ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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憐みを願う歌(キリエ・エレイソン)

 殺す。殺す、殺す殺す殺す殺す!!!ぶっ殺してやる!!!

 

「死ねっ!!!今すぐに!!!死ね、死に晒せ!!!」

「がっ……!!」

 

 ああ。拳から伝わる感触が、こんなにも気持ちがいいなんて。ずっとこうしていたいな。でも、一刻も早く殺したい。

 

「は、はははっ……!!」

 

 でも、やることは変わらないか。コイツが死ぬまで、殴り続ければいいんだから。

 

「ギャハハハハハハハハハッ!!ハッアァ!!!」

「この……!!どきなさい!!」

「がぁっ!?」

 

 痛ぇ。殴り飛ばされたか。

 

「おーおー何やってんだ俺は、冷静になれー?そうじゃねーだろ、あいつを殺すのは目的のためでございやしょう」

 

 ああそうだったそうだった、快楽に飲まれちゃだめだな。いっぺん頭ぶん殴って冷静になれた。ちゃんと計画通りアイツを殺すんだ、そうするべきだろう?

 

「しかしベアトリーチェサマそのお姿はなんでありましょう、ひょっとして開花なのでしょうか?蕾からお花に、このままスクスク成長すればお花を通り越して立派な果実、チェリーボーイならぬチェリーガールになってしまうんですか、お似合いの醜い姿ですよ更年期おばさん」

「げほっ……黙りなさい!あなたは一体何を」

「黙れ」

「っ……!!」

 

 ああ、よかった。俺の中に眠る殺意は、枯れ果ててなかったみたいだ。

 

「お前だ。お前、そうだお前が、お前が傷つけて、傷つけて、傷つけて、傷つけた、苦しめた。みんなみんなお前のせいなんだだからお前は殺さなきゃいけない。絶対に殺したい。ぶっ殺してやる」

 

 今すぐにでも、こいつを殺そうって、そう思えるんだから。

 

「何の話を……いえ、なるほど。そういうことですか」

 

 ベアトリーチェとて、今アリウスで起こっている事態は把握しているのだろう。こちらをその集合体のようになった目で見据え、どこからか乾いた笑いを漏らした。

 

「あなたですね、桐花スオウ。この事態を引き起こしたのは」

「ごめーさつ。お花さん相手に言うのもなんだけど、花丸あげよっか?」

「……貴方の裏切りは、少々意外でした。一体、いつから?」

 

 煽りには乗らない、か。高慢なこいつなら、引っかかると思ったんだけどな……それだけこいつ自身、追い詰められていると言うことだ。

 

「教えて欲しかったら倒してみろよ、自称偉大な大人……あれ?自称すべての巡礼者のホウレンソーだっけ?まーいいや、ともかく……年貢の納め時ってやつさ、クソババア」

「……あなたは何か、勘違いしているようですね」

 

 ベアトリーチェは既に、あの化け物のような姿へ変貌している。浮き出た肋骨に、おおよそ生物とは思えないほど細い体。血濡れた手に加えて、翼に目が生えたような花弁は不気味さを演出している。極め付けは枯れ枝のような翼と……赤い光輪。端的に表してしまえば、醜悪ながらも天使のような特徴を持っていた。

 奥の手であるはずの怪物への変貌。こいつはまず間違いなく追い詰められている……だが。

 

「私がこの程度の裏切りを、想定していないとでも?」

「やっぱ、出てくるよな……」

 

 大きく、凶暴性を保つようなその指を弾いて出でるは、黒いヴェールを被る生徒達。聖徒会、その複製(ミメシス)

 想定していないわけではなかった。『ブルーアーカイブ』でベアトリーチェは停止させられたはずの聖徒会を、アツコを瀕死に追い込みながらも操っていたから。別口で、俺たちが入手した聖徒会をさらに複製していたのではないかと。それがベアトリーチェの狙いなのではないかと。結論として、それは当たっていた。

 加えて、教員達も今こちらへ向かっているのだろう。ただし。

 

「はははっ、よく言うぜ……複製(ミメシス)できたのは一部の聖徒会のみだろ?強力な聖徒会については、そう簡単にできない」

「っ、なぜ、それを……どうやら貴方には、聞かなくてはいけないことがあるようですね」

「無理無理。お前はここで死ぬからさ」

 

 とはいえ、俺も余裕があるわけではない。聖徒会の一部はアリウス自治区の入り口を塞ぐために回さなきゃいけないし……バルバラについては、ベアトリーチェが造り上げたもの。マエストロが言うところの、美学のない方法によって。俺も使うことができれば強力な戦力になっただろうが、ないものねだりをしても仕方がない。

