ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

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ts転生者の、生徒(こども)

「あ、あぁ……!!」

 

 なんで、なんでこうなった。なんでこんなことをした。

 助けて?ふざけんじゃねぇ。何が、何が助けてだ。お前だ。お前だろ、お前が殺したんだ。なんの正当性があってそんなことを求める。

 

「くっ……あははっ……!」

 

 不愉快な声。あいつのものだ。

 

「助けて……?落ちぶれたものですね、桐花スオウ。一度は私を追い詰めておきながら。そのような矮小な存在に助けを求めるなど」

 

 矮小な存在。それは違う。先生は、そんなんじゃない。でも、落ちぶれたって、そのことだけは否定できない気がした。

 

「今更になって命が惜しいですか?再び子供達と手を取り合えるとでも?」

 

 そうだ。惜しくなった。死にたくなくなった。本当は怖かった、死ぬのが。嫌だった、苦しいのが、痛いのが。

 今更になって、ここまで来て。決意したはずなのに。

 

 折れてしまった、いとも容易く折られてしまった。自分自身にさえ隠し通そうとした本音を暴かれてしまった。

 サオリが、ミサキが、ヒヨリが、アツコが、アズサが、みんなが助けに来てくれたって知って、俺は……嬉しかった。嬉しかったんだ。そう思ってしまったんだ。

 みんなが傷つくことだって知ってて、苦しむことだって知ってて。それでも俺は、嬉しかった。

 

 だから遠ざけようとした。拒絶しようとした。なのに正面から、それを打ち破られて。もう、手遅れなんだ。

 

「あなたはそう願った者達を切り捨て、ここまで来たというのに。どちらつかずの半端ものが」

 

 ああ、その通りだ。半端もののクズ野郎だよ、俺は。

 死ねよ。死ね、死ね、死ね、死ね、生きてる価値なんてないよ、お前に、一体何考えてるんだ?

 

 助けたいだとかちっぽけな情動で動いて、無意味なことなんてないとか借り物で受け売りだった答えを振り翳して、救済者を騙り続けて。

 それで結局、最後は誰かに惨めったらしく未練がましく救いをこう。気色悪いんだよ、心からそう思う。

 

「今更助けを願ったところで、あなたはエデン条約を破壊した大罪人。そうなるように仕組んだと報告を受けています」

 

 あんな事までしでかして、今更自分の命が惜しい。取り返しがつかないことをして、そこまで来てからやっと塵屑のようなプライドを抑えて、どうしようもないことを誰かに投げつける。

 

「桐花スオウ!!あなたは誰かを頼る限り、周囲を傷つけ!!未来永劫苦しみ続けるのです!!」

 

 何もできない、成せない、変えられない。人を巻き込んで、傷つけて、何がしたい?

 自己満足、自己憐憫、自己陶酔、その積み重ね、繰り返し。糞食らえだ。消えちまえ、お前みたいな人間。

 

 このくらい自分でどうにかしろよ、『大人』なんだから。なに被害者ぶってるんだ?お前のせいだろ、こうなったのは。

 

「ごめん……なさい……」

 

 死ね。さっさと死ね。苦しめた分だけ苦しめ、傷つけた分だけ傷つけ、殺した分だけ死ね。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……!」

「その苦しみの中で、あなた方は私に搾取され続けるのです!!」

「“黙れ”」

 

 ……先生。先生も、軽蔑するだろうな。俺のことなんて。俺のような人間のことなんて。

 『大人』であらなきゃいけないのに、『大人』にならなきゃいけないのに、女々しくウジウジと心の中で言い訳ばかり。サオリや、ミサキや、ヒヨリや、アツコや、アズサの方がよっぽど立派だ。

 

 死にたくないのに。消えてしまいたい。自分という存在にほとほと呆れ返って、嫌悪して。できることなら、刺し殺してしまいたい気分だ。

 

「“私の大切な生徒に話しかけるな”」

 

 ……生徒……生徒、か。誰が来たんだろうな。サオリかな。ミサキかな。意外と、ヒヨリだったりしてな。

 誰であれ。こんな姿を、見られたくない。こんな醜い俺を、誰にも見せたくない。本当の『俺』なんて弱くて、惨めで、最低のクソ野郎だから。

 もう、俺は……俺は。あの時……シアンが、アンナが死んだ時……いや、それよりもずっと前。この世界に生まれたあの時、生きたいだなんて、死にたくないだなんて願わずに……死んでしまえばよかったのに。

 

「……ふふ……大切な生徒、ですか。果たして彼女はその範疇に収まるのですか?先生」

「“当たり前”」

 

 彼女……?

