ts転生者の生徒が、頑張るだけのお話。   作:おにっく

97 / 175
後日談:白い悪魔の変装事情・上

 暗がりに、光が差し込む。体に血が通う。ふわふわした何かに包まれてる。柔らかい。

 

「……ん?」

 

 眩しい。朝か。

 

「む。起きたか、スオウ」

「さおりぃ……おはよーございます……」

 

 まだうまく開かない瞼を擦って、出てくる涙を拭う。

 

「……少しは、よく眠れたようだな」

「はい……おかげさまで……」

 

 サオリが顔を覗き込んで、具合を見てくる。擦っていた手を、そんなに強くするな、と取られて、目元をスッと指が通った。

 時計を見てみれば、太い針が七に差し掛かっていた。昨日最後に時計を見た時は、確か五のあたりを示していた。何度か目が覚めてしまったから。でも、以前よりは長く眠れるようになってきたらしい。

 

「もう少し寝るか?」

「いえ、もう起きます」

 

 合計時間ではそこそこ寝ているわけで。いくらなんでも、これ以上は寝過ぎだ。

 

「そうか。ちょうど良かったな」

「ちょうど……?む……」

 

 意識を逸らすと、どこからか奥底まで刺激するような強い香りが漂ってくる。

 

「ミサキが朝食を作っているんだ。さあ、行こう」

「妹の手料理……!」

「ブレないな、朝から」

 

 ミレニアムで新たな生活を初めて、一週間が経過した。

 

 

 

 

 マユミ達が用意してくれた住まいは、大きな一つの建物のようになっている。一人一部屋……と、いうわけにもいかず、大部屋を数人で共有して使うことになっていて。俺はスクワッドのみんなと部屋を共有していた。

 マユミは用意できなくて申し訳ない、と言っていたけど、こうして衣食住まで用意してくれて、むしろ貰い過ぎてるくらいだ。

 みんな新しい生活で、わからないことや混乱していることも多い。だから、しばらくは厚意に甘えさせてもらうことになってる。生活が安定し始めたら、日雇いのバイトでせめて食費くらいは自分たちで賄うつもりだ。

 幸いにして、その発展が著しいミレニアムでは公共事業……バイトも多いしな。

 

「おはよう、スオウ」

 

 そして台所は、二分隊につき一つ。計四つある。それぞれ調理器具と、配給された食料を持ち寄ってる状態。こちらはそのうち自分たちで用意できるようになるから、そのうちに伝えておかないとな。

 

「おはよーございます!アツコ!」

「ミサキが朝食を用意してるから、取ってきて」

 

 ふと手元まで目線を下げれば、その手には皿が乗せられていた。

 真っ白な平皿の上に、パンと卵。ウィンナーまで乗せられている、これでもかと豪華な朝食だ。これでスープまで付いているというのだから、至れり尽くせりにも程がある。そこらのチェーン店にも劣らない出来栄え。

 

「おいしそう……最高速で取ってきます!」

「うん。待ってる」

 

 アツコに手を振って、共用キッチンの方に急ぐ。ミサキは、すでに調理器具を片付け始めていた。

 

「おはようございます!ミサキ!」

「あ、スオウ……起きたんだ」

「はい!……あ、まだフライパン熱いので水入れちゃダメですよ。樹脂が傷みます」

「わかってるって……」

 

 前世の数少ない記憶の中でも、割とどうでも良い記憶。家族の誰かに注意されたのを、なんとなく思い出した。

 

「それにしても……上手なものですね、ミサキ」

「そう?まあ、苦手なわけでもないけど。はいこれ、スオウの」

 

 相変わらず、手先が器用な……ん?

