ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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血に染まり、灰になる

「がっ……はっ……!?」

「ふっ!!」

 

 四肢の鎖を引きちぎり、爆発により吹き飛んだ檻から抜け出す。金属製の扉を蹴り破って外に出る。

 ミカは今の攻撃で気絶してくれるほど甘くない。素寒貧のこの状態で戦うなんて無謀もいいところ。

 

「っ、お前、っああ!?」

 

 外で待機していた正義実現委員会の生徒の腹、顎を殴って呼吸と平衡感覚を奪い、襟元を掴んでそのまま走りだす。

 監視がこの一人だけのはずがない。

 

「っ……!脱獄だ!!『アリウスの白い悪魔』が脱獄したぞ!!」

「やぁっぱりねぇ……これ、もらうぜ?」

「ぁ……」

 

 行動を封じた生徒から武器と弾薬を奪い取る。

 ブルパップ方式のアサルトライフル。使い慣れてない上リロードをしにくかったり、ともかく癖のある銃だが……まあ、ないよりマシだろう。閃光弾に煙幕も貰っておこう、できりゃ爆弾も欲しいが……持ってないみたいだしな。

 

「応援要請っ!!地下牢獄にて白い悪魔が脱獄!繰り返す!!」

「っるっさいなぁ……ピーピーピーピー、ギャーギャーギャーギャー」

「ぐぅ……!!」

「あはっ、弱い弱い、弱いねぇ……所詮ガキだ、こんなもんか」

 

 ……ま、こんくらい過激にやっといた方がいいだろ。

 人数は……十人弱。いくら層が薄くなっているといえど、正義実現委員会だ。少なくとも頭数は担保されている。

 

「けどなぁ……」

 

 真面目に戦ってる余裕なんてないんだよね、だって。

 

『スオウちゃん……!逃がさないよ……!』

「はははっ……!!」

 

 後ろから、ミカの声と破壊音が聞こえてくるからさ。声は神秘でギリギリ拾える程度、まだ距離は離れている。

 ……だったら。

 

「あ、あーっ……オホン」

「……?」

 

 閃光弾に神秘を込めて作動させ。

 

「わああああああああああああっ!!」

「っ……!!」

 

 同じく神秘で強化した肺と喉で叫んで、視覚と聴覚を奪い取った。その隙に全員の弾薬、武器を盗むように奪い取る。

 

「……お、爆弾見っけ」

 

 これで幾分かまともに戦えるだろう。

 

「さーて、お前にはついてきてもらうぜ」

 

 最初に武器を奪った生徒を腰で抱えて走る、走る、走る。視界が目まぐるしく動き、一つの階段を見つける。

 

「おっけー、出口はここね。さーて、正実ちゃん?俺の武器はどこかな?」

「お、教えるわけが」

「地下牢の中?……違うか。ああ、わかった。正義実現委員会の建物内にある、押収物取り扱い室だな?」

「っ……」

 

 脈拍が変化した。発汗、体温の上昇、加えて視線……は、髪の毛で隠れてるせいでわからないけど。とにかく、そこにあることはわかった。

 

「おっけー、もう十分。気絶してな」

「くっ……」

 

 ……さて、正義実現委員会の建物、か。

 

「虎穴に入らずんば……って言うけど、ねぇ……」

 

 とにかく、向かうしかない。ベアトリーチェを殺すための装備とは別に、本来の装備だって必要になってくる。

 なにより……ミカが迫っている以上、止まる理由もない。

 

「ともかく、急ぎますか」

 

 

 

 

 場所は変わって、古聖堂。エデン条約の調印式、その会場にて。

 

「おいおい、鳥ども……何睨んでやがるんだぁ?」

「あら、下品な言葉遣い……やはりゲヘナは野蛮ですね」

 

 一触即発。両者一歩も譲らぬ睨み合いが繰り広げられていた。和解に来たのではないか、と指摘したくなるような険悪さである。

 

「はぁ……これでは先が思いやられますね……」

「“はは……”」

 

 そんな様子を見守りながら、先生にふと愚痴を漏らすナギサ。その目はどこか疲れ気味だった。

 