 

「そこにいる愚かな娘は、私でさえ出し抜いた異常者。明らかに通常の生徒のそれとは異なる自我を持ち合わせています。その由来も、正体さえわからぬ不可解な存在です……ちょうど、先生。あなたのように」

「“だから何?”」

「……ほう?」

 

 ……俺の、こと……なのか?

 

「“それは今、生徒(スオウ)を助けない理由にはならない。この子がたとえ、何者でも”」

 

 ……違う。違う、俺は生徒じゃない。もう『俺』がなんなのかとか。『私』がなんなのかとか。そんなのはどうでも良いんだ。その答えは、みんながくれたから。

 でも、俺はダメだ。俺は、俺だけはダメなんだ。だって、だって俺は……俺は、こんな人間だから。俺だって、俺みたいな奴は嫌いだよ。取り返しがつかないことを繰り返して、独りよがりに人を傷つける。

 

「“スオウ”」

「っ……」

 

 先生の意識が、こちらに向けられるのが分かった。恐ろしかった。今しがた助けを求めたはずの人間が、恐ろしくて仕方がない。

 どんな否定の言葉を投げかけられるのか、はたまた肯定されるのか。どっちも嫌だな。怒られたくないし、こんな自分を肯定もされたくない。

 

 救えなかった人間を。誤ってしまった人間を。殺してしまった人間を。肯定してほしくない。

 

「“目を開けて”」

「……?」

 

 ああ。いつの間に目を閉じていたんだっけ。確か先生に助けを求めて、求めてしまって。その少し後だったかな。何も見たくなくなったから。

 自分を否定する要素が増えた。そんなことが、心に重くのしかかる。

 

「“大丈夫。何も謝ることなんてないよ”」

「……」

 

 言い訳のように口から溢れた、たった五文字の言葉。それが先生にも聞かれていた。

 

「“どうかそんなに、恐れないで。自分のことを、責めないで。傷つけないで”」

 

 優しく手を取られた。抉れた手首を掻きむしっていた指を、包まれるように奪われた。抵抗すれば、すぐに外せるはずなのに。そんな力も残っていなかった。

 

「“スオウは今、悪いことなんてしてないよ”」

 

 どこが?どこがだ?今まさに、しているじゃないか。

 それが周りを傷つけることだと知りながら、浅ましく助けを求める。自分の命が惜しい、それだけで、死にたくないってだけで生きようとしている。

 

「“周りに助けを求めることは。周りを巻き込むことは。罪でも、悪でもないんだよ”」

 

 そんな内心を読まれたかのように、先生がそう言って。それでも、やっぱりそれは違う気がした。

 

「“困った時に助けを願うことは、普通のことだ”」

「ちが、う……おれは、だめ……」

「“誰も変わらないよ。大人だろうと。子供だろうと。助けを求めていけないなんてことは、ないんだよ”」

 

 肯定、とも、少し違う気がした。諭されているようにも、叱られているようにも感じた。

 

「“私も同じだ。ここに来るために、たくさんの生徒に助けられた。私一人の力でできたことなんて、一つもない。私も、スオウと同じだよ。たくさんの人に助けを求めてきた。『シャーレ』の仕事では、特にね”」

「ちがう……せんせいは、おれとおなじなんかじゃない……!!」

 

 違う。先生は、俺とは違う。ちゃんと生徒を導ける先生で、人を助けられる大人だから。

 

「“同じだよ、みんな。人は一人では生きられないから”」

「……」

「“それは決して、弱さではないんだよ”」

 

 だから、だからなんだ。弱さじゃないからなんだ。それでも、俺はもう戻っちゃダメなんだ。

 

「“ありがとう、スオウ。ずっとずっと、頑張ってくれて。けど、それでも……全ての責任を、自分一人で背負おうとしてしまわないで”」

 

 それで誰かを頼って。結局あのザマだ。人を死なせてしまった。サオリ達も、先生も、同じことになってしまう。

 

