ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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戦いの始まり

 突如として強くなった光。その眩さに、聖園ミカは目を細めて。

 

「っ……あれ……?先生、あいつは……!?」

「“もう大丈夫”」

「え、えぇ……?」

 

 信じ難い発言。ふらつく体で辺りを探るが、その巨体はどこかへと消え去ってしまっていた。

 

「せ、先生、一体何し……あれ……」

 

 抱いた疑問を解決しようと、先生の方へ近づいて。けれども満身創痍の体にはあまりにも酷な行為だったようで、そのバランスを崩してしまった。

 

「っ……!……ん?」

「“ミカ、大丈夫?”」

「あ、う、うん……先生、今どういう状況?」

 

 背中と膝裏に回された大きな、暖かい手。状況は聞くまでもない、これは所謂高貴な血筋の人間を表す言葉を冠につけたあの抱え方だ、いやいやそんなことはどうでも良い。疲労と緊張で動かない頭を無理やりに動かしても答えは出ずに、そんな思考だけが堂々巡りを続ける。

 

「“転びそうになってたから”」

「そ……れはわかるんだけど、そういうことじゃなくてね……?」

 

 ほんの僅かにも表情筋を動かされずに返されてしまっては、それ以上追求する気も起きなかった。

 

「……はぁ……先生、これからどうするつもり?」

「“まずはミカを救護騎士団に送り届けないと”」

「あそこから?」

 

 ベキベキにへし折れ、血が滴り落ちる指先でカタコンベの入り口を指すミカ。先程ミカが残りの力を込めた一撃で崩落し、完全に塞がれてしまっていた。

 

「“あ……そ、そういえば……”」

「……というかそもそも、どうやって入ってきたの?」

「“私が来た時には、まだ崩れてる途中だったから。ギリギリ入ってこれたんだ”」

「……だからやけにボロボロで……どうしてそう考えなしかなぁ」

「“うっ……”」

 

 先程よりも白けてしまった目線。突き刺さるような感触を感じながらも、先生は考え始める。

 念の為、一定時間が経過しても戻らなかった場合アシリにはこちらへ向かってもらう手筈になっている。この状況も想定内。詳しい情報は知らないが、マユミ曰く生き埋めにされても掘り起こせるだけの準備があるらしい。

 しかし今は、一分一秒の時間も惜しい状況。アリウス分校生の脱出はほぼ満了した。アツコの言うところの、『契約』とやらも果たされてしまった。もはや今、桐花スオウを縛るものは何もない。

 

「……しょうがないなあ、先生」

 

 思考の濁流が行き詰まったところで。ふと、腕の中に収まっていたミカが動きを見せる。

 

「“ミカ、まだ動かないほうが……”」

「あはは、そうかも。多分、もう本当にこれが限界かな」

 

 体の調子を確かめるようにトントンと、軽く跳ねて音を鳴らす。アウターを口で噛みちぎり、辛うじて動く左腕に巻きつけた。

 

「“無理はしないで。立っているのもやっとに見える”」

「そんなこと言っちゃって。私がなんとかできなきゃ困っちゃうくせに」

「“っ……”」

 

 強い覚悟を示す目。止めることができないのは明白だった。

 

「先生、『みんな』を頼るんでしょ?私のことも頼っていいよ。ただし、今回はこれが最後……終わったら多分、私倒れちゃうから」

「“……”」

「……先生。スオウちゃんのこと。みんなのこと。絶対、絶対助けて。トリニティ自治区で待ってるから」

「“……うん。任せて”」

 

 包帯のようになったアウターに爆弾を巻き込みながら、最後の神秘を込める。これを使ってしまえば、ミカの神秘は無いも同然。生命維持に必要な程度にしか残らず、耐久力はそこらの一般生徒にも劣るだろう。

 

「いくよ……!」

 

 そんなことは気にも止めずに。深く、深く踏み込んで。弱々しく、壊れ果ててしまいそうな拳を打ち込み。

 

「私は、一人で帰れるからさ……けど、あの子は違う……先生……お願いね……」

「“……うん”」

 

 外へと続くその道を、辛うじて作り出した。

 

 

 

 

 場所は離れて。トリニティ自治区にて。

 

「んで、結局、だ。一体全体なんてったって私たちはここで待機させられてるんだ?」

「……」

 

 アリウス分校の人間と補習授業部の人間が接触していた。

 柏有マユミによって与えられた、この役割。アシリは現状、あの黄色い鳥の操作で手を離せない状況。アリウス分校生の説得には、自分たち補習授業部が回らざるを得なかったのだ。

