雀聖の器 作:マージャンスキー
【昭和四十五年九月】
神奈川の旅館、そこで語られぬ勝負がはじまろうとしていた。
「ククッ……雀聖と打てるなんてね……」
昭和の怪物・鷲巣巌を倒した男、赤木しげる。
若干二十五歳、若造と呼ばれてもおかしくない年齢、だが、この歳で何度も死線を潜り抜け無敗。
この夜、鷲巣巌が唯一戦うことを拒絶した存在、雀聖・阿佐田哲也との一騎打ち、数年ぶりの猛者との勝負。
「哲さん! こいつがアカギ……」
「ダンチ……おまえの悪い癖だ。強い奴を見て強いと思うのがな……」
雀聖ここに現れり、戦後復興から麻雀に身を投じた本物の博打打ち、漂わせるオーラは人間が持てるそれではない。アカギ、少し汗が滲む。
互いにおひきを一人連れての卓、だが、こと哲也に限っては事前に完全なるヒラでの麻雀を命じている。
無論、アカギもおひきには命令していない。ただ、雀聖と神域、この二つがぶつかるのを楽しみにしているだけ、完全なる運と技術の勝負。
「勝負は半荘三回、トップ総取りの一人五百万……これがアンタの提示した条件だったかな……!」
「別に一万でも構わない……俺と打ちたいだけだろ、おまえさんは……!」
ハンドバッグから滝のように流れ出す札束、アカギ、哲也、どちらも顔色一つ変えない。
互いのおひき達は金額の太さに戦々恐々、まるで外国の映画のワンシーンような感覚、どこか他人事、だが、この勝負に入らなければならないことに変わりがない。
アカギ、ここで提案。
「なあ、アンタは雀聖って呼ばれてる……俺にも何か称号をくれよ……!」
「二つ名になんの意味がある……鷲巣殺しという大きな二つ名があるだろう……」
「ククッ……つれないね……」
「まあ、考えてやるさ……」
哲也、ここで風牌を引き寄せ軽く混ぜる。不公平が無いように自分が最後に捲るという配慮、そして出目は――ッ!
{東}
アカギ、この時 意味を感じる。
イカサマが得意な昭和の麻雀打ちだが、今日の哲也はイカサマ無しの自力勝負、そこで立ち親、天からの何かしらを感じぜざるおえない。
だが、無敗の男、アカギは笑みを見せるだけ、静かに卓に座る。
鷲巣以来の大物、現在の麻雀を作り上げた風雲児、雀聖……!
【東一局0本場・親:阿佐田哲也】
東:阿佐田哲也 「25000」
南:アカギのおひき「25000」
西:滝川達夫 「25000」
北:赤木しげる 「25000」
洗牌を終わらせて山積み、全員が一級の打ち手、酷くスムーズに終わる。
今回は一度振り、賽の目は5、哲也の山からの切り出し、アカギ、少しだけイカサマを疑う。
そして親の第一打――ッ! この対局が破壊的な幕開けを意味する!!
「ダブル立直だ」
{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} ツモ{5}
打{横5}
哲也、理牌も何もせずツモ牌をツモ切りでダブル立直、場の人間が震え上がる。
アカギのおひきはやはりイカサマをしていたのかと額に汗を滲ませる。
――だが、アカギ不気味に笑う、このダブル立直の意味に誰よりも早く気づくッ!
「なら……俺も……ッ! ダブル立直」
哲也、アカギ、双方ダブル立直、異様な光景、この戦いを見ている者にとって意味を理解することができない。
だが、哲也、アカギは気だるそうに煙草に火をつける。
紫煙、圧倒的な紫煙が部屋にくぐもり異質な空間を作り出していく。
互いのおひき、動けない。
雀聖と神域の勝負、自分達が水を差して良いものなのか、互いに初手でダブル立直をしていてもおかしくない。だからこその待ち、和了り放棄、信頼するからこそのベタオリッ!
そして流局、互いのダブル立直によって場は荒れ果て、互いのおひきはノーテン、そして――雀聖・神域ともにチョンボッッッ!
