ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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決着

 アシリの鳥を模した機械に合流し、スクワッドとマユミは先生の元へと走る。

 

「いででででで!?こんのクソ鳥!!なんで開発者たる私には懐かないのよっ!?焼き鳥にするわよ!?」

『やめてよ!?ピーちゃんが壊れちゃう!!』

「機械を焼いたところで、食べれないと思うけど……」

 

 どこか気の抜けた会話をしながらも、機械の鳥の案内に従いながら先生の元へと急ぐ。

 

『良い、よく聞いて!?先生の周りにはその、みめしす?が、十体くらい!先生は瓦礫の間に置かれてた!』

「まるで守られてるみたいね……」

「……」

 

 ふとアズサは、一年前にスオウが言っていた言葉を思い出す。

 

───みんなを助ける、手掛かりになると思ったんです。

 

 思えば、あの時から。あの時、あの時点で、スオウはすでにこの盤面を想定していたのだ。

 先生がどんな存在かは、アズサが一番間近で見てきた。少しふざけていて、体も弱く、頼りないところもあるが……それでも、生徒が困っている時ならば本気で動いてくれる。そんな人物だった。

 恐らくスオウが先生に求めるのは、アリウス分校の庇護。あの段階で、自分がいなくなる前提から動いていた。

 

『そ、そろそろ着くよ!』

「っ……!」

 

 特徴的な白い髪をフードの奥へ隠し、ガスマスクを被る。先生にも、正体が割れないようにするために。

 どうして気づけなかったと、自責の感情が頭の中を這い回る。スオウにしろミカにしろ、あの二人のことなど理解したつもりになっていた。

 それでも、アズサにはほんの欠片でさえ気付かさせなかった。それができるだけの何かが、『桐花スオウ』にはあった。

 

「到着、ね……」

「っ、ふっ……」

 

 焦燥。自責。今のアズサを取り巻く全ての状況から荒くなっていた息は、マユミの言葉で落ち着きを取り戻す。

 

「……聖徒会の相手は私たちがしよう。マユミ、お前が先生の元に向かえ」

「それを許してくれるほど……アイツらは甘くないでしょ?」

「……」

 

 暗にサオリの提案を否定しながら、マユミは乱雑に金属製のビジネスバッグを地面におく。瞬間、その箱は広がりを見せ中から多種多様なドローンが展開される。

 

「……凄まじい数だな」

「命令と行動を単純化させて、複数端末の操作を可能にしてるのよ。すっごい頭疲れるけどね」

 

 能書きを垂れながらも、操作端末を取り出し全てのドローンを作動させ、戦闘の準備を整えた。

 

「アシリ、あんたが先生のところに向かいなさい。こいつらは私が倒す」

『た、倒すって……!』

「無限にリスポーンするならキルし続ければ良いのよ。こっちにはそれができるだけの人材がいる」

 

 サオリたちに示し合わせるように目線を合わせ、互いに頷き合う。

 

「それと、その鳥じゃ出力不足で運べないかもしれない。このドローンの操作権限付与するから、必要に応じて使いなさい。それと……これを渡しておくわ」

『何これ?香水?』

「炭酸アンモニウム」

 

 炭酸アンモニウム。強烈な臭いを放つそれは、つまるとこ気付け薬だ。

 

『そ、そんな乱暴な……』

「言ってる場合じゃないのよ。さっさと行きなさい」

『……う、うぅ……わかったよぉ!!』

 

 半ばヤケクソ気味に、アシリは数体のドローンを引き連れてどこかへと向かった。

 

「……お前はどのくらい戦える?」

「さあ……あんたよりは弱いわ、錠前サオリ。ま、できる最大限はするわよ」

 

 準備はできた、と言わんばかりに体の周りをドローンに旋回させながら、自らの武器であるサブマシンガンを構える。

 

「そうか……では、アリウススクワッド、総員出撃」

「私はスクワッドじゃないけどね!?」

 

 サオリの合図を皮切れに、全員が各々の役割を果たすべく動き始める。

 ヒヨリは狙撃地点を探るべく移動、存在を気取らせなければそれは大きなアドバンテージとなり得る。次に動いたのはサオリ、アズサ。聖徒会に距離を詰め、うち二体を近接格闘にて屠らんと戦闘を開始する。

 無論、聖徒会とてそれを指を咥えて見ているわけではない。サオリ、そしてアズサと戦っている二体の加勢に向かおうとして。

 

