ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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アシリの疑問

───奉仕活動部。

 

 その名の通り、奉仕活動を行う部活。

 

 彼女達の活動は根本的にシスターフッドと被っていると言わざるを得ず、部員数もさして多くない。

 

 しかし、故にこそ政治的抗争の影響を受けにくく、自由に活動を行えるという利点もある。

 

 一口に奉仕活動、とは言うが、その幅は広い。

 

 例えば、清掃活動、生徒のお悩み相談、炊き出し、そして普段使われていない施設の管理。

 もっとも許可こそとっているものの、全て勝手にやっているだけなのだが。

 

「“ありがとう。この施設を貸してくれて”」

「い、いえ……私たち、勝手にやってるだけなので……」

 

 だがしかし、基本的にその手の活動はシスターフッドの領分だ。

 単純な悩み相談や、別館管理以外にはあまり活動は存在しない。

 

「“それに、勉強の手伝いまで”」

「き、気にしないでください……なんせ」

 

 そして活動がない間、彼女たちは図書館に篭ったり、治安の悪い自治区外に足を運んだりしている。

 

 それ故、忙しそうなシスターフッドに比べ気軽に頼み事をしやすい。

 

 ……つまり。

 

「私たち……基本、やることありませんから……」

「“……”」

 

 奉仕活動部は、基本的に暇人として認識されているのだ。

 

 

 

 

「と、いうことで……本日からこちらの、奉仕活動部のみなさんが勉強を手伝ってくれます」

「だ、代表で私がきたよ。み、みんな、これからよろしくねぇ……?」

 

 本来であれば誰もいないはずの別館が、なぜかその隅々まで綺麗にされていた理由。

 奉仕活動部の面々により、懇切丁寧に管理されていたからだ。

 

「あ、あの時の……」

「こ、コハルちゃん、久しぶり……しばらくの間、一緒に勉強頑張ろうね……!」

「……アシリか。よろしく」

「う、うん、アズサちゃん……」

 

 アシリは元来、コミュニケーションを取ることがあまり上手ではない。

 幼少期の頃も、人と話す際は常に姉の後ろに引っ付いていた。

 

「自信はないけど、精一杯がんばるよぉ……」

 

 とはいえ、奉仕活動部として困っている生徒は見過ごせない。

 

 桐藤ナギサから別館を使いたい旨を聞いた際、事情に深入りしてしまった。

 聞いたからには、無視するわけにもいかなかったのだ。

 

「あら、アシリさんは頭が良かったのですね?」

「い、いや、そんな事はないけど……こ、これでも三年生だからね!一、二年生の勉強くらいは教えられるよ……!」

「……少し不安になりそうな発言ですが……しばらくの間、お世話になります」

「う、うん……それじゃあ改めて、自己紹介!」

 

 そう言うとアシリは一歩後ろへと下がり、ビシッとポーズをとって……。

 

「奉仕活動部部長、甘川アシリだよ!趣味は……お散歩?とにかく、色々出歩くこと!!それと、悩み相談に乗ったり!これからよろしくね、皆!」

 

 後ろで爆発が起こりそうなキレのある動きを披露した。

 

「……あ、あの、その動きは……?」

「……あ゛……うわあぁあぁあああああ……!!ご、ごめんねぇ……!!練習の癖が……!!」

 

───何を練習することが?

 

 その場にいる全員がそう思ったが、皆口には出さなかった。

 触れない方がいいと判断したのだ。

 

 そんな周囲の配慮を露知らず、アシリは顔を抑え一人悶え続けている。

 

「……あ、あの!タダで建物をお借りするのも申し訳ないので、何かお手伝いでも…」

「い、いいよ別に!そもそも、私たちが勝手に綺麗にしてるだけだし……!それに、あなた達は勉強しないとだし……!」

 

 居た堪れない空気に耐えかねて、ヒフミが話題転換をする。

 彼女は気を使える人間なのだ。

 

「と、とはいえ、せっかく使わせていただくのに……」

「いやいや、そんな……」

 

 アシリとしては、できれば彼女達には勉強に集中して欲しい。

 とはいえ、普段自分たちが綺麗にしている部分を使うのも忍びないのだろう。

 何より……。

 