 

「これだけウィンナー、一本多くありません?」

「ちょうど一本余ったから。スオウは食べなさ過ぎ」

「えー……」

 

 嫌なわけじゃないけど、ミサキも人のことは言えない気がするんだけど。そう言おうとしたら、口の中に入れられた。

 

「あふいでふ」

「どうせヒヨリにあげるでしょ。早く食べな」

「ふぁい」

 

 熱い、というよりも、温かい。張り詰めた表面、加えてパリッとしたこの食感は、一度下茹でされているのだろう。丁寧で、ミサキらしいな。

 中身に蓄えられた肉汁が、舌の上に広がる。アリウスの生活では滅多に感じることがなかった、強い塩味、脂の旨み。卵と一緒に、パンに挟んだら美味しそうだ。

 

「そういえば、マユミから伝言」

「へんほんへふは?」

「飲み込んでからしゃべって」

「……んっ……伝言ですか?」

 

 多分、俺が寝てる間に来たんだと思うけど。こことマユミ……というか、生徒生活支援部は、回線で繋がってるし。

 

「唐突だったし、思いつきかもしれないけどね。結構大事なことらしいよ」

「うー、ん……?心当たりはないですけど……とりあえず、ご飯食べてからいきましょうか」

「……それもそうだね」

 

 思考はひとまず放棄、今は妹が作ってくれた朝のフルコースを楽しむことが優先だ。

 

「はい、スオウの分」

「ありがとうございます!」

 

 身長差につき少々上に向けて手を伸ばして、大皿とスープが入った深皿を受け取る。流石に底を持つと熱かったけど、この程度慣れっこだ。

 

「ヒヨリとアズサは?」

「先に席ついてるよ」

「そっか」

 

 他愛もない話をしながら、キッチンの近くに作られた共用スペースへ移動する。部屋に戻るよりも、こちらの方が近いから。

 

「結局、スオウは起きたの?」

「ああ、ミサキのところへ朝食を受け取りに……噂をすれば、だな」

 

 頭に皿を乗せて扉を開くと、サオリとアツコ、そしてアズサとヒヨリが目に入った。手を付けずに待っていてくれたらしい。

 

「おはよーございます!アズサ!ヒヨリ!」

「お、おはようございます……あ、朝から元気ですね、へへ……」

「むしろそうじゃないと心配になるし、これくらいで丁度いい」

「私ってどういう認識されてるんですかね……」

 

 いや、間違っちゃないけどさ。思い返せば、アリウスにいた頃はよくミサキに「朝からやかましい」って言われてたな。

 

「とりあえず、食べようか」

「そうだな。ミサキ、ありがとう。いただきます」

「……いただきます」

 

 いつ見ても、サオリの食事の前の挨拶は整っている。教えて以来、毎度律儀に姿勢を整えてやってるし……真面目だなぁ。

 

「……」

 

 インスタントのスープに手をつけようとして、ついポケットを弄ってしまった。癖っていうのは、どうにも一週間やそこらでは抜けないものらしい。

 それでも、随分回復したのも確かで。以前に比べて、食欲はかなり増したような気がする……体重は中々上がらないけど。

 頭の片隅で、そんなことを考えながらパンを千切る。朧気な前世の記憶に、その感覚に従って、パンの耳を千切ってみる。フワッとした感触と共に、小さな欠片をこぼしながら繊維を裂いた。

 小麦色に染まった表面から、白い湯気がたちのぼる。指先でその感触を楽しみながら、スープに浸してみる。少し放置すると、パンとスープの境界が曖昧になっていった。

 少し火傷しそうかな、なんて、そんなはずないのに思って、息で冷まして。スープが滴らないように、下品にならない程度に口の中に入れる。その中身が、幸福で満たされてることがわかった。

 

「ほっ……」

 

 口の中に溜まった熱を、息を吐いて逃す。湯気が立つ。アリウス分校では味わうことがなかった、五感を使って楽しむ食事。でも、それだけじゃなくて。

 

「……」

 

 会話がなくても、食器の音だったり。息遣いだったり。スープを啜る音だったり。確かに誰かが、そこにいる。一人じゃなくて、一緒に食事を楽しめる誰かがいる。

 半ば義務的に、押し込むようにしていた、あの頃の食事とは、食事とも呼べないような補給とは、もう違う。

 

