ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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※こちらは番外編になります
完結後に一箇所にまとめる予定です
読む上で不便を感じた方は教えていただけると幸いです


【過去編】分隊長採録:一

 昔から…一体私が、私たちがどのくらいの年齢だったかすら覚えちゃいねぇが。

 とにかく幼い頃から、私たちはいつも二人で一つだった。

 

「おい……持ってんだろ?寄越せよ、オラ」

「ヒッ……!」

 

 私の横には、あいつがいて。

 あいつの横には、私がいる。

 

「ヒッ……!じゃねぇよ、どうせお前にゃ家があって、家族がいて、毎日ぬくぬくと暮らせんだろ?」

「だったら私たちに少しくらい分けたって良い。そう思いやしねぇか?」

「そ、その……」

 

 いつだって、何をする時だって。

 たとえそれが誉められた行為じゃなかろうと、生きていくための苦渋の決断だろうと。私たちは、二人だったんだ。

 二人揃えば、できないことはなかった。

 

「あ゛ァ?」

「おっ、思います!思いますっ!殺さないで!!」

「最初から渡しゃあいーんだよ……ほら、サウ」

「おう……チッ、これっぽっちか。シケてやがる」

 

 私は、お互い一緒に生きていられれば、それでよかった。

 

「ここも最近、人が減り始めたからな…噂が広がってんだろ」

「……ハァ……狩場を変えるか……オラ!!いつまでそこに居やがる!!見せもんじゃねぇぞ!!!」

「す、すみませんでしたぁあああ!!」

「ったく……帰るか」

「ああ……そうだな」

 

 

 

 

「……まっじい」

「そういうなよ……やっとこさ手に入れた安全な水分に、量こそ少ねぇが食料だぜ?」

「そうは言ってもよー……」

 

 金も、食料も、服も、私たちに目をつけられたヤツは何もかも奪われる。

 そうしないと、生きていけなかった……いや、少し違うか。たとえそうしたとしても、私たちはマトモに生きていけなかった。

 

「オェッ……コレ、飲むと気分が悪くなるんだよな…」

「文句言うなら私が代わりに飲んでやろうか?」

「ハッ!誰がくれてやるかよ!」

「フッ……」

 

 あいつは、今思えばあの生活が好きではなかったのかもしれない。

 

 まずい水を、いつも文句を言いながら飲んでいた。食料も、大したもんは手に入らなかった。

 

 それでも、生活に使う水くらいは何とか手に入ったんだ。

 世間知らずのボンボンや、裏道を通る犯罪者。酒に酔ったジジイどももいた。

 

「……さて。別の狩場を探すか」

「……おう」

「……」

 

 あいつは、いつも…まあ、有り体に言えば苦痛そうな顔をしていた。

 

 まずい水を飲まなきゃいけないからじゃない。少ない食料を分け合わなくちゃいけないからじゃない。

 

 アイツは、きっと……人を傷つけることが、嫌いだったんだ。

 私と違って、優しいヤツだから。

 

 私は違う。

 

「オラオラぁ!!!ぶっ殺すぞぉ!?」

「か、勘弁してください…!このお金がなくなったら……」

 

 ……私は違う。

 

「アァ!?生言ってんじゃねぇぞ!!?」

「ぐぁっ!?う、腕が……」

 

 私は違う。

 

「よく聞け、次は足だ。その次は肋骨。そのあとは首」

「っ……ご、ごめんなさい……!全て持っていって良いですから……!お願いします……許してください……」

「オゥ、わかりゃ良いんだ、わかりゃ」

 

 私は違った。

 

 私は、自分さえ良けりゃ良い。自分と、自分の大切な奴さえ良けりゃ、それで。

 

「ふぃー……おっ、お前か。どうだった?そっちは」

「……悪ぃ。あんまり、人がいなかった。これっぽっちだ」

「……そうか」

 

 私たちは、二人で一つ。でも、あいつにとっては…私なんか、いなかった方が良かったのかもしれない。

 

 それなら……最初から、あんなことにはならなかった。

 

 

 

 

 ある時期から、自由に外へと出ることができなくなった。

 

 足に枷をつけられ、出ようとすりゃ殴られ、蹴られ、撃たれる。

 

 それ自体はいい。どうせ金なんて、最初から使い方もマトモにしらねぇ。暴力を振るわれるのだって、慣れっこだ。

 

