「と、言うことで……ここにいる皆さんが、補習授業部のメンバーになります」
トリニティ学内に存在する、空き教室にて。
四人の生徒と、一人の先生が集まっている。
「補習授業部の説明をする前に、まずはみんなで簡単な自己紹介をしましょう!では、私から……二年生の、阿慈谷ヒフミといいます!趣味はグッズ集めです!至らぬところも多々あると思いますが、よろしくお願いします」
「グッズ集め……?グッズ集めって何?」
「あ、えっとですね……好きなシリーズのぬいぐるみを集めたり、ですかね……?とにかく、何かを蒐集することですね!」
平凡。なんの変哲もない。一見すると、平和的な自己紹介に思える。
しかし実情は違った。何かを収集、と言えば聞こえはいいが、収集ではなく蒐集である。ただ集めるだけではないのだ。
ペロロ様リュックを常用するその姿を見れば、おおよそ察しはつくかもしれない。
それでもただ蒐集するだけであれば良いのだが……ヒフミはペロロ様グッズを手に入れるためならば手段は選ばない。
「では、次は質問してくださったアズサちゃんに」
そんなヒフミの
「……白洲アズサ。二年生。趣味……趣味は……今はまだ、ない。よろしく」
「無趣味、ですか……その、何か好きなものはありますか?」
「……強いて言うなら、上官……いや、友人……姉……?のようなナニカが、どこからか漫画を持ってきたことがある。あれは面白かった」
「あ、姉のようなナニカ……?お姉さんではないんですか……?」
「違う。姉じゃないし、私は妹じゃない」
「“ふ、複雑な事情があるんだね……”」
この場に桐花スオウがいれば、その扱いに不満を漏らしていただろう。
姉のようなナニカと認識されたまま、次の自己紹介へと移る。
「では、次は私が……二年生の、浦和ハナコと申します。趣味、ですか……そうですね……散歩、でしょうか?」
「散歩……なんというかその、大人びていますね……」
おばあちゃんっぽいなぁ。
喉元から出かかった言葉をグッと堪え、オブラートに包んで返す。
「あら、ただの散歩ではありませんよ?開放的な姿、とでも言いましょうか。風が肌に当たって、とても気持ちがいいんですよ?」
「えっ!?そ、それは、その……え、えっと、次の方に移りましょうか!」
「……?」
何かを察し、ヒフミは話を変えようとしたのだが。
「ちょっとアンタ!何言ってるのよ!!」
「あら?ただ散歩をするだけなのに、何か問題でもあるのでしょうか?」
「ただの散歩じゃないでしょ!!開放的な姿って、エッチなのは駄目!!死刑!!」
「開放的な姿が、エッチ……?一体何を想像しているのでしょうか?詳しく聞かせてくれませんか?」
「えっ……そ、それは、その……と、とにかく、エッチなのは駄目だから!!次、私!!」
あまりの耐性の無さに、一撃で沈められてしまったコハル。
どもりながらも、自分の紹介に移る。
「下江コハル、一年生よ。部活は正義実現委員会で、趣味は……と、特にない!以上!」
「“それじゃあ、最後に私かな。私はシャーレの顧問で、先生をやってるんだ。趣味は……そうだね。ロボットのおもちゃとかを集めること、かな?みんな、これからよろしくね”」
「それでは、次は補習授業部について説明しますね」
全員の自己紹介が終わり、ヒフミが口を開く。
「まず、この部が作られた目的は学力の向上です。ですので、これから毎日放課後に、みんなで勉強をすることになります」
まだ説明の途中だというのに、なんだかドッと疲れた気がする。こんな調子で、果たして自分はやっていけるのだろうか。
そんな弱気な思考を振り払い、説明を続ける。
「この補習授業部が終了する条件はたった一つ。全三回の特別学力試験で、全員同時に合格することです。できなければおそらく、落第は免れないかと……」
全員同時に、というのは不思議な話だが、おそらく協力してなんとかしろ、ということなのだろう。
実情は違っているが、ヒフミはそう解釈した。
「そしてその間、私たちの担任をしてくださるのが、こちらのシャーレの先生です」
「“みんな、これから一緒に頑張ろう”」
「説明は以上になります。え、えっと、何かわからない点とか気になる点がありましたら……」
「大丈夫。これからは普通の訓練に加えて、毎日放課後に勉強会があるってだけでしょ。今までもやったことがある」
桐花スオウが定期的に行っていた、勉強会。