「……ふふっ」

 

 それだけで、楽しいからってわけでもない、不思議な笑いが込み上げてきた。

 

「……そういえば、スオウ。マユミから連絡が来ていたぞ」

「ふぁ?……っ、はい、ミサキから聞きました」

 

 うん、食事に集中し過ぎてすっかり忘れてた……マユミ、ごめん。

 

「結局、どんな内容だったんですか?」

 

 届くわけでもない謝罪を心の中で伝えて、伝言の内容を確認してみる。口にパンの欠片を放り込んだミサキが、水でそれを飲み干してから。

 

「……確か、新作の機械がどうこうとか言ってたよ」

「どうこうって何を……?」

「さあ……徹夜してたみたいだし、話が脈絡を得てなかったから。多分、その新作を作るのに時間がかかってたんだろうね」

「……そ、そうですか」

 

 マユミ……意外と開発ジャンキーなのかな……?

 

「あ、あと質問があるって」

「質問……?」

「ゲヘナとトリニティならどっちがいいとか……よくわかんないけど」

「んー?」

 

 ゲヘナとトリニティ……?答え方によってはどこぞのお姫様が飛んできそうだし、下手に答えたくない質問だけど……何の話だろう。

 

「トリニティ……ああ、そうだ。明後日、ヒフミがバイトを紹介してくれるらしいから、私はそれに向かう」

「そうか、バイト……一体どんなものなんだ?」

「聞いてくれ!それがモモフレンズのイベントスタッフのバイトで……!」

 

 スマホを取り出して、ヒフミから送られたファイルを開きながら目を輝かせて説明を始めるアズサ。その翼が、感情を表すようにパタパタと動いているのを見て、口元を緩めながら残りの食事を楽しんだ。

 

 

 

 

 食事を終えて、一息ついて。特にすることがあるわけでもなかったので、マユミの元へ向かう。免許も車もないので、仕方なく歩きで。

 幸いにして、マユミが移動用にと渡してくれた制服があれば、周りの目は誤魔化せる。流石に髪の色や目元でバレてしまうから俺はフードを被って、サオリ達の内側だ。

 

「ヒヨリ、そっちはダメだよ」

「え?わ、わぁっ!?ご、ごめんなさい……!」

 

 加えて、防犯カメラの死角を縫うように移動を続ける。万が一、ミレニアム自治区までヴァルキューレの捜査が広がった時のためだ。拠点さえバレなければどうとでもなるが、逆に言えば拠点がバレるのはまずい。マユミの助力も受けづらくなってしまう。

 

「さて、そろそろですかね……」

 

 そんなこんなで、細心の注意を払いながらミレニアムの敷地内まで移動して。辿り着いたのは二階建ての、ミレニアムにしては小さな建物。

 窓を塞ぐように、『生徒生活支援部』と張り紙がされていた。ついでに、固定電話の番号まで。これは、なんというか。

 

「探偵事務所みたいです!」

「わ、私も!跳躍探偵シリーズで見たことあります、こういうの……!」

 

 そういえば、ヒヨリは最近本を読んでたっけな……現アリウス居住区になっているあの建物に、元から備え付けられていたもの。後で俺も読ませてもらおう。

 

「探偵かどうかは知らないが、ここまで主張が強いとは……」

「あいつらしいよね」

「……確かに」

 

 ……俺がサオリ達といない間、マユミとは一緒にいたらしいけど。その時に何かあったのだろうか?心当たりとしては、あのやけに主張が激しいロボットがチラッと見えたぐらいだけど。

 

「まあ、とりあえずマユミのところに」

『何カ御用デスカ?』

 

 中に入ろうとして、いきなり機械に行手を阻まれる。というか、こいつ今喋らなかったか?

