ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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捻れて、歪んで

「先生、来ないですね……」

 

 トリニティの別館。ほとんど開けられたお菓子の袋を見ながら、ヒフミが寂しげにそう呟く。

 

「うん……なんでかなぁ……いつも仕事してる場所にもいないし」

 

 相槌を打ちながら、アシリはうんうんと頭を捻っていた。

 

 先生の用事。真っ先に思いつくのは、シャーレ御用達の雑用だろう。

 しかしトリニティ内のものであれば、自分たち奉仕活動部にも連絡が来ないというのはおかしい話だ。

 

 では、次にあり得るのは何か?

 

「……先生さ。ひょっとして、ティーパーティの人に呼ばれたのかな?」

「あ……」

 

 ふと溢れたアシリの言葉に、ヒフミはハッとした。

 補習授業部の本来の目的。『トリニティの裏切り者』を見つけ、退学に追いやること。

 

 その目的が達成されていない今、補習授業部が終わりを迎えようとしているとあれば、何かしら対策を練ろうとするのが必然だろう。

 その場合、先生が呼ばれる理由は……。

 

「……人質?」

「さ、流石に飛躍しすぎなような……?」

 

 それもそうだと頭を振り、変な想像を隅へ追いやる。

 具体的には鎖に繋がれた先生が淫猥な、それはもう扇状的な姿で尋問(くっ殺)されていたりしたのだが、ともあれその思考は周りには漏れなかったのだ。

 

「何の話?」

 

 否、漏れていた。どんなに包み隠そうとも、同じく想像力豊かなコハルの前には無力だった。

 

「い、いえ、実は……まだ先生が来ていなくて」

「そうなの?何かあったのかな……」

「先生に限って、心配することはないと思いますが……」

 

 つられるかのように補習授業部、および奉仕活動部のメンバーが集まり始めた。

 

「……でも、今日先生を見かけた人はいる?知っている人でもいい。会う予定があるとか、何か手伝ってもらう予定があるとか」

「す、少なくとも私は知らないです……」

 

 アズサの疑問に対し、全員が首を横に振る。

 

「ナニナニ部長、何深刻な顔しちゃってんのさ」

 

 遅れてやってきた奉仕活動部の副部長が、へらへらとアシリに肩を組む。

 

「……ねぇ、ちょっといい?」

「っ……どった部長。何があった?」

 

 真剣なアシリの表情。普段のポンコツ部長とは思えない表情。

 これは何かあったなと、すぐさまに自分も切り替える。

 

「今日、この時間にこなす予定だった依頼ってある?」

「えーっと、予定変更が昨日の夜……んで、今朝方キャンセルしたやつは行方不明の図書捜索、アクセサリー探し、Basis scholaの点検……以上だね」

「……先生の仕事になりそうなのは、Basis scholaの点検くらいかな。まあいいや、一応依頼者各位に確認して。先生に手伝いを頼んだか、否か」

 

 テキパキと確認を進めるアシリを少し驚きながら見る補習授業部のメンバー。

 その時ばかりは、普段の彼女とは違っているように見えた。

 

「……で」

 

 しばらくして、アシリがふと振り返り。

 

「か、確認とったけど……先生に依頼した人は居なそう……!そ、それどころか見かけた人の何人かは、ティーパーティの建物に向かったって……!!ど、どぉしよぉ……!!」

 

 すぐさまいつもの調子に戻ってしまった。

 

「落ち着いてください、アシリさん。決めつけるのは早いですよ」

「う、うん、そっか……で、でもでも、どうしよう!?先生があんなことや、こんなことされちゃってるかも……!!」

「どんなこと……いえ、今はやめておきましょうか」

 

 アシリの言葉を揶揄うのを途中でやめ、少し考え込むハナコ。

 

 補習授業部が試験に合格したこのタイミングで、というのは確かにきな臭い。

 しかしそれならば、わざわざ先生を呼びつける理由がどこにあるのだろうか?