どこからあんな知識を手に入れたのかは甚だ疑問だが、訓練に加えて勉強会があるのは、アズサにとっては慣れたことだった。
「えっと、授業を訓練と言っていいのかわかりませんが、そうです。そしてこれから行われる特別学力試験にて、『全員同時に合格』すれば、晴れて補習授業部は終了になります。先生も手伝ってくれますし、み、みんなで頑張って落第を免れましょう……!」
落第をしてしまえば、もう一年やり直すことになる。流石にそれはいただけないだろう。
もっとも、特別学力試験に合格できなければ落第で済まないのだが。
「三回の学力試験のうち、一回でも全員同時に合格すれば、その時点で補習授業部も終了になります!先生には主に……スケジュールの調整や、色んな補習を行なっていただければなと」
「“もちろん、任せて”」
「うん。理解した。三回のミッションのうち。一度でもいいから全員で成功を収める。そのために、ここに毎日集まって勉強会をする……それほど難しい任務でもない。つまり、この集まりは学力の進度調整。サボる気も理由もない」
言うは易し、行うは難し。
実際には、アズサを含め皆かなり苦労するだろうが……今はまだ、知る由もなかった。
「そ、そうですね!頑張りましょう!えっと、アズサちゃんは、転校してからあまり時間も経っていないんですよね?」
「……」
「まだこの学校に慣れていなかったせいもあるでしょうし、みんなで頑張ればすぐになんとかなるともいます!」
アズサは今、体裁上は転校という扱いになっている。聖園ミカが、そうなるように書類を改竄した。
だが実際は、トリニティ総合学園のスパイとして侵入している。
つまり、転校の件については深掘りされると困るのだ。
「あら?白洲さんはこちらに転校されて来たのですか?」
そのため、話題を変えようとしたのだが、結局ハナコによってそれは遮られてしまう。
「トリニティに転校だなんて、珍しいですね……?」
「……」
さて、どう誤魔化したものか。
確か桐花スオウが、転校の件でどうしても困ったらこう言えと言っていた。
「……そう。前の学校で、少し色々あって」
「……なるほど。すみません、無神経に……」
騙してしまったことにわずかに罪悪感を抱えつつ、ひとまず安心する。
「ご、ごめんなさい、私も……余計なことを……」
「気にしないで。別に、嫌なことがあったわけじゃない。ただ、転校しなきゃいけない事情ができただけだから」
「なるほど……」
ふむ、と、浦和ハナコは考える。
転校しなくてはいけない事情。
学校の雰囲気に馴染めなかった、などという事情でなければ、その理由は限られてくる。
例えば、前の学校で問題を起こしただとか、新しくやりたいことができただとか。
ともあれ、本人が積極的に話さないのであれば、あまり詮索するものでもないだろう。
であれば、ここでの最適解は……。
「それでは私も、アズサちゃんって呼んでもいいですか?」
「……?別にいいけど?」
やはり、早くこの学校に馴染めるように距離を詰めることだろう。
もっとも、ハナコ自身、この学校にもう長く居座るつもりもない。ただ……周囲に馴染めず、悪意に晒される辛さは、自分もよく知っている。
もし白洲アズサがそこにいるのであれば、新たな拠り所が必要になるはずだ。
「では、アズサちゃん。ヒフミちゃん。それからコハルちゃん……ふふ、なんだか良い響きですね。私たちはこれから。補習授業部の仲間ということで」
自分がそれになる、と思えるほど驕っても、余裕があるわけでもないが……キッカケ程度にはなれるかもしれない。
「アズサちゃんは一見冷たそうに見えますが、なんだか可愛らしいですし。ふふふっ」
「……?」
そんなハナコの内心に気付かぬまま、アズサはやけに距離感が近いな、と疑問を抱くことしかできなかった。
「……」
と、そこで、ハナコが射殺すかのような視線を向けられていることに気づく。
「あら、そんなに憎悪に満ちた目で、どうしたんですかコハルちゃん?」
「言っておくけど、私は認めないから……!」
「えっと……?」
「あら、何のことですか?」
「わ、私は正義実現委員会のエリートだし!私の方が年下だからって、あんたたちを先輩だなんて呼ぶつもりないから!」
端的に言えば失礼と表す他ないコハルの発言に、場の空気が一瞬静まる。
「それにそもそも、こんな部活さっさと抜けてやるんだからっ!あんまり馴れ馴れしくしないでもらえる!?」
瞬間、ハナコが思考を巡らせる。