 

『何カ御用デスカ?』

「わ、やっぱり喋ってた……」

 

 合成音声というやつだろうか、イントネーションが平坦だ。カタコトに聞こえる。

 驚きにふと声が漏れると、その上半身だけのロボットは動きを止めて。

 

『声紋認証完了。ヨウコソ、桐花スオウサン』

「……通してくれるみたい」

 

 突如揉み手をしながら、奥にある扉へ続く道を開けた。マユミが予め設定しておいてくれたみたいだ。

 

「……ねえ、待って」

 

 扉を潜って、ほんの少しして。何か思い至ったかのように、ミサキが口にする。

 

「どうした?」

「今さ、アレはスオウの声に反応したよね?」

「へ?はい、多分?」

 

 流石にミレニアム、なかなか先鋭的なシステムを導入してる。声紋認証とは。

 しかしながら、ミサキの顔色は優れない。恐る恐ると言った具合に、徐々に口を開いて。

 

「あいつ、いつの間にスオウの声のデータを取ったの?」

「え?……あ」

 

 うん……?言われてみれば、それらしい行為に心当たりないんだけど……?

 つまり、盗聴……?

 

「……念の為、警戒は緩めるな」

「は、はい……」

「スオウを囲っていこう。念の為」

 

 アズサが言ったのを皮切れに、みんなが俺の周りを囲む。使っているシャンプーもリンスも、コンディショナーさえ同じなはずなのに、なんだかいい匂いがする。

 

「役得ですね」

「……思えば、こいつも似たようなものだったな」

 

 口を滑らせると、前を歩いていたサオリが呆れ気味にふぅ、と息を吐いて。

 

「失礼な。私は正面から行きますよ!」

「だから厄介なんだ!!」

 

 反論してみたけど、あまり効果はなかったらしい。

 そんなこんなで、冗談じみた会話をして。地下へ続く階段を見つける。マユミはそこにいると聞いているので、特に躊躇するわけでもなく降りようとして。

 

「……私……上で待ってる」

 

 青いペンキを塗られたように顔色を悪くしたミサキが、表情を引き攣らせながら宣言する。

 

「はい。マユミには上に来てもらいますね」

「……うん。ありがと」

 

 閉所恐怖症……中々どうして、難儀な。我慢できない程ではないらしいけど、あまり積極的に抗いたい恐怖でもないのだろう。気持ちは少しだけ、わかる気がする。

 

「この下ですね」

 

 地下特有の、空気の籠ったカビ臭さが鼻を捉える。加えて、金属が溶けるような臭いも。

 換気扇は申し訳程度についているにも関わらず、この臭い。加えて、そこらに捨てられたエナジードリンクの缶。無駄に器用に積み重ねられている。不養生と不摂生の賜物だ。

 

「スオウ、一応少し下がって」

 

 扉を開けようとして、アツコに手で制された。後ろに下がって、柔らかい感触にぶつかる。

 

「う、うしろも任せてください……!」

 

 階段の上方にいる影響で、いつもよりもさらに身長差が大きくなったヒヨリがいた。そんなに警戒することもないと思うけど。

 ボーッと考えて、扉を叩く音に肩を跳ねさせる。そんなに大きい音じゃなかったけど、いきなりだからびっくりした。

 

「マユミ!!いるか!?」

 

 サオリが大声で呼びかけるも、返事がない。

 

「何か用があるのではなかったのか!?」

 

 何度試してみても変化はなくて。二回、三回。そして四回目。

 

「おい、マユ、っ!?」

 

 返事の代わりに、中で何かが崩れる音がした。明らかにただならぬ様子。空き巣か、強盗か。サオリが息を飲む音が、妙に静まり返った空気の中で聞こえてきた。

 

「っ……悪いが、こじ開け」

「退いてください」

「スオっ、何を!?」

 

 設置型の爆弾を取り出そうとするサオリの前に出て、扉の隙間に指を合わせる。

 

「ふー……フンッ!!」

「は!?」

 

 一息に押し込んで、扉を無理やりこじ開けた。隙間から内側にあった開閉ボタンを押して、振り返って。

 

