ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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彼女のための歌

「……まあ、ひとまず座ってよ」

 

 部屋の奥へと手で招き、ドサっと座り込むミカ。

 粗雑ではあるが、端々に気品が垣間見える佇まいだった。

 

「“……”」

 

 その導きに従い、先生とハナコも椅子の上に腰を下ろす。

 

「これは……」

 

 手をつけないのも失礼だろうと紅茶に手を取ると、存外に風味深く驚きに目を細めた。

 甘さが突き抜けるような風味の、暖かな味わい。先生には馴染みのない味だが、高級品であることはわかった。

 

「ディンブラのストレートだよ。ナギちゃんに貰ったんだ」

 

 アイスティーにするのがおすすめです、とナギサに言われていたこともすっかり忘れ、ミカは美味しそうに口をつけていた。

 それでもある程度の品質と風味を保っているのは、彼女の腕が成せる技だろうか。

 

「……それで何の用、っと、言い方がよくないか。何かあったの?」

「ミカさん……先日のアリウス分校の襲撃。傷はもう大丈夫ですか?」

 

 紅茶を皿に置き直し、ハナコが重苦しげに切り出す。

 

「うん、ほらすっかり。ひょっとして、態々お見舞いに来てくれたの?先生も?」

「“それもあるけど、それだけじゃないかな”」

「……そっか」

 

 それもあるけどって。あんまり予想してなかったけど、お見舞いの意味もあったんだ。

 そんなどこかフワフワした、惚けた喜びが染み渡る。

 同時に、残された冷静さで分析する。今の自分を前にしてこの態度、接し方。

 ここに来た理由が予想通りであれば、うまくいくだろうと。

 

「そういえば先生とは、あんまりちゃんと話したことなかったね。ごめんね?私もほら、ティーパーティの端くれだからさ、結構忙しくて……」

「“気にしないで大丈夫だよ”」

 

 軽い雑談を交わしながらも、ハナコの目は疑いの色を保っていた。

 ミカにはわかっている。ハナコが何故ここに来たのかも、そしてこれから何を聞かれるのかも。

 

 しかし自分から切り出すわけにはいかない。『契約』があるから。

 のんびりと、ゆっくりと、茶と茶菓子をつまみながらその時をひたすらに待ち続ける。

 

「……ミカさんは、補習授業部の設立理由を知っていたんですか?」

「あー……うん、一応ナギちゃんから聞かされてたよ。私は反対だったけど、ホストのナギちゃんには逆らえなくて……ごめんね?」

「いえ、大丈夫です」

 

 そうして、ハナコがついに切り出す。

 

「……アズサちゃんの件は、残念だったね」

「……はい」

 

 互いに得物を見え隠れさせるように、徐々に周囲の空気は剣呑なものへ変わっていき。

 

「……ミカさん。あの襲撃の日、ミカさんは何をしていたんですか?何故、あそこに……」

「あー、それね……」

 

 とうとう核心へと触れた。

 

「私が部屋に戻ろうとしてたら、なんか変な連中がいてさ。バレないように奇襲でボコボコにしたんだ」

 

 ヘラヘラと誤魔化しながら、隙を窺うように目線を交わす。

 

「では、あの爆発は……」

「リーダー格の女……桐花スオウだっけ?その子が反撃してきた時のだよ」

「いえ、そうではなく……爆発した部屋についてです」

「っ……」

 

 予想外のハナコの発言にミカは一瞬静止して、しかし直ぐに思考を取り戻す。

 爆発のトラップを仕掛けた部屋、アレも知られているとは。

 確かに爆発の跡を検証すれば内側に仕掛けられたトラップだとわかるが、ハナコが立ち入って調査できるはずもない。

 

 仮定から来るブラフか、もしくはシスターフッドあたりから嗅ぎ回ったのだろう。

 そう判断し、即座に反応を返す。

 

「アレは私が仕掛けたトラップ。初めてやったけど、結構上手くいったね」

「……そう、ですか」

 

 あまりにあっけらかんと言ってのけるミカに少し弱腰に、されども冷静に鞄からとある書類を取り出す。

 

「これは、アズサちゃんの転入手続きの書類です」

「あはっ、盗み出したの?バレたら大目玉だよ?」

 