「“たとえほかに手段が見つからなかったとしても、一人で抱え込まないで。あなたが傷つくことで悲しむ人がいることを、忘れないで”」

 

 それを自覚しながら、救いを求めた。そんなこと、しちゃダメなはずなのに。

 

「“あなたがいなくなってしまうことが、自分が傷つくよりも辛いことな子達がいるから。あなたが死なせたくないと思うように、あなたに生きていて欲しい人がいるから。あなたが想う人と同じくらい、あなたを想う人がいるから”」

 

 そんなことはもうとっくにわかってる。優しい子達だ、みんなそうだった。だったら、その先は意地の張り合いだ。

 

「“スオウに何があったのか、私は知らない。……ううん。アリウス分校に何があったのかも”」

 

 死んだんだ。人が死んだんだよ。俺の判断のせいでそうなった、俺が頼ってしまったからそうなった。

 だからもう、二度と同じ過ちは繰り返さないって。そう誓ったはずなのに……覆された。サオリの、ミサキの、ヒヨリの、アツコの、アズサの、みんなの言葉で。生きたいと願わずにはいられなかった。助けを求められずにはいられなかった。

 

「“みんなの話を聞いたから、少しだけわかるけど。全部、予想に過ぎないけど。もしかしたら、スオウは人を頼った後で、大変なことを経験してしまったのかもしれない。十年前の、内乱で”」

「……わた、しの……わたしのせいで……シアンが……アンナが……みんなが」

 

 俺の、俺のせいで。また、みんなが。

 

「“スオウのせいじゃないよ”」

「……え?」

「“その時何が起こったのだとしても、それはスオウの責任じゃないよ”」

 

 違う、そんなはずがない。俺が誰も頼らずにいれば、みんなは。

 

「“辿っていけば、内乱のせいで。内乱を起こした人たちのせいで。そうなる要因を作った環境のせいで。環境を作った過去のせいで。過去を作った世界のせいだ”」

「……」

 

 そんな言い訳じみた他責思考が、通るはずがない。何が言いたいんだ、先生は。

 

「“そんなに大きい問題は……誰かを頼っても、頼らなくても、解決しなかったことだから”」

「っ……!」

「“大丈夫。スオウは悪くないよ”」

 

 そんなことが、許されるのか?そんなはずがない。そんな甘えが、許されるはずが。

 

「“あなたのせいで誰かが傷ついたわけじゃない。きっといつかは、そうなってしまっていたことだから”」

 

 じゃあ、俺がやってきたことはなんだったんだ?あの時戦ったシアンの意思は、アンナの意思は、無意味だったとでも言うのか。

 

「“それでもなんとかしたくて、誰かを頼って、戦ったのだから。それは決して無意味なことでも、責められるべきことでもないんだよ”」

「……」

「“スオウはそれから、一人で全てを解決できたのかもしれない。……でも、本当に。それは、誰かを頼らずに解決しなければならないことだった?本当に、一人だけで解決したことだった?”」

 

 違う。それは違う。俺が俺一人で成し遂げられたことは、ほんの少しだ。みんながいたから、頑張れた。戦えた。だか、ら……。

 

「っ、あ……」

「“きっとその中に、誰かの助けがあったと思う。もちろん、そうでないこともあったのかもしれないけど。それでも……”」

 

 目の下を、指で拭われる。優しく涙を奪われる。壊れやすい硝子に触れるように、優しく。

 

「“私たちは一人でできることなんて、ほんの少しだ。だから、誰かのことを頼るんだよ”」

「……それ、でも」

 

 それでも、俺はまだ怖い。また誰かを喪ってしまうのが。

 

「“……それでも、まだみんなを頼ることが怖いなら。それがまだ怖くて、難しいことなら。まずは私を頼って。スオウが何者だろうと、拒絶なんてしないよ。だって私は”」

 

 頭の上に、ポン、と手を置かれた。柔らかな手つきだった。安心する手つきだった。

 

「“スオウの……みんなの、先生だからね”」

「う……」

 

 暖かい。薄暗かった視界が、明るくなってくる。さっきまで見れなかった先生の顔が、目に映る。穏やかな笑顔だった。

 

「“ありがとう、スオウ。私に助けを求めてくれて”」

「うああああ……!」

 

 余計に視界が歪んでしまった。拭われたはずの目の下を、熱いものが伝っていくのがわかった。

 

「それで?」

 

