「さて……私もいきます、か!」
ビルの屋上から飛び降り、外壁を蹴って次のビルへ移る。
それを繰り返し、少しずつ速度を減衰させながら地面へと近づく。
「……いた」
先程までアズサたちがいた場所に一気に加速し、不良生徒の一人に横から蹴りを入れる。
「ぐぁっ!?」
「ま、またテメェらか……!」
「なんなんだよお前ら……!!なんなんだよお前ェ!!!」
半狂乱で襲いかかってくる不良生徒の攻撃を避け、足払いをかけて脳天をショットガンで撃つ。
「ゔ、っく……!」
まだ意識が残っている敵の服の内側に爆弾を仕込み、その場を離れる。
「お、おい、大丈夫……っ!?」
すぐに作動し、多くのチンピラを巻き込んで爆ぜた。
「なんだお前って……?」
いつもとは違う黒いセーラーの様な服を正し、ヘルメットを深々と被り直す。
「……ヘルメット団ですよっ!!!」
「オラオラ糞ゴミども!!!私達のシマで何してやがる!!!」
……うん。威圧感が違う。
サウのこと、連れてきて正解だったな。
今回の作戦の概略。
アズサが学力試験に合格し、トリニティのスパイを継続できるようにすること……ただし。ヘルメット団に扮し、アリウス分校の存在を気取らせてはいけない。
そのため、いつもの戦い方はできない。まあ、髪の毛ロープを使ったり爆弾で加速するわけにはいかないわけだ。
ミカやツルギ並に強い奴が来たらまずいけど……そんなに強いやつもいないだろうし。多分問題ないだろ。
「……ふむ。この辺りにはもういねぇみたいだな」
「なら、急いで例のところへ向かいましょう。私はアズサのところへ。人員も時間も限られていますから」
今回の作戦で俺が動かせたのは第一分隊と第八分隊だけ。スクワッドがいる分戦力的には問題ないけど、全力で戦うわけにもいかないし……ちょっと厄介だ。
……しかし、アレだな。
「よし、テメェら!急いで向かうぞ!」
「は、はいっ!」
「よし……小隊長、どうした?」
いやその、ひらひらスースーするというか……ヘルメット団って、いつもこんな長さの着てるのか。
「スカート短くて落ち着かないです……」
「……」
◇
「おっ、いたいたー……アズサたちは……うーん、揉めてますね」
なんとかアズサたちに追いついてみれば、ゲヘナの風紀委員たちと口論をしていた。
「ま、これも予想の範疇なんでしょうけど」
なんというか、考えることえげつないな、ナギサ……。
「さて……」
こっそりとアズサたちの方へ近づいてみれば、補習授業部の面々たち。コハルにハナコ、ヒフミ、アズサだ。
『トリニティの生徒が試験を受けるために、どうしてゲヘナの自治区に来るんだ!!せめてもっとまともな嘘をつけ!』
『せ、正論……あうぅ……』
『ひ、ヒフミちゃん、諦めちゃダメだよぉ!!!』
……加えて。俺の知らない生徒が、数人いる。
アズサから、話には聞いていた。
俺の知る『ブルーアーカイブ』に、『エデン条約編』に存在しない生徒。奉仕活動部。
恐らくあそこで半泣きになっている黄色い髪の生徒が、例の変なやつ……部長である、甘川アシリだろう。
「あなた達は、何者なんですかねー……」
……最初にアズサから聞いた時には本当に焦ったし、驚いた。
原作と、前世の記憶と、あまりにもかけ離れていたから。予測不可能。イレギュラーもいいところだ。
だから試験を受けるためにアシリ達もついてきてくれたのは、本当に僥倖だった。
「よい、しょっと……」
黄色い髪を後ろで一つにまとめて、それを前に持ってきている。服装は一般的なトリニティ生徒と変わらない、セーラー服。
身長は高め、恐らくは三年生。武器種アサルトライフル。
弱々しい性格に、著しく緩い涙腺。報告にある通り。
「……!」
そうしてアシリのことをよく観察し……そして、あることに気づく。
「あれ、は」
アシリの鞄につけられた、とあるストラップ。モモフレンズの、ピンキーパカと言っただろうか。
見覚えがあるものだ。十年前に。
『は、はいっ!わ、私の姉…高校生なんですけど、一体どこに…!?』
内乱の、あの時に。
『…それは。私が拾った…あの子も…私の、妹も?』
人を死なせた、あの時に。
「っ、ぅ……ふ、大丈夫、です……」
……すぐ、これだ。
とりあえず、息を整えろ……できるだけ、急いで。
「……ふー」
深く呼吸をしながら、アシリの正体について考える。
最初は、驚いたと同時に……少し、期待したんだ。
原作には存在しない者。俺と同じ、イレギュラー。この世界の結末を変え得る者。
……奉仕活動部の人間の誰かは、俺と同じ転生者なんじゃないかと。