 大方、この二日間でシスターフッドと連携を取ったのだろう。

 ハナコが持ち出した書類を見ても、ミカは特に冷静さを失いはしなかった。

 

「転入届、証明書、本人確認書類……どれもほとんど違和感なく偽装されていますが、これらは先日の一件で偽のものだとわかりました」

「うーん、それね……私も最初気づかなかったなぁ……」

「そこです」

 

 書類をミカの方向へ向けながら、その一部を指差す。

 

「転入の最終確認には、最低一人以上のティーパーティの承認が必要。そしてアズサちゃんの時は、ミカさんがそれを行った。そうですね?」

「……うん、そうだよ」

「これらの書類は、全体を通してみると少しだけ違和感があります。出身の表記揺れだとか、ほんの些細なミスで起こるものが。セイアさんやナギサさんなら、気づいたのではないでしょうか」

 

 セイアやナギサなら。逆に言えば、ミカなら気付かないということ。

 無自覚な煽りに少々苛つきながら、なおも笑顔を貼り付け続けた。

 

「しょーがないじゃん、気付かなかったんだもん。いや、ごめんだけどさ」

「つまり、ミカさんはこの書類をナギサさんに通していない。違いますか?」

「……」

 

 少しずつ、詰めるように。ハナコは言葉を続ける。

 

「……そして、数ヶ月前。『トリニティの裏切り者』を探そうとしたナギサさんがこの書類を見つけ出し、違和感を持った。だからアズサちゃんは補習授業部に入らされたんじゃないですか?」

「……どうかな。あんまりその辺の理由は聞いてないんだ」

 

 もはや疑いを隠すこともせず、正面からミカを見据えた。

 

「……アズサちゃんの制服。かなりの高級品です。何より、装飾がなされていた……羽についても、その傾向が顕著でした」

「そうだったね」

「可愛い物好きのアズサちゃんなら、あまり違和感はないですが……アリウス分校の一件を経て、その考えは変わりました」

 

 深く、深く息を吸い、確認をとるように己の考えを紡いでいく。

 

「アレは流行りも取り入れた、かなりファッションに精通している人の服装です。アズサちゃんはアリウス分校で、そんなことを知る余裕があったんでしょうか?」

「……さあ?」

「何より、アレは……あの飾り方は……」

 

 制服は過剰になり過ぎない程度に。細やかな装飾をあしらい、少し光沢のある糸や、布を取り入れる。

 羽の飾りはテーマを統一して、かつ丁寧に。

 所々に、花のモチーフを入れながら。

 

「……どちらかと言えば、ミカさんの趣味です」

「……うーん」

 

 これは誤魔化しきれないなと、ミカは小さなため息を吐く。

 もとより誤魔化すつもりはなかったが、ここまで短期間で辿り着かれるとは思ってもみなかった。

 

 しかし念には念を、だ。

 

「何が言いたいのかわかんないな。つまり、どういうこと?」

「……ミカさん。アズサちゃんを転入させたのは……つまり、スパイとして受け入れたのは。あなたですね?」

「……」

 

 良い。これで良い。

 

 契約、その三つ目。肉体的、社会的に自分の身が危うい時は、自分の安全を優先させること。

 

「知らないって答えたら、どうする?」

「……」

「ナギちゃんあたりにチクるのかな?」

 

 これで、条件は満たされた。

 

「……なんて。正解だよ、ハナコちゃん……私がトリニティの、『本当の』裏切り者」

「“っ……!!”」

 

 驚愕の声にすらならない、息を呑むような音を上げたのは先生だった。

 ハナコは思ったよりも冷静で、何かを喋ろうとすることはしなかった。

 

「……で?だったら、どうする?」

「……」

「私をとっ捕まえるつもりとか?」

 

 冗談めかしながらも、ミカはふと紅茶を飲み欲し、がしゃんと音を立てながら置き直して。

 

「あはっ……間抜けだなぁ、二人とも」

「っ……!!」

 

 ゆらりと、その目を細める。

 

 それだけで息が、心臓が、思考が、その全てが止まるほどの威圧感を放ち。

 

「ボコボコに返り討ちにされるって、その可能性は考えなかったの?」

「“そのつもりはないよ、ミカ”」

 