 

「第一分隊長、あなたはどうしてそう」

「黙ってろ。シオ、錠前サオリから通信が入ったのは間違いないんだろうな?」

「……ええ、確かに。この人たちは協力者よ……お姉ちゃんが用意してくれた」

 

 シオが言うところの姉、すなわち桐花スオウのこと。シオはスオウの名前さえ出しておけば御し易い。こいつに連絡を任せたのは失敗だったろうかと、サウに加えてヤコも頭を抑えた。

 

「……再三に渡ってお伝えしてますが、スクワッド、でよかったでしょうか。彼女たちの脱出が遅れているそうです。また伴って、桐花さんがその助けに向かい……結果としてあの黒い生徒たちに襲われたのだとか」

「黒い生徒……聖徒会、ねぇ……」

 

 本来書き換えた契約の内容につき、ベアトリーチェは聖徒会を操れないはずだった。しかし聖徒会の発現まで自治区内にいた嵐咲フィリ、阪抱シオの発言によりベアトリーチェ、およびアリウス分校の教員でさえそれらを利用していたことが判明した。加えて。

 

「……っぱ、私たちには使えねぇな。対策してやがったか……?」

 

 現在どのアリウス分校生も、聖徒会を呼び出せない。逆に利用してやると意気込んでいたその技術だが、所詮はその力の由来もわからない不確定なモノ。もはやアテにする気も起きなかった。

 

「うん……聖徒会……数は、少ない……強いのも、いない……でも、操ってたよ……」

「……まあいい。とにかく、だ。だったら加勢した方が問題の解決は早ぇ。そう思わねぇか?」

 

 いい加減に堪忍袋の尾が切れたのか、赤江サウがそんなことを言い始めた。

 

「他ならぬ小隊長の判断です。私たちの想定の外側にある危険が潜んでいてもおかしくはありません」

「その小隊長の判断が正しい保証はあるのか?」

「お姉ちゃんが間違ってるって言うの……!?」

「ま、まーまー!喧嘩はやめなって!」

 

 一触即発。場に張り詰めたような空気が満ち。

 

「ね、ねぇ、まずくない……!?」

「……はい」

 

 下江コハルと浦和ハナコは危機感を抱く。

 自分たちが任せられたのはアリウス分校生の制御。だと言うのに、既に数名なんてものではない。かなり多くの生徒が加勢に向かおうと画策し始めている。それだけではない、数名の生徒は違和感に気づき始めているのだ。この静止に、きな臭さを感じ始めている。

 できることならなんとか次の展開を打ち出すか、次点で話題を逸らしたい。

 

「……そ、その。少し大丈夫ですか……?」

「……ん?私かな?」

 

 そんな意図を知ってか知らずか。阿慈谷ヒフミが切り出した。

 

「は、はいその……」

「あははっ!ひょっとして一番話しかけやすそうだったから、とか?」

「う……」

 

 レイは冗談めかして言ったが、どうやら図星だったようだ。

 

「……んー、まあ良いカンしてるね。あいつらキョーレツだし……それ、みんなに聞きたいこと?」

「で、できれば!」

「りょーかい了解!ちょっと待っててね!」

 

 ヒフミの肩をポンポンと叩き、レイはヒフミの手を引いて移動を始める。

 

「ちょっとみんなー?この子が聞きたいことがあるらしいよ?」

「うるせぇ、取り込み中だ。後にしろ。もしくはいつまでも傍観してるつもりのソイツに聞くんだな。暇だろ」

「あなたという人は……!」

「だーもう!!ヤコちゃんは落ち着いて!!サウちゃんもいっつもそうやって!!わざとヤな対応ばっか、り……」

 

 仲裁に入っていたヨセだが、徐々にその言葉は尻すぼみになっていく。否、それどころか徐々にその場を離れていく。ヤコもまた同様だった。

 彼女達らしからぬ反応だと、サウは疑問を抱き。

 

「……なんだって?」

「っ、な、なんでもねぇ。どうしたレイ」

 

 即座に自身のミスに気がついた。彼女の背後に立っていたのは安照レイ。アリウスの中で一、ニを争うほどの怪力だ。しかし問題はそこではなく。

 

「……ならばよし」

 

 相手側に非があれば鉄拳制裁も辞さないというその心意気である。収められる拳に安堵しながら、緊張から解放されホッと息をついた。

 

「えっとね、この子が聞きたいことあるんだってさ。みんなに聞いて欲しいらしくて」

「トリニティの……こちらとしても支援していただいた身です。断る理由はありませんが……どうされましたか?」

 