「こっちの方が早いです。扉も壊れませんし」

「相変わらず滅茶苦茶な……」

 

 お前の強さを忘れていたよ、と、諦めたように言われてしまった。恐る恐ると言った具合に、みんなも足を踏み入れ始める。

 

『ちょっと!?すごい音したけど!?』

「だいじょーぶです!!」

 

 地上のミサキから心配の声が飛んできたけれど、特に引き返すような状況ではない。足元が悪い道を進み続ける。

 暗い地下の通路で、様々なものが落ちていた。作りかけのフィギュア、子供向け玩具……のように見える、重厚感のある機械、あからさまに押しちゃいけなさそうなスイッチ。

 

「だいぶ散らかってるな」

「うん……歩きづらい……」

「アツコ、おんぶを」

「遠慮しとくね」

「うぇぇぇ……!」

 

 暗い地下を、アズサのスマホでライトを点けて進む。足取りの道を進んでいくと、次第に人の気配がし始めた。

 

「スゥ……フゥ……」

 

 具体的にはいびきが。

 

「……マユミ、寝てるみたいだね」

 

 机に突っ伏した青い、艶のある糸の塊。呼吸音に合わせて、上下に揺れ動いている。

 ヒョイ、とどかしてみると、幸せそうに涎を垂らしているマユミの寝顔が見えた。周囲には、薙ぎ倒したように未開封のエナジードリンクが散らばっている。先程の音の正体はこれだろうか。

 

「……ヒヨリ。ハンドガンを貸してくれ」

「え、え……!?い、一応はお世話になっている人なので、その……!」

「冗談だ。マユミ、起きろ」

 

 サオリはマユミの肩を揺すると、マユミは唸り声を上げて。

 

「もう飲めないわよ……もう十グラム以上カフェインを摂取してるの……はっ!?」

 

 あまり聞き馴染みのない寝言を最後に目を覚ました。今とんでもないこと言わなかったか?

 

「おはようございます、マユミさん」

「す、スオウさん!敬称なんてやめてちょうだい、呼び捨てに……ああ、思い出してきたわ。そういえばスオウさんに伝言を頼んだ記憶が……」

 

 寝起きでちょっと混乱してるかな。というか、クマがすごい……ちゃんと寝てなかったな、さては。

 

「マユミさ、マユミ、大丈夫ですか?一度ちゃんと寝た方が……」

「あら、心配してくれるの?平気よ、それより見てほしいものがあるの!」

 

 明らかに平気ではなさそうな様子で、頭をフラつかせながらマユミはゴソゴソと何かを取り出す。箱の中に入れられた、腕の中に収まるくらいの大きさの何か。

 

「ふっふっふ……!じゃーん!私謹製変装キットよ!!」

 

 重大発表でもするかのように、濁声を出して高らかに宣言した。

 

 

 

 

 マユミを連れて、建物の一階へ登り。彼女が取り出した物を机に並べながら、それらをよく観察してみる。

 

「いやー!流石に五徹はやりすぎたわね!!ちょっとノリすぎたわ!!」

「正気ですか!?」

 

 いや、昼間は昼間で予定があるからしょうがないんだろうけど……それにしたって五日も続けて徹夜とは。

 

「睡眠はちゃんととらないとダメですよ」

「お前が言うな……そこまで徹夜して何を作ったんだ?」

 

 機械……というよりも、体の一部のような物体。サオリはそれを手に取って、しげしげと見つめる。

 一つは、白い鳥のような翼。もう一つは、蝙蝠のような羽に、尖りのある黒い尻尾。

 

「見てわからないかしら?……翼よ!!」

 

───そんなの見りゃわかんだよ。

 

 俺含め、その場にいる全員がそんな言葉を飲み込んだ。翼なのはみればわかる、尻尾も同じくだ。ただ、なぜマユミがこれを作るのかがわからない。

 

「まあ見てなさいな」

 

 そう言って、マユミが何かを頭に取り付ける。バイザーの遮光部分を取り外したような、無機質なプラスチック製の表面。中身は機械なんだろうけど。

 