「しかし成否に限らず、この調印式は乗り越えなくては……アリウスの件に関しては、シスターフッドの協力も……ああ、本当に忙しい……」

「“……私にできることがあったら、教えてね”」

「……はい。ありがとうございます」

 

 彼女がこうして自然と弱みを見せるようになったのも、ヒフミの説得の甲斐あってだ。今までとは変わったナギサに口元を少し緩ませ、これではいけないと顔を引き締め直す。

 

「あ、ナギサ様……そろそろ……」

「ああ、ヒナタさん……わかりました。では先生、また後ほど」

「“うん、頑張ってね”」

 

 会場の控え室へと向かうナギサに手を振りながら、残されたシスターフッドとともに会場を見守る。

 

「大丈夫なんでしょうか、こんな様子で……」

「“あ、えっと……シスターフッドの、ヒナタで合ってる?”」

「は、はいっ……よくご存知でしたね」

 

 思いもよらず先生に名前を覚えられていた驚きと、少しの照れに頬を染めるのは若葉ヒナタ。聖堂の物品管理を担う、シスターフッドの一員だ。

 

「なんと言いますか、一触即発、みたいな空気で……」

「“確かに”」

 

 不安からその鮮やかな赤色の瞳を揺させながら、息を吸って少し気分を落ち着けていた。

 

「“すごいところだね、この古聖堂”」

「あ、はい……実は長い間廃墟のような扱いをされていたのですが、今回の調印式で大々的な修復を行うことになりまして……」

「“へー……随分大きいし、大変じゃなかった?”」

 

 その休憩に付き添うように、先生も話し始める。

 

「はい……実は、そうなんです……あまり時間もなくて、下の方は廃墟のような状態でして……そういえば先生、こんな噂をご存知ですか?」

「“……?”」

「この古聖堂の地下には、大規模なカタコンベが存在するとか……まあ、噂は噂ですけどね。それを聞きつけて、不法侵入しようとする困った方もいまして……」

 

 カタコンベ。つまりは墓所だ。察するにちょっとした肝試し気分で潜入する、と言ったところだろう。

 不敬極まりない行為ではあるが、先生としても気持ちは理解できた。

 

「“色んな歴史がある場所なんだね”」

「はい。なんせ、第一回公会議が開かれた場所ですから」

 

 公会議、といえば、アリウス分校が排斥されてしまった例の会議のことであろうか。片隅に思い出しながらも、ヒナタに視線を合わせ相槌を返す。

 

「公会議で締結される戒律やその守護者というものは、神聖なものです。それを思って、ナギサさんやマコトさんもここを調印式の会場に選んだのかもしれませんね」

「“守護者……?”」

 

 聞いたことのない表現だな、と、先生は首を捻る。

 

「ええ、その……戒律、つまりはルールを破った時には罰が必要でしょう?そこを担う人々を、守護者と呼び……それが当時の、ユスティナ聖徒会。私たち『シスターフッド』の前身です」

「“へぇ……”」

「あ、先生、そろそろ私も時間です!中途半端ですみませんが、この辺りで……」

「“うん、大丈夫だよ。行ってらっしゃい”」

 

 一人ぽつねんと取り残されてしまった先生。近くの椅子に腰掛ければ、普段の疲れから来る眠気が襲ってきた。

 

「“……”」

 

 これではいけないと頭を振り、なんとか耐えようと考え事を始める。

 思い浮かぶのは、心配ばかりだ。学校に残る補習授業部、奉仕活動部のみんな、一人監視を続けているであろう聖園ミカ、そして……牢屋で拘束されている、桐花スオウ。

 彼女の状態についてナギサ曰く、対外的にアピールする意味も込めて拘束を緩めることはできないとのことだった。それもそのはず、アリウスの現状を知っているのは補習授業部、奉仕活動部含む元アリウス生、そしてティーパーティの二人だけなのだから。

 

「“……ん?”」

 

 ふと、モモトークの通知音が聞こえる。少し開いて見てみれば、補習授業部のグループ。先日の打ち上げの写真が載せられていた。そして、付け加えられるように。

 

『アズサちゃん、今どこにいますか?お話がしたいです』

 

 そんなことが書かれていた。今日はアリウスの生徒が、アリウス分校から脱出する日。

 そのためにも、できることはした。補習授業部、奉仕活動部、生徒生活支援部のみんなが接触し、脱出の手助けをする手筈となっている。先生が手伝えるのはその後。脱出の後だ。