 先程内輪揉めをしていた時とは打って変わって、丁寧な態度で接し始める面々。興味を抱いたのかワラワラと集まってくる。

 

「そ、その……し、白洲アズサちゃんについて知っている方はいますか……?」

「白洲……あー、第八分隊の。羽が生えた白髪の子だよね?」

「は、はい!」

「んー……ヤコちゃん、ヨセちゃん、どう?」

 

 本来小隊の違う第八分隊とは、レイやサウはあまり関わりがない。顔や名前こそ把握しているが、あまり詳しいわけではなかったのだ。

 

「白洲アズサといえば、確かトリニティに潜入していた……なるほど。あなたは、いえあなた方は……」

「アズサちゃんの友達、ってことだね!」

「は、はい!」

 

 ヤコにしろヨセにしろ、白洲アズサの顛末についてはあくまで情報として報告を受けている。桐藤ナギサの暗殺……という建前で襲撃を行った桐花スオウが、聖園ミカの裏切りを受けて負傷。第八分隊が救出へ向かうも追い詰められ……仕方なく白洲アズサがその正体を明かし、混乱に乗じて逃げ出したと。

 正体を明かす。文章にしてしまえばたったの六文字、吹けば飛んでしまうようなチンケな言葉だ。

 

「……その件については、私たちとしても望むことではありませんでした。申し訳ございません」

「い、いえ!その、そういうことではなくてですね……」

 

 しかしその実情は、彼女達の目を見ればわかった。白洲アズサは間違いなく絆を、友情を、あの場所で育んでいて……そしてその全てを、捨てる決断を迫られた。

 それが果たしてどれほど心に傷を負わせたのか、考えるまでもない。

 

「……アズサちゃん、ここに姿が見当たらなくて」

「……ああ、なるほど。こちらの事情については詳しくないのですね」

「え……?」

 

 意味深な言葉。ヒフミの目線が揺れ動く。

 

「白洲アズサは……スクワッドの一員です。今ごろ、きっと……」

「っ……!?」

「え!?あ、あいつが!?」

 

 声を上げることのできないヒフミに変わって、コハルが驚愕を口にした。

 スクワッド。現在マユミと行動を共にする、桐花スオウの救出へ向かったアリウス最高峰と名高い特殊部隊。少数の精鋭、その一人一人が高い実力と技術を持つ、と、先程アリウス生が話していた。

 つまりアズサはあの先にいたのだ。あの通信の先に。自分たちが探していることを知りながら、それでもなおその姿を潜めていた。

 

「……なん、で」

 

 それだけではない。今スクワッドが行なっているのは、桐花スオウの救出。受けた報告によれば、アリウス自治区へと向かっているのだという。『ヘイローを破壊する爆弾』が生まれた、その地。あまりに危険極まりない場所だ。

 

「その、大丈夫ですか?」

「顔色悪い……ちょっと横になろっか!」

「い、いえ……大丈夫、です」

 

 おおよそ察しはついた。アズサなりに考えがあることは。危険に自分たちを巻き込みたくないと、そう考えていてくれていることも。けれどもその事実が、あくまで自分たちは守られる側でしかなく、隔てられているという事実が。

 

「っ……」

「ヒフミ……大丈夫……?」

 

 あまりに重く、重く刺さって。

 

「……はい」

「ヒフミちゃん……」

 

 刺さって。

 

 

 

 

「柏有マユミ!スオウは本当にこの先にいるのだろうな!?」

「発信機じゃそう示されてるわよっ!!あの化け物相手なんだから保証なんてないわ!!」

「化け物呼ばわり……」

 

 不満を漏らす暇もなく、瓦礫で不安定な足取りでひたすらに走る。聖園ミカの元へは先生を向かわせた。スオウ達のことは、自分たちでなんとかするしかない。

 

「スオウ……何を考えている……?」

 

 一度はアリウス自治区内へ侵入したかと思われたスオウだが、現在の座標は自治区の外。どこか別の場所を目指して走っているように見えた。

 

「っ、これは……!」

「聖徒会……!!」

 

 そんな思考を壊すようにして現れたのは、数体の聖徒会。痕跡と信号から察するに、スオウはまだあまりこの場を離れていない。相当に近づいている。

 

「くっ……!」

 

 しかしそれは、桐花スオウも織り込み済み。召喚された聖徒会は、恐らく使用可能な中でも強力なモノ。一体一体への対処は容易だが、それでは復活までのインターバルに追いつけない。

