ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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たった独りで頑張るだけの

 体中が怠い。じっとりと、水を吸った服を着ているような重さ。気を抜けば、すぐさまにでも意識が飛んでしまいそうな。

 

「いたぞ!!こっちだ!」

「っ、はははっ……くそが……」

 

 動く。ただ、ひたすらに。体が動かないなら、外部要因で無理矢理にでも動かせば良い。

 

「ふーっ……」

 

 背中の傷が大きい。元々爆弾を埋め込んでたんだ。それが爆ぜたんだから、仕方ないことだろう。

 手首と足首。皮膚が抉れている。ひとまずは、ガーゼと包帯を巻いて圧迫止血をしている。これでまだ、暫くは大丈夫。

 

「どこだ……!」

 

 何とか撒けたか。眠い。このまま、目を閉じてしまいたい。そうしてしまえれば、どんなに楽だろう。

 もう、いつも通りの戦い方をしようとするだけでも痛いんだ。身体中が。爆弾を使って加速して、そしたら爆炎が傷口に染み渡る。痛くて、痛くて。もう、動きたくない。

 

「っ、貴様ら!!スクワッドか!!」

「───あ?」

 

 でも。なんでだろう。いや、わかりきってるんだよ。

 それでも、大好きなみんなを守るためなら……傷ついた体でも。力が湧き上がる。そのためなら、こんな痛みも恐怖も大したことではないように思える。

 だから、爆弾で加速する。

 

「ここでなにをして、がっ……!?」

「妹に……手を出すな……!」

 

 体から、赤い命が滴り落ちる。敵のものではない。でも、そんなことはこれでもかってくらいどうでもよかった。

 サオリが、ミサキが、ヒヨリが、アツコが、アズサが、みんながいる。みんながそこにいる。大好きな、みんなが。

 

「っ……スオウ!!」

 

 ダメだ。これ以上は、ダメなんだ。こんな明るい場所に、これ以上いてしまったら。光に慣れてしまった瞳では、闇は戻ることはできなくなってしまう。

 

 誤魔化せ。怒れ。敵意を抱け。たった今、ほんの少しでも持ち合わせたそれを前面に押し出せ。そんな演技は慣れてるだろ?

 

「……どうして来たんですか?」

 

 ああ、でも……これじゃあ、みんなに嫌われるかもしれない。それは、やだかなぁ……。

 

 

 

 

 無情にもスオウから告げられたのは、拒絶の言葉。サオリたちが何か言うよりも先に、誤魔化すように言葉を繋げられて。

 

「先生、何をやっているんですか?ここが危険な場所である事くらい理解しているでしょう?」

「“……”」

「スクワッド。みんなを巻き込んで、危険に晒して。どうしてそこまでして来たんですか?」

 

 捲し立てるように、責められる。お前たちの選択は間違っていると、そう告げられる。

 

「私がそんなことをされて、誰かの犠牲の上で生きて。喜ぶと思いますか?だとすれば、何もわかっていません。あなたたちは何もわかっていない」

 

 強い、強い拒絶の言葉で。

 

「誰かを喪ってしまったら、次なんてないんです。死んだらそれまで。それまで、なんですから」

 

 けれど徐々に、諭すような言葉に変わっていった。

 

「……姉妹なんて言葉が。あんな誤魔化しが、あなたたちの枷になっているなら。姉妹ごっこも、これまでです」

「っ……!!」

「……もう二度と。私に関わらないでください。迷惑です」

 

 結局一度も止まることなく、早口でそう言い切られてしまって。自分の言いたい意見だけを、一方的に浴びせられて。

 

「くっ……はははっ……!」

「……?」

「スクワッド。戦闘準備だ。馬鹿は死んでも治らないとは言うが、こいつはそれ未満だ」

「むしろ悪化してるよ。こいつただの馬鹿じゃないよ、大馬鹿でしょ」

 

 もはや怒りも、悲しみも通り越した。とっくの昔にそこは過ぎ去った。乾いた笑いしか残らないほどに。

 