 つまりここでなければ。今この瞬間に、こいつを殺すことができなければ。次のチャンスは巡ってこない。

 

「随分と自信があるようですね」

「なけりゃこんなことしねぇよ……悪いが、キリエの歌い方なんて忘れちまったんでな。ミカのようにはできねぇ……力技で対処させてもらうぜ?」

 

 こちらも許される限りの聖徒会を召喚し、銃を構える。弾薬は補充した。残量を気にする必要もない。

 

「……」

 

 ミカとの戦いで受けた傷が、酷く痛む。加えて、先ほどの一撃で左腕はほとんど使い物にならなくなった。左側の肩が、ズキズキと異物感を持って痛みを伝えてくる。

 

「……懺悔しろ。この世に生を得たことを、皆を傷つけたことを。その全てに対する後悔を、その身に刻みつけながら死んでいけ。ベアトリーチェ」

「貴方はそう簡単に殺しはしませんよ。桐花スオウ」

 

 互いに睨み合い。合図をするかの様に、聖徒会同士の戦いが始まる。

 先程与えたはずのダメージの割には、ベアトリーチェには余裕がある様に見えた。恐らくアツコの仮面と同じ防御機構を、自分自身にも組み込んでいたのだろう。ほとんどのダメージを、無かったことにされた。

 つまり一つ、たった一つだが保険を壊せたということ。

 

「……」

 

 それならいくらでも、やりようはある……たった一度。たった一度だけでも良い。『ヘイローを破壊する爆弾』を当てさえすれば、それだけで俺の勝ちなんだから。

 

「お、らァっ!!」

 

 右腕に持った爆弾で加速、交戦する聖徒会を飛び越えてベアトリーチェの元へ向かう。だが、しかし。

 

「貴方程度……私と拳を交える権利もありませんよ」

「っ!?」

 

 辿り着くその直前にて現れたのは、頭に黒い穴がぽっかりと空いた、不気味な生物。

 

「アンブロジウス……!!」

 

 こいつの複製(ミメシス)には、既に成功していたのか……!

 

「ぐっ……!」

 

 掌から放たれる霊気のような青い炎をコートで払い、その勢いのまま肩へと飛び乗る。

 拳を交える権利もない。十年前の俺はそうだったかもしれない。怒りを。殺意を。拳を。銃弾を。そのたった一つだろうと、ベアトリーチェに届かなかった。

 

「お前が何なんだかは知らねぇがな……!」

 

 だが、今は。今なら。

 

「邪魔ッ!!するんじゃねぇッ!!」

「っ、なっ……!!」

 

 届く。届かせる。誰にも邪魔なんてさせない。そのための十年間だったんだ。

 

「はぁッ!!」

 

 アンブロジウスの顔面を右腕で殴り飛ばし、顔の穴に神秘を込めた爆弾を詰めて起爆、後方へ仰け反らせる。その勢いのままアンブロジウスを踏み台にし跳躍、ベアトリーチェの方へ加速する。

 

「……少々、貴方のことを見くびっていたようですね」

「がっ!?」

 

 直後、ベアトリーチェの目から放たれる熱線。圧縮した炎のようなその一撃は、アンブロジウスごと俺の体を切り裂いた。

 

「良いでしょう。すべての巡礼者の幻想である私、ベアトリーチェが相手になって差し上げます」

「散々逃げ回って今更偉ッそうにするんじゃねェよ!!こちとら最初からそのつもりだ、クソババアッ!!!」

 

 ベアトリーチェの基本的な攻撃手段は、炎。どんなカラクリかは知らないが、こいつは最低でも掌、そして目から紅い炎を出すことができる。銃火器は用いていない。

 

「死に、晒せッ!!」

「っ、く……!」

 

 次にその巨体。一定以上の実力さえあれば、大きいということはそれだけでも強力な武器となる。

 

「ハァっ!!」

「っ、こざかしいッ!!」

 

 ベアトリーチェへ放つ、右の拳。その一撃を枯れ枝のような翼で防がれ、地面へ叩き落とされる。

 

「っ……!」

 

 それでも普段の俺なら、互角以上に戦える。そのはずだった。ミカとの戦いで、消耗しすぎたんだ。

 

「随分と消耗しているようですね?似合の無様な姿……そうして這い蹲っているのなら、また飼って差し上げますよ?」

「はははっ、饒舌じゃねぇの!!?中年らしく茶ァしばきながら長話する気分なのか!?」

 

 だが、それを加味しても回収しなければならないほどの旨味が『ヘイローを破壊する爆弾』にはあった。たとえベアトリーチェに効果がなかったとしても聖徒会を破壊し、ベアトリーチェを追い込めるだけの旨味が。