 そんなことしなくても、人質に取りたいならば攫えばいいだけの話だ。可能かどうかは別として、少なくとも目撃情報が出るようなやり方をとるとは考え難い。

 

 であればこれはおそらく、純粋な協力の申し出?少なくとも、周囲に知れ渡って不利になるようなことをするとは思えない。

 

「……いえ、大丈夫だと思いますよ。ティーパーティの建物に行った可能性はありますが、そこまで心配するほどではないかと……」

 

 と、そこまで発言して。

 

「っ……!?」

 

 大きな爆発音に遮られてしまう。

 

「きゃあっ!?」

「な、なんですか、この爆発は!?」

「……この音、かなりの火薬が使われてる。あまり穏やかでない事態が起こっているのは確かだ」

 

 アズサの冷静な分析に、その場の空気が凍りつく。

 

「ね、ねぇ、アレって……!」

 

 アシリの指差す方角には、小さな窓が一つ。

 その中に見えたのは……ティーパーティの建物から、黒い煙が上がっている姿だった。

 

「っ……!!」

 

 アズサを除いた全員の心に、ある一人の人間が思い浮かぶ。

 

「先生っ!!」

 

 ……そして、ただ一人アズサの中にだけは……先生と、もう一人。

 

「スオウ……?」

 

 

 

 

「……反撃しないの?スオウちゃん」

「げふっ……ぐっ……!!」

 

 なんつー力だ……!!

 神秘を込めて防御しても、痺れるような衝撃が腹の奥底まで響く……!!

 

 奇襲の時は、これを神秘なしでまともに喰らった……!

 

「ふ、ぅううぅぅ……!」

 

 落ち着け。左腕は神秘を込めちゃいるが、まだ回復は遠そうだ。

 だが、神秘を込めた防御は貫通されたわけじゃない。ギリギリではあるが、防ぐこともできる。

 

「……」

 

 防御した腕に赤い腫れ。打撲。

 近接は避けるべきか?

 

「あ、距離取るんだね?銃より拳の方が怖い?」

「そりゃそうでしょうが……!」

 

 ハンドキャノンを主体とした、中距離の戦闘。

 ヘアロープを駆使しながら距離を取り続けろ。みんなへ通信を入れる隙があれば即座に、迅速に。

 

「まあ、悪くない手段だけど……」

 

 ……なんだ?突然、壁を砕いて。

 

 岩を、持ち上げて……っ、まずい!?

 

「その程度の対策、してないわけないじゃん」

「ッ……!!」

 

 岩が光り輝いている……!?神秘を過剰に込めたのか!?

 

 なんだ、この悪寒。全身が逃げろと、正面から受けるなと、警鐘を鳴らしている。

 神秘で視覚を強化しろ。

 

「受け止めれるなら、受け止めてみなよっ!!」

 

 ……なげ、た?

 

「っ、やば……!!」

 

 眼前にあるアレは、絶対に受けちゃいけない。

 避けろ。避けろ、避けろ、避けろ、避けろ!!

 

「ふ、ぅっ!!」

「……避けたか。まあ、普通そうするよね」

「はっ……!!はっ……!!」

 

 緊張からの解放で、呼吸が荒い。

 

 ミカが今やったことはシンプルだ。神秘を過剰に込めて頑丈にした岩を、同じく神秘で強化した筋力、瞬発力で思いっきりぶん投げた。

 

 つまり、俺やシアンがやっている技を大幅に強化した。それだけ。

 

「っ……!!」

 

 だが、その威力は……抉れ飛んだ壁を見れば一目瞭然だ。

 神秘を込めた防御でも防ぎ切れる保証はない。

 

 もし、アレがみんなに使われたら……俺じゃあ、庇いきれない。

 

 だったら、やるしかない。

 

「あ、やっぱり接近戦にする?」

「……」

「……お話ししてくれてもいいじゃん。なんで無視するの……?」

 

 今ここで、ミカを行動不能にする。

 

「やる気になったね。大人しく捕まって欲しかったけど……じゃあ、しょうがないかな」

 

 手榴弾を右手に三発。

 その全てに神秘を強く込め、ピンの部分を指に通す。

 

「……全力で行きます」

 

 左腕が使えないのは痛いが、一度神秘を込めるのはやめよう。回復に神秘を割く余裕はなさそうだ。

 

「はっ!!」

 

 地面を蹴り上げ、空中に大きく跳躍する。

 

「空中じゃいい的だよ」

 

 ミカの投げた岩を右手の手榴弾、そのうちの一つで横方向に移動することによって避ける。

 

「知って、ますよっ!!」

 

 二発目、今度はミカの方向へ向けての加速。

 即座に地面に到達し、その勢いで地面そのものを砕く。

 

「っ……!!」

 

 体のバランスを崩したミカの腹へ向け、最後の手榴弾を作動し拳と共に叩きつける。

 

「吹きっ……!!飛べっ!!」

 