 調印式を抜け出すわけにもいかない、なんせアリウス分校の上層部……ゲマトリア所属、ベアトリーチェ。彼女に察せられるわけにはいかないのだから。

 無論、通信で協力することはできる。遠隔でも指揮を取ることができるほどの設備を、マユミが取り揃えてくれた。

 

「“……”」

 

 だからこそ、何があっても対応できるように気を張らねば。そんな思いとは裏腹に、思考は散漫に溶けていき。大切なシッテムの箱をしっかり手に持ちながら、先生はその意識を徐々に深い眠りの海へと投げ出した。

 

 

 

 

 同刻。トリニティ自治区に存在する、とある建物にて。

 

「準備は?」

「……問題なし」

「は、はい!確認も終わってます……!」

 

 現場に赴いているのは、第七分隊、第二分隊を除く全部隊である。

 

「あの人形との接触は?」

『問題ない……けど、スオウの件については……』

「……アイツ、大丈夫なのかな」

 

 本来の計画では、スオウも木の人形……ゲマトリアの一員である、マエストロ。彼と接触する予定だったのだ。

 理由としては、ベアトリーチェに情報を与えないため。スオウには交渉材料になり得るだけの策があるようだった。

 

「……わからない。それでも、できることをやるしかない」

「アズサ……」

「……」

 

 アズサの顔は、見るからに暗かった。当然だろう、これからエデン条約の調印式を破壊するのだから。これから起こる出来事は……人を、傷つけることなのだから。

 

「……みんな、苦しむんですよね……で、ですが」

「仕方ないよ。大丈夫、人死が出るわけじゃない。できる限り苦しませずに、最低限のダメージでやるよ」

「み、身勝手な話ですが……そうですね……」

 

 こうして、アリウススクワッドを含めたアリウス分校、その全てが行動を開始する。

 

「第七分隊長。巡航ミサイルを発射して」

『……わかったわ』

 

 ミサキの通信が入ると同時に、阪抱シオがミサイルを古聖堂に向けて発射する。

 

『予定着弾時刻は五分後よ……その後に、するべきことをしなさい』

「……アリウス分校の子どもたちは?」

『問題ない……例の……ミメシス……?が……いれば……いつでも、逃がせるよ……』

 

 サオリの疑問に対し、即座に嵐咲フィリが答えた。

 

『そ、それよりお姉ちゃんは!?救援部隊は何をしてるの!?』

『こちら第三分隊。小隊長の救援には私たちの分隊の半数を向かわせているね。多分、成功すると思うけど……万が一があったら、私が向かう。抜けた穴は第四分隊が補う。それでよかったよね?レイ』

『うん、任せて!』

 

 飛び交う通信、最終確認も終わりが近い。

 

『小隊長の救出、その成否に関わらず、子どもを連れ出したら一度トリニティ自治区を出ます。第七分隊長、違えないでくださいね』

『……保証はしないわ』

『おい、誰だコイツ説得し損ねたのは』

『私だねっ!』

 

 そんな会話が巻き起こり、通信に緊張が走り始めた頃だった。

 

『あーあー……こちら小隊長。脱出に成功しました』

「っ……!」

 

 そんな気の抜けた、聞き覚えのある声が。何度も何度も、姉を名乗り続けた。彼女たちを救い続けた、その声が。

 ノイズの走った通信と共に、全員の耳に届いた。

 

「っ、心配したぞ……!この、大馬鹿っ!!」

 

 サオリの口から漏れ出たのは、予想だにせず心配の叫びだった。サオリ自身でさえ、驚いたかのように自分の口元を抑えていた。

 

『はははっ……ごめんなさい。でもおねーちゃんは最強です。約束したでしょ?なんとかするって。私が今まで、嘘ついたことありますか?』

「……あるさ」

『……え?』

 

 ふと溢れた本音。その真意を探ろうと、スオウは口を開こうとして。

 

『お姉ちゃんっ!!?』

『ど、どーどーシオ。私は無事ですからね』

『お姉ちゃんっ……!お姉ちゃあん……!!』

 

 しかしそれはシオの声によって掻き消されてしまった。

 

