ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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待ち人

『……トリニティの、裏切り者。白洲アズサは多分、アリウス分校の生徒よ』

「“……!?”」

 

 あまりに予想外のその言葉に、先生は大きく目を見開き、そして驚愕する。

 

「“アズサが、裏切り者……?いやそれより、どうしてそのことを……?”」

『……だから、言ったじゃない。よくない手段を使ったって』

「は、はい……その……」

 

 気まずそうに目を逸らしながら、マユミとアシリは自分達が何をしたのか説明し始めた。

 

「……まず、アズサちゃんがアリウス分校の生徒か……もしくは、元生徒かってことは、一ヶ月と少し前にわかっていました」

『そ。先生、これを見てちょうだい』

「“……?”」

 

 自身を映すホログラムの横に、マユミはとあるマークを表示させる。

 

「“これは……髑髏?“」

『これはアリウス分校の校章よ』

「わ、私たちの記憶が確かなら、ですけど……」

 

 自身なさげに、辿々しくもそう伝えるアシリ。

 いくらトリニティの資料を漁っても、アリウス分校の情報を得ることは難しかった。特に校章などについては全く発見できず、よしんば見つかったとしてもデザインが変更されている可能性は否めなかった。

 そのため自分達の記憶を辿り、何とか再現したのがこのマークというわけだ。

 

 もっとも、それらを行ったのはアシリでもマユミでもなく、二人の先輩たちなのだが。

 

「“これが……でも、どこかで見覚えがあるような?”」

『その通りよ、先生』

 

 ズビシッ、と先生に指をさし、アリウス分校の校章の反対側に白洲アズサのスカーフ止めを表示する。

 

『これは白洲アズサのスカーフ止め。白地に金の刺繍だから見づらいし、所々相違点はあるけど……』

 

 表示された二つの画像を徐々に、徐々に近づけながら重ね合わせ……。

 

「あ、アリウス分校のマークにそっくりじゃないですか……?」

「“……うん、確かに”」

『そう思って、白洲アズサやその他諸々、まとめて調べたのよ』

 

 あ、こっちはほとんど真っ当な方法使ったけどねと続けながら、マユミは二つの画像を閉じた。

 

『まずこのマークを調べた結果、同じものはあまり存在しなかったわ。つまり、オリジナルのマークということになる』

「け、けど本人の性格を鑑みても、そういうことをするとは思いづらいですし……」

「“……そうだね”」

 

 記憶にあるアズサの性格を思い出し、アシリの言葉に概ね同意を返す。

 

『その上、白洲アズサの資料を調べてみれば……転校生だということが判明したわ。それを除いて特段疑わしい点はなかったけど……それだけでも、十分疑う理由になると思わない?』

「“……”」

 

 確かに、そうだ。

 ただでさえ転校生が珍しいトリニティ総合学園、それもエデン条約調印式を控えたこの時期に転校ときたものだ。

 あまりに疑わしい。

 

 先生もまたその考えに至ったが、立場上口にするわけにもいかず、押し黙ってしまう。

 

「こ、根拠は、他にもあります……!アズサちゃんが時々口にする言葉だったり、学習の進度が大幅に遅れていることだったり……」

『そう思って、ね?』

 

 マユミは少し言葉を詰まらせながらも、いつもでも黙っていても仕方ないと意を決し、そしてしっかり前を向く。

 

『……補習授業の合宿場所にもなっている、別館。そこに、盗撮機と盗聴器を仕掛けたの』

「“……!?”」

「ご、ごめんなさいごめんなさい……!」

 

 先程よりもさらに驚愕する先生に、アシリはペコペコと平謝りを繰り返すしかなかった。

 

『あ、もちろんトイレや浴場……著しくプライバシーを侵害するような場所には仕掛けてないわ。まあ、大部屋と先生の部屋にも仕掛けたのだけど』

「“わ、私の部屋にも……?”」

『ええ。先生が仕事が終わらないあまりエナドリを飲んで、仕事が終わらなーい、ワーカーホリックぅ、とか歌ってたのもバッチリ聞いてたわ』

「“うぐっ……!?”」

 

 深夜テンションでハイになっていた自分の行動に悶えながらも、なんとか意識だけは二人の話から逸らさない。

 

『……まあ、悪い行動だった自覚はあるわ』

「そ、それでも、手段は選んでられなくて……」

「“……そっか”」

 

 深い傷を負った心を立て直し、平静を装う先生。

 

 確かに、今回マユミが、そしてアシリが行った行動は、あまり良いものとは言えない。

 とはいえ本人たちがそれを自覚し、そして反省しているのなら、自分からはこれ以上言うこともないだろう。

 

 そんな判断から、先生はそっと相槌だけを返した。

 

「だ、だから、補習授業部の件も知っているんです……!裏切り者を探すための部活で、最悪全員が退学にさせられるって……!だから……」

 