 けれどもその静止を破るように、ふと先生が言葉を連ねる。

 

「へー?」

「“ミカ。さっきの話には、続きがある”」

「……一応、聞いてあげても良いよ?」

 

 ふと威圧感が止む。否、正確にはまだ残っているが、先ほどの伸し掛かるような空気の重みに比べれば無いにも等しかった。

 

「……ミカさんがアズサちゃんをスパイとして招いたなら……あの場で、アリウス分校と敵対していた理由がわかりません」

「ふんふん……」

「ミカさん……あなたにも、何か事情があるんじゃないですか?だとすれば、どうして……」

 

 そこで、ミカはスッと立ち上がり。

 

「ねぇ、先生」

「“……”」

 

 ハナコの質問に答えることはせず、先生の方へ視線を向ける。

 

「先生はさ。何のためにここに来たの?さっきから全然話してないけど」

「“……ハナコに頼まれて。それと……”」

 

 先生は数拍、間を置くように。

 

「“ミカが危ないことをしてるなら、止めなきゃいけないから”」

「……そっか」

 

 ミカにとって予想外の、されど期待通りの。そんな言葉を口にした。

 

「私が、トリニティの裏切り者でも?」

「“そうだったなら、尚更だよ”」

「変なの。じゃあもし事情がある、とか、脅されて仕方なく、なんて同情的なこと言ったら私に味方するつもり?」

「“……”」

「それはトリニティの子を裏切ることになるね」

 

 そんなことを指摘しても先生は一切その目を逸らさず。

 

「……先生は……誰の味方なの?」

「“私は、生徒たちの味方だよ”」

「……わーお。結構すごいこと言ってる自覚ある?先生」

 

 そんな綺麗事を言ったからだろうか。ほんの一瞬。わずかな間、ミカの威圧感はなりを潜めた。

 

「だったらさ」

 

 しかし瞬時に、先ほど以上の威圧感を放ち。

 

「守ってみなよ!!!」

 

 机を蹴り上げ、ハナコへと殴りかかった。

 

「っ!?」

 

 突然の攻撃。元来圧倒的に強いわけでもないハナコだ。ミカの拳を捉えることすらできない。

 来る衝撃に備え、堪えようと目を閉じて。

 

「……あ、れ?」

 

 しかし訪れた衝撃は、これでもかと弱々しく、包み込むように穏やかなものだった。

 横に押し出されたのかと、崩れた体勢を立て直し。

 

「っ、先生!?」

 

 そこで理解する。自分は先生に庇われたのだと。

 

「っそん、な……!!」

 

 しかし抱いた感情は、決して安堵ではない。むしろその逆だ。

 先生の肉体は、生徒のそれに比べて圧倒的に脆い。ともすれば、そこらの五歳児にさえ負けてもおかしくないほどに。

 

 その先生が、トリニティ最高クラスと謳われるミカの一撃を喰らえばどうなるか。考えるまでもなかった。

 

「ミカ……さん……!!」

 

 瞬間、怒りに火がつきかけたところで。

 

「……うん、おっけー」

 

 ミカが間抜けな声を上げる。

 その音に、徐々に冷静さを取り戻し。

 

「“ミカ……”」

「先生は生徒の味方……嘘じゃないみたいだね。少なくとも、自分を犠牲にできるくらいには」

 

 先生に向けて拳圧のみを届けた手を見て、ようやく安堵した。

 

「ごめんね、先生。ちょっと試したんだ」

 

 本来であればミカの動きに先生が反応するなど不可能だが、先生にのみ見える角度で意図的に拳を作って見せたのだ。その上、ご丁寧にハナコの方まで向いて。

 これで気付かない、反応しないなど言い訳がましいことをしたならば本気で殴るつもりだったが、幸いにしてそんなことをする必要は無くなった。

 

「ごめんなさい先生、私のせいで……」

「“大丈夫だよ、気にしないで”」

「あ、先生髪乱れてるよ……これでよし、っと」

 

 わしゃわしゃと、身長差につき少々背伸びをしながら先生の髪を整えたのち、いつの間にやら戻したのか机の前になおった。

 