「驚いた……若いのに座ってる……」
「今まで痩せた考えを持った人間と何度も打ってきた……だが、アンタは違う。俺を試すなんてことは考えていない……ッ! ノーテンリーチをするにしても、二巡三巡目で十分ッ! だが、ダブル立直……言うならば、ゆっくりと煙草を吸いたいという理由、単純明快ッ! なるほど、雀聖とうたわれる理由がわかった気がする……」
「焦るか二割、喜ぶか二割、残りが煙草を吸いたいが為だ」
「ククッ……今思いついたようなことを……!」
哲也、チョンボで4000オール払い。
アカギ、チョンボで2000・4000払い。
半荘一回に二千万という途方もない金額が積まれている。それなのに負けることを恐れない、元より金銭なんてどうでもいい、この世界で五本の指に入る程の打ち手と相まみえるとするなら数億だろうが構わない。ただ、この場の雰囲気を味わう為の金、本来なら一円でも互いに勝負を受けていた。だが、名前の知れた間柄、ある程度の金銭は必要とされる――だからこその一位総取り二千万ッ!
【東一局0本場・親:阿佐田哲也】リーチ棒二本
東:阿佐田哲也 「16000」
南:アカギのおひき「31000」
西:滝川達夫 「31000」
北:赤木しげる 「20000」
互いに余裕を見せ、チョンボによって点棒の移動だけで仕切り直し、哲也、アカギ共に煙草の火をもみ消す。
ここからが本番、雀聖と呼ばれる男、後に神域と呼ばれる男の一騎打ち、勝負は遅れて賽を投げる。
2
「なるほどね、互いに煙草を吸いたいからダブル立直、まあ、昭和の打ち手なら普通だわな……」
新幹線に揺られながら雀聖とアカギの戦いを聞き入るが、どうにも理解できてしまう。
もし、俺が雀聖の立場だとしてもノーテンリーチはしているだろう。現代まで語られる二人、アカギに至ってはデジタル打ちの神様とまで言われる存在だ。
――何かしらの意味を探る。
だからこそ、何も考えず、ただ煙草を吸いたいという単純な理由ッ! 二巡、三巡のリーチだと痩せすぎている。試している。だからこそ、試さないリーチ、ダブル立直、そしてアカギがそれに乗った。
常人では考えられない……だからこそ雀聖、神域と呼ばれている……ッ!
「あの夜は凄かった……役満こそでんかったが、そこには一打一打の重みが確かに……」
「で、どこで差がついたんだ? 最初の半荘は」
「ああ、アレはワシが親……東三局、あそこで半荘の分け目が決まった……」
「そこで流れを掴んだってところか……」
3
【東三局0本場・親:滝川達夫】
東:阿佐田哲也 「30000」
南:アカギのおひき「25000」
西:滝川達夫 「22300」親
北:赤木しげる 「22700」
哲也、チョンボの点数を取り返すと言わんばかりに親番、そこでメンタンピン三色、親の満貫をツモ和了り、点棒を平たくする。リーチ棒を合わせて三万点。
その後、アカギ、七対子ドラドラをダマでダンチに叩きつけ、哲也を射程圏内に収める。
続く東二局はダンチの手牌良好、リーチを宣言し、アカギのおひきに直撃、裏ドラが乗らずリーチ・平和のみ、流れを掴めない。
「リーチッ!」
打{横4}
五巡目、アカギリーチッ! その時アカギの手、
『アカギ手牌』
{123789一一二二三三①} 待ち{①}
『ドラ表示牌』
{①裏裏裏裏}
ドラ表示牌の待ち、薄い確率、だが、この場合は有効打になる。なぜなら――この時哲也の手、
【哲也手牌】
{①②②③③④④五六78北北} 一向聴
平和の絶好手、三色こそ付かないが平和・一盃口・ドラドラ、ダマでも7700、ツモ和了りなら満貫の状況。
だが、漂うッ! アカギのリーチによって生じた気配ッ!! 自分の手の中に爆弾が仕込まれている。その爆弾がドラなのか、それともそれ以外なのか、だが、この時、とある一手に思考を移すッ!