 

「あと少しなのに……!」

 

 アリウス自治区まで、あと少し。伸ばせば届く距離に、桐花スオウはいる。だというのに、その距離がどこまでも遠い。自分たちの小さな腕では、届かない。

 そうしている間にも、発信機の信号は急速に遠のいていく。諦めかけた、その時。

 

「……ああ、もうっ!!ごちゃごちゃ考えるのはやめよっ!!!アシリィ!!」

『うぇ!?な、なにっ!!?』

 

 マユミが大声を上げてアシリに話しかけた。あまりの大声にスクワッドも聖徒会との交戦も止め、意識をそちらへ集中させる。

 

「『アレ』の用意しなさい!!ついでにこっちに増援!!」

『え、えぇ!?そんないきなりは……結構距離あるんだよ!?それに、自衛だって……!』

「乗せてきなさい!!その、分隊長!?たちを!!」

 

 『アレ』の用意。乗せてこい。マユミの意図を、アシリは瞬時に察し。

 

『っ……!そういうことね!任せて!ピーちゃんはこっち戻すよ!?』

「ったりまえ!スクワッドォ!!一回しか言わないから!!耳の穴ァかっぽじってよぉく聞きなさいっ!!」

 

 突如としてマユミはドローンの使用をやめ、錠前サオリに通信機とタブレットを投げ渡す。

 

「……ここは私が食い止める!!あの馬鹿さっさと追うのよ!」

「っ、何を馬鹿なことを!お前に食い止められるわけがないだろう!」

「そ、そうですよ……!あれ、すごく強いのに……!」

 

 マユミの言葉に反論を返す一同。確かにマユミが聖徒会を食い止めることができれば、スオウには追いつけるかもしれない。しかしマユミの戦闘力ではそれは不可能だと、さらに反論を加えようとしたところで。

 

「策はある!!アイツのこと、大事じゃないの!?助けたいんじゃないの!?」

「っ……!」

 

 一喝。強い覚悟が込められた声に、言葉を返すことはできず。

 

「……わかった。ここは頼む!」

「ええ!!」

 

 聖徒会を避けるようにして、スクワッドは先へと進み始める。

 

「……ったく。一人でやるのは久しぶりね」

 

 その様子を見届けながら、マユミはポケットから何かを取り出す。青い、蒼い、金属製の、手帳ほどの大きさのナニカ。

 

「グレードアップなしでやれるかしら……一応、こっちには向かわせてるけど……」

 

 そのナニカを見せつけるように持ち上げて、どこかおかしな構えを取り。

 

「……それじゃあ、行くわよっ!!」

 

 駆動音と青い光に、その場は包みこまれた。

 

 

 

 

 ……サオリ達の気配がする。まさかあの聖徒会を処理してきたのか?アレはかなり強い、そう簡単に倒せるはずが……いや。あの通信を繋げた、俺の知識にはない機械。アレが何かしたのか。

 

「っ、はぁ……!ぐ……!クソッ……!」

 

 ミカとの戦いで負った傷が、予想以上に深い。ベアトリーチェと戦り合う前に、一度どこかで回復しておきたいが……。

 

『こっちだ!』

「っ……そーはいかねぇよなぁ」

 

 ただ呼吸をしている、それだけでも。身体中の神経を突き刺されるような痛みが伴う。

 痛みを抑えて走る、走る、走る。あと少し、あと少しなんだ。この建物の上にさえ登ってしまえば、サオリ達はもう追いつくことができない。

 

「ふーっ……!ふぅっ……!」

 

 走るたびに、足は鉛のように重たく、冷たく、動かなくなっていく。ぶっ叩いて無理矢理にでも動かして。

 

「スオウッ!!」

「っ……!!」

 

 足に向かって撃たれた銃弾に、いよいよ体は動かなくなってしまった。

 

「っ、はぁ……!追いついた、ぞ……!みんな、こっちだ」

 

 ……クソッ。あと少しだったのに……いや、まだだ。時間さえ稼げればなんとかなる。

 

「す、スオウさん……!」

「……ボロボロじゃん。まあミカ相手だったし、しょうがないか……」

「……すまんが、治療より先に拘束させてもらうぞ。また逃げられては厄介だからな」

 

 どこから取り出したのか、随分と頑丈そうな鎖でぐるぐると縛られていく。なんだか懐かしい感覚だ。確かサオリ達と初めて出会った時も……こうして、縄で簀巻きにされてたっけ。

 