 振り抜いた拳。そのまま天井まで吹き飛ばす、つもりだったが。

 

「ごほっ……!!やるなぁ、スオウちゃん……!!」

 

 直前、ミカが地面に足を埋め込んでいたことにより、それは能わなかった。

 すぐさま予定を変更し、わずかに宙へ浮いたミカに追撃を仕掛ける。

 

「ぐっ……!!これ……髪の毛?」

 

 先端に錘をつけたヘアロープでミカを絡め取り、引っ張って自分の方へ寄せる。

 こちらへ迫るミカの顔面を背面に一回転しながら蹴り上げ、地面へ着地する。

 

 同時に跳躍。ミカの顔面を踏みつけ、さらに飛び上がる。ロープを引っ張って宙へと浮かせようとした、ところで。

 

「これ、厄介だね。千切っていい?」

「っ……!!」

 

 悪寒。すぐさまにヘアロープを解き神秘を込めたショットガンを放つ、が、しかし。

 

「……うーん、逃したか」

 

 発散した銃弾の一部が、ミカによって握りつぶされてしまう。

 

「お返し」

「やばっ……!」

 

 ミカが投げ返してきた銃弾。

 回避した、その先に。

 

「ぐぁっ……!!」

 

 ミカの銃弾。連射されるそれは、ミカの拳ほどの脅威ではないことは確かだ。

 だが、それでも喰らう。入る。ダメージが、確実に。

 

「っ……!!」

 

 右手でヘアロープを回し、可能な限り銃弾を逸らす。

 ズキズキと痛む左腕を無理やり動かして、爆弾によりミカの方へ加速し、反撃を試みる。

 

「……っ、スオウちゃん。左腕、大変なことになっちゃうよ?」

「知ったこっちゃない、です……!!」

 

 わずかに怯んだ。ミカの弱点。

 

 理解の外側、痛みを無視した行動、予想外の行動。だったら。

 

「ふっ……!」

「……」

 

 右腕で殴るフェイントを入れる。

 当然、ミカも対応しようと右腕を構えた、ところで。

 

「はぁっ!!」

「っ!?」

 

 爆弾を握り込んだ左腕で、ミカの右頬へと思いっきり拳を入れた。

 

 そのまま横へ吹き飛ぶミカに追従する。

 

「っ、ぅ……!ぁ、あっ……!!」

 

 痛い……!痛い、痛い、痛い、痛い……!!

 予想外のこの一撃を隠匿するためには、左腕に神秘を込めるわけにはいかなかった……!

 

 思考が邪魔される。次の一手が思いつかない。

 

「っ……!らぁっ!!」

 

 目ェ覚ませ。痛みなんかで止まってる場合か。慣れっこだろ。

 

 あの子たちの方がずっと痛かった。ずっと辛かった。

 

 だったら今、今ここで俺が耐えなくてどうする。

 

「っ……!!スオウ、ちゃ」

「せいっ!!」

「うっ……!!」

 

 ミカに対する俺の優位性は、爆弾による加速、スピード。小柄であるが故の、攻撃の当たりにくさ。加えて、近接格闘術と、神秘の総量。出力はわからない。

 ミカの格闘は、荒々しい力を振り回すこと。

 

 柔よく剛を制す、と行きたいところだが……!

 

「……ちょっと」

 

 そうはいかないのがミカだ……!

 

「ぐぅっ……!?」

 

 やばい、足を掴まれて……!!

 

「いくらなんでも、ボコスカ殴りすぎじゃない?」

「がっ、あぁぁああっ!!?」

 

 視界が回る……!

 殴られる直前、見えた。神秘で光り輝く拳を……!本当の本気、全力!今までの比じゃない威力だ……!

 

「う、あ……!」

 

 うまく立てない。脳を揺らされた?

 

「流石に今のは、痛かったよっ!!」

「ごふっ……!おぇっ……!!」

 

 何度も、何度も殴られる。

 何度も、何度も、何度も。

 

「ねぇ、スオウちゃん」

「こほっ……!」

 

 世界が、逆に……足を掴まれている?