「なっ……!」

 

 戦闘準備。その言葉に、流石のスオウも動揺した。加えて、誰も疑問を抱かず言葉通りに戦闘準備を開始したことに対しても。

 

「……思えば、お前には一度も勝てたことがなかったな」

「うん。流石にスクワッド全体で戦ったら勝てたけどね」

「丁度いい。ハンディキャップも兼ねて、リベンジマッチといこう。一人ずつ、お前の顔面をぶん殴ってやる」

「な、何を」

「遅いよ」

 

 スオウが反論を返すよりも先に、ミサキがスオウの目の前へ移動した。瀕死といえど化け物、目で追うことはできている。

 

「敵の前で油断するな。よく言ってなかったっけ?」

「っ、ぐぅ……!」

 

 始まったのは、銃も爆弾も使わない取っ組み合い。子供同士の喧嘩、その延長線上のような戦いにもならない戦い。

 

「スオウ。あんた、自分で言ってる割に実行できてないことよくあるよね。今にしたってそう」

「……」

「もう関わるな、とか言ってたけどさ。私たちを無理矢理関わらせたのはスオウじゃないの?」

 

 ほんの十数秒の戦い。そこで先ほど入れ込む隙もなかった言葉を、拳と共にぶつけていく。

 

「……私は。自分のことが嫌いだった」

 

 過去に思いを馳せ。今を持ち出す。一つ一つ、大切な思い出と磨きながら。

 

「無力な自分が嫌いだった。全部一人で抱え込もうとするサオリに、何もできない自分が」

「っ、それは」

「あ、慰めの言葉とか求めてないから」

 

 スオウが口を開いたところで足払いをかけ、その言葉を封じ込めた。

 

「何もできない。私は無力だった」

「げほっ……!」

「でも、あの時からそれは変わった。姉を名乗る異常者が来た時から」

 

 馬乗りになり、腕を封じる。その鈍い瞳をスオウと合わせ、染みるように見つめ合う。

 

「流石に、サオリも一人じゃどうにもできないと思ったんだろうね。一緒に戦ってくれるか、なんて言われたの、あの時が初めてだったよ」

 

 アツコとヒヨリの勉強会。二人の悲鳴を聞いて駆けつけた時。二人をスオウから逃がそうと戦った時。

 

「嬉しかった。私は無力なんかじゃなかったんだ。サオリもいざという時は、私のことを頼ってくれる。私は、ちょっとだけ自分を好きになれそうだと思った」

 

 あの時、初めて。サオリははっきりと、ミサキに助けを求めたのだ。

 

「なのに今、これだよ。また私の大切な人は、私の知らないところで一人。何かを抱え込んで、解決しようとしてる」

「……」

「……一回くらいさ……私に私のこと……好きに、ならせてよ……」

 

 湿る目のまま、拳を大きく振り上げて。

 

「目、覚ませ……馬鹿っ……!」

 

 弱々しい、とても戦うためとは思えないような力で。スオウの頬にペチ、と、拳を放った。

 

「はい次、ヒヨリ」

「えっ、は、はい!!」

 

 スオウをヒヨリの方に投げ捨て、焦りそれを捕まえるヒヨリ。抜け出そうともがくが、簡単に抑えられてしまう。

 

「わ、私は弱いです!!」

「っ……」

 

 そんなヒヨリから出たのは、いきなり自分を否定するような言葉で。冷静を装っていたスオウも、流石に面食らった。

 

「た、多分みなさん、そんなことはない、って言ってくれるんでしょうね……で、でも!私は本当に弱いんです!」

 

 それでも精一杯に、自分の気持ちを言葉にして紡ぐから。スオウもつい、耳を傾けてしまった。常にあの大荷物を背負ってるやつが弱いはずないだろう、という指摘はさておき。

 

「体力も、みなさんに比べればないですし……身長も低いです。体重も……い、いえ、これは言えませんね……知識も、全部足りてないんです……コンプレックスだらけです……」