 

「短絡的な思考で先を見知った気になるなよ老害!!!一時間後、同じく這い蹲ることになるのはテメェだッ!!!」

「品のない言葉遣い……碌な教育も受けていない子供というのは、かくも愚かしいものなのですね」

 

 ベアトリーチェの掌より発せられる炎。予感に従って地面に目線を向ければ、紅色の輝きが見られた。

 

「っ……!!」

 

 危機。避けろと、どこからか声が聞こえんばかりの危機感。その危機感のままに跳躍、直後地面は大きく爆ぜた。

 燃え盛る地面に着地するわけにもいかず、中途半端な加速のままショットガンを構える。

 

「質の高い教育を受けてそのおつむなら随分と才気ってモンがなかったみてェだな!?ぶっ叩いてマトモにしてやるよ!!」

「愚かな……」

 

 横から打ちつけるように迫る腕。ショットガンを上に投げ、爆弾のピンを抜き急速に加速して回避、足からハンドキャノンを外して狙いをつける。

 

「……」

 

 無数の目の位置を把握、照準を合わせて強く神秘を込める。迫るベアトリーチェの追撃。体が焦がされていく感触を無視して、目に向けて弾丸を放った。

 

「ぎゃっ……!」

「スト、ライクっ!!」

 

 的中した弾丸は六発。ベアトリーチェの目の合計数には程遠い。それでも痛みを与え、ダメージを与え、注意力を逸らした。

 

「ふっ……!」

 

 今ならやれる。そう判断し、放り投げたショットガンを回収して爆発、横方向へと加速する。懐から『爆弾』を取り出し、そのまま起爆しようとして。

 

「くっ……!このっ!!」

「っ、ぶねぇ……!」

 

 残った目から放たれた熱線を身を捩り直前で回避、速度は保ったままベアトリーチェの顔面に張り付く。

 

「俺、羽って毟るのが礼儀だと思うんだよね。あれ、これ花びら?そいじゃ花占いと洒落込み、ますかっ!!」

「っ……!」

 

 ベアトリーチェの頭に生えた翼を掴み取り、そのまま引きちぎろうとして。

 

「っ……!?」

 

 突如として、視界が闇に包まれる。

 

「消えなさい!!」

 

 続くベアトリーチェの声。翼を閉じ、俺を包み込んだのだと気づくのにそう時間は掛からなかった。それでも遅く、周囲が紅色の光に照らされる。

 

「目からビーム使いすぎだろうが……!」

 

 文句を言いながらも再び爆弾を取り出し、一切の躊躇いなく強い神秘を込めて爆ぜさせた。

 

「ぐっ……!」

「かっ……!」

 

 互いに爆発の衝撃で悲鳴を上げながら、花びらに包まれた状態からなんとか脱走する。

 

「ふぅ……っ!?」

 

 一息をつく間もなく、指鉄砲のような動きで放たれた炎を直前で避ける、避ける、避ける。

 

「っ、クソ……!」

 

 あの攻撃はかなり厄介だ。指先でその方向を指す、ただそれだけで炎が発生する。技の起こりまで時間が短いし、予備動作も少ない……何より、明らかに普通の炎よりも熱く感じる。俺たち生徒用に調整した炎か?そんなことができるのかは知らないが……。

 

「まあいずれにせよっ!!そう何遍も、喰らってたまるかァ!!」

 

 燃え盛る体。熱が伝わるよりも先に爆弾を併用し、右拳を打ちつけて地面を破壊、そのまま地中へと潜り込む。

 

「っ、何を」

「ハァっ!!」

 

 ベアトリーチェが何か言うよりも先に地面をひっくり返し、瓦礫を宙へと吹き飛ばした。

 

「まさか!!」

「お前のその炎!!何に依存した技術かは知らねェがな!!」

 

 こいつの炎を出せる範囲には限界がある。でなければ、俺の体内から炎を出さない理由がない。何より、何度か俺には当たらず別の場所を発火させた。つまり。

 

「お前のその炎は指差した先!!直線上にある物体を発火させる!!」

「くっ……!」

 

 瓦礫の影に身を隠しながら翻弄し、徐々に、徐々にベアトリーチェへと近づいていく。花らしく根でも張っていたならそこを攻撃したが、地面をひっくり返してもそれらしきものが見当たらないあたり、その線は薄そうだ。故に。

 

「何回でも何回でも!!テメェが死ぬまで撃ち続けてやるよ!!」

 

 ショットガンを顔面に放つ。拡散した弾丸は防御しようと試みる手の隙間を溢れ、その幾つかは再び眼球へと直撃した。

 