「あ、でもね、先生。全部の生徒の味方なんて、無茶はやめた方がいいよ」

「“……”」

「今の状況でハナコちゃんを守ったのはよかったよ。でもさ、考えてもみて?」

 

 どこからか持ち出した紅茶のペットボトルを空いたティーカップに入れながら、視線を合わせずに淡々と言葉を発する。

 

「誰かの味方になるってことは、誰かの敵になるってことだよ。八方美人なんてできないんだから」

「“……それは”」

「ちゃんと考えて。選ばないと。誰を助けるのかは、さ」

 

 どこか暗い影を落としたミカに、先生はまとまらないながらも声をかけようとして。

 

「あ、それでね、私の事情なんだけどさ……」

 

 その間を意図的に遮られたため、それはできなかった。

 

「……ハナコちゃんの言う通り、アズサちゃんを転入させたのは私だよ。アリウス分校と、繋がりを持ってたのも本当」

「やはり、ですか……」

「うん」

 

 バラバラとソファに散らばったクッキーの一つを拾い、サクッと噛み砕く。

 鼻の奥まで届く香ばしさと、控えめな甘さ。

 我ながらいい出来栄えだ、スオウは食べてくれただろうか。食べろ。そんなことを片隅で考える。

 

「まあでも、なんて言うのかな、別にトリニティをぶっ壊そー、とか、そういう考えがあったわけじゃなくて……」

 

 ふと思い出すのは一年前、あの日の出会い。

 

───今日はとってもいい天気ですね!!すごくのどかで。

 

 あの快活な明るさ。当時はあの裏に隠された暗闇に、自分はまだ気づいていなかった。

 

 あの時から、自分の願いは増えた。けれど、最初に抱いたものは一つだって変わっていない。

 

「アリウス分校と和解したかった。だから、接触したの。アリウス分校の人間と」

「“……”」

「あ、今は軽率だった自覚あるよ……?うん、あれは良くなかったね……」

 

 にへら、と自虐的な笑みを浮かべ、少し落ち込み気味に話を続ける。

 

「でもね、そこでわかったのが……アリウスの子達は、トリニティのことを憎んでなかった。むしろ」

 

 歓迎してくれたよ。そう言いかけたところで、はて、と思い直す。

 シオに変な因縁をつけられたり、スオウにお花畑扱いされたり。思えば自分は歓迎されていたろうか?割とあんまりな対応をされていたような、と。

 

「歓迎……うん、歓迎してくれたよ?」

「今の微妙な間は……?」

「や、変わった子が多くて……心当たりない?」

「“た、確かに……”」

 

 あった。先生にもハナコにも、心当たりが。

 一人はどこかズレているアズサ、もう一人は姉を名乗る異常者のスオウ。確かに変わり者揃いだ。

 

「で、私は聞いたの。なんでアリウス自治区に篭ってるの?って。だって、トリニティのこと恨んでないなら助けてもらえばいいじゃん?」

「それは……」

 

 そう簡単にはいかないだろう、と思いながらも、邪魔しては進まないだろうとハナコは言葉を飲み込んだ。

 

「そしたら、上にいる人間が『そういうヤツ』だって。ヤな話だよね。そんなことしたくないのに、無理やりさせられそうになって」

「……」

 

 概ね、先の桐花スオウが話していたことに合致している。

 

「で、そっから色々あって……で、私がセイアちゃんの件について口滑らせちゃってさ……そのせいで、セイアちゃんが『ヘイローを破壊』されそうになっちゃったんだけど、リスクを負ってまで偽装してくれたの」

「“……そっか”」

 

 聖園ミカが桐花スオウと接触したという話は聞いていない。

 何より、スオウがあの場で話したことはナギサも知らなかった事実だ。

 ミカの発言の信憑性は徐々に、徐々に高まっていき。

 

「それで、調印式の話が出て……上の指示で、その情報を探るためのスパイとしてアズサちゃんはトリニティに転入した。これがことの顛末だよ」

「っ……!」

 

 そうして、ようやくハナコたちがよく知る者と繋がった。

 

「それで、補習授業部に入れられて……今度は、ナギちゃんの番だった」

「……なるほど……だからミカさんは、それを止めるために?」

「違うよ」

 

 小さく首を横に振りながら、少し俯いてポツリ、ポツリとミカは語り出す。

 

