「率直に言って、幼女のやろうとしてることは、私たちのやろうとしてることとちょっと違うッス」
昨晩の約束通り、俺はシアンとアンナに会いに来ていた。
「え、そうなの?」
「えっ?そうだったんだ!」
「シアンちゃん?アンタは把握してて然るべきッスからね?」
「はーい!」
「素直なのはいいことッス」
…シアンの方が俺よりよっぽど幼女だと思う。
「いースか、幼女は確か『事前に』内乱を止めたいって言ってましたよね?」
「うん。できることなら」
「私たちはそれを…まあ、ぶっちゃけ諦めてるッス。私たちの言うとこの内乱を止めるってのは、徒党を組んで早急に終わらせるっつーことッス」
「…なるほど?」
少し認識に齟齬があったみたいだ。
内乱を速やかに終わらせる、か…考えなかったわけじゃないけど、やっぱりベアおばに見つかるリスクがあるんだよなぁ。
正直、確実性で考えるなら内乱を起こすこと自体が悪手もいいとこなんだけど…。
「んー…その、事前に止めるのをぶっちゃけ諦めてるって、なんで?ベアトリーチェの件もあるし、できるなら事前に止めたいんだけど…」
生徒会長という立場、ただそれだけでもかなりのアドバンテージだと思うのだけれど。
「そんなにまずいの?その、ベアトリーチェって人」
「ヤバい。仮に内乱が起こって、どんだけこっちが有利な状態でも、そいつが過激派についたら絶対勝てない。しかもロクなことしないよ。自分の計画のために生徒を利用して、人殺しの道具にしようとする」
「…クソ野郎ッスね…私たちも、考えなしに諦めたりしねーッスよ。私たちは、すでに穏健派の中で徒党を組んでるッス…けど、それより先に過激派は徒党を組んでいた」
「…そうだったのか」
もう徒党を組んでるってのは予想外だったけど、別にそれに関しては違和感のあることじゃない。
ただ、ソレとコレにどんな関係があるんだ…?
「穏健派のリーダーは言わずもがな、生徒会長で最強のシアンちゃんッス」
「器じゃないと思うんだけどなぁ…」
「ネガティブなこと言うなッス…で、過激派の方のリーダー。生徒会長並みに名が知れてて、立場が強くて…シアンちゃんほどじゃねーッスが、十分に強い………生徒会副会長。橘サリア、その人ッス」
ちょっと待って?リーダーがいるの?
…あ、もう徒党組んでるんだから当然か。ちょっと予想外。
いや待て今なんつった。生徒会副会長がリーダー、だと…!?
「マジかよ…!」
「そ。んでもって、シアンちゃんが穏健派だってのはソイツに知られてる…過激派がアリウスの風習の復活を望むなら、生徒会長の立場が必要ッスし…ぶっちゃけ、衝突は避けられないんスよねー…」
…うん。ヒャクパー内乱起こるわ、コレ…絶対抑えられない。
そもそも穏健派が生徒会長の座に居座ってるってのが相当屈辱だろうし…多分、アリウスの存在が露呈するリスクを背負ってでも内乱は起きる…。
…マジかぁ……!!
「うーん…私としてはサリアちゃんをぶん殴れば解決すると思うんだけどねー…」
「ソレやったらすぐにでも内乱が起きるってことは覚えとけッス。初動としちゃ悪くねぇッスが…何をするにも準備は必要ッスからね。幼女の話を聞くに、余計すぐに内乱を終わらせる必要がありそうッスし。他の過激派に気取られたらアウトッス」
「あー、確かに私もサリアちゃん倒すのには時間かかるかも」
…倒せない、と言い切らないあたり、やっぱシアンは強いんだな…。
「そもそも、生徒会副会長の居場所はわかるのか?」
「うん。大体生徒会室にいるか…最近だと、離れにあるふるーい大聖堂にいることもあったよ」
「なるほど…ちなみに、内乱ってどのくらいで起こりそうなの?」
「多分今は過激派も戦力分析中……計画自体はしてるんじゃないッスか?早けりゃ三ヶ月、遅くても四ヶ月くらいで起こるッス」
……時間がなさすぎるな。
内乱が止められないことがわかった以上、できればこっちから仕掛けたい。
アンナの言う通り、明白なリーダーがいるなら初動でソイツを倒しておくのは悪くない動き…な、はずだ。実際俺の計画の一つにもあったし。
敵の頭は潰しておくに越したことはない。
「戦力分析に物資の調達に……やることが多すぎる気がするけど…」