「目潰しにゃこっちの方が有効そうだ……!」

 

 痛みから悶えるベアトリーチェの隙を見て胸元まで加速、ショットガンを至近距離まで近づける。

 

「心臓に穴ァ開けて血ィ吹き出しながら死んでいけ!!」

 

 過剰な神秘を込めた弾丸。装填可能な数の最大までショットガンを放ち、弾切れを起こしたところで。

 

「いい加減に……しなさいッ!!」

「っ……!」

 

 ベアトリーチェの両手に包み込まれ、地面に叩きつけられた。

 

「ぐっ……はははっ!必死じゃねぇか……!」

「黙りなさいッ!よくも……!」

 

 かなりのダメージ。脳が揺れ、うまく動けない。その隙を逃すベアトリーチェでもなく、その両手を天に向け、巨大な炎の球を作り始める。

 

「あ゛ー……あの技、どっかで見覚えあんなァ……」

 

 前世の……『ブルーアーカイブ』での、ベアトリーチェの動きだったろうか。それとも他のゲームだったかな。漫画だったかな。もうあんまり覚えてないけど。

 

「隙を……見せたな……」

 

 ベアトリーチェが油断する、この瞬間。この瞬間を待っていた。

 

「ふー……」

 

 バレないように、こっそりと。『ヘイローを破壊する爆弾』を、懐から取り出す。

 

「さーて、おたのんもうしたぜ……」

 

 あの日から、シアンとアンナを失って……旧型の『ヘイローを破壊する爆弾』を手に入れた、あの日から。ずっとずっと考えていた。

 

「あの、光輪……」

 

 ベアトリーチェの後ろに浮かぶ、赤い光の輪。あれは果たして、ヘイローではないのか?仮にヘイローだったとして、どうしてベアトリーチェがそれを持ち合わせている?ヘイローは生徒たる証。それは間違いない。

 例外はある。神名十文字(デカグラマトン)の系譜。人工天使(ヒエロニムス)。加えて、この世界……キヴォトスそのもの。これらの共通点は?神秘?恐怖?崇高?……そのいずれか、もしくはそれに近しいものは持ち合わせているはずだ。

 じゃあ、こいつは?ベアトリーチェは何を持ち合わせている?何がこの光輪(ヘイロー)を象っている?

 ……ベアトリーチェは、崇高に近づこうとしていた。アツコの神秘を吸収して。じゃあ、神秘ってなんだ?答えは簡単、崇高が持ち合わせる側面の一つ。崇高が持ち合わせるもう一つの側面は、恐怖。

 

───崇高はゲマトリアだろうと扱い切ることはできず……複製された恐怖にしか近づけなかった。

 

 恐怖に近づく。それはなんだ?聖徒会か?それもあるだろう……だが、それ以前にも。それに近づいているはずなんだ。

 神秘と恐怖は、表裏一体。コインの裏表、崇高の側面。じゃあ、恐怖と神秘を同時に取り込んだらどうなる?

 

───「ミメシス」で観測した神秘の裏側、つまり恐怖。それを、生きている生徒に適応することができるのか。

 

 黒服の言葉。生きている生徒ではない何かには、適応した?取り込んだ?

 

「消えなさいッ!!」

 

 それをいかにもやりそうなやつが、ここに一人いるじゃないか。

 

「はぁっ!!」

 

 『ヘイローを破壊する爆弾』。体が銃弾を通すほど弱っていた……シアンを見てわかった。体に迸るコレが神秘だとするなら、これは……神秘(mystery)を壊す爆弾。恐怖(terror)。対逆にありながら、同様の性質を示す。その複製を取り込んだ。

 

「っ、これ、は……!」

 

 お前には、その爆弾が効く。そうなんだろ?ベアトリーチェ。

 

 

 

 

 時は少し戻り。スオウを逃したスクワッドは、アリウス自治区へ急いでいた。

 

「最悪だ……!よりにもよって、あの飛行船を利用されるとは……!」

「とにかく、急ごう。まだ間に合うかもしれない」

「ああ……だが……!」

 

 桐花スオウが乗って逃げた飛行船。あれは元々、羽沼マコトに友好の証として送られたものだ。無論短期的にはスオウが自力で動いた方が早いだろうが、想定される目的地はアリウス自治区。現在サオリ達がいる場所からかなり離れている。そしてそれだけの距離があれば、飛行船がそのポテンシャルを十全に発揮してくれるのもまた確かだった。

 

「……まずいね。どこかで車でも盗ってく?」

「この中に運転できる人、いたっけ……?」

「わ、私は無理ですよ……!と言うか、流石のスオウさんも運転の仕方は教えてくれませんでしたし……」

 