「させないよ」

 

 ミサキより放たれる、ロケットランチャーの爆炎。大きな威力を伴ったそれは弾速故に当たることはなく、妨害をするだけに留まった。しかし、それもまた想定内。

 

「そこ」

 

 跳躍により回避した聖徒会、その着地の瞬間を狙いアツコの弾丸が襲う。防御も回避も間に合うことなく、その身に揺らぐ炎のような銃痕を残した。

 

「何よあれ、血も通ってないって本格的に化け物……あっ、悪霊……!?」

 

 スクワッドの連携に感心しながらも、突如として行き着いた可能性にマユミはある種の恐慌状態に陥る。

 

「じょ、冗談じゃないわよっ!!あんたらぶっ飛ばしてやるわ!!それができれば悪霊じゃないもの!!」

 

 展開したドローンと共に相手の元へ駆け出し、撃ち出される弾丸をシールドの展開により防ぐ。銃弾は跳ね返り、しかしそれは一度では終わらなかった。

 

「跳弾……角度を想定……そこっ!!」

 

 三回。大幅に威力を落とした弾丸は、されども確かにマユミの弾丸と共に聖徒会へと降り注ぐ。

 

「計算通りっ!完璧よっ!!」

「そこ!危ない!」

「へ?あ、しまったぁ!?」

 

 敵の一体にダメージを与え、わずかに油断したところで隠密行動をとっていた聖徒会が近づく。アツコの忠告虚しく、その凶弾に目を細めて。

 

「何をやっているんだ、お前は……」

 

 突如として目の前の聖徒会が蹴り飛ばされる。

 

「っ……んっ?あ、じょ、錠前サオリ!!」

「油断をするな」

「わっ、悪かったわよ……!あの二体は!?」

 

 久々の実戦に己の衰えを実感しながらも、倒された二体の方に目線を向ける。

 

「……倒されたやつは塵になって消えるのね。倒すのに必要だった時間は……四分と少し。ちょっと厳しいんじゃないの?」

「そうだな。だが、時間稼ぎができればそれで良い」

 

 先の交戦でわかった。この化け物たちは、今までマユミが戦ってきた存在とは違うことを。

 普通の人間は、相手への攻撃に無意識下でのブレーキがかかる。どんな生徒でもそうだ。無論、ミレニアムの生徒でも。極限的な状況を除いて。

 

「……でも、こいつらにはそれがない。おっそろしいわね、本当に……」

「怖気付いたか?」

「まっさか。さっきは助けてくれてありがとね……だから。サポートは全部、私に任せなさい!」

 

 聖徒会の一体と交戦を続けるアズサへとドローンを送り出し、そのドローンから何かの缶が落ちる。

 

「撃ち抜け!」

「っ、わかった!」

 

 銃弾で撃ち抜けば漏れ出るのは、何かの煙。缶を送り出したドローンはフラフラと聖徒会の顔面へ向かい、そして爆ぜる。

 

「催涙ガスよ!そいつは無力化できた!次の敵に向かいなさい!」

「お前……」

「どうせ復活するならわざわざ倒してやる必要もないでしょ?」

「……ああ、確かにな。その通りだっ!」

 

 マユミの分析に少し関心しながらも、サオリは再び前線へと身を投じた。

 

「ふー……乱戦。この場での最適解はサポート、状況の把握」

 

 一体のカメラ付きドローンを空中へと飛び上がらせ、マユミは何かをぶつぶつと呟き始める。無論それを見逃す聖徒会でもなく、マユミに攻撃を仕掛けようとして。

 

「ちょっと、何してんの!?」

 

 しかしミサキの一撃により、その聖徒会は無力化された。

 

「敵は十一体、二体は無力化……否、復活した。インターバルは三分、サオリとアズサは単独で対処可能。ヒヨリは存在がバレていない、恐らく一撃で聖徒会を消滅させることができる。中距離のサポートは火力のミサキと手数のアツコ。ただしミサキは先生への影響を考慮して強すぎる攻撃は使えない。聖徒会のほとんどは同程度の強さ、二体強力な奴がいる……あいつらは無理そうね……残りのドローン数は……よし、決めた」

 

 突如として画面を閉じ、ドローンを動かし始める。

 

「全員ッ!!私の指示に従ってもらうわ!!」

「何を勝手に……策はあるの?」

「あるわっ!!多分これが最高効率よっ!!」

「だってさ。どうする、リーダー?」

 