「……スオウちゃんは……アリウスの子達は……また私のために、ナギちゃんの死を偽装しようとしてた」

「“……ミカは……スオウとも、知り合いなの?”」

「うん、友達だよ。それが、私がアリウスと戦ってた理由」

 

 そして目線を上げ、先生の目を観察しながら。

 

「お願い、先生。スオウちゃんを選んで。スオウちゃんを……助けてあげて」

 

 とうとう、己の目的を達そうと話を始めた。

 

「“……スオウを?ひょっとして、アリウスのみんなと会えなくなるっていう話?”」

「……ちょっとニュアンスが違う気がする。先生、ハナコちゃん。スオウちゃんから脱出計画の話は聞いてる?」

 

 ミカの質問にコクリと頷き、自身が聞いた話を説明しようと口を開く。

 

「“調印式のタイミングでまず、山海経に向かう。そこに子供を預けて、自分たちはアビドス自治区で……トリニティと和解を目指すって”」

「それで?」

「その計画だと、その桐花さん?は……しばらくは、トリニティの牢屋に閉じ込められたままになりますね。ひょっとして、そのことを言っているのでしょうか?」

「……なるほど、ね」

 

 スオウはエデン条約の襲撃について話していないのかと、ミカはどこか納得していた。

 自身とスオウの共通の目的は、アリウス分校生の脱出、及びトリニティとの和解だ。

 

 スオウ曰く、エデン条約の襲撃は脱出に必須だと言っていた。詳しい襲撃内容は聞いていないが、何か考えがあるのだろう。

 

 ならば今、ここで先生にエデン条約の襲撃について知らせるのは危険だ。

 『全ての生徒の味方』と、本人がそう言っていたのだから。

 

「……スオウちゃんがやろうとしてるのは、そんな生温いことじゃないよ」

「“え……?”」

 

 ならば、それは包み隠しながら桐花スオウの危うさについて話さなければならない。

 

「スオウちゃんは、もしかしたら……アリウス分校を支配してる人間と、最悪の場合刺し違えるつもりかもしれない」

「“っ……!?どういうこと?”」

「落ち着いて、先生。ちゃんと話すから」

 

 驚きから身を乗り出す先生をどう、どうと嗜める。

 驚愕するのも、信じられないのも当然だろう。信じたくないのは、事実であってほしくないのは、ミカとて同じだったのだ。

 

「アリウス分校は、ヴァルキューレからも狙われるはず。物資の確保とか、そういう目的のためにトリニティ自治区の店を襲ったりしてたから」

「“……!”」

「それに、アリウス分校は絶対に追手を出す……先生、『ヘイローを破壊する爆弾』の話は聞いた?」

 

 ミカの質問とも呼べない確認に躊躇いながら、ゆっくりと頷く先生。

 

「だったら、話は早いね。もし追手が……それを使ってきたら?多分、誰かが犠牲になる」

 

 つらつらと、その場の誰もが考えたくもない事実だけが、ひたすらに連ねられていき。

 

「……そうなるくらいなら、自分を犠牲にしてでも止めようとする。私が見てきた『桐花スオウ』っていうのは、そういう子だよ」

「“……”」

 

 あの時スオウが見せた、あの表情。アリウスの、彼女の言うところの妹との別れからくるものだと思っていた。

 しかし、しかしだ。もしそれが意味することが……永遠の、別れだったなら。

 

「……ミカさん、それは」

「うん、推測でしかない。でも、あの子がやろうと思えばできちゃうのは事実なんだよ。あの子は、私と同じくらい強くて……『ヘイローを破壊する爆弾』も持ってる」

 

 ハナコの反論も承知の上で、それでもミカは話を止めず。

 

「……調印式。私は出席せずに、スオウちゃんを見張る。先生はアリウス分校の子を、追手から守ってあげて欲しい。私が言うスオウちゃんを助けて欲しい、っていうのは、そういうこと。それと、できればスオウちゃんと……もう一度、ちゃんとお話してほしい」

 

 立ち上がって先生の前に行き、深々と頭を下げて。

 

「……お願い、先生。スオウちゃんを、助けてあげて」

 

 深呼吸をするように深く、重々しく、自らの願いを口にした。

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