「……何も起こらないけど」

「いえ、見てなさい……むむむ……!!せいっ!!」

 

 大仰な掛け声をかけた、瞬間。

 

「……ん?うわっ!?」

 

 先程まで作り物のように、いや、実際作り物ではあるのだけど、動かなかった尻尾がビチビチと動き始めた。

 

「せ、成功!!やっとできたわ!!」

「え、きも、いやきっもいなこれ!?何です!?これ!!」

「き、キモい……」

 

 あ、尻尾が萎びた……これ、マユミの感情と連動しているような……?

 

「これは……」

「……ま、まあ見た目はさておき!これが私の技術と部費を併せて作った専用デバイス……!『変装くん試作型:Type Gehenna』、『Type Trinity』よ!!」

 

 名前はさておき、意図は伝わった。なるほど、変装用か。

 

「……なんて名前をつけておいて、まだ調整は必要なんだけどね」

 

 最終調整の前に寝落ちしちゃったのよ、と、マユミはバツが悪そうに苦笑いをした。しかし、なんたってまたそう急いで?

 

「白洲アズサ、ちょっとこれ付けてもらえないかしら?」

 

 そんな疑問を口にする間もなく、マユミはもう一つ、バイザーのようなもの……恐らく、脳波を検知するためのデバイスを取り出す。

 

「……?別にいいけど、どうして?」

「あんたは元々翼持ちでしょう?動かし方も心得てるでしょうし、試運転にはちょうどいいわ」

 

 アズサの質問に答えながら、マユミは少し屈んでアズサの頭にデバイスを取り付けた。すると突然、机に置かれていた翼が動き始めた。アズサの翼と、ほとんどの差異がない動作を続ける。

 

「うん、良好良好……調子はどうかしら?」

「不思議な気分だ……感覚はないはずなのに、目の前で思うように動くものがある」

「ま、人によってはそうかもしれないわね……そこは後々改善するとして。ひとまず、これで完成よ!さ、スオウさん、選んでちょうだい!」

「へ?」

 

 突然話が飛んできたな。選べって言われても。

 

「何を……?」

「あら、伝わってなかったかしら?この中の一つを、スオウさんの変装用にね……?」

「……いいんですか?」

 

 助かるのは確かだ。正直、かなり悩んでいた側面ではある。

 ミレニアムに住み始めて早一週間、ほとんどあの敷地から出ることができない。全キヴォトスに顔を公開してしまったから仕方がないと言えば仕方がないけど、困るのはバイトだ。所謂ヒモになるのも嫌だし、かと言ってブラックマーケットも足がつく。

 近頃は、本気で野菜でも育ててやろうかと悩んでたくらいだ。

 

 一方これさえあれば、パッと見では同一人物とは思われない。体の一部を生やせるような化け物とは思われてない、はず……思われてないよな?悪魔とか言われてたから判別しかねるラインだ。ともあれ、大助かりなんだけど。

 

「ただでさえ、色々と」

「いいのよ。私なりの恩返しなんだから。……というか、これはスオウさんのために作ったものよ。使ってくれないと困っちゃうわ」

 

 ……いつまでも甘えるつもりはない。そのうち、マユミの助けがなくても生きていけるようになるつもりだけど……けど、今だけは。ちょびっと、頼らせてもらうか。

 

「……ありがとうございます」

 

 しかしそうなると迷うな。翼か、羽か、尻尾か。後者二つは……ミカと会うのが怖い。でも、カッコいいんだよなぁ……あの羽。白い悪魔だし、案外似合ったりして……我ながら笑えない冗談してる。

 

「……スオウ?」

 

 なんとなく、アズサの方に視線を向けてみる。その目線に気づいて、翼をスッと窄めた。直情的な動きが可愛らしい。その言葉でしか表せない。

 

「……」

 

 可愛い……うん、可愛い系だよな。少なくともカッコいい寄りではない。

 