 ミサキの疑問に、少し考えて。

 

「……一度信じてみよう!」

「オーケー。はいこれ、通信機の予備ね」

「ありがと、助かるわ」

 

 耳に通信機を取り付けながら、マイクを口元へと近づけて。

 

「ミサキは一度待機……というか、姿を隠して頂戴。サオリ、アズサ、あんたたちは倒しきらずに無力化して。腕でも、足でもいい。その補助は私とアツコ、ついでにヒヨリでやるわ。ヒヨリ、自分のタイミングであのデカめの二体に狙撃して頂戴」

『わ、わかりましたぁ……!』

 

 ヒヨリの自身なさげな返答にどこかアシリを思い出して微笑みを浮かべながらも、戦場へと身を投じた。

 

 

 

 

『うー……!く、暗いよぉ……!怖いよぉ……!』

 

 黄色い鳥に搭載された暗視カメラで周囲を見渡しながらも、アシリは瓦礫の隙間を縫うように進んでいた。

 

『ピーちゃん、座標まだぁ……?』

『ピィ……』

 

 残念そうな鳴き声。どうやらまだ先生の居場所は遠いようだ。

 

『ま、マユミちゃん達も長く持つかはわかんない……!急ぐよ、ピーちゃん!!』

『ピッ!!』

 

 出力を上げ、ドローン達と共に加速した、瞬間。

 

『っ……!?』

 

 引き連れていたドローンのうち一体が、何者かに撃ち抜かれる。急ぎ周囲を見渡してみれば、岩陰に聖徒会の複製(ミメシス)が一体、身を隠していた。

 アシリが自身の存在に気づいたことを察したのか、再びその姿をどこかへと消してしまう。

 

『やばい、逃げなきゃ……!』

 

 その銃身から推察するに、武器種はスナイパーライフル。威力は確かだが、手数は少ない。

 

『ど、ドローンを囮にっ……!?』

 

 二体目。再び自分の操作する鳥ではなく、ドローンが撃ち抜かれる。

 

『なっ……ま、まずいよっ……!』

 

 引き連れたドローンは、万一先生が目覚めなかった時無理矢理にでも連れて行くためのものだ。それが今では二体、その数を減らしてしまった。

 

『っ……とにかく、先に急がないと!』

 

 再び速度を戻し、岩陰を縫って加速を続ける。しかし、その道中にて。何かの糸に引っ掛かり、同時にピン、と、栓を抜くような音がマイクに走る。

 

『……ワイヤー、トラップ?』

 

 そんな溢れた疑問の答え合わせをするように、周囲の空間が轟音を持って熱と炎に包まれた。

 

『ぐっ……っ、ピーちゃん!!無事!?』

『……』

 

 返事はなかった。即座に画面を切り替えて状態を見てみれば、羽の一部を損失していることがわかる。それだけではない。引き連れていたドローンも、そのほとんどが爆発により壊れてしまった。

 

『う、嘘嘘嘘……!だめだよ、そんなのっ……!だって、だって……!任されたのに……!』

 

 状況を受け入れられずに、それでも前に進もうと操作を試みて……カメラには、先程の聖徒会が映った。

 

『ひっ……!?』

 

 次の瞬間、銃声が走る。画面は真っ黒に染め上げられ。

 

「“アシリ、大丈夫?”」

『っ……?』

 

 聞き覚えのある声だった。どこか、安心を覚えるような。包み込むような、穏やかな声色。

 

『……せ、先生ッ!?無事だったんですか!?』

「“おかげさまで”」

『い、今すぐ離れて!!そこに聖徒会、が……?』

 

 先生に警告を送る、その途中で。アシリは聖徒会がその動きを止めているのを目撃した。

 

「“……行かせてくれるみたいだね”」

『なっ、なんで……というか先生、さっき銃声が!!傷ないですか!?見せてください!!医学なら少しくらい齧って……』

「“ううん。大丈夫だよ”」

 

 先生は優しげに、手元のタブレットを撫で付けて。

 

「“頼りになる子が守ってくれてるから”」

『……?とっ、とにかく!!色々説明したいことはありますが、ついてきてください!マユミちゃん達には連絡入れておくんで!』

「“ありがとう。よろしくね”」

 

 アシリの案内に従い、先生は瓦礫の外へ急いで向かった。

 

 

 

 