「……ヒヨ」

「だっ、だから!!私なんて、誰かが守ってくれないとすぐに死んじゃいます!!」

 

 繰り返される自己否定。けど、突然毛色は変わって。

 

「私はずっと守られてきました……!ずっと、誰かに……!!い、今だってそうです!!す、スオウさんは……スオウさんはそんな、私を守ってくれる人の一人なんです……!!」

「……!!」

「今度は私が守る、なんて強いことは言えません……で、でも!!あんまり早く死んじゃったら、私だって長生きできないんですからっ!!」

 

 図々しい言葉だった。自分に自信がないから、でも、自分ではない誰かには自信を持っている。信頼できる。

 だから、その人が大切に思う自分なら信頼できる。

 

「私は私を信頼する人を、一人も失いたくないです……!そ、そのためなら!!無力な私でもできることをします!!す、スオウさん!!止まってください!!」

「ぐっ……!」

 

 伝えられる拳はミサキのものと違って、かなりの威力を伴っていた。うまく加減ができなかったのだろう。自己評価が下手な彼女らしい。痛みを感じながら、スオウはそんなことを考えた。

 

「あ、アツコちゃん!」

「任された」

 

 ヒヨリとバトンタッチするように出てきたのはアツコだ。フラフラとした体で、スオウは出来損ないの構えをとる。

 それを見て、アツコは構えることはせずに。

 

「……無理しないで」

 

 深く包み込むように、倒れてくる体を抱き止めた。

 

「……スオウ……私は……物心ついた時から、死ぬはずだった。それは、知ってるよね」

「……」

「だから、この世界のことを何も知らなかったし……知っても無駄だって思ってた」

 

 腕の中で暴れるスオウをあやすように、耳元で囁き続ける。次第に、スオウの力も弱々しいものに変わっていった。

 

「……それを変えてくれた人たちがいる。サっちゃんと、みんな」

 

 先ほどよりも腕の力を強めて、逃がさないように抱きしめ続ける。

 

「知らないことだらけで。この世界は、キラキラ輝いてた。喋る言葉一つとっても、綺麗だった。でも、全部封じられちゃった」

 

 あの日。ベアトリーチェから渡された仮面、そして下された命令。あの日の記憶は今でも、アツコの心を蝕もうとしている。

 

「でもそれをぶっ壊した人がいた。荒々しくて、どっちかって言うとその人の方が危険人物だったかも」

 

 危険人物の言葉を皮切りに少し抵抗を強めたスオウだったが、さして変わりもなかった。

 

「その人のおかげで、また私の世界は広がった。私はその日からやっと、生きてたんだ。……私には、二人お姉ちゃんがいる。サオリ姉さんと、スオウ姉さん。どっちも、大切なことを教えてくれた。私に光を見せてくれた」

 

 死ぬために生きていた。死ぬために生きていた日々だった。それを変えられた。無理矢理に、変えさせられたのだ。

 姉にも等しい、二人の手で。

 

「だから、私も大切な人が暗いところにいるなら……絶対に助ける。私が見てきた人たちは、そういう人たちだったから。……どこにいても、私が助けに行くからね。あの時と同じように」

「……」

 

 もはや拳ですらない。掌で優しく頬を包みこまれて、撫でられて。それで終いだった。義務は果たした、というように。

 

「アズサ」

「ああ」

 

 もはや言い訳程度にしかならない、小さな、小さな抵抗。ほとんどスオウの体は動いていなかった。

 それでも、この馬鹿のことだ。油断させるための演技かもしれないと、できる限りの力で動きを止める。

 

「スオウ。私もさっきまでなら、同じ選択をしたと思う」

「……」

「私にはわかる。誰かを傷つけたくないという、スオウの気持ちが」

 

 アズサならではの言葉だった。先程まで同じようにヒフミたちを退けようとしていた、アズサだからこそ。

 

「……けど、スオウ。それは間違いだった。結局それで、私はみんなを傷つけていた。今のスオウも同じだ」

 