「どうかしたのか?」

 

 そのまま目線を合わせていると、不安が大きくなったように小さく揺れ動く。

 いや、別に目的は変装なわけで?特に可愛さとか求める必要ないし、普通に実用性重視で行くべきだろうて。うん。

 

「スオウ……ダメだ、意識がどこかへ行っている」

「……」

 

 ……翼……可愛いなぁ。

 

 

 

 

「よし、これで取り付けは完了よ。スオウさん、翼を動かしてみて」

「は、はい……」

 

 意外にも、ずっしりとした重量がある。加えて、羽毛の奥側が暖かい。質感まで再現されているとは思わなかった。

 

「えーっと、こんな感じですかね……?」

 

 腰元から生えた腕を、動かすようなイメージ。アズサはそう形容していた。その助言に従って、数回試して。

 

「う、動いた!動きました!」

 

 四回目の挑戦で、なんとか成功させることができた。体の重心が後ろへ持っていかれる感触があるけど、問題になるほどではない。

 

「流石ね……ある程度、使用者の運動神経に依る節もあるのかしら……?一般化にはまだ時間がかかりそうだけど……問題が無さそうならよかったわ!」

「これ動かせると楽しいですねぇ……アズサとお揃いですよ!!お揃い!!」

 

 みんなの前でくるっと一回転して、全体像を見せつけてみる。翼が風を受けて、少し動きづらい。戦闘には活かせそうにないかな、そう考えて、別にもう戦う必要もないことに気づいた。

 

「……アズサのものに比べて、なんというか……凶暴性を感じる」

「戦いになったらあれで引っ叩いてきそう」

「うん……スオウなら、多分やる」

「下手に受けると一気に削られそうです……!」

「私のことなんだと思ってます?」

 

 妹達はそうでもなかったらしい。なんでそんなこと言うのかな?日頃の行いかな?

 

「……うん。よく似合っていると思う」

 

 唯一、アズサだけは見た目に関する感想を述べてくれたけど。まあ、ともあれ。

 

「マユミ、ありがとうございます。私のために……おかげで、少しは外に出られるようになりそうです」

 

 ひとまずはマユミに感謝だな。その考えに従って、素直に感謝を伝えて。

 

「あら、何言ってるの?」

 

 一瞬惚けた顔をして、すぐさまその笑みを深め。

 

変装(ファッション)はまだ始まったばかりよ!!」

「へ……?」

 

 そんなことを宣った。




今回は二話構成です!思ったより長くなりましたので!

三人の方からファンアートをいただいています!
一つ目は火焔茸(https://x.com/trich0derm4)さんから!ファンムービーです!
https://x.com/trich0derm4/status/1794984380789620846?s=46
ちょっとお時間いただきたいスオウちゃんです!すごいクオリティだ!?公式にスオウちゃんがいたのではないかと錯覚してしまいます……!
文字に起こすのであれば、「ちょっとお時間いただけますか……?」となりそうな、不安げな物言いが彼女らしくて好きです!ありがとうございます!

二つ目は朝瑞(https://x.com/asa_kirikaem)さんから!

【挿絵表示】

猫耳生えちゃったスオウちゃんです!もちだとしたほっぺが可愛らしいですね……!こういうチラッと耳が見えてるの、実は私の性癖だったりします!
ちょっと長めの髪型間に合いますねぇ……ありがとうございます!

三つ目はチキ・ヨンハ(https://x.com/tyongetyon_nise)さんから!

【挿絵表示】

晴れやかな笑顔のスオウちゃんです!完結記念にいただきました!
明るい色調が、彼女も青空の下にいるのだと、やっと前を向いて生きるようになれたのだと、そう思わせてくれて……少し泣きます……!
やっぱり彼女には、笑顔が一番です!ありがとうございます!

最後におまけ!!私が描いたドスケベスオウちゃんです!

【挿絵表示】

……欲望を抑えきれませんでした!

質問コーナー、まだ募集中です!この機会にぜひ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。