 

「スオウちゃんは強いよ。多分、普段なら私ともいい勝負ができたと思う。剣先ツルギともやり合ったって聞いたし。でも、でもさ。やっぱりその腕と体じゃ無理だよ。私には勝てない」

「……!!」

「最初の一撃は、本当の本気。今やったのと同じくらいの。スオウちゃんは気づいてないけど、身体中にすごいダメージが入ってる」

 

 ……左腕と肋の痛み。加えてミカの言動への驚きで、気づかなかった。

 今感覚を体に向けてみれば、よくわかる。最初の一撃でとっくに筋繊維がズタズタになって、一部の骨はヒビが入っている。

 

 それだけ、あの一撃が強力だった。

 

「途中スオウちゃんが有利だったのは、サオリちゃんたちを呼び寄せるためと……あんまり痛くしちゃ可哀想だったから」

「っ……!」

「でもやっぱり、それじゃダメだね。時間もないし……ごめんね?スオウちゃん」

 

 殴られる……!!回避を……!!

 

「これで……おしまい」

 

 よけ、れない……!

 

「っ……!!」

 

 ……痛みが、こない?

 

「はぁ……!!はぁ……!!」

「……あ、サオリちゃんか。手間が省けた」

「っ……!!スオウから、手を離せ……!!聖園ミカ!!」

「ッ、サオリ!?」

 

 戦闘音に気付いて……!?間に合わなかった……!!

 

「いーよ、離してあげる」

「っ……」

 

 ダメージが、深い……!一刻も早く、回復……!

 

「ねぇ、どういう状況……?」

 

 っ違う!冷静になれ!

 今俺がするべきことはなんだ?サオリたちは来てしまった。ミカには勝てない。

 だったら俺にできることは一つ。

 

「みんな逃げてッ!!ミカさんは、私たちを捕まえるつもりです!!」

「まあ、そうするよね……スオウちゃんなら」

 

 みんなを逃す。なんとしてでも。

 

「痛っ……!……スナイパーライフル。ヒヨリちゃんもいるね……そこか」

「ッヒヨリ!!今すぐそこを離れて!!」

『……え?』

 

 あの構えは、俺との戦いで見せた……!

 

「はぁっ!!」

『わ、わぁあああぁあっ!?』

「ヒヨリ!?」

 

 通信が、切れた。

 神秘で強化した目には、映る。映ってしまう。

 

 身体から血を流して弱々しく倒れ伏す、ヒヨリの姿が。

 

「っ……!!やめてください、ミカさん……!!」

「……ごめんね。でも、全員捕まえるって言ったでしょ?」

 

 ダメだ。そんな。

 

「……ミカ。お前にどんな事情があるのかは知らない。理由も知らない」

「だけど……だけどさ」

『スオウとヒヨリを傷つけたのは、許さない』

 

 もうこれ以上……誰も傷つかないでくれ……。

 

「勝つつもり?アズサちゃんとヒヨリちゃんが居ないのに?」

「第八分隊のみんながいるよ……あの時とは違う」

「そっかぁ……それで、その第八分隊のみんなってさ」

 

 あんな、大きな岩。俺との戦いでは、使わなかった。

 

「これ、避けれるの?」

 

 動け、体。動け、動け、動け……!!

 

「お、らぁっ!!」

「っ……!」

「はぁ……!はぁ……!」

 

 動いた。なんとか、攻撃を中断させることができた。

 

「……健気だね、スオウちゃん。もうそんなにボロボロなのに」

「みんな……にげ、て……!」

「……スオウを置いて、逃げるわけ無いでしょ。そんなに非道だと思われてた?私たち」

「ちがっ、ぐっ……!!」

 

 息、が……!

 

「スオウちゃん、少し寝てて。大丈夫、起きる頃にはみんな一緒だよ」

「……舐められたものだな。そんな安い挑発に乗ると思うか?」

「とてもそんな顔には見えないけど?」

「……」

 

 ダメだ……!サオリ、戦うな……!

 

 ミカはわかってる。今この場で最善なのは、サオリの冷静さを削ぐこと。

 第八分隊で一番強くて、司令塔でもあるサオリを無力化すること。真っ先に倒すべきは、サオリなんだ。

 

 だからこんな、煽るようなセリフを吐いている。

 

『リーダー、落ち着いて。気持ちはわかるけど……』

「それ、毎度何言ってるのかわかんないよ、アツコちゃん。普通に喋れないの?」

『……』

「ッ……!!貴様ッ……!!」

「……どんな意図があるのかはわからないけど……もういいよ。やっちゃおう、リーダー」

 

 体から、力が……!

 

「あ、やっとやる気になった?」

 

 ダメだ……いしき、が……。

 

「じゃあ、始めよっか!」




神秘を過剰に込めると神秘により光るというのはEXスキルを独自解釈したものになります
ちょっと本編だとわからないと思ったので
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