もし、もしそうだったなら……転生者と、接触を図ろうと思っていた。
現時点でのアズサの学力は、俺の知るものよりも大幅に上がっている。
それはつまり、アズサに限らず補習授業部を……助けようとしている。そういうことになる。
転生者なら、『大人』なら……協力を求めることだって、できたかもしれない。
しかし、現実としてそれは違った。
あのストラップ。俺の記憶が正しければ十年前、姉を探していたあの子がつけていたものだ。
十年前。アリウス分校の関係者。俺の知る知識から違う行動を、この世界から外れた行動を起こし得る人間。原作には存在しなかった人間。
……つまり、あの子達は。シアンとアンナと、みんなが逃した子供達、その中の誰か。そういうことになる。
「……そっ、か」
原作を識らない。
あの子達は、転生者なんかじゃない。ただの、みんなが守った……子供だ。
「よかった……」
シアンと、アンナと、みんなの行動は……無駄じゃ、なかったんだな。
残念だったのは確かだ。トリニティに『事情』を知る人間がいれば、多少はやりやすくなっただろう。
でも、どっちにしたって本当の意味で協力することなんてできなかったんだ。巻き込んでしまうかもしれないから。死なせてしまうかもしれないから。
何も問題なんてない。今まで通り、変わらない。それだけだ。
だから、今は……この世界に、みんなの痕跡が。あの子達が生きた証が。それらが残っていることが、ただただ嬉しい。
あの時、逃した子供達は……今もまだ、青春を楽しんで。元気で、生きていてくれているんだな。
俺の、あの時の行動も……全部が間違いだったわけじゃ、なかったんだ。ほんの少しでもあの子達が守りたかったものを守る、その手伝いができた。
シアンとの約束は、果たせないけど。アンナの、みんなを逃がしてほしいって、その約束は、少しだけでも叶えられた。
それだけで、どれほど……。
『上層部に報告!正義実現委員会の襲撃だ!!』
『ちょ、ほ、本当に誤解だよぉ……!ああもう、こんな時に限ってあの子は連絡つかないし……!!』
『仕方ない、倒そう』
「……っ、と……まずい」
こんなことでうだうだしてる場合じゃねぇ。このまま放置してりゃ、最悪ヒナが来るんだ。全力を出しても勝てるかはわからねぇ。
……多分アズサと話すタイミングは、ここしかない。このチャンスを逃すな。
確か原作ではそろそろ美食研究会が来て……風紀委員を爆弾で吹き飛ばすんだったな。
であれば、だ。風紀委員と補習授業部、奉仕活動部、加えて美食研究会。ついでにフウカ。その全員の足止めをしなくちゃいけないわけで。
……やっぱこっちにも人員割いてもらった方がよかったか?まあ、なんとかなるだろ。
「……って、そうこう言ってるうちに!」
補習授業部一同の後方から爆弾が飛んでくる。
その奥に見えるのは、車に乗ったゲヘナの生徒たち。美食研究会だ。
「フンッ!」
掌に握った石を爆弾に向けて投げ、弾き返して空中で爆発させる。
「っ!?」
「な、なんだこの爆発は!」
「あら、誤作動……いえ、何者かが弾いたようですね」
……流石にハルナには気付かれたか。投げた張本人だし仕方ない。
「き、貴様ら、美食研究会!!混乱に乗じて……!」
「あら、人聞きが悪いですね。私たちはただ、空いている扉を堂々と正面から通っただけですよ?お友達の協力もありましたからね」
「んんっ!!んー!!」
……フウカ。かわいそうにな。
「くっ……!」
あ、やべ、通信して味方呼ぼうとしてる。
誤解であれど、トリニティの襲撃という未曾有の事態だ。本当にヒナが来たら笑い話にすらならない。
「第十三エリアにて美食研究会と給食部、加えて正義実現委員会による襲撃が、なっ……!」
「つ、通信機が破壊されている……!いつの間に!?」
「……!あれ、は」
「も、もう私、何が何だか……!!」
……まあ、なんだ。運の悪いことに、ここは一本道。アズサを誘拐することもできない。
で、あれば、だ。
「正面突破、一筋でしょっ!!!」
「っ、こ、今度はなんですかぁ!!?」
爆弾に神秘を全力で込め、舗装された道路を完全に破壊する。
土煙に紛れて発煙弾を複数箇所に設置し、風紀委員の元へ一気に距離を詰めた。
「なにが、がっ!!?」
「お、おい、どうし、きゃあっ!?」
顎を拳で弾く様に殴り、手早く意識を奪って、神秘で視覚と聴覚を強化する。
『……わぁああぁあ!?み、みんな無事ぃ!?』
『あらあら、これは予想外ですねぇ』
『ちょ、今合流しに来たのにどういう状況、これ!?』
