ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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尋ね人

「ミサキ、ミカから距離をとってくれ。第八分隊の指揮は任せる」

「……一人で相手取るつもり?無茶だよ、せめて二人くらい連れて行って」

「……いや、いい。サポートを頼む。姫と誰か他二人が中距離で私のサポートを。他のものはミサキの指示に従いながら妨害を頼む。数名、小隊長の治療へ回せそうならばそれも頼んだ」

『うん、わかった』

 

 第八分隊に指示を出し、徐々に、徐々に前へと歩み始めるサオリ。

 

「あ、終わった?待ちくたびれちゃったよ」

「……」

 

 煮えたぎるような内心を隠し、冷静を装う。

 

 スオウを傷つけられ、ヒヨリを傷つけられ、自らの無力の証だったアツコの話し方を馬鹿にされた。

 どんな事情があるのかは知らないが、たとえどんな理由があろうと許しがたい行為である、それだけが確かだ。

 

「……意外と冷静だね?」

 

 一方で、ミカ。

 彼女は飄々とした態度をとっているが、その実非常に正確に状況を分析している。

 サオリが思ったよりも冷静なのは想定外だ。できることなら、可能な限り冷静さは削いでおきたい。

 

「……」

「まあ、それもそっか」

 

 もう少し煽っておくか、と。

 

「その程度の仲ってことだもんね?」

「ッ……!!」

 

 幸いにして、性格の悪い自分だ。相手の神経を逆撫でする言葉は、いくらでも出てきた。

 

『……リーダー、怒ってるのは私たちも一緒だよ。冷静にね』

 

 一瞬で沸点に到達仕掛けたのを、通信越しのミサキの声で落ち着ける。

 

「……聖園、ミカ」

「なあに、サオリちゃん?そんなに怖い顔しちゃって」

 

 そして、とうとう完全に距離が詰められ……双方、至近距離で睨み合う形になる。

 

「お前は……」

 

 言いたいことはたくさんあった。

 なぜこんなことを。何のために。

 

 だが、それ以上に。

 

「お前は……!」

 

 言葉にならない怒り。

 もはや何のためにやっているのかわからない煽りにも苛つき始めた。

 

「……ぶっ飛ばしてやる!!」

 

 神秘を過剰に込めた右腕。

 

 絢爛と輝くそれを、身長差につきこちらを見上げるミカの顔面に叩きつける。

 

「っ……!!」

 

 そうして、戦いの火蓋は切られた。

 他でも無い桐花スオウが最も望んでいなかっただろう戦いが今、始まってしまった。

 

「痛い、なぁ!!」

「っ……!!」

 

 振り抜かれるミカの拳。全力で後ろへ跳躍することによって回避する。

 

「ぐっ……!」

 

 拳より放たれるその風圧だけでわかる。ミカの拳の威力が。

 わずかに戦慄が浮かぶが、即座に反撃へと思考を切り替える。

 

『総員、距離をとって。リーダー、ミカ相手に正面戦闘は無茶だよ。トラップを配置するから、うまくそこに引き込める?』

 

 ミサキより入る通信。無論サオリに返事をする余裕などなく、視線だけで了承を伝えるのが精一杯だった。

 

「よそ見してる余裕なんてあるの?」

「っ……!!」

 

 眼前に突如現れたミカ。

 両の腕でこちらを締め付けようとしている。

 

「こ、のっ……!!」

 

 寸前で体勢を低くして回避、足払いをかけバランスを崩そうと試みる。

 

「っ、巨木……!?」

 

 しかしミカの人智を超えた筋力、体幹によりそれは能わなかった。

 一瞬思考が止まりかけたのを振り払って追撃、神秘を込めた銃弾を撃ち込む。

 

「……うーん、痛いことは痛いけど」

「っ……!?」

 

 着弾箇所から煙を吹き出しながらも、ミカはサオリの方を見て困ったように笑い。

 

「荒々しさが足りないかな?」

 

 訳のわからない言葉と共に、地面を思いっきり踏みつけた。

 