 白洲アズサの件を、ナギサに報告してくれ。

 

 先生はふと一瞬、そう言われるのかと思った。

 

 アシリにしろマユミにしろ、アリウス分校を庇い立てする必要はない。

 その上、アリウスがトリニティへの復讐を望んでいるのだとすれば尚更だ。

 

「あ、アズサちゃんのことを……守ってあげてください……!」

「“……!”」

 

 だから、その先に続く言葉は予想外のことだった。

 まさか守って欲しいと、そう願われるとは思ってもいなかったことだから。

 

「あ、あの子にも、何か事情があると思うんです……だ、だから……」

『……はぁ……アシリ、相変わらずチョロいのね……』

「ちょ、チョロくない!チョロくないもん!!」

 

 いや、チョロいでしょ。そう口から溢れかかったのを飲み込み、軽いため息を吐く。

 

『ま、この子はもう白洲アズサに絆されたみたいだし……守って欲しい理由も、完全に私情でしかないわ』

「絆されてないもん!アズサちゃんいい子だし!」

『絆されてるじゃないのよ』

 

 今度は飲み込むこともできず、衝動的に口から出てしまった。

 とはいえ、どう見ても絆されているのだ。一度目を抑えただけでも賞賛に値するというものだろう。

 

『まあ、実際の理由は少し違っているわ。ちゃんとした、理由があるの』

「“……理由?”」

『アリウス分校との繋がりを絶たないためよ』

 

 心外だと反論を示すアシリをどう、どう、と宥めながら、マユミは端的に先生へ理由を伝えた。

 

「“繋がり……”」

『そ、繋がり。……先生。私たちはなんで、アリウス分校について探っていたと思う?』

「“それは……なんで?”」

 

 少し考えては見たものの、先生には皆目見当もつかなかった。

 

「……ひ、人探し、です」

「“……人探し?”」

『……十年前。内乱の話に戻りましょうか』

 

 マユミはその目を細め、どこか悲しげな、けれども懐かしむような雰囲気を纏う。

 

『……私たちは、元アリウス生徒。それはもう分かったわよね?』

「“うん”」

『じゃあ、なんで()なのかしら?』

「“っ……!”」

『内乱で勝利したのは、復讐派。人手は必要。私たちを、みすみす見逃す理由なんてないわ』

 

 マユミは深いため息を吐きながら、つまり、と繋げ。

 

『つまり、私たちは……逃げてきたのよ。アリウス分校から、ね』

「“……そう、だったんだね”」

『……そんな顔、しないでちょうだい。確かに、辛いこともいっぱいあったけど……そればっかりじゃないんだから』

 

 もっとも、アシリは少し違うかもしれないけど。

 

 そんな意味を込めてマユミは目線を向けたが、それを続きを話して欲しいという意味だと解釈したのか、今度はアシリが説明を始めた。

 

「そ、それで……逃げた理由は、やっぱり内乱、です。死傷、者……が、出るかもしれないくらい、すごく危険だったから」

「“……”」

「で、でも、それは私たちの意思で決めたわけじゃないんです……」

「“……?どういうこと?”」

 

 逃げたのは、自分達の意思ではない。

 

 それが意味するところは、つまり。

 

「……私の姉を含む、反復讐派が……最後まで戦って、私たちを逃しました」

「“最後まで……それは、つまり……”」

「……時間稼ぎ、です」

「“……”」

 

 時間稼ぎ。

 

 ともすれば、自分達が死んでしまうかもしれないほど過激な戦争。

 その戦いに勝算を捨て、誰かを逃すために戦う。

 言うなれば生徒が、子供が……誰かを助けるためにその身を、命を、人生を、全てを投げ出したということになる。

 

 先程よりもさらにショッキングな事実に、先生はただ俯いた。俯くしかできなかった。

 彼女たちにかける言葉すら、見当たらなかった。

 

「……だから!」

「“っ!?”」

 

 突如として大声を出したアシリに、吃驚し体を跳ねさせる先生。

 

「……だから、私たちは探しているんです。反復讐派の、生き残りを」

「“……そうだったんだ”」

「はい。そして、その人たちを匿うため。見つけ出して、助けるため。私たち元アリウス生は、各地に散らばりました」

 

 アシリのいつものような自信なさげな態度は消え失せ、しっかりとその目を見据え、真剣に話す。

 彼女の真剣さが、覚悟が、先生にもまた伝わっていた。

 

「そして、それぞれの学校で部活動を作った。いつか、反復讐派の生き残りの人が……普通の生活に、戻れるように。その基盤を、作るために。その行動に、違和感を持たれないように」

『……心当たりが、あるわよね?そう、その部活こそが……』

「“奉仕活動部と、生徒生活支援部……”」

『ま、それだけじゃないけどね。ゲヘナや、山海経にもいるわ。主なところはゲヘナ、トリニティ、ミレニアムよ』

 