 それを邪魔するように、声が通って。

 

「人が黙って見ていれば。助けを求めれば救われる?頼れば救われる?そんなはずがないでしょう」

 

 それが思い出されるようで、怖くて。

 

「人は人と関わる限りお互いを傷つけ合い、そして」

「“もう喋らないで”」

「っ……!!」

 

 それにさらに覆い被せるように、先生の声が聞こえた。

 

「“ベアトリーチェ。あなたは子供達を苦しめて。『学び』を阻害し、侮辱して。そして、ここまで追い詰めた”」

 

 ベアトリーチェの声が聞こえなくなって、少しだけ恐怖心も消え失せる。

 

「“あなたを許さない”」

「なっ……!!」

「“絶対に許せない”」

「こ、の……!よくも私に、そのような口を……!!」

 

 ……ああ、そうか。やっとわかった気がする。

 

「ふ、ふふふ……!来なさい、聖徒会!!」

「“……”」

「あの珍妙な三原色に倒された聖徒会を、一部こちらに引き戻していて正解でした……!」

 

 俺は結局、強がって。意地張って。それでも本当は、誰かにずっと助けてほしくて。

 

「否定するのであれば、この惨状をどうするのですか!?聖徒会と私を同時に相手することができるほどの力が、そこの異常者には残っていませんよ!?」

 

 自分の本音に向き合うことから、逃げ続けて。

 

「それとも、あなたが戦いますか!?ただの一つの弾丸も受け止めきれない、その貧弱な体で!!」

「“……確かに、私にできることは少ない”」

 

 だからこうして、先生に助けを求めてしまったのか。

 

「桐花スオウ!!あなたを生贄とし、中断された儀式は再び完全なものとなるのです!!」

「“それでも、生徒(こども)が苦しみの中でその生を終わらせることがないように。あなたのような大人に、苦しめられないように”」

 

 黒い、黒い、飲み込むような輝きのカードが見えた。白いコートによく映える、彼の生を、時間を削るカードが。

 

「せんせい、やめて……それは、いのちを……!」

「“……この世界で、生徒が傷ついてしまわないように。立ち上がって、また前を向けるように”」

 

 止めようと手を伸ばして。振り返って、微笑みかけられた。大丈夫だよって、言葉もないのにそう言われたように感じた。

 ああ、やっぱりこの人は。

 

「“私の大切な生徒には、指一本触れさせない!!”」

「っ……!」

 

 ……生徒のための(俺が憧れた)先生(おとな)……なんだろうな……。




ファンアートをいただきました!たくさん!ちょっと長くなります
1枚目はニコリハット(https://twitter.com/Recall_neo)さんから!

【挿絵表示】

前回とは打って変わって、晴れやかな表情のスオウちゃんです!
かわいい……やっぱりこの子は、笑顔が一番似合いますね
前回いただいたファンアートと合わせて最終編予告のBAD→本編みたいな感じに見えます……!最近の本編の状況にも合っていて、とても嬉しい……ありがとうございます!

2枚目は朝瑞(https://twitter.com/Asa_Kirikaem)さんから!

【挿絵表示】

鰤を持ったスオウちゃんです!不思議そうな表情が何とも言えない、幼さが残る可愛いスオウちゃんですね……撫でたくなります!鰤を持たせるアイディアに感心しました
なぜスオウちゃんが鰤を持っているのかは私のTwitterを遡ると何もわからないかもしれません!本編には関係ない要素ですが
ありがとうございます!

3枚目……というか、三つ目?は、火炎茸(https://twitter.com/Trich0derm4)さんから!
https://x.com/trich0derm4/status/1787554145848938543?s=46
なんと、なんと!!3Dモデルです!!MMDというやつですね……すごい……本当にすごい……!!
スオウちゃんによりいっそう命が吹き込まれたように感じます……!曲もバニタスでアリウスにあっている……すごいクオリティです。ありがとうございます!

4枚目は菱野モチ(https://twitter.com/Hishinomochi)さんから!

【挿絵表示】

おひょぴょー!これこれー!なスオウちゃんです!
なんか姉モードのスオウちゃんはこういう動き似合いますね……姉として認められた時にこのポーズのまま舞い踊ってそうです
デフォルメ化が上手……目のしいたけが白黒になっているのが地味に嬉しい……
ありがとうございます!
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