ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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めいあいへるぷゆー?

「先生?どうしたんですか?」

「“っ、ううん。ハナコから少し……”」

「……ハナコちゃん?」

 

 先日まで何やら忙しそうにしていたと噂のハナコ。

 このタイミングで話がしたいというのだ。アズサの件と無関係であるとは考え難い。

 

『“他のみんながいても大丈夫?”』

『はい、もちろんです。今どちらにいますか?』

「“どちら……ええと”」

 

 どこにいるのか。おかしな話だが、先生は大いに悩まざるを得なかった。

 奉仕活動部室の地下、ということは確かだが、ハナコはその存在すら知らないのだから。

 

「“アシリ。ハナコもここにきて大丈夫?”」

「……いい、よね?マユミちゃん」

『ええ、もちろん……浦和ハナコ。彼女の洞察力や思考力は化け物じみてるわ。むしろこっちから頭下げてお願いしたいくらいよ』

「おっけー、上の子に連絡しなきゃ……」

「“ありがとう”」

 

 確認を取った後、再びタブレットへ手を伸ばし返信を打ち込む。

 

『”とりあえず、奉仕活動部の部室に来てもらえる?そこにいる子が案内してくれるから“』

『……?わかりました』

 

 そうして、数分後。

 

「わっ、きゃっ!?」

 

 らしくない驚きの声と共に、天井からハナコが落ちてきた。

 自分も先程はあんなふうだったのかと、先生はどこか浮き足立つような気持ちにさせられながら天井を見つめる。

 

『わかるわよ、先生……良いわよね、ああいうの』

「“良い……”」

 

 理解を示すマユミの言葉に同調しながらも視線を下ろし。

 

「あら、こんなところがあったんですね」

「ハナコちゃん下!!隠して!?」

 

 わざとらしく見せつけるハナコから瞬時に目を逸らした。

 

 

 

 

「なるほど……捕虜にされたアリウス分校生とお話を」

「“うん”」

 

 自分を人質に取る。テロリストがそんなことをする、など一見すると阿呆もいいところだが、捕虜としての利用価値があれば話は別だ。

 その上無茶な二択を提示し、実質的に片方を選ばざるを得ない状況を作り上げた。

 なるほど、存外に交渉や駆け引きというものには慣れているのかと、少々感心する。

 

「……」

 

 しかし同時に、一つの疑念が湧いた。

 

 その条件で指定する相手が、わざわざ先生である理由だ。

 聞いた話によれば、先生が求められたのは庇護。脱出を試みるアリウス分校生を匿う、または手助けすること。

 

 それらの嘆願も、またその話をするための条件でさえ、全て先生の善性に依るものだ。

 もしも先生が悪意ある人間だったら?否、そうでなくとも生徒の危機に駆けつけるほどの善性を持ち合わせていなかったら?

 先の交渉ができる人間が、その可能性を考慮しないとは考え難い。アズサからある程度話は聞いていたのだろうが、それにしてもという話だ。

 

「……先生。その子とは過去に会ったことがありますか?」

「“ううん。初めて会ったよ”」

「……」

 

 きな臭い。怪しい。違和感。

 ほんの僅か、例えるなら靴の中に小石が入った程度のものであるが、それでも今のハナコにとっては大きなものに見えてならなかった。

 

「本当に……その子のことは、信用して大丈夫なのでしょうか?」

『流石ね、浦和ハナコ』

「あら……?」

 

 と、そこで見覚えのない顔が映し出されていることに気づく。

 ともするとこれは。

 

「件の盗撮魔さんですね。毎晩お世話になっております」

『どういう意味よ!?というかもうしてないから!!』

 

 羞恥心からくる頬の紅潮に自分らしくない、と若干の悔しさを抱き、それでもなんとか話を続ける。

 

『話に聞く通り変なヤツね……!兎にも角にも!……そのアリウスっ娘をいきなり信用するのが良くない、ってのは同意よ』

 

 やれやれとため息を吐き、その長い青髪をガシガシと掻くマユミ。

 この手合いの人間はやりづらいようだ。

 

『でも、それを議論してる暇なんてないわ。もしアイツが言ってたことが事実なら、早急な行動が必要だもの』

「……ですが、もし私たちを……利用しようとしていたら?」

『……それは』

「“多分、大丈夫”」

 

 ふと、先生が口を挟む。

 

「“確かにまだ、全部が本当なのかはわからないけど……”」

 

 つい先程、初めてスオウと話した時を思い出す。

 

 どこか哀しげな笑顔。その胸中に抱えているものに、ただならぬものがあるであろうこともわかった。

 恐らく、妹……彼女曰く、妹と会えなくなる哀しみからきたものなのだろうか。

 

 だが、その直後。アシリにヒフミが合流した直後。

 

「“スオウは石を投げて、あの機械を撃ち落とせるほどの力があった。たとえ鉄格子越しでも。拘束されていたとしても”」

 

 件の黄色い鳥を指差しながら、それでも言葉を紡ぐ。

 

「“……あの場でスオウは、私を傷つけようと思えばいつでも傷つけることはできた”」

 