 寄り添うように、けれども確かに。投げかける否定の言葉。

 

「……私は表情に出にくいらしいから、はっきり言わせてもらう。私はとても傷ついているし、悲しいし、怒っている。言わなければわからないというなら、言わせてもらう」

 

 確かに、何よりも深くスオウの心に深々と刺さり込んで。

 

「スオウ。一緒に戦おう。大丈夫、恐れないで。恐れることなんてない、だって……私たちは、スオウの仲間で。友達で。妹なんだから」

 

 小さくアズサに殴られた。

 

「……き、ない」

「……え?」

 

 確かに、アズサは救われた言葉。だが、スオウは。

 

「できないよ……!みんなを死なせたくない……!死なせてしまう……!」

「っ……!」

 

 スオウにとっては。己の本音を、包み隠さず暴かれてしまう言葉だった。

 

「わたしのせいなんだ……!!おれの、わたし、おれのせいで……!!みんな、みんなみんな……!!しんだ……!!しなせてしまった……!!」

 

 『姉』としてのスオウとは違う、触れれば壊れてしまいそうな表情。伝っていく涙でさえ、彼女にとっては痛々しい凶器へと成り果てるのだろう。

 

「いやだ……しなないで、みんな、しなせたくない……!!いや、やめて……にげて……かえって……!!」

 

 記憶が混ざり合い。今と過去が繋がれ。もはや目の前の景色を、正しく見れているのかも怪しい。

 ただひたすらに、人を喪う恐怖を。小さな、小さなその身に押し込め続けている。

 

「もう、もうだれも……わたしといないで……」

「……スオウ。お前の過去に何があったのかは知らない」

 

 暴れるスオウを、サオリは無理やり抱き留めた。

 

「放せ……!!はなせよ!!」

「ぐっ……ははっ、普段と比べれば可愛いものだな……!!」

 

 背中を強く殴打され、肺から息が漏れる。可愛いもの、と形容したが、訓練を積んでいない生徒なら気絶していただろう。肋が軋む感触を、歯を食いしばって堪えた。

 

「なんでわかってくれないんだ……!」

「この期に及んでまだ言うか!お前から何かを話された覚えはない!!わかって欲しかったら一つでも本音を話してみろ!!そうすれば指先くらいの納得はしてやる!!」

「っ……!」

「もう一度言う!!お前の過去に何があるかは知らん!!だがな、スオウ……!!」

 

 突如として、サオリは声を荒げる。退行した心で、スオウは僅かに恐怖を感じた。

 

「お前が何者であろうと……!!お前がたとえ、人殺しだろうと!!私たちにとっては大切な姉なんだ!!」

「そんな、の……」

「今更、自分勝手に一人に戻れると思うなよ……!?嘘だろうが何だろうが、先に私たちを一人にさせなかったのはお前の方だ!!それが私たちにとって、お前がしてきた全てだ!!」

 

 理不尽な言葉に思えた。理不尽に優しい言葉だった。少なくとも、今のスオウにとっては。

 

「人を死なせた……!?約束してやる!!私たちは死なない!!死なせない!!お前が言ったんだ!!諦めるなと!!」

「う、あ……!」

「もう、十分だろう……!お前は一人で、十分すぎるくらい頑張った……!!お前のおかげで、私たちは救われたんだ!!……もう、いい加減!!自分のことを許してやれ!!桐花、スオウッ!!!」

 

 胸ぐらを掴まれた状態から、サオリの拳がスオウの顔へ吸い込まれるように飛ばされる。

 手加減など、かけらもない拳。スオウの作り出した仮面などいとも簡単に壊されてしまう……優しい拳。殴られて。そのまま立ち上がれず、涙が収まるのを待ち続けた。

 

「はぁ……はぁ……!少しは効いたか……!この、分からず屋……!」

「……」

 