さて、どうしたものか。自分としては、別段問題はない。
どうせ後数週間程度の付き合いだ。ここで険悪な空気になろうと、どうせもう自分は学校から去るのだ。
わざわざ気を使う必要もない。
「……なるほど、確かに補習授業部の中でまで、先輩後輩なんて扱いにする必要はないと思います。私としては何も問題ありません」
だが、そうでも無さそうな人間がちらほらと……であれば、ここは穏便に済ませるが吉だろう。
「私も別に。そういう文化は不慣れだし───」
───そもそも仲良くするために集まっている会じゃない。
そう続けようとして、ふとスオウとの約束を思い出す。
『まず、友達を沢山作ること。その中に、あなたにとってきっと大事な人ができるはずです』
「……」
ここトリニティに転校して、数週間。
自分は今、友人と呼べる人間が一人でもいるだろうか。
強いて言うならば、アシリとは不定期に会うことはあるが……別段、友人というわけでもない。
もちろん、誰も彼も仲良くなる理由はないが……共に同じ目的へと向かって協力するのだ。
少なくとも、長く関わることにはなるだろう。
……もしかしたら、友人にもなり得るかもしれない。
「……ただ、せっかくこれから協力するんだから、少しくらい仲良くはするべきだと思う」
「そ、そうですね!私もそれがいいと思います!」
「私は馴れ合うつもりはないわ!そもそも、私が試験に落ちたのは飛び級のために一つ上、二年生用のテストを受けたせいだから!」
そんな考えからした発言だったが、コハルによって即断されてしまった。
若干の残念さを覚えながら、ふと飛び級という単語に疑問を抱く。
「飛び級?」
「あら、どうしてそんなことを……?」
「ど、どうしても何も……!私はこれから、正義実現委員会を背負う立場になるわけだし……!」
「でも、それで落第してしまったんですよね?一度試しにチャレンジするということであれば理解できますが、なぜそれを何度も……?」
「うっ、うるさいうるさい!私が言いたいのはそういうことじゃなくて……つまり私は、今まで本当の力を隠していたってこと!!!」
嘘である。今まで見せていたものが、まごうことなき実力だ。
「今度のテストはちゃんと、一年生用のテストを受けるから!そうすればちゃんと優秀な成績を収めてはい終わりってわけ。わかる?」
続くコハルの発言に、一同揃って困惑を深める。
「それで、すぐにこんな補習授業部なんてやめてやるんだから!」
「えっと、個人で優秀な成績を出したとしても、それでこの部を卒業できるわけではなくって……」
「なるほど、経歴を隠していたわけか」
自分と同じだ、という言葉を飲み込み、発言を続ける。
「ちなみに私も今は、前のところと学習度の違いが大きかったから、一年生の試験を受けている。わからないところがあったら、教えてもらえると嬉しい」
「え、それは……じ、自分でなんとかしなさいよっ!それに、すぐ関係無くなるんだから!短い付き合いで残念だったけど、あんたたちは単純に勉強できないだけみたいだし!?じゃあね、せいぜい頑張って!」
「あ、待っ……行ってしまった」
せっかく仲良くなれそうだったのに、残念だったなと思いつつ、虚空に伸ばした手を元の位置に戻す。
「え、ええ……」
「ふふ、コハルちゃんはテンションの上下が激しくて、面白い子ですね。対照的に、アズサちゃんはブレないですし……」
「こ、これからどうしましょうか……」
「“私も、できる限り協力するよ。一緒に頑張ろう”」
「楽しみですね、ふふふっ」
やけに嬉しそうな声色のハナコをよそに、スオウに言われた言葉を思い出す。
───まあ、変な人にはあんまり近づかないでくださいね。
……ひょっとすると、自分はスオウの言うところの変な人の巣窟に入ってしまったのではないだろうか。
しかし、友人も作って欲しいと頼まれているのだ。
「……」
そもそも自分は、スパイとしてここに来ている。
ともすれば、ここにいる人間を裏切ることになるかもしれない。
スオウ曰く、心配いらないとのことだったので、何か考えはあるようだが……どうしたものか。
「と、とりあえず、テスト範囲の確認をしましょうか!」
そんな悩みを抱く暇もなく、補習授業部としての活動が始まった。
更新遅くなってすみません……というか、最近ペースが落ちてますね……土日が使えないことが多くて。
もうちょいペース上げれるよう、頑張ってみます。