 今まで通り、バカな連中から物を盗りゃ、食料はむしろ配給される分に加えて多くなったぐらいだ。

 少なくとも、ゴミを漁る必要は無くなった。

 

「今日より、貴様らはアリウス分校の指揮下に置かれる。訓練は明日から開始される」

 

 そうして一年後、だったと思う。

 

 私たちを閉じ込めていた教員が、そんなことを言い始めた。

 

「……ふむ」

 

 私にとっては、悪くない提案だった。

 銃や弾薬も支給され、その上戦い方も学べるときたもんだ。

 

 今までよりも、カツアゲだってしやすくなる。

 

 もっと暮らしやすく、幸福になれる。

 そのためなら、他の誰が不幸になろうと知ったこっちゃねぇ。

 

 だから私は迷いなく了承した。元々拒否権なんてなかったみてぇだが…私にとっては、問題なかった。

 

 ……多分、ここからなんだろうな。私が、あいつとの違いを認識し始めたのは。

 

「痛い……!いたいよぉ……!」

「何を腑抜けている。さっさと立て」

「もうむりです…!ゆ、ゆるしてください……!」

「関係ない。立て!」

「きゃあっ!?ご、ごめんなさい……!ごめんなさい……!!」

 

 訓練は……一言で言うのなら、地獄だった。

 私たちの年齢には明らかに不釣り合いな訓練量。体にかかる負担一切鑑みやしねぇ。

 全て虚しいだとか、訳のわからない教えを押し付けられて、従わなきゃ殴られる。

 

 食料もあまり与えられない。今まではカツアゲした分を合わせて何とかなっていたが……カツアゲする余裕すらなくなった。

 

「ごほっ、ごほっ……!」

 

 残酷なのは、死ねねぇことだ。

 私たちの体は獣人やアンドロイドに比べ、子供だろうと頑丈で強い。

 傷も、比較的容易に治癒する。

 

 食料は足りねぇ。足りねぇが、それだけだ。飢え死にするほどじゃねぇ。

 

 だからどんな傷を負おうと、数日もすりゃ必ず治っちまう。

 それをわかって、ヤツらは私たちに暴力を振るう。

 

「チッ……!」

 

 ヤツらの命令に従わなきゃいけねぇのは癪だが、私はそもそも訓練に対し積極的だった。

 だから、基本的には私に暴力は振るわれることはなかった。

 

 周りの誰が傷つこうが、泣き喚こうが、倒れようが、関係ねぇ。

 どうでもいい。気にする必要なんざありゃしねぇ。私は、それでよかった。

 

 ……あいつは、違った。

 

「なんで、あんなことをした……!」

「……」

「私たちまで目をつけられんだぞ!!わかってんのか!!?」

 

 ある時だった。あいつが、訓練で倒れたヤツを庇って……顔中を腫らして帰ってきた。

 

 私はキレた。あいつが傷つくのが嫌だったから。我が身が可愛かったから。

 そしたら、あいつは。

 

「……お前には、関係ない」

 

 そんなことを宣った。

 

「……あ?」

 

 わかってる。わかってた。あいつは、優しいから。

 私を巻き込まないためにそうした。私が大事だからそうした。突き放した。そんなことはわかってた。

 

「お仲間ごっこもこれまでだ。もう二度と、私に関わるな」

「ふざけんなよ……!」

 

 それでも、私はキレた。

 そんなあいつの気遣いを無視して、踏み躙って、その場の感情に身を任せた。

 

「上等だ!!テメェとは切る縁もねぇ!!とっとと出てって野垂れ死んじまえ!!!」

「……最初から、そのつもりだ」

 

 ……その日。私は初めて、独りになった。

 

 

 

 

「……」

 

 独りで生きるのは、はっきり言って楽だった。

 食糧も、水も、物資も、いくらでも集まる。あいつがいた時期よりも、独りで暮らす分には困らないくらいに。

 

「ゴホッ……はっ、その程度かぁ?」

「貴様ッ……!!いい加減にしろッ!!!」

 

 訓練場で見かけるアイツは見る度に痩せ細って、ボロボロになっていった。

 あのバカは、あの時を皮切りに……自棄になったみたいに、教官に反抗を始めた。誰かを庇うこともあった。自分が怒られたのに、抵抗したこともあった。

 とにかく、あいつはどんどん弱っていった。訓練もまともに受ける気がない。必然、私の方が強くなっていった。

 

