっ」

「何を笑って誤魔化そうとしている…!」

 

 いや、あまりに自然な流れで入れられてたから……というか、ミカの勢いを止められなかったのが本音だ。

 

「あ、大丈夫だよ!このアリウス分校の校章、少なくとも私は知らなかったし」

「だから不安なんじゃないですかね…」

「あれ?今私馬鹿にされたよね?」

「ワタシナンノコトカワカラナイナー」

「ねぇ、それ気に入ったの?すっごくイラっとするんだけど。ねぇ」

 

 いや、多分大丈夫だろうけどね。そもそも目立たないような色合いだし。

 

「はぁ……まあいいや、それじゃあこれで渡すものは最後かな。アズサちゃん、準備はいい?」

「……ああ。問題ない」

 

 ……ミカにアズサの転入を頼んでから一ヶ月。

 いよいよ、アズサが転入する準備が整った。

 

 転入自体は明後日だが、もう荷物などは移動させなくてはならない。

 だから、アズサは今日からトリニティ自治区に向かうことになる。

 

「アズサ、荷物は大丈夫ですか?」

「うん、しっかりと準備した」

「弾薬は?」

「ある」

「整備用具、トラップツール」

「入っている」

「学生証」

「持っているし、お金も入っている」

「私の権力パワーを使えばこんなもんだよ!」

 

 ……力とパワーで重複してるな。

 いや、そんなことはどうでも良い。

 

「ならばよし。今回の任務は?」

「エデン条約の調印式、およびトリニティの戦力について情報を集めること。特に後者は、ミカでも下手に手出しはできないシスターフッドについて」

「シスターフッドは、ティーパーティの影響を受けないからね…」

「定期報告は?」

「週に二回、トリニティ自治区内の廃ビルにて、サオリとスオウに合流する。新たに命令があった場合、そこで受ける」

「うん、しっかり覚えてましたね…」

 

 ……もし全てが終わって、俺がベアトリーチェを殺せたとして。この世界でアズサは、トリニティに残るのだろうか。それとも、アリウスに戻ってくるのだろうか。

 

 ベアトリーチェを殺せようが殺せまいが、俺にそれを知る術はない。それでも…できることなら、アズサが心から望む選択になることを願っている。

 

 その上これからは、週に二回の定期報告の際にしか会うことはできない。

 エデン条約の調印式まで、あと三ヶ月か四ヶ月と言ったところ。

 ……つまり、俺がアズサに会える回数は……本当に、数える程度しかない。

 

 ……だから、今のうちに……伝えておきたいことは、伝えておかないと。

 

「……アズサ。こっち来てください」

「…なぜ?」

「いいから」

「……わかった」

 

 無警戒にこちらへと寄って来たアズサを抱擁し、頭を撫でる。

 

「……?」

 

 …サオリに止められるかと思ったが、特にそういった様子はない。

 少し、意図を察してくれたのかも知れないな。

 

「……あなたは……出会った時から、強い子でした。あなたの周りにいた子達が諦める中、あなたは抵抗をやめなかった。自分を見失わなかった」

「……そんなことはない。スオウの方が、自分を強く持っている。悪い意味でだけど」

「はははっ……そうかも、しれないですね。でも、誇って良いことですよ」

 

 本当に、すごい子だ。

 原作でも、そうだった。

 

「結局、命令の確認ばかりしてしまいましたが……これからするのは、命令じゃなくて、お願いです」

「……お願い?」

 

 ……本当は、みんなにこれを直接言ってあげたい。

 でも、それはきっと無理だから。

 

 少しだけ、特別扱いになってしまうかもしれないけど……だからって、伝えない理由にはならない。

 

「……まず、友達は沢山作ること。その中に、あなたにとってきっと大事な人ができるはずです」

「…わかった」

「それから、友達ができたら…今度は、その友達と目一杯遊ぶこと。私たちは、知らないことがたくさんですが……ゲーセンだったり…漫画やアニメだったり…スポーツだったり…とにかく、『青春』を楽しむこと」

「…うん。できるだけ、頑張る」

「スオウちゃん、意外と詳しいね…あ、ごめん…静かにするね」

「……邪魔が入りましたが…まあいいです。それで、青春の中には……良いことばかりじゃありません。辛いことや、苦しいこともあります。もっとも、今までの生活ほどではないかもしれませんが…まあ、とにかく。そんな時は、友達や……私たちでも良いです。誰かを、きっと頼ってください」

「ああ。以前、スオウから聞いた」

「うん、よく覚えてましたね。そして、友達が困っていたら、今度はあなたが友達を助けてあげること……でも、これは心配なさそうですね。アズサの場合、自分の体も労わること」

「…わかった。スオウも、困ったことがあればいつでも言ってくれ」

「はははっ…ありがとうございます。それと、勉強はちゃんとすること。お金の使い方には気をつけること。よく寝て、よく食べること。まだまだ、たくさん言いたいことはありますが……目一杯、『青春』を生きてくれれば、私はそれで十分です。約束、してくれますか?」

「……もちろんだ。約束しよう」

 

 ……ああ。安心、しちゃいけないけど。安心した。

 

 アズサなら、きっと大丈夫だ。

 

「それと最後に、お姉ちゃんって…」

「それは断る。妹ではないし、そもそも最後ではない」

 

 あら、流れでいけると思ったのに。

 

 抱きついていたのも突き飛ばされてしまった。

 

「お、お前…台無しだ…!!黙って聞いていれば!!」

「スオウ……それはないと思うよ……」

『最低だと思う』

「や、やっぱりスオウさんはいつも通りでしたね…!」

「スオウちゃん……もう少し、人の気持ちを考えた方がいいよ?」

「い、言われたい放題ですね!?」

 

 いや、自分でもどうかと思ったけどさ!?

 

「……まあ、アズサ。私たちも、気持ちは同じだ。必ず無事で、トリニティを過ごしてこい」

「…ああ。約束する」

 

 その場に、沈黙が流れる。

 

「……それじゃあ、そろそろ行ってもいいかな?」

「…うん。もう、向かおう」

「そっか。それじゃあ、みんな。またね」

 

 アズサとミカが、アリウスの自治区外へと向かう。

 

「……寂しくなりますねー」

「…そう、かもな」

「…実力面では、大丈夫だろうけどね。あんまり、心配は必要ないでしょ」

『でも、また任務の時に会えるよ』

「い、いつになるかは分かりませんけどね…!」

 

 ……二人の後ろ姿を見て…ふと、声をかけたくなる。

 

 『またね』でも、『さよなら』でもなくて。

 

 ……本当は、言ってはいけないかもしれない言葉。

 アズサの選択を、狭めてしまうかもしれない言葉。

 

「……アズサ!」

 

 それでも、堪えることはできなくて。

 

「いってらっしゃい!」

「!……いってきます」

 

 ……返ってくるその言葉に、喜びを感じてしまった。




風邪を引いて少し投稿が遅れました!すみません
季節の変わり目、キツいですねー…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。