「ぐっ……!!」

 

 地面がひび割れ、砕け、粉砕され、抉れていく。

 予想外の一撃。サオリも避け切ることはできず、バランスを崩してしまった。

 

「じゃあ、まずサオリちゃんから……」

「っ……!」

 

 続くミカの追撃、拳。

 なんとか回避しようと地面を蹴り付け、空中に逃げ出す。

 

「……あはっ。いい的」

「なっ……!!」

 

 しかしミカが砕けた岩のうち一つ、たった一つではあるが拾い上げ……過剰に神秘を込める。

 

「あれ、は……!」

 

 先程ヒヨリを離脱させた。

 その言の葉を紡ぐ間もなく、すぐさまに回避に専念する。

 

「……その程度じゃ避け切れないよ」

「くっ……!!」

 

 どうする、スオウのように爆弾で動きを変えるべきか?否、不確定要素が大きすぎる。

 当然のように行なっているあの動き、爆発の痛みに耐えながら吹き飛ばされる勢いを調整するなど、本来なら不可能に等しい行為だ。

 ならばどうする、アレは喰らえば確実にダメージが入る。

 

「……!」

 

 と、そこで思い直す。

 これは避ける必要がない、なぜなら……。

 

「かっ……!?痛っ、いなぁ!?」

 

 自分は一人で戦っているわけではない。

 

「っ、まずっ……!!」

 

 アツコと他数人が放った銃弾により、痛みで一瞬怯んだミカ。彼女の隙を狙うかのように、ロケットランチャーの弾が着弾した。

 サオリに被害が及ばぬよう威力を調整されたそれは、ミサキのものと見て間違いないだろう。

 

「……」

 

 与えられたわずかな時間を縫うように、弾丸に神秘を込める。

 過剰に、最大限に。己の出来うる、全力で。

 許される弾数は、たったの三発。それ以上でも、それ以下でもない。

 

 怪しく輝き始めた弾丸を装填し、煙が晴れるのを待つ。

 

「……見えたっ!!」

 

 一発目。わずかに晴れた煙、見えたミカの服を撃ち抜く。

 煙を裂き、貫通したその弾丸。

 

「っ、アウター……!?」

 

 しかしそれは岩に括り付けられたミカの服の一部に過ぎなかった。

 

 残された弾丸は二発。

 

「どこだ……!!」

 

 巡る視線、ミサキに通信を繋ぐ。

 

「ミサキ、ミカは!?」

『知らない……私には見えなかったから、煙の中にまだいるはず』

「くっ……!」

 

 しかし、いない。どこを見ても。

 

「仕方がない……一度離脱、っ!?」

「捕まえた」

 

 地中から這い出るミカの腕。その腕に足を掴まれてしまう。

 

「しまっ」

「はぁっ!!」

「っ……!はっ、がっ……!」

 

 宙に投げられ、打ち込まれるミカの拳。

 避ける術も持たず、腹に神秘を込めて防御を図るのが精一杯だった。

 

 吹き飛ばされ、壁に打ち付けられ地面へ落下する。

 

「……っ、はぁ……!はぁ……!」

 

 強い打撃により肺から漏れ出た空気を、思いっきり息を吸い込んでなんとか取り戻すサオリ。

 

 先程神秘を込めた弾丸も、使用期限が近い。神秘というものは、そう長時間保っていられるものではないのだ。

 

『サオリ、無事!?』

「あ、ああ……!なんとか」

「無事とは言えないかな?」

「っ!?」

 

 筋力に任せ一瞬でサオリの元へ移動したミカに、サオリは反応し切れなかった。

 

「っ……!!」

「ふんっ!!」

 

 ミカの拳と交錯するようにして放つ、過剰な神秘を込めた弾丸。

 一発は避けられ、もう一発は肩に当たる。

 

「う……!!」

 

 突然肩を抑え、一息に地面を蹴り上げて撤退するミカ。

 

「……なぜ?」

 

 自分の神秘を込めた弾丸。あれであれば、ミカにも無視できないダメージが入る。それは確かだった。

 しかし先刻までの修羅のような戦いぶりを見せたミカが、撤退?