 サオリに手を伸ばされる。

 何者であろうと、自分にとってスオウは姉だと言った。自分の知る桐花スオウは、そんな人間なのだと。

 自分が何者なのか。スオウにとって『俺』とは、『私』とは何なのか。ある意味で、その答えの一つを突きつけられたようで。

 

「……ありがとう、みんな」

「……帰ろう。スオウ」

 

 サオリの方に手を伸ばして。

 

「でも、もうダメなんだよ」

 

 そのまま服の袖に仕込んだ爆弾でサオリの首を掴み、爆ぜさせた。

 

「っ……げほっ、が……!」

「“っ、スオウ!!”」

「ごめん……みんなのこと、傷つけます」

 

 首の骨にダメージを与えられ、倒れたサオリ。彼女からショットガンと髪の毛ロープを奪い、逃亡を阻止するべく向かうアズサに向けて撃ち放つ。

 

「来い、聖徒会」

 

 サオリの。ミサキの。ヒヨリの。アツコの。アズサの。彼女たちの言葉をもってしても、それでもなお。

 

「私はもう……戻っちゃ、ダメなんだ……」

 

 スオウはもう。取り返しがつかないところまで来てしまった。十年間の妄執、怨嗟、それらを煮詰めて。

 

「みんなに迷惑をかける」

 

 その上、エデン条約妨害の立役者になってしまった。

 

「っ……そんなこと、百も承知だ……!」

「だよな……そんなみんなだから……死なせたく、ない。喪いたくないんです」

 

 ここまでして、自分を助けてくれるみんなだから。こんな自分を、まだ姉と言ってくれるみんなだから。こんな自分だとしても、受け入れると言ってくれるみんなだから。受け入れるわけには行かない。

 なぜなら自分は、(◾️◾️◾️)なのだから。

 

「ありがとう。本当に、それしか言葉が出てきません。きっと、世界でいちばんの幸せものですよ?みんながいたから、私は一人じゃなかった」

「っ……スオウ……!」

 

 サオリが足を掴もうとしたのを避け。スオウは奥へと向かう。扉を開く。上へ、爆弾を放り投げる。

 時間はあと、数秒もない。

 

「……あなた達は……私の人生の、誇りです。あなた達が、私がここに生きた証。私が生まれた意味」

「待って!!」

 

 爆弾が空中で爆ぜる。聖徒会に足止めされ、その手はあと一歩。届かなかった。

 

「……大好きだよ。じゃあね」

 

 天井が崩れ。スオウの姿は見えなくなる。届かなかった。自分たちの言葉では、届かなかった。

 

「っ……追おう!!まだ間に合う!!」

「いや……聖徒会を相手にしてたら、あいつは……」

 

 そう、自分たちでは。自分たちだけでは。スオウには届かない。

 

「先生!!行ってくれ!!!」

「“っ……!!”」

「コイツらは私たちが何とかする!!図々しい願いなのはわかっている!!だがそれでももう、それしかないんだ!!私たちの言葉では……それだけでは、届かなかった……!!」

 

 岩で塞がれた扉。先生がそこを見据えるより先に。

 

「はぁっ!!っ、ぐ……!」

 

 爆弾を握りしめた拳で、瓦礫を破壊した。ほんの少し。人一人が這いつくばって、もがいて、ようやく通れるかという大きさの隙間ができた。

 

「“……ううん。みんなの言葉は、確かにスオウに届いたよ。だから……必ず、連れ戻す。少し待ってて”」

「ああ……頼んだ!!」

 

 それでも彼女たちは、届かせることができる。自分たちだけでない、誰かを頼ることができるから。一人でもがくのではなく、足掻くのではなく。周囲の誰かを頼り、助けを求められるから。

 だからまだ、届く。独りで頑張るだけの、彼女のもとへ。

 

 

 

 

「……大好きだよ。じゃあね」

 

 手を振って。岩が落ちて。後ろを向いて、もう振り向かない。振り向いちゃダメだ。そしたらもう、俺は二度と戻れなくなる。

 

「……」

 