「コハル、部屋はどこにする?私としては、あの部屋を勧めたいのだけど」

「な、なんで同じ部屋の前提なのよ!こんなに部屋があるんだから、一人一部屋でいいでしょ!」

 

 ……同じ部内だと言うのに、まだ打ち解けきれていないように見える。

 せっかく苦楽を共にするのだから、仲良くするに越したことはないだろう。

 同じ作業をすることは、そのサポートにつながるかもしれない。

 

 さて、どうしたものか。

 

 あまり時間をかける作業はいただけない。だがある程度仲を深めるためには、あまり簡単な作業を与えても仕方がないだろう。

 

 と、そこでふと、ちょうどいい作業に思い至る。

 

「あ、でもそうだ!それなら、一箇所だけ手伝ってほしいところがあるんだ!」

「ちょ、丁度いい作業、ですか……?」

「う、うん!最近使ってなかったけど、時期的にそろそろ必要になってくると思うから……プールの清掃!!人手も必要だし、攻めあぐねてたんだぁ……」

 

 建前ではあるが、事実でもあった。

 奉仕活動部の部員数は、三学年全員を合わせても一桁と言ったところ。

 使わない場所に、人員を割く余裕などないのだ。

 

「そうですか!で、でしたら今日はみんなでそこをお手伝いしても……」

 

 そう言って、ヒフミは後ろの方に視線を向け。

 

「……私は別に構わない。数週間、ここにはお世話になるわけだし、そのお礼くらいはするべき」

「ええ、私も問題ありません。それに、なんだか楽しそうですし」

「……まあ、別に私も……不本意だけど、ここに住むことになるわけだし」

「では、お手伝いさせてもらいますね!」

 

 全員の同意を得たところで、アシリに了承を伝える。

 

「う、うん!」

 

 ヒフミの返答に対し、満足気な表情を返すアシリ。

 

「あ、それとね……」

 

 その視線を、徐々にアズサの方へと向け。

 

「私、せっかくなら皆で大部屋に泊まった方がいいと思うな……?そういうのも、楽しいから……」

「……っ、ぅ」

「なんでぇ!!?」

 

 バチコーン、と擬音がつかんばかりの勢いで慣れないウィンクを送ったものの、先生の後ろへと避けられてしまった。

 

 

 

 

「ここが……」

「うん……別館の野外プール。今じゃもう、使う人なんて誰もいないんだけどね……」

 

 そう言って、少し寂しげな表情を送るアシリ。

 

 定期的に綺麗にはしているものの、はっきり言って追いつかないのが現状だ。

 別館はさして広大というわけでもないが、清掃よりもインフラの保持に時間がかかる。

 

 水道や電気、その他諸々……放置していても使えるとはいえ、不便を感じる程度には劣化していくのだ。

 キヴォトスの技術の最先端、ミレニアムに在学するマユミの協力があれど、人数の少ない奉仕活動部のみの整備では無理がある。

 

 そのため、使用頻度の少ないプールは年に一回、ともすればそれ以下程度にしか清掃はできない。

 

「本当は、ここももっと綺麗にしておきかったから……すごく、すっごーく助かるんだぁ……ありがとねぇ……終わったらせっかくだし、みんなで遊ぼう?」

「い、いいんでしょうか……?私たち、一応補習授業部としてここに来ているのですが……」

「いいと思うよ……?みんな、一次試験が終わるまで頑張ってたんでしょ?息抜きも必要だよ」

 

 アシリを含め、一名を除いた皆がスクール水着へと着替え、掃除へと手をつけようとしたところで、ふと。

 

「……ちょっと待ってください……なんで先生がいるの……?」

「“私も手伝おうと思って”」

「ああ、なるほど……いや、だ、ダメですよね……?皆水着なんですよ……?」

「“……?”」

「なんで『何がまずいんだろう?』みたいな顔してるの……?」

 

 ここキヴォトスでは、一般的には授業はブルーレイディスクや、技術を記したノート類により行われる。

 無論、教員も存在しないわけではないが……『先生』のように、つきっきりで授業を行うわけではない。

 