 

「……」

 

 あり得ない。むしろその隙を狙って、積極的にカウンターを狙うだろう。

 ならば、なぜ今撤退した?痛みだけではない、体が硬直し、戻らざるを得なかった、というように見えた。

 

「……まさか」

 

 サオリが得た、一つの確信。

 

「あちゃー」

 

───ありゃバレちゃったかなぁ?

 

 そんな軽口を叩く聖園ミカ、彼女は内心では焦っていた。

 桐花スオウとの戦いで残ったダメージ。

 その拳は、爆発は、銃弾は、確実に彼女の肉体を蝕んでいる。

 

 また、神秘により過剰に強化した拳。アレは全力で打ち付けてしまえば、己の肉体にも僅かにダメージが残る。

 神秘により強化された筋力、それにより繰り出される拳。肩、腰、足、腕、あらゆる筋肉を使う攻撃。それが防御の強化を上回ってしまった結果である。

 

 たとえ手負いであろうと、化け物は化け物。無傷で倒せるほど甘くはなかった。

 

「けほっ……まあ、なんとかなるけど」

 

 しかし、それはミカとて同じこと。彼女もまた、世に名を連ねる化け物の一人なのだから。

 

「ふぅ……」

 

 口から出てきた血を拭き取りながら、聖園ミカは考える。

 

 最初に槌永ヒヨリを処分できたのは僥倖だった。おかげでかなりやりやすい。

 第八分隊、ことアリウススクワッドのメンバーにおいてはその連携は非常に厄介だ。もしここに白洲アズサも加わっていれば、負けていたのはミカの方だろう。

 だから、なればこそ、錠前サオリを重点的に攻撃、確実に戦闘不能にする。

 

「スオウとの戦闘でのダメージが残っているな」

「っ……!!」

 

 一瞬の思案、油断。その隙を狙ったサオリにより、横方向へ思いっきり蹴飛ばされる。

 

「まずっ」

「今だっ!!」

 

 浴びせられる銃弾の嵐。第八分隊の多くをここに配置していたのかと、無駄な考えを巡らせる。

 

「っ……!!」

 

 スオウとの戦いでつけられた傷になら、第八分隊の中でも戦闘が得意でない者の銃弾も通るという判断だろう。

 事実、それは間違いではなかった。

 

「でも……甘いよっ!!」

 

 銃弾のうち数発を手中に収め弾道を把握、正確に投げ返す。

 

「……二人やれたね。あと六人、っ……!?催涙ガス……!?」

 

 しかしそこであらかじめ仕掛けられていたトラップに絡め取られる。

 催涙ガスによる奪われる視界。聴覚で状況を把握しようと試みる。

 

「これで終わりだ!」

「っ!?」

 

 突然後ろから聞こえる声。神秘を強化した弾丸による攻撃かと、防御に注力する。

 

「なっ……!!」

 

 しかしくる衝撃は別物。掌底による、ノックバックであった。

 存在を感知していた地雷を踏みつけてしまい、行動を制限される。

 

「ミサキッ!!」

 

 通信でそう言い残し、サオリは瞬時に撤退する。

 予想外の行動。ミカの思考が、真っ白に染め上げられる。

 

「っ……!!やばい、ね……!!」

 

 天より到来する、無数の爆発物の雨。過剰な神秘を込められたそれは、ミサキの放ったものであることは確実だった。

 

 岩石を投げ六割程度を撃ち落とすが、残りは破壊することができず。

 

「っ……!!」

 

 ミカの視界は、赤い炎により埋め尽くされた。

 

 

 

 

 ところ変わって、桐花スオウの元にて。

 

「い、今のうちに……!っ、ひどい……!!左腕がぐちゃぐちゃになってる、治るの……!?これ……!」

「わかんない……!とにかく止血を……!!あと、連絡!!」

「お、おっけー!!小隊長、回収しました……!!」

『了解、助かった。こっちはまだ撤退は難しそうだから、ちょっと離れて治療して』

「りょ、了解!」

 