「……これで、よし」

「とりあえず、止血と……鎮痛剤は打っておくね。ちょっとチクっとするよ」

「っ……」

 

 僅かな鋭い痛み。少し時間をおいて、体の痛みが引いていく。

 

「左腕が酷い……何をしたらこんなことになるのか、見当もつかない」

「左腕だけじゃないでしょ、全身ひどいよ……リーダー、そこの塗り薬とって」

「了解した」

 

 少しの間ボーッとしていると、あっという間に身体中が包帯で巻かれてしまった。処置する時に神秘を込めたのか、すでに体は癒え始めているように感じる。

 

「……昔。スオウに、こうして手当をしてもらった」

「……」

 

 ……そっか。アズサは、元々はスクワッドの面子と一緒にはいなかったもんな。本当に、懐かしい。

 

「スオウ、下手な気は起こすなよ。この建物はかなり高い……窓の外でも逃げ道はないぞ。いくらお前でも、手負いで私たち全員から逃げることはできない」

「……」

「手荒な方法を取ってしまって、すまない。だがこうでもしないと、話も聞いてもらえなさそうだったのでな」

 

 集中だ。回復に神秘を集中させろ。左腕は後回しでいい。あいつらが来るまであと数分、この場所を絶対に離れるな。

 

「返事くらいしたらどうなんだ」

「……ごめん」

「……何をやっているんだ。お前は」

 

 時間を稼げ。言葉に耳を傾けるな。

 

「お前がトリニティに捕まっている間、部屋を見させてもらった」

「っ……」

「……二重底。机の中身が、二重構造になっていたんだ。ご丁寧に、トラップを仕掛けてな……お前は、あそこに何を隠していたんだ?」

 

 ……見られた、か。念の為、『ノート』の場所も移しておいて正解だった。今頃、聖徒会が回収して……物資と一緒に、あそこに持ち込んでくれているはずだ。

 

「それだけではない。十年以上前にお前を見かけた者が、アリウス分校には存在しないんだ」

「……」

「……お前は……どうして、私たちを妹として扱う……?いや……どうして、助けてくれたんだ……?」

 

 どうしてって。そんな、それは……どうして、だろうな。

 最初は、なんとなくだった。なんとなく嫌だった。見て見ぬふりをしたくなかった。それだけで助けたかった。理由なんてなかったのかもしれない。けど、今は……なんで、なんだろう。

 贖罪のためか?陳腐な同情からか?どれも違う気がした。けど、それをサオリ達に伝えることもできなくて。相変わらず、沈黙を決め込むしかなかった。

 

「……スオウ。こんなことを聞くのは、私も心苦しい。不愉快な質問かもしれない。でも、それでも……あの時と同じことを聞かせてくれ」

 

 五人の視線は、じっとこちらを見据えている。疑心でも、恐怖でもなくて。まるで心配するような表情で。

 

「……お前は、何者なんだ……?目的はなんだ……?」

 

 目的。決まってる、みんなを助けること。そして、ベアトリーチェを殺すことだ。

 だから。みんなを巻き込むわけにはいかないんだ。

 

「……だんまりか。まあいい。一度、帰ろう。まずは傷を癒せ、話はそれから」

「……から」

「え……?」

 

 だから俺は。もうみんなと一緒にいるわけにはいかないな。最後に少し、少しだけ……少しだけの間でも、一緒にいれて。すごく、嬉しかったな。

 

「……ありがとう……ごめんね。バイバイ、みんな……」

「っ、何を、ぐぁっ!?」

 

 手に持っていた爆弾のピンを抜き、その衝撃のままに吹き飛ばされる。勢いに任せ、向かうは窓の外。

 

「スオウ!そっちは」

「っ……」

 

 そして、その先にある飛行船へ。窓を突き破って、転がり込んだ。

 

「へへ、作戦せーこー……いでで……!お前ら、これ解いてくんね?」

 

 中にいる聖徒会に指示を出してみれば、こちらの意図を察して鎖を解いてくれる。本来ならこの建物の屋上で合流するつもりだったけど……まあ、想定外にうまく行ったみたいだな。

 

「オッケーオッケー、物資は……うん、沢山あるねぇ。契約書も……バッチリ。マコトは指示に従ってくれたみたいだな」

 

 これで聖徒会は不完全なものじゃない、正式なものとなった。トリニティの代表者である俺と、ゲヘナの代表者であるマコトの調印で。

 マコトを脅迫して調印をさせたら、万魔殿の連中は下ろしておくように聖徒会に指示してあった。うまく行ったみたいで何よりだ。これでこの飛行船は、俺だけのもの。

 