 つまり彼女達にとっては、大人の、それも異性に水着姿を見られることなどほとんどないのだ。

 

 それ故に。

 

「……ふっ……!」

「“……ふ?”」

「不純だよぉ!!!」

 

 アシリの妄想癖(ぼうそう)が始まる。

 

「“えっ”」

「わ、私たちの艶姿を見てっ!!!変なこと考えてるよっ!絶対!!」

「“い、いや、そんなつもりは……”」

「コハルちゃん!!どう思う!!?」

「えっ」

 

 突如として話を振られ、一瞬困惑するコハル。

 

 一瞬の逡巡。

 

 しかしその一瞬で、アシリの言いたい結論へと辿り着き。

 

「だ、ダメに決まってるでしょ!!」

「だよねぇ!!?」

 

 最悪の化学反応を起こしてしまうのは、もはや避けられないことだったのだ。

 

「“私は生徒に対して、そういった目線を向けたりはしないよ”」

「……そっかぁ。って、納得できないよ!!……はっ!まさか、寝室も同じ部屋に……!?大部屋の方が楽しいとは言ったけど、先生は流石にダメだよ!?」

「“それは流石に、そのつもりなのだけど……”」

「あ、そ、そっか……ごめんなさい……でっ、でもでも!一緒に清掃もダメだよ!!?」

 

 止まらない暴走に、困惑を深める一同。若干一名を除いて。

 

 このままでは収拾がつかなくなることを察したハナコは、事態の収束へと向けて考え始める。

 一般論としてどちらが正しいかといえば、どちらかと言えばアシリだ。先生という立場を除けば、だが。

 

 しかし、アシリを言い包めようとしても、先日のように反論されるのがオチだ。

 

 何より、自分は『不真面目な生徒』なのだ。

 エッチなことはダメ、などと、アシリの側につくわけにもいかない。

 

 ……であれば。

 

「コハルちゃん。具体的に、何がダメなのでしょうか?」

 

───耐性0のコハルならやれる。

 

 そう判断し、いつものような揶揄う口調で質問する。

 

「何って、エッチなのはダメに決まってるでしょ!!」

「では、何がエッチなのでしょうか?水着だというのなら、ここはプール。むしろ正しい服装と言えませんか?」

「そ、それは……!」

「……それともコハルちゃんは、制服をエッチなものだと認識しているのですか?つまり、日常的にみんなの姿を見て、エッチだと感じていると」

「そ、そんなわけないでしょ!!」

「では、何か問題でも?」

「う、うぅうう……!!」

 

 要約すると、エッチって言う方がエッチなんだよ、などという中学生程度の理論でしかないが、それでもコハルには効果は抜群だ。

 

「な、ないわよ!!好きにしたら!!?」

 

───勝った。

 

「アシリちゃん。コハルちゃんもこう言っていますし、別に構わないんじゃないですか?」

「うぐっ……!」

 

 この時点で立場が明らかになっている人間だけでも、三対一だ。これ以上の反論は難しいだろう。

 

 そしてハナコは気付いていないが、アシリは自分が暴走しがちなことを理解している。

 つまり、この場での少数意見が自分だと分かれば……。

 

「……そ、そっか……じゃあ、私が間違ってたよ……」

 

 折れざるを得ないのだ。

 

 

 

 

 そうして、プール清掃がついに始まって。

 

「見てください!虹ですよ!虹!」

「ひゃっ!?ちょっ、ハナコちゃんつめたいですよぉ!」

「わぁ……!綺麗……!……あ、水道管から引っ張ってきてるけど、あんまり飲まないようにね?想定されてないから……」

「わ、わかりました!」

「こちらのブロックは完了した。続けて速やかにそちらへ向かう」

「アズサちゃん、せっかくなら楽しもう……?ほら、見てこれ!水鉄砲もあるよ!」

「水鉄砲……?」

「冷たっ!?ちょっと、何するのよ!!」

「あ、エイムが……ごめん……」

 

 ……結論から言えば、それはもうこれ以上とないくらい楽しんでいた。

 

 プール清掃という建前などすっかり忘れ、各々が道具を持ち出して遊び始めている。

 