 先生の回答に満足げに頷きながら、マユミは言葉を繋げる。

 

『だから、白洲アズサとの繋がりを断ちたくないの。あの子はアリウス分校に繋がる、重要な手掛かりよ』

「“じゃあ、私に情報提供も頼んだのも……”」

『同じ理由よ。だから、白洲アズサを守ってほしい。もっとも……』

 

 マユミは薄く微笑みながら、流し目でアシリの方へ視線を向け。

 

『……この子は、それだけじゃないみたいだけど』

「うぅ……!」

 

 自分の内心をこれでもかと言い当てられ、アシリはもはや変な呻き声を出すしかなかった。

 

『でも、実際様子見をしたいのは確かなの。もし仮に、まだアリウス分校が復讐を望んでいるとするなら……白洲アズサは、あまりにおかしな存在よ。それに、あのマーク。わざわざアリウス分校生であることを主張するなんて、大間抜けもいいとこじゃない?』

「そ、そうなんです……言ってることはやけに前向きですし、言葉遣いも結構今風というか、若者言葉みたいなのを使うこともあって……もし復讐のために育てられたなら、そういうところに違和感があります……!」

「“……うん、確かに”」

 

 アズサが真にトリニティの裏切り者なのか、いや、そもそもアリウス分校の生徒なのか?それはまだ、アシリとマユミにすらわからない。

 

 だからこそ、下手に手出しをしたくない。網に入ってきた魚をみすみす逃すほど、アシリとマユミは愚かではないのだ。

 

『だから守ってほしいっていうのは、下手に手出ししないでってことと、もし疑いをかけられている場面があれば誤魔化すのに協力してほしい、ってことになるわね』

「それと、よく見ていてほしい、です……せ、先生には、酷な事を頼んでいるかもしれません……」

 

 マユミもいつものようなハイテンションは完全に消え失せ、真剣な表情で先生を見据えている。

 

『……十年間。十年も、待ち望み続けたの……みんなに……あの人に、繋がる手がかりを……やっと、やっと、やっと!……やっと見つけたの……!絶対に、逃がさない、奪わせない……そんなこと、させたくない。だから、先生の協力が必要なのよ……』

 

 先生の前へと移動し、二人揃って深々と頭を下げる。

 

『お願いします……』

「アズサちゃんを……守ってください……!」

「“任せて。何があっても、アズサを悪いようにはしないよ”」

 

 そんな二人の態度に先生はほんのわずかな逡巡も見せず、はっきりとその意思を伝えた。

 

「“それに、反復讐派の子達も。特徴を教えてもらえれば、私の方からも探してみるね”」

『……!ありがとう、先生!お礼に今度自律行動可能なロボットフィギュアをプレゼントするわ!』

「ねぇ!?それマユミちゃんの趣味だよね!?先生はそんなものもらっても嬉しく」

「“本当に動くフィギュア……!?”」

「嬉しいんだ!?」

 

 そうして二人も、徐々にいつもの調子を取り戻し始めた。

 

『だから言ったじゃないのよアシリ!ロボットはキヴォトスで一般的な趣味なのよこのアンポンタン!』

「な、なんだとぉ……!うぅ、ホログラムだから掴めない……!」

「“……”」

 

 その様子を見て先生も僅かに安心し、無意識に口元を綻ばせる。

 

『あ、最後に、先生!』

「“……?どうしたの?”」

『現状わかっている反復讐派の特徴を伝えておくわ。後でデータにまとめてあるのを送るわね。そっちにいるうちは、何かわかったらアシリに伝えてちょうだい。私は、少し忙しくなるから』

「“うん、ありがとう”」

『……お礼を言うのはこっちの方よ。本当にありがとう、先生』

 

 それと、ありがたついでなんだけど、とマユミは続ける。

 

『……これは、私の個人的なお願い。反復讐派の中の一人だけ、絶対に私にも伝えて欲しいの。私たちの道を、示してくれた人を』

「……」

 

 あの日、あの場所で。

 

 恐怖に震える自分達を、逃してくれた人。

 

 命懸けで戦ってくれた人。

 

 明日を生きる方法を、教えてくれた人。

 

 マユミは、目の前でその人を見ていた。

 

『……焦げ茶色の髪に、大きなガスマスク。男勝りな口調で……身長は、当時の私たちより少し小さかったわね。ハンドキャノンを持っていたわ』

「“……うん、覚えたよ”」

『……反復讐派とほとんど関わりがなかった私にとって、唯一と言っていいほどの面識のある恩人よ。あの日少し話しただけだから、名前すら知らないけど……よろしくね』

 

 ……彼女の名前は、桐花スオウ。

 

 マユミが再会を最も強く願う存在。

 

 スオウ自身さえも、未だその事実を知ることはなかった。

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