 いい気味だった。

 

「ぁ……」

「……んだよ」

 

 ……そのはずだった。

 

「……」

 

 だってのに、私の心は穏やかじゃなかった。いつも何かに苛ついていた。

 何かが足りていなかった。

 

 あいつはボロボロでも、周りに気遣ってくれる奴がいた。

 私は違った。ずっと独りだった。

 

「……潮時、か」

 

 もうそろそろ、許してやってもいいんじゃないか。私の中で、誰かがそう囁いた。聞き覚えのある誰かの声だった。

 

 そうだ。あいつも確かに悪かったが、何か事情があったんだろう。私もつまらない意地を張りすぎた。二人なら、きっとまた上手くやっていける。

 仲直りしよう。大丈夫、あいつだって本当はそうしたいはずさ。

 

 そんな考えに従って、あいつのところへ会いにいった。

 あいつは、雑魚どもを集めて一緒に暮らしていたらしかったから。

 

「……おい。どういう状況だ」

「っ……ごめんなさいっ……ごめんなさい……!!」

 

 そこに、あのバカはいなかった。

 

「ごめんなさいじゃねぇんだよ。私は今『状況は?』って聞いたんだ。ちっぽけな脳みそよーくほじくり返して説明してみろ」

「……あ、あの人、が!」

「……あ?」

 

 どうにも、あいつは懲罰送りになったらしい。

 教官に気絶させられ、何処とも知れねぇ場所へ連れ去られたと。

 

「……そうか」

 

 可哀想だとは思わなかった。そのくらい、覚悟の上だろう。

 大丈夫。ちょっとやそっとで折れるくらい、あいつは柔じゃねぇ。そんなこと、一緒に暮らしていた私が一番わかってる。

 

「じゃ、ここで待たせてもらうぜ」

 

 あいつはすぐに帰ってくる。そうたかを括って……結局あいつが帰ってきたのは、二日後だった。

 

「……」

「え……?」

 

 血だらけだった。

 身体中から、血が滴っていた。片足は変な方向に曲がっていて、手の指先は真っ赤に染まっていた。

 

「……お、い……おまえ」

「っ……」

 

 私があいつに話しかけた時に向けられた目線は……恐怖。恐れだった。

 

「ごめん、なさい……」

「は……?」

「ご、ごめんなさいっ……!逆らいませんっ……!!何もしませんから……ゆ、許してください……!!ごめんなさい……!!」

 

 私は逃げた。逃げるように帰った。

 ボロボロのあいつを置いて。

 

 爪を剥がされていた。足を折られて、わざとそのままにされていた。足と手の皮を削られていた。肋を折られていた。歯を抜かれていた。

 

 あいつの状態が、眠りゆく意識の中でぐるぐる巡っていた。

 

 

 

 

 それからと言うものの、あいつは見違えるように訓練に積極的になった。

 傷つけられている誰かを見ても、庇うことは無くなった。段々と、私の目にもつかなくなっていった。

 

 ある時、たまたま出会って。

 

「……おい」

「……どうかされましたか?」

「っ……!」

 

 あいつの口調が、驚くほどに変わっていた。

 媚びるような口調だった。媚びるような目だった。媚びるような顔だった。

 

 全てを諦めた人間の顔だった。

 

「……なんでも、ねぇ」

「そうですか。では、私は訓練に戻らせていただきます」

 

 体の傷も、とっくに癒えているように見えた。それでも、あいつは何かを庇うように動いていた。何かを恐れているように、動いていた。

 

 もはや、抵抗する人間なんていなくなった。

 

「はぁ……はぁ……」

「……おい。誰かその愚図を起こせ」

 

 誰も逆らわなくなった。

 

「も、むりです……ゆるして……っ、げほっ……!」

 

 むしろ、積極的に周囲の人間を貶めるようになった。傷つけるようになった。

 当然だ。誰だって、自分の身は可愛いんだから。

 

「……もういい。連れて行け」

「っ……!ご、ごめんなさいっ!!ごめんなさい!!まだ頑張れます!!やめて……!嫌なんです、もう!あそこだけは!!」

「黙らせろ」

「ひっ……いや、やだぁ!!!助けてっ!!!だれかっ……誰でも、誰でもいいから……助けっ、もがっ」

 