様々な雑音の中に紛れ唯一、聞き覚えのある声がした。
まだ少し幼さの残る可愛らしい、愛しの妹の声。
その声のする方向へ走り、強化された視覚に埃の奥で映る白い髪。
俺のそれとは違い、透き通る様な美しい白い髪。
「……アズサっ!!!」
「……!すお、っ!?」
アズサであることを確認して、勢いのままにアズサに抱きつく。
「い、いきなり何を」
「しっ……静かに。手話で話しますよ」
耳元で囁く様にそう伝えると、アズサは小さく頷いておとなしくなる。
……伝える前に銃のセーフティを外す音が聞こえたのは、きっと気のせいだ。
『ごめんなさい。久々に話すのに、最初に伝えるのがこんなことで』
『構わない。周囲にバレないためでしょ……この騒ぎを起こしたのも、スオウ?』
『ここの騒動に限ってはそうですが……他の場所については、ちょっと違います』
主立っては温泉開発という名のテロ行為、および破壊活動のせいだ。
……ナギサは、そのことも把握していたんだろうな。性格が悪いにも程がある。
『話したいことは、山ほどありますが……時間はあまりないので、手短に伝えますね』
『うん』
『……まず、試験について。心配しないでください。無事試験を終えるまでは、私たちが補習授業部のみんなをサポートします。安心して実力を出し切ってください』
『……ありがとう。まさか、許可が降りるとは思わなかった』
……本当にな。
アズサのスパイの継続。そのことを引き合いに出したとして、ベアトリーチェから許可が降りるかについては五分と言ったところ。
だが、ここでアズサが試験に合格してしまえば……少なくとも、憂慮すべき問題は一つ消える。
そのためにも、一か八か許可を得られるか確認を取ったが……代償は、高くついた。
『ええ……ですが即して、まずいことになりました。それも、かなり』
『っ……それは、一体……』
『心配しないで』
……しまったな。伝えるべきじゃなかった、これは。
『今すぐに私たちがどうこう、なんて話ではないです。それに、なんとかなる程度のことですから』
『……』
『安心して、お姉ちゃんに任せて。アズサは、まず目先の試験に集中してください』
この際もはや、合否は関係なくなった。
どう転ぼうが、補習授業部の面々が退学にさせられることはないだろう。
……だが、それはそれ、これはこれだ。
『お姉ちゃんと、スクワッドのみんなも応援してます。全力を出し切ってください』
『っ……ありがとう。妹ではないけど』
『……』
うーん……流れでいけると思ったんだけどなぁ。
ま、しょうがないか。
『アズサちゃん!!無事ですか!!?』
『っと』
ヒフミ達は煙を抜けたか。そろそろ行かないと怪しまれるな。
『さて……直に煙も晴れます。諸々については、また後日……そうですね、今晩にでも。とにかく、今は互いにできることをしましょう』
『うん』
その場を離れようとするアズサの腕を、なんとなく掴む。
「……?」
「……あー、その……長い間、会えませんでしたから。すっごく、すごーく、寂しかったですよ」
「っ……!」
……まあ、大切なことだ。
伝えたいことは伝えれるうちに、伝えとかないとだからな。
「……そうか。私は、珍しく静かな日常だった。朝起きたら不審者が枕元にいることもなかったし」
「うぐっ……!」
そういえば、そんなこともあったな……!?
「……でも、だから……うん。私も、寂しかった」
「っ……!!あ、アズサぁ……!!」
……うん。こんなこと、思っちゃいけないけど……すごく、嬉しいな。
『こっちです!こっちからアズサちゃんの声がしました!』
「おっと……本格的にまずいですね」
「うん……もう、向かわないと」
俺の方に背を向け、アズサはヒフミ達の声がする方へ走り始める。
それを見て、俺も加勢のために移動しようとして。
ふと、アズサがくるりと振り返って。
「それじゃあ……行ってきます!」
「!……行ってらっしゃい!」
……ちょっと照れながら、そんなことを言うから。俺も少しだけ、照れ臭い様な気持ちになった。
更新遅くなってすみません……!次はもっと早い、はず……!
美食研究会
・ゲヘナ学園の部活の一つ。
・文字通り美食を研究する部活……だが、手段が極めて野蛮。
・美食を冒涜する者には容赦がなく、暴力に訴えることもある。
・テロリストなどと呼ばれることも少なくない
給食部
・ゲヘナ学園の部活の一つ。
・ゲヘナの部活にしては珍しく真っ当、良識的な部活動である。
・部員である愛清フウカがよく美食研究会に巻き込まれる。
・人手不足につき料理の質が落ちることもあるそう。