ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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そして交わる物語(おはなし)

「正義実現委員会の生徒の百六十七名が戦闘不能、うち三十二名は重症です。一般生徒に被害はなし、しかしティーパーティの建物は基礎の一部を崩され、修復に時間がかかります」

「……そう、ですか」

 

 いつもとどことなく風味の違う紅茶を手に、部下からの報告を受けるナギサ。

 先日の彼女、手負いの怪物によってもたらされた被害である。

 

「……それと、例の捕虜については」

「相変わらず、でしょう?全く、厄介な……いえ、失礼しました。続けて下さい」

「被害報告は以上……いえ、ミカ様のことですが……傷は完治したそうです」

「……わかりました」

 

 ゆっくりと紅茶を皿に下ろしながら一息吐く。平静を装ってはいるが、その胸中は穏やかではなかった。

 

 二日前の夜。白洲アズサの裏切り。聖園ミカの負傷。そして、『アリウスの白い悪魔』。

 はっきり言って、問題が起こりすぎだ。ミカならば投げ出しているところだろう、と、そこまで考えて。

 

「はぁ……」

 

 そうとも言えない、そんな考えが思い浮かんだ自分に溜息する。

 

 ミカの変化。一年ほど前、彼女と犬猿の仲だったセイアが死んだ頃からだったろうか。

 ミカは少しずつ、少しずつではあるが、ティーパーティの一員として外に出せる程度の成長を、思慮深さを身に付けつつあった。

 喜ばしいことではあるが、少々自身の知る彼女とブレているのは事実であった。

 聖園ミカは、セイアが死んだからといってその役割を担おうとするほど殊勝な性格をしていない。ある意味では弁えているとも言えるが。

 ここ最近においては、特にそのブレが顕著だ。

 

 はっきり言って今は、自分には彼女がわからない。理解できていると思えない。漠然とした悩みがあった。

 

 それだけではない。補習授業部の一件であらぬ疑いをかけたヒフミ、ハナコ、巻き込んだコハル。関係者各位。彼女らには、一度どこかでしっかりと謝罪をしなくてはならない。

 今ではない。それは確かだ。

 苦楽を共にした学友が、実はトリニティの崩壊を望んでいたなど、あまりに受け入れ難い出来事だ。気持ちの整理もつかないだろう。

 それが判明するキッカケを作った自分に対しては、特に。

 

「っ、はい」

 

 と、そこまで考えて、ふと扉を叩く音に意識を引き戻される。

 一体、誰だろうか?そんな疑問は、扉の奥に見える長い白コート、加えて黒い髪ですぐに消え失せた。

 

「“……こんばんは、ナギサ”」

「先生……」

 

 そうだった、先生を呼んでいたのだったと。

 

「……あの時以来ですね。期間が空いてしまい申し訳ございません。私も対応に追われ……」

「“大丈夫だよ”」

 

 どこか暗い顔をしているように見えた先生だが、すぐに声色は戻った。

 

「ありがとうございます。それで……どうですか?補習授業部、いえ、元補習授業部のみなさんは」

「“……”」

 

 先生を呼び出した理由。元補習授業部員のメンタルケア。

 白洲アズサの裏切り、退学……正確には手続きが必要故、書類上はまだ退学にはなっていないが。

 ともあれ彼女達の精神的苦痛、負担を鑑みれば、それらを和らげる手段は必要だと考えた。

 

 本来ならばシスターフッド、もしくは奉仕活動部に一任すべきだが、シスターフッドは調印式の準備で忙しい。奉仕活動部に関しても、白洲アズサとは深い親交があったことが確認されている。

 彼女達に頼むのは酷だろうと、先生に任せることにしたのだ。

 

「……その様子を見るに、あまり良くはないようですね」

 

 わかってはいた。こうなるであろうことは。

 しかし、しかしだ。

 

「申し開きするつもりはありません。しかし、こうしなければアリウス分校による被害がより出ていたと……そのことをご理解いただければ幸いです」

「“ナギサ……”」

「……私は。正しいことをした。そのつもりです」

「“……本当に?”」

「……」

「“本当に、そう思えてる?”」

 

 その目線が、その言葉が。見透かされているようで、やけに不愉快だった。

 

「……とにかく、みなさんのケアはできる限り先生に任せたいと考えております。本来なら私がやるべきですが……不愉快なだけでしょうから」

 

 だから、話を流した。

 己の本音を、恐怖を、後悔を、知られたくなかったから。

 もうヒフミに会うことはほとんどないだろう。それだけのことをした。敵視されていてもおかしくない、いや、そうでなければおかしいほどに。

 それでもミカや、トリニティや、全てを守るにはこれが最適で、最善だったから。

 

 自分があの夜、あの場所で、あんな無様を晒さなければこんな視線を、同情を向けられることもなかっただろうかと、自分を殴りつけてやりたい衝動に駆られる。

 

「“……ナギサにも手伝ってもらいたいかな。私一人じゃ、できることは少ないから”」

「……まあ、考えておきます」

 

 曖昧な言葉で誤魔化しながら目を背け、そして本題に入る。

 

「……さて。本日先生にお越しいただいたのは、ご相談願いたいことがあるからです」

「“相談……?”」

「はい」

 

 もっとも、受けるか否かは先生次第ですが。そう続けながら、ナギサは一枚の写真を取り出す。

 シンプルな白い服を着た、同じく白い髪の少女。マグショットというものだろうか。

 

「“この子は……”」

「先日捕まえた、『アリウスの白い悪魔』です」

 

 どこか儚げに、弱々しく笑う写真の少女。その双眼の周囲は泣き腫らしたようになっていた。

 傷はもうほとんど完治したのか跡もなく、見方によっては普通の子供のようにも見える。

 

「彼女の名前は桐花スオウ。アリウス分校の小隊長……恐らく、実質的な隊のトップだと考えられます」

 

 ナギサにとっては朗報だった。あれ以上の化け物はアリウス分校にはいない可能性が高い。

 ミカとやり合った上、手負いの状態で正義実現委員の集団を相手に十分間、逃げ回るわけでもなく、ひたすら戦い続けた。

 あんな化け物が他にいるなど、考えたくもないことだったのだ。

 

「今は地下牢にて、厳重に拘束されています。混乱を招きかねないため、その存在は秘匿してありますが」

「“……そっか”」

「はい。そして……」

 

 ナギサは困ったように少し間を置き。

 

「わかったことは、これだけです」

「“え……?”」

 

 そんなことを言うので、先生は頓狂な疑問の声を口にした。

 

「現在彼女がアリウス分校についての情報を得るため、尋問されています。……ああ、ご安心を。最低限の倫理と道徳に従い、拷問じみた行為はしておりませんので」

「“……”」

 

 最低限の、という言葉に少し引っ掛かりを覚えたものの、ひとまずは流し先の話を聞く先生。

 

「ですが、一切の情報を吐かないのです。恐らくではありますが、そういった訓練を受けている可能性もあるかと」

「“訓練……そういえば、アズサが……”」

 

───ただ、拷問に耐える訓練は昔受けていた。

 

 出会った当初のアズサの言葉を思い出し、思えばあれはアリウス分校で受けてきた教育かと合点がいく。

 しかし昔受けていた、ということは、逆に近年は受けていないということでもある。

 

「……それだけなら、予想の範疇でした」

「“っ……何か、あったの?”」

 

 ほんのわずか、抱いた疑問を振り払うように現実に引き戻される。

 

「彼女は……食事や、水分補給。生命の維持に必要なそれらを、一切行っていません」

「“っ……!!”」

「そういった『教育』を受けてきたのか、それはわかりませんが……ともかく、このままでは彼女は……」

「“そんな……”」

 

 死ぬだろう。直接的な表現は避けながらも、ナギサは暗にそのことを示した。

 

「ですが」

 

 そして、付け加えるように。

 

「……ですが彼女から、いくつか要求がありました」

「“要求……?”」

「はい」

 

 捕虜の立場でありながら要求をするのは、自分という情報源の希少さと有用さを理解しているからだろうか。

 大小あれど頭は回るようだと、どこか溜息をつきたい気分にさせられる。

 

「一つ。白洲アズサの退学を取り消すこと。二つ。先生と会わせること。このどちらかがなされれば、少なくとも食事と水分は摂る。情報源として生きておいてやる、とのことでした」

「“……!”」

 

 生きておいてやる。逆に言えば、それがなければいつ死んでやったって良い。そういうことなのだろう。

 自分の命を蔑ろにできる、できてしまうような観念を持っている。

 

「“ナギサ。地下牢はどこ?”」

「はぁ……先生なら、そう言うと思っていました。案内役を用意してあります。彼女について行って下さい」

「“ありがとう。よろしくね”」

 

 案内役として紹介された生徒は軽くお辞儀をしながら、地下牢の方へ向かおうとし。

 

「ああ、それと」

「”……?“」

「くれぐれも、油断はしないでください」

「”……うん。わかった“」

 

 ナギサの言葉を受けたのち、改めて地下牢へ向かった。

 

 

 

 

 コツン、コツンと。鉄格子の奥で、誰かが歩く音が聞こえる。

 

『……は……で……』

 

 足音は二つ。何かを話しているようだった。

 一つは若い生徒の、子供の声。もう一つは男の……『大人』の声。

 

『では、私はここまでです……本当に、お気を付けて。少女の姿をしていますが、相手は凶悪なテロリストです』

『“うん、大丈夫だよ。ありがとう”』

 

 柔らかな、優しい声色。本人の優しい気質が窺い知れた。

 足音の一つが、だんだん遠ざかっていく。

 

「っ……」

 

 同時に硬い鉄の扉が開けられ、光が差し込む。眩しさで、目を開けづらい。

 

「……」

 

 段々と目が慣れ、その姿が露わになる。

 

 白いコート、連邦生徒会のそれに近いものに身を包み、中には黒いシャツを着ている。

 青いネクタイは緩く絞められ、身分証を首から下げていた。

 寝不足なのか疲れ切った目は少し細くなり、それでも整った顔立ちをしていることが窺える。

 

 俺は知っている。彼を。一年前に、見てきた。

 

 やっと。やっと、巡り会えた。

 

「こんばんは……じゃなくて、えっと、初めまして。ですかね?シャーレの、先生」

「“こんばんは、スオウ”」

 

 ……ふむ、名前は知られていたか。ナギサあたりから伝わったのか?

 

「ご存知、なんですね。私の名前。いやまあ、そりゃそうですよね。なんでも私、白い悪魔とか呼ばれて有名人みたいですし」

「“……”」

 

 少し驚いてるな。会話のテンションだろうか?

 まあアリウス分校のヤバいやつがこんなふうに話しかけてきたら、混乱するのも仕方ないか。

 

「……すみませんが、証拠を見せてください。具体的には『シッテムの箱』と、『大人のカード』を」

「“っ……うん”」

 

 割りかし失礼なこと言ってるけど……うん、驚きの方が勝ってるみたいだな。いずれにしても、ちゃんと見せてくれるのは助かった。

 

「“これで、大丈夫かな?”」

 

 ……とはいえ。いくらなんでも渡そうとするのは不用心が過ぎやしないだろうか。

 いや、それを抜きにしても……。

 

「……私も直接確認したいのは山々ですが……その、そちらには行けませんから。そこで見せてくれるだけで結構です」

 

 どこかハッとしたような表情をする先生。

 鎖の音で気づいたのかな?結構、厳重に拘束されてるからな。

 

「“……そっか。ごめんね”」

「いえ、大丈夫ですよ……はははっ」

 

 四肢に取り付けられた枷を撫でながら、先生の取り出したものを確認する。

 

 タブレットのようなナニカと、黒いクレジットカード。

 後者は見覚えがないけど、前者は『ノート』にスケッチされていた……もっとも、銃弾で撃ち抜かれているような見た目だったけど。

 あれは間違いなく本物。『シッテムの箱』だ。

 

「ありがとうございます。確かに」

 

 さて……何から話すべきか。

 

「まずはこの取引に応じて下さったことに、最上級の感謝を」

「“……スオウ。それより、今すぐに”」

「後で構いません。今私にとっては、ここでの先生との対話の方が重要ですから」

 

 空腹や渇きには慣れている。キツいことはキツいが、別にそこまで苦痛なわけじゃない。

 

「それでその、先生?」

「“……”」

「……ああ、もう。わかりましたよ」

 

 ありゃ梃子でも動かないって顔だ。食事は後々摂るとして、水だけでも飲んでおくか。

 なんだかんだと言って、ここにも水道くらいあるし。

 

「んっ……はい、飲みました。大丈夫ですよ、私は頑丈です。二、三日補給を絶った程度で死ぬほど、柔じゃありませんから」

「“……そっか”」

「……うーん」

 

 そんな顔させるつもりないんだけどなぁ……まあいいや。

 

それ(・・)は私に向けるべきものじゃありませんよ、先生」

「“……それは”」

「本題に入りましょうか」

「“……うん、構わないよ”」

 

 生憎、時間は限られている。押し問答をしている暇はないんだ。

 

「その前に、一つ。ここで話したことは、絶対に誰にも話さないでください。いいですか?」

「“わかった”」

 

 ……まあ保証はないが、何も言わないよりマシだろう。

 先生が俺の知っている先生と同じ存在なら、下手に生徒との約束を破る真似もしないはずだ。

 

「ええっと、そうですね……まず、百合園セイアさんについてお話ししましょうか」

「“……!”」

 

 まずはアリウスに対する心象を、少しでも良い。マシにしないといけない。

 恐らく先生は、セイアが殺されたものとして認識しているはずだ。

 

「彼女について、何か知っていることはありますか?」

「“……去年、アリウス分校に襲撃されて……ヘイローを破壊されたって、聞いてるよ”」

「ふむ……」

 

 やっぱりそうか。

 

「そのセイアさんについてですが……彼女は、生きています。意識不明の、重体で」

「“え……?”」

「信じられませんか?まあ、参考の一つ程度に」

 

 とはいえ、あまり信用されなくても困る。

 少なくともサオリや、ミサキや、みんなにトリニティと敵対する意識がないことを話さなくちゃいけない。

 

「そもそも『ヘイローを破壊』というのは、そう簡単にできるものではありません。過剰な銃火器や、もしくは強烈な、それこそ私たち生徒の肉体を完璧に破壊し得るほどのダメージ。それらが必要になりますから」

「“……”」

「そのため、私は当時特殊な兵器を渡されました。『ヘイローを破壊する爆弾』というものです」

 

 ……本来なら、先生には『ヘイローを破壊する爆弾』の存在は伏せておきたかったが……まあ、仕方ないだろう。

 

「“爆弾……?”」

「はい。文字通り、その爆弾で爆破された生徒は無条件に『ヘイローを破壊』されます」

「“そんなものが……あ……”」

 

 ……?

 何か心当たりがあったのか……?現時点で先生にありそうな心あたりなんて、それこそセイアの一件くらいなものだと思うのだけど。

 

「何か、心当たりがありましたか?……まあいいです。とにかく、その兵器ですが……私は一年前の襲撃で、それを使いませんでした」

「“……それは、なんで?”」

「簡単な話です。人を殺したくなかったから。死なせたくなかったから」

「“……!”」

 

 どこか暗い顔をしながら、それでも先生はこちらを見据えている。

 ひょっとして、もう気づいたのか?

 

「“スオウ。『ヘイローを破壊する爆弾』は、手渡されたって言ってたよね”」

「はい」

「“……一体、『誰』に?”」

「……」

 

 ……これから俺がするのは。きっと先生を騙すことになると思う。

 嘘を言うわけじゃない。でも、本当のことを言うわけでもない。

 本当のことを知れば……きっと先生は、止めようとするから。

 

「先生……勝手なことかもしれませんが、お願いです」

 

 それでもやらなきゃいけない。だからそのためなら、先生だろうと。

 

「アリウスを……私の大切な妹を……守って、ください」

 

 ……利用、する。




今日の17:15ごろの誤ってこの話を投稿してしまいました、混乱した方がいたらすみません……
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