 私だってそうだ。同じようにしてきた。何も間違っていない。

 この世の真理だろう?弱者は淘汰される。適応できないやつは消える。

 

 私は間違っていない。私は、ずっとこうだった。

 

「……や、めて」

「……おい。今、なんて言った?」

 

 ……あいつは。

 

「やめ、て……く、くださ、い……いっ、いやがってます……その子……」

「……ほう?」

 

 あのバカは、大馬鹿は……違ったんだ。

 

「……つまり。命令違反と見て、間違いないな?」

「っ……!は、い……」

 

 あのバカは。震えてて。泣いてて。ちっぽけで。怖がりで。強くて。優しくて。

 

 最後まで、何処の誰とも知れねぇ奴らを助けようとしていた。

 

「……で?」

「え……」

「それで、どうするつもりだ?嫌がっている?だから?だからなんなんだ?」

「わ、わたしがっ……代わり、に……」

 

 バカだ。本当に、心からそう思った。

 

 私は違う。私は、あんな綺麗(バカ)じゃない。

 自分と……自分の大切なものさえ良ければ、それでいい。

 

「おい」

「は?なんだ、お前……っ!!?」

 

 ……そのはず。だったんだけどな。

 

 なんでかな。あの時、あの場にいるカス野郎を……殴りたくて。実行しちまったのは。

 

 

 

 

「ごほっ……あの、アホども……好き勝手、ボカスカ殴りやがって」

 

 懲罰から帰ってくる頃には、もう誰もいなかった。当然だ。あいつと違って、私は独りなんだから。

 

「はぁ……何やってんだろうな……私は……」

 

 なんとなく、死にたくなっちまって。一晩中、寝転んで空を見上げていた。

 

「……死ねばいいのにな」

「いや、んなわけないでしょ」

 

 そんな時だった。

 

「……誰だ、テメェ」

「誰かって?ふっふっふーん……名乗らねばなるまい!!」

 

 あのバカを超えた、超バカ。

 

「お姉ちゃんです!!!」

 

 姉を名乗る異常者……小隊長と出会ったのは。

 

「殺すぞ」

「思ったより元気そうですね!……って、私の目を誤魔化せるわけないでしょっ!まず治療!」

「がっ……て、テメェっ……」

 

 小隊長はテキパキと私に治療を施して、すぐに私を屋内に運んだ。

 何処から盗んだのやら、暖かい飲み物と共に。

 

「……ってことで、挨拶に来ましたよ、第一分隊長……赤江サウ!」

「はっ……そういや、そんなもんになったんだったか」

 

 つい一、二週間前の話だったと思う。私がよくわからねぇもんに任命されたのは。

 

「それにしても、本っ当に……辛かったですね……!よくがんばりました。もう大丈夫ですからね」

「……やめろ。つーか、お前いくつよ」

「十三です!」

「年下じゃねぇか……何が姉だよ」

「関係ないですよ!」

「頭おかしいんじゃねえのか?」

 

 頭をやけに撫でてきて。

 

「それに、辛かっただぁ?テメェに何がわか、る……」

「……わかりますよ。ちょっとだけね」

 

 その手の先には……爪がなかった。

 

「いやー、独り懲罰房に行っちゃった子がいるって聞きまして……潜入できるかなって、ちょーっと物質の取り扱いをミスったフリして……こんなんなっちゃいました、はははっ……」

 

 爪だけじゃない。

 手に皮はなかった。

 歯が数本抜け落ちていた。

 指先がぐちゃぐちゃと、おかしな形になっていた。

 見えなかったが、足も同じようなことになっていたと思う。

 

「お前、それ……」

「あ、大丈夫大丈夫!見ててくださいよぉ……?はっ!」

 

 小隊長がそう言った瞬間、手に包帯が巻かれていた。

 血は滲んでいたが、問題ないかのように動かしていた。

 

「ふっふっふーん……これがお姉ちゃんの力っ!!」

「おま、え……」

 

 戦慄した。あり得ない。あの状態で、痛みを感じないなど。

 私も同じ状態にされたんだ。それはまず間違いない。

 

 だってのに、こいつは……。

 

「……?どーかしましたか?」

 

 狂っている。

 いや、もはや錯覚した。こいつは、本当に痛みを感じないんじゃないかと。

 あり得なくはねぇ。

 

 だが、手から伝わる激痛がそれを否定していた。

 

「あ、ひょっとして心配してます?」

「誰が……」

「だいじょーぶですよ。お姉ちゃんですから」

 

 頭がどうにかなりそうだった。

 

「……優しいですね、サウは」

「あぁ?」

 

 同時に、耳も疑った。

 私が、優しい?私みたいなもんが?