「今よ、戒野ミサキッ!!ぶちかましなさいッ!!」

「命令されるのは癪だけど……りょーかい」

 

 マユミの指示に従って、一箇所にまとめられた聖徒会がミサキの爆発で吹き飛ばされる。全ての聖徒会がほぼ同時にその姿を消失させ、残るはマユミが強力であろうと分析した聖徒会のみ。

 

『マユミちゃん、先生回収したよっ!!』

「っ……ナイスよアシリ!!やればできる子ッ!!」

『へへ……』

 

 アシリに対し心からの称賛を送りながら、今度はスクワッドとの通信を繋げ。

 

「アシリが先生を回収したわっ!!もう足止めの必要もない!」

「つまり……!」

「三十六計ッ!!逃げるにしかずよっ!!」

「随分と簡単に言ってくれる」

 

 同時にほとんどの聖徒会を破壊した甲斐あって、十分に逃げ出せるだけの時間は確保されている。しかし戦闘により僅かばかり疲弊したこの体では、少々苦労するだろう。

 これで最後だ、と気合いを入れ直して。

 

「っ……動きが、止まった……?」

 

 突如として、聖徒会がその動きを完全に停止する。

 

「これ……もしかして……」

「原因はなんでもいいわッ!!今はとにかく逃げるわよ!!」

 

 ふとアツコが一つの可能性に思い至り、しかしそれを言葉にすることはマユミによって否定された。

 

「……うん。確かに」

 

 その否定に従い、その場を急ぎ離れる。そうして、しばらく走って。

 

『ま、マユミちゃんっ!!!』

「どわぁ!?」

 

 突如として物陰から飛び出てきた黄色い鳥に腹を突き刺され、マユミは呻き声を上げた。

 

「げふっ……!」

『よかったよぉ!!本当に無事でよかったぁ……!!あいつらすごい怖い……!』

「……ったく。大丈夫よ、私なら。ありがとう、アシリ……よく頑張ったわね」

 

 黄色い鳥を優しく撫でながら、ふと欠損した翼に目が届いた。

 

「あら、これ……」

『う、うん……ごめんね、爆発で焦げちゃって……』

「……ふむ。このくらいならパーツ変えるだけで大丈夫ね。ちょっと待ってなさい」

 

 テキパキと鞄から何かを取り出して、目にゴーグルを付け準備をし始めるマユミ。その目線が、ふと少し上に向き、懐かしい顔にフッと口元をだらしなく緩めた。

 

「……ふふっ。生身で会うのは久しぶりね、先生。会いたかったわ」

「“うん、久しぶり。元気そうでよかった”」

「先生こそ……って、世間話でもしたいところなんだけどね。先生には少し協力して欲しいの」

「……お前が、シャーレの先生か」

 

 サオリの声に、先生の目線がそちらへと向かう。

 

「私はアリウススクワッドの錠前サオリだ」

 

 一見すると剣呑な雰囲気、しかしそれは次の瞬間鳴りを顰めた。

 

「……頼む……!こんな状況で何を、と思うかもしれないが、今は説明の時間も惜しい……!私にできることならなんだってする!!だから……協力してくれ……!!スオウを、助けるために……!!」

「“任せて。なんとなくだけど、状況はわかってるつもりだから”」

「ああ、信用できないのもわかるが……え?」

 

 心からの嘆願。先生の答えは、サオリが予測していたものとは違っていた。

 

「あら、知らなかったかしら?先生はこういう人よ?」

「……損するタイプの性格だね。アイツと一緒」

「“はは……”」

 

 かなり辛辣な自分に対する評価に少し苦笑いし、けれどもすぐに真面目な顔つきに戻った。

 

「一応、端的に説明するわね。聖園ミカと桐花スオウが戦ってる。そこをあの複製(ミメシス)っていう化け物が守ってるんだけど……多分、先生なら通れる。聖徒会を操る桐花スオウにとって、先生は必要な存在のはずだから。だから、私たちと一緒に着いてきてほしいの」

「“了解”」

「……その戦いのことだけど」

 

 ふと、先程まで黙っていたアツコが口を開く。

 

「……もしかしたら、決着がついたかも」

「っ……!?どういうこと!?」

「さっき聖徒会が動きを止めたのは、力の源……ロイヤルブラッドのスオウが大幅なダメージを負って、制御できなくなったからだと思う。本当は、私が果たすはずの役割だったからわかる」

 