 無論、徐々に綺麗にはなっているし、そもそも定期的に整備されているので、それでも日中には終わるのだが。

 

「……うん!こんなものでいいかな!それじゃあ、水を張るね!」

 

 プールへと水が満ちていき、特有の塩素臭い匂いが広がる。

 

「……プールか……実際に入るのは初めてだ」

「えっ!?そ、そうなんですか?」

「ああ。水中での訓練はあったし、プールがどういうものなのかもわかる。けど、前の学校にはプールがなかったから……」

「あんた、どんな学校にいたの……?」

「ッ!!」

 

 先程まで和やかな雰囲気だったアシリが、突如として表情を険しくする。

 

 アズサの以前在籍していた学校。

 アシリの予想が正しければ、それについて言及されることはアズサにとっても彼女自身にとっても都合の悪い事だ。

 

 アシリはまだ、気付いていない『フリ』をしなくてはならない。

 

 彼女の探し求める学校……アリウス分校の状況さえわからないのだ。

 なぜアズサがここに来たのか、否、来れたのか。

 

 ……仮説は、三つある。

 

 一つ、アリウス分校が崩壊した。

 

 二つ、アリウス分校から逃げてきた。

 

 三つ、アリウス分校からのスパイ。

 

 いずれにしよ、重要な参考人だ。

 下手に触れて、手がかりを逃すわけにはいかない。

 

「どーん!!」

「わぁっ!?」

「きゃあっ!?ちょ、ちょっと、何するのよ!」

「へへー……早く入らないと、日が暮れちゃうよ?寒くなる前に、楽しもう……?」

「……なるほど、一理ありますね」

 

 そう言った直後、ヒフミとコハル、アシリに続く形でハナコが飛び込む。

 

「ほら、アズサちゃんも!」

「……あ、ああ」

 

 次いでハナコに手を引かれ、アズサもプールへと跳躍する。

 

「……冷たい」

「プールって、結構冷えるよね……だから、日中じゃないと入れないんだぁ……多分、ここが使われたのなんて十数年ぶりだよ。ちゃんと機能して良かったぁ……」

 

 全くだと、アシリは心の中で胸を撫で下ろす。

 本当に、もし機能しなかったら大変なことになっていた。

 

「……」

「……?」

 

 アズサに視線を向け、改めてそう思う。

 ともすれば、自分たちの世代で使う(・・)事になるかもしれないのだ。

 まさか、動かないなんてことがあってはいけない。

 

「十数年……一体なぜ、そんな施設を整備していたのですか?」

「ああ、それはねぇ……」

 

 どうしたものか。

 まだ、アズサを信用したわけではない。

 

 なんせ、自分達はアリウス分校の情報を欠片程度にしか掴めていないのだから。

 

「……私たちが、基本暇っていうのもあるけど……いつか、使うかもしれないから。無駄かもしれないけど……虚しいことかもしれないけど。最初から諦めちゃダメだって、そう思って……準備してたの。だから、今嬉しいんだ……ちゃんと、使ってくれる人ができて」

「……なるほど。『vanitas vanitatum』。でも、最初から諦める理由にならない。私の姉、っ、姉のようなナニカも、よく言っていた」

「……?」

「えっと……?」

「……!」

 

 その発言により、アシリの予想は確信へと変わった。

 

 聞き覚えのあるフレーズ。教えられたことのあるものだ。

 

 全ては虚しいものだ、と。

 

 ……あの時の、アリウス分校で。

 

 その中でも、とりわけ厳しい教員が言っていた。

 

「古代の言葉ですね。『全ては虚しいものである(vanitas vanitatum)』。ですが、それに続く言葉は……」

「例の、お姉さんの言葉……?」

「……違う。姉じゃない。でも……」

 

 アズサは、わずかに言葉を選び。

 

「……でも。大切な言葉だ。彼女に送られた」

 

 ……アシリは今のアリウス分校の状況に、さらに疑問を抱かざるを得なかった。




すみません、本日急用が入り、掲示板回がまだ書き終わっていません。
エデン条約編一章、前半の感想スレになります。
明日必ず投稿しますので、何卒ご容赦くださいますようお願い申し上げます。
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