 第八分隊の者が駆けつけた頃には、桐花スオウの容体はひどいものだった。

 

 ミカの奇襲により粉砕された左腕は、拳大の風穴が開けられている。

 左胸のあたりは肋がバラバラに粉砕され、一部が肺や、その他主要な内臓に刺さっていた。

 

 その上、全身の打撲、骨のヒビ、骨折、筋繊維の断絶。

 

 特に無茶を言わせた左腕に関しては、見るに耐えない惨状だった。

 

 これでも本人由来の自然治癒力によりわずかに治っているというのだから恐ろしいと、つい口元を押さえたくなる。

 

「うっ……!!」

「しっかり!今みんなを助けられるのは、私たちだけだよ……!!小隊長がこんな風にされちゃうような相手、勝てるかどうかわかんない……!小隊長を治して、すぐに撤退しないと……!!」

「そ、そうだけど……!!」

 

 しかし、撤退できるのだろうか?今までは小隊長の治療どころか、近づくことさえできなかった。

 聖園ミカによって妨害されていたから。今自分たちがこうしてスオウを回収できたのは、サオリを始めとした第八分隊が時間を稼いでいるからだ。

 

「っ……!ダメ……!包帯も、薬も、消毒液も、全然足りてない……!!」

「どっ、どうしよう……!!小隊長っ……!!」

 

 治療に必要な器材が、あまりに足りていない。あくまで簡易的な治療を目的としたこの器材だけでは、応急処置すら難しい。

 もはやどうすればいいのかわからず、呆然としていたところで。

 

「す、すごい数の正義実現委員会……!こ、これ、私たち犯人だと思われてないよね!?」

「わからないけど、不審なのは確か。それよりアシリ、しっかり口を塞いで。舌を噛む」

「ん、んんーっ!?」

 

 片方は、聞き覚えのある声だった。同じ第八分隊の仲間の声。

 徐々にその姿が見え始める。

 

「痛い!!?舌噛んだ!!口閉じてても舌噛んだ!!痛いよぉアズサちゃん!!止まってぇ!?」

「ごめん、できない」

「うわぁあぁああぁああん!?」

 

 彼女たちの仲間……白洲アズサが、泣いている黄色い髪の生徒を誘拐する姿が。

 

「っ、待って、あそこに誰かいるよ!!」

「っ……!わかった!」

 

 彼女たちの前で足を止め、向かってくる。

 

「……っ!?す、っ……」

「だ、大丈夫!?あなたたち!!」

「っ……!!」

 

 わずかな逡巡。

 結論を出すのに、そう時間はかからなかった。

 

「お願いします、助けてください!戦闘に巻き込まれてっ……!!治療キットはありますか!?」

「う、うん、あるよ!!」

 

 トリニティにいる人間の多くは、アリウス分校について知らない。

 であれば、ここで助けを求めても問題はないはずだ。白洲アズサの前で、というのはリスクがある行為だが、そんな隙を晒すつもりは毛頭ない。

 制服も正義実現委員会やシスターフッドのものでないから、バレる心配はない。

 

「任せて、医学は齧ってるから!」

 

 だからこそ、ここで彼女……甘川アシリに助けを求めるのはそう悪い選択肢ではないのだ。

 

「っ、ひどい状態……!!今すぐちゃんとした施設で治療が必要だよ、これっ……!!」

 

 事実、アシリは治療について非常に積極的だった。

 

「今すぐ連れてかないと!あなたたち、どこの部活……あれ……?見たことのない制服……ううん、やっぱりある……っ!?」

 

 ……彼女たちに落ち度が、予想外があるとすれば。

 

「あなた、たち……アリウス、なの……?」

「……っ!?」

 

 相手が過去アリウス分校に在籍していたこと。

 その事実のみだけであった。

 

「ぅ……ぐ……」

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