「物資の調達は会長パワーでチョチョイのチョイッスよ。ただ幼女の言っていることから考えて、こっちから仕掛ける必要がありそうッスね。ちょっと急ぐッス…それと、戦力も。今まで戦いに乗り気じゃない子は戦わせるつもりはなかったッスが、そう言ってる場合でもなくなったッス。そのベアトリーチェとやらが来るリスクを考えれば、戦力増強によるリスク…例えば、内乱の開始を早めたり、情報が漏れたりすることには目を瞑るべきッスね」
「両方問題ないのね。オーケー」
「えっと、よくわかんなかったんだけど…」
「戦力を高める。戦いはこっちから仕掛ける。以上ッス」
「わかった!」
…しっかし、俺がすることほとんどないなぁ…。
「んで幼女。アンタには士気を高めてもらうッス」
「えぇ…?何言ってんの…?」
「抱きついて上目遣いで頑張って下さいっていうだけで士気爆上がり間違いなしッスよ」
「幼女じゃないから断る」
「…と、冗談はさておき。とりあえず、戦力の補強は一ヶ月くらいが目安ッスね。一応、幼女もできることはしておいて下さいッス。あと情報も共有しましょう?色々計画も立ててたんスよね、たしか」
「了解」
「…はっ!?また私が置いていかれてる!?」
…そんなこんなで、内乱を早めに止める準備を始めたのであった。
◇
…そんな校舎での密会から一ヶ月後。
「クソッ…!!」
アリウス分校の生徒会副会長である橘サリアは、古ぼけた大聖堂の中で一人歯噛みしていた。
「…穏健派の戦力が、ここ一ヶ月で急激に増えている」
サリアとしては、あの甘ったれた腑抜け共はここまでできないだろうと、そう予想していた。
そもそも穏健派には争いを好まない生徒が多い。それ故に、人数では同程度でも戦力は過激派の方が圧倒的に上。
生徒会長、三枝シアンさえ倒してしまえばなんとかなる。そう考えていたのだ。
「元月アンナ…あの女豹か…?」
サリアはシアンの
一年前の、生徒会総選挙。先代生徒会長の血を引くロイヤルブラッドがいなかったからこそ、偶然訪れたチャンス。
腑抜け切ったアリウス分校を今一度引き締め直し、トリニティを終焉へと導く、そのチャンス。
そのチャンスを一年生のたった二人、それも片方は吹けば飛んでしまうような雑魚に壊され、敗北し、辛酸を舐めさせられた屈辱を思い出し…いや、違うなと思い直す。
「奴はもっと慎重になるはずだ」
元月アンナは必要に駆られない限りにおいては、慎重に慎重を重ね、確実に勝利を得る状態までに整え、ようやく勝負にでるか否か考え始める女だ。
故に、内乱においても先手はこちらが打つことになる。
そうでなくとも、わざわざリスクを背負いかねない急激な戦力の増強などは避けると、そのはずだったのだが…今この限りにおいては、そうなっていない事もまた確かだった。
「一体何を考えている…!?」
今の戦力差で戦えば敗北するのは、僅差で過激派だろう。
それほどまでに、この一ヶ月で穏健派の行動は今までと比べて速い。
慎重さは失われ、むしろ焦っているようにも思えるその行動だが…だからこそ、そのようなことはしないと踏んでいた。
しかし長期的にみれば、今この状況で穏健派が攻撃を仕掛けるのは得策ではない。
一度でも攻撃の手を緩めれば、過激派はその間に戦力の増強、立て直しをはかり…戦力を把握している以上、勝利するのは過激派だ。
つまり、リスクを背負ってでも短期決戦を仕掛けようとしている。
そうさせるほどの何かがある。
「おのれ…」
しかし、今戦いを仕掛けられれば敗北しかねないのもまた事実。
そう思うと、サリアはとてもではないが喜ぶつもりにはなれなかった。
「どうかされたのですか?」
と、そこでサリアは何者かに話しかけられる。
白い花のような、無数の目を持つ頭。全身が真っ赤に染まった異形。
一年前、生徒会選挙に敗北したその後にサリアに接触してきた、己の知識も、武力も、足りない部分を補ってくれた存在。
「ッ!ま、マダム!!」
「久方ぶりに来てみれば、ずいぶんと荒れていますね?」
「それが…!」
サリアは異形に事情を説明する。
「なるほど…それは、厄介ですね」
「はい…」
「…しばし、待ちなさい。いいですか、先手を取られてはいけません。こちらで特殊な武装を用意させます。それで戦力を強化し、攻撃を開始しなさい。確実に、かつ迅速に、勝利を収めるのです」
「はっ…!」
ああ、きっと彼女がそう言うのならなんとかしてくれるのだろうと、足早にその場を去る異形に全幅の信頼を寄せながらも、サリアもまた同じようにその場を後にした。
シアンを会話に参加させるのが一番難しいです。
アンナより先に思いついたキャラなのに、どうしてこうなった。