 言われてみればそうだったか、などと思い返しながら、けれどもそんな追憶をしている暇など自分たちにはなかったと思い直す。

 

「そもそも、道が瓦礫で塞がれてて足場も悪い。車で移動するのは、あまり現実的でない気もするけど」

「……それもそうだな」

 

 かといって、現実的な代替え案があるのかと言えばアズサは首を横に振らざるを得なかった。どうしたものかと、疲労によりわずかに思考力の頭で捻り出し。

 

「……とにかく、今は走るぞ!それ以上にできることはない!」

「……うん、まあそうなんだけど……なんというか、締まらないよね」

「うん……」

 

 そうして少しでも体力を保たせるべく不要な装備は捨て、急いで準備を始めたところで。

 

「あ!!スクワッド、無事だったのね!!」

 

 数刻前別れを告げたはずの声が鼓膜を震わせた。

 

「柏有マユミ!」

「マユミでいいわよ、いい加減……」

 

 相変わらずのフルネーム呼びというつれない態度に苦笑いしながらも、瓦礫の傾斜をズザザ、と音を出しながらスライディングして駆け降りてきた。

 

「あら、なんか疲れた顔してるわね……ラムネいる?」

「あ、ああ……助かる……」

「あれ?というか桐花スオウは?」

 

 ラムネを特徴的な音を出して噛み砕きながら、脳に染み渡る甘味を味わったところで、マユミの質問に現実へ引き戻される。

 

「そ、そうだ!スオウの馬鹿野郎は逃げた!」

「……ちょっとそれ先に言いなさいよ!?緊急事態じゃない何のんびりラムネ食ってんの!?」

「むぅ!?ご、ごめんなさい……!」

 

 自分から持ち出したことは棚に上げ焦り出すマユミ。彼女としても、スクワッドの力をもってして引き止められなかったというのは予想外だったのだろう。

 

「あいつミカと戦って消耗してるのよね……?どんだけ化け物なのよ……!!」

「今に始まったことじゃない……だから急いで追わなきゃ」

「そうね!あんた達、急いで準備しなさい!」

「最初からそのつもりだったけど」

 

 マユミに言われるまでもなくほとんど準備を済ませていたため、残りやるべきことと言えば物資の選別、加えて水分などの補給。そうして、急いで準備を始めて。

 

「え、何やってんのよ。『今すぐ』いくわよっ!そんなのあとでいいわ!」

「焦る気持ちはわかるが、今すぐするべきだ。次いつ補給できるかわからない、それはお前も……待て。やけに小綺麗だな」

 

 マユミはつい先程まで、足止めするべく一人で複数体の強力な聖徒会と戦っていたはず。マユミの実力では相当に苦労しただろう。だというのに、マユミの服は僅かにも破けてすらいなかった。

 

「奥の手よ、奥の手。というか体力の補給なんて乗りながら(・・・・・)すればいいじゃない」

「……いや、車に乗るのは現実的でないと先程」

「何勘違いしてるの?」

 

 マユミが少しのドヤ顔と共に腕につけられた時計を操作した瞬間、周囲に轟音が響き渡る。

 

「だーれがちんたら地面を歩くもんですかっ!!こいつは空だって飛べるもの!!」

「なっ……!」

「なに、これ……!」

「さーいくわよ、乗りなさい!!……あ、でもまずは先生の回収ね!この近くにいるし……『あれ』も回収しなきゃいけないんだからっ!!」

 

 巨大な蠢く影。機械のような駆動音。青く光を反射するその装甲に驚愕する一同をよそに、マユミは一人盛り上がりを見せた。




ファンアートをいただきました!!
一枚目はニコリハット(https://twitter.com/Recall_neo)さんから!

【挿絵表示】

なにやらブチギレた雰囲気のスオウちゃんです!普段のファンアートは本人の表向きの性格もあり、可愛らしい表情も多いですが……こちらは目に落ちた影や周囲の空気感もあって、ヒリつくような怒りがこちらにも伝わってきます……!!
かっこいい……でもやっぱりかわいい……!!ありがとうございます!

二枚目は火炎茸(https://twitter.com/Trich0derm4)さんから頂きました!

【挿絵表示】

全話のラスト、ベアトリーチェに位置エネルギーパンチかますスオウちゃんです!漫画っぽいテイストになっていて、なんだかコミカライズみたいですね!落下の風によってオールバックになっているのが怒りの表情を引き立てていて、普段なかなか味わえない雰囲気の……まさしく、鬼気迫るといった感じです!ありがとうございます!
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