「そんじゃさ、早速ベアトリーチェのところ連れてってよ」

「……」

 

 そう口にしてすぐに、体がふわりと浮き上がるような感触を得る。胃の内容物が押し上げられるような感覚。

 

「……あー、きっつ。ちょっと寝る。ベアトリーチェのとこついたら教えて」

 

 ふらつく体で椅子に座って、背もたれに強く寄りかかる。柔らかな感触が心地良くて、眠気に誘われた。永眠する前の最後の睡眠かな、なんて、くだらない考えが湧き上がってくる。

 

「……」

 

 遠くから。サオリ達の、引き止める声がする。流石に上空に逃げられたんじゃ、もう追いつけないだろうけど。

 聖徒会に指示を出して、自治区への入り口はすでに崩した上で、トラップを仕掛けてある。しばらくの間、誰も入ってくることはない……はずだ。

 

「……」

 

 ダメだ、眠い……少しでも、体……休めないと、な……。

 

 

 

 

「……ん?」

 

 体を揺さぶられる感覚で、意識が覚醒に向かう。指示していた通り、ベアトリーチェのところへ着いたら起こしてくれたみたいだ。この辺の融通は利くんだよな、こいつら。

 

「……オッケー。こんくらいの位置で大丈夫だ」

 

 下を見てみれば、かなり高い位置にいることがわかる。まあ何度か練習はしてあるし、以前ビルからは似たようなことをした。ネルも大丈夫だったんだから、多分俺も大丈夫だろ。

 

「お前らはここで待機な。指示に従って物資の補給と……指示次第でアレ、頼むぜ?」

「……」

「んー……反応がない、ってのも。やりづらいもんだねぇ。ま、いいや」

 

 少し寝てる間に、体も随分治ったみたいだ。完治とはいかないが、十分に戦える。

 

「それじゃあ、行きますか、っと!!」

 

 窓枠に足をかけ、思いっきり力を込めて飛び降りる。重力に従いスピードが、エネルギーが増し続けていく。

 

「あの建物の中、だよな……?」

 

 爆弾を下に放り投げて、屋根を破壊すれば……見えた。白い蕾のような頭に無数の目を持ち合わせた、赤い異形。

 

 全ての元凶。シアンとアンナの命を奪った存在。十年間、みんなを苦しめた存在。

 

「ッ……!!」

 

 拳を腰あたりにグッと構え、爆弾で下方に加速する。無数の目が、一斉にこちらを向く。こちらに気づく。

 

「お、おおおぉおぉおお………!」

 

 だがもう、手遅れだ。

 

「ベアトッ……!!!リィイィィィイイイチェエエェェエエエエエエエエッ!!!!」

「っ、がっ……!?」

 

 拳に落下のエネルギーと。爆弾の威力と。十年間、ずっとずっと堪え続けた怒りを、怨嗟を、殺意を、その全てを詰め込んで。ベアトリーチェの顔面に打ちつけた。




更新が遅くなってしまい申し訳ございません……かなり酷く体調を崩してしまい、大事をとって暫く療養させていただきました

そしてなんと!私がぶっ倒れている間に2枚もファンアートをいただきましたっ!!

1枚目は濃縮還元ジンジャーエール(https://twitter.com/saimerusuto)さんより、調印式でニュースになったスオウちゃんです!

【挿絵表示】

影の塗り方好き……顔は笑っていてもどこか心苦しいものを必死にこらえているような、けれどもそれも相まって悪役のように見える笑顔がとても好きです!ぐるぐるおめめかわいい、雰囲気かっこいい……!
エデン条約編の絶望感が伝わってくるような仄暗い空気がとても良いです……!
ありがとうございます!

2枚目はシロパンダクロ(https://twitter.com/s_panda_k)さんより、生徒紹介風のイラストです!

【挿絵表示】

公式だ!!?すごいクオリティです……!表情差分一番上のドヤ顔も真ん中の怖い顔も一番下の仮面も……かわいい……!!
ボーイッシュな服装を基調に、けれども確かに少女可愛らしさも持ち合わせているのがとても好きです!最初気づかなかったのですが、口元を隠すと笑顔ではなくなるらしく……目は笑っていない、相手を観察していることを表現しているそうです。
ヘイローの形も十字架の集まりがうまく茨みたいになってて……ありがとうございます!

明日あたり、活動報告で今までいただいたファンアートをまとめてページの先頭に貼り付けておきたいと思います
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