 やっぱりこいつはイカれてる。そう思った。

 

「はっ……皮肉がうまいな?」

「皮肉じゃないですよ。私のことを、心配してくれた」

「……そんなもん、誰でもできんだろ」

 

 そうだ。思うだけなら誰でもできる。

 あいつと違って、私は……誰かを助けようって気にすらならねぇ。

 

「……そんなことはないですよ。だって」

「あるんだよ」

 

 私が優しい人間なわけなかった。

 優しい人間が、他者からものを奪って生き延びようとするか?傷つけるか?見捨てるか?

 

「……だってあなたは、守ろうとした」

「ッ……!!うるせェッ!!!」

 

 奥底で、そうだと思っていた。そうだったらいいと思っていた。

 そんな本音を自覚させられて。ムカついた。苛ついた。

 

 だから小隊長を殴ろうとして。

 

「わ、あぶなっ……こらっ!いきなり人を殴っちゃいけません!」

「っ……は、はっ……」

 

 指先で軽く止められて。全部馬鹿馬鹿しくなった。

 

「……なあ、小隊長」

「なんですか?」

 

 そっくりだ。小隊長は。

 優しくて、何処までも優しくて、見知らぬ誰かさえ見捨てられない……あいつに。

 

 たとえ自分がどうなろうと、きっと小隊長は助けようとする。誰をって、誰かを。

 

 危うくて、だから美しい。私も、そんなふうになりたかった。

 

 なれなかったけど。

 

「頼まれごとを」

「いーですよ!!」

「早ぇわ!!まだ言い切ってねぇぞ、ったく……」

 

 ……まあ、細部は別物だが。

 

「……たまにでいい。あいつを」

 

 

 

 

「ぶ、分隊長……」

「……あ?」

 

 寝てたか……随分、古い夢だ。

 

「なんだ、テメェら……わらわらと」

「お、お疲れのようでしたので……せめて、見張りだけでも我々が……」

「いらねぇよ」

 

 ……結局。私とあいつは、どこまでも違う。それは今でも変わらない。

 あいつは、ずっとずっと綺麗なままでいて。それでいい。それがいい。

 

「そ、それと……小隊長がお見えです」

「……ガソリンまいとけ」

「こら!!ダメでしょ、そんなことしたら!貴重なんですよっ!」

 

 ……寝覚めから、やかましいのが。

 

「おい……テメェら、見張りのつもりなんじゃなかったか?」

「ご、ごめんなさい……でも無理ですぅ……!この化け物止めるの……!」

「さ、散々な言われようですね!?」

 

 ったく……こいつは、あの時から相変わらずだな。

 

 ……ひょっとすりゃ、あの夢は虫の知らせか?

 『やべぇ小隊長が来るぞ、目ェ覚ませ』ってな具合に。

 

 いずれにしても、お陰様でくだらねぇ約束思い出しちまった。

 

「……なぁ、小隊長」

「はい!お姉ちゃんです!」

「違え。あいつは……第五分隊長の高東ヤコは、元気か?」

「……はい。なんとか、上手くやれてますよ。ちょっとずつ、明るくなってきて」

 

 ……そうか。そいつは、よかった。

 

「サウ……やっぱりヤコと会うつもりはないですか?」

「ああ。いんだよ、私は」

 

 私とあいつは違う。それでいいんだ。

 

 あいつはあいつで。いつか幸せになりゃいい。

 私は幸せになれるほど、善良な人間じゃないから。

 

「……もー!!意地っ張りですね!!サウ!」

 

 ……ただ、問題があるとすりゃ。

 

「抱きつくな、気色悪い」

 

 目の前のアホはそんなこと微塵も思ってなさそうで……私も、ついそれに引っ張られそうになっちまうことだ。




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