ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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手がかり

 所々に雲が浮かんだ、澄み渡るような青い空。

 高貴な雰囲気を演出する、宮殿のような建物の数々。

 天使のような翼や、光り輝く円環を持った、まだ幼さの残る生徒達。

 そして、その景色には不釣り合いな銃火器の数々。

 見る者が見れば、その異質さに数奇な気分にされるであろう風景。

 

 しかしここキヴォトス、特にトリニティ総合学園においては一般的な風景だ。

 

「はぁ…」

 

 そんなおかしな『普通』の景色の中にとある女生徒が一人、軽いため息をついていた。

 カバンについたボロボロのストラップを揺らしながら歩いている。

 

 彼女はふと立ち止まると近くの自販機へと立ち寄り、品揃えをサッと見渡す。

 

「……牛乳でいっか」

 

 数ある飲み物の中からパックに入れられた牛乳を選択し、ボタンを押す。

 自販機に学生証をピッ、と押し当て、内蔵された電子マネーで料金を支払う。

 

 二重構造になっている取り出し口に苦戦しながらも牛乳を取り出し、付属のストローで穴を開けながら、再び歩みを進める。

 

 彼女……甘川(あまかわ)アシリの足が赴く先は、部室。

 なんの因果か、自身が部長を務めることになってしまった部活。

 不満があるわけではない。不満はあるわけではないが、自信も適性もあるとは思えない、というのが彼女の本音だった。

 

 今より十年ほど前に発足した、トリニティの長い歴史の中では新参者に類する自身の部活…その名を、奉仕活動部。

 その主な活動は名の通り奉仕。炊き出しや生活支援、単純なボランティアなど、多岐にわたる。

 そのため、トリニティ内では比較的認知度も高い。

 

 この学園にはいない、とある少女……この世界で起こり得た出来事を識る彼女の記憶には、存在しない部活。

 

 奉仕活動、慈善活動のみであればシスターフッドに所属すれば良いため、あまり部員も、入部者も多くはないが…とある理由により、毎年一定数の入部者は現れる。

 

「もう…相変わらず勝手なんだから…」

 

 そんな彼女がため息をついていた理由は、極めて単純。

 他校の生徒が勝手な行動を取り、その上連絡を怠ったからだ。

 

 具体的にはミレニアムサイエンススクール所属、生徒生活支援部部長の柏有(かしあり)マユミという生徒。

 

「本当、マユミちゃんは…!」

 

 無論、別の高校の一部長に過ぎず、側から見て共通点といえばその活動内容程度しか存在しない。

 しかしとある理由から、生徒生活支援部、奉仕活動部は協力関係にあった。

 そしてその他の学園にもまた活動内容がよく似た部活が存在し、それらとも協力関係が確立されている。

 

 そのどれもが、彼女……桐花スオウの記憶に存在しない部活動だ。

 

「シャーレ…それに、先生…か。信用、できるのかな…」

 

 定例会議の際にマユミが報告した、シャーレとの協力関係の確立。

 ある学校に関する情報を入手した際、真っ先に生徒生活支援部に報告してほしいという頼み事。

 

 一切の躊躇いなく快諾してくれたそうだが、果たして本当に信用できるのだろうか。

 シャーレ。半年ほど前に連邦生徒会によって設立された、超法的組織……という名の、便利屋。

 

 だがそのシャーレには、黒い噂が絶えない。

 やれ女生徒を連れ込んでは怪しげな行為をしている、だの、銀行強盗に協力した、だの、ミレニアムのセミナーを襲撃した、だの。

 

 酷いものでは、ゲヘナ風紀委員の行政官に特殊なプレイをさせた、などという噂もある。

 もっとも、これは流石に根も葉もないデマであろう、と彼女は思っているが。

 

 それにしても、シャーレ、および先生を信用しすぎるのはいただけない。

 だからこそ、シャーレと協力関係を結ぶのであればせめて自分たちに一言相談して欲しかったのだ。

 

「はー…」

 

 今度は深く、長いため息を吐きながら、なってしまったものは仕方がないと割り切る。

 