 アツコの言葉に、マユミは急いでタブレットを開く。勝敗の結果が、画面へと映し出されていった。

 

 

 

 

「げほっ……はぁ……!」

 

 口から、錆臭い鉄の匂いがする。小さく咳き込めば、汚らしい赤色をした吐瀉物が漏れ出た。

 

「大分、っ……ふぅ……消耗してきたみたいだね……!」

「お互いにな……!」

 

 一見すると、ミカのダメージは俺よりも小さいように見える。しかし、再生力で上回るのは俺の方。あと少しだ。あと少しで、勝敗は決する。

 

「……」

 

 先生の近くに配置していた聖徒会は、呼び出せる感覚がない。倒された。

 ここに入るのに先生が必要なのを察した何者か……恐らく、俺とマエストロの会話を聞いていたアツコ。付随して、スクワッドのみんな。彼女達が先生を回収しに向かったのだろう。

 

「ふーっ……!」

 

 つまり俺がいつミカから『ヘイローを破壊する爆弾』を回収したとしても問題ないということ。

 

「次の一撃で決める」

「そういうのは有利な方が言う言葉だよ」

「だったら間違ってねぇなぁ?」

 

 互いに構え、呼吸を整える。耳を澄まさずとも、戦闘により崩壊しかけた柱や壁面の、ひび割れる音が耳に入った。

 

「聖園っ……!!ミカァッ!!!」

 

 示し合わせた訳でもなく、互いに同時に足を踏み込んで接近し、最後の攻防が始まる。

 先手はミカ。その手に持った機関銃に神秘を込めて、放つ。もはや過剰な神秘を込める余裕もないのか、その攻撃は心許ないものだった。

 

「ぐっ、らぁっ!!」

 

 しかしこちらも、防ぎ切る余裕がある訳ではない。弾丸のうちほとんどは弾き飛ばしたものの、うち数発が肉体に直撃する。

 

「そこっ!!」

 

 その隙を狙って距離を詰めたミカ。想定の範疇だったその動きに対し、姿を目に入れるよりも先に横蹴りを放つ。

 

「甘いっ!」

「っ……!」

 

 右足を掴まれ、上方に投げ飛ばされ。クレーターができるように天井は崩壊する。

 

「……」

 

 もしこれを目撃する誰かが周囲にいたのならば、ミカが押しているように見えるかもしれない。良い。それで良い。

 この後にはまだ、ベアトリーチェとの戦いも控えている。肉体の損傷は俺なら簡単に回復させられるんだ。しかし疲労や、弾薬と爆弾の消耗は話が別。

 

「は、あぁああああっ!!」

「っ……!」

 

 迫るミカの拳、岩石。髪の毛ロープで絡め取り、岩石を投げ返す。拳はあえて避けることはせず、防御に神秘を集中させて意図的に吹き飛ばされる。

 

「ゔ……!」

 

 砕けた壁面により舞う砂埃、岩石。それを切り裂くようにして、ミカの一撃が、拳が迫る。

 

「終わりだよ、スオウちゃん」

「……ぁ、い……どお、り……」

 

 その一撃に対して、俺は……左の拳にて、対応した。

 

「っ……!?」

 

 目に映るのは、驚愕するミカの表情。当然だろう。筋力にしろ防御力にしろ、ミカの方が圧倒的でないにしろ上回っているのだから。

 

「けどな……!」

 

 けれどこの一撃、これだけは話が別だ。なんせ、左腕を一発きりで犠牲にするんだ。そのくらいの威力がないと割に合わない。

 

「っ……!!あ、ああ゛っ……!?」

 

 驚愕の表情のままに押し負け、痛みで顔を歪めるミカ。彼女に対し、そのまま拳を振り抜いて。

 

「お……ら、あああああああああっ!!!」

 

 向かい側の天井まで吹き飛ばした。

 

「っ、あ゛……!!ぐ、はははっ……ぶっつけ本番で使うような技じゃなかったな……」

 

 本来ならこれは、ベアトリーチェとの戦いまで使わないつもりだった。それも可能なはずだった。けど、それはできなかった。ミカ相手に出し惜しみできるほどの余裕はなかったから。

 

「っ……ふーっ……!」

 

 ズキズキと痛む左腕を抑えながら、ミカの方へ向かう。先の一撃で完全に戦闘不能になったのか、壁へともたれかかり血を出していた。

 

「……にを……したの……?」

「……」

 