 独り。足音が響く。教員ももう、ほとんど倒した。あとはこれで……ベアトリーチェを、殺すだけ。

 それだけで、俺の勝ちだ。そうすればみんなは、幸せに……俺なんていう大犯罪者と、ベアトリーチェに関わることもなくなって。

 トリニティと和解して。少しずつでも、前に進んで。生きて、生きて、生きて。青い季節を楽しんで。あの先へ。俺が辿り着けなかった、その先へ。大きく。立派に。

 

「……」

 

 バシリカの扉を開く。見覚えのある、赤い姿が見える。

 

「……あなたは……いえ。語る言葉も不要でしょうか」

「……ああ、ベアトリーチェ。元々、俺とお前の二人から始まったお話だ。二人で、逝こうぜ?」

 

 そのためには……お前と俺が、邪魔なんだ。

 

「あの子達がこれから過ごすのは、青春の物語(Blue Archive)だ。やっと、やっと始まるんだ。あの子たちの物語が。俺たちが触れることなんて、決して許されない」

 

 右手に爆弾。あと何度動けるかわからない。こいつを殺せるまで生きていられれば、それで良い。

 

「……理解に苦しみますね」

「だろうな。俺にだって、お前の気持ちがわからないよ」

 

 だから、コイツは殺す。それでいい。それがいい。俺は間違ってない。

 

───死にたくない。

 

 じゃあさ、どうしろっていうんだよ。これ以外に、方法なんてあるか?俺が生きてたら、迷惑になる。もう引き返せない。

 

───死にたくない。

 

 みんなの幸せのためだ。何も苦しいことなんてないだろう?辛いことなんてないだろう?

 

───死にたくない。

 

 どうせ、一度死んでる命だ。大丈夫。ただ、あるべき形に還るだけ。

 

───死にたくない。

 

 うるさい。

 

───死にたくない。死にたくない。死にたくない。

 

「……うる、さい」

 

 それでもやるしかない。

 

「……はははっ」

 

 爆弾を、体の後ろに回す。ベアトリーチェの表情が歪む。警戒が強まる。

 

「“スオウッ!!!”」

「っ……!」

 

 けど、俺の体は動かなかった。

 

「……」

 

 振り返るな。振り返っちゃダメだ。絶対に、振り返っちゃダメだ。戻れなくなる。

 なんで、なんでこんなところに来た。戦いが始まるんだぞ。帰れ。帰れよ。さっさと帰って、みんなを守ってくれ。俺は死ぬ。それでいい。そうじゃなきゃだめだ。もうそうでもしないと取り返しがつかないんだ。追い返せ。拒絶しろ。振り返るな。

 

「……せん、せい」

 

 なんで。どうして、そこまでして。どうして、こんなにも。

 

「……」

 

 何で俺は……なんで、なんで。そんなこと、言っちゃダメなはずなのに。求めちゃダメなはずなのに。なんで、振り返ってしまうんだ。

 

「……たすけて……せんせい……」

「“任せて”」

 

 なんでこんな事を。求めてしまうんだ。




ファンアートをいただきました!
1枚目はニコリハット(https://twitter.com/Recall_neo)さんから!

【挿絵表示】

曇ってしまったスオウちゃんです!
かわいそう、かわいい……変な言い方ですが、彼女らしいというべきか……
目に光がなく、ボロボロなのが戦い抜いた末に守れなかったのだろう、と想像を掻き立てられます
バッドエンドスチルにありそう……ありがとうございます!

2枚目はチキチキヨハーン(https://twitter.com/TyongeTyon_nise)からです!

【挿絵表示】

強い目をしたスオウちゃんです……口元の血を手で拭っているのが死闘の最中らしくて良いですね!
鋭い目つきが彼女の中の残り滓、復讐者としての一面が前面に出ていてすごく良い……ありがとうございます!

ファンアートを始めとし読了や評価、感想がいつも励みになっています!お礼を口にすることしかできませんが、本当にありがとうございます!
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