{①②②③③④④五六78北北} ツモ{⑧}
打{五}
哲也は感じ取っていた。アカギの狙い撃つ視線に、だからこそ目指す場所は穏やかな海原ではなく、濁流ッ! アカギという若き天才が綺麗な麻雀は打たない、確実に雀聖という人間をストレートに仕留める為の罠、だからこそ気付くッ! 若いからこそ出る流れに乗っているアカギ、その思惑にッ!!
哲也、大胆不敵な混一色七対子狙い、天が正解だと言わんばかりに手が進む。進むッ! 進むッ!!
【哲也手牌】
{①②②③③④④⑧⑧南西北北} ツモ{南}
哲也、ここで聴牌、だが迷うッ! {①}はドラ表示牌、河に出てはいないが漂う気配、だが、待ちとしてはこの巡目まで出ていない{西}、確実に山に一枚は潜んでいるッ! そして、アカギはリーチ、つまり西を掴めばロン、門前混一色・七対子・ドラドラの跳満、リーチを宣言するなら倍満にまで膨れ上がるッ! だからこそ常人は{①}を叩く、だが、こと雀聖と呼ばれる男は感じ取っていた――アカギの思惑をッ!
「通らば……リーチだッ」
打{横西}
{①②②③③④④⑧⑧南南北北} 待ち{①}
アカギ、哲也、共に{①}待ちリーチッ! 互いに直感していた――この戦いは互いの天運の勝負ッ! ここで和了した方が天に愛されているッッッ!!
刻一刻と迫る海底摸月牌、互いのおひきは安牌十分のベタオリ、もし、ドラ表示牌、嶺上牌の中に{①}が隠れているのなら、この局は天が試したいたずら。だが、強烈な気配、圧倒的な気配が漂うッ! 気を抜いた人間が瞬時に喰われるッ! 哲也・アカギ、互いに睨み合い、自らの手を待ち続ける。
――そしてッ!
「ツモ、リーチ・ツモ……――門前混一色・七対子・ドラドラ・ウラウラ……三倍満ッ! 6000・12000ッ!!」
この戦い、雀聖が拾うッ! アカギ、これには動揺、出ると確信していた{①}を待ちに変えて捲り合い、鷲巣との対局では考えられない理、雀聖がなんたるかを理解し、また笑う。そして――二戦目に向けて刃を研ぎなおすッ!
『哲也・和了』
{①②②③③④④⑧⑧南南北北} 自摸和了{①}
『ドラ表示牌』
{①裏裏裏裏}
{東裏裏裏裏}
「なるほど、流石は雀聖……見抜かれたか……」
「俺ももう四十代、若造に負けたくない歳なんでな……」
――アカギ、心が躍る。
今まで自分の理を防がれたことは無く、すべてが思い通り、魔法のように駆け上がる。
だが、ことこの対局に至っては自分と同レベル、そして――何にも執着されていない無垢な心を持った打ち手、欲がない。自分と同じ、ただ純粋に麻雀を打っている。転がっている札束に興味無し、ただ……今を生きているッ!
【東四局0本場・親:赤木しげる】
東:阿佐田哲也 「55000」
南:アカギのおひき「19000」
西:滝川達夫 「10300」
北:赤木しげる 「15700」親
4
「で、雀聖は点棒を持ったまま逃げ切りか……アカギの理でも撃ち落とせない奴も居たもんだ……」
「場の流れはアカギに集まっておった……だが、哲さんが混一色に手を伸ばした瞬間にすべてが変わった……ッ! 夢にまで出てくる三倍満じゃ」
「なんというか、松実妹のせいでドラってのが存在するのかわかんなくなってるからなぁー……俺だったら跳満止まりだわ……」
「じゃが、二戦目にアカギが蛇になりおった……あの打ち筋は――正しく神域ッ」
クロスオーバータグ付けたから、あんまりクロスオーバーしてないと通報されそうだと思って投稿させてもらいます。
読み返してみたら少しアカギっぽさ無いかも……ちょっと不安……。
感想お待ちしてます!
阿知賀12後 寄り道していいですか? 11書き直し許可感謝!
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おまけの中身 以下略