 脳が揺れたのか、おぼつかない呂律で疑問を投げかけてくる。

 

「冥土の土産に教えてやるよ……けほっ……人間、には……無意識下での、力の制限がある……」

 

 ミカの体を漁りながら、彼女の疑問に答えていく。

 

「ミカ、お前にしたってそうだ……自分の腕が折れたり、壊れたりするほどの威力は出せない……それを外した」

 

 俺もできるようになったのは、三年ほど前の話だ。扱い方次第では強力な武器になるが、己の身を滅ぼしかねない。

 だからこそ今、あのタイミングでしか使うことはできなかった。ミカが疲弊し、勝敗を決すべく防御を捨てて攻撃に転じる、あのタイミングしか。

 

「っ……!!」

「……お前の敗因は、訓練不足……もっとよく力の使い方を認識しておくべきだったな」

「それ、は……違うよ……」

「……?」

 

 ピチャリ、と。血溜まりの中に、血ではない何かが落ちるような音がした。

 

「……負けたのが、そんなに悔しいか?」

「自分が傷つくのを前提にするなんて……生きようとするためのものを、押さえ込むなんて……そんなに、哀しい技術……私は……訓練しても、思いつかないから……」

「……」

 

 哀しい技術、ねぇ……随分な言われようだな。

 

「……こいつは、貰っていくぜ?」

「ダメ、だよ……!やだ……!絶対に……しなせ、ないもん……!」

 

 ミカに腕を掴まれる。普段よりもずっとずっと弱々しい握力で。それでも、必死に。

 

「……放せ。殺されてぇか?」

 

 銃を構える。力が弱まる気配は、ない。

 

「どんだけ下手っクソに悪者ぶっても……!!強がっても……!!私は知ってる……!!スオウちゃんは……!セイアちゃんを、たすけてくれた……!!みんなのことを、守ってた……!!私のことだって……!!」

「俺の計画に利用しただけだ。理解したか?」

「嘘ばっかり……!絶対、絶対に……離さない……!」

 

 ……ああ、この目は。この目はダメだ。こりゃ、何が何でもって、そういう顔だ。あの時のアンナと同じ。

 

「しつけぇよ」

「っ……!」

 

 ミカの手の甲を撃ち抜く。手元からダランと、力が抜ける。そのまま背を向けて、先に進もうとして。

 

「っ!?」

 

 身にまとうコートが、後ろに引かれるような感覚がした。ミカの右腕は、リミッターを外した一撃で破壊した。左腕は撃ち抜いた。一体、どうやって?

 

「ふーっ……!うぅーっ……!!」

「……」

 

 ミカは……俺のコートの袖に、噛みついていた。その身一つで。もはや立っていることすらできないほど、ボロボロのはずなのに。

 なんで。どうしてそこまでして、俺のことを。

 

「スオウちゃんだって……!幸せになって良い……!生きてて良い……!そうじゃなきゃダメ……!」

「ミカ……」

 

 ……ごめんな。でも、それだけは絶対に違うんだよ。

 

「……ありがとう、ミカ。みんなのこと……できれば、頼むな」

「っ……!スオウちゃんッ!!」

 

 ハンドキャノンを、眉間に当てる。そのまま、引き金を引いて。

 

『それはダメッ!!!』

 

 突如として現れた青色の機械に、それは防がれた。




ファンアートをいただきました!!二枚も!
一枚目は火炎茸(https://twitter.com/Trich0derm4)さんから頂きました!
https://syosetu.org/?mode=url_jump&url=https%3A%2F%2Fwww.pixiv.net%2Fartworks%2F116764050
このスオウちゃん、構図がカッコよくて引くほど好きです!個人的にもしスオウちゃんが実装されたら、EXスキルはこんな感じになるんじゃないかなって勝手に思ってます!
立体感あってすごい……なんだか漫画の表紙みたいです!ありがとうございます!

二枚目はニコリハット(https://twitter.com/Recall_neo)さんから!

【挿絵表示】

姉を名乗るスオウちゃんです!お目目がキラキラしていますね!かわいい……かわいい……!
サオリの呆れた表情も相待って、私が書いている時にイメージしていたスオウちゃんがそのまま目の前にあります!
身長差がかなりあって、かっわ……!ありがとうございます!

現金な話なのですがファンアート、本当にモチベに繋がっています!そろそろ作品のあらすじにまとめないと……!
改めて、ありがとうございます!
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