『小隊長……無事だったみたいで、何よりだよ。まだ私を置いてかれちゃ困るからね』

『はは、ごめんなさい、トウ……』

『……小隊長、後でお話があります』

『や、ヤコー?あんまり怒らないでくれると嬉しいな、なんて……』

 

 次々と通信に寄せられる、心配の声。その全てに対応しながら、桐花スオウは困ったようにはにかんで。

 

『……でも、約束は守りました』

 

 けれどどこか、後ろ暗いような。壊れかけた、装飾品のような声を出して。それに気づいたのは、スクワッドの人間だけだった。

 

『だから……信じてください。これからお姉ちゃんが、することを』

「スオウ、お前は……っ、切れたか」

 

 けれどもサオリが疑問を口にしようとして、その言葉が紡がれる前に逃げるように通信を切られてしまった。

 

「……サオリ、本当にやるの?」

「ああ……ここしかない」

 

 使い物にならなくなった通信機を見つめながら、サオリはその決意を拳に表して。

 

「……ここで見極める。スオウが何者なのか」

 

 吐き出すように、そんな言葉を放った。

 

 

 

 

「……い!」

 

 声が聞こえた。聞き覚えのある声だった。このキヴォトスに来て何度も、何度も。

 

「先生、目を覚ましてください!」

 

 最初に聞いたのはいつだったろうかと、先生は定まらない意識で考え出す。

 生体認証の時?違う。このタブレット……シッテムの箱を手に入れた時?違う。

 

───ですから、先生。

 

「“……”」

 

 ああ、そうだった。

 

───私が信じられる大人であるあなたになら……この捻れて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を。

 

 この声は。

 

「“アロナ……?”」

「先生、大丈夫ですか!?気を確かに……!」

「“いったい何が……”」

 

 未だに明瞭にならない思考のまま、ぼんやりと目の前のアロナを見つめる。

 否、それもおかしな話なのだ。アロナはあくまで『シッテムの箱』、そのメインOS。生身で自分の前に姿を現したことなど、あるはずもない。

 

「古聖堂が爆破されて……なんとか先生を守ろうとしたのですが……」

 

 状況を賢明に説明しようとするアロナだが、その言葉は段々と尻すぼみになっていき。

 

「もう、これ以上は……しっかり……力、が……」

「“アロナ……!?”」

 

 目の前が霞み……現れたのは、燃え盛る世界。そこに佇む、双頭のデッサン人形。

 

「“っ、今のは……!”」

 

 そこで、視界は暗転して。

 

 

 

 

「おっ……いたいた」

 

 タブレットのおかげか若干光ってて、やりやすかったねぇ。

 

「やーやー先生!」

「“……スオウ?”」

 

 先生は状況が整理できてないのか、ぼんやりとこちらを見つめていた。

 

「はははっ、元気そうで何よりだよ!待ってて、今瓦礫どかしたげるから」

 

 先生の周囲にある瓦礫を細心の注意を払って、一つ残らず砕き切る。

 

「立てる?先生」

「“う、ぐ……”」

 

 ……うーん、まだちょっとボヤボヤしてるかな?せっかく頑張ってるのになぁ……。

 

「先生、ご無事で……っ、あなたは!!」

 

 後方からする声に目線を向ければ、正義実現副委員長の羽川ハスミ。ボロボロの大怪我で、こっちを見ていた。

 

「先生から離れた、あぅっ!?」

「邪魔すんなよ、クソガキ」

 

 神秘を込めた弾丸をハンドキャノンで発射し、行動を制限する。

 

「“っ、スオウ、何を……!!いや、なんでここに……!!その話し方は……?”」

「はははっ……その、なんてーの?」

 

 やっと気づいてくれたか。全く、人が頑張ってるのに気づかないなんて失礼しちゃうよな。

 

「まあ簡単に言うと、黒幕登場☆?……なーんちゃって」

「“っ……!”」




最近絵の練習をしていて、スオウちゃん(7歳)を描きました。

【挿絵表示】

いっぱい難しくって、お絵描きできる人ってすごいですね……
ファンアート、またどなたかくれると泣いて喜びます(小声)(傲慢)(強欲)
こう言ったらくれるよって創作仲間が……
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