 マユミに対する怒りをパック牛乳のカルシウムで鎮めながらふと時計を見れば、すでに部活の開始の時間が近い。

 わずかに焦りながら足早に部室へ向かえば、見覚えのない生徒が一人、自販機の前で立ち尽くしている。

 

「……?」

 

 何やら困ったような様子で、自販機と睨み合う少女。

 あの身長ならば、おそらくは一年生であろうか。

 

「あ、あの……どうかしたの…?」

 

 生来、人を見捨てられない性格のアシリだ。

 辿々しくはあるものの、なんとかその少女に話しかけ、事情を問う。

 

「!……すまない。この、自販機?で、飲み物を買う方法がわからなくて」

「…え、ええ…?」

 

 変わった子もいるものだ。

 しかしその身なりを見れば制服には改造と装飾が施されており、かなり身なりもいい。

 なるほど、察するに世間知らずの箱入り娘といったところだろうかと、勝手な考察を進める。

 

「そ、そうなんだ…学生証は持ってる……?」

「ああ、ここに」

「じゃあ、好きな飲み物のボタンを押して、その学生証をここに押し当てて…?」

 

 そうして目の前の少女に促して、先程購入した牛乳を飲みながらふと考える。

 

 はて、この学園にこのような少女はいただろうか、と。

 自惚れるつもりも誇るつもりもないが、自身は学園の中でもかなり顔が広い方だ。

 だがこんな生徒は話すどころか、見かけたことすらない。

 

 無論、数千人も生徒がいるトリニティであれば不思議な話でもないが……と、そこで思い出す。

 

 ああ、そういえば転校生が来たのだったな、と。

 こんな時期に転校生とは珍しい。と、言うよりは、ここトリニティでは転校生自体が珍しいのだ。

 だが自身とはクラスどころか学年も違うため、あまり気にしてはいなかった。

 

 ということは、この少女は二年生か。失礼なことを考えてしまったと自制しながら、少女の姿を観察する。

 

 その低い身長のせいで自販機のボタンを押すのに苦労しながら、懸命に背を伸ばしている。

 白い髪に、翼。

 豪勢ながらも下品にならない程度に付けられた装飾が、元来の美しさを際立たせていた。

 

 さらには、その改造された制服に金色の刺繍が縫い付けられている。白に金とはなかなか見づらい色だが、なんとか目を凝らせば袖の刺繍はトリニティの校章であることがわかった。

 

 しかし、スカーフ留めの刺繍は明らかに違うものだ。一体あれは何だろうか、と、目を凝らし。

 

「…っ!!?もふぅっ…!」

 

 ……そして、驚愕する。

 

「げほっ…!こほっ…!」

「だ、大丈夫?」

「う、うん…問題ないよ…?ありがとね…」

 

 思わず咽せて吐き出してしまった牛乳をハンカチで拭いながら、なんとか動揺を悟られぬように返事を返す。

 

 薔薇と髑髏の描かれた、見覚えのあるマーク。

 

 彼女が最後にそれを見たのは、今より十年ほど前の話だ。

 

『…君の、姉は。戦っているよ。命懸けで。時間稼ぎのために』

 

『アイツらは、俺が相手取る。その間に、お前達は逃げるんだ。』

 

『俺は残るよ。まだ、そっちに行くわけにはいかない』

 

「……」

 

 ふと、ボロボロのストラップを握りしめる。

 

 最愛の姉を亡くした、あの日から。

 一時たりとも、忘れたことなんてない。

 

 焦茶色の髪の、ガスマスクをつけた少女。

 自身を犠牲にして、アシリ達を逃がしてくれた、あの少女。

 

 その少女が着ていた装備にも、確かに描かれていた。あのマーク……アリウス分校の、校章が。

 

「ありがとう。おかげで、無事に飲み物を買うことができた」

「っ!?あ、う、うん…よかった…」

「何かお礼を…」

「い、いやいや!大丈夫だよ…?ご、ごめんね!私、ちょっと急いでて…!」

 

 その場を去るための方便に過ぎないが、急いでいるのは事実だった。

 なんせ、時計の針はもうほとんど約束の時刻へ差し掛かっているのだ。あまりのんびりはしていられない。

 

「そうだったの?わざわざ、すまない。助かった」

「う、ううん!いいの、全然!それじゃあ私、行くね!何か困ったことがあったら、奉仕活動部においで!こう見えても私、部長だから!じゃあね!」

 

 転校生、白洲アズサに別れを告げ、走りながら部室へと向かう。

 

「っ…!!つ、伝えなきゃ…!!伝えなきゃっ…!!」

 

 ようやく、ようやく見つけたのだ。

 十年間、ずっとずっと待ち望んでいた、あの少女につながる手がかり。

 

 アリウス分校についての情報を得ることでさえ、容易ではなかった。

 だというのに……あの少女は、もしかすれば。

 

「みんなに…!!元アリウスのみんなに、伝えなきゃ!!!」

 

 はやる気持ちと荒くなる呼吸を抑えながら、アシリは部室へと向かっていった。

 

 

 

 

 アズサがトリニティに転入してから、一週間。

 今日はついに、定期報告の日だ。

 俺以外にも、サオリが着いて来ている。

 

「それで、どうですか?情報は」

「…正直、大した情報は手に入れてない。それでも、シスターフッドのおおまかな戦力と、トリニティの地形は把握することができた。まとめたのが、コレ」

 

 アズサから紙の束を受け取り、サオリと共に目を通す。

 

 地形については戦力や武力集団の情報を交えながら考察が示されており、潜入などを想定したものが書かれている。

 

「ふむ…大したものだな。この短期間で…」

「本当ですね。流石、私の妹です」

「ブレないな、お前は」

 

 サオリに手厳しい評価を下されながら、紙束を読み進める。

 

「はい、拝見しました。とりあえず、ベアトリーチェにはこれをそのまま渡します」

 

 鞄に紙束を仕舞い込み、近くの瓦礫に腰掛ける。

 

「それで……どうですか、学校は」

「……今の所、特に困ったことはない。強いて言えば、勉強が難しいくらい」

「あー…」

 

 だよなぁ…俺が教えることができたのって、前世で言うところの高校一、二年生くらいまでだし。

 そもそも、ここキヴォトスは科学が発達している。俺の前世の知識じゃ、本当に基礎中の基礎しか教えられないだろう。

 

 それに、前世の俺は学習したことのない教科も存在するだろうし。

 

「そうですか……その、定期テストは…?」

「定期テスト?なんだそれは」

「その、学力を確認するための試験です。ここで点を取れないともう一年やり直しか、最悪学校を辞めさせられます」

「そんな恐ろしいものが…」

「…確か、あと一ヶ月もなかったと思う」

 

 ……うーん。恐らく、アズサは補修授業部に入ることになる、よな…?

 正直、入っても入らなくても、あまり俺のやることには関係ないけど…まあ、ヒフミやコハル、ハナコといった友人達に出会えるというのは喜ばしいことだ。

 

「……ああ、そういえば」

「…?」

「今日、変わった人物に出会った」

 

 変わった人物…?

 

「自販機の使い方がわからない所を助けられて…突然口から白い液体を吹き出して、走り去って行った」

「嵐のような人ですね…?」

「お前が言うのか…?」

 

 白い液体……多分、牛乳だろうか?

 確か、柚鳥ナツという生徒が好んで飲用していた、はずだ。

 

 ひょっとして、ナツに出会ったのか…?

 

「その人、何か名乗っていましたか?」

「ああ、たしか……奉仕活動部、部長を名乗っていた気がする」

「奉仕活動部…?」

 

 聞いたことがない部活だ。恐らく、前世の記憶にも存在しない。

 

 ひょっとして未実装どころか、まだ出ていなかった部活だったりするのだろうか。

 

「まあ、変な人にはあんまり近づかないでくださいね」

「わかった」

 

 ううん…?ちょっと後で、『ノート』を見返してみるけど…多分、そんな部活なかった、はずだ。

 

「…スオウ?」

「っ、あ、なんでもないですよ。他に何か、変わったことはありましたか?」

「そうだな…」

 

 まあ、別に知らない部活があるのは初めてのことじゃない。

 あんまり、気にするほどのものでもないか。

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