 そして、あの夜。スオウと戦った時のことも。

 

「“あの子は縄のようなものを操ってた。牢屋の中からでも私を捕まえて、人質にすることだってできたと思う。でも、それもしなかった”」

「……それは、そうすることに利がなかっただけなのでは?」

「“そうかもしれない。私から言えるのは、少なくとも『今』は動くつもりがないんだと思う”」

「なるほど……」

 

 スオウが真実を話しているにしろ、欺瞞にしろ、少なくとも彼女自身が今何か行動を起こすことはない。そういうことが言いたいのだろう。

 

「ほ、他のアリウス分校の子についても……多分、アズサちゃんを見ると嘘は言ってない、と思います……」

「……そうですね」

 

 まだ信用はせずとも、真実である前提で動く。

 であれば、この違和感は忘れない程度に抱え持っておくべきかと、無駄な思考を端へと追いやった。

 

「しかし、脱走ですか……そうなるとアシリさんや……ええと」

『柏有マユミよ』

「柏有さんが用意していた施設が役立ちそうですね」

『もちろん、協力は惜しまないわ。というか、そのために用意していたんですもの』

 

 自慢げに胸を張りながらも同意を返すマユミ。

 その声には喜色と緊張が隠しきれていなかった。

 

「一旦アビドス自治区に逃げるらしいし、本格的にはそのあとになるかなぁ……?」

『今のうちに準備は進めておくべきね。とは言っても、もう一ヶ月もないのだけど……』

「あら、もう時期は決まっているんですか?」

 

 新しい情報にハナコは興味を示す。

 ここから一ヶ月弱、といえば調印式の前後だろうか。

 

『ええ。調印式の当日、って言ってたわね』

「……なるほど」

 

 胡散臭い。怪しいことこの上ない。

 ハナコはふと、そんなことを考えた。

 『トリニティの裏切り者』……桐藤ナギサが勝手に命名した、その存在。

 結論から言えばそれはアズサだったわけだが、ナギサ曰く彼女の目的は調印式の妨害だ。

 ただの偶然、で片付けるには無理がある。

 

 たとえば、調印式当日に何か……襲撃を企んでいるだとか。

 否、だからこそその命令、隙を利用して脱出しようとする?であれば、なぜ今まで脱出しなかったのか。

 例えば、一年前の百合園セイアの襲撃。あのタイミングなら、アリウス分校から逃げることもできただろう。

 それをしなかったのは……死と暴力、その恐怖による支配。それらが自分達以外の、アリウス分校に残った生徒達に向くことを恐れたから?

 

 ポジティブに捉えるのならそうなのだろう。アズサの話とも辻褄が合う。

 あの場でアズサが、ヒフミに銃を向けた理由も。

 ただ、どこか……何かおかしい。違和感が拭えない。

 

 そんな違和感から、ハナコはふと追憶する。

 

 アズサ。アリウス分校の状況。捕虜、桐花スオウ。シャーレ。先生。

 

「そういえばその、ハナコちゃんのお話ってなんだったんですか?」

「っ、はい」

 

 と、そこまで考えて現実に引き戻されると同時にその思考は霧散してしまった。

 だが、違和感を覚えたのは確かだ。己の心の内にしまいこみながら、ヒフミの疑問に答える。

 

「……そのこと、なのですが……その」

 

 ハナコはバツが悪そうに、少し不安げに。ゆっくりと、その口を開き。

 

「ミカさんについて、です……」

 

 

 

 

「うーん、もうこんな時間かぁ……」

 

 ぐいーっ、と緊張感のない伸びをしながら、腕の包帯を取るミカ。

 

「……よし、完璧」

 

 先日爆風を散らした、その代償に壊れてしまった右腕。まだ少々跡は残っているが、ほとんど完治している。

 その他の傷も、特段問題はないように思えた。

 

「それにしてもこれ、どうしよっかなぁ……」

 

 スオウから奪い取った『ヘイローを破壊する爆弾』を弄びながら、ポイっと自室のベッドに投げ捨てる。

 

「流石にナギちゃんとか……みんなにこれ、見せちゃまずいし……」

 

 『ヘイローを破壊する爆弾』、つまりは生徒を殺す爆弾。そんな兵器を持っている人間など、歩み寄ろうとも思えない。

 アリウス分校への恐怖を強くするだけだ。であれば、これは包み隠さなくてはいけない……が、しかし。

 

「だからって自室に置いておくのもね……」

 

 今日で自分の療養期間も終わるのだ。明日からはティーパーティとしての仕事に戻らなくてはならない。

 その間に、自分の部屋に誰か入られては堪らないのだ。

 であれば、肌身離さず持ち歩く他ないかと、どこか諦め気味なため息をつく。

 

「……」

 

 思い出すのは、二日前の夜。桐花スオウを殴った、あの感触。

 

「ごめんね……」

 

 この場にはいない彼女、誰へ届くわけでもないその言葉を口にしながら、ふと拳を見つめる。

 

───ッ……!!なん、で……!!

 

「ぁ……」

 

 ぞわりと。己の心臓を、撫で回されるような気分がした。

 

───ぶっ飛ばしてやる!!

 

「……」

 

 あの涙を。怒りを。その全てを思い出して、ぐちゃぐちゃと渦巻いて。

 

───……ごめん、ヒフミ。みんな……。

 

「っ……」

 

 ああ、そうか。思い出した、この感情を。

 

 何度も、何度も抱いたことがある、コレは。

 

「……ごめんね……みんな。私、バカだから……このくらいしかできなかった……」

 

 罪悪感だ。

 

 それでも。それでもああしなければ、桐花スオウはもしかしたら……死んでいた。取り返しが、つかなくなったかもしれなかった。

 それを思えば、たとえ間違っていたのだとしても……やるしかなかった。せざるを得なかった。

 スオウが何をするつもりだったのかはわからない。それがどんな結果をもたらしたのかもわからない。

 

「……」

 

 それでも記憶に映る、あの優しく、強く、賢く……そして、弱々しさがある。どこか弱さを見せた、一年前。あの少女を止めるためには、それしかなかったのだ。

 

「セイアちゃん……私、また単純に行動しすぎたかな……?」

 

 どこか自嘲気味に笑いながらも、自室の冷蔵庫の中から紅茶のペットボトルを取り出す。

 親友のナギサなら『そんなもの飲めません』、などと言うだろうが、なんとなく態々お茶を入れる気力も湧かなかったのだ。

 くるっと軽くひと回し、上から下へ降りてくる茶葉をぼんやり見つめる。

 

「大丈夫、だよね……?セイアちゃん、生きてるんだよね……?」

 

 一人でいると湧き上がってくる、弱気な感情。

 自己嫌悪だったり、罪悪感だったり、不安だったり。

 その全てを振り払うように、ぐいっと紅茶を飲み干す。

 

「ぷはっ……」

 

 ふと、ここ数日の自分の行動を思い返す。

 スオウから襲撃を告げられた時点でトラップは用意してあった。それを使うか否かは、直前まで悩んでいたが。

 結局サオリ達は逃してしまった。できることなら、同時に捕まえておきたかったのだ。スオウの行動を制限するために。加えて、あの場でアズサが来ることも予想外だった。

 

 『契約』の影響によりあのタイミングでしか実行できなかったが、それでもなんとかスオウだけは捕まえることができた。

 

「……うん、悪くない流れ……だと、思う」

 

 聞いたところによればスオウは、『シャーレ』の協力を望んでいた。

 それが建前にしろ事実にしろ、この状況になった以上スオウは先生と接触するのだろう。

 

「……スオウちゃん、先生と話せたかな?」

 

 己の耳にも一報入ったため、できるだけ要求を飲むように進言はした。あの条件なら、ナギサも飲まざるを得ないだろう。

 加えて、先生……シャーレについても、ある程度信用できる調べはついている。

 まだ確実性はないが、スオウの願いを無碍に扱うこともないだろう、と。

 

 そして先生にその情報が伝わったということは、恐らくハナコにも伝わる。

 

 それがあるにしろ、ないにしろ。

 

「多分、そろそろ来るよねぇ……」

 

 やれやれ面倒だなどと考えながら湯を沸かし、紅茶と茶菓子の準備を始める。

 少し多めに見積もって、五人分ほど。ともすれば、二人分しか使わないだろうが。

 

 これからやることを思うと憂鬱な気分に陥る。何せ、かなり危ない橋を渡るのだから。

 それでもスオウを助け、かつトリニティとアリウスが……いつか、和解するためにも。渡り切らなくてはならない。この橋は。

 

「クッキー……あ、焼いたヤツ……スオウちゃん、食べてくれたかな?」

 

 こっそりと捕虜用の食事に忍ばせたのだが、気付かれただろうか?ここ数日は食事をしていなかっただろうが、今日は取引もある。流石に食べるといいのだが。

 カモミールも少し混ぜてある。多少は落ち着きを取り戻してほしいが、そう簡単にはいかないだろう。気休めでしかない。

 

 そんなクッキーの残りを皿に乗せ、その他適当に茶菓子を乗せたところで。

 

「ミカ様、客人です。いきなりですので、後日でも……」

「あ、いーよいーよ!通しちゃって!」

「……わかりました」

 

 そうして少し待っていると、扉が叩かれる。

 

「……さて。紅茶でいいかな?それとも、コーヒー?あいにくインスタントになっちゃうけど……」

「ミカさん……」

「“……”」

 

 そこに現れたのは時折自分と見た目ちょっと似てるな、なんて考えることもある、自分よりも少し背の高い少女に……長身の、『大人』。

 

「それとも、直ぐに終わる用事だったりするのかな?……ううん、そんなことないよね?」

「“紅茶で大丈夫だよ。ありがとう”」

「はい、私も」

「そっか」

 

 先程用意した茶と菓子類を机に置き、着席を促して。

 

「……それじゃあ。お話ししよっか。ハナコちゃんに、先生?」

 

 ゆっくりと息を吸い込みながら、少し怪